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雑誌目次

雑誌文献

medicina9巻4号

1972年04月発行

雑誌目次

Editorial

免疫学の歴史

著者: 木村義民

ページ範囲:P.441 - P.441

 免疫学の歴史はJenner(1798)による人痘予防という大胆な試みに次いで,Pasteur(1881)による炭疸病予防実験の成功が,ワクチンによる予防接種,免疫療法の端緒となった.しかしその時点においては,"免疫"の機作について解明されたわけではなく,単にその現象を認識したにすぎない.免疫体を物として把握するに至った最初は,Behring-北里(1890)による破傷風抗毒素の研究であろう.免疫体としての抗毒素についての解析,これによる治療効果の確認こそ,免疫学を体系づける先達となった.
 これはやがてBordetらによる抗原抗体反応の発見となり,それに続くLandsteinerらによる免疫化学発展への道につながる.免疫化学の進歩は,抗原抗体の構造的研究,抗原抗体反応の生物物理学的アプローチという今日的課題の基礎を確立することとなったが,この間におけるHeiderberger,Haurowitz,Paulingらの免疫学創生期における功績を忘却してはならないであろう.

今月の主題

免疫グロブリン異常の概念

著者: 三好和夫

ページ範囲:P.442 - P.450

 免疫グロブリンの特徴をのべ,病的変化,その種類と成因をまとめるのが本文の目的である.臨床に関係深いものについて,やや概念的にのべてみたいと思う.また,そのための資料には,著者らの従来の経験や業績に重点をおいてのべたい.

免疫グロブリンの臨床

著者: 高月清 ,   塩川優一 ,   小林登 ,   河合忠

ページ範囲:P.452 - P.461

 免疫グロブリンに関する異常にどのようなものがあり,それをどのようにして診断を進めてゆくかについてプラクチカルな話合いをしていただいた.

Leading Article

生体の情報処理機構

著者: 桑原万寿太郎

ページ範囲:P.430 - P.431

動物個体間の情報伝達
 「動物の言葉」などとよくいわれる.昆虫などから哺乳類に至るまで,同一種内の個体間でいろいろの情報伝達が行なわれる.同一種の個体が集団を作り,いわゆる動物の社会という有機的な連りをもっていく事実はきわめて広くみられる.そのようなことが成立するためには個体間の情報伝達手段が絶対不可欠である.高崎山などでニホンザルの群の研究が行なわれた結果知られたところでは,三十何種かのボキャブラリーがある.ミツバチの働き蜂は,蜜源をみつけ,十分これを吸って巣に戻ると,垂直にたれ下がっている巣面上で一種のダンスを踊り,その踊りに刺激されて踊り手に追従する仲間個体に餌の方向と距離を伝達する.踊りの速さが餌の距離を示し,踊りの直線部が垂直な巣面上で,重力方向となす角度は,巣の出入口でみる太陽の方向と餌の方向との角度に一致し,巣の垂直面上での重力の方向を,巣の出入口でみる太陽の方向に読みかえると,踊りの直線部の方向はまさに餌の方向を示している.踊り手に追従する仲間働き蜂はこの暗号をみごとに解読し,やがて正しく仲間が発見して来た蜜源に向かって飛ぶのである.

図解対症検査 消化器シリーズ・12

下腹部痛

著者: 安部井徹

ページ範囲:P.436 - P.439

 腹痛は消化器病などの診断で非常に重要な症候である.この事は今更いうまでもなく,誰でもが理解しているはずであるが,いざというとき極めて大ざっぱにしか把めず,結局,患者の苦痛や疾患の軽重,予後の推測のみに役立ち,診断にはあまり役立たないという感をいだかせる.
 しかし腹痛を,あまり理論的根拠はないにしても,現在考え得る程度の理論や経験的事実に基づいて観察してみると,なかなか馬鹿にならない診断的価値があることに気付くことも多い.特に,急性腹症のようにほとんど補助的検査の行ない得ない状況では,腹痛の注意深い分析が非常に大切であり,重要である.ここでは主に下腹部痛について述べる.

診断のポイント

見直されてきたツベルクリン

著者: 細田裕 ,   小高稔

ページ範囲:P.462 - P.466

 過去80年もの間,使い古されてきたツベルクリンは,免疫学の進歩と共に新しい命が与えられ,今や結核診断だけではなく,広く生体の免疫状態を映す鏡として重視されている.近年発売されているツベルクリンはPPDsで,使うたびに溶解する手間はわずらわしいが,もっと手広くツベルクリンテストを行なうことによって,小児科・内科・皮膚科・眼科などの各領域で興味ある問題が見つかりそうである.

IgEとアレルギー

著者: 富岡玖夫

ページ範囲:P.467 - P.470

 ヒトの気管支喘息や花粉症などのアレルギー性疾患の患者血清中に,レアギン(reagin)と呼ばれる抗体が存在していることは,Prausnitz-Küstnerの有名な実験(1921年)以来アレルギー学の分野で注目をあつめてきた.しかしその免疫化学的性質の解明は,1966年石坂らによって新しい免疫グロブリンE(IgE)がレアギンの担い手であることが証明されるまで,40余年の歳月を必要とした.Johanssonら(1967年),小川ら(1968年)によるIgE骨髄腫の発見は,IgEの免疫化学的解析,IgEの定量,IgEの生物学的活性の解明に大いに役立っている.今日臨床において,アレルギー疾患患者血清や分泌液中のIgEの定量がさかんに行なわれ,IgE値と疾患の診断・治療との関連性が検討されつつある.

胸腺を考えるとき

著者: 土屋雅春

ページ範囲:P.471 - P.477

 ここ数年間の進歩のうち,胸線に対する概念ほど変貌の烈しいものはない.胸腺異常というと,胸腺腫のことと早合点し,また胸線リンパ体質という言葉の上の“胸腺”を連想する時代は去り,今やBurnetのいうT-D System(thymus dependent syatem)に包括される疾患群との関連において考える時代になっている.しかし,Thymology1)(胸腺学)は基礎医学を中心に華やかな発展をとげつつあるとはいえ,臨床においてどのように理解していけばよいのか迷う医家も少なくあるまい.
 ここには胸線の臨床に占める位置を示しておきたい.

治療のポイント

免疫抑制剤の使い方

著者: 輿石義晴 ,   今井龍雄 ,   横山淑雄

ページ範囲:P.478 - P.483

はじめに
 1966年アメリカの連合生物学総会(Federationof American Societies for Experimental Biology)で免疫抑制療法を主題としたシンポジウムがもたれ,アルキル化剤,抗葉酸剤,プリン誘導体などを中心として基礎的ならびに臨床的な研究が数多く発表され,抗リンパ球血清についてもすでに報告されている.さらに1969年にはアメリカ科学学士院が主体となって抗リンパ球血清に関する国際的な会議が開かれている.これらの学会は免疫抑制療法から移植免疫の抑制にいたるまでの研究の流れがうかがわれ,従来の基礎と臨床が集大成され,さらに今日までの進歩の土台にもなっていると思われる.
 一方免疫抑制療法はこのように広く世界的視野で研究されてはいるが,現在のところ適応症や治療法がすべて確立されているわけではない.それどころか免疫抑制剤さえも現時点では制癌剤あるいは抗生物質として開発された薬剤が大部分で,真の意味での免疫抑制剤の開発は今後大いに期待されているのが現状である.

専門医に聞く・2

原発性マクログロブリン血症

著者: 河合忠 ,   小川哲平

ページ範囲:P.484 - P.488

【質問1】
 尿を60℃に加温しますと白濁が起こりますが,100℃以上に煮沸しても白濁は消失せずむしろ白濁が増強しましたが,この場合Bence Jones蛋白陽性としてよいのでしょうか.

カラーグラフ・グラフ

免疫グロブリン異常に関する検査

著者: 河野均也

ページ範囲:P.491 - P.499

 免疫グロブリンの質的あるいは量的異常は種々の疾患に際して認められ,その解析は疾患の診断および病態の把握を行なう上に重要な意義を有する.免疫グロブリンの検査は非常に高度で詳細な分析方法が開発されており,免疫学的手技を用いる方法のほか,血液学的検査,血液化学的検査および尿検査などにより検索されるが,簡易な日常検査でも免疫グロブリンの異常を推測しうるものがあり,これらをうまく読みこなすことが大切である.

症例

Heavy-chain(γ-chain)病の1症例—骨髄腫型をとった本邦第1例目の臨床像と最近の知見

著者: 辻孝夫 ,   小林敏成 ,   山田剛太郎

ページ範囲:P.501 - P.507

 血清中および尿中に,免疫グロブリンの中のγGをパパインで消化した際にできるFc fragment(図1)に似た蛋白をmono-clonalにみとめるheavy-chain(γ-chain)病1)は,世界中に16例2)あるとされるが,その予後は悪く,筆者ら3-6)の本邦第1例目の症例(Yo,H. 例)を除いて現在生存している症例はない.
 そして,このheavy-chain(γ-chain)病蛋白は,免疫グロブリンの構造や抗体蛋白の生合成に関する遺伝的支配の諸問題などという免疫学の基本的問題解明の非常に貴重な資料として、現在世界の第一線研究者によって検討されているが,本稿では,筆者らの症例の臨床像を記載するとともに若干の最近の知見を加える.

疫学

骨髄腫

著者: 谷内昭 ,   赤保内良和

ページ範囲:P.510 - P.512

診断技術の進歩と症例数の増加
 多発性骨髄腫は約10年前までは比較的まれな疾患とされていたが,抗体産生細胞の腫瘍性病変として特に免疫グロブリン異常をめぐる問題が注目され,しばしば諸学会のテーマにとり上げられ,臨床医の間にも本症に対する関心が非常に高まった.同時にセルローズアセテート膜電気泳動や免疫電気泳動が昭和37年頃から普及し始め,全国各地域病院および臨床検査センターなどで血清蛋白の分析が容易に行なわれるようになり,本症の発見率が著しく増加した.それゆえ多数の症例が報告され今日では本症が非常に増加しているかのごとき印象を与えている.
 このような発見率や診断正確度の上昇が統計上死亡総数の増加に反映することは,かつて肺癌や膵癌の場合にもみられた現象であるが,本症についてもその点がすでに指摘されており,真の増加があるかどうか疑問視されている12).

新しい検査技術

RPRサークルカードテスト

著者: 水岡慶二

ページ範囲:P.514 - P.516

 近年,臨床検査の部門では簡易調製試薬が普及し,キットになった市販品を購入すれば容易に検査がおこなえることが多くなった.梅毒の血清学的検査法にもこの傾向がみられ,RPRカードテストと呼ばれる簡易検査法が実用に供せられるようになってきている.
 RPRカードテストはRapid Plasma Reagin Card Testの略称で,本法は1962年Portnoyら1)によって発表されたものである.しかし,ここに紹介する方法は,その後Portnoy2)(1963)によって改良された方法で,RPR circle card testと称せられるものである.

救急診療

ヒステリーかてんかんか—鑑別と処置

著者: 冨永一

ページ範囲:P.518 - P.519

47歳 未婚婦人例のあらまし
 来院 下町の救急病院に入院中で,「11月24日夕,その日1日食事せずにいて,セデス約20錠をのみ,意識がなくなり,救急車で入院.その頃月経中で,その夜から嘔気と嘔吐がやまず,26日からは嘔気のみとなったが,しばしば躁状態となり,それは夜間消灯後にとくにひどくなる.もともと難聴があり,右耳の鼓膜はない.しかしこうなったのは,この難聴のためばかりとは思われず,以前にも自殺を企ててさわがせたことがあり,ことに月経の頃に躁あるいはうつの状態になると家族はいう.精神科でみてもらいたい」という紹介状をもって,末の妹とともに,12月2日来院した.
 大声で話しかけるときこえるので,本人と付き添いの妹とから,家族歴と既往歴をききながらみたが,外来では普通に応待し,おちついていた.

小児診療

登校・登園の時期

著者: 加藤英夫

ページ範囲:P.520 - P.521

 幼稚園の幼児あるいは学童がネフローゼ,腎炎,心疾患あるいは喘息に罹患し,加療の結果,症状が改善しつつある時に,いつから登園あるいは登校を許可するかは,私ども小児科医が常に悩まされる問題である.ここではこの問題について考察してみたいと思う.

統計

主要死因の死亡率について

著者: 小林秀資

ページ範囲:P.522 - P.523

 現在,昭和45年10月1日に行なわれた国勢調査の結果が少しずつ発表されている段階である.今月では,すでに発表された国勢調査の1%抽出結果を利用して計算した主要死因別の年齢訂正死亡率をお知らせしたい.
 事実,全数による国勢調査の結果により計算されることが望ましいのであるが,それはもっと先のこととなるうえ,1%抽出結果を利用しても訂正死亡率にほとんど差はないので発表した.

臨床家の薬理学・4

IV.自律神経薬

著者: 今井昭一

ページ範囲:P.525 - P.527

自律神経薬の作用機序
 自律神経系に作用する薬物は,神経系のどこに作用してもよいわけであるが,実際上作用点として問題となるのは,興奮の伝達が下に記すような物質によって化学的に行なわれている神経と神経との接合部,あるいは神経と効果器官との接合部である.

全身性疾患と心電図

異蛋白血症と心電図

著者: 太田怜

ページ範囲:P.528 - P.530

異蛋白血症は心電図に影響するか
 "異蛋白血症と心電図"という題であるが,異蛋白血症が,心電図に影響を与えるかどうかは疑わしい.たしかに,肝硬変のとき,T波の平低化やQT延長は多くみられ,Wuhrmannによって,Myocardoseという概念が導入されたが,これはむしろ低蛋白血症によるものであり,純粋な意味での異蛋白血症によるものではない.異蛋白血症の代表的な疾患として,アミロイドーシスがあげられ,これは心電図に変化を与えるが,その原因としては,異蛋白血症より心筋へのアミロイドの沈着のほうをよけいに考えるべきであろう.種々の感染や,膠原病のさいにも,異蛋白血症がみられ,心電図にそれなりの変化のみられることもあるが,これも心筋炎や膠原病そのものの心筋への侵襲という見かたで,その変化をとらえるべきであろう.
 そこで本稿では,たまたま異蛋白血症と粘液水腫を合併した例をとりあげて,いずれがより多く心電図に影響を及ぼしたものであるかを検討してみることとする.

免疫学入門・4

IV.免疫とアレルギー

著者: 鈴木秀郎

ページ範囲:P.531 - P.535

1.ふたたび免疫とアレルギー
 この講座の初めに述べたように,抗原抗体反応の生体におよぼす結果のうち,生体に有利な現象を免疫といい,不利な現象をアレルギーという.この2つの現象はみかけ上かなり異なる印象を与えるが,恐らく同一反応の2つの面と考えられる.
 これら2つの現象のうち生体にとって有利なもの,すなわち免疫現象は,本来外来抗原とくに病原体に対する防禦機構として作用するものである.病原体に対する防禦機構には,病原体の如何を問わず作動するもの,すなわち非特異的防禦機構と,ある特定の病原体に対して作動するもの,すなわち特異的防禦機構とがあり,後者がすなわち免疫である.

私の治療方針

喘息とスプレー

著者: 梅田博道 ,   木島昻

ページ範囲:P.536 - P.543

 喘息の薬としてポピュラーな,いわゆるスプレーが要指示薬になった.その副作用がジャーナリスティックにとりざたされ,一転して恐い薬の印象を一般に与えているようである.しかし,「匙加減」と昔からいうように,薬は本来「恐いもの」なのである.だからこそ,その作用機序の明確な把握と,患者への正しい適応を導く医師の存在があるであろう.そうした根本的な問題を,この対談は浮き彫りにしてみせてくれる.

medicina CPC

著明な貧血と肝腫大を主徴とした1例

著者: 竹内正 ,   古沢新平 ,   高橋隆一 ,   日野志郎

ページ範囲:P.545 - P.554

症例 S. T. 68歳 男
入院 昭和45年5月19日
死亡 昭和45年6月17日

特別掲載

ツボと経絡と針麻酔の原理

著者: 北京針麻酔協同班 ,   守屋洋

ページ範囲:P.557 - P.564

 針麻酔はわが国の多数の医療従事者が偉大な指導者毛主席の「中国の医薬学は偉大な宝庫であり,その発堀と向上につとめなければならない」との教えを守って,臨床実践を通じて獲得した新しい成果である.針麻酔の臨床と理論研究はともに不断に発展し,豊富な経験を積み重ねている.針を体に刺す,または耳に刺すという従来の針麻酔法の基礎の上に立って,多数の医療従事者は実践を通じてさらに多くの他の形式の針麻酔法の開発に成功し,針麻酔の前途をいっそう明るいものにしている.針麻酔の理論原理については,神経系統の働きを重視する見方,経絡説をとる見方など,さまざまな見方があり,討論が続けられている.われわれは,毛主席の哲学思想を学び運用し,実践を繰り返すことによって,必ずや針麻酔の科学的原理をつきとめることができると信じている.
 われわれは,現に針麻酔で手術が行なわれているという基礎の上に立って,針麻酔の原理に検討を加えてみた.ここでは,討論の争点となった幾つかの間題について,われわれの初歩的な見方を紹介してみたい.

話題

山積する検討課題—厚生省スモン調査研究協議会の「キノフォルム見解」をめぐって

著者: 石川哲

ページ範囲:P.451 - P.451

 長いこと不明の奇病とされていたSMONに対して去る3月13日に厚生省スモン調査研究協議会から「その主病因はキノフォルムであると判断する」という結論が提出された.周知のごとく本症は本邦に多発し,その発生も昭和30年代からであり,分布はほぼ日本全国にわたっている.研究協議会のメンバーの努力により,一応キノフォルムを疑うことは一昨年秋にこの問題がマスコミで大々的に取り上げられてから注目されはじめたことも事実であろう.
 それまではいくつかの学説が出現しては衰微するといったことがくり返された.筆者も昨年までこの研究協議会に加わっていたので,今回この時評を書けと依頼されたに違いないので,あくまで私個人の印象ということをあらかじめお断わりして,私見を中心に紹介してみたい.
 世界的注視の中で 本症は現在患者の会が結成され,国と製薬会社を相手に裁判を起こしている最中であり,その規模の大きさはマンモス化し,おそらく世界中の学者達もこのなりゆきを見守ることであるに違いない.従って日本の今回の報告書も世界中の学者に追試をされるであろうから,その内容はそれに耐えなければならない.スモンの主要症状として

読後随想

—五人のカルテ マイクル・クライトン著 林克己訳 医学をみる眼 中川米造著—病院のあり方はこれでいいのか

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.555 - P.556

"原点に帰れ"の乱用
 医療問題を考えるのに二通りのアプローチがある.医者の立場からと患者の立場からとである.評論家をふくめて社会からのアプローチは患者の立場からのそれであるといえよう.それぞれのアプローチは単独では完全ではない.なぜなら医者は患者社会あるいは広くその国の経済状態に明るくないし,同時に患者のほうは医学や医者の立場に明るくはないからである.生命は地球より重いという錦の御旗にはだれも反発しようがない.それゆえにこそ,このような「反揆不可能」なテーゼにだけたよる論評は多分に情緒的で,箸にも棒にもかからぬことになるのである.そもそも考えたり,論議したり,疑ったりすることがないならば,論というものが成り立たないからである.だからわれわれはあまりに安直に,反揆不能な金言だけをふりまわして議論することを警戒しなければならないのである.
 医者のほうでも近頃は専門家分化が至上命令のごとく言いはやされている.その結果,すでに今日現在でも「専門家はいても,医者はいない」という悲しむべき状態に陥っているではないか.各専門が閉鎖的になり,自分の専門をふりまわすのは,反揆不能の金言だけにたよって議論しているのと同じことである.

病理夜話

ノイローゼ(その3)

著者: 金子仁

ページ範囲:P.565 - P.565

 吻合はよくできていたので,胆汁はどんどん排泄される.ドレーンを腹からたらして,胆汁をベッドの下のビンに出しているので,よくわかる.黄疸は日に日によくなる.体力もようやく回復してきた.頭の働きも回復してきた.
 こうなると今までは「生命が助かってよかった」と感謝のみであったのが,「何で石が取れなかったのか」とむしろ,うらみにさえ思うようになった.この残った石から胆管癌が発生しやしないか,吻合部から細菌感染を起こして肝膿瘍ができはしないか—実際石の周囲の胆管から腺癌がジリジリと増殖する組織像すら頭に鮮やかに描かれるのである.

診療相談室

減食療法の食箋について

著者: 松木駿

ページ範囲:P.566 - P.567

質問 貴教室で実施している減食療法で,1日1000Cal,900Cal,700Calの各1日量の減食療法食箋について具体的にご教示ください.(大阪K生)
答 1000Cal食,900Cal食,700Ca1食の献立の1例を示した.もちろんもっと変化のある献立も可能であるが,3種の間でなるべく同じ献立を使い,米飯量を変えたり,牛乳や果物を加えて作製しているのは,実際に病院における作業を簡易にするためである.

慢性胆のう炎の病態と診断

著者: 亀田治男

ページ範囲:P.567 - P.568

質問 慢性胆のう炎とはどんな病態をいうのでしょうか.はっきりしたようなしないような病名ですので,その概念と診断法をご教示ください.(太田区S生)
答 慢性胆のう炎は一般の炎症とは多少異なる面があるために,その概念は理解しにくく,診断もすっきりしない印象を与えることが少なくないようである.その理由は種々あげられようが,とくに非細菌性.化学的胆のう炎の存在,胆汁の感染と胆のう壁の病変の関係,胆石・胆道ジスキネジーの合併などが病態を複雑にしているためと思われる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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