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雑誌目次

雑誌文献

medicina8巻5号

1971年05月発行

雑誌目次

Editorial

糖尿病の考え方の移りかわり

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.545 - P.545

 糖尿病とは,いったい如何なる疾病であろうか.その理解は人により,また,時代によりかなり異なるようである.
 糖尿病は,diabetes mellitusの訳名であり,18世紀以後に使われはじめたものである.Diabetesとは,ギリシア語でサイフォン,流れ出るという意味であり,転じて多尿を表現するものと解される.Mellitusは,蜂蜜,つまり甘い味ということである.したがって,diabetes mellitusは,甘い尿を多量に排泄する病気ということになり,この病名から頭に浮かぶものは,典型的な臨床症状を伴った,いわゆるclinical,overt diabetesということになる.

今月の主題

糖尿病血管障害の臨床

著者: 片岡邦三

ページ範囲:P.546 - P.552

 糖尿病患者は,現在,食事療法や薬物療法で十分コントロールできるようになったが,一方,死因の第1位として血管障害が脚光を浴びてきている.本稿では臨床的な角度から糖尿病の血管障害について最近の問題点を概説
する.

(座談会)糖尿病の診断と治療—これからの問題点

著者: 小坂樹徳 ,   繁田幸男 ,   井出健彦 ,   種瀬富男

ページ範囲:P.554 - P.563

 糖尿病は,複雑な因子のからみあった疾患であるといわれているが,その病因がしだいに明らかにされてくるにつれて,診断・治療の考え方の上にも,幾多の変化をもたらしている.ブドウ糖負荷試験,インスリン分泌と肥満・遺伝素因,細血管障害,さらに経口剤など,これからの問題点をさぐる.

Leading Article

医療とコンピュータ

著者: 藤沢正輝

ページ範囲:P.530 - P.531

忍び寄る情報化社会
 1960年代のわが国が,世界を驚愕させた高度経済成長で象徴されたように,70年代の日本はおそらくその高度成長を維持しつつ,いわゆる脱工業化社会(Post Industrial Society)へと突入せざるをえなくなるものと推測される.医学・医療の領域のみが,この忍び寄る情報化社会を無視して現況にとどまることは不可能であろう.情報科学やシステムズ・エンジニアリングはコンピュータを駆使して,あらゆる領域において革命的とでもいうべき進展をとげつつあるが,医学の分野へもこの新しい技術が導入されなければ,わが国の医学は世界の後塵をかぶる浮目をみることは,あまりにも確かなのである.
 実際にわが国においても医学および医療の方面において,幾多のコンピュータを使用した研究や企画が存在しているが,しかしわが国の医学も医療も現在の前時代的な健康保険制度の枠の中で,いまやその発展の芽はつみとられ,空転を余儀なくされつつあることは憂うべき現状と言うべきであろう.

図解対症検査 消化器シリーズ・1

吐血

著者: 村井俊介

ページ範囲:P.536 - P.539

 吐血を起こす疾患のほとんどは,内科と外科の境界領域にある消化器疾患である.その80%は手術を受けないでも軽快するが,結局は手術的治療を必要とするものも少なくない.また緊急手術を要する場合もある.出血部位を確定できない場合も多く,また十分に病歴をとる余裕のないこともある.
 まず,発生頻度の高いものから思いを至すべきである.つまり,消化性潰瘍,胃癌,慢性胃炎,食道静脈瘤の順序で考えていく.

カラーグラフ

胆汁の遠心沈殿

著者: 永光慎吾

ページ範囲:P.542 - P.543

 胆道疾患の診断法としては,X線検査が主に行なわれているが,無石胆嚢炎とジスキネジーとの鑑別,肝内胆石や黄疸の強い例の診断などにおいては,十二指腸ゾンデ法による胆汁の採取は必要欠くべからざるものであり,また胆道疾患治療効果の判定上にも重要な意義をもつものである,沈渣の意義については人によって幾分の意見の相違があるが,手術時に採取した胆嚢胆汁および胆管胆汁では,正常人ではほとんど何らの沈渣も見られないので沈渣があれば病的と考えてよい.ただし沈渣がない場合に正常とは必ずしもいえない.

診断のポイント

黄疸の鑑別診断

著者: 涌井和夫

ページ範囲:P.564 - P.567

 黄疸の患者を診た時,どのように鑑別診断をすすめているか,理論でなく,実地臨床に直結した診断のコツを解説せよとのことである.その指示に従うため,どうしても話が模式的になることを,おことわりしておきたい.当然,どういった実地臨床の場を設定するかによっても話は異なってくる.ここでは,もっとも基礎的な設備のみの医療施設を対象として考えることにする.

トリオソルブとテトラソルブ—測定の意義

著者: 熊原雄一

ページ範囲:P.568 - P.571

トリオソルブ・テトラソルブとは
 トリオソルブとテトラソルブはいずれも商品名である.トリオソルブは131I-triiodothyronine(T3)レジン摂取法(131I-T3RU)の1つであり,テトラソルブは,thyroxine binding globulin(TBG)なる特異結合蛋白を利用してthyroxine(T4)を測定するcompetitive protein binding analysis(競合蛋白結合を用いる分析法)の1つである.

膀胱癌—見逃がさないために

著者: 高井修道

ページ範囲:P.572 - P.574

膀胱癌は稀ではない
 膀胱癌は泌尿器系悪性腫瘍のうちで最も多くみられ,また最も重要なものの1つである.ところがわが国と欧米における膀胱癌の頻度をみると,欧米のほうが約10倍多くなっている(瀬木ら19571)).最近10年間でわが国でも膀胱癌は多くなったとはいえ,まだ欧米のそれほどではない.この相違の主な理由は診断されないままに,あるいは慢性膀胱炎,腎盂腎炎,腎不全あるいは肺癌などと誤診されたままで死亡統計に入っているためと考えられる.一般医師の膀胱癌に対する認識不足の結果,初期に著明な症状(肉眼的血尿)が出現するにもかかわらず,ほとんど意に留めず,ただ単に止血剤を注射する.このようにして膀胱癌が診断されず,適正な治療を受けずにいることが案外多い.
 ここに筆者は1,2の自験例をあげて,膀胱癌は決して稀なものではないこと,診断はきわめて容易で,初期の全治しうる時期に診断ができることを力説したいとおもう.

治療のポイント

外来糖尿病患者の食事指導

著者: 山吹隆寛

ページ範囲:P.575 - P.578

 糖尿病治療の基礎は,患者の日常生活そのものとして実施されている食事療法と運動療法であるので,その指導と管理は糖尿病の臨床における医師の最も重要な役割であり,糖尿病コントロールの成否は,外来における食事指導のいかんにかかっているといってもよい.
 食事療法を家庭で正しく実施させ,かつ確実に長期継続させるためには,単にその実施方法を教えるのみでなく,これが糖尿病治療の基礎的手段として重要である理由や,その糖尿病食はいかにあるべきかを患者と家族にくり返し教育し,その理解の上に実際的な指導をすることが重要である.さもないと,患者が食事療法を行なう心構えに乏しく,仕方なしに行なったのでは,せっかく指導したことが忠実に実践されず,長期継続はもちろん望みえないことになる.

制酸剤の投与計画

著者: 森賀本幸

ページ範囲:P.579 - P.581

制酸剤治療の目標
 制酸剤とは胃内容の酸を中和し,低下させる,または除去する薬物の総称である.主として,過酸症と消化性潰瘍の治療に広く使用されている.正常の胃粘膜は強力な塩酸産生を行なっている.壁細胞がその役割にあたっているが,酸素含量からいって体内で最も活動的な細胞である.一説によれば,男性の平均壁細胞数は約10億といわれる.壁細胞よりの塩酸分泌はガストリンと迷走神経によって刺激される.各壁細胞は最大に分泌し,胃酸分泌率の変化は分泌している壁細胞の数の変化によるとされている.壁細胞よりの塩酸は,Hollanderによれば理論上165mEq/Lの濃度で分泌されるといわれるが,実際に採液してみると濃度は150mEq/L以下であることが多い.すなわち,胃内では高い水素イオン濃度を低下させる生理的防御機転が存在している.
 消化性潰瘍の病因として,まず胃酸分泌の重要性が強調されるが,胃液の作用に対する胃・十二指腸粘膜の感受性にも多くの因子が関与していることも事実である.胃酸分泌が正常ないし低値を示す消化性潰瘍も多く,粘膜の抵抗性も重要であるが,粘膜の抵抗を侵襲する因子については比較的知られていないことから,治療にさいして胃酸を低下させることが主な目標となっている.

肺結核症の初期—その見つけかた扱いかた

著者: 梅澤勉

ページ範囲:P.582 - P.584

なぜ結核の治療はおもしろくないのか
 肺結核症は初回の治療で勝負をつけなければならない.そのためには早期に見つけ出し,直ちに治療のルートにのせることが最もたいせつである.健康診断が普及したので,肺結核症は健康診断でほとんど全部見つけられているはずである.こうした認識はしごく当り前のようであるが,現実にはそうなってはいない.結核管理の面で抜け穴がいくつかある.その抜け穴が難治患者やくり返しの再発を生み出すもとになっている.
 もともと肺結核症には初期という段階はない.無自覚性慢性の病気では発病を初めて発見したときが初期である.そのときの病勢の判断,治療の方向,患者の扱い方によって初回治療の効果が左右される.ところが,臨床医にとって肺結核症は全く興味のない病気になってしまった.そのうえ,肺結核症は見つけることも治すこともやさしい,というのが臨床医の通念になってきた.

臨床家の遺伝学入門・5

遺伝性の証明

著者: 大倉興司

ページ範囲:P.585 - P.588

遺伝性の証明
 正常であれ病的であれ,問題の形質が遺伝性であることを証明するには,正確な,そして詳細な観察と,その個体についての多くの生物学的情報,十分な家系調査などにもとづいて遺伝性,そして遺伝形式が明らかにされなければならない.ある形質について,その成因として遺伝的要因の関与の存在を示唆することができるかどうかは,まず次のような条件を検討することから始まる.すなわち,
 1)一般集団における頻度よりも,その血族に高い頻度で出現している.

症例 全身性疾患と筋・5

膠原病と筋

著者: 里吉営二郎 ,   木下真男 ,   伊東美智江

ページ範囲:P.589 - P.591

症例1
 小○春○ 54歳 女子
 主訴 四肢の筋肉痛

日本人の病気

心筋硬塞

著者: 広田安夫

ページ範囲:P.594 - P.596

 米国では,国民死因の首位は心臓病で,第3位は脳卒中であり,わが国では第1位が脳卒中,第3位が心臓病で,両者ともに第2位は悪性腫瘍であるが,日本人の心筋硬塞について語る場合,この関係は常に論議の的となる.殊に,日本人の心と脳の虚血性病変の対比,あるいは両者の合併の頻度などに対する欧米の専門家の関心はきわめて大きい.
 ここでは死亡統計,剖検記録および久山町での一般住民を対象とした剖検に基づく長期追跡研究を中心に検討した.

日常検査のすすめかた

高血圧

著者: 渡辺孝

ページ範囲:P.598 - P.599

 高血圧の検査には2つの目的がある.1つは高血圧による血管障害の程度(脳・心臓・腎臓の合併症)と脳血管疾患ならびに虚血性心臓病に対する高血圧以外のリスクファクター(糖尿病,高脂血症,肥満など)の判定であり,1つは2次性高血圧の発見を目的とする.

内科医のための小児診療の手引き

泣きやまない乳児

著者: 小出亮

ページ範囲:P.600 - P.601

まず診断にあたって
 外来にかけ込んでくる母親は,「赤ん坊が泣いてばかりいる」という訴えをする.それは,泣き出すと,なかなか泣きやまないことなのか,頻回に泣くことなのか,全く笑い顔を見せないのか,一体普段とどんな風にちがっているのかを問い正さなければ本態はつかめない.
 啼泣という現象を症状と決めてしまうと混乱することが多い.それには母親のペースにまき込まれないようにしなければならない.常日頃,その母親の性格を知っておくことも乳児診療の上では大事なことである.

一般医のための救急診療のコツ

急性心臓発作と思われるとき

著者: 太田怜

ページ範囲:P.602 - P.603

 急性心臓発作を大別すれば,①急性うっ血性心不全,②心性ショック,③急性冠不全,④急激な脈拍異常,⑤心拍停止などに分けられる.

病態生理—最近のトピックス

腎不全—BUN上昇を中心に

著者: 浦壁重治

ページ範囲:P.604 - P.605

腎不全とBUN
 腎不全(Renal Failure, Renal Insufficiency)という言葉の意味する範囲はさまざまで,軽度の腎機能障害より尿毒症にいたるすべての病期を包含する場合から,腎障害が進行してもはや内部環境恒常性維持が不能となった病期に限定する場合まであって,国際的統一用語とはなっていない.
 本来,腎病変の程度・広がりは連続的であるから,腎機能も病変の進行と共に連続的に低下する.したがってこの一連の変化を無理に各病期に分類しようとする試み自身にも問題があり,現状であえて定義しようとすればBUNが最も合理的な指標となる.周知のように,腎臓は窒素代謝の終末産物である尿素の主要排泄器管である.したがってBUN上昇開始は、とりもなおさずこの排泄能力が限界点に達したことを示すわけで,この点をもって腎不全の始まりとする考え方が内部環境の恒常性維持の面からも至当と考えられる.

新薬の紹介

合成ACTH—Cortrosynを中心に

著者: 井村裕夫

ページ範囲:P.607 - P.607

 合成ACTHの研究はすでに10年以上の歴史をもち,この間に60種をこえるACTH製剤が合成されている.そのうちで24アミノ酸ACTH(Tetracosactide)はわが国でもCortrosynの商品名で最近発売され,臨床的にも合成ACTH時代が到来したという感が深い.以下合成ACTH,とくにCortrosynの特徴と臨床応用について述べてみたい.

グラフ

甲状腺の石灰沈着—頸部のX線像

著者: 伊藤国彦

ページ範囲:P.610 - P.613

 甲状腺に発生する腫瘍は,そのほとんどが良性のアデノームか悪性の癌である.甲状腺癌が発育し,腫瘍そのものが悪性腫瘍に特有な型状を呈してきたり,あるいは所属リンパ節の転移が明らかに触れるようになれば,その診断はおのずから容易であるが,比較的初期のものでは良性のアデノームとの鑑別は必ずしも容易でない.甲状腺腫瘍の性質を知るためには,もちろん触診が最も重要な診断法であるが,補助診断法として甲状腺シンチグラム,超音波診断,そしてここに述べる頸部のX線写真が一般に使用されている.

内科専門医のための診断学・17

小腸・大腸(その2)—限局性小腸炎 潰瘍性大腸炎 過敏性大腸

著者: 日野和徳

ページ範囲:P.614 - P.619

 その1(本誌4月号)においてMalabsorption syndromeを例として小腸の診断検査について検討したので,今回は限局性小腸炎(Crohn's disease)にProtein-losing症状を伴ったものを例として述べ,大腸については潰瘍性大腸炎および過敏性大腸を例として主にレントゲン所見について説明することとした.

誤られやすい心電図・1

非特異性急性心膜炎の心電図

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.620 - P.622

 51歳の男子が2時間つづく胸骨下の重圧感のあと,背部に放散する激痛となり,失神して倒れて,その4時間後に救急車で来院した.その際の意識は明瞭で前胸部痛は中等度につづいていた.血圧は120/70,不整脈はなく,胸骨下部の左縁付近に摩擦音をきいた.白血球数は13750.
 第1回の心電図(発病4時間後)は図1の如くであった.II,aVF,V2-6のST上昇,Tの増高は正常のVariantと考えるよりも,心筋硬塞のきわめて初期のST,Tの変化と考えたかったが,胸部誘導のST上昇を有意にとれば,すなわち前壁硬塞のなり初めととれば,II,III,aVFのST降下を伴うべきであるのに,かえって上昇している.急性心膜炎を考えるべきではないか.しかし病歴・所見からは多少問題である.

他科との話合い

胃がん—集検が残した功績と問題点

著者: 山形敞一 ,   北川正伸 ,   望月福治 ,   金沢信徳 ,   大柴三郎 ,   高野昭

ページ範囲:P.624 - P.631

 全国各地の対がん協会が中心となって胃集検が盛んに行なわれるようになった.この先がけともなった宮城方式について,東北大山形内科,県対がん協会,県成人病センター,石巻地区開業の先生がたに話し合っていただいた.胃集検によってもたらされた功績と今後の問題点を総点検すると—.

medicina reversed CPC

Reversed CPCを開くにあたって

著者: 市場謙二 ,   磯貝行秀 ,   橋本信也 ,   阿部正和 ,   只野寿太郎 ,   小酒井望

ページ範囲:P.632 - P.641

 Reversed CPCは臨床検査成績の推移のみから病気の経過を判断し診断を進める一種の診断演習である.日大や順天堂大などで医学部の教育の中にとり入れられているが,これは臨床検査成績の「読み方」の練習に適しているというので,米国ではかなり前から医学教育の中で行なわれているということである.
 本誌ではmedicina CPCが既に行なわれているが,今回からときどきこのReversed CPCが,とくに研修医を対象に行なわれることになった.第1回は教室の只野君が最近米国で経験した症例を用いることにした.

全国教室めぐり

患者中心の診療と,功を焦らぬ研究態度—新潟大・第1内科

著者: 奈良芳則

ページ範囲:P.643 - P.643

 松岡松三教授が開講60年の歴史を有する第1内科教室の第7代目の主任教授として信州大学から転任されてから早や7年になります.教授は着任以来古い伝統のある研究室をそのままはぐくみ育てられた結果,現在,血液,循環器,内分泌,代謝,肝など幅広い分野の研究活動に発展しております.

インタビュー

—新旧の相違はあっても底を流れるものは1つ—香川県医師会長松岡健雄先生に聞く

ページ範囲:P.644 - P.645

開業にふみきった当時
 — 岡山医大の内科の助教授をやめられたのは昭和22年と伺っておりますけれども,開業にふみきられたのは,どんな事情がおありだったのでしょうか.
 松岡 私の父も当地で開業しておりました.やはり県医師会の副会長をしておったんですが,その父が病気になりました.それにちょうど終戦後のごたごたです.私,長男だったものですから,家庭の都合で郷里に帰らざるを得なかったのです.

医師会活動 香川県

奉仕の精神で地域医療に取り組む

著者: 松岡健雄 ,   永井啓 ,   軒原良正 ,   川原浩 ,   吉峰泰夫

ページ範囲:P.646 - P.652

医科大学不在を会員の熱意でカバー
 松岡 本県には医科大学がありませんから,医学講演などをやりましても会員の皆さんが非常に熱心なんです.だから,医科大学不在というマイナスを県下の会員の熱意でカバーできると思っています.
 もう1つは,県全体が小さくて人口も90万くらい,全県的に見て極端な過疎,過密はありません.それで割り合い交通機関も,道路もいい関係上,まとまりがいい.だから医療機関も,高松市を中心に割り合いうまく分布されているわけです.それから,香川県は公立病院を初めとして,私的な医療機関のレベルもあまり差がない.これは医療機関だけじゃなくて,文化程度でもあまり差がない.これは会長として考えると,1つの団体を預かる上に,非常に幸せなことです.

病理夜話

直腸

著者: 金子仁

ページ範囲:P.653 - P.653

 その日本的妖麗さをうたわれた映画女優三浦光子が直腸癌で亡くなったのを新聞で読んだのは2,3年前である.
 直腸癌はけっして少ない病気ではない.しかし案外見つけにくい場合もあるとみえて,癌性腹膜炎であることは,細胞診を検査して確かだが,その原発部がわからないという患者を解剖して,直腸癌であったことも稀ならず経験する.その時「シマッタ!直腸を検べればよかった」とか「この位なら,指を入れればわかったのに,つい不精をして失敗した」と頭をかく臨床医も多いのである.

各科のトピックス 外科から

外科的に治療しうる高血圧—腎血管性高血圧の診断を中心に

著者: 初音嘉—郎

ページ範囲:P.654 - P.655

早期に発見されれば外科的処置で完治
 腎血管性高血圧(或いは腎動脈狭窄性高血圧といわれる)は1側または両側の主幹腎動脈の部分的狭窄に基づく腎血流量の低下で腎血圧調節機構を通じRenin-Angiotensin系が賦活されるため生ずる続発性高血圧で,60歳以下の全高血圧患者の6-8%がこれに帰因されるという.
 本症は早期に発見され,適切な外科的処置により腎血流が正常に戻されるならば完全に根治しうる疾患である.したがって高血圧を呈する患者の診療にあたる者はその存在の可能性を常に念頭に置くべきである.

統計

死亡からみた肝硬変の動向

著者: 小畑美知夫

ページ範囲:P.656 - P.657

肝硬変の現状
 昭和43年の患者調査によりますと,肝硬変として治療をうけている者は全国で3万2千人おり,そのうち入院加療をうけているものが1万人おることになります.
 また最近発表されました昭和44年の人口動態概況によりますと,44年の肝硬変による死者数は1万2千人で,死亡率(人口10万対)は11.8となり,十大死因の中にはじめて姿をあらわしております.

読後随想

現代アメリカの病巣を切る—紀伊国屋書店刊・なだ いなだ訳—スポック博士の現代診断

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.658 - P.659

育児書の流行
 育児というものは私なんかが考えるよりずっとむずかしいらしい.育児書というのが大変流行している.それが相談相手のない核家族化に原因しているらしいことも通説であり,また育児相談的な本が出れば出るほど,若い母親は—昨日までマイダーリンといって呑気にマイホームの中で暮していられた—ますます迷うということになる.身体的な問題から精神面へ,そして学業からその児の将来の社長か博士のイメージまで安売りする育児入門はいくら書いても書ききれるものではないし,またいくら読んでもたいした足しにはならない.だからまた次の育児相談書が売れる—といったぐあいである,私はそういう書物の氾濫に一種のコッケイさを感じる.
 実はこんなことを言い出したのはベンジャミン・スポック博士という人を「スポック博士の育児書」というベストセラースズで知っていたからである.本のほうは読まなかった.ニューヨークの小児科開業医,ピッツバーク大学教授を経て,クリーブラントのウェスタンリザーブ大学医学部名誉教授である.念のためしるすとベストセラーになった育児書の原題は"The Common SenseBook of Baby and Child Care"というのである.精神科医的小児科医であることは経歴でもわかる.

今月の表紙

聴診法の発明者ラエンネック

著者: 小川鼎三

ページ範囲:P.659 - P.659

 いまパリのネッカー病院(HôpitalNecker,151,rue de Sèvres,Paris 15)をおとずれると,正面入口の右手にラエンネックR. Th. H. Laennec(1781-1826)の横向きの胸像が浮き彫りされていて,そこに「この病院においてラエンネックが聴診法を発明した」と刻まれている.病人の体のなかの音をきいて診断に資することは,ヒポクラテス振盪音という用語が古くからあったことでもわかるが,胸の中の音をきくために道具を作り用いたのはラエンネックが最初であり,その後は聴診器をもつことが,世界じゅうの医者の特性であるかのごとく,この方法が実施されたのである.

診療相談室

中年以上のめまいの鑑別

著者: 筒井末春

ページ範囲:P.663 - P.663

質問 中年以上の患者の"めまい"(dizziness,vertigoにあらず)について,起立性低血圧によるものか,それとも椎骨脳底動脈不全によるものかの,bedsideの鑑別方法についてお教えください(もちろん,起立性低血圧のある場合) (前橋市・W生)

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Current Abstracts

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.655 - P.655

幼児と児童における心筋硬塞
 Borは15年間にわたる,幼児と児童の剖検所見から,29名に心筋硬塞の証拠をみつけた.この著者の発見は,小児科で取り扱う年齢の子どもにも,心筋硬塞が稀ではないことを示している.
 その基礎に横たわる原因は,栓塞(しばしば細菌性心内膜炎と関連している),炎症(リウマチ疾患,細菌感染,紅斑性狼瘡),変性(冠動脈石灰化,高血圧,血液病),遺伝(大動脈瘤,左冠動脈の起始の異常),機能的異常(左→右心室駆血閉塞,貧血)の,5つに分類することができる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

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59巻8号(2022年7月発行)

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59巻7号(2022年6月発行)

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59巻6号(2022年5月発行)

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59巻5号(2022年4月発行)

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59巻4号(2022年4月発行)

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56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

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56巻9号(2019年8月発行)

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56巻8号(2019年7月発行)

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56巻6号(2019年5月発行)

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56巻5号(2019年4月発行)

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56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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