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雑誌目次

雑誌文献

medicina8巻3号

1971年03月発行

雑誌目次

Editorial

胆石症の移り変わり

著者: 三輪清三

ページ範囲:P.271 - P.271

 胆石症は胆道系疾患中最もしばしば遭遇する疾患であり,14世紀の頃Gentlevon Fuligno氏が屍体で発見したのがはじめだということである.以来,本疾患は臨床的にも特徴ある疝痛,黄疸,発熱などが主症状であるので古くから注目されてきた疾患である.したがって欧米はもちろん日本においても多くの研究業績が発表されている.
 その成因については古くから炎症説,胆汁うっ滞説,新陳代謝説,自律神経失調説,アレルギー説などいろいろいわれているが,今日まだ全く解決されたわけではない.しかし胆石の生成には胆汁内の膠質の安定の変動がきわめて関係の深いことは今日一般にみとめられているところであるが,前記の原因が単一でなくいくつか重なって起こることも考えられる.

今月の主題

胆石症—成立・診断・治療の諸問題

著者: 亀田治男

ページ範囲:P.272 - P.277

 胆石症の診断と治療については,現在なお解決すべき多くの問題が残されている.また胆石の生成機序の解明は,単に病態生理面からだけでなく,臨床的にも重要である.ここでは,胆石症に関するこれらの諸問題について解説する.

(座談会)胆嚢疾患とその周辺—診断および胆摘の問題点

著者: 大藤正雄 ,   代田明朗 ,   草地伸勲 ,   荻原洋三 ,   佐藤寿雄 ,   大貫寿衛

ページ範囲:P.278 - P.287

 日本人成人の5%が胆石を保有しているといわれるが,胆石症,胆嚢癌,さらには隣接臓器,とくに膵臓との関連も含めて胆嚢疾患の診断および胆摘の問題点を追求する.

Leading Article

第18回日本医学会総会を控えて

著者: 日戸修一

ページ範囲:P.262 - P.263

 4月5日からの東京での5日間,学者も町の医者たちも総力をあげる,医学の世界の人たちの最高・最大の行事である第18回日本医学会総会(以下総会と略称する)はもう目の前にせまった.日本医学会当局(日医にある)の首脳の人たちが名古屋をおわって,殊に昨年春から,ほとんど会議と企画能率化とにひまのなかった様子を拝見すると,4年に1度のこの総会は,やがて5年に1回,いや10年に1回にしなければ会場の膨大,ジャンボ・マンモス化はともかくこなしても,医学の内容の膨大さは,それを一本化したセットで整理するのに追いつけなくなるだろう.
 医学は今や巨大な不老不死の生きものだ.年々発育し今年の学会では,今日では一大分科となったME(medical electronics)始め医学情報,エコロジー,倫理に及ぶ.医学とその関連科学との研究発表が随所に目につく.工学,生物学などとの関連科学がずっと医学に食い込んできている.今年の総会はその意味では過去の医学の成長であり,現在・未来に及ぶ研究像があり,今までにない生きている巨大な生物「医学」の立体像を感ずる.

カラーグラフ

内分泌疾患の視診所見—Cushing症候群

著者: 尾形悦郎 ,   寺山勇

ページ範囲:P.268 - P.269

 副腎皮質からは多数のステロイドが分泌されるが,それらをホルモンとしての機能面から分類すると,①主として糖・蛋白および脂質の代謝に作用し,その主要効果として糖新生をきたすglucocorticoid,②腎からのNa再吸収に作用するmineralocorticoid,③男性化作用を示すandrogen,の3つに大別される.ヒトの副腎から分泌されるglucocorticoidはcortisol(hydrocortisoneともいう)である.なんらかの原因で長い期間cortisolが過剰に分泌された結果生じた病態―hypercortisolism―がCushing症候群である.
 Cushing症候群の診断は,患者副腎皮質からのcortisol分泌の持続的亢進を化学的に証明すれば確実であるが,その特徴的な臨床像を注意深く観察することによってもかなりの正確さをもって,その疑い診断にまで到達することができる.Harvey Cushingは,1932年に始めてこの症候群を記載した際に,その特徴的な所見として次のような症状および徴候をあげている,ⓐ顔面・頸・躯幹の(有痛性)脂肪沈着,ⓑ胸椎上部を中心とする脊椎後彎,ⓒ女子および思春期前の男子の異常多毛,ⓓ皮膚の暗赤色色調および腹部・大腿の赤紫色の萎縮性皮膚線条,ⓔ高血圧,ⓕ座瘡を伴った感染しやすい皮膚.さらに彼は,その他にもしばしば見られる所見として,血糖上昇・糖尿・糖処理能低下,多飲,多食,骨粗鬆症,皮膚の青銅色色素沈着,大理石様皮膚紋理,赤紫色の皮下溢血をあげた.これら記載のうち,脂肪沈着がほとんど無痛性であることをのぞけば,Cushingのオリジナルの記載は,Cushing症候群の臨床診断のガイドとして,現在でも最も役にたつものである.

診断のポイント

片頭痛

著者: 大友英一

ページ範囲:P.288 - P.290

 一側性の頭痛はすべて片頭痛といえるわけであり,この言葉は広く用いられている.ここでは脳腫瘍等の脳の器質的疾患,動脈硬化症,耳鼻科疾患,高血圧などに出現する症候性の片頭痛を除き,いわゆる血管性頭痛,特に厳密な意味での片頭痛(classic migraine)を中心に述べることにする.

肝癌の新しい診断法—α-fetoprotein

著者: 遠藤康夫 ,   織田敏次

ページ範囲:P.291 - P.294

 原発性肝癌の診断法としては,一般理学的検査法,生化学的検査法,酵素化学的検査法,放射線診断法(シンチグラム,血管造影法)が知られている.
 これに加えて近年免疫化学的方法が有力な診断法として注目されてきている.α-fetoproteinを用いる方法がそれである.胎児血中に存在するこのα-fetoproteinとよばれる胎児特異性蛋白が,原発性肝癌患者の血中に特異的かつ高率に出現する事実が発見され,有力な診断法となってきている.

たまたま蛋白尿が見つかったとき

著者: 白井洸

ページ範囲:P.295 - P.299

 蛋白尿の出現する腎の病態生理については必ずしも完全に解明されていないが,現在,一般に蛋白尿は最も重要な腎疾患の徴候であると考えられており,実際の診療では蛋白尿を認めるだけで腎疾患と診断されている場合が多い.さらに近年は尿の検査が病院や診療所に訪れた患者のみならず、入社試験や入学時の身体検査のさいに行なわれる頻度が増してきているので,本題の“偶然蛋白尿を発見する”機会が多くなってきつつある.そのため腎疾患が早期発見される利点もあるが,反対に蛋白尿があるために不当な制約を強制されたりする結果も出てきている.

治療のポイント

慢性下痢患者の食餌指導

著者: 河野実

ページ範囲:P.300 - P.302

まず下痢の性質をみきわめる
 慢性下痢と言っても少し食べ過ぎれば下痢しやすい程度から,数年来便が固まったことがないというようないろいろな段階がある.平常便秘がちであるが,いざ排便があれば最後は常に下痢となるのは慢性便秘症の訴えであって慢性下痢症として取りあげるべきものではない.
 いずれにしても患者が下痢を訴えたならば便の性状はもちろん,下痢になってからの期間,腹痛を伴うのか,食餌に注意しても便が固まらないのか,今までどのような薬を使用したのか,また直接止痢剤でなく抗生物質その他の薬を常用してないかどうかをよく訊ねなくてはならないし,最後に体重減少の有無を確かめることが大切である.どのような性質の慢性下痢症であるかを診断することが生活指導を行なうにしても先決問題であるからである.そのためまず下痢の成因を整理してみよう.

抗結核薬としてのリファンピシン(rifampicin)

著者: 五味二郎

ページ範囲:P.303 - P.305

Fureszとリファンピシン
 最近,臨床に応用されるようになった化学療法剤のうちで,リファンピシン(rifampicin)は最もすぐれた薬剤の1つということができるし,またこのrifampicinの発見によって結核化学療法が一段の進歩をとげたといっても過言ではないであろう.
 昨年8月,このrifampicinの開発に非常に貢献したイタリーのLepetit会社のFureszを,第11回国際胸部疾患学会へ出席の途次訪問したところ,彼は次のように語っていた.rifamycin Svの誘導体を約500種類作り,種々研究の結果,最後に有望と考えられるものが15種類残った.この中のどれを選ぶべきかについては非常に迷わざるをえなかったが,2人の娘の次の第3の娘としてrifampicinを選んだので,この開発には全力をあげたい.彼はミラノ大学で講義することに非常な魅力を感じていたが,これができなくなったのは残念であると述べていた.rifampicinは当初抗結核剤としてよりも一般感染症に対する薬剤として注目されていたようにも思われる.

梅毒の治療計画法

著者: 皆見紀久男

ページ範囲:P.306 - P.308

 治る梅毒は,どんな治療をしても治るし,治らない梅毒は,どんな治療を行なっても治らない.もちろん臨床症状は簡単に治癒してしまうが,梅毒血清反応が陰性となることが難しい.だから梅毒の治療は臨床症状に対する治療とくに早期顕症梅毒に対する治療と,血清反応の改善に対する治療の2つに分かれる.

内科専門医のための診断学・15

出血性素因—特に血液凝固異常

著者: 松岡松三

ページ範囲:P.309 - P.314

 止血機構には血液が血管外に出ないようにしておく機能と,血管が破綻をきたしたときにこれを止める機能の2つがある.この機能はともに血管の機能,血小板の機能,血液凝固,線維素溶解の4つの機能が血管を中心にしてダイナミックなバランスを保ってうまく統括されて営まれている.これをvascular integrityという.そしてこのvascular integrityの破綻をきたしたときに出血するのである.したがって出血性素因の診断にあたっては,障害が主として先の4つの機能のいずれにあるかを確かめるために種々の検査を行なう必要があるが,それとともに行なう検査の臨床上の意義をよく理解しておくことがぜひ必要である.そこでここには凝固異常による出血性素因の診断に重点をおいて,まずいかなる順序で検査を行なって診断を進めていくべきかを述べ,つぎにこの中に出てくる検査の臨床上の意義について述べてみたい.

臨床家の遺伝学入門・3

遺伝の物質的基礎

著者: 大倉興司

ページ範囲:P.315 - P.318

遺伝の物質的基礎
 遺伝子が染色体上に一定の順序で1列に配列していることは,多くの動植物の交配実験から明らかであり,ヒトでも同じである.その遺伝子がどのように親から子,子から孫に伝えられてゆくかという遺伝のしくみは,配偶子gamate(精子および卵子)形成における染色体の行動,すなわち生殖細胞の分裂における染色体の行動を知ることによって理解できる.
 ヒトの染色体は1956年にTjioとLevanが胎児の肺組織を培養し,分裂細胞の染色体を観察し,男女ともに22対の常染色体autosomeと,女性ではやや大型の2本のX染色体を,男性は1本のX染色体と小型のY染色体をもち,それぞれ合計46本の染色体をもつことを示唆した.その後,末梢血から白血球を分離し,人工培養液中でリンパ球を増殖させ,その分裂像を観察することが可能になり,また他の組織も培養して,増殖する線維芽細胞の分裂像が観察できるようになり,無数といえる観察から,ヒトの染色体数と性染色体の構成はTjioとLevanの示唆するとおりであることが認められた.

日本人の病気

閉塞性肺疾患

著者: 安武敏明

ページ範囲:P.320 - P.321

閉塞性肺疾患の種類と診断基準
 治療医学の進歩等による高年齢人口の増加,さらに大気汚染の呼吸器に及ぼす慢性の影響としてここ数年来慢性の閉塞性肺疾患が注目をあびてきている.
 慢性気管支炎,気管支喘息,肺気腫がその代表としてあげられるが,一般に慢性気管支炎は咳嗽,喀痰の発現により,喘息は喘鳴,呼吸困難の発作によって臨床的,生理的に,肺気腫は終末気管支より末梢の解剖学的変化として病理解剖学的に定義されているので,その間に明確な分離がなされてなく,互いに一部が重なり合っている.

日常検査のすすめかた

「やせ」の臨床検査

著者: 守屋美喜雄

ページ範囲:P.322 - P.323

まず体重測定を
 患者がやせたと訴えてきても,体重をはかると,ちっともやせていないことがあるから,診断にさいしては必ず体重を測定すべきである.通常,標準体重に比べ15-20%以上の減少があればやせと診断してよいが,それほどでなくとも,短期間の間に,ふだんの体重に比べ10%以上も体重が減った場合はやはりやせたと考えて,原因を追求すべきである.標準体重は〔身長(cm)-100〕kg×0.9を一応の指標にすればよいが,身長150cm以下の場合は,×0.9しない.なお,もともとやせていて肥らないという訴えは,まれには例外もあるが,ほとんどが体質的なやせで,病的意義はないと考えてよい.また,ここでは,飢餓・減食によるやせや,激症急性疾患による一時的なやせは考慮外として論を進める.

内科医のための小児診療の手引き

乳児下痢症

著者: 松島富之助

ページ範囲:P.324 - P.325

 乳児下痢症とは,乳児期の下痢症の中から赤痢菌,サルモネラなどの明らかな病原菌による下痢,潰瘍性大腸炎,アレルギー性下痢または消化酵素の先天性欠損症を除いた下痢症の総称であり,一種の症候群といってよい.

一般医のための救急診療のコツ

窒息—喉や気管につまった異物

著者: 滝野賢一

ページ範囲:P.326 - P.327

 異物を誤嚥し,呼吸困難となり,窒息しそうな患者が運びこまれてきた.その救急処置は,というのが私に与えられた課題である.
 このような症例につき見聞したこと,経験した症例などを基として私見を申し述べてみたい.

病態生理—最近のトピックス

肝性昏睡の代謝異常

著者: 小泉岳夫

ページ範囲:P.328 - P.329

肝性昏睡の発現病態
 肝性昏睡は肝臓の機能不全の結果招来され意識障害を主とする脳症状で,通常切迫昏睡(inpendi-ng coma)から昏睡(coma)に至るまでの広義に解釈して用いられている.その原因として肝臓の代謝異常による毒物の体内蓄積が古くからあげられているが,このほか肝臓血流の異常によって,主として腸管で生成された毒物が肝臓を通過せず脳へ直接影響を及ぼすことや,肝臓不能不全に随伴して脳の異常をきたすことなどもあげられている.
 また肝臓は脳の代謝に必要な物質を合成しており,肝臓機能の低下によってこのような物質の脳への供給不足が昏睡の一因となる.このような作用を有する物質としてcytidineやuridineなどの核酸系物質が考えられている.さらに肝性昏睡には脳の変化も関与する.すなわち重症肝疾患患者の脳は,正常ではほとんど影響をうけない程度の刺激に対しても強い反応を示す.たとえば,正常では全く影響をうけない少量のモルフィンの投与や電解質異常によっても重症肝疾患患者は脳波の異常を示すので,脳の代謝異常が存在したり肝性昏睡をくり返した症例では,特有な脳の膠細胞の増殖や神経細胞の退行変性など脳の形態学的異常を示したり脳波所見の持続性異常などが存在することも知られている.

統計

昭和44年の人口動態の概況

著者: 小畑美知夫

ページ範囲:P.331 - P.331

 人口動態統計は出生,死亡,死産,婚姻,離婚の5つの統計を取り扱っております.現在厚生省では電子計算機を用いて集計しており,毎月の月報と年報を公表しております.

略語の解説 39(最終回)

ZE syndrom—補遺

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.333 - P.333

 ZE syndrome Zollinger-Ellison syndrome:ゾーリンガー・エリソン症候群 難治性の消化性潰瘍.著しい胃液分泌の過多,過酸症,膵ラ氏島非β細胞腫を伴う症候群.ときに難治の下痢がみられる.糖代謝には異常がみられない.膵ラ氏島の腫瘍と胃液分泌,潰瘍生成との間に密接な関連がある.胃潰瘍の手術を行なっても,小腸上部,十二指腸に潰瘍を形成するというような症例は,この症候群が疑われる.
 胃液分泌量は,正常が1時間につき20-60mlであるのに対し,この症候群では300-400mlの大量に及ぶ.

グラフ

胆石の種々相

著者: 斎藤達雄 ,   青山文七 ,   竹中清次

ページ範囲:P.335 - P.341

 剖検による胆石発見率は3-5%位のようであるが,周知の如く,胆石はコレステリン系結石,ビリルビン系結石およびその他の極く稀な結石とに分けられる.その大きさは砂状のものから鶏卵大におよび,数も1個から数千個にまでおよぶものがある.最近わが国の胆石も西欧のそれの如くコレステリン系の比率が増加している.
 胆嚢も,胆汁も周囲臓器とX線濃度は変わらないから単純X線像ではほとんど認められないが,胆石(稀に胆嚢壁にも)に石灰沈着が著明に起こると,これを単純撮影で認めることができる.また,胆汁の中に岩酸石灰が高濃度に分離してくると,胆汁は液状のままでも単純撮影に認められるようになる(石灰胆汁乳).

心電図講座・3

左脚ブロック・心室内ブロック(その2)

著者: 町井潔

ページ範囲:P.343 - P.345

心室内ブロック(心室内伝導障害)
 心室内の刺激伝導は左脚と右脚,その分枝,Purkinje線維,Purkinje線維と心筋との間.のいずれの部分でも障害されうる.明らかな右脚あるいは左脚の根本でのブロックは心電図上前述の右脚ブロック,左脚ブロック像を呈するが,脚が分岐してから末梢における伝導障害は典型的な波形を示さない.これらを総称して心室内ブロックと呼ぶ.

研修医のためのWard Conference—関西電力病院

腎盂腎炎—ことに慢性腎盂腎炎の考えかた,治療のすすめかた(その1)

著者: 片村永樹 ,   原報 ,   久下義文 ,   新井永植

ページ範囲:P.347 - P.352

腎盂腎炎をどのように理解するか
 —最近,慢性腎不全や腎盂腎炎がふえてきましたね.
 片村 ふえましたね.1つには,腎は生体の代謝産物の最終的な排泄の役割をになっていますから,最近のように,生活環境の変化あるいは破壊が著しくすすみますと,かつては考えられもしなかった複雑な物質が生体内にはいり,その物質が排泄のため腎を通過したり,腎内組織に蓄積したりして,いろいろな腎障害をきたしています.その一環として腎盂腎炎もあるといえましょう.

症例 全身性疾患と筋・3

ステロイドと筋

著者: 里吉営二郎 ,   木下真男 ,   矢野春雄 ,   佐久昭

ページ範囲:P.353 - P.356

症例1
 S. Y. 29歳,未婚女子
 主訴全身倦怠感,起立および歩行不能

他科との話合い

心身症—その考え方と扱い方

著者: 堀要 ,   祖父江逸郎

ページ範囲:P.358 - P.365

 最近,心因とか心身症という言葉が,安易につかわれすぎてはいないだろうか.心身症の診断に際しては,身体的にも心理的にも患者の背景にあるもの全体を精細にとらえていくことがたいせつである.内科と精神科の立場から.

臨床メモ

内科医にとって阿片アルカロイドの注射は必要か?

著者: 佐藤安正

ページ範囲:P.299 - P.299

 ここでは,阿片アルカロイドの注射を,いわゆる麻薬,すなわちモルヒネをはじめオピスタンまでを含めて考えました.これらは強力な鎮痛剤ですが,耽溺性や習慣性その他の副作用があるため,麻薬性鎮痛剤として取り扱いや管理が規制されています.
 さいきん,耽溺性のないすぐれた非麻薬性鎮痛剤が開発され,一方ではペインクリニックの普及もあり,麻薬を用いないですませる機会が多くなりました.こんにちでは,従来麻薬の注射を必要とした症例にも,たいてい非麻薬性鎮痛剤の注射や神経ブロックなどで鎮痛が可能となってきています.

顎関節症

著者: 中久木大見

ページ範囲:P.302 - P.302

 顎関節はその運動が複雑で,摂食時にたえず強圧を受け,一生の中で最も長時間働き続ける関節であり,一方顎筋は,咀嚼,談話の他,精神的興奮に鋭敏に反応し,はぎしり,かみしめなどを誘発し顎関節を刺激している.またその位置的関係もあって顎関節疾患患者は,早期治癒をあせり,医師の処置に対し不安,焦慮に陥りやすく,このような精神状態が,さらに症状を悪化させることが多い.
 顎関節症は,「その症状の主体が顎関節に存在し,顎運動にさいし,同部の疼痛,雑音,開口障害などの症状を伴う複雑な症候群で,非感染性のもの」をいい,30-40歳の女性に多く(男女比=1:3),左側に多い.病因説として,(1)過蓋咬合あるいは咬合干渉,(2)顎関節の過動性,(3)咀嚼筋の不調和な緊張などが考えられている.一般には,種々の原因(たとえば歯の欠損,歯の動揺,不適合補綴物など)による咬合異常は,顎関節に外傷的に働き得るが,難聴,耳鳴,頭痛を伴う場合は,耳疾患を一応精査すべきで,また臼歯部の齲蝕,歯髄炎,歯膜炎の関連痛としての顎関節痛もあるので,口腔内の精査も必要である.これらの検査で疑わしいものは処置が先決である.

洋書紹介

—Bock & Eggstein著—Diagnostik Informations System:Integrierte elektronische Datenverargeitung für die ärztliche Diagnostik

著者: 古川俊之

ページ範囲:P.294 - P.294

Tübingen大学病院コンピュータ化の報告書
 Hegelの母校として有名なTübingen大学は,1477年創立の古い歴史をもち,Stuttgartから40マイル上流のNeckar河畔の落着いた部市に建てられている.Tübingen医科大学付属病院におけるDiagnostik-Informations-System(DIS)の導入は1964年に計画され,1965年末までにOR的手法による病院機能の調査,分析を行なった.1966年からは臨床検査関係の機械化を開始すると共に,1968年までにシステム分析,フローダイアグラム作成,実行計画,建築設計などを行ない,計算機と周辺装置の設置,ソフトウェアの整備,さらに医師,看護婦などの訓練を終えた.実用化は1969年6月に検査関係が,つづいて10月までに病棟(270床)業務がDISに完全に委ねられた.

—A Von Murat編—「Protein-Calorie Malnutrition;A Nestlé Foundation Symposium」

著者: 桂英輔

ページ範囲:P.308 - P.308

PCMシンポジアム
 世界人口の増加によって近き将来において食糧不足ことにタンパク質不足の状態の起こることが予想され,その対策を立てようとされている.本書は1968年9月にProtein-Calorie Malnutrition(PCM)の題目で開かれたシンポジアムをA. von Murat教授が編集したものである.このシンポジアムではまず現在の低開発国におけるPCMの成績と動物実験による栄養障害の知見が報告され,その内容はつぎのようである.
 (1)PCM viewed as a challenge for homeosta. sis. (2)Outline of WHO and PAG participati。nin research on PCM. (3)Enzyrne and nutrition. (4)Factors which may afEect the biochemicalresponse to PCM. (5)Proposed methodology forthe biochernical evaluation of PCM in children. (6)Has malnutrition only bad consequences ? (7)Observations on PCM.

全国教室めぐり

循環器病学を中心とした教室—札幌医大・第2内科

著者: 藤瀬幸保

ページ範囲:P.367 - P.367

教室の沿革
 宮原教授が東大冲中内科より講師として前教授滝本庄蔵先生の主宰する当内科に赴任されたのは,昭和29年9月であった.宮原先生は当時まだ北海道では未開拓の分野であった循環器内科を専攻され,昭和36年滝本名誉教授の退任に伴い教授に昇格.ここに循環器学を主たる専攻とする内科学教室が誕生した.以来,宮原教授の強い熱意と指導力により当教室の基礎は着々と固まり,北海道はもちろん,全国でも有数の循環器内科としての地位を確保した.現在では北海道内各地の循環器内科専攻医師の招請に応じきれない状況である.この間十余年講座の独立,最近では学園紛争などの数々の波はあったが,教授の学問に対する真摯な態度と熱意,患者第一の診療態度,口下手といえるほどの正直な性格といった魅力で乗り切られ,教育・研究・診療に教室員全員がはげんでいる.

ルポルタージュ

「久山町研究」を現地に聞く

著者: 木島昂

ページ範囲:P.368 - P.374

 刈り入れの終わった稲田,周囲の丘陵にはまっ赤なハゼ,そんな晩秋の筑紫野の風景の中を,私は先輩格の日医広報委員・黒木武房氏と2人,板付空港から久山町へ車を走らせていた.昨年11月21日,素晴らしく晴れ上がった土曜日の午(ひる)前である.目的の久山町の庁舎は蜜柑の木に囲まれた丘の上にあった.鉄筋コンクリート3階建,クリーム色,シルバークール構法のモダンなこの庁舎は,総工費約2億円でこの秋完成したばかりである.折しも1階の医療検診室では,九大勝木内科教室の広田安夫講師を陣頭に,"久山町研究班"出向によるこの町の成人病検診が行なわれていた.

各科のトピックス 眼科から

小児の屈折異常

著者: 丸尾敏夫

ページ範囲:P.375 - P.375

小学生には近視より遠視が多い
 小児の屈折異常というと,わが国では大部分が近視であると一般に信じられているようである.事実,文部省の統計によると,小学生では,近視が10-20%を占めており,これに対して,遠視は1%に満たない.ところが,これがおよそ現実とは異なる不正確な集計であることは案外知られていない.
 最近,わが国でも,小児眼科に対する関心の深い研究者によって,小児の屈折状態についての調査が相次いで報告された.その結果は,従来の文部省統計とはまったく異なり,小児の屈折状態は年齢によって違うけれども,少なくとも小学生の年齢では,遠視の方が近視にくらべ,かなり多いことが明らかとなった.

読後随想

—氾濫する家庭の医学—坪井 忠二著:力学物語(岩波書店)

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.376 - P.377

連載するにあたって
 GOT,RNA,ACTH,DM,SMON,あるいはNASA,IC,EEC,PENクラブ……まだまだいくらでもこういう略語をならべることができる.IIc+IIIが胃癌のあるタイプを表現する.USOについては拙著「むし歯のライオン」で触れたことがある.UFOは空飛ぶ円盤のことであった.
 これら略語はその成り立ち,いわばフルネームを知っていなければ役にたたない.逆に言えば役にたつという条件のもとにイニシァルをならべた略語の意味がある.こういうことは略語で一番手っとり早く理解されるだろう.しかし何もこのような極端な例だけが特別だというわけではない.あらゆる言葉もやはりこの略語と同じように,意味という内容を相互に理解しあえる場合にのみ,役にたつのであって,表現手段としての言葉と,表現される意味という中味とは2つにして2にあらずという関係にある.手段がなければ中味もないし,中味がなければ手段もまた存在しない.

新薬の紹介

パーキンソニズム治療薬—L-Dopa

著者: 徳臣晴比古 ,   岡島透 ,   窪田陽

ページ範囲:P.378 - P.378

 パーキンソニズムの治療薬として,従来主に用いられてきたのは副交感神経遮断剤で,これに抗ヒスタミン剤,筋弛緩剤,精神安定剤などが補助的に用いられてきた.近年,神経学分野における生化学的研究の進歩により,本症患者の黒質,線状体など錐体外路系には正常人に比しDopamineの減少していることが明らかとなり,一方,動物において黒質を破壊すると線状体のDopamineが減少するという事実が証明されて,Dopamineの前駆物質であるDopaによる本症患者の治療が試みられるようになった.初めDL体の多量が用いられて,副作用も強かったが,L体分離により治療法が改善され,その優れた効果について諸家の報告がみられる.

病理夜話

木村 哲二先生(その1)

著者: 金子仁

ページ範囲:P.379 - P.379

 東一病院の私の部屋に大小多数のダンボールや,古めかしい「ツヅラ」が山と積まれている.
 これは恩師木村哲二先生の生涯をかけた研究の大集積である.顕微鏡写真あり,付図あり,文献ありで,その主なものは間葉系肉腫に関する業蹟である.

診療相談室

潰瘍性大腸炎の診断と治療

著者: 神坂幸良

ページ範囲:P.383 - P.384

質問 潰瘍性大腸炎について次のことをご教示ください.
1)如何なる臨床所見および諸々の検査所見をもって,上記病名で あると診断したらよいのでしょうか.

今月の表紙

英国のヒポクラテス:シーデナムの功績

著者: 小川鼎三

ページ範囲:P.384 - P.384

 診断の技術について特に大きい発見をしたわけではないが,英国のシーデナムThomas Sydenham(1624-1689)が,病気の診断はいかになすべきか,病人の取扱いはいかにあるべきかを教えたところは甚だ大きい.理論や先入主にとらわれず客観的によく観察して,植物を分類するごとく,病気の種類を決めることができると考えた.彼は英国のヒポクラテスと称せられる.
 その時代は生活現象をすべて物理学で解釈できるとする学派と,すべて化学的に説明すべきだとする学派が対立して,はげしい論争をしていた.シーデナムはその理論の争いには超然たる立場をとり,ひたすらベッドサイドの観察に全力を注いだ.

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Current Abstracts

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.380 - P.381

気管支喘息に由来する死亡
 1935年から1963年にかけてピッツバーグの小児病院へ入院した患児のうち,喘息の占める割合は2%で,1964年から1968年にかけてのそれは6%であった.この33年間に9名の患児が喘息で死亡したが,その平均年齢は,5.5歳であった.剖検の結果,患児8名のうちその4名に呼吸器感染の証拠があり,15歳のある患児には高度の肺線維症と肺硬塞の証拠がみつかった.
 内科的治療を検討してみたが,アミノフィリンを過剰に使用していたものが3例あり,鎮静剤を過度に使用していたものが別に3例あった.死亡例のなかには最終入院前に長期にわたるステロイド療法をうけていた患児は,1人もいなかった.

読者のひろば

著者: ,   藤瀬隆幸

ページ範囲:P.385 - P.385

"医の倫理"さらに掘り下げて
 新春特集"医の倫理",一気に読みました.医の倫理の核心にふれるためには,国の内外を問わず,時間的に古いものまで含めて,もっと幅広く発掘し誌上に発表していただきたい.たとえば,ガンジー著「健康指針」のように,西洋の医科学に挑戦した東洋の政治家の存在などを忘れないならば,今後の医学にたずさわる者への良き案内書として,本誌がますます広い層へ教訓をもたらすと思います.その意味からも東洋医学を東洋人の目でみる方向づけが要求されます.最近の漢方ブームなどをみても,それが西洋医学の窓から日本語で語る東洋医学でしかないところに疑念を抱くからです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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