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雑誌目次

雑誌文献

medicina7巻9号

1970年08月発行

雑誌目次

EDITORIAL

ジギタリス剤使用上の反省

著者: 高安正夫

ページ範囲:P.1297 - P.1297

 強心剤といえばジギタリス剤以外には考えられなかった頃からみれば心不全の薬物治療も大きく進歩をみ,ジギタリス剤自体についてもかなり変革をみた.いかにして良質のジギタリス葉を手に入れ,薬効が減退しないようにいかに貯え,浸剤あるいは葉末として,いかに適切に使用するかが心不全を治療する心臓専門医の腕のみせどころであった筆者の修練時代には,薬効が不安定でもあったので中毒をおそれて使用量はひかえ目であったし,殊にそれより強力なストロファンチンは急死のおそれありとしてほとんど使用されなかった.
 使用法を適切にすれば卓効を呈するストロファンチンが慢性心不全にも使用されるようになった戦後まもない頃を過ぎ,ジギトキシンが精製され,また速効性のジギタリス・ラナータの製剤セジラニッドCが登場し,ジゴキシンが合成され使用されるようにまでなると吸収も良好で力価効力も安定したこともあって,アメリカなどで初期より行なわれた大量急速飽和の方法が一般に行なわれるようになった.これは大きな進歩ではあるけれども,他方ジギタリス中毒に対する注意が喚起されなければならない.

今月の主題

ジギタリス—新しい理解と使用上の問題点

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1298 - P.1305

 ジギタリスが用いられてすでに200年,その薬理作用については今日に至るまで種々の論議を経てきているが,小量で劇的な効果を奏するジギタリスも,適切な使用を欠くと,危険である.ジギタリスに対する今日の見解と日常臨床に使用するさいに必要な注意点について.

(座談会)ジギタリス—より適切な使用のために

著者: 今井昭一 ,   鷹津正 ,   広沢弘七郎 ,   森杉昌彦 ,   日野原重明

ページ範囲:P.1306 - P.1314

 心筋に対してすばらしい作用をもつジギタリスは,同時に危険を伴う薬物として,一般に恐れられすぎてはいないだろうか.より有効かつ安全に使うための薬理の知識,適応と問題点について.

日常検査とその限界

血清アミラーゼ

著者: 丹羽正治

ページ範囲:P.1270 - P.1272

検査方法(表1)
 アミラーゼ(AM)は周知のようにデンプンやグリコーゲンを水解する酵素であり,現在までに作用機序のうえから数種知られている.このうちおもなものはα,β-AMの2種類である.α-AMは膵液,唾液などの動物体液中や細菌などに存在し,臨床検査上重要である.
 AM活性の測定方法は原理的に種々あるが,最も普及しているものは原理的につぎの2種に大別される.すなわちAMによる水解の結果として,

診療手技

肝生検

著者: 井上恭一

ページ範囲:P.1274 - P.1276

 近年,諸種臨床検査法の発達によって肝疾患の診断,病態生理の把握,治療方針の確立などに長足の進歩を遂げた.これら諸検査法の中でも肝生検法は最も優れたものの1つで,現在では肝疾患の臨床には不可欠のものとなった.筆者らの教室においても昭和26年来約2200例について肝生検を施行してきたが,ここではこれらの経験にもとづき肝生検法の目的・手技・合併症などについて述べる.

救急診療

急性肺水腫

著者: 依藤進

ページ範囲:P.1278 - P.1279

ひとつの症例
 およそ半年ほど前のことであるが,某医から突然電話がかかってきた.「目下5カ月の妊婦だが,数日前からカゼ気味で血圧が高くなってきたが,今朝から急に一般状態が悪くなったから,入院させてくれ.」
 妊婦中毒にしてはちと月が早すぎる.しかし,高血圧になって,咳が出,急に一般状態が悪くなったとすれば,肺水腫のはずだが,と思っているうちに,患者が送られて来た.

統計

届出からみた最近の赤痢の傾向

著者: 小畑美知夫

ページ範囲:P.1280 - P.1280

 近年赤痢の患者が年々減少してきましたことは,皆様先刻ご承知のことと思います.
 戦後の赤痢の発生状況をみますと,いまだに明確な解答が得られておらない21,22年の急激な減少による23年を谷底として,24,25,26年と増加し,27年以降は多少の変動を示しながら全体として減少傾向をたどっております(図1).昭和43年には戦後最低ともいうべき17.5(人口10万対)を記録しました.

略語の解説 32

SK-S-RNA

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.1281 - P.1281

SK
 streptokinase:ストレプトキナーゼ ある種のβ-溶連菌の発育途上に産出される酵素で,血中の線維素溶解酵素フィブリノリジンの活性を高める作用を有する.同じようなものにstreptodornaseストレブトドルナーゼがある.これはデスオキシリボ核酸蛋白とデスオキシリボ核酸を加水分解する作用を有する.
 両者を一緒にふくんだ製剤を,バリダーゼvaridaseとよび,血液凝固物,線維素性の滲出物を溶解する目的に広く利用されている.

日本人の病気

胃癌—久山町における胃癌の疫学的研究

著者: 上月武志

ページ範囲:P.1282 - P.1283

胃癌の疫学研究法の問題点
 日本人の癌死亡は人口構成の老齢化とも関連して,年年増加の一途をたどり,昭和43年の全癌死亡数は114,925名で,脳血管障害死に次いで死因順位第2位である.しかも年齢階級別に見ると,働きざかりの35-59歳において死因順位第1位であり,癌対策の重要性を示唆するものといえよう.部位別では胃癌が最も多く,昭和43年の死亡数は49,109名で,全癌死亡の43%を占め,男女とも第1位である.
 胃癌の疫学的研究方法の一つに,地理病理学的方向があり,これは地球上の各人種の生活条件,環境要素の相違による発癌頻度を比較検討するもので,第2は同一地域内に居住する人口について,癌患者と非癌患者の生活条件を比較し,なんらかの発癌条件を求めようとするものである.

カラーグラフ

ポルフィリン症

著者: 仁木富三雄 ,   宮里肇 ,   池田重雄

ページ範囲:P.1286 - P.1287

 ポルフィリン症は,臨床的には露出部の日光皮膚炎(水疱形成→色素沈着)と,独特な赤色尿によって発見されることが多い.
 ポルフィリンはヘモグロビン,ミオグロビン,チトクロームなどのヘム蛋白体の構成成分であり,なんらかの代謝異常により,その中間代謝物質が尿中あるいは糞便中に排泄される.

グラフ

胸部単純撮影でわかる心所見

著者: 敦本五郎

ページ範囲:P.1291 - P.1296

 心臓は,生活環境あるいは体内のあらゆるストレスに常にさらされているにもかかわらず,生体の要求に応じて,これに耐え,順応する能力をもっている.心臓が十分にその役割をはたすためには,構造改革をも辞さない解剖学的順応と,心迫出量の適正化をはかろうとする機能的順応(①心拍数増加,②心筋収縮力増強,③心腔拡大,④心筋肥大など)とにより合目的性に作動していなければならぬ.

診断のポイント

半身のしびれ

著者: 亀山正邦

ページ範囲:P.1315 - P.1318

しびれの意味と内容
 半身の"しびれ"を訴える患者は.かならずしも少なくない.しかし"しびれ"は,あくまでも主観症状であり,その訴えの内容・程度は,個々の患者によって多種多様である.したがって,"しびれ"がなにを意味し,どのような内容をもつものであるかを,まず規定する必要がある.
 "しびれ"には,知覚障害を示す場合,運動障害を示す場合,また,両者を共に示す場合がある.知覚障害の場合にも.知覚鈍麻のこともあり,知覚過敏のこともあり,また,異常知覚を伴っていることもある.このさい,記載はなるべく具体的にする必要がある.たとえば,ヒリヒリする,電気をかけられた感じである,湯に手をつけても熱さを感じない,やけるように痛む,チクチク痛む,長く坐ったあとのようなしびれ感である,などと記載しておく.

CRPと赤沈促進—その臨床的意義

著者: 磯貝行秀

ページ範囲:P.1319 - P.1322

疾患の活動 性の指標
 急性感染性疾患あるいは慢性病変の再燃などにおける病像の活動性および重症度の判断に関する事項は,日常臨床にとってきわめて重要なことがらである.一般に疾患の活動性を把握するステップとして,1)体温測定,2)白血球数および血液像,3)赤血球沈降速度(以下赤沈という)などの検査がまず行なわれる.しかし,急激で著しい病変の発現をのぞけば,上記の検査法のうち1)および2)は鋭敏度の点で3)に一歩ゆずると見なされる.ことに,慢性疾患の緩徐な再燃などのとき1)および2)の変動は少ないので赤沈が最も高く評価される.
 一方,活動性病変があると血漿蛋白にも2,3の特有の変化が現われる.すなわち,正常状態では認められない蛋白質の出現ないし蛋白質分画の異常がみられる.これらの血漿蛋白質の動きはいずれも反応性のもので,病勢の推移と相関して消長するのが一般である.正常者血漿中に認められなくて新たに反応として出現する蛋白質に,1)C-reactive protein(CRP),2)Rheumatoid factor(RA因子),3)Lupus erythematosus factor(LE因子)などがある.

頸部リンパ節腫脹

著者: 服部絢一

ページ範囲:P.1323 - P.1326

頸部リンパ節群とリンパ灌流域
 リンパ節はリンパ管の関所として全身に分布し,リンパ球.形質細胞を産生するとともに,他方,網内系の一器官として,細菌・異物・腫瘍細胞の抑留・処理,抗体産生にあずかる,
 リンパ節は正常では触れない.体表から少しでも触れるものは.現在または過去の病的変化の存在を意味する.

治療のポイント

冠拡張剤の使い分け—とくにニトログリセリン製剤について

著者: 土肥豊

ページ範囲:P.1327 - P.1330

どんな目的で?
 冠拡張剤はそもそもどんな目的で使われるのだろうかなどと言うと,今さら何を言いだすのかと一笑に付されそうな気もするが,しかし,考えてみるとこの薬ぐらいばくぜんとした効果を期待してただなんとなく使われている薬もめずらしいように思われる.文字どおり解釈すれば,動脈硬化症あるいはその他の原因で狭窄に陥り血流の不全をきたした冠動脈を拡張させ,虚血に陥った心筋に対して再び十分な酸素を供給することを目的とした薬ということになるが,実際に果たして文字どおりそのような目的を達しえているであろうか.それに対する答えは,少なくとも現状では必ずしも確たる証拠を得ているとは思われない.
 ラジオアイソトープ(Rubidium84)を用いて,人間における冠血流量を測定したLuebsらの成績1)でも,Nitroglycerin,Intensain,IsoptinおよびPapaverineのいずれもが,冠動脈疾患のない個体においては冠血流量を明らかに増加させるのに対して,冠動脈疾患のある患者においては冠血流の噌加を示さなかったという.また,Xenon133を用いたBernsteinら2)の成績においても,冠動脈直接注入法においてのみニトログリセリンがごく一過性に冠血流量を増加させたが,舌下錠(0.4mg)投与では冠血流量はむしろ減少,冠血管抵抗は不変であったという.むしろ認めるべき成績は.心務酸素消費量および左心仕事量の低下という形で現われており,狭心症に対する治療効果はこのことに由来すると考えられるとしている.
 これらの事実は,特に硬化性変化のために内腔D狭窄を生じている状態においては,そう思うとおりに血管が拡張して血流が改善されるわけのものではないことを教えている,ある場合には,われわれの期待とは逆に,正常な血管の流域のみに血流が増加することによって,血液供給の分配がさらにいっそう悪化するかもしれない.われわれが日常ときとして経験する冠拡張剤の投与が逆に狭心症を誘発したり,狭心症症状を悪化させたりするparadoxicalな現象の一部には,このような機転によるものも含まれている疑いも否定できず,したがってその作用機転はきわめて多様性に富んでいることを考慮しなければならない.

過敏性大腸の生活指導

著者: 並木正義

ページ範囲:P.1331 - P.1333

治療者のまず心がけるべきこと
 それは病状の的確な把握である.本症の主な症状が,便通の異常と不定な腹部症状であるといっても,各症例によってみなニュアンスがことなる.したがって訴えをよくきき,またこちらからもききだして,愁訴の内容を十分吟味し,それを正しく判断し,その間に患者の性格傾向などもある程度みぬき,それぞれの患者に即した治療方針をたてるようにしなければならない.さらに,予診の段階,すなわち患者との最初の出会いからすでに治療に入っていることを念頭におく必要がある.それは本症の治療において,信頼にもとづく良好な医者患者関係というものが最も重要な意味をもつからである.

Leading Article

地域医療の問題点—包括医療への再認識を

著者: 吉沢国雄

ページ範囲:P.1334 - P.1336

地域医療とは何か
 戦後の医学の進歩,それに伴う疾病・人口構造の変化,一方,社会保障の進展によって,医療が単に臨床的な疾病医療にとどまらず,広く保健予防,後医療,更生医療まで含む,いわゆる"包括医療"として考えられるようになったことは,世界的な趨勢である.ことにわが国は終戦により新しく民主主義国家として生まれ変わり,憲法第25条によって「すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保証されている.「健康とはただ単に疾病または病弱でないというだけでなく,肉体的にも精神的にも社会的にも完全に調和のとれた状態(WHO憲章による)」である以上,国は国民を疾病から予防し,さらに健康を増進させる義務があるが,昭和36年に国民皆保険が実現して,まがりなりにも国民の疾病保障制度が確立されはしても,真の医療保障にはほど遠いことは周知の事実である。
 包括医療を地域に実践することが地域医療であり,地域医療を国民に保障することによって,国の医療保障体制が全うされるということには異論はないようである.しかし包括医療をいかにして地域に実践するか,その方法,組織機構,その主体,あるいは"地域"そのものの概念などについては,多くの考え方と問題点があると思われる.

全国教室めぐり

患者のための臨床医を志して—横浜市大・第2内科

著者: 大久保堯司

ページ範囲:P.1337 - P.1337

赴任されて26年
 昭和19年,36歳の若き守教授が東大呉内科より赴任された.この年に横浜医学専門学校が誕生し医大をへて横浜市立大学医学部へと発展してきた.時の流れとともに文理,商学部をもつ総合大学に成長していた昭和30年,それまで1内科の2教授制であったのが2講座にわかれ,ここに守内科が開設された.
 当時建校の意気も高い医大1期卒業生を迎えた時でもあり,教授の新鮮な熱意のもとに循環器を軸に数々の業績をあげ,また神奈川県下唯一の医学部でもあり興味ある症例にも恵まれ,教室の基礎はまたたく間に固まった.以後15年稲々と今日に至るこの流れにも最近の学生運動にはじまるいくつかの波が生じた.

ある文学者のガン執念—ガンの原因と予防(その2)

著者: 吉岡修一郎

ページ範囲:P.1338 - P.1341

4.ガンの原因のすべて
 ここで,しばらく森山さんの小説を離れて,より専門的な立場からガンの原因に関する知見・理論をすこし整理しておこう.
 まず,ガンは本来,細胞自身の余計な,そして単純きわまる増殖という点に重要な本質があって,その点で,ガン細胞の出現ということは,発生学的に未分化の細胞へと成り下がる逆行現象(脱分化現象)だと言える.細胞内の代謝機制から言っても,ガン細胞は発生学的に全く原始的なものである.すでに十数年前のグリーンステインGreenstein氏の有名な著述や講演などに出ているように,正常組織の細胞は,各器官種別によって細胞内酵素系の差異が大きいのに,ガン細胞だけはどの器官の組織でもほとんど酵素系の相違がなく,しかもそれがすべて,特別単純な体系へと逆行している.その代謝機制の特徴として何より大きいことは,解糖作用という無酸素呼吸でエネルギーを作り出すことだ(ヴァールブルク).そのようにして,とめどもなくタンパク合成を続け,自己増殖を続ける.正常細胞を酸素欠乏状態で培養すれば,その一部がガン性化する,という知見もある.

診療所訪問

みすず刈る里の民の健康を守る—梓診療所・小林医師を訪ねて

著者:

ページ範囲:P.1342 - P.1344

 "みすず刈る"とは信濃にかかる枕詞である.本誌が長野県南安曇郡梓川村梓診療所を訪ねたのは6月上旬のことであった.国鉄松本駅からバスで40分,松本平と安曇平を二分する梓川の清流を渡り終わったところに,東西に長く梓川村(人口約9千人)が広がってくる.村の中間でバスを降りて土蔵の脇を50mばかり入ったところにめざす診療所があった.
 木造二階建の古い建物の中を通って奥の所長室に案内された.中廊下をへだてて両側に,診察室,治療室,病理検査室,手術室,観察室,事務室,レントゲン室,炊事室,薬剤室などが,どれも同じ区画で小じんまりと並んでいる.待合室にはストーブが冬使った時そのままに放置され,煙突が家の壁をくりぬいてニョッキリと外に顔を出している.6月に入ってもまだ暖房の要る日があるからとのこと.

症例 全身性疾患と眼・2

先天代謝異常症と眼症状(その2)—Lipidosis—Tay-Sachs病を中心に

著者: 松井瑞夫

ページ範囲:P.1349 - P.1351

 Tay-Sachs病は,W. Tayが1881年に眼所見を,1887年にB. Sachsが神経学的所見を報告した疾患であり,家族性黒内障性痴呆の乳幼児型Infantile amaurotic family idiocyとよばれてきたが,近時先天性代FI射異常に属する脂質蓄債症lipidosis(lipid storage diseases)の1つであることが明らかにされた.このlipidosisには現在,数種のものが知られているので,今回はまず,Tay-Sachs病の一例を紹介し,併せて,1ipidosisの眼症状について解説を行なう.

アドレナリン注入による腹腔動脈造影

著者: 勝部吉雄 ,   水垣洋

ページ範囲:P.1352 - P.1356

 選択的動脈造影法が普及するにつれて,その限界がわかり,最近ではそれを打開し,本法の診断上の価値をさらに向上するために種々の補助的な方法が考えられつつある.その1つであるアドレナリン使用による動脈造影法は臨床的な価値を認められつつあり1)3)4),最近わが国でも報告6)がみられる.われわれも正常の動脈で腫瘍血管とまぎらわしいものの鑑別に本法の臨床的意義を認めてきた5).しかし,アドレナリンを腹腔動脈造影に応用するのは,腫瘍血管の確診のほかに膵の動脈のより完全な造影のためにも価値がある.以下,われわれの腹腔動脈造影法にアドレナリンを応用した経験について述べ,主として本法により膵の動脈が一般の動脈造影法より,より完全に造影される理由について考察してみたい.

内科専門医のための診断学・8

食道・胃・十二指腸疾患の診断

著者: 芦沢真六

ページ範囲:P.1357 - P.1362

はじめに
 やはり病歴聴取は最もたいせつである.病歴を詳細にとり診察しその中から主症状となるものをえらび,一番頻度の高い疾患を考える.胃・十二指腸潰瘍は病歴だけで十分診断がつくといわれる.食道癌,胃癌は,潰瘍ほど頻度は高くないが,致命的予後を意味するので,確実に否定してから先にすすむべきである.疲労しただけでも,胃が悪いと感じることがあり,また空腹時に嘔気が起こることもある.患者の精神状態も知っておかねばならない.疼痛があったらその部位・種類および時間が問題となる.すなわち起こり方,強さ,放散の有無,食事との関係,便通,その他の随伴症状に注意する.十二指腸潰瘍は20歳代,胃潰瘍は40歳代に多いことは,はっきりしている.食道癌,食道の圧出憩室,十二指腸潰瘍は女性には少ない.
 年齢,男女の別,職業などの一般的事項も重要であることがある.体重,体格栄養状態には参考になる点が多い.体重の動向に注意しなくてはならない.診断はこれらのすべてと,諸検査にもとづいて行なわれるのである.

臨床家の薬理学

強心配糖体の薬理

著者: 今井昭一

ページ範囲:P.1363 - P.1366

 ごく微量で心不全や不整脈に劇的な効果を示すジギタリスは,強心配糖体の代表的なものと考えられるが,ここでは心収縮力増強,房室間刺激伝導抑制,心拍数・リズムへの影響,さらに腎・中枢神経に対する作用など,強心配糖体の作用機序について順を追って解説する.

小児心電図講座・4

心室中隔欠損症

著者: 三森重和

ページ範囲:P.1368 - P.1370

症例1 10歳男
 臨床所見 生後7カ月で多汗のため某病院を受診し,先天性心疾患を指摘された.1-4歳頃よく気管支炎に罹患,また体重増加が不良であった.4歳時心研入院,心臓カテーテル検査を受け肺高血圧症(70mmHg)の合併を認めた.最近は風邪もひかず,運動量正常,発育良好である.心雑音は胸骨左縁に全収縮期雑音Levine 5度聴取,猫喘を触れる.肺動脈第2音の亢進は認めない.胸部レントゲンでは心胸郭比58%,肺血行量の中等度増加,左房および左室の拡張,肺動脈弓の軽度突出がみられた.心臓カテーテルで右室圧45/2mmHg,肺動脈圧33/11mmHg,肺体血流量比2.97,短絡率68%であった.手術所見は室上稜上部の円錐部欠損3.0×3.0cmをテフロンパッチで閉鎖した.左上大静脈遺残の合併はなかった.

呼吸器臨床懇話会から

気管支喘息とステロイド—使用上の問題点

著者: 三上理一郎 ,   中島重徳 ,   大沢仲昭 ,   可部順三郎 ,   長岡滋 ,   長沢誠司 ,   岡安大仁 ,   宮本昭正

ページ範囲:P.1372 - P.1378

 重症喘息に対してステロイドは有効な武器といわれているが,適切な使用を誤ると,種々の副現象・副作用によってとりかえしのつかないことになる.気管支喘息に対するステロイド療法の実際と問題点について.

診療相談室

収縮期血圧に影響を与えず,拡張期血圧だけを下げるには

著者: 菅邦夫

ページ範囲:P.1381 - P.1381

質問 収縮期血圧が正常で拡張期血圧が高いとき,収縮期血圧に影響を与、えずに拡張期血圧だけを下げるようにするには如何すればよいか. (奈良市 福井 生)

診療メモ

内科領域における心理面の評価(2)—治療法と処置のしかた

著者: 遠山尚孝

ページ範囲:P.1379 - P.1379

 心理療法の適用 患者の訴えのしかたや病歴,治療経過などから,その症状の成り立ちに心理・社会的な問題の影響が強く認められたときには,患者の心理面により積極的な働きかけが必要である.治療者は,患者の苦しみの内容や,おかれている環境条件を知って不適応を起こしやすい患者の性格傾向を把握し,心理・社会的問題のどの側面に働きかけるかを判断せねばならない.そのためには患者と時間をかけて面接していく以外に方法はない.
 ここで胃潰瘍と診断された42歳の男性患者の例をあげてみる.この患者に発病のきっかけになったことやふだんの生活習慣などを聞くとつぎのようなことが判明した.上腹部痛は患者が職場の役付きになって転勤した3カ月めごろから起こりはじめ,新しい職場に移って緊張の連続だったこと,飲酒量はあまり多くないがタバコを日に40本ほど吸い,以前から寝つきが悪かったが最近特に眠れないことなどである.患者は,自分の病気は仕事の疲れからだと思うといい,自信のなさそうな不安げな態度を示した.この患者に,ふつうよくとられるような安静と節煙をすすめ,薬物治療を行なうという処置だけでよいものだろうか?おそらくは仮にこの患者のような心理・社会的な問題があったにしても,患者は1-2カ月の入院期間中に自分の気持ちを整理し,職場を変えるなどして解決をはかっていくにちがいない.

臨床メモ

あせもの処置

著者: 山本一哉

ページ範囲:P.1318 - P.1318

 乳幼児のみでなく,成人でも"あせも"で悩む人が多い.その処置もいろいろとくふうされているが,まず原因を知ってから治療することがたいせつなのはいうまでもない.
 "あせも"は汗貯留症候群に属しており,日常よく経験されるものは,その中の水晶様汗疹(白いあせも)と紅色汗疹(赤いあせも)の2型である.前者は自覚症も少なく,治りやすいものなので,ここでは後者を対象として処置の原則を述べさせていただくことにする.

話題

—わが国糖尿病研究の水準の高さを示す—第13回日本糖尿病学会総会から(5月21,22日・熊本)

著者: 三村悟郎

ページ範囲:P.1367 - P.1367

 第13回の日本糖尿病学会総会は,5月21日,22日の両日熊本市民会館において,宮尾会長のもとに開催された.参加数は1000名をこえ,きわめて盛大であった.本学会においては3つのシンポジウムが行なわれたが,第1のシンポジウムはpotential diabetesの病態についての論議が行なわれた.

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Current Abstracts

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.1264 - P.1265

多発性硬化症にACTHが有効
 治療センター10カ所から得られた証拠によれば,多発性硬化症にAC-THが有効だということが判明した.1965年に開始されたある実験には,多発性硬化症の患者209名が含まれていた.実験開始後1週間で,ACTHの治療をうけた患者の70%と,プラセボをうけた患者の45%は,ある程度の改善を示した.ところが4週間後には,82%と69%の患者がそれぞれ,改善を示したのである."これは,ある薬が多発性硬化症に対して,ともかくもなんらかの効果を示した最初の事実である.その効果は僅少ではあるが,しかし効果のあったことはたしかである.しかも,実証されたのである."
(University of Michigan MedicalCenter, June 13, 1969)

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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