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雑誌目次

雑誌文献

medicina7巻5号

1970年05月発行

雑誌目次

EDITORIAL

甲状腺疾患—原因論の移り変わり

著者: 鳥飼龍生

ページ範囲:P.529 - P.529

 Basedow病は1835年にGraves,また1840年にBasedowにより記載されてから100年以上を経過しているが,その病因はまだ明らかにされたとはいいがたい.当初は心臓神経症や植物神経失調症などと考えられたが,19世紀末にMöbiusにより甲状腺説が提唱されてから,本症に対する手術療法の効果に支持されて,この説は広く信じられるに至った.しかし眼球突出は甲状腺摘除によっても消失せず,他方甲状腺剤投与によって動物に眼球突出をおこしえないことが疑問とされていた.
 1929年にAronおよびLoebが下垂体前葉からTSHを抽出し,これが動物に甲状腺の腫大と機能亢進ばかりでなく眼球突出もおこすことを明らかにして以来,Basedow病は前葉からのTSH過剰分泌に起因するということが,ほとんど決定的となったかと思われた.ただ血中TSHの証明が,粘液水腫では可能であるのにBasedow病では困難なこと,また粘液水腫では眼球突出がまれであることが不思議とされていた.またWernerらは,Basedow病の甲状腺機能が甲状腺剤の投与によっても抑制されないことから,この説に疑問をもっていた.さらにFajansらによりSheehan症候群でBasedow病の合併をきたした症例が報告され,TSH説はしだいにあやしくなってきた.ついに1956年になりAdamsらはBasedow病患者血清中にTSHとは異なる甲状腺刺激物質LATSを発見,分離した.

今月の主題

甲状腺腫—形態と病因について

著者: 山田隆司

ページ範囲:P.530 - P.536

 甲状腺腫の成因はさまざまであり,その成因の詳細は不明なことが多く,しかも腫大の程度や経過がさまざまであるためその分類は複雑をきわめていた.ここでは甲状腺の形を中心に,病因的な面を加えて論じてみよう.

(座談会)甲状腺機能検査—現状と将来

著者: 熊原雄一 ,   尾形悦郎 ,   田中茂 ,   阿部正和

ページ範囲:P.538 - P.548

 甲状腺機能検査は最近かなり新しいものがでてきており,また他の機能検査に比べて幅広く組織だってきている.甲状腺機能検査の現状,また今後どのような方向に動いていくか,現時点での問題点を含めて,お話しいただいた.

日常検査とその限界

免疫学的妊娠反応

著者: 長峰敏治

ページ範囲:P.502 - P.503

 絨毛に由来する性腺刺激ホルモン(human chorionic gonadotropin,HCG)の検出による妊娠診断は,まずマウス・家兎などを用いた生物学的方法により行なわれたが.純度の高いHCGが得られるようになってからは免疫学的方法も試みられ,さらに種々の妊娠診断用キットとして開発され,現在では臨床的に広く用いられるようになった.

診療手技

チューブ栄養

著者: 木村信良

ページ範囲:P.504 - P.507

目的と適応
 チューブ栄養の応用範囲はかなり広く,内科・外科をはじめ,各科の分野で応用されている.申すまでもなく,チューブを介して消化管に確実に豊富な栄養物を補給するのを目的とした栄養法で,経口的食事摂取が不可能あるいは不十分な場合とか,静脈栄養では必要とする栄養管理ができないような場合に用いられる.
 したがって、その適応には次のようなものがあげられる.

救急診療

薬物ショック

著者: 渡部美種

ページ範囲:P.508 - P.509

 法医学の統計では,昭和31年より41年の間で,診療過誤の疑いによる法医解剖が369例あり,そのうちで薬物ショックによるものが280例あり,全体の76%を占めている.その内訳は麻酔剤によるもの139例,その他の薬剤によるものが141例で,そのうち抗生物質53例,ピリン系薬剤27例などが主なものである.麻酔剤の139例については,腰麻剤53例,局麻剤42例,吸入麻酔剤24例,静脈麻酔剤20例となっている.その他われわれの経験した症例の中にはブロームサルファレーン,造影剤,利胆剤,止血剤などによる重篤なショックを経験している.すなわち日常使用している薬剤に対しても重篤なショックを起こすことがあり,しかも時に不幸な転帰をとることもあるので,私どもの経験を中心に主として治療法について述べる.

略語の解説 29

Rf-RPCE

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.511 - P.511

 Rf
 rate of flow:移動率 ペーパー・クロマトグラフィー上の用語.原点からある特定の物質が移動する割合を示す数値.

統計

日本と欧米諸国のがん

著者: 小川博

ページ範囲:P.512 - P.512

 昭和42年のわが国の死亡率は人口千対6.7で史上最低を記録しました.一方,死因は人口構成の変化を反映してか,いわゆる成人病による死亡の著しい増加に伴い死因順位にも変化をもたらしています.
 悪性新生物(がん)は,28年以来,脳卒中に次いで死因の2位を占めており,きわめて死亡率が高く,しかも青壮年層を侵すという社会的にも由々しき問題となっております.

内科疾患と装具

上肢装具

著者: 今村哲夫

ページ範囲:P.514 - P.515

 上肢装具は特に本邦に導入されてないものが多く,60年代に発展したものは日本では全く実用的に使用されていない.その理由は多くの神経疾患,筋肉疾患に関する上肢の機能低下,変形の予防を装具によって救おうという考えが皆無に近かったためである.そのため上肢装具の発達は非常に遅れている.

カラーグラフ

解離性大動脈瘤

著者: 初音嘉一郎

ページ範囲:P.518 - P.519

 血管外科手技の飛躍的進歩と,心臓血管造影法などの診断技術の向上とによって,解離性大動脈瘤はもはや望みのない疾患ではなく,手術により治癒しうる外科的疾患となってきた.一般臨床医により経験されることも少なくないので,その実態の理解を図るためにそのX線写真と病理所見を対照してここに図示する.
 解離性大動脈瘤は,動脈壁中層の脆弱化と内皮の破裂とにより血液が大動脈内腔より動脈壁内に流人し,これをたて裂きにするため動脈瘤の形態をとるが,内腔はかえって狭小化し,その破裂出血および大動脈ならびにその主要分枝の血流障害により胸痛,ショック状態を惹起する重篤な疾患である.通常激烈なる胸痛とショック症状を呈するため心筋硬塞,狭心症、急性腹症と誤診されやすいが,詳細な発症状態の把握と綿密な身体検査によりその可能性が疑われるならば早期のX線撮影を行ない,大動脈の異常膨大,心陰影の拡大などが認められる場合はただちに心臓血管造影を行なうべきで,大動脈の二重造影がある時は診断が確定される.

グラフ

Disc 電気泳動法

著者: 井形昭弘

ページ範囲:P.521 - P.524

 髄液総蛋白量の定量は古くから神経疾患の診断にきわめて重要なものとされてきたが,最近では,そのこまかい分画について各疾患との関連が,論議され検討されるようになった.
 従来髄液蛋白濃度は,血清蛋白にくらべ,約200分の1という微量のため,10cc以上の髄液をまず濃縮し,そのうえで電気泳動を行なうという,煩雑な操作が必要であったが,近年開発されたDisc電気泳動法では,Acrylamideを用いることにより0.5-0.3ccという微量の髄液を用いて,濃縮と分離を,同時に行ない,かつきわめて鮮明な分画像が得られ,日常検査としても容易に行なうことが可能となった.

甲状腺疾患の超音波断層写真

著者: 石原明夫

ページ範囲:P.526 - P.527

 超音波を用いる生体組織構造の映像法が,新しい臨床診断法として広く応用されるようになってきた.実際には超音波断層法といわれる方法が用いられ,特徴としては生体の断面像を断層的に描写でき,しかも軟部組織の構造分析に優れていることがあげられる.またこの方法はまったく無害であることから腫瘍診断などにその応用範囲が拡大されつつある.本欄では各種甲状腺疾患の超音波断層写真と,そのよみかたを紹介する.

診断のポイント

解離性大動脈瘤

著者: 初音嘉一郎

ページ範囲:P.549 - P.553

 解離性大動脈瘤は突如として発症し,多種多様の,時には心筋硬塞,狭心症を,時には脳溢血急性腹症などを想起せしめる症状を呈するため,それらの疾患と誤診されやすいが,より急激な経過をたどり,大多数の症例がきわめて短時日内に死亡する重篤な疾患である.そのため比較的最近まで望みのない疾患とされてきたが,現在では生前正しい診断がつけられれば,十分手術により救命しうる.したがって迅速正確な診断を下すことが必要である.
 解離性大動脈瘤,あるいは剥離性大動脈瘤といわれる疾患は古くから知られている疾患であるが,臨床的に意義のある疾患として取り扱われるようになってきたのは比較的最近のことである.これは元来,この疾患の頻度がそれほど高くないことにも一因はあるが,最大の原因は疾病の経過が非常に急激で,診断も治療もできないうちに患者が死亡してしまうことによるものであろう1-3).しかしながら,血管外科学の飛躍的な進歩により大動脈の切除移植が安全確実に行なわれうるに及んでDeBakey氏4)らはこの重篤な疾患の手術に挑戦し,1955年に初めてその手術成功例を報告した.以来本疾患は手術の可能な外科的疾患として注目を集めるようになり,諸外国ではぞくぞくとその手術成功例が報告されるに及んで,その臨床診断学的意義が重要視されてきた5-7)

更年期婦人の原因不明のむくみ

著者: 加藤暎一

ページ範囲:P.554 - P.556

 更年期の婦人が,軽いが頑固な,あるいはときどき出没する浮腫を主訴として来院し,簡単な外来での検査では原因を明らかにしえないという場合はけっしてまれではない.

治療のポイント

褥創の予防と治療

著者: 服部一郎

ページ範囲:P.557 - P.559

 正直にいって褥創を完全に防止する自信はない.ただ内科医として現実に今やっていることを述べて責を果たしたい.

侏儒症

著者: 原田義道

ページ範囲:P.560 - P.562

治療の適応
 年齢のいかんを問わず骨端線が閉じていれば,もはやいかなる方法でも身長を伸ばすことはできない.正常の男子でだいたい15-16歳,女子は月経発来とともに骨端線の閉鎖が起こる.したがって男女ともに10歳前後から治療を始めるのがよい.
 病的な低身長者つまり侏儒症とはその年齢の平均身長から標準偏差の3倍を引いた高さより低いものをいう,わかりやすくいえば10歳までは10cm,10歳以上であれば20cmを平均身長から引いた高さを基準としてさしつかえない.なんら病的でない低身長者(正常短躯者)は平均身長と上の基準との間にある.治療効果が最も顕著なのはこの正常短躯者である.

胆道感染症に対する抗生物質療法

著者: 谷川久一

ページ範囲:P.563 - P.565

 胆道感染症は細菌感染によるもの以外に寄生虫によるもの,真菌によるものなどがあるが,後の2者はごく稀であるので細菌感染にもとづく胆嚢炎,胆管炎について述べよう.
 胆嚢炎あるいは胆管炎の成因については細菌感染の役割が一次的か否かについて問題がのこるが,一次的にしろ二次的にしろ細菌感染が臨床的見地からすれば最も問題になることで,その除去のために抗生物質の投与が重要な療法になることはいうまでもない.

Leading Article

病理学と臨床—日本とアメリカの実情から

著者: 大保亮一

ページ範囲:P.566 - P.568

 過去10年間,日本における臨床病理,病院病理は少数の熱心な病理医の努力により,めざましい発展をとげた.しかしながら大学およびごく一部の大病院を除いて,日本の臨床病理は,なお創生期の状態にあるように思われる.病理医の協力がなければ,臨床各科ともその機能を十分発揮しえないという明白な事実を考えれば,日本でも一日も早く基礎と病理との橋渡しをする身分を保障された病理専門医の誕生がのぞましい.
 私は米国で病理専門医としての修練を受け,しかも,わずか2年ではあるが,その後,日本で病院病理を担当したこともあるので,両方のやり方を一応見てきた.その経験をもとにして臨床病理医と臨床専門医,特に内科との相互関係,貢献について考えてみたい.

全国教室めぐり

好評を博すグループシステム—長崎大・第2内科

著者: 中野正心

ページ範囲:P.569 - P.569

 私たちの医学部は西洋医学発祥の地で,遠く安政4年(1857年)ポンペらが長崎奉行所に作った医学伝習所が始まりで,すなわち日本最初の公の医学校が作られたところです.また第二次大戦で原爆の被害を受けているのも史上特記すべきことと思います.
 当第2内科教室は大正12年4月山田基教授によって開講され,第2代辻緑教授,第3代影浦尚視教授を経て,昭和29年10月筬島四郎教授が教室を主宰され現在に至っております.着任されてから本年で16周年を迎えようとしていますが,この間,教授は肺の代謝という生化学的面,肺の感染菌という細菌学的面,およびこれに対する宿主の面から肺疾患のHost-Parasite-Relationshipという大きな問題に取り組まれ研究をすすめてまいられました.この間の数多くの業績は周知のとおりです.

私の意見

医師と公務員の狭間—病院勤務体制の改革を訴える

著者: 小島憲

ページ範囲:P.570 - P.571

 戦前戦後のなにごとも「統制」という時代に,よく郵便局とか区役所とかに出かけて用をたそうとすると,「只今食事中」という看板を出して窓を閉じ,中では煙草をすったり読書をしているくせに「てこでも動かないぞ」といった気配を見せていることがたびたびあった.こんなことはなにびとも思い出す不快な出来事であるが,病気で病院に駆け込んだとき,その病院の窓口が閉まっておったり,また窓はあいておっても適当な医者がいなかった場合は,不快という感情だけの問題ではすまされず,場合によっては貴重な生命にもかかわる結果になりかねない.このことは私が医者となって40年余常に心を離れない問題である.

病理夜話

ヒステリー

著者: 金子仁

ページ範囲:P.576 - P.576

 女がときどきヒックリかえるとたちまちヒステリーと診断されてしまう.また診断そのものに関しても,現在のように各科が専門化してしまうと他科との連絡が手薄になり,医師はカタワになっていく傾向がある.この話も,このことに無関係とはいえない実話である.
 ある日曜日の朝である.ある個人の精神病院より電話がかかった.患者が急に死亡したので剖検してくれないかという.ヒステリーで入院している若い女性で,ある地方の病院で治療していたが,最近そこの病院へ入院したという.父は医者であり,患者の兄も医師で私を知っているので,なんとか剖検していただきたいという依頼である.

症例 全身性疾患と心臓・4

筋肉疾患と心臓

著者: 鷹津正 ,   河合忠一

ページ範囲:P.581 - P.586

心筋をおかす筋肉疾患
 筋肉疾患には神経原性筋萎縮をきたすものと本来の筋肉疾患myopathyに大別でき,このうち特に心筋を侵襲するものとして,前者に属するFriedreich運動失調症,後者に属する進行性筋ジストロフィーと筋緊張を伴う筋ジストロフィーなどが代表にあげられる.これらの疾患においては骨格筋の障害が進展する経過中に心筋の変性,結合組織化が高率にみられ,臨床的に心電図における様々の変化,うっ血性心不全,ときに急死が起こる.最近の循環器学会で問題視される原発性心筋疾患primary myocardial disease(Mattinglyによる広義の解釈)の範疇に入れられるものである.
 myopathyの炎症性のものとして,細菌,ウイルス,真菌,寄生虫などが特異的原因となり骨格筋と心筋を侵襲する場合があり,非特異性心筋炎の多発性筋炎,皮膚筋炎,さらに全身性エリテマトーデス,結節性動脈周囲炎などいわゆる膠原病に属するものも心障害をきたす.前者,すなわち特異性炎症に関して,Coxsackie B virus感染はBornholm病(pleurodynia)として筋肉痛をきたし,そのほか髄膜炎あるいは心外膜炎,心筋炎の原因となるものであり,旋毛虫病trichinosisは幼虫が骨格筋と同様心筋にも迷入し炎症を起こす.非特異性炎症に属する多発性筋炎,皮膚筋炎は皮膚が侵されるか否かが異なるのみで,骨格筋の炎症をきたす以外にしばしば心筋炎が起こり,心不全による死をみることがあり,全身性エリテマトーデスでは,皮膚・関節.筋を侵襲するとともにLibman-Sacks病と称される疣贅性心内膜炎が現われ,結節性動脈周囲炎は血管変化を介しておこる臓器障害のあらわれとして骨格筋,心筋がおかされる.

内科専門医のための診断学・5

専門医のための肝機能検査

著者: 織田敏次

ページ範囲:P.587 - P.593

パターン診断法の意義
 肝機能検査法は,この50年間にほぼ250種を越えようとしている.Hijmans van den Bergh(1922)の反応が公表されたときには,これで肝の機能異常がすべて診断できるとさえ歓迎をうけたものらしい.しかし,事実はそれほど甘くはなかった.黄疸のない肝障害はないと信じられていた時代ならばともかく,肝炎といえども黄疸のない症例が少なくないと知らされてみれば,その無理は先刻すでにご承知のことである.血清ビリルビンの異常は肝機能異常の1つのパターンにすぎない.肝炎の流行があると,1人の黄疸患者の周囲には約3人の無黄疸患者が肝炎に罹患しているという.また血清肝炎の症例をみておれば,容易に理解できることであるが,顕性の黄疸は,血清のトランスアミナーゼ(GOT,GPT)が急性期のある時点で少なくとも約600単位を越すのでなければ,現われてこない.ときには800単位に達しながら,黄疸の出ない場合さえ経験する.とすれば,600単位以下の肝炎患者は,GOT,GPTに頼る以外診断の方法がないことになる.それだけに,GOT,GPTの意義が高く評価されることにもなる.1954年以来,これが肝細胞障害の診断に欠かすことのできない肝機能検査の1つとされているのもそのためである.しかし一方では,閉塞性肝障害や肝硬変の末期になるとGOTが150-200単位でもすでに黄疸が現われてくる.

臨床家の内分泌学

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系

著者: 吉永馨

ページ範囲:P.594 - P.597

 腎→血液→副腎皮質へと作用するレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の研究は,近年長足の進歩をとげた.
 RAA系発見の歴史,それが関与する病態,さらに日常の診断治療への応用について.

小児心電図講座・2

小児の正常心電図(2)—QRS波

著者: 津田淳一

ページ範囲:P.599 - P.605

はじめに
 QRS波は心室への刺激によりひきおこされた心室興奮のひろがりを示す波とされ,その波形の形成過程を図1に示した.基本的にはP波とおなじく,心室筋興奮を迎える誘導では上向き(R),見送る誘導では初期のQ,RのあとではSとして示される.
 したがって,左側誘導からみれば,心室中隔を左から右へ向かう初期興奮はQで示され,ついでみられるRは左心室興奮を,そのあとのSは右室興奮の後期を示すわけである.同様に右側誘導では,心室中隔を左から右への興奮と右室興奮がRで示され,左室興奮はSで示される.したがって左室の十分発達した成人では,左側ではqR,qRs,Rs,右室側ではrSが正常像であるが,前述のごとく,小児期は幼若例ほど,左右の心室比で,成人に比較し右室優勢であり,血行動態的にも肺の拡張不十分などの要素が加わって右室圧と左室圧との比が成人に比べると小さい.その結果は心電図上に忠実に反映し,幼若例ほど成人の基準からすれば右室肥大型が多い.たとえば生後7日間の胸部誘導をみると,V1ではR,Rsが,V5〜6rS,RSが正常像となっている.この傾向は,生後7日頃最も著しく(理由は未だ不明),以後発育とともに成人型に近づく(図2).

他科との話合い

Basedow病—切るべきか切らざるべきか

著者: 鎮目和夫 ,   藤本吉秀 ,   渡辺亮 ,   守屋美喜雄

ページ範囲:P.606 - P.613

Basedow病の治療には抗甲状腺剤療法,放射線療法,手術療法の3者があるが,実際の患者にどの治療法を適応させるかとなると,いまだに医師によってまちまちである.Basedow病,切るべきか切らざるべきかの問題にはもろもろの要素がからんでくるからである.そのあたりの事情について内科・外科の立場から—

診療相談室

心臓性喘息と気管支喘息との鑑別

著者: 杉田和春

ページ範囲:P.615 - P.615

質問 初往診時における心臓性喘息と気管支喘息の鑑別のポイント(freehand diagnosis)をお聞かせください.(山形市・I生)

メディチーナ・ジャーナル=日医

軌道にのったハシカワクチン

著者: 木島昂

ページ範囲:P.537 - P.537

 去る3月23日,ハシカワクチン研究協議会(会長・宍戸亮国立予防衛研ハシカウイルス部長)は,高度弱毒化された"国産Lワクチン"の研究成果について発表した.実施にあたっては手続き上の問題が今後に残されてはいるが,順調にゆけば来春からは,この国産のL1本やりが軌道にのることになる,この発表で,われわれ小児科医はもちろん,ハシカワクチンに神経をとがらせていた一般社会人もやっと胸をなでおろしたことであろう.

X線メモ

Silhouette Sign

著者: 山中延元

ページ範囲:P.562 - P.562

 胸部単純X線写真の読影にあたっては正面像のみならず,側面像も同時に観察することが必要であるが,正面像しか観察できない場合も少なくない.この場合,肺野にある異常陰影の位置をある程度推測できるSignが,B.FelsonのいうSilhouette Signである.FelSonの行なった実験を自分自身で追試して確かめ,おぼえておくと便利である.
 1)心辺縁の一部または全部を見えなくする陰影(Silhouette si-gn)は前肺野にあり,中葉・舌部・上葉のanterior segment・前縦隔・oblique fissureの前部・前部胸膜腔にある.

臨床メモ

下肢(ことにふくらはぎ)の重圧感—外科医の立場から

著者: 宮崎三郎

ページ範囲:P.565 - P.565

 患者はふくらはぎに重圧感があるなどとは訴えない.おそらく,重くるしい,疲れる,だるい,はる,圧迫されるような感じ,鈍い痛み,などということばで訴えられる.ことばではうまく表現しにくい複雑な不快感を意味するものであろう.
 このような訴えがある場合,まず,注意することはそれが両側性か一側性かということである.両側性であればビタミン欠乏症,糖尿病,定期性麻痺などの代謝性または内分泌性疾患,肝・腎の疾患,循環器系疾患の潜在,疲労などを考え,また,脊椎周辺の疾患や腹部大動静脈分岐部付近の疾患を考える必要があると思うが,外科を訪れることは少ない,

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Current Abstract

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.498 - P.499

糖尿病素質患者を発見する方法
 種々の臨床検査をした結果,糖尿病の素質のある人は,ある種の化学的欠陥があるために,細胞の成長度が正常人とくらべておそいことが判明した.糖尿病にかかる危険率の高い患者の皮膚からバイオプシーで採取した線維芽細胞は,培地中にコロニーを形成する度合いが正常人のそれにくらべて弱いのである."以上の実験は,糖尿病遺伝子が,コロニーを形成する能力のある線維芽細胞の数を減少させることを示すものである"と.(Third International Confe-rence on Congenital Malformations,The Hague, The Netherlands, Sep.10)

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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