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雑誌目次

雑誌文献

medicina8巻12号

1971年11月発行

雑誌目次

Editorial

痛みのしくみ

著者: 山村秀夫

ページ範囲:P.1729 - P.1729

 痛みのしくみを論ずるのにはいくつかの考え方がある.痛みの伝導経路から考えるもの,痛みをおこす因子から考えるもの,痛み感覚とそれに対する反応などから考えるものなど色々あり,それだけに痛みのしくみにはむずかしい点がたくさんある.
 これらを1つずつ紹介することは限られた紙数では到底無理なので,ほんのさわりのみをかいつまんで述べることにする.

今月の主題

いわゆる神経痛—概念の整理と成因のいろいろ

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.1730 - P.1735

 神経痛の概念は現在必ずしも確立していない.が,神経痛という言葉は症状名であって,診断名として軽々しく取り扱われるべきではない.そのよってくる原因はさまざまであるから,より深いところにある原因に思いを至すべきである.

(座談会)神経痛—概念の整理と診断・治療の実際

著者: 西新助 ,   清原迪夫 ,   玉川鐵男 ,   佐々木智也

ページ範囲:P.1736 - P.1746

 "神経痛"という言葉は古くからいいならされ,しかも診断名にまで使われている傾向があるが,その内容は必ずしも明確ではない.そこで,本項では神経痛といわれるものの実体を明確にし,診断・治療の実際にまで言及していただいた.

Leading Article

ペインクリニックから現代医療を考える

著者: 若杉文吉

ページ範囲:P.1714 - P.1715

 現代医学の進歩はめざましく,20年前とは比較にならない.ことに診断面において著しい.ところで日常臨床で常に遭遇する疾患の治療法は進歩しているであろうか.筆者はペインクリニックに専念してから10年になるが,このクリニックの対象となる疾患の治療法についてみても幾つか考えさせられることがある.

図解対症検査 消化器シリーズ・7

食欲不振

著者: 名尾良憲

ページ範囲:P.1720 - P.1723

 食欲とは食物摂取に対する生理的欲求であり,その中枢は視床外側核にあることが知られている.食欲不振は腹腔内器官の病変によっておこることが多いが,全身性疾患に合併しやすいし,また精神・神経機能とも関係が深い.なお妊娠とか薬物によっておこることが少なくないので注意を要する.
 食欲不振に対しては,消化器疾患を中心に検査をすすめるべきことは当然であるが,これのみにとらわれることなく,広くすべての疾患を考慮しなければならない.

カラーグラフ

冷凍血液

著者: 隅田幸男

ページ範囲:P.1726 - P.1727

 一般に"冷凍血液"と言われてきたのは,冷凍赤血球のことである.6年前の1965年にアメリカのC.E.Hugginsが"Frozen Blood"として本邦に紹介したのに始まる.同年10月,筆者はHugginsの方法を参考にその輸血に成功した.しかし,今日から見れば,Hugginsも筆者も冷凍血液としては幼稚な段階にあったようである.
 "冷凍血液"と今筆者が言うのは,赤血球,血小板,白血球,それに抗血友病因子を含めたいわば冷凍血液成分の総称である.

診断のポイント

脾腫

著者: 長村重之

ページ範囲:P.1747 - P.1750

 脾腫は腹部腫瘤,ことに左季肋部に出現する腹部腫瘤の1つであるので,まず他の腹部腫瘤と鑑別し,次いで脾腫を伴う疾患を考える必要がある.

ワーラーローズ反応とRAテストの使い分け

著者: 本間光夫 ,   市川陽一

ページ範囲:P.1751 - P.1753

Waaler-Rose反応とRAテストの理解に必要な基礎的事項
 慢性関節リウマチ患者の血清中には,抗γグロブリン抗体の性質をもつグロブリンが存在する.これがリウマトイド因子とよばれるものである.
 リウマトイド因子は慢性関節リウマチに特異的なものではないが,ほとんどの慢性関節リウマチ患者がもっていることも事実である.この因子の研究が果たした価値として次の2点があげられる.①病気としての慢性関節リウマチの理解を深めた.②γ-グロブリンの遺伝的コントロールについて新しい研究分野を開発した.

甲状腺癌

著者: 降旗力男

ページ範囲:P.1754 - P.1757

甲状腺癌少なくない
 甲状腺に発生する悪性腫瘍は,表1に示すようなものがあるが1),このなかで最も多いものは癌,とくに乳頭腺癌である.
 甲状腺癌は一般に少ないものと考えられており,これは厚生省の統計による年間死亡数が300名余2)というほど少ない点からみても考えられやすいことである,しかし,甲状腺癌はそんなに少ないものではないということがわかった.筆者らは長野県下13地区において甲状腺腫の集団検診を行なったところ,甲状腺癌が1万人に対して13人の割合に発見された.とくに30歳以上の女性についてみると,1万人に対して31人の有病率となり,これは従来の概念をはるかに上回る高い率であることが判明した.この事実は年間死亡者数の少ない点と矛盾するようであるが,甲状腺癌の大部分を占める乳頭腺癌は発育がおそく,治療後の予後が良好であるので,患者数は多くとも死亡者数は少ないという結果になると考えられる.したがって,甲状腺癌は少ないという従来の概念は訂正されなければならない.換言すれば,甲状腺に腫瘤を認めたならば,つねに癌を念頭において診療する必要があろう.

治療のポイント

高血圧と食塩

著者: 宮原光夫

ページ範囲:P.1758 - P.1760

依然変わらぬ食塩制限の重要性
 食塩の制限によって浮腫が改善されることがわかってから間もなく,今世紀初めに,フランスの学者が食塩の制限によって高い血圧が低下し,逆にその負荷によっていっそう高くなる事実を見いだした.その後フランス,さらには世界的に,高血圧治療上の食塩制限の効果が検討されるに至った.そして食塩で問題になるのは,当初考えられたClではなくNaであること,認めるべき降圧を得るにはNaの1日量は500mg以下,場合によって200mg以下という小量でなければならないこと,高血圧の型・重症度の違いなどによって制限の効果は異なり,悪性高血圧ではほとんど無効で,重症の本態性高血圧症の約1/4で明らかな降圧効果のあることなどが知られた1)
 しかし,このように全患者に有効なわけではなく,またかなりきびしい制限を長期に行なうことは必ずしも実用的な治療法とはいえない.それにもかかわらず,安静や他の食餌療法とともに,食塩制限が長い間高血圧の治療の根幹をなしてきた.それは現在用いられているようなすぐれた降圧剤が無かったことにもよるが,食塩と高血圧との問に密接な関連のあることが知られてきたからである.そしてまた高血圧の治療には薬物療法が主体となってはいる現在でも,程度の差こそあれ食塩制限の重要性は依然として変わらない.

新しい鎮痛剤—ペンタゾシン

著者: 小林建一

ページ範囲:P.1761 - P.1763

 1)本剤は鎮痛効果が強く,作用時間も長く,副作用も軽度であり従来からの鎮痛剤のなかでは秀れたものといえよう.
 2)各科領域の痛みに効果がある.
 ペンタゾシン(Pentazocine)は,1959年米国Winthrop Laboratoryで開発された鎮痛剤であり,図のようなbenzomorphanの誘導体である.
 モルヒネに近縁の化合物のなかに,麻薬拮抗作用のあることがわかってから,これまでナロルフィンを初め幾多の薬剤が開発されてきたが,本剤はその開発途上に生まれたものである.ナロルフィンは麻薬拮抗作用のほか,それ自身に鎮痛作用があり,一時は鎮痛剤として使用されたが,その向精神作用のため臨床には不適とされた。一方,ペンタゾシンは,麻薬拮抗作用は弱いが,ひとにおける著明な鎮痛作用のため鎮痛剤として登場してきたわけである,本剤は強力な鎮痛作用があり,しかもモルヒネと似た構造をもちながら身体依存性,耽溺性がなく,1966年WHO依存性薬物専門委員会によって非麻薬と認定された.

十二指腸潰瘍の手術適応

著者: 中野貞生

ページ範囲:P.1764 - P.1766

"比較的手術適応"では適応基準が不統一
 十二指腸潰蕩の手術適応のうち,絶対的適応(大量出血,穿孔,幽門狭窄)に関しては内科側と外科側との間に個々についての多少の見解の相違はあるが,まずその基準は確立されている.
 ところが比較的手術適応という問題に対しては,内科と外科の間はもちろん,それぞれの側の中でも,その適応基準は必ずしも統一されていない現状である.それは消化性潰瘍の病因論,潰瘍もしくは潰瘍症という疾患の病態に対する認識論の差異に由来するもののようである.それに加えて今までの十二指腸潰瘍の診断が,良性疾患であり悪性化の心配がないという理由から,球部変形,ニッシェ証明という存在診断にとどまり,早期胃癌や胃潰瘍の診断に対すると同じような態度で,精密に診断するという努力が少なかったため,形態学的な面で解明が不十分であったきらいがある.それと同時に,外科的根治術を受けて得られた切除標本が,球部の潰瘍が鉗子やペッツで挫滅されていたり,潰瘍そのものが曠置されてしまっていて,十分に病理検索をなしえなかったことも原因の1つと考えられる.

内科専門医のための診断学・23

腎炎およびネフローゼ症候群(その2)

著者: 木下康民

ページ範囲:P.1767 - P.1773

検査の進め方
 腎疾患の診断のための検査は疾患によってそれぞれ特徴的なものもあるが,表6には腎炎,ネフローゼ症候群,腎盂腎炎などしばしばみられる腎病変について,少し設備のととのった病院であれば,一般に行なうことのできそうな検査項目を示した.○印は入院患者について行なわれるもので,外来患者について行なうには煩雑な検査法もある.

ベクトル心電図入門・5

脚ブロック

著者: 戸嶋裕徳

ページ範囲:P.1774 - P.1776

 心室筋の興奮は,房室結節からHis束,左右の脚,Purkinje線維を介して伝えられる.これらは心室に興奮を伝えるための特殊刺激伝導系であるが,虚血,炎症,変性などの病変によって障害をうけやすい.His束が侵されるか,両脚が共に障害をうけると完全房室ブロックとなるが,右脚,左脚が個々に障害されることにより,右脚ブロック,左脚ブロックをきたし,障害された脚により支配される心室の興奮が遅れ,心室興奮時間の延長をきたすことになる.
 心電図では,心室興奮時間の遅れはQRS間隔が0.12秒をこえることで容易に診断できるが,ベクトル心電図では時間的計測は困難であるので,輝点の密集度により興奮の遅延を診断することになる.

日本人の病気

慢性関節リウマチ

著者: 吉野良平

ページ範囲:P.1778 - P.1780

調査方法と診断基準
 ある疾患の原因をしらべ,あるいはその予防対策をたてるために,現今疫学的研究のなされることが多い.慢性関節リウマチについても疫学的研究を顧慮せずに,その本態を論ずることは不可能である.
 わが国における関節リウマチ(RA)の本格的な疫学研究成績は大島(1960,1961),七川(1963),さらに最近では日本リウマチ学会における関節リウマチの疫学シンポジウム(杉山,1967)において発表されている.

日常検査のすすめかた

赤沈亢進

著者: 山田秀雄

ページ範囲:P.1782 - P.1783

 赤沈は,最も広く使われている日常検査の1つであるが,元来非特異的なもので,亢進を示す疾患は,いちじるしく多岐にわたる.そこで,まず赤沈亢進を示す場合を考える前に,基準となる正常値についてふれておく.

内科医のための小児診療の手引き

反復して腹痛を訴えるとき

著者: 合瀬徹

ページ範囲:P.1784 - P.1785

はじめに
 小児科診療の実際に当たり,痛みを主訴として来院する患児のうち腹痛は一番多いものである.しかもそのほとんどのものが多少程度の差はあっても反復する腹痛である.しかし,今回ここで取り上げるものは腹痛の反復性が特に明らかなものについて,その特徴,診断順序および治療の要点について述べる.

一般医のための救急診療のコツ

冬山の遭難患者

著者: 高島巌

ページ範囲:P.1786 - P.1787

 冬山の遭難で問題になるのは,いうまでもなく凍仮死と凍傷とである.同じく寒冷による障害でありながら,両者の発症機序には,いささかおもむきを異にする点がある.すなわち,凍傷では,組織凍結点以下の温度(-4〜-5℃)が作用して局所的に種々な深さの組織壊死をきたすものであり,凍仮死では,凍結点よりはるかに高い温度で生体の機能が徐々に低下し,組織の窒息をきたして死に至るものとされる.

病態生理—最近のトピックス

Parkinson病の病態生理—特にL-DOPAによる治療と関連して

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.1788 - P.1789

形態学的検索から生化学的検索へ
 ロンドンの開業医James Parkinsonにより1817年に初めて報告された本疾患はかなり高頻度にみられること,症状が非常に特徴的であることなどにより,誰にでもよく知られている神経疾患である.その病理変化もよく知られており,黒質の色素の脱落という肉眼的変化に加えて,黒質および基底核の神経細胞の脱落は,誰もがよく記憶しているところである.そして振戦,筋の強剛,無動などの症状は,基底核の機能障害の現われとして,よく説明されてきたのである.
 しかし,このように主として形態学的方面からの検索からさらに進んで,本症の生化学的変化にまで解明の手がのびるまでには時間がかかり,従って1950年に抗コリン剤の使用が始まり,また1958年より脳定位手術が行なわれるようになっても,これら治療法は,その程度に違いこそあれ,全て原因的治療というよりも,経験的・対症療法にすぎなかったのである.ところが1950年代の後半から,種々の生化学的検索手技の進歩と共に,その実態がしだいに明らかとなり,それが1966年に至って英国のCotziasにより始められた,大量のL-DOPAによる本症の治療の成功として花開くに至ったのである.

新薬の紹介

脱コレステロール剤

著者: 中村治雄

ページ範囲:P.1792 - P.1792

 一般に脱コレステロール剤と従来よばれてきたものは,最近では脂質代謝改善剤として,コレステロールのみならず,血清トリグリセライドなどの低下を目標としても用いられることが多くなった.ここでは,血清脂質の低下を目的とした薬剤と解して解説したい1)

グラフ

腰痛症のX線診断

著者: 山崎典郎

ページ範囲:P.1794 - P.1800

 腰痛を主訴とする疾患は枚挙にいとまがない.今回は整形外科領域にて比較的一般に見られる疾患のX線像を示し,X線読影上どのようなことに注意すべきかということを中心に論を進めてゆく.
 まず疾患のX線像を知る上には,正常像との対比にて理解すべきものであろう.撮影する上で必ず2方向以上少なくとも4方向撮影を行なわなくては,病変を正確にとらえることはできない.さらに必要に応じ最大前屈および後屈位における機能撮影や,その他特殊撮影(例えば脊髄造影術や椎間板造影術)が行なわれる.

胸部単純撮影でわかる心所見・6

Cyanosisを主症状とする心疾患

著者: 敦本五郎

ページ範囲:P.1802 - P.1806

Cyanosisの判定と成因
 先天性心疾患のうち,Cyanosis,赤血球過多,太鼓ばち指趾,心性呼吸困難,ときには失神やけいれんなどの多彩な臨床症状を呈する1群と先天性心疾患以外のCyanosis,動悸,眩暈を主訴とする貧血疾患とがある.Cyanosisは皮膚で観察されるほか,口腔粘膜,歯肉,眼結膜,口唇,耳朶,爪甲,手掌にも現われる.

症例

胆嚢十二指腸結腸瘻の一症例

著者: 岩村健一郎 ,   志村昭八 ,   池田誠

ページ範囲:P.1807 - P.1810

 欧米における特発性内胆嚢瘻は,胆道系全手術症例の0.15から5.0%といわれ2)5),それほど珍しいものではないが,本邦では報告例が比較的少なく,ことに同時にそれぞれ十二指腸および結腸との瘻孔形成をみた症例はまだ報告がない.
 筆者らは最近,胆石症が原因と思われる胆嚢十二指腸結腸瘻の1症例を経験したので,若干の考察を加え述べる.

臨床家の遺伝学入門・11

臨床医学への応用(3)—遺伝相談(その2)

著者: 大倉興司

ページ範囲:P.1812 - P.1815

2.経験的危険率の推定
 表型模写や遺伝的異質性があり,それを区別できない場合,遺伝的要因の関与は明らかだが,環境要因との相互作用のため理論的に危険率の推定できない場合,いわゆる多因子性疾患といわれ,いくつもの遺伝子が関与しているような場合などは理論的危険率が推定できない.そこで,数多くの家系資料を求め,それらから条件に従って危険率を経験的に求める以外に方法がないことになる.現在のところ,これ以外に方法がないが,遺伝学の立場からいえば,これは医学と遺伝学が十分な知識をもっておらず,分析の技術をもたないから便宜上使うものであって,いくら膨大な資料を集め,見かけはりっぱな値を求めても,本来は無学を意味するものであって,自慢はできないのである.やはり理論的に推定することができるのがもっとも望ましいのである.
 経験的危険率は,親子,同胞,あるいはさらに遠い血族をも調べて求めるわけであるから,非常に多くの家系,そしてしかもかなり広範に血族を調べなければならない.このため,あまり多くの異常や疾患について調べられているわけではなく,また日本人についての資料はきわめて乏しい.白人などでえられた資料をそのまま用いることは正しくないし,誤りをおかす場合があるかもしれないが,他に資料がないので紹介する.

誤られやすい心電図・5

虚血性心臓病と診断された例—ジギタリスの影響

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1816 - P.1817

症例1
 53歳の家婦の症例である.約1年前に夜間突然心悸亢進と胸内圧迫感を訴えて受診し,頻脈と上記の訴えから,開業医により狭心症と診断され,約1カ年ジギトキシン1日量0.1mg内服をつづけた.
 しかし,上記の訴えはその後も時々起こるので,筆者のところを8月に受診した.

他科との話合い

婦人科疾患と腰痛

著者: 木下正一 ,   横関嘉伸

ページ範囲:P.1818 - P.1824

 婦人の腰痛を考える場合,妊娠・出産という女性に特有の役割,そのための複雑な身体生理の変化という背景を忘れてはならない.この基本的な視点から腰痛の発生機序,対策を探ると,究明すべき課題は少なくなさそうだ.

特別掲載

アメリカから見た日本の医学教育(下)

著者: ,  

ページ範囲:P.1825 - P.1831

戦後の期間
 19世紀の初頭から第2次世界大戦が終わるまで,医学教育の基本的理念というものは本質的には変わらなかった.戦後,アメリカ占領軍が教育課程を標準化するために徹底的な再編成を試みた2).実のところ,日本の教育システムはなくなり,教育はアメリカ・システムに従って作られた.多くの日本人たちは,その結果,教育水準の低下をきたしたものと感じていた.とにかく,新しいシステムが十分な基礎的な段階も踏まず,また日本国民の文化的伝統における衝撃に対してもなんらの配慮も払わずに作り上げられてしまった.
 最も重大な誤算の1つは医学教育の分野においてであった.その当時まで,日本には「インターン制度」というものがなかったので,占領軍はこれは重大な教育上の手ぬかりであると判断した.したがって,患者の治療における指導医のもとに卒後の臨床訓練ができるように「インターン制度」が発足したのである.この訓練は他の近代国家においては不可欠のものと考えられるが,日本においては歓迎されなかった.というのは,インターン制度が「学位」課程に対し,直接対立するものであり,「医学博士」の完成をただ延期させるだけにすぎなかった.さらに,インターンは給料をもらわないため,インターン生活が余分な出費となった.

今月の表紙

モルヒネを発見したゼルツルナー

著者: 小川鼎三

ページ範囲:P.1831 - P.1831

 ケシPapaver somniferum L.の青い果実を傷つけて採取するアヘン(阿片,Opium,日本の古い医薬書では阿芙蓉)が痛みどめ,また眠りを催すものとして重要視されたのは甚だ古い起源をもち,バビロニア,エジプトの時代からその事柄がたどられる.
 アヘン学Opiologiaと題する単行本もできている(Otto Zekert編著,1956年刊).その中から2図を借用して表紙に載せた.somniferumという学名が"眠り"を意味し,ドイツ語では,そのケシの種類をSch-lafmohnという.主な産地は今ではペルシア,マケドニア,アフガニスタン,インド,シナとなっている.

全国教室めぐり

基礎と臨床との有機的な融合をめざす—阪大・第3内科

著者: 国府達郎

ページ範囲:P.1832 - P.1832

 医化学に専門的な知識をもっておられる山村雄一教授が第3内科講座を担当されるようになってから,9年になる.その間,基礎医学と臨床医学との相互の有機的な融合をモットーとして教室員を指導されてきた.すなわち,ベッドサイドで臨床上重要な問題をつかみ,これをしっかりと基礎医学の場で探求し,その成果を再び臨床の場に帰すということで,これがうまくいって始めて医学の進歩もありうるし,また人類への貢献も達成されるのである.

病理夜話

胃(その1)

著者: 金子仁

ページ範囲:P.1833 - P.1833

 胃癌は日本人に一番多い癌である.東一・病理の剖検例でも癌の半分は胃癌である.
 一般に癌の決定診断は病理学的にはじめてつくものがあるから,臨床的に癌といわれても,癌がない場合があり,胃潰瘍といわれても,病理学的に検査して,癌であったりする場合も決して少なくない.これもそれに似た話である.

統計

神経痛患者の推計

著者: 小林秀資

ページ範囲:P.1834 - P.1835

 神経痛の患者がわが国に何人ほどいるか,昭和44年の国民健康調査よりみてみました.この調査は,一般国民の協力で,本人から病気の有無・種別を調べるもので,医療機関の協力で調査される患者調査と比較して,疾病そのものの正確性も劣り,また標本量も少なくて誤差が大きいのでありますが,神経痛の患者は必ずしも医師を訪れませんので,この調査をみてみることにいたしました。

読後随想

医学論文のスタイルとことば—①雑誌「群像」8月特大号 ②Introduction à l'étude de la medicine expérimentale(Claude Bernard)

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.1836 - P.1837

 『××の腹痛を外科の立場から論じた.××の腹痛疾患は診断がきわめて困難であるが,手術適応のあるものについては,外科医はその全能力をあげて診断に当るべきである』
 最近の某氏の論文のむすびの全文である.こういうむすびの文はあってもなくてもいいし,文章もふやけていて,意味はわかるが主張はわからない.私もやたらに文章を書くけれども,いつも気をつけていることがあるのでそれを書いてみたい.それは論文のスタイルとか,ことばとか,アプローチとかいう筆者のバックボーンの問題にかかわるのである.

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Current Abstracts

ページ範囲:P.1763 - P.1763

冠動脈事故後のリハビリ:運動対自己催眠
 冠動脈事故後のリハビリ技術に関する研究の一環として,医師・理療師の監督下に実施された正規の漸進的身体運動計画の結果が,医師の指導下に自己催眠と自己リラックスの技術を習った正規のクラスの結果と比較された.両群の患者の申立てによると,自信と健康感が増したとのことであった.両群の患者はまた,平均して20-25%の(予測された)有気呼吸力aerobic powerを増すとともに,安静時の脈拍が平均して毎分5拍減少した.以上のような結果は,運動群では,条件づけの効果のせいにすることができるかも知れないが,一方,催眠治療群では,自信と動機づけの増加の効果のせいにすることができるかも知れない.
 (Postgraduate Medicine Oct. 1970)

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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