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雑誌目次

雑誌文献

medicina8巻9号

1971年08月発行

雑誌目次

Editorial

癌の免疫と転移

著者: 平井秀松

ページ範囲:P.1311 - P.1311

 癌細胞はその特異抗原の存在のゆえに宿主からの抵抗を受けている,と考えるのが癌の免疫学者の基本的な考えであるが,癌の増殖とその転移のすさまじさを見せつけられると,この基本的立場は厳しい挑戦をうける.
 転移はちょうど結核症末期の粟粒のごとくに,感染症における敗血症のごとくに,宿主の免疫機構の荒廃に基づく刀折れ矢尽きた終局の状態である.したがって上記の基本的立場はゆるがない,と考え得ても,一匹移植の成立は免疫機構の荒廃で説明するわけにはゆかぬ.吉田肉腫細胞のただ1個をラット腹腔内に入れてやればそこに移植が成立するという,驚異的な佐々木研究所の実験である.しかも,この移植はallogeneicのbarrierさえもこえているのだ.一匹移植の成立と癌の転移とは同一現象をみているといってよい.周辺ただ1人の同胞もない異郷の地にたくましくコロニーを形成してゆく癌細胞である.どうも,頼りがいのない免疫だ.

今月の主題

腫瘍と転移

著者: 春日井達造

ページ範囲:P.1312 - P.1318

 腫瘍と転移の問題はきわめて広範かつ深遠で,なお不明の点も多く,限られた紙面にすべてを盛ることはとうてい不可能である,したがって,ここではその理論的な問題は解説程度にとどめ,私どもが臨床的に日常最も遭遇することが多い消化器癌,特に胃癌を例にとり,転移というものの種々相をふりかえり,第一線の臨床医家の心構えをのべてみたい.

(座談会)癌の転移—メカニズムと臨床の問題点

著者: 太田邦夫 ,   高木国夫 ,   野辺地篤郎 ,   本間日臣 ,   長谷川弥人

ページ範囲:P.1320 - P.1329

 癌患者のばあい,転移巣の症状のみが前面に出ているため癌以外の疾患と間違えたり,原発巣が見つからないため手おくれになるケースは意外に多い.癌の転移を見逃がさないためには,どんな注意が必要か,転移のメカニズムをふまえて,各科の立場からお話しいただいた.

Leading Artiele

タバコの有害指定中止に想う

著者: 平山雄

ページ範囲:P.1296 - P.1297

タバコの有害指定は世界的風潮
 1971年6月21日の雑誌タイムは,カナダでは,紙巻タバコ広告の一切が72年1月1日から禁止になると報じている,前週にその法案が,カナダ政府によって議会に提出され,法案通過は確実という.この法案によると,すべての紙巻タバコの包装には,タール・ニコチン量を印刷し,「警告:健康に対する危険は喫煙量が増えるほど高くなる.肺の中への吸入をさけよ」(Warning:Dangerto health increases with amount smoked. Avoidinhaling)紙巻タバコの一本一本に真中に線を印刷し,それ以上すうと,タール・ニコチンの濃度が高くなると警告するよう指示されている.この法案で,国はタール・ニコチン量の基準をきめる権限をもつことになる.そうなるとカナダのタバコは外国タバコより売れ行きが落ちると業者は心配しているが,10万ドル以下の罰金,5年までの体罰,または両方という罰則があるので,違反者はまず出ないであろうと報じている.
 アメリカでは,1970年11月から従来の注意(Caution)にかえ強い警告(Warning)という表現をとり,すべての紙巻タバコの包装に「警告:公衆衛生局医務長官は喫煙はあなたの健康に危険だと結論を下した」と表示されている.そして警告文を,タバコの包装だけではなく,新聞,雑誌のタバコ広告に表示するよう,米連邦取引委員会はタバコメーカーに求め,もしこれを記入しない場合は,不正広告とみなして訴える計画という(1971年6月21日の朝日夕刊).1971年1月にテレビでのタバコ広告が禁じられたため,新聞,雑誌での広告が激増する傾向にあるための規制という.

図解対症検査 消化器シリーズ・4

下痢

著者: 大貫寿衛

ページ範囲:P.1302 - P.1305

急性下痢
 急性下痢で最も重要なのは感染性のものであるから,検索の主たる狙いはここに向けられることになる.そのほか脱水や電解質異常など全身状態に関連する対症検査も,下痢がある程度以上はげしければ当然必要になってくる.

カラーグラフ

心臓ファイバースコープ

著者: 杉江三郎 ,   田辺達三

ページ範囲:P.1308 - P.1309

 今日,心臓血管疾患に対する診断法は著しく進歩し精緻をきわめつつあるが,それらの多くは異常の間接的証明法にとどまっている.異常を直接観察する内視鏡検査法には,直接的証明法としての大きい利点がある.
 比較的複雑な構造からなり,急速な運動をくり返し,血液が充満している心臓血管系を生体において完全・簡単に観察し,明瞭な所見をうるためには,また多くの特殊な問題点がある.われわれが開発した心臓血管ファイバースコープは,細く柔軟性で追従性も良く,先端が回転屈曲できるので,X線透視下に従来の心臓力テーテルのごとく容易に挿入できる.以下図を追いながら紹介する.

診断のポイント

多尿

著者: 杉本民雄

ページ範囲:P.1330 - P.1333

多尿(polyuria)ということば
 成人が1日に排泄する尿量は1000ないし1500mlの範囲内にあるものが多いが,健康な人でも体格の大小,温度・湿度などの気候的条件と共に食物や水分摂取量によって大きく左右されている.また浮腫や体腔に液体の貯溜があって,これらの体液が急速に排泄されるときも当然尿量は増加する.しかし独立した症状としてとりあげられる場合,多尿ということばは持続的に尿量が増加した状態をさすものとされている.また,その量も多くの人達の記載では1日3000mlを越えるものを多尿と呼んでいる.特にここでとりあげられる多尿とは,3000ml以上の尿量が持続的にみられ,他に顕著な症状がなくても何か尿量増加をおこす病的な原因があり,これを検索する必要がある場合が問題となる.ここではこのような多尿をきたす疾患のうちから主なるものをとりあげて,日常の診療で考慮すべき事項をのべてみる.

老人の軽い糖代謝異常

著者: 伊東三夫

ページ範囲:P.1334 - P.1336

加齢と耐糖能の推移
 老年者の軽い糖代謝障害について関心がよせられる主な理由は,
 1)老年者では一般に耐糖能の低下をしめすものが多いが,この耐糖能の低下と疾患としての糖尿病を同一と考えてよいか,
 2)糖負荷試験の診断基準を老年者の場合どこに設定すべきか,
 3)集団検診などで早期発見・早期治療が重視されているが,老人の軽い糖代謝障害を実地臨床上どう扱うべきか,……という実際的な問題のためであろう.

プロトロンビン時間とトロンボテスト

著者: 糸賀敬

ページ範囲:P.1337 - P.1339

 Prothrombinは肝臓において生成されるが,この生成にはビタミンKの存在が必要である.ビタミンKの欠乏によって血漿中のProthrombinが減少し,血液凝固の第2相の機序に障害がもたらされると出血傾向をみるに至るが,Prothrombin time(Quick 1段法)やThrombotestの測定値が延長する病態としては,先天性(遺伝性)Prothrombin欠乏症をはじめ,第VII因子欠乏症,第X因子欠乏症,第V因子欠乏症,後天性のものとして新生児出血症,肝疾患,消化器疾患,ビタミンK欠乏症,抗凝血薬投与時の場合などがあげられる.
 本検査で異常を認めた際には,上記凝固学的疾患群のいずれであるか鑑別するために,さらに部分的トロンボプラスチン時間の測定や,Biggsらのトロンボプラスチン生成試験などを実施しなければならない。

治療のポイント

胃潰瘍の食事療法

著者: 早川滉

ページ範囲:P.1340 - P.1342

胃潰瘍の食事療法の考え方
 胃潰瘍の食事療法については従来より多くの意見が提唱されている.この意見を大別するとLeube, Cruveilhierらによって提唱された庇護制限食事療法と,Lehnhartz, Meulengrachtらによって始められた積極的栄養補給食事療法に分けられる.わが国においては南・吉光寺などが食事箋を本邦向きに考案しているが,これはいずれもLeube, Ewaldらの方式に似て潰瘍庇護を主眼としたものであり,一方,積極的な方式としては,山川らの主張した高カロリー豊富食事があげられる.その後この方法は,黒川・松永・山形らにより改良が加えられ,Meulengrachtほど積極的ではないが,従来の庇護療法より早期に高カロリー食を与える食事箋をとり入れ,潰瘍の治癒に好成績をえたと発表している.
 胃潰瘍の治療は,近年抗コリン剤を初めとする抗潰瘍剤が多く発表されているが,治癒期間・治癒率などは従来より改善されておらず,内科的治療のなかで食事療法の占める割合は大きいと考えられる.筆者は胃X線・内視鏡検査が十分に行なわれなかった時代に,食事療法の考え方の中心となっていた,潰瘍の出血あるいは胃粘膜に対する機械的刺激,胃の運動亢進を抑制する点を考慮した庇護療法をそのまま用いてはいないが,一方Meulengrachtらが始めた,大量の出血直後より多量の食事を投与することには症例の選択に注意をはらうべきであり,流動食でも再出血をみることがある点より,直後には絶食期間をもうけ,その後できるだけ早く高カロリー食をとるべきであると考えている.

新しい抗癌剤

著者: 古江尚

ページ範囲:P.1343 - P.1345

抗癌剤の進歩
 Mitomycin C(MMC)が導入されたのが1956年,それから15年経った今日でも,わが国において最も広く用いられている抗癌剤はMMCである.MMCは強い抗癌作用と広い抗癌Spectrumを有するからであって,総合的になおMMCにまさる薬剤は見出されていない.しかしそれでも近年,それぞれ特徴をもった薬剤が多数臨床の実際に導入されているし,また現在でも開発されつつある.今日われわれは,癌の種類,あるいは患者の状況によって,それぞれの薬を使い分けることができるようになっている.しかもこれらの薬剤は作用機序も異なっており,これらを時期を異にして,あるいは同時に併用し投与することによって,よりすぐれた効果をうることもできる.
 新しい各種抗癌剤の導入,あるいはこれら薬剤の投与法の進歩に支えられて,今日では末期癌といえども,癌の縮小〜消失,生存期間の延長,社会生活への復帰が可能であり,特に白血病,悪性リンパ腫,絨毛癌,神経芽腫,睾丸腫瘍,その他における効果は甚だ著しいものがある.30年前,われわれは末期癌患者にはただMorphineを与えることができるだけであった.15年前,抗癌剤は一時的に腫瘤の縮小をもたらしうるにすぎなかった.しかし今日われわれは,末期癌といえども,長期間にわたってわれわれのコントロールのもとにおくことができる,そういう時代をむかえっっある.

抗甲状腺剤療法

著者: 隈寛二

ページ範囲:P.1346 - P.1348

 甲状腺機能亢進症の内科的治療として,本小論においては抗甲状腺剤療法について述べることにする.
 本疾患の内科的治療に際しては,第1に診断が正しいこと,第2に適正な適応が選ばれていること,第3に投薬方法が適切であることが必要である.

内科専門医のための診断学・20

膠原病

著者: 勝正孝 ,   島田佐仲

ページ範囲:P.1349 - P.1356

膠原病の概念
 病理組織学の面から
 膠原病(Collagen disease)という概念は,Klempererが1942年に協同研究者Pollack,Baehrと共に発表した"DiffuseCollagen Disease:Acute Disseminated Lupus Erythematosus and Diffuse Scleroderma"と題する論文の中で初めて提唱したものである.彼はこの論文の中で,従来あまり関係がないと考えられていた一連の疾患が「全身の結合織基質のフィブリノイド変性を主病変とする急性ないし慢性の系統的疾患」という点で共通点を有することを強調したのである.彼が最初対象としたのは,全身性エリテマトーデスと汎発性強皮症であったが,その後リウマチ熱,慢性関節リウマチ,結節性動脈周囲炎,皮膚筋炎が追加され,合計6疾患が包含されている.この概念は,それまで長い間病理学ひいては医学の主流を占めてきたVirchow以来の細胞病理学の範囲を脱したものである点,まさに画期的なものであった.
 しかしKlempererがこの概念を提唱したのは全身の結合織にび漫性に拡がる病変,とくに血管結合織のフィブリノイド変性を特徴とする病理組織学的所見を基として疾患を整理しようとしたものであって,そこに含まれる各種疾患の病因などには全く触れていない.したがって,これに含まれる前述の6疾患はそれぞれ全く別個のものであって,その経過中の一時期の,あるいは終末的な組織像が類似しているだけであるかもしれない.

誤られやすい心電図・2

中間期の心電図

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.1357 - P.1358

症例:67歳の男子
 入院2日前に左前胸部痛を訴え,近医により狭心症と診断された.聖ルカ病院に来診したのは発病45時間後である.

日本人の病気

肺癌

著者: 金上晴夫

ページ範囲:P.1360 - P.1361

肺癌の増加
 肺癌は世界的に増加の傾向を示し,アメリカでは1930年の肺癌死亡者2500名に対し,1967年には5万名と37年間に20倍の増加を示した.わが国でも平山の報告によれば,昭和25年の男子肺癌死亡数789名に対し,43年には6657名,女子死亡者330名から2694名といずれも約8倍の増加を示している.死亡率も,男子では昭和25年の1.9から43年には13.5,女子でも0.8から5.2と急激な増加を示している(表1).
 これを結核の死亡率と対比してみると,大正8年,240と最高値を示した結核の死亡率も,化学療法,集団検診,BCGの接種などにより昭和43年には16.8と激減しているが,この死亡率は昭和43年の男子肺癌死亡率13.5とほぼ等しく,肺癌が肺結核にとってかわりつつあることを示している,しかも表2に示すように,55歳以上の男子についてその死亡率をみると,昭和40年では,55-59歳が32.0,60-64歳で66.3,65-69歳で93.1,70-74歳で118.5と結核全盛時の死亡率に迫りつつあるので,肺癌は今日そして将来,慢性閉塞性肺疾患と共に日本においても最も重要な呼吸器疾患となろう.

日常検査のすすめかた

蛋白尿

著者: 水田亘

ページ範囲:P.1362 - P.1363

蛋白尿の成因と分類
 正常な糸球体では,分子量7万以上の蛋白は血漿からほとんど濾過されないが,ごく一部は糸球体から濾過されて,再びその大部分が近位尿細管で再吸収されると考えられている.したがって,正常人でも1日に10-100mgの蛋白が尿中に排泄されているが,実際上は普通の定性反応の感度以下であるので証明できない.
 蛋白尿の成因としては1)糸球体の蛋白透過性の亢進と尿細管の再吸収能低下,2)血色素,ミオグロビン,Bence-Jones蛋白のような低分子蛋白の血流中への出現,3)腎尿路系への血液や滲出液の混入,などの場合が考えられる.身体に何らかの疾患が存在している結果生じる蛋白尿を病的蛋白尿,そうでなく機能的に生じるものを生理的蛋白尿とし,病的蛋白尿は,腎を中心として一次的な原因疾患の存在部位からそれぞれ,腎前性,腎性および腎後性蛋白尿に分類されている(表1).

内科医のための小児診療の手引き

嘔吐を主徴とする小児疾患

著者: 中村仁吉

ページ範囲:P.1364 - P.1366

診断の手順
  多忙な外来で小児を診察するときには,問診で幾つかの徴候を選び,それらの徴候を伴い,しかも患児の年齢層にありふれた疾患をあれこれ思い浮かべながら,診察や検査を進めて行くことが多い.
 嘔吐を主徴とする場合にも,患児の年齢→その年齢に多い疾患→診断の決め手となる所見の検索という順序で診察を進めるのが実際的である.

一般医のための救急診療のコツ

日(熱)射病

著者: 藤田五郎

ページ範囲:P.1368 - P.1369

日(熱)射病の正しい認識
 病態 日(熱)射病(Sun (Heat) Stroke)というと,食塩水を飲ませたり,注射したりするものという考え方が支配的であるが,正しい救急診療を行なうのには,何といっても,その病態を正しく知っていることがたいせつであろう.日(熱)射病というのは,端的にいえば,"うつ熱"であり,体動による体熱の生成と放熱とのバランスがくずれた状態である.
 高温高湿度の環境のもとで激しい労働をして,しかも,直射日光で輻射熱が強かったり,ピッタリと衣服を着けていたりすると,ますます悪循環が生じて,体熱はうっ滞する.ファンベルトの壊れた自動車を,しかもエンジンに毛布をかぶせて急な坂道をふかしながら走行しているようなものである.自動車の場合には,エンジンが焼きついて煙を出すようになるし,人間の場合には,酸素欠乏に弱い臓器が順々にやられて,脳や肝臓,次には心臓の障害を生じて,ついには視床下部の体温調節中枢が支障をきたして,体温は上がりっぱなしになり,肝臓の広範な壊死も起こってくるというのが,日(熱)射病の病態.ただ,日射病は直射日光下で,熱射病は,高温高湿の部屋で発生するという環境の違いだけである.

新薬の紹介

経口糖尿病治療薬—SU剤を中心に

著者: 前沢秀憲

ページ範囲:P.1371 - P.1371

話題を呼んだTolbutamide
 糖尿病を経口薬で治療したいという夢も現代ではごく一般的な手段となっている.むしろあまりにも安易に使われすぎることを警告する学者が多い,少なくとも,血糖その他の所見を定期的に観察しつつ薬剤の種類・投与量を調節すべきである.最近,米国の研究者たちによって,スルフォニール尿素薬の中でも多用されるTolbutamide療法中の患者において,心血管系の合併症による死亡率が高いとの報告があり話題を呼んだが,この研究計画では血糖値の推移などを無視している.少なくともわれわれの行なう治療計画とはかなり違う.近年開発された経口薬の大部分は依然としてスルフォニール尿素系のものである.

器具の紹介

痛くないインスリン注射—Automatic Injectorの紹介

著者: 塩田善朗

ページ範囲:P.1372 - P.1373

煩雑だったインスリン注射
 今年は1921年にBantingとBestがカナダのトロントで,あの画期的な実験の結果,インスリンを発見してからちょうど満50年を迎える,インスリンの発見は,20世紀前半の治療医学史上,ペニシリンの発見にも比せられるほどの重要な出来事といえよう.その後,経口糖尿病治療薬の出現により,インスリンの注射療法を必要とするものは,糖尿病患者のうちで約5-20%と推定され,なおかなりの人数の患者が,毎日欠かさず注射をうち続けていることになる.
 最近では医師や看護婦の指導によって,毎日通院することなく,家庭で自分で注射をさせる場合が増え,また日本糖尿病学会でも,このことが合法的と是認せられるよう厚生省などに交渉中と伝えられている.

グラフ

癌の骨転移像

著者: 石田俊武

ページ範囲:P.1376 - P.1381

 癌の骨転移巣を発見することは,必ずしも容易ではない.わずかなX線像の変化を見つけるために,多方向からのX線像,経過を追いながら頻回撮影するX線像,断層撮影,時には血管造影像,シンチグラムが必要となる.
 X線像上病巣を発見した時,単発性か,散発性か.多発性か,びまん性かという拡がりの点,また経過中,単発性から散発性または多発性に,散発性から多発性にという拡大する傾向の有無の点,さらには,病巣が躯幹を中心とした骨に発生しているかどうかの点を見きわめる必要がある.

胸部単純撮影でわかる心所見・3

動悸を主症状とする心疾患

著者: 敦本五郎

ページ範囲:P.1383 - P.1386

 最初に動悸,すなわち心悸亢進の定義であるが,いうまでもなく脈のはやいことであって,一般には1分間に100を越えた場合をいう.これを頻脈といい,頻拍症と呼んでいる.この頻脈を訴えるのは次のような場合が考えられる.

ベクトル心電図入門・2

正常と右室肥大

著者: 戸嶋裕徳

ページ範囲:P.1387 - P.1389

 心電図におけると同様に,一心拍毎にP環,QRS環,T環そして時にはU環も記録される.心電図の基線に相当する部を原点と呼ぶが,これらの環は原点に集まるために,写真撮影の際,ハレーションを起こしやすい.このため最近の器械は輝度調整装置が内蔵されて,これを防止しているが,P環やU環はその人きさがQRS環に比して著しく小さいために,その観察には拡人率を高めてやらねばならない.臨床診断のためには.QRS環とT環の観察が主体となる.

臨床家の遺伝学入門・8

伴性遺伝

著者: 大倉興司

ページ範囲:P.1390 - P.1394

伴性遺伝のしくみ
 性の決定の機構ですでに述べたように(本誌8巻3号318ページ),母親のもつ2本のX染色体は等しい確率をもって息子にも娘にも伝えられる.しかしながら父親のもつX染色体は娘にのみ伝えられ,息子に伝えられることは絶対にない.Y染色体はもちろん息子にのみ伝えられる.このことを別の表現をすれば,X染色体に関しては父と息子の間には親子関係がないということである.
 伴性遺伝(sex-linked inheritance)とは性染色体上に存在する遺伝子による遺伝という意味であるから,X染色体およびY染色体の親から子への伝わり方でそれら遺伝子の表現に特徴が現われてくる.しかし,現在のところY染色体上には特定の形質を決定する遺伝子の存在が確認されておらず,2.3それらしいとされているものはあるが,一般的に承認はされていない.このため,伴性遺伝というと,ふつうはX染色体上にある遺伝子のことを指すのである.

他科との話合い

前立腺疾患—最近の知見と臨床の問題点

著者: 大野丞二 ,   落合京一郎

ページ範囲:P.1396 - P.1402

 前立腺疾患についてはいろいろと最近わかってきたことも多い.老人の患者を診る機会の増している現在,内科医も前立腺疾患について,いま一度正しい知識を身につけておくことが必要であろう.前立腺疾患最近の知見について.

保険医辞退をどう考えるか

保険医総辞退に立ち到らせたもの—東京都荏原医師会長時見徹彦氏に聞く

ページ範囲:P.1415 - P.1417

突入に到った真意は
—7月1日の保険医総辞退という事態に突入してみて,お医者さんたちの意志は予想以上に固かったという印象を受けておりますけれども……
 時見 突入に立ち到ったのは,武見会長の指令があったからやったというよりも,やはり会員1人1人の気持ちが強かったということですね,突入する前の厚生省の見込みでは2万くらいだろうといっていたのが7万もあった.ということは過去3回の総辞退届けの提出で,会員はつかむべきところはつかんでいたわけですね.毎年毎年総辞退の話が出ているのに,いつでも政府は核心に触れようとしない,歯止めの末端のことばかりやっていた.われわれが反対しているにもかかわらず,医師と患者にしわ寄せをするというのが抜本改正の姿だったわけで,それが始めからわかっていたということでしょうね.

6つの疑問点から私は保険医を辞退しなかった—東京都北区開業近藤芳朗氏談

著者: 近藤芳朗

ページ範囲:P.1418 - P.1420

 保険医総辞退突入という強硬策に私が反対する理由として,次の6つを挙げることができます。

臨床メモ

帯状疱疹(herpes zoster)の診断

著者: 依田三郎

ページ範囲:P.1348 - P.1348

 帯状疱疹(以下HZと略す)の患者は,「神経痛ではないか」「虫に刺された」などといって来診することが多い。気やすくそれに同調し治療していると,とんだ恥をかくことがある.
 診断には,前駆症,特有の神経症状,皮疹の性状,所属リンパ節の有痛性腫脹に注意する.詳しくは発症に先立ち,発熱,頭痛,局所の神経痛がある.神経痛は主に胸,頸,顔,腰,坐骨部などの片側に生じ,神経の走行に沿ってピリピリと走るような痛みがある.痛みは,大部分皮疹の現われる1-7日前に生じ,1-2週つづき,結痂,落屑と共になくなってゆく.老人の場合は激痛があり,皮疹が治っても2-3年は残っていることがある(ヘルペス後神経痛).

全国教室めぐり

広い視野から秀れた臨床医の育成を—神戸大・第1内科

著者: 福崎恒

ページ範囲:P.1421 - P.1421

 昭和19年県立医学専門学校が創設され,医科大学をへて昭和42年神戸大学医学部へと発展したが,この間第1内科学教室は,主任教授が初代中院孝圓教授から現在の友松達弥教授へと受継がれ27年を経過し,教室も基礎固めの時代から飛躍の段階へ入った.先代中院教授が呼吸器病学,血液病学を専門分野として創設期を切り開かれたが,友松教授は新しく循環器病学を中心に教室の発展のため努力を傾注され今日に至った.
 友松教授のモットーは,セクショナリズムを排し,家庭的な雰囲気の中に教室の総力を結集して臨床医学の発展に尽すことであり,自らを厳しく律することによって教室員の育成にあたられた.その間には大学紛争という波紋が投じられ,大学内に混乱の生じたことは否めないが,その中でも,教室の基本方針はゆるぐことなく貫かれてきた.ただ,新しい時代の要求に応え,正しい意味での改革には積極的な努力がなされ,教室内には予算委員会と就職委員会が設けられ,教室の予算と人事の両面で総意を反映した公正な運営が行なわれるなど民主化も大いに進められてきた.

読後随想

—E.キューブラー・ロス著・川口 正吉訳—「死ぬ瞬間」(読売新聞社刊700円)

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.1422 - P.1424

病人の要求に答えられるか
 こういう種類の本を読むのはわたしたち医者にとってむしろ苦痛であるだろう.触れたくない創をかきまわすのであるから.しかし毎日「死んでゆく患者」をみているわたしたちこそ,この種の本を読む必要があり,またその意味を正しく理解できるのではあるまいか.

今月の表紙

ウィルヒョウの大著「病的腫瘍」

著者: 小川鼎三

ページ範囲:P.1424 - P.1424

 腫瘍の病理学はRudolf Virchow(1821-1902)の「細胞病理学Cellular-pathologie(初版1858)」,ついで同人の「病的腫瘍Die krankhaften Geschwulste(第1巻1863年,第2巻1864-65年,第3巻の前半1867年)」の出現により画期的な進歩をとげた.この大著述「病的腫瘍」はウィルヒョウが1862年から翌63年にかけてベルリン大学で30回にわたり講義した内容を基にして出版されたが,第3巻の後半は遂に出版されなかった.この出版されない部分に癌の病理学が含まれていたはずであり,甚だ残念であると同時に,癌のむつかしさがその未完成の理由かともおもわれる.
 表紙に掲げた図は第1巻の扉に載っているもので,本文の説明をみると47歳の女性で,病名はFibromamolluscum multiplexとある.全身の皮膚に大小種々の高まりがあり,永い年月の間にしだいに数と大きさを増した.左の腰部から垂れさがっている最大のものを手術により切りとったら,32.5ポンドの目方があったという.

病理夜話

乳房(その2)

著者: 金子仁

ページ範囲:P.1425 - P.1425

 今までに忘れえない失敗が,乳房に関していくつかある.
 その1.まだ50歳くらいの,ある会社の重役夫人である.15年くらい前から左の乳房にシコリがあり,別に気にしていなかった.それが最近になり,少しずつ大きくなってきた.当院外科で診察を受け,手術室でそのシコリを摘出し私の所へ送ってきた.ゲフリールで診ると骨があったり,軟骨があったりする.その周囲にある細胞の異型性は少なく,きわめて稀な腫瘍で,何とも診断ができない.パラフィン標本を作ってから返事するので2日ほど待っていただきたいと外科に電話した.外科医はそのシコリのみ摘出して手術を終わり,病理の返事を待つことになったのである.

診療相談室

いわゆるKerley's linesについて

著者: 三上理一郎

ページ範囲:P.1427 - P.1428

質問 最近,非結核性の胸部X線読影の問題についてKerley AlinesやKerley B linesという言葉をよく見かけますが,この言葉の意味する内容について,東大・三上博士にお聞きしたい.
なお,同氏の「全身性疾患と肺」にはAlinesのほうは癌性のもののみを意味しておられるように見受けられましたが,そう解すべきなのでしょうか.

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medicina reversed CPC

著者: 阿部正和 ,   橋本信也 ,   市場謙二 ,   磯貝行秀 ,   只野寿太郎 ,   小酒井望

ページ範囲:P.1404 - P.1414

Current Abstracts

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.1395 - P.1395

肺ガンの発見には,X線と喀痰の細胞診の併用が有益

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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