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雑誌目次

雑誌文献

medicina8巻2号

1971年02月発行

雑誌目次

Editorial

肥満と食生活

著者: 吉川春寿

ページ範囲:P.153 - P.153

 肥満とは身体の脂肪組織に中性脂肪,すなわちトリグリセリドが増量し,その量が正常の範囲を越えた状態をいうのである.トリグリセリドを構成するグリセリンは脂肪組織で,血液中からとり込んだグルコースの中間代謝産物であるグリセルアルデヒド-3-燐酸が還元されて生じたグリセロ燐酸から由来するのであって,グリセリンが直接それに利用されることはない.脂肪酸としては,血液によって運ばれてきたトリグリセリドがリポプロテインリパーゼによって加水分解されてできた脂肪酸も,グルコースの代謝でできたアセチルCoAからそこで新しく合成される脂肪酸も利用される.
 貯蔵脂肪は,一方ではホルモンの影響をうける脂肪分解作用によって,脂肪酸とグリセリンとに分かれて血中に送り出され,ほかの場所で消費される.このような脂肪組織でのトリグリセリドの合成と分解とは,昔考えられていたよりもはるかに活発に行なわれつつ釣合いの状態にあるので,この釣合いが合成の優勢な側にかたむいたときに肥満が起こってくる.これら脂肪酸の合成・分解とか,トリグリセリドの合成・分解のメカニズムについては,最近の生化学の進歩によってだいたい明らかにされた.現在研究が進められているのは,これら脂肪代謝に関与する酵素系の中で,どこが調節段階になっていて,その段階がいかなる因子によって影響をうけるであろうか,という点である.

今月の主題

肥満症—考え方と治療の実際

著者: 岸川基明

ページ範囲:P.154 - P.159

 肥満は体内に脂肪が異常に沈着した状態で,昔は良好な栄養状態を示すものと考えられていたが,その病態生理が明らかにされるに伴って成人病の基礎として,また近年肥満児の増加もあって,その対策が最近の課題となっている.以下,肥満の考え方と治療の実際について.

(座談会)肥満の成因と治療

著者: 小池五郎 ,   内藤周幸 ,   後藤由夫 ,   日比逸郎 ,   松木駿

ページ範囲:P.160 - P.169

なぜ太るのか—この原因は種々あると思われる.肥満の治療についても,新しい試みがなされているようである.最近の欧米における研究とも対比しながら,各専門の立場からの考え方を集約すると……

Leading Article

医学の技術革新

著者: 阿部裕

ページ範囲:P.140 - P.141

未来予測の方法論
 医学は自然科学の一員であるが,特に技術学としての色彩の濃い応用科学であり,技術水準の向上が医学の発達を直接担うものであることは明らかである.さて未来予測に用いられる方法には,
 a.外挿法

カラーグラフ

十二指腸球部潰瘍—X線像と十二指腸内視鏡像の対比

著者: 五味朝男 ,   菅原悌三 ,   山岸悟郎

ページ範囲:P.146 - P.151

 従来十二指腸潰瘍の診断にはX線検査が用いられてきたが,最近十二指腸ファイバー(FDS)の出現により,特に潰瘍のX線学的治癒判定については再考を要するものと思われる.まず十二指腸球部潰瘍の経過をX線検査および内視鏡検査のおのおのの成績と対比し,次に瘢痕を中心に対比例を示す.

診断のポイント

十二指腸潰瘍

著者: 井上幹夫

ページ範囲:P.170 - P.172

 十二指腸潰瘍の診断は最終的にはX線学的にニッシェを証明することにつきるが,以下十二指腸潰瘍の診断上留意すべき事項について述べよう.

尿路感染症—起炎菌の決定

著者: 黒川一男

ページ範囲:P.173 - P.175

まず宿主と細菌の相互関係を把握する
 感染症は細菌と宿主の相互関係によって種々の様相を示すもので,両者の関連を無視し,一方を重視することは誤りである.ややもすると細菌側のみに目を奪われてしまうきらいが多いことにまず注意しなければならない.
 元来,尿路は無菌の状態が正常であり,膀胱より上部の尿路は通常の状態では細菌は存在しない.しかし,ときには膀胱に長時間細菌が何らの障害を起こすこともなく存在していることも少なくない.

治療のポイント

学童の肥満

著者: 多田裕

ページ範囲:P.176 - P.178

望ましい早期治療
 最近成人病の原因として肥満症が注目され,一般の関心が高まるにつれ,小児でも肥満を心配して外来を受診する患者が増加している.学童の肥満症の頻度は近年増加しており,2-10%くらいの頻度が報告され欧米の値に近づきつつある.栄養状態の改善による摂取カロリーの増加も一因であるが,学習時間の増加や交通機関の発達,都市の過密化による運動不足などのため消費エネルギーの減少も著しいので,今後さらに肥満児が増加するのではないかと憂慮される.

老年者高血圧と降圧剤

著者: 喜々津良胤

ページ範囲:P.179 - P.181

 65歳以上が一般に老人として取り扱われているが,平均寿命の延長に伴いいわゆる老年者は増加の一途にある.したがって老年者の問題は社会的にも医学的にも重要な課題であり,各方面において取りあげられつつある.
 従来「年齢+90」を正常血圧とする考えがあるように高血圧は老年者にはたいへん頻度の高いものであり,特に老年者高血圧は耳新しいものではないが,老年者の正常血圧,高血圧の特徴,血圧コントロールの基準など多くの問題がある.治療について述べる前に老年者高血圧について簡単にふれたいと思う.

病人と入浴

著者: 和合健二

ページ範囲:P.182 - P.184

古来よりの2傾向—蒸気と温泉
 "風呂あがり"のなんともいえない爽快な感じは,健康人にとっても,refreshedという言葉が本当にピッタリで,全く生き返ったような気分である.われわれの先祖が入浴を病人の治療にとって有力なてだてであると考えたとしてもなんの不思議もない.
 本邦で風呂を治療に使った古い記録としては,光明皇后の施薬院における施浴があるが,そのころ風呂といえば蒸し風呂のことであって,浴湯の普及はこれにおくれ,貴族の風呂殿,寺院の施浴,庶民のための公衆浴場などその多くは蒸し風呂であった.江戸時代の銭湯も最初は純然たる蒸し風呂で,それがしだいに半浴湯・浴湯へと変わっていった.世界的にみても,ロシヤ風呂,トルコ風呂,サウナ風呂,ローマ風呂など,蒸気浴(もしくは熱気浴)は貴族・庶民をとわず昔から広く人びとに愛好されてきた.

内科専門医のための診断学・14

糖尿病

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.185 - P.191

正確な診断の前提条件
 糖尿病を正しく診断するための前提条件として,まず重要なことは、糖尿病とは,いったい如何なる疾病であるか(What is dia-betes mellitus?)を理解することである.
 単に尿糖陽性のものを糖尿病としたり,またわずかに血糖が高値を示したり,耐糖能(glucose tolerance,糖忍容力ともいう)がやや低下していることのみで,糖尿病と安易に診断してはならない.私の日常診療の経験でも,単に尿糖陽性ということのみで糖尿病と診断され,経口剤の処方が行なわれ,患者は薬剤の服用のたびごとに低血糖様の症状に悩まされている例を時折みる.こういったことは一種の悲劇であり,医師たるものはもっと責任をもって病気の診断および治療にあたってほしいということを痛感するのである.

臨床家の遺伝学入門・2

遺伝子の概念

著者: 大倉興司

ページ範囲:P.193 - P.196

遺伝子の概念
 さまざまな遺伝形質が遺伝病といった形で臨床的に取り扱われる.その中には、異常ヘモグロビンabnormal hemoglobinについて知られるように,そのグロビンを構成するα鎖やβ鎖の特定の位置のアミノ酸の置換によって生命の維持に重大な影響をもたらすような異常,すなわち1個の遺伝子が,1個のアミノ酸を決定するという,分子のレベルで考えてゆかねばならぬような形質がある.と同時に,たとえばWaardenburg症候群1)のように,形態学的に,生理学的に,生化学的に,あるいは発生学的にたがいになんら関連があるとは思えないようないくつかの症状が単一の遺伝子に支配されているような形質もある.
 遺伝子geneとは何か,いかなるはたらきをするものかを明らかにすることは,遺伝学の重要な課題であるとともに,生物学の1つの究極の目的であり,生命の本態を知るための道なのである.遺伝生化学biochemical genetics,分子遺伝学mo-lecular genetics,分子生物学molecular biologyと呼ばれる新しい科学の分野から,近年その構造,そのはたらき,ことに蛋白の生合成に関する遺伝子の調節機構について新しい発見が続いて行なわれ,ついに遺伝子の合成,ひいては生命の合成の可能性さえうまれている.毎年のように,ノーベル賞がこの分野での,この問題に関する研究に与えられていることからみて,遺伝子のはたらきを知ることが,医学生物学biomedical scienceあるいは生命の科学life seienceにとっていかに重大なものか理解できよう.

症例 全身性疾患と筋・2

甲状腺疾患と筋

著者: 里吉営二郎 ,   木下真男 ,   都築悠子 ,   中里厚

ページ範囲:P.197 - P.200

症例1 渡○可○53歳女子
 主  訴  やせ
 既往歴 6歳肺炎,43歳閉経

日本人の病気

肥満

著者: 後藤重弥

ページ範囲:P.202 - P.203

肥満の判定
 肥満とは,体の脂肪組織が過剰に増加した状態であり,その程度はいわゆる"標準体重"と比較して決められる.日本人の標準体重表については,昭和36年4月栄養審議会により発表された性・年齢別の身長および体重推計値や慶大・松木氏の身長別体重表1)などがある.現在臨床家における標準体重算定は,Broca氏法(身長-100)に0.9を乗じた数値が多く使用されている.これでは性・年齢に対する配慮がなされていないが,実際にははなはだ簡便で有効である.一方,わが国の生命保険医学で主に用いられているものは,丹治氏法〔(胸囲+腹囲)-身長=K〕で,K=0をもって基準体としている.これは、わが国の生命保険審査では体重の計測が不可能なことが非常に多いためで,体重の代わりに胸・腹囲の和を利用したものである.

日常検査のすすめかた

貧血

著者: 河合忠

ページ範囲:P.204 - P.205

貧血が明らかとなるまで
 いわゆる貧血症状といわれている動悸,立ちくらみ,顔色がすぐれない,などの訴えは比較的急激に貧血が現われる場合に認められるものである.貧血が慢性に経過しながら徐々に現われる場合は上記のような訴えがまったくないことが多い.また,顔色,眼瞼結膜などの色もかなり貧血が重症にならなければはっきり貧血様にならないものである.したがって,貧血と診断するためには血液検査,とくに血色素量を定量しなければならない.成人男子では14g/dl以下,成人女子では13g/dl以下を一応貧血とする.血色素量の代わりに赤血球数の算定がおこなわれることがあるが,技術的変動の幅が血色素量測定(シアンメトヘモグロビン法)で2-3%,赤血球数算定で10-15%であることを考えると,当然信頼性の高い血色素量を診断の重要な指標とすべきである.
 このようにして貧血の存在が明らかとなったら次のような順序で鑑別を進めてゆく.

内科医のための小児診療の手引き

原因不明の発熱

著者: 合瀬徹

ページ範囲:P.206 - P.207

 小児疾患のほとんどのものが発熱を伴うもので,しかもいずれの疾患の場合も,たいがい発熱が主役となりその病気の前面に出すぎている場合がむしろ多い.したがって,その発熱の原因が容易にわかる場合,たとえば扁桃炎,ヘルパアンギーナ,悪性感冒,流行性耳下腺炎,麻疹等はいいとして,問題は患児が発熱という急性症状のため,呼吸促迫,ときに呼吸困難,啼泣,興奮,脱水等による衰弱を呈していて,しかも未だ原病がはっきり姿を現わしていないとき,医師はいったい何を考え,どう対処したらいいかを小児科領域でしばしば相遇する熱性疾患の代表的なものを紹介してみる.

一般医のための救急診療のコツ

激しい心窩部痛を訴えるとき

著者: 名尾良憲

ページ範囲:P.208 - P.210

心窩部痛の発生機序
 心窩部痛のうち腹腔内部から起こる疼痛は,内臓痛と体性痛にわけられる.内臓痛は腹腔内器官の伸展,攣縮,化学的刺激などによって起こり,交感神経をへて太陽神経叢へ伝達される.それゆえ心窩部の中央に疼痛を訴えることが多い(図1).体性痛は腹膜の刺激によって起こるもので,脳脊髄神経によって伝達され,その病変の存在する部位に疼痛を訴える.そのほか関連痛もしばしばみられる.心窩部はTh.6-9の脊髄節によって支配されているから胸腔内器官,胸壁の病変によって,心窩部痛が起こることがある(図2).そのほか腹壁の病変で心窩部痛が起こりうるのは当然である.

病態生理—最近のトピックス

糖尿病—インスリン分泌を中心として

著者: 繁田幸男

ページ範囲:P.212 - P.213

インスリン分泌能解析の要点は
 今日糖尿病が遺伝素因をもととする疾患であることは定説となっているが,これに長年にわたる栄養過剰や運動不足,あるいは種々のストレスなど環境因子が加わって特徴のある臨床症状を呈する糖尿病を発現してくるものと考えられている.Camerini-Davalosはこの間の病期の進展をブドウ糖負荷試験(GTT)やコーチゾン・ブドウ糖負荷試験(CGTT)の異常状態の有無により,GTT,CGTTいずれも正常域にある時期をPrediabetes,GTTは正常だがCGTTが異常を示す時期をLatent chemical diabetes,GTTも異常を示すようになるとChemical diabetes,さらに進展して臨床症状を現わす場合はOvert diabetesというように分類している.
 ところで糖尿病の代謝異常の本態は体内におけるインスリンの相対的不足にもとづくものであるから,本症の進展とともに膵島β細胞からのインスリン分泌動態がどのように変化していくかという問題は,病態生理を考察するうえにきわめて重要である.ブドウ糖を投与すると,血糖の上昇とともにインスリン分泌が増大して血清インスリンが上昇することはよく知られている現象であるが,インスリン分泌の能力を解析するためには血清インスリンと血糖の両者の比較の上から検討する必要がある.

略語の解説 38

VCG-WR

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.215 - P.215

 VCG vectoreardiogram:ベクトル心電図 心電図と違って,同時に2つの方向からベクトル変化をブラウン管によって螢光板の上に曲線として描かせたもの.要するにベクトルの変化を直接知ろうとするもので,臨床的にも利用されている.

グラフ

癌に挑戦する診療所—福島県郡山市・坪井診療所

ページ範囲:P.218 - P.220

日本でもめずらしい癌専門の診療所が1970年9月郡山市に誕生した.以下に紹介する坪井診療所は「癌の早期診断・早期治療」とそのための「癌の知識の啓蒙と普及」を目的としている.実際は治療よりも診断に重きがおかれているようだ.写真は,まだ開業されて約1カ月後の診療所を訪ねたときの模様である."癌診療の地域格差是正のためのフィールド・ワーク"(坪井栄孝所長談)として紹介したい.(なお本文111ページもあわせてお読みください)

心電図講座・2

左脚ブロック・心室内ブロック(その1)

著者: 町井潔

ページ範囲:P.222 - P.225

完全左脚ブロック
 図1は完全左脚ブロックの心電図である.特徴はQRS幅が0.12秒以上あること,左室心膜側誘導のV4-V7でqがなく,かつrSR'あるいは結節形成,頂点の平坦なQRSを示すことである.R'はQRSの始まりから0.06秒以上おくれている.R'は左室自由壁の興奮のおくれを示すものである.V1-V2では初期rを欠くかあるいは小さく,rSまたはQS形で結節形成がある.Tは左室心膜側誘導で逆転し,QTの延長が認められる.

他科との話合い

予防接種をめぐって

著者: 小酒井望 ,   石丸隆治 ,   曽根田義男 ,   藤井良知

ページ範囲:P.228 - P.236

 最近,予防接種事故があり,新聞紙上を賑わしたが,一方では,腸パラ・ワクチンの問題に関連して予防接種法の改正も考えられている.本欄では予防接種の現状と今後のあり方,また予防接種事故の対策などについて,厚生省,実施する医師会の側,学術経験者と,それぞれの立場からお話しいただいた.

medicina CPC

髄膜刺激症状の後に眼動神経障害,錐体路症状が現われ,衰弱死亡した症例

著者: 景山直樹 ,   恒松徳五郎 ,   宮崎元滋 ,   水田亘 ,   本田裕宏 ,   木島滋二

ページ範囲:P.237 - P.243

症例 54歳 男
  入院 昭和44年1月13日

洋書紹介

—John A. Bevan M. B. 編—「Essentials of Pharmacology」

著者: 砂原茂一

ページ範囲:P.181 - P.181

簡にして要を得た薬理学教科書--実用に適したみごとな編集
 一口にいってこの新しい薬理学教科書の特色は内容の明晰さと編集の巧みさであろう.
 切りつめられた短い講義時間に適合するようにという編集上の苦心が美事に成功して「簡にして要を得た」ものになっている.学生にも卒業後の人たちにも十分役立つように,つまり薬理学の基本的な考え方を理解させるとともに個々の薬剤についての一応必要な知識をとりこぼしなくあたえるようにと苦心がはらわれている.

メディチーナ・ジャーナル

種痘と痘そう流行

著者: 大谷藤郎

ページ範囲:P.192 - P.192

種痘の諸問題
 昨年は種痘による副反応が社会問題化して,ようやく救済措置が行政的にとりあげられることになった.そしておそまきながら,年末から,種痘以外の予防接種の事故の救済も含めて,厚生省内に事故審査会(会長:高津忠夫教授)が設置されて審査が進められている.新年を迎えて審査も週1回というスケジュールで強行されているので,長年にわたる不幸な懸案事項もこれで一応の進捗をみせるはずである.
 また,一方ではラディカルに種痘そのものの改善開発が進められることになり,国立予防衛生研究所の多賀谷部長らが中心となって,真に副反応の少ない痘苗を創製する努力が始まっている.いずれにしろ生きたウィールスを使用する生ワクチンの開発には,多年にわたる地味な研究努力と広範囲にわたる野外実験が必要となるのであって,そのため研究を支える社会的制度的配慮が必要となってきている点は注目されなければならない.

全国教室めぐり

学問的香りの高い業績を求めて—熊本大・第3内科

著者: 中川昌壮

ページ範囲:P.239 - P.239

 長い歴史を有する熊本大学医学部の中にあって,内科学第3講座はまだ呱呱の声をあげたばかりである.昭和42年秋開設が認められ,長島秀夫教授が迎えられて開講されてよりやっと3年が経過したにすぎない.教授前任地からはるばる数名のメンバーが参加して開講した当教室も,その後しだいに人数も増し,研究設備も備えられて,不十分ながら漸く講座の形ができてきたといえよう.教室員の大多数は昭和42年以後卒業のフレッシュマンで占められ,教授をはじめ20余名全員は,若さにあふれ情熱をひそかに燃やしている.

診療所訪問

癌診療の地域格差是正をめざす—福島県郡山市・坪井診療所を訪ねて

著者:

ページ範囲:P.240 - P.241

肺癌の早期診断法をひっさげて
 「ヒャー,すごくりっぱな診療所ですねえ」,同行のカメラマン氏と私は感嘆の辞を発する.出てこられた坪井先生,いささかも動ぜず,「中の医療器械だけでも4000万円はしましたかなあ.」当方2人「……」
 東北は福島県,人口約30万人の新興都市郡山.駅前のロータリーから左に折れるとすぐ,看板の字も新しく"坪井診療所"がある(所在地:郡山市駅前1丁目9番18号).所長は坪井栄孝(えいたか)先生,42歳.福島県郡山市出身.1952年日本医大卒.同大学で10年放射線科を修業.その後国立がんセンターに9年勤務.1970年9月がんセンターを退職,郷里郡山市で癌専門の診療所を開業.

トピックス

1970年度ノーベル医学賞受賞者の業績

著者: 今井昭一

ページ範囲:P.242 - P.244

 70年度のノーベル医学賞は,イギリスのB.Katz,スウェーデンのU.von Euler,アメリカのJuliusAxelrodの3教授に授与された.
 授賞の対象となったのは,衝撃の化学的伝達に関する3教授の業績,とりわけ化学伝達物質による衝撃伝達機構の研究,化学伝達物質の蓄積・遊離・不活性化の機序に関する研究であると報ぜられている.以下に,3教授の業績について簡単に紹介を試みたい.

話題

—診断・治療手技の分野で幾多の新しい試み—第8回日本癌治療学会総会から(1970年10月19-21日・大阪)

著者: 楢林和之

ページ範囲:P.226 - P.227

 3学会合同癌学会議を併わせての3日間にわたる学会は、話のポイントをわかりやすく発表するという石川七郎会長の要請によって行なわれた.新しい企画の苦心の跡がシンポジウム「診断の進歩」「治療の進歩」公募Pannel Discussion「制癌剤効果増強」「肝癌とα1-fetoglobulin」「脳腫瘍の特殊治療」,合同シンポジウム「Carcinoid Tumor」にみられる.将来性のある研究主題を一般演題以外にクローズアップさせ,癌研究の方向性についての会長のリーダーシップが称讃される.以下内科系医師に興味深いと思われる主題について紹介する.

新薬の紹介

β遮断剤

著者: 新谷博一

ページ範囲:P.246 - P.247

 β遮断剤(β-blocker)は循環器疾患の新しい薬物療法のうち,最近最も注目されているものの1つである.1948年Ahlquistは,adrenaline作用の二様性を説明するため,交感神経にはadrenalineに対して異なった反応を示す2つの受容体,すなわちα受容体とβ受容体とが存在するという仮説を提唱した.当時すでにα作用に対する拮抗剤ないし遮断剤として麦角アルカロイド,Dibenamine,Regitine(Phentolamine)などは存在していたが,β作用に対する拮抗物質はまだ発見されていなかった.それから10年後β受容体遮断作用をもつDCI(Dichloroisoproterenol,1958年)が発見され,Ahlquistの説は強い裏づけを得た.その後Pronethalol(1962年),Propranolol(1964年)と,さらに薬効が強く,副作用の少ないβ遮断剤が開発され,現在Propranolol(Inderal)はわが国でも4年前から市販され,不整脈・狭心症などの新しい型の治療剤として実地臨床上用いられている.

統計

病院・一般診療所の入院患者の年齢別推移

著者: 小畑美知夫

ページ範囲:P.248 - P.249

 患者調査の調査方法,調査の意義などについては前に申しあげましたが,今回は主に入院患者の年齢について観察した結果を述べたいと思います.

診療相談室

起立性蛋白尿の診断は

著者: 中田不二男

ページ範囲:P.251 - P.252

質問 起立性蛋白尿の診断,ことに腎炎後蛋白尿との鑑別についてお教えください. (川崎市・K生)

今月の表紙

打診法の発明者アウエンブルツガー

著者: 小川鼎三

ページ範囲:P.252 - P.252

 オランダ人ヴァン・スイーテンG. van Swieten(1700-1772)がオーストリアの女帝マリア・テレジアに呼ばれて,ライデンからウイーンに移り,ウイーンの医学校に大改革をおこして,医学史上のいわゆる旧ウイーン学派の盛時がはじまった.その学派の代表的な1人が打診法の発明者アウエンブルッガーJ. L. Auenbrugger(1722-1809)である.
 彼はオーストリア南部のグラーツで生まれたが,父は富裕な居酒屋兼旅館の主人であったという.ウイーンの医学校で学び,1752年に学位を受けた,ヴァン・スイーテン先生にはとくに心酔していた.彼は約10年にわたりスペイン病院の医者となり,その後半は主任医師として活躍した.その病院にはスペイン人やイタリア人やオランダ人など諸外国の病人,おもに兵士が収容されていた.

病理夜話

子宮(その2)

著者: 金子仁

ページ範囲:P.253 - P.253

 人助けといえば,5,6年前にもこのようなことがあった.
 6,70歳位の,かなりのオバアサンだったが,人間ドックへ入った.ここへ入ると女性にはすべて腟分泌液の細胞診が行なわれるのである.通常人間ドックは健康な人が入るのだから,今までの腟分泌物細胞診で癌細胞の認められたのは、ほとんどなかったといってよい.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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