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雑誌目次

雑誌文献

medicina9巻13号

1972年12月発行

雑誌目次

Editorial

ホルモンと高血圧

著者: 鳥飼龍生

ページ範囲:P.2231 - P.2231

 高血圧は人口の10%にみられる.その8割はいわゆる本態性高血圧で,残りの2割が症候性高血圧である.後者には原因に応じた治療法があり,殊に内分泌性高血圧や腎血管性高血圧では,手術による根治療法も可能である.これに対して降圧剤は効きにくいことが多い.従ってこのような高血圧の正確な診断は,実地上重要である.
 腎血管性高血圧の成因には,少なくともその初期の段階ではレニン・アンジオテンシン系が関与している.また初期に限らず,その診断には血漿レニン活性の測定が役に立つ.

今月の主題

意外に多い甲状腺機能低下症—橋本病との関連において

著者: 鈴木秀郎

ページ範囲:P.2232 - P.2241

従来,甲状腺疾患の中で最も患者数が多く,ポピュラーな疾患は甲状腺機能亢進症とされていた.しかし,橋本病に対する知識の普及は,甲状腺機能低下症が意外に多い疾患であることを明らかにし,注目を集めている.今月はとくに案地臨床の観点から,橋本病をみたらいずれは甲状腺機能低下症になるということの理解のために—

(座談会)ホルモン異常による高血圧

著者: 吉永馨 ,   増山善明 ,   佐藤辰男 ,   清水直容

ページ範囲:P.2242 - P.2252

 いわゆる内分泌性高血圧は,数の上ではごく少ないものだが,本態性高血圧との関連から,むしろこれからの問題であるといわれている.どういう高血圧をみたらホルモン異常を考えるか,実地臨床に依拠しつつ,お話し願った.

Leading Article

地域医療と人間生態学

著者: 長岡滋

ページ範囲:P.2222 - P.2223

 医学が,現在までの道程において,環境という問題に対して,等閑視しつづけてきたというのは,正当な評価ではない.古代から,たとえばヒポクラテスのテーゼにみられるように,健康を論じ,疾病について語られるときに,環境は,影響因子として,必ずそのひとつのフレーズをしめてきている.

カラーグラフ

下垂体および甲状腺機能不全

著者: 尾形悦郎 ,   戸川潔

ページ範囲:P.2228 - P.2229

 顔の視診は,内分泌疾患の疑い診断をつけるきっかけとして,非常に大きな比重を占めている.
 顔の視診の場合,ここで示す写真にみられるような静的な印象とともに,実際には,動的な表情の変化や,俗にいう顔の色つや,あるいは温かいまたは冷たい顔つき,さらに眼つき,など,微妙な点が検者に強い印象を与え,実は,これがまた,診断の重要な手がかりとなる.たとえば,典型的な場合,甲状腺機能亢進症患者の顔つきは,不安・緊張あるいは驚愕とも表現したいような具合で,眼は大きく見開かれていてするどく,しかも潤み,輝いてみえる.眼瞼や口唇は細かくふるえ,表情は活溌に変化する.全体として,そわそわと落着きのない印象で,診察にあたる私たちまでいらいらしてくる感じである.これと似た状態を示すものに,褐色細胞腫の患者がある.とくに発作時,あるいはその前後で,その傾向が比較的はっきりしてくる.Cushing症候群の患者も,ときに不安・緊張の顔つきを呈するが,この場合には,多くは抑鬱の傾向にあり,いらいらと沈んでいる,という感じの顔つきとなる.この点では,神経性食思不振症患者の顔つきも同様である.なお,さらに細かく観察すると,神経性食思不振症患者の顔には,意外とうぶ毛が多く,これらは,毛髪やうぶ毛に脱落の傾向があり,全体としてにぶい感じの顔つきをもつ下垂体前葉不全患者とは,大分ことなる.甲状腺機能低下をもつ患者では,顔は色つやに乏しく,また表情に乏しい.

診断のポイント

小体症をみたとき

著者: 原田義道

ページ範囲:P.2253 - P.2257

小体症とは
 同年齢の正常小児に比べて身長の低いものが広い意味で小体症と呼ぶならば,著しく低いものが,こびと症dwarfismである.従来いろいろの人の定義があるが,Kirchhoff1)はM(平均身長)-3σ(標準偏差)以下をZwergwuchs(侏儒症,こびと症),M-σからM-3σまでをKleinwuchs(小人症)としている.筆者ら2)はM-3σ以下をこびと症,MからM-3σまでを正常短躯者と呼んでいる.小体症はこの侏儒症から正常短躯者までを含めた広い意味での低身長者を指すものとして,今ここに小体症の患者を見た時,いかに診断し,治療可能なものは治療し,その予後がどのようなものであるかを,具体的に述べてみたい.
 治療法は成長ホルモンがまだ日常的に使用されない今日では,乾燥甲状腺末と蛋白同化ステロイドの併用を主軸とする治療法しかない3).治療可能の限界は長管骨の骨端線が未開放の期間であり,骨端線が閉鎖していれば,いかなる治療法も現在では無効である.

ホルモンと低Na血症

著者: 吉田尚

ページ範囲:P.2258 - P.2261

低Na血症を示す疾患・状態は
 健康な人の血清Na濃度は135-150mEq/lであって,比較的狭い範囲に保たれている.これは腎より水およびNaの排泄がこれらの摂取量に対応して増減する調節機構が働いているからである.ホルモン,特にアルドステロンと抗利尿ホルモンはこの調節機構の重要な一環をなしている.したがって,これらのホルモンの分泌に異常をきたした時には,その重要な症状の1つとして低Na血症が出現する場合がある.しかし低Na血症のすべてがこれらのホルモン異常によるものではないことはもちろんであって,内分泌腺の機能異常がなくても,腎そのものの異常や,あるいはホルモンが調節しうる能力の限界以上の外的要因,たとえば下痢,嘔吐などによる著しいNaの喪失があれば低Na血症となる.
 図1は低Na血症を示すことがある疾患あるいは状態を分類したもので,低Na血症をみた時にはこれとすぐに特殊な内分泌異常にむすびつけるより前に,この図1にあげられた腎その他の要因について検討しなくてはならない.しかし,このように1つの疾患の症状として低Na血症をみるのではなく,水電解質代謝からみて各種疾患にみられる低Na血症の成因を追究すると,内分泌疾患以外の疾患にみられる低Na血症においてもホルモン,特に抗利尿ホルモンADHの役割は重要である.この点については「ADH分泌異常症」の項でくわしくのべることとする.

治療のポイント

尿崩症のコントロール

著者: 水越洋

ページ範囲:P.2262 - P.2265

尿崩症の正しい診断
 尿崩症は視床下部-下垂体後葉系からのADHの分泌が,完全あるいは不完全に障害されたために生ずる疾患である.その治療についてのべるにあたってまず強調しておきたいことは,尿崩症の正しい治療のためには正しい診断がなされなければならないということで,実際に診療にたずさわる医師がもっとも心をつかわねばならぬ点である.したがって,尿崩症の正しい治療は正しい診断に始まるということができ,ここでは症例を示して実際の診療にあらわれる問題点について解説をすすめることにある.

甲状腺に腫瘤を触れるとき

著者: 伊藤國彦

ページ範囲:P.2266 - P.2269

腫瘍か否かの鑑別について
 甲状腺に腫瘤をふれたときは,甲状腺内に腫瘍が発生していると考えてよい.甲状腺腫の形状の上からの分類からいえば結節性甲状腺腫である.これに対して甲状腺組織が増殖肥大したものが,びまん性甲状腺腫である.筆者は結節性甲状腺腫はすべて甲状腺腫瘍と考えている.ただ甲状腺腫が結節性かびまん性かの区別が困難な場合がある.すなわち甲状腺に腫瘤がふれるが,これが腫瘍であるか否かがはっきりしないことがある.多くはびまん性甲状腺腫の一部分が硬結様になった場合である.これは多くは慢性甲状腺炎の甲状腺腫にみられるがときには亜急性甲状腺炎でも腫瘤のようにふれることがある.もし腫瘍でなく炎症性のものであれば,手術は無用の手段であるばかりでなく,かえって術後に機能低下症を発生するおそれがあるので,腫瘍か炎症かは厳重に区別しなければならない.多くの症例では触診により診断は容易であるが,場合によっては鑑別が困難なことがある.このような場合に頸部X線写真や甲状腺シンチグラムが診断の一助になるが,それでも困難な場合は試験切除が必要になってくる.
 甲状腺の腫瘍では,ごくまれな機能性腺腫の一部を除けば甲状腺機能の異常はみとめられない.したがって甲状腺腫があり,機能亢進なり,低下なりの機能異常がみとめられれば甲状腺腫瘍はほぼ否定してもよい.

専門医に聞く・10

間脳性下垂体不全

著者: 尾形悦郎 ,   戸川潔 ,   井村裕夫

ページ範囲:P.2270 - P.2276

症例 Y. 0. 昭和12年8月18日生,女
 昭和45年9月,小体症および原発性無月経の原因の検査および治療方針を決定する目的で,茨城県立中央病院に入院.

鼎談

バセドウ病の診療

著者: 伊藤國彦 ,   鎮目和夫 ,   尾形悦郎

ページ範囲:P.2277 - P.2284

 一目でわかるような典型例はともかく,多彩な変化を示す症例が意外に多いことが,この病気のひとつの問題点ともいわれる.したがってその確実な鑑別診断は,有効な治療に結びついて重要である.この点を導入部に,バセドウ病の日常診療のすべてについて.

グラフ

甲状腺腫のX線所見

著者: 藤本吉秀 ,   秋貞雅祥

ページ範囲:P.2288 - P.2293

 甲状腺腫を有する患者で,頸のレントゲン写真をとることは,昔からどこででも行なわれてきたことであるが,普通の撮影では,気管の圧迫や狭窄がわかり,粗大な石灰沈着のあるものではその陰影が写る程度で,診断に多少は役立つところがあったが,シンチグラムや超音波検査に比べるとその価値は低かった.ところが乳房撮影に準じて軟部組織X線撮影が行なわれるようになって,甲状腺疾患のなかでも癌に特有の砂粒腺小体psammoma bodiesが写るようになり,一躍診断価値が高く評価され,今日では欠かすことのできない検査法となった.
 今日乳癌の診断に乳房撮影が有用であることは一般に認められており,それと同じ方法で甲状腺腫のある頸部を撮影するのであるが,甲状腺の場合には,撮影する部位の解剖学的構造の違いから腫瘤陰影,周辺の結合織の走行の乱れ,血管の拡張など軟部組織の細かいニュアンスを検出することはできない.しかし幸いなことに,甲状腺腫瘤には良性・悪性ともにかなりの高率で石灰沈着が起こり,その石灰沈着の起こり方が病変の種類によってそれぞれ特徴があるので,その面から診断の役に立てようというわけである.

トルコ鞍の測り方

著者: 津久井知道 ,   山田隆司

ページ範囲:P.2294 - P.2298

 多くの内分泌腺疾患に際し,さまざまな下垂体の機能的変化が引き起こされるが,著しい場合には下垂体容積の変化さえ生じ,その結果下垂体を入れるトルコ鞍容積に変化の生ずることは昔から知られていた1).こうしたトルコ鞍容積の変化を知るため,従来トルコ鞍側面のX線撮影が広く実施されてきた.しかし立体で容積を有する下垂体を一側面からだけとらえ,その大小を比較しようとすることは全く意味のないことであって,すでに,Di Chiro2)3),Seki4)5)6)およびわれわれ7)はトルコ鞍を立体的に観察する必要のあることをくり返しのべてきた.しかしトルコ鞍を単に一側面からだけとらえようとする考えはまだ広く一般に浸透しており,この古い考えにくり返し警告を発する必要があると思われる.そういう意味から,a)トルコ鞍の容積はどのように計測されるか,b)トルコ鞍容積の正常値はどの位か,c)各種内分泌疾患時にトルコ鞍がどう変化するか,等の諸点についてできる限り平易に述べていきたいと思う.

症例

原発性副甲状腺機能亢進症

著者: 藤田拓男

ページ範囲:P.2300 - P.2302

はじめに
  原発性副甲状腺機能亢進症は過去においては稀な疾患と考えられていたが,本邦においても過去10年の間にその報告が飛躍的に増加して,既に数百例を数えている.米国ではその増加は二とに菩しく,本症は既に公衆衛生学的問題であるともいわれ,決して珍しい疾患ではなくなってきている.最近ことに12チャンネルのオートアナライザーの使用が一般化して,血清カルシウムの測定が機械的に広く行なわれるようになってその増加はさらに著明になってきている.その結果,占典的な汎発性線維性骨炎を伴うものはほとんど見られず,腎結石を主とするものが多く,またchemi-cal hyperparathyroidismともいうべき,生化学所見のみを有する軽症型で,臨床症状のみられないものもしばしば経験されている.その結果,原発性副甲状腺機能亢進症の治療にしても,従来とは考え方が変わってきており,ただちに手術を行なって副甲状腺腺腫を除去するという積極的な方法とともに,手術をしないで経過を観察していこうとする保年的方法もとられており,これも本症の経験が飛躍的に増加してきたことと,軽症の中に発見しうるように診断の技術が進歩してきたことと関係があると思われる.
 副甲状腺ホルモンのradioimmunoassayは人血中ホルモンについても可能になったが,現在なお牛副甲状腺ホルモンと人副甲状腺ホルモンの交叉免疫性を用いて検定している関係上,臨床的に原発性副甲状腺機能亢進症の診断に用いるためには,なお2,3の問題点がある.すなわち,原発性副甲状腺機能亢進症においては血中副甲状腺ホルモンレベルは当然正常者と比べて高いはずであるが,一部正常範囲にあるものがみとめられる.また正常者の中には血中副甲状腺ホルモン値が測定不能の低値を示すものがみとめられる.そこで血中副甲状腺ホルモン値のほかに,血清カルシウム値を参考として,血清カルシウム値の高いものでは通常,血中副甲状腺ホルモン値は低いはずであるのに,これが高いかまたは正常であることを原発性副甲状腺機能亢進症の指標とすることも提案された.筆者らの最近経験した1例を述べて原発性副甲状腺機能亢進症の診断のすすめ方について考えてみたい.

広東住血線虫の感染による好酸球性髄膜炎の症例

著者: 木崎治俊 ,   竹内一郎 ,   河村潤之輔 ,   浅見敬三 ,   竹内勤

ページ範囲:P.2328 - P.2331

はじめに
 南太平洋諸島と東南アジアに流行的に存在する特異なタイプの好酸球性髄膜炎が,ねずみの肺動脈に寄生する広東住血線虫Angiostrongylus cantonensisの幼虫の人体侵入による病的状態であろうことは,ハワイにて米国のRosenやAlicataらが行なった詳細な研究により,今日はほとんど疑う余地はない.本線虫の感染によるこの病態の世界最初の報告は野村・林(1945)によって行なわれた台湾での症例であり,その後,沖縄からほぼ確実な症例(Simpson et al. 1970)が見出されてはいるが,西村(1966)の注意喚起にもかかわらず,未だ日本本土からの症例は知られていない.しかしながら最近の調査によると,日本本土でのねずみにおける本線虫の感染は稀ではなく,札幌(大林ら1968,折原1972),東京・川崎地区(堀ら1969,1972),小笠原島(堀ら1972)などの家鼠から見出されており,早晩日本本土での人体感染例も報じられるものと予想される.このことはアジア・南太平洋における本症の流行学的事実(Alicata,1966)からもほぼ確実に予言されよう.
 筆者らは,インドネシアのジャカルタに在勤した一日本人がたまたまその地の陸棲カタツムリを生食したのち髄膜炎症状を呈したために日本に帰国し,入院検査の結果,広東住血線虫の感染による好酸球性髄膜炎と診断された症例を経験したので,その経過について報告し,将来わが国でも発生するであろう本症に対する読者の注意を喚起したい.

胃癌と白血病の重複例

著者: 山際裕史 ,   大西哲 ,   泉慶一郎 ,   松本常雄

ページ範囲:P.2332 - P.2335

はじめに
 重複癌(腫瘍)の概念は1869年にBillrothが異なった臓器に2つの癌腫が見出されたという報告をして以来のことであり,①各腫瘍は相異なる病理組織像を呈すること,②各腫瘍はそれぞれ異なる母組織より発生していること,③各腫瘍はそれぞれ固有の転移を有すること,とした.その後1932年にWarren & Gateは,①各腫瘍は一定の悪性像を呈していること,②各腫瘍は互いに離れた部位を占拠していること,③一方が他の腫瘍の転移でないことを条件とし,現在まで,この規範にのっとって重複癌の報告がなされてきている.現今,同臓器内に多発しているものまで重複とされることがあるが,厳密には,これらは「多中心発生あるいは多発」であり,重複癌とは原則として異なった組織臓器に由来する場合に限定して考えてゆくという原則が必要のように思える.本稿では,胃癌(早期癌IIc)と,急性骨髄性白血病の重複した55歳の男子例を報告する.

全身性疾患と心電図

甲状腺機能異常の心電図

著者: 赤塚宣治

ページ範囲:P.2319 - P.2322

 甲状腺機能異常には,機能の亢進状態および低下状態が含まれる.前者は比較的特徴的な症状を示すため診断されやすいが,後者は診断されにくい場合がかなりある.心電図的にも機能亢進症では多彩な変化が認められるのに比し,機能低下症においては,亢進症ほどには多彩な変化を示さない.

疫学

内分泌性高血圧

著者: 三浦清

ページ範囲:P.2304 - P.2307

 高血圧をきたす内分泌疾患は少なくないが,その代表的なものとしては副腎疾患があげられる.本稿では,紙数の都合上,副腎疾患と高血圧について,自験例における成績を挙げながら,その発生頻度や症候などを概説
する.

救急診療

バセドウクリーゼ

著者: 長滝重信

ページ範囲:P.2308 - P.2309

 バセドウクリーゼthyrotoxic stormは少なくとも現状では全く臨床的な概念であり,はっきりとした定義もなく,病態についてもほとんど明らかにされていない.しかしながら臨床症状は重篤であり,ひとたびクリーゼを起こせば死亡する症例も非常に多いのである.バセドウ病が手術によって治療されていた頃,術後急激に重篤なバセドウ病症状を示し短期間に死亡する例に対してクリーゼという名前がつけられたが,その後ヨード治療,抗甲状腺剤治療などが術前に行なわれるようになってからは非常にまれなものであると考えられている.

新しい検査技術

Competitive Radioassay

著者: 入江実

ページ範囲:P.2310 - P.2311

由来と歴史
 Competitive Radioassayという言葉は読者の方には見なれないものかもしれないが,Radioimmunoassay(放射免疫測定法)というとすでにご存知の方も多いと思う.発展の歴史からいうと,1959年,米国のBerson,Yalowらの努力によってインスリンのRadioimmunoassayが開発され,その後10数年の間に,後にのべるように多くの物質がこの方法によって測定され,大きな進歩をとげた.その途上,抗体の代わりに結合蛋白などの特異的な結合をする物質を用いても,Radioimmunoassayと全く同じ原理で物質の測定を行なうことができることがわかり,血液中のサイロキシンの定量などに用いられるようになった.この方法はCompetitive Protein Binding Analysis(CPBA)と呼ばれて,やはり多くの物質の測定に応用されている.この両者の違いはRadioimmunoassayでは抗体を,CPBAでは結合蛋白などを用いるだけで,アイソトープを使用する点など,他の点では全く同じであると考えてよい.
 そこで両者を統一して1つの名前をつけようということとなった.カナダのMurphyは,それに対してRadiostereoassayという言葉を提唱したが,BersonらはCompetitive Radioassayという名称を用いた.筆者はこの後者の言葉のほうが,測定法の本質―アイソトープを用い,競合現象を利用する―をよりよく現わしたものとして,適当な言葉であると考えて用いている.

小児診療

小児の衛生統計

著者: 嶋田和正

ページ範囲:P.2314 - P.2316

 わが国の戦後の人口動態は変動が著しかったが,最近はやや落ちつきを見せてきている.小児を中心に諸種の統計を紹介し,問題点を指摘してみたい.

臨床家の薬理学・12

ⅩⅡ.抗がん剤,抗白血病剤

著者: 今井昭一

ページ範囲:P.2285 - P.2286

 細菌感染に対する抗生物質の成功が刺激となって,哺乳類の細胞の無制御な増殖も化学物質によって抑制できるのではないかと考えられるようになり,そのような物質を求めて研究が盛んに行なわれたが,現在までのところ細菌に対する抗生物質の場合のような選択的な作用を癌細胞に対してもつ薬物は発見されていない.
 腫瘍の化学療法に用いられる薬物の多くはきわめて毒性が高く,腫瘍組織のほかにも成長の早い細胞におしなべて作用する.また,癌や肉腫よりは白血病の治療にはるかに有効である.

細胞学入門・6

IV.細胞形質(つづき)

著者: 山元寅男

ページ範囲:P.2323 - P.2327

c.細胞質の基質(cytoplasmic matrix)
 これまで細胞質に存在する有形形質,すなわち,細胞小器官,各種の封入体(副形質)および線維,微細小管などについて述べてきた.これらの有形形質は,細胞質の基質とよばれる無構造物質の中に埋まった形で存在する.
 固定標本を電顕的に観察すると,基質は微細顆粒状の均一な物質からなることがわかる.

第53回呼吸器臨床懇話会

いわゆる副鼻腔気管支炎の問題点をさぐる—耳鼻科医と内科医の話合いから

著者: 長岡滋 ,   中村正弥 ,   高山乙彦 ,   中島重徳 ,   岡安大仁 ,   可部順三郎 ,   芳賀敏彦 ,   田中元一 ,   岩井和郎 ,   古家堯 ,   吉岡一郎 ,   三上理一郎

ページ範囲:P.2336 - P.2346

 これまで副鼻腔気管支炎については,耳鼻科からの研究発表が多かったようである.気道は上・下に分かれているが,大気汚染の影響をみても上下互いに関連があり,あるいはまた鼻アレルギーと喘息との関係も注目されている.ここでは症例検討の上に立って副鼻腔気管支炎の問題点を内科医と耳鼻科医で追求し,今後の共同研究の一助にしたい.

オスラー博士の生涯・4

トリニティ大学文科からトロント医学校へ—1867-1870

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.2347 - P.2350

 アメリカ医学を開拓し,内科医または医学教育者として,また純粋なヒューマニストとして世界の医師から尊敬されたウィリアム・オスラーは,1949年にカナダの寒村で生まれた.父のあとをついで牧師となるために,彼はトロントのトリニティ大学の文科に入学した.

病理夜話

ビタミンE

著者: 金子仁

ページ範囲:P.2351 - P.2351

 最近「健康長寿の鍵」としてC. ウエイトが記載した本を杉靖三郎先生が訳しておられるが,ビタミンEは面白い薬である.日本医大老研所長・緒方知三郎先生がこれに眼をつけられたのはかなり以前のことである.この欠乏動物の組織が老化組織に似ているからである.
 ビタミンE欠乏食で生まれたばかりのラッテを飼育すると,10カ月くらいして後肢がしだいに麻痺してくる.終りには両足を引きずって歩くようになる.この頃の足の腓腹筋を病理組織学的に検べると,非常な変化が起こっている.筋肉の小片状変化,壊死,富核等と,ちょうど筋ジストロフィーや老人筋病変に似ている.「年をとると足がきかなくなる」というのは老人の足の筋肉に変性・壊死が起こってくるからであろう.

統計

最近の一般病床数について—昭和46年12月31日現在の医療施設調査より

著者: 小林秀資

ページ範囲:P.2352 - P.2353

 一般病床というのは,精神,結核,らい,伝染病床を除くすべての病床のことを,ここでは示しており,現在の医療問題の1つの関心事である.今月は,この一般病床について最近厚生省から公表された医療施設調査(昭和46年12月31日現在)の結果にもとづき,10年前の状況と比較しながら,ご紹介したい.

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「medicina」第9巻 総目次

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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