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雑誌目次

雑誌文献

medicina9巻1号

1972年01月発行

雑誌目次

Editorial

膠原病の概念

著者: 勝正孝

ページ範囲:P.19 - P.19

 1942年Klempererらは"全身の結合織の細胞間物質の基質に系統的に特徴ある病変,フィブリノイド変性"を示す一連の急性ないし慢性の疾患群に対し,膠原病なる概念を提唱した.すなわち膠原病とは,同じ原因による単一な疾患ではなく共通の病変を有する疾患群であり,KlempererらによりSD(PSS),SLE,RA,RF,PN,DMの6疾患があげられた.これらの疾患は,現在でも狭義の,あるいはオリジナルの膠原病と呼ばれ,ある意味では膠原病の基本的疾患をなしている.
 以上のごとく,Klempererらの提唱した膠原病はなるほど純病理組織学的概念にとどまり,病因論は別として,臨床的その他の面では全く共通性がなかったのかというと,決してそうではなく,血清蛋白異常を筆頭に,臨床症状の面でも,発熱,関節痛(炎),筋痛,発疹,血沈促進,貧血副腎ステロイドの対症的有効性など多くの共通点があり,これらを度外視しては膠原病の概念はおそらくは空転し,少なくとも臨床家の現在程度の注目をひくには至らなかったであろう.

今月の主題

膠原病の成因

著者: 畔柳武雄

ページ範囲:P.20 - P.29

 1942年Klempererらが膠原病なる概念をはじめて提唱した.以来,免疫組織学的研究,臨床免疫学的研究の積み重ねと進歩により,現在では,膠原病は臓器特異性のない自己免疫疾患であると広く考えられている.本稿では,膠原病の成因について,自己免疫の立場から述べてみたい.

(座談会)膠原病の診断と治療

著者: 勝田保男 ,   柴田整一 ,   大高裕一 ,   石川英一 ,   本間光夫

ページ範囲:P.30 - P.41

 原因不明の発熱や流動的で複雑な症状を伴う疾患を大ざっぱに膠原病として扱われていた時期があったが,現在ではSLE,PSS,PM,PNなど,それぞれ非常に違ったニュアンスを持つ疾患として独立して扱われるようになってきた.膠原病についての最近の考え方と個々の疾患の診断・治療の実際について.

Leading Article

医療における法と倫理

著者: 唄孝一

ページ範囲:P.4 - P.5

 毎日のごとく論ぜられる医療問題に対して,これを患者側から権利闘争なかんつく,損害賠償訴訟として追究し,それにより医療向上に役立たせようという意見は国民の内にかなりひろがっているようである.たしかに日本の現在の医療にはあまりにも問題が多すぎる.それらに対して訴訟が果している役割は小さくないし,今後ますます大きくなるであろう.しかし,果して法や裁判によるテコイレだけで医療はどれだけ向上するものだろうか.この点はよほど吟味しておかないと,時には意外の壁の厚さのため却って無力感におちいるし,また一歩間違えば角をためて医療を殺すことにもなりかねない.注意すべきことは,裁判や法が外から医療に口をはさむことは,必ずしも医療の側からの内的な呼応をもたらすとは限らないことである.法により追究された者が法網をするりと逃げることに汲汲としたり,そうでなくとも,ぎりぎり法の要件をみたすことにのみ堕するということは,まま起こりがちのことだからである.

図解対症検査 消化器シリーズ・9

腹水

著者: 福地創太郎

ページ範囲:P.10 - P.13

腹水の原因疾患
 腹水とは狭義には腹腔内に貯溜するうっ血性の漏出液のみを意味する場合もあるが,実地臨床上は,炎症性もしくは腫瘍性の滲出液も含めて広義に解釈することが多い.
 腹水は腹部疾患のみならず,うっ血性心不全,腎疾患などにおける全身性浮腫の部分症として発生する場合もあり,その原因となる疾患は極めて多い.

カラーグラフ

目でみる膠原病

著者: 西山茂夫

ページ範囲:P.16 - P.17

 いわゆる膠原病の皮膚症状は,主として血管,結合織におけるムチン性の浮腫,硬化,フィブリノイド組織障害およびヒアリン化の表現である.それらは膠原病に特異的とはいえないが,臨床診断上特徴的な所見を呈することが多い.とくにSLE,進行性強皮症および皮膚筋炎においては皮膚症状が重要であり,その鑑別を表に示す.

診断のポイント

全身性エリテマトーデスの心所見

著者: 細田瑳一

ページ範囲:P.42 - P.45

SLEの心所見を考えるとき
 全身性エリテマトーデス(SLE)は,典型的な皮膚所見を呈する疾患としてでなく,全身の各種臓器に血管病変を主体とする多彩な病変を起こす内科的疾患として認識されるようになってきており,LE細胞,腎生検所見,抗核抗体,さらに最近では抗DNA抗体などの値から診断される疾患単位である1),2).その心所見を考える場合,
 1)SLEの診断は既についていて,SLEの部分症状として心所見を検討しながら治療を行なう場合,

強皮症の消化器所見

著者: 柏崎禎夫

ページ範囲:P.46 - P.49

強皮症とは
 強皮症は主として20歳から40歳の女性に好発し,皮膚の硬化病変を特徴とするが,関節,筋肉さらには消化管,心,肺,腎などの各種内臓臓器をも侵す原因不明の慢性汎発性結合組織障害疾患である.したがって,1945年Goetzは本症を進行性全身性硬化症(Progressive systemic sclerosis)と呼ぶことを提唱したが,必ずしも進行性なものばかりでないことから,最近は全身性硬化症(Systemic sclerosis)と呼ぶことが多い.

抗核抗体が陽性のとき

著者: 河合忠

ページ範囲:P.50 - P.53

膠原病と自己抗体様因子
 膠原病を臨床的に診断する場合,大きく2つのアプローチがある.1つは,比較的特徴的な局所症状をもっていて局所症状からそれぞれの膠原病を疑う場合で,たとえば定型的な全身性エリテマトーデス(SLE),Wegener肉芽腫症,Behçet病,皮膚筋炎,強皮症,慢性関節リウマチ,などがある.他の1つは,不定の全身症状からいろいろな膠原病以外の疾患を除外し,必要な検査を追加しながら診断を進める場合である.
 後者の場合に比較的参考になる臨床検査所見としては,赤沈値の亢進,原因不明の貧血,蛋白尿,血中γグロブリンの多クローン性増加などがある.しかし,これらの検査所見はいずれも膠原病に特異的なものではなく,他の疾患においても高頻度に認められる.そこで開発されてきたのが種々の血清学的検査方法である.すなわち,膠原病は一種の自己免疫病と考えられているが,臓器特異性自己免疫病とは異なり,単一の臓器を侵すことはなく広く全身に分布する構成成分(結合織,核蛋白など)に病変が認められるのが特徴である.このように,全身に分布する抗原成分に対する自己抗体様因子が膠原病で比較的高頻度に検出され,次のような4つの因子が重要である.

治療のポイント

副腎皮質ホルモンの長期使用法—SLEを中心に

著者: 大藤真

ページ範囲:P.54 - P.58

膠原病における副腎皮質ホルモンの適応
 副腎皮質ホルモン(steroid hormone以下SHと略)は,現在われわれのもつ最強の抗炎剤であるが,一面免疫抑制剤の1つでもある.膠原病は元来,Klemperer(1942)によって病理組織学的所見の共通性によって統一された疾病概念であるので原因論,症候学の面で完全に統一されているわけではなく,臨床上の診断・治療の対策は個々の疾病に応じてたてねばならない面が少なくない.しかし,近年SLEを中心として膠原病病態が全般に自己免疫現象によって理解されてきているので,膠原病共通の診断・治療の方向づけは自己免疫を中心とした免疫異常を対象として行なわれる傾向にある.したがって,膠原病とくに自己免疫現象の明らかなSLEを中心とした疾病の治療としては,自己免疫の対応策がその根幹をなすといってさしつかえない.
 自己免疫疾患の治療対策とは,病変局所に対する治療と,全身性の免疫異常に対する抜本的是正策とに集約することができる.前者はアレルギー炎を抑制することであるので,当然抗炎剤の適応であり,後者は抗体産生組織の自己抗体産生を抑圧する治療であるので,いわゆる免疫抑制剤の適応である.

グラフ

膠原病と肺—II.結節性動脈周囲炎(PN)/III.進行性全身硬化症(PSS)

著者: 萩原忠文 ,   堀内篤

ページ範囲:P.60 - P.65

 PNにおける肺病変は35-50%に認められるが,おもに気管支動脈領域の血管閉塞であり,肺動脈に病変がおよぶこともある.臨床症状としては呼吸困難,胸痛,せきなどが多く,ときに喀血あるいは血痰がみられる.約20%の症例は気管支喘息様症状を呈するといわれている.Roseらは本症の肺血管病変の起こり方として肺炎型,気管支炎型,喘息型の3型をあげている.これらの肺病変は他の臓器よりも先におこることがあるので,胸部X線像の読影は大切である.すなわち,心陰影拡大,胸水貯溜,肺門影増大,血管影増強の他に,"pulmonarybive"とよばれる小斑点状陰影が肺野の辺縁部ないし基底部にみられることがあり,また"bastwing shadow"とよばれる血管走行に無関係なびまん性陰影をみることがある.本症では一次的あるいは二次的に心不全を合併することが多いため,これが肺所見を修飾することがあり,肺水腫像を認める例もある.HinshawらはPN 28例の胸部X線像の所見について表のように分類している.

症例

病因考察に役立った全身性硬化症の一症例

著者: 長田尚 ,   柏崎禎夫 ,   本間光夫

ページ範囲:P.66 - P.70

はじめに
 今日一般に使用されている強皮症Sclerodermaという名称をはじめて用いたのは,1847年Gin-tracであった.しかし本症の最初の記載はもっと古く,18世紀の半ばでCurzloであるといわれている.以後本症が皮膚のみならず全身の内臓臓器をも侵し,経過がしばしば進行性であることがだんだん明らかにされるようになり,1945年Goetzは本症を全身性進行性硬化症"Progressive syste-mic sclerosis"と呼ぶことを提唱した.しかし,最近の英語でかかれた文献では,むしろ,冷身性硬化症"systemic sclerosis"という名称のはうが,多く用いられる傾向にある.
 このように,名称においても,本症はかなりの変遷があり,いまだ統一されていない,まして病因に関しては,感染,中毒,内分泌異常,自律神経異常,自己免疫説など諸説紛紛で,いずれも定説になっているものはない.さらに,本症における皮膚硬化,末節骨吸収像など,綱々の症状の病態にいたっては,他の膠原病にくらべ,不明な点が多く,解明の努力もあまりはらわれていない.

全身性疾患と心電図・1

膠原病と心電図

著者: 土肥一郎

ページ範囲:P.72 - P.74

 膠原病としてまとめられるいくつかの病気では,心筋・心嚢に炎症が起こったり,全身の血管炎ないし血管病変の部分現象として心臓の動脈に病変が見られたりすることによって,心電図に異常を生じることがある.また膠原病のうちのあるものでは,肺にび漫性の変化が生じて,肺循環系の異常から心臓に間接的な影響が及んで,その現われが心電図の変化として読まれる場合もある.
 教科書的な記載或を読むと,膠原病のどれにでも房室伝導障害とか左室肥大とか,いわゆる心筋の変化などを意味する心電図所見が出ることがあると述べられていて,何となく印象が稀薄な感がある.ここには,筆者が東大病院で20年,中央鉄道病院で6年の間に自分で観察した例のなかから,比較的印象の深かったものを2例とり上げて,経過を追った心電図の変化を説明することにした.

疫学

リウマチ性心疾患

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.76 - P.78

 リウマチ性心疾患の疫学はその原因であるリウマチ熱の疫学と切り離すことができないので,ここでは両者を併せて述べる.

新しい検査技術

α-フェトプロテイン

著者: 平井秀松

ページ範囲:P.80 - P.82

αfとは
 α-fetoproteinは,正しくは胎児性血清α-グロブリンとよぶべきところを,その慣用名としてWHOが推薦する名称である.私としては略号としてぜひαfを推奨したい.
 αfは胎児肝で合成される血清グロブリンだが,胎生5カ月を最高に以後漸減し,新生児血中には痕跡を見るにすぎず,正常成人血清には証明されない.

救急診療

重篤な気管支喘息患者の発作を診たとき

著者: 光井庄太郎

ページ範囲:P.84 - P.85

はじめに
 気管支喘息患者の死亡状況をアンケートにより調査すると,80%は発作時に死亡し,その70%は発作そのものによる窒息死である.このことより,重篤な発作ではその処置のいかんが生命を守る鍵といえる.したがって喘息発作をみたとき,それが生命に危険なものであるか否かは即座に判定されねばならない.

小児診療

小児仮性コレラ

著者: 薮田敬次郎

ページ範囲:P.86 - P.87

 たとえば"トキシコーゼ"といえば小児科では重症乳児下痢症すなわち消化不良性中毒症のことをさすが,産科では妊娠中毒症のことをさすというように各科特有の,いい慣れた病名がある."小児仮性コレラ"などもそのひとつで,小児科医であれば誰でも"白い下痢便を出す乳児下痢症のこと"とすぐわかるのであるが,内科やその他の科の人達がその病名をきいた場合,あるいは奇妙な感じをうけるかもしれない.まして母親などはコレラと関係のある恐ろしい病気なのかと大変な心配をしてしまう場合がある.このような不要な誤解をさけるために,小児仮性コレラとよばれる乳児下痢症について小児科医が考えていることについて述べ,その治療の要点を述べる.

新薬紹介

抗がん剤・抗白血病剤

著者: 宇塚善郎

ページ範囲:P.88 - P.89

Daunorubicin(Daunomycin,Rubidomycin)
 本剤は,Streptomyces peucitusおよびcoeruleorubidusから分離された抗腫瘍性抗生物質で,DNAと結合し核分裂阻害,DNAおよびRNA合成障害をきたすものと考えられている1).

免疫学入門

Ⅰ.免疫反応のしくみ

著者: 鈴木秀郎

ページ範囲:P.91 - P.95

1.免疫とアレルギー
 免疫学を概説
するにあたって,まず第1に免疫とアレルギーの区別についてのべておぐのが順序であろう.免疫とアレルギーが2つの互いに相異なる現象であるのか,それとも1つの現象の互いに相異なる面にすぎないのかという点については従来多くの議論があった.しかし現在ではこれが1つの現象の相異なる面であるという点について疑いをはさむものはないといってよい.

臨床家の薬理学

Ⅰ.解熱・鎮痛・抗炎症剤(非ステロイド系)

著者: 今井昭一

ページ範囲:P.96 - P.98

 サリチル酸誘導体を代表とする一群の鎮痛薬は,モルヒネなどの麻薬性鎮痛薬と異なり,鎮痛薬であるとともに解熱薬でもあり,また多くのものが抗炎症作用,抗リウマチ作用を併せもつ.作用の強さの点では,麻薬性のものに及ばぬが,適用の範囲ははるかに広い.

内科専門医のための診断学・25

貧血

著者: 三輪史朗

ページ範囲:P.99 - P.104

貧血をめぐる基礎的問題点
 貧血とは何か,ということを考えなおしてみると,実は明快にわりきった定義をすることが案外むずかしいことがわかる.一般的には,貧血とは末梢血液中のヘモグロビン濃度が正常値以下に減少した状態である,と考えてよい.とすれば,血液学的検査をしてヘモグロビン濃度を測定し,その値が低下していれば貧血と診断してよいわけで,貧血の診断は簡単であまり問題がないようにもみえる.だが,ここで問題になるのは,正常値はいくらかということ,および循環血液量を考慮しなくてはたしてよいのか,という点である.

新春特集 新しい医療体系を求めて

当面する内科医の技術的諸問題

著者: 川上武

ページ範囲:P.105 - P.111

 あらゆる面で日本の医療はいま転換期にあるといえるが,医師の技術的役割についての十分な検討もないままに医療が再編成され,管理医学の名の下に官僚統制下におかれたら,国民医療の危険は測りがたい.ここでは医師の原型ともいうべき内科医の将来をその根本となる内科学との関連で検討してみたい.

地域医療への提言—熊本におけるひとつの試みから

著者: 小山和作

ページ範囲:P.112 - P.114

農村の変貌と農民の健康
 九州のド真中に世界に誇る阿蘇山がある.一度たずねたことのある人はその男性的な雄大さに心を奪われることであろう.麓野に拡がる広大な平原には,放牧の牛がのどかに牧歌の調べをかなでている.下って西の方,有明海に浮ぶ大小の島々,歴史のロマンを秘めた天草がある.南に下って,口本三大急流の一つといわれる球磨川の流れを逆上れば旧相良藩の人吉があり,さらに奥に進めば郷愁の里五木や,五家の荘の秘郷が静かにねむっている.
 熊本県の観光案内をするつもりではない.今,大都会の空気はスモッグに汚れ,マトモに陽の目も拝めない有様.川はにごり,海はヘドロに埋もれ,毎日あふれ出る工場や一般家庭からの廃棄物やゴミに悩まされている.環境甚準がこれでよいのかと騒がれている.新聞もテレビもこのままでは大変なことになると大騒ぎだ.しかし,この汚れた都会の人人の健康がむしばまれ,水も空気もおいしい農村の人人がハチ切れる健康を享受しているというのなら話がわかる.いろいろな統計が教える住民の健康レベルは正に逆となっている.

医療の危機—保険医療・医学教育制度を考える

著者: 水野肇 ,   成田至 ,   春日豊和 ,   土屋俊夫 ,   太田怜

ページ範囲:P.115 - P.126

 '70年代は医療の危機の時代かもしれない.保険経済の貧困,公害,無医地区……と確かに危機の様相を呈している問題が山積している.ここでは,医療への患者の不満を通して,保険医療・医学教育制度の矛盾と対策についてそれぞれの立場から討論していただいた.もちろん,解決の糸口としてはまず国民自身の健康教育の充実が問われているのだが…….

ある病理学者の回想

私と水俣病

著者: 武内忠男

ページ範囲:P.127 - P.131

5年に1つ山を越えてきた
 ここ数年来のように公害が一般に理解され,そのために健康を侵害された人びとが救助されるべきだというきわめて当りまえのことが,すべての人びとに常識になってくると,今まで常に何かの圧迫感なしにはやれなかったような研究がやれるようになってくる.水俣を中心とする不知火海一帯のまだなされていない疫学的調査もやれるようになるし,社会的要請や地域社会の諸諸の条件で,表面に出ていなかった水俣病患者が現われてくる.それは初期にみられた水俣病の特異の症状のままの形で現われるのもあるし,変型した病型あるいは合併症など10数年の経過を伴って,きわめて多彩な形をとってくる,それらは単なるメチル水銀中毒症ではなく,それにさまざまなプラスが伴う.それらの詳細はまだ未知な分野が多い.私どもが第二次水俣病研究班を組織して,これらの医学的研究を進めるようになったゆえんのものも1つにはそこにある.
 とは言うものの,これらの研究がなんらの抵抗もなしに行なわれるとは,現時点でもなお言えない,しかし今から5年先のことを考えてみれば,今の心配は杞憂ということになってしまうだろう.なぜなら,私どもが水俣病の研究を始めて,5年毎に1つの山を越えてきた感があるからであり,最初のあらゆる抵抗や中傷も5年後には,科学的にまた医学的に出された正しいものは残り,それらは尊重されていくということがわかったからである.

海外だより

チョコレートの町にできた新しい医学部—College of Medicine, Pa State University The Milton S. Hershey Medical Center

著者: 中村治雄

ページ範囲:P.132 - P.133

 新しい医学部が,日本の各地にできつつある.ただ,医師の数を増やすという考えでなく,ぜひ立派な理念・設備・スタッフをそろえて,既存の医学部より優れた,ユニークな教育であってほしい.

読後随想

技術と哲学の間—Advance in Cancer Research(Year Book)

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.134 - P.135

手術拒否事件
 Advance in Xという型式のシリーズは何種類も出ている.私が定期的に入手して読むのはその一部にすぎない.Advance―何という魅力的なひびきをもつ語であろう.ただし私自身は医学にかぎらず,学問の無限のAdvanceをohne weitersabsolutに信用しているわけではない.
 さて,数日まえの新聞によると,Down症候群(モンゴル症)の幼児の救命―延命というべきだろうが―手術をその両親が拒否したというニュースがあった.ご承知のように,Down症候群は染色体異常症候群の1つで,主症状は白痴と発育不全,多くの奇型を合併する疾患で特有な顔貌からモンゴル症と呼ばれる.蒙古人にとっては大変迷惑な病名である.知能指数I.Q.は20とか30という低さを示すが,知能が低いというだけで死ぬわけではない.しかしいろいろの奇型が合併していて,長くは生きられない.延命的手術がなぜ絶対適応になったのかくわしいことは商業新聞の記事からは判断できない.担当医は何か手術をして,放置すれば死ぬ患児の延命をはかる必要があると言ったのに対し,両親のほうでは手術をしたところでモンゴル症がなおるわけではなく,手術による延命は患児にとって何の幸せを約束するものではないといって拒否したのである.

病理夜話

緒方洪庵先生

著者: 金子仁

ページ範囲:P.137 - P.137

 医学界の大元老,緒方知三郎先生の祖父に当る人が人も知る緒方洪庵先生である.
 そもそも緒方家の出身は大分県緒方町である.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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