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雑誌目次

雑誌文献

medicina7巻8号

1970年07月発行

雑誌目次

EDITORIAL

腹痛

著者: 澤田藤一郎

ページ範囲:P.1173 - P.1173

 病気の三分の一はお腹の病気であると書いたのを読んだことがある.お腹は大工場であり,台所のようなところであり便所でもあるので,しばしば病気になるのは当然といわなければならない.しかも重症で致命的なことも起こりうるので油断ができない.症状としていろいろなことが起こるが,最も重大なのは腹痛というべきである.つまりお腹にはいろいろな臓器がいっぱいつまっており,その故障がまず腹痛として現われてくることが多いので,この痛みから鑑別診断しなければならない.痛みの性質,強さの程度,継続時問,時期,位置などの外に,痛みは主観的なものなので,精神的要素もありうることも頭にいれておかなければならないので,なかなか複雑でむずかしい.したがって仔細にみれば千差万別で興味深く,臨床医は似た痛みでも日々違った例にあうので,これを診察し診断するは医師の醍醐味といえるかもしれない.
 ところで胃でも腸でも肝臓でもこれをつまんでも切っても痛くないことはご承知の通りである.これは腹壁腹膜は実に敏感であるが内臓腹膜には痛覚がないからである.ただ例外として腸管では下端の肛門部,胆嚢では胆嚢管の胆嚢よりの始まりの部分,また膵臓ならびに腸間膜周囲の腹膜組織の部分が敏感である.腎盂,輸尿管,膀胱の頸部,精管,副睾丸などにも痛覚があるとせられておる.したがって胆石発作,急性膵炎の痛み,腎石発作,副睾丸炎の痛みなどはこれですべて説明される.

今月の主題

上腹部の痛み—診断の過程

著者: 大貫寿衛

ページ範囲:P.1174 - P.1178

 腹痛とくに上腹部痛は,日常最も多く臨床医が遭遇するものでありながら,その診断は決してやさしくはない.外科的疾患であるか否かの鑑別が上腹痛診断の最も重要なポイントであることを念頭において,病歴・理学的所見・基本的検査から診断への過程を解説してゆきたい.

(座談会)腹痛の鑑別診断

著者: 三輪清三 ,   長洲光太郎 ,   安部井徹 ,   太田昭夫 ,   芦沢真六

ページ範囲:P.1179 - P.1189

 数多くの検査法が進歩してきている今日でも,腹痛を訴えてくる患者の鑑別は,あくまでも視診・問診・触診が基本である.腹痛患者鑑別のコツについて,経験豊かな先生方にお話しいただいた.

日常検査とその限界

コレステロールとβリポ蛋白

著者: 中野栄二

ページ範囲:P.1146 - P.1147

コレステロールとβリポ蛋白測定の背景
 血清中の脂質の大部分はアポリポ蛋白と結合し,リポ蛋白として水溶性の形で血液中に存在している.リポ蛋白は超遠心法および電気泳動法によっていくつかの分画に分けられ,それぞれの分画は種々の割合で中性脂肪,コレステロール,燐脂質を含有している(図1).このほか,ごく微量の遊離脂肪酸がアルブミンと結合し,主として中性脂肪から成る乳歴粒(カイロマイクロン)も存在する.血清中脂質の臨床検査には,脂質成分のみを生化学的に測定する場合とリポ蛋白の各分画を測定する場合がある.前者の代表的なものとしてコレステロールの測定があるが,その他の脂質成分については検査手技が複雑であり日常臨床検査としてはまだ普及していない.
 リポ蛋白の分画には支持体電気泳動法が有用であるが,簡易法としてはβリポ蛋白の免疫学的な半定量的測定が急速に普及しつつある.βリポ蛋白は,他の分画に比ベコレステロールが多量に含まれているので,コレステロール定量値と相関関係が見られる.しかしこの免疫学的検査法では,βリポ蛋白と共通な抗原性を持ち,中性脂肪を多量に含むpre-βリポ蛋白も含まれて定量される.したがって,中性脂肪のみが増加している場合(高リポ蛋白血症Type IV-Fredrickson)には,コレステロールの著増がなくともβリポ蛋白値が高くなるわけである.

診療手技

新しい輸液技術

著者: 小出来一博

ページ範囲:P.1148 - P.1150

 現在輸液の多くは静注針,点滴装置で行なわれている.しかし,これ以外の方法は,特殊の場合をのぞき,日常用いられることは少ない.新しい方法は,チューブを使用する傾向にあるが,これらの実施手技・適応・合併症などを,写真を主にして述べる.

救急診療

吐血

著者: 早川光久

ページ範囲:P.1152 - P.1154

 吐血は上部消化管からの出血で起こるがしばしば下血を伴う.新鮮な血液は消化管にとっては異物として作用するためか,腸内通過も早い.食道から直接排出される場合には,嘔吐を催さずに口から溢れるように流れ出る.もっとも一部胃内にはいれば嘔吐を催す.大量の鼻出血などを嚥下しても同様である.

略語の解説 31

SD-SGO-T

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.1156 - P.1156

SD
 standard deviation:標準偏差 分散の正の平方根のこと.統計学ではよく用いられるが,推計学では不偏分散が使用され,標準偏差という術語はあまり使わない.
 なお,SDはscleroderma(強皮症)の略語としても使用される.

統計

「国民栄養調査」からみた最近の栄養摂取状況

著者: 小畑美知夫

ページ範囲:P.1157 - P.1157

 厚生省では,昭和21年以降毎年,国民の栄養状態を把握するために「国民栄養調査」を実施しております.これは世帯単位に全国約1万7千世帯,約7万人につき,5日間の栄養摂取状況,経済調査,身体状況などを,毎年5月に調査しているものです.

内科疾患と装具

杖の種類と使いかた

著者: 今村哲夫

ページ範囲:P.1158 - P.1159

 医療用に用いる杖は,大別して松葉杖(crutches)から普通の杖(cane)の2種類になるが,その間に各障害に特に便利に工夫された多くの変形杖があり,そのうちの何種類かは近年普及しつつあって数も増えつつある.
 障害の種類,重症度に応じて適応となる杖が与えられるのが望ましいが,杖を単純なステッキと考えてしまうと,外見上の良さを別にすれば,往々にして有効な杖を与えて患者・障害者の治療的な面を忘れがちとなるので,杖1本といえどもその生体に与える補助能力,回復に応じた杖の処方の変更を考慮して活用すべきであろう.

カラーグラフ

先天代謝異常症と眼症状

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1162 - P.1163

 先天代謝異常のうちのかなりの疾患に眼症状がみられるが,そのうちには,pathognomonicであり,診断上重要な価値をもつものもある.たとえば,Wilson病のとき角膜にみられるKayser-Fleischer ringや,Tay-Sachs病のとき網膜黄斑部にみられるcherry red spotである.また,ホモシスチン尿症のように,眼症状が手がかりとなって発見されるものもある.
 一方,角膜にみられる老人環Arcus corneae senilisや眼瞼に出現する黄色板症Xanthelasmaは,日常の臨床でしばしばみられるものであり,代謝異常と関係づけるのは,なかなかにむずかしく,ある特定の場合にのみ,診断上意味があるとされている.
 今回は,上述の2群の眼症状を,写真あるいは模型図で紹介してみた,症例;全身疾患と眼の項(p.89)とあわせて御覧頂きたい.

グラフ

膀胱・尿道結石のX線像

著者: 千野一郎

ページ範囲:P.1167 - P.1172

 膀胱結石,尿道結石の診断は内視鏡検査,X線検査により比較的容易である.しかしX線検査はその撮影法法の如何が診断上重要である.特に憩室,狭窄などが存在するとき,憩室の位置,大きさ,形,結石との関係,狭窄部位,程度などを知るため種々の体位で撮影しなければならない.したがってX線撮影は必ず2方向以上から行なうべきである.以下症例についてX線像を紹介し説明する.

診断のポイント

微熱が長くつづくとき

著者: 吉植庄平

ページ範囲:P.1190 - P.1193

微熱の定義
 体温上昇が軽微であって,その定義1)2)3)は人により若干異なってくる.しかし一応理解しやすくするため,腋窩温10分を行なって37-38℃の値をみとめたとき微熱とするのがよいかと思う.また脈拍が多い時には37-38℃に入らぬ体温でも問題にする場合もある.

腹部単純撮影からわかるもの

著者: 山口保

ページ範囲:P.1194 - P.1197

 急性腹症,あるいは尿管結石が疑われる時,腹部単純X線像を読影して診断の一助とすることは日常の臨床できわめてしばしば行なわれている.X線学的な局所解剖を念頭におく時,腹部単純X線所見はいろいろの徴候を示してくれる.
 われわれが1枚の腹部単純X線フィルムをみた時,どの程度まで疾患を診断しうるか,常に念頭におくべきこと,また撮影上注意すべきことなどについて,諸賢の最近の報告1)〜4)と私のささやかな経験を基にして述べたいと思う.

見逃がされている脂肪肝

著者: 高橋善弥太

ページ範囲:P.1198 - P.1200

脂肪肝の2症例から
 次のような症例がある.症例1 30歳男性.倦怠感を主訴として来院.肝機能検査により障害を発見され,follow upした.その結果は,黄疸指数 15-5,アルカリフォスファターゼ 2.3-3.1(0.8-2.9),血清蛋白 7.4-8.5,硫酸亜鉛試験 6-9,GOT 32-264,GPT 32-127,BSP 7.5-14.0%.
 総括して,GOT,GPTが上昇しており,BSPも悪い.しかし蛋自系統には異常がない.フォスファターゼも正常である.黄疸指数は15まで高くなったことがある.

治療のポイント

癌末期患者の痛みの管理

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.1201 - P.1203

はじめに
 筆者らの取り扱う悪性腫瘍末期患者の痛みは,原疾患に対する原因除去ないし縮小法がとられたものの,当面する最大の問題が痛みであるような状態のもので,痛みをとることが残された唯一の道であると判断された場合である.
 このような症例に対して,主として神経ブロックによる治療を行ない,今日まで340例の治験をえて,痛みの対策について大略の輪郭をつかみえたように思われるので,自験例を中心にして記してみる.

腹痛の診断と鎮痛剤の使い方

著者: 本田利男

ページ範囲:P.1204 - P.1206

 腹痛は日常の診療において,最もしばしば経験する症状の1つである.この腹痛の分類については,古くからその性質や発生原因によって,またその局所による分類などがあげられている.しかしこれらの分類は判然と区別がつけられるものではなく,限局性の鈍痛もあれば,汎発性で痙攣性の疼痛のこともあり,また限局性でも上腹部全体や下腹部のせまい範囲にある激痛もあるなど鑑別することは,はなはだむずかしい.
 他方,単に腹痛といっても種々の症状を訴えるもの,また腹痛を主訴とする疾患も種々雑多である.これらの中には,きわあて短時間に重症に移行するものも少なくない.また逆に短時間に消褪してしまうものも多いものである.したがって実際に腹痛を訴える患者については,早期に適切な診断を下すことが,その治療を決定する上にも大切なことである.

日光皮膚炎

著者: 谷奥喜平

ページ範囲:P.1207 - P.1210

日光皮膚炎とは
 薬剤が内服,吸入,噴霧,注射,軟膏といろいろの経路で人体に摂取され,体内にはいって種々の障害を起こすことがあり,一般には薬疹,薬物性皮膚炎とよばれていることは周知のとおりである.皮膚科領域におけるいわゆる"医療の作った病気"(iatrogenic disorder)の代表的なものである.この薬疹,薬物性皮膚炎の皮疹としては次のものが近年までに知られている.
 ①蕁麻疹(血清病様症状,アナフィラキシー様症状を含む)

Leading Article

抗生物質合剤の反省

著者: 長谷川弥人

ページ範囲:P.1211 - P.1212

 十数年前,化学療法学会の結成される以前に,「抗生物質学術協議会東西合同シンポジウム」において,筆者は併用療法について,臨床効果と実験的研究に関して発表したことがある.当時はPCとSMとの併用が中心であったが,菌の感受性の関係上,PCの使用量に多大の差があり,また効果を期待するためにも種々の条件を必要とすることを知った.その成績から当時すでに抗生物質の合剤(量が一定に規格化されている)は不適当であると信じ,学会などで有用であるとの発表にもかかわらず,筆者自身は使ったことがないし,また推賞したこともない.最近,アメリカにおいて,学問的根拠から合剤の発売が中止されたと聞き,わが意を得たりと,ひそかに微笑をもらしたのである.

全国教窒めぐり

研究室内外にわたって精力的に活躍—岡山大・第1内科

著者: 河野宏

ページ範囲:P.1213 - P.1213

 小坂淳夫教授が山岡憲二教授(前九大教授)の後を継いで第1内科の主任となられてからすでに13年余がたちました.その間,学内一の大世帯であるわれわれの教室は教育・研究・診療にわたって若い主任教授のもとに,第1内科の輝かしい歴史の中でも最も充実した時期を造り上げております.

ルポルタージュ

万博—これまでとこれから

著者: 木島昂

ページ範囲:P.1214 - P.1215

 甲子園球場×83の広さをほこる万博会場.3月15日の開幕以来,5月23日朝までに1970万人の入場者を呑み,その前日の22日には迷い子も1万人目をかぞえた.なにごとによらず巨大な"お祭り"である.
 会場内の衛生管理は会場部衛生課が主管し医療救護はもちろん,環境や食品衛生まで,つまり万博の<厚生省>役を引き受けている.その広い守備範囲の中から,万博のこれまでとこれからの問題点をひろいあげてみよう.

ある文学者のガン執念—ガンの原因と予防(その1)

著者: 吉岡修一郎

ページ範囲:P.1216 - P.1219

1.ガン死の惨状
 ガンは不治のやまい.-というのが,なんと言っても現在一般の常識であるばかりでなく,専門の医師・医学者の間でもそれがいつわりない心底であるだろう.
 表むきは,早期発見・早期治療が救いの決め手であるように言われているし,早期発見のためにはスクリーニング(集団検診)さえ徹底すれば,大丈夫だとうたわれている.しかし,実際には(集団検診)も早期発見も早期治療も決して完全に有効とは言えず,そこにはあらゆる種類の学問的・技術的・社会的困難が実在していることは,すべての専門家がよく承知しているはずだ.

病理夜話

肺炎

著者: 金子仁

ページ範囲:P.1220 - P.1220

 この頃大葉性肺炎(クループ性肺炎)はめったに見られなくなった.剖検して肺炎といえば気管支肺炎(小葉性肺炎)が大部分である.それも老人と小児に多い.肺炎を剖検して,肉眼的に見ると,大葉性肺炎は上葉とか下葉とか,広い範囲に亘って灰白色充実性の病巣が認められ,気管支肺炎はポツポツと狭い範囲に病巣が散在する.
 組織学的に見ると,両型の肺炎ともに通常は空気の入っているべき肺胞の中に,漿液とか,白血球とか,線維素などが充満している.赤血球もしばしば認められる.

症例 全身性疾患と眼・1

先天代謝異常症と眼症状(その1)

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1225 - P.1228

 先天代謝異常のうちのかなりの疾患で,眼症状がみられ,そのうちのあるものはpatho-gnomonicであることが知られている.たとえば,Wilson病のKayser-Fleisher ringやTay-Sachs病のcherry-red spotである.また,ホモシスチン尿症のように,眼症状が手がかりとなって発見されるものもある.今回は,これら先天代謝異常全般にわたり,その眼症状について解説を行なう.そして次号から,2,3の疾患の症例をあげて,その眼症状について解説を行なう予定である.

内科専門医のための診断学・7

膵疾患の診断(その2)—各種検査法の重要度ならびに総合診断の必要性

著者: 小田正幸 ,   信太秀夫

ページ範囲:P.1229 - P.1234

6.細胞診
 1949年Lemonらが十二指腸液の細胞診をはじめて以来多くの報告があるが,膵頭部癌ではかなりの陽性率を示す.膵癌の疑いがあるばあいは必ず行なうべき検査法といえよう.ふつうP-S試験のさい得られる十二指腸液を直ちに遠沈・塗抹・固定し,Papanicolaou染色,H.E.染色などを行なう.十二指腸液には多量の消化酵素が含まれるので,試料は採液中より氷冷するのはもちろん,その分画採取終了数分以内に遠沈・塗抹・固定を行なう必要がある.

臨床家の生理学

暑さに対する人体の適応

著者: 大原孝吉

ページ範囲:P.1235 - P.1239

 暑さに対する人体の適応については,適応の具体的な内容がまだ十分に整理されていない段階にある.ここでは,暑さへの適応のindexとして最適である"発汗"適応の面から,適応機序総体に含まれる諸種の問題を浮き彫りにしていきたい.

小児心電図講座・3

小児の正常心電図(3)—STおよびT波 PRおよびQT時間と各正常値の総括

著者: 津田淳一

ページ範囲:P.1240 - P.1244

STおよびT波
 STは心室筋興奮が極期に達し,脱分極完了時を示すとされ,波型としては基線にもどった状態である.Tは心室筋興奮消退期で再分極過程を示し,一般には下行脚より上行脚のほうがゆるやかな形で示される.

他科との話合い

婦人の下腹痛

著者: 伊藤綏 ,   久保博 ,   佐藤安正 ,   本田三郎

ページ範囲:P.1246 - P.1253

下腹痛を訴えてきた婦人を診たとき,なにを疑い,どのように鑑別をすすめていくか,とくに虫垂炎と産婦人科疾患との鑑別,下腹痛で見逃がされやすい盲点など,産婦人科,内科,外科の立場から……

診療相談室

先天性・後天性心疾患の聴診の要領

著者: 森杉昌彦

ページ範囲:P.1255 - P.1257

質問 先天性心疾患と後天性心疾患の聴診器による鑑別の要領をお教えください. (岡山市・I生)

診療メモ

内科領域における心理面の評価(1)—症状の成立と分類

著者: 遠山尚孝

ページ範囲:P.1256 - P.1257

 人はだれしも病気にかかると,心になんらかの動揺をきたすものである.ときに心の動揺は明らかな精神症状となって現われ,その面での治療が必要になることもある.いかなる疾患にも患者心理への配慮と,必要に応じて適切な処置がとられることが望ましい.そこで一般内科領域で,患者心理をどのように問題にしたらよいかを治療との関係のうえで概説
し,あわせて心理面の評価に役だつ心理テストについて説明を加えることにしたい.

臨床メモ

吐乳

著者: 竹崎鼎輔

ページ範囲:P.1234 - P.1234

 吐乳を訴えて来た場合にはまず溢乳と幽門痙攣症ないし幽門狭窄症を考える.前者は正常の現象で心配する必要がない.つまり発育は正常で,他に病的症状を伴わない場合である.病的症状を伴う場合にはいろいろな疾患が考えられる.
 最も多いのは咳嗽発作とともに吐く場合である.このような時は百日咳,気管支炎,肺炎,流感,感冒などの鑑別が必要である.つぎに多いのは消化器系疾患であるが,急性消化不良症,中毒症,急性腸炎などを鑑別する.その他,急性熱性疾患たとえば麻疹,猩紅熱,肺炎,流感などの場合は初期によく嘔吐を伴う.重症な場合は髄膜炎様症状を呈する(メニンギスムス).嘔吐が最も激しく現われるのは中枢神経系疾患,殊に髄膜炎,脳炎,ポリオの初期などである.これらの鑑別には髄液検査が必要である.髄液が白濁していれば化膿性髄膜炎か流行性脳脊髄膜炎であるが,混濁がわずかか,透明で塵埃様混濁の程度であってパンディ反応陽性であれば結核性髄膜炎か漿液性髄膜炎であり,両者の鑑別は疾患の経過と結核菌の検出,蜘蛛の巣様フィブリン析出の有無などで行なう.髄液がまったく透明でパンディ陰性の場合は脳炎系統の疾患たとえば日本脳炎,麻疹脳炎,種痘後脳炎などを考える.

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Current Abstracts

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.1140 - P.1141

腎臓移植に対するさまざまな反応
 Kemphとその同僚たちは,腎臓の同種移植術をうけた患者37名の家族に生じた,精神の内部の変化と個人間の変化のうち,その2,3について記載している.患者たちはいずれも,もし腎臓が移植されなかったら,間もなく死んだであろうと思われるものばかりであった.
 患者の家族のメンバーのなかで,いちど腎臓を提供することに同意しておきながら,あとになって取り消したものは,まれであった.受領者に対する提供者の態度は,かなりさまざまであった.そして,提供者と受領者の過去の関係のいかんによって,いくぶん違っていた.全例において提供者は,腎臓を移植しても受領者はそう長くは生きられないだろうということを知っていた.両者の間に強い愛情のキズナが存在していると,提供者は,死に対する受領者の涙ぐましい奮闘に,かなり深い関心をもつようになる傾向があった.提供者は一般に,受領者に対して為すべきことはすべて為し終えたという感じをもつことによって,来たるべき死という問題を解決していた.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

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