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雑誌目次

雑誌文献

medicina9巻5号

1972年05月発行

雑誌目次

Editorial

消化吸収試験とその評価

著者: 松永藤雄

ページ範囲:P.585 - P.585

 消化器・代謝疾患の原因,また結果としておこる消化と吸収の機能の変化を知ることは,それらの診断・治療計画・予後推定などに重要である.しかし戦前にはこの種の機能検査に有力な方法はほとんどなく,糞便の諸検査や,腐敗性および醗酵性消化不良症の指摘などに止まる貧弱な段階にあった.従ってこの方面のテストは,戦後,とくに最近20年に進歩したといって過言でない.Shinerにはじまる小腸生検の材料を自在に活用しての光顕・電顕・走査電顕などの観察に加えて,生化学・組織化学・酵素学的に研究する道が開けたが,他方にRIをlabelしてそのtraceを追う方法が容易となり,またこれらの組合せによる組織内RI量の測定やradioautographyなども研究に寄与してきた.
 この種の躍進は医学全般にいえることであるが,機能異常ひいては疾患の程度を,大まかながら量的段階に分けて診断できるようになったことは,それまでマクロの形態変化を診断基準とする傾向が,この期間に機能検査法に入れ替わりつつあった結果ともいえる.しかしこの間に上部および下部消化管ではX線と内視鏡の診断学が躍進したのに対し,消化吸収の主な舞台の小腸では,両者の進歩が遅々としているので,機能面検査法の進歩を一層close upしたともいえよう.

今月の主題

食物と下痢

著者: 亀田治男

ページ範囲:P.586 - P.592

 下痢を主症状とする疾患は多彩であるが,近年わが国で遭遇する下痢性疾患にも種々の変化がみられている.これについては抗生剤をはじめとする治療法の影響とともに,食物など生活環境の関連にも注目しなければならない.食物と下痢の関係は古くから検討されてきたが,その時代に応じて再吟味していく必要があろう.ここでは食物の消化吸収と下痢,下痢性疾患の変遷と特徴,最近注目されている牛乳不耐症などを中心に解説する.

(座談会)腸疾患の問題点—病態の把握と治療の要点

著者: 平石浩 ,   日野貞雄 ,   石川誠 ,   吉雄敏文 ,   岡部治弥

ページ範囲:P.594 - P.604

 腸疾患の治療というと,感染性疾患以外はまず根治療法がないようである.また,精神面の影響が強く出てくるのも腸疾患の特徴で,日常診療上の苦労も多いところである.ここでは,感染性腸炎,潰瘍性大腸炎,限局性腸炎,吸収不良症候群,機能異常を中心に,それらの病態にあった治療方針を考えてみたい.

Leading Article

Sutherlandとcyclic AMP

著者: 吉田博

ページ範囲:P.580 - P.581

cyclic AMP発見のきっかけ
 アドレナリンを注射すると血糖が上昇することは古くから知られている.同様に肝臓の灌流液中にあるいは肝切片浮遊液に,アドレナリンを添加しても肝臓からブドウ糖が遊出してくる,そしてこのとき肝臓中のグリコーゲンは減少する.すなわちグリコーゲンからブドウ糖への解糖系がアドレナリンで促進される,しかし,細胞をつぶした肝臓エキスなどを用いると,いくらアドレナリンを添加しても解糖作用の促進は見られない.このようにアドレナリンなどのホルモン作用の発現には完全な細胞構造が必要であるとの考えが永く医学界の常識となってきた.これを打ち破ったのが昨年ノーベル賞(医学生理学賞)を受けたSutherlandである.
 1950年代の中頃,アメリカ,オハイオ州のウェスターンリザーブ大学の薬理学教室でアドレナリンの解糖促進効果を細胞をつぶした系(無細胞系)で再現しようとの研究に没頭にしていたSutherlandは,この研究の経過中にcyclic AMPを発見した.肝臓ホモジィネートを遠心して得られた顆粒分画にATP,Mg++とアドレナリンとを共存させ反応させると熱に安定なある因子ができ,この因子を肝臓の可溶性分画に添加すると肝細胞にアドレナリンを添加したのと同様な効果,すなわち解糖系の促進が見られたのである.この耐熱性の解糖促進因子が3′,5′-cyclic adenosine monophosphateなる構造を持ったものであることが明らかとなったのは1958年のことである.

診断のポイント

小腸機能検査のすすめ方

著者: 笹川力

ページ範囲:P.605 - P.609

小腸の機能
 小腸はその運動によって,十二指腸から入ってきた食餌内容を1.5〜3.5時間を要して回腸末端まで輸送し,その間に分泌や各種栄養素の消化吸収を行ない,生命保持に欠くことのできない大切な機能を有している.またアルブミン代謝にも大きな位置を占めていることが近年明らかにされた,すなわち,肝でアミノ酸より合成されたアルブミンは血管系を循環し,一部は組織蛋白の生成にあずかるが,他は小腸内に排出されてアミノ酸に分解され,再び吸収されて肝でアルブミンに合成されるという,いわゆる腸肝循環が行なわれている.さらに肝で合成され,腸内に排出される胆汁酸についても腸肝循環が認められ,回腸下部の病変,切除,バイパスなどでその再吸収が障害された場合には,大腸での水分吸収が妨害され,下痢をみる.最近,このようなCholegenic diarrheaあるいはCholerheic enteropathyにイオン交換樹脂であるコレスチラミンが有効であると報告されている1)-3)

見逃がしやすい小腸疾患—非特異性多発性小腸潰瘍症を中心として

著者: 八尾恒良 ,   淵上忠彦

ページ範囲:P.610 - P.613

はじめに
 実地医家にとって,小腸疾患,殊に器質疾患の診断は極めて困難と考えられ,また敬遠されがちなものの1つであろう.
 これは小腸には器質的疾患,殊に悪性疾患の頻度がきわめて低いことが,その一因となっていると考えられる.試みに,表1に昭和38年1月より,昭和46年6月までの九大二内科の全入院患者中に占める小1湯疾患の頻度と内訳を示した.この間に小腸疾患を主な理由として入院した患者は110名(2%)であるが,更に術後障害を除いた器質疾患のみを対象とすれば,僅か17例で,この間の全入院患者中にしめる頻度は0.3%にすぎない.このように小腸の器質疾患は,診断の困難な症例が集まり易い大学病院内科においても,きわめて稀な疾患であるので,第一線の医師にとっては更に頻度の低い疾患であることが予測される.

治療のポイント

下剤の功罪

著者: 名尾良憲

ページ範囲:P.614 - P.617

はじめに
 下剤Catharticsは排便を促進する薬物で,Katharsisとはギリシャ語にてpurification(浄化)を意味する.下剤は古くから好んで用いられてきた薬剤で,その理由の1つには,便秘が人体に有害な作用を示すという一種の迷信的な考え方がその根底にあったのである.ところが便秘そのものによって腸内の有毒物が吸収されて有害に働くということは,肝性昏睡をおこすような重篤な肝疾患以外には考えられないし,また根拠もないので,このような意味における下剤の使用は,現在では行なわれない.
 常習便秘のうちで,弛緩性便秘は,かなり多いものだが,排便は1日1回あるべきだという考え方が,広く大衆に根づよく行きわたっているので,1日でも排便がないと,心配のために精神的不安を招き,その結果として頭痛,めまい,食欲不振などをひきおこし,下剤を服用することになる.また患者が便秘を訴えて来院すると,簡単に下剤を投与する医師も少なくない.このような下剤の乱用が習慣性を招き.ついには下剤なしでは排便がないような状態に追いこまれる.

止痢剤の使い方

著者: 大貫寿衛

ページ範囲:P.618 - P.621

はじめに
 止痢剤は元来対症療法薬であって,たとえそれが過食などによる単純な下痢にたいして用いられる場合でも原因療法となるものではない.だからその適応を一般的に言えば,下痢が長く続いたり,あるいは下痢が非常に激しかったりしたときということになるが,感染性の下痢,ことにその初期には止痢剤投与はむしろ好ましくないし,潰瘍性大腸炎などの激しい炎症が存在する場合も効果は期待できない.しかし単純な下痢や過敏大腸症候群にみられる情緒性下痢では,下痢をとめること自体が害になることはないし,また止痢剤による治療の効果も期待できるので,下痢が長く続くとか激しいということとは別により適応と考えてよい.
 膵性下痢や胃性下痢も長く続くものであるが,これには止痢剤より原因的な治療が必要であるし,吸収不良症候群や盲管症候群でも同じことが言える.糖尿病者にみられる下痢は合併症としての末梢神経障害によるものとされており,いったん下痢が始まると糖尿病のコントロールをよくするだけではなかなかとれない.この場合も止痢剤による改善はあまり期待できないが,バセドウ病にみられる下痢は甲状腺機能が改善されれば治まってくるのがふつうである.
 そういうことからここでは,単純な下痢や過敏大腸症候群などのように,非特異性下痢に対する止痢剤の投与についてのべることとする.

専門医に聞く・3

胃亜全摘後の低蛋白血症と貧血

著者: 栗林忠信 ,   岡部治弥 ,   山形敞一

ページ範囲:P.622 - P.628

症例 66歳 男(入院:昭和46年8月27日)
主訴 全身浮腫

カラーグラフ

腸の内視鏡診断

著者: 平塚秀雄 ,   禹博司 ,   朴沢英憲

ページ範囲:P.634 - P.635

 Kussmaul(1869)が劔呑みの見世物に端を発し初めて食道鏡を工夫したのは余りにも有名だが,やがてMikulicz(1881)の胃鏡に発展し,さらにファイバー光学系の導入と画期的な開発により食道,胃,直腸の内視鏡診断学はすでに完成された検査法といえよう.そしてより深部の生体内部を窺おうという内視鏡学者の欲望は十二指腸,大腸をも征服しつつあるが,さらに最近はより深部の腸管即ち小腸(空腸・回腸)に挑戦し,小腸内視鏡開発委員会(竹本ら)が設けられ,小腸ファイバースコープの開発を目指している.
 しかし成人の腸管は解剖学的には6〜7m以上とされ,しかも60cm位の腹腔内に複雑な形・位置によって内蔵され,また腸索は相互に重畳されているため,X線診断も非常に立遅れているのみならず,特に小腸は内視鏡家の前に秘境として閉ざされている感が強い.そこで先ず何はともあれ,すでに試作されたファイバースコープの挿入の可否であって,しかもスコープをいかに確実に,安全に,容易に挿入し得るかという点にしぼられるが,最近われわれの考案した腸紐誘導法(Ropeway法)が深都腸管へのファイバースコープ挿入を可能ならしめ,全腸管の直視下観察,直視下生検に成功したのでその一端を紹介する.

グラフ 腸X線像のみかた

I.腹部単純撮影でどこまでわかるか

著者: 岡部治弥 ,   阿曽弘一 ,   比企能樹

ページ範囲:P.637 - P.641

 読影は他の資料をいっさい参考とせずに行ない,ついで臨床資料と照合して再評価する.
 読影順序

II.造影でどこまでわかるか

著者: 湯川永洋 ,   湯川研一

ページ範囲:P.642 - P.647

 腸のX線造影法は,小腸では経口法が主であるが,最近では注腸法を用い造影剤および空気を注入して小腸下部まで送りこみ,同部を検査する方法も行なわれている.つぎに大腸では経口法と注腸法があって,機能的検査には経口法が,器質的検査には注腸法が適していることは周知のとおりである.課題は腸X線像—造影—となっているが,ここでは経口法を省略し,注腸法による大腸のX線像につき述べることとした.
 注腸法としては,わが国では従来正規の検査法で充盈像および残存粘膜像(レストレリーフ)を,Fischer法で二重造影像を撮ってきた.Fischerの二重造影法は低濃度の造影剤を使用するもので,上記正規の検査にひきつづき行なうことができるので都合がよいが,微細な病変を描写することはできない.これが可能となったのは高濃度の造影剤を使用するWelin法が登場してからで,癌に併存したsentinel polypの手術標本からみて,ポリープのような隆起性病変なら0.3cmまでは発見可能である.そのほか高圧撮影法はポリープのような隆起性病変の検査に用いられるが,常に成功するとはかぎらない.

疫学

過敏性大腸症候群

著者: 中野重行 ,   中川哲也

ページ範囲:P.654 - P.655

発症機序と心理的因子の関与
 下痢,便秘症状は,日常臨床でしばしば遭遇する症状である.これらの便通異常,および腹痛,ガス症状などを主訴とし,しかも各種の検査によっても,これらの症状の発生を説明するに足る器質的病変が証明されず,心理的に積極的に誘因と考えられるものが認められ,従って治療上心理療法を含めた機能疾患としての取扱いが重要な意義をもつ疾病像が,過敏性大腸症候群(Irritablecolon syndrome)と名付けられていることは衆知の通りである.
 本症の初発ないしは再発・再燃の誘因として,心理的問題が高い頻度で認められることは諸家の報告しているところであるが,本症の発生のmechanismを心理的側面からみると,次の2点が重要と考えられる.すなわち,第1に,心理的問題(葛藤状態など)によって実際に大腸の機能異常が起こるかということ,換言すれば,情動と大腸機能との関連性が実証されるかということと,第2に,もしそのようにして大腸機能異常が起こるとしたら,どの程度からを病的と考えるかということ,換言すれば,患者自身の病感(自分の状態を病気と感じること)がどのようにして出現するかということである.第1の点については,これも幾多の諸家の実験的研究がある(Graceら,Almyら,福元).

新しい検査技術

モノテスト

著者: 富田仁

ページ範囲:P.656 - P.657

 ここでいうモノテストは,感染性単核症InfectiousMononucleosisの簡易診断テストという意味にとり,Monotestという商品名を意味しないものとする.商品名の時は,Monotestと書くこととする.筆者ら1)はMonospotにっいて検討したので,それについて詳述する.

救急診療

急性虫垂炎の鑑別診断と治療

著者: 中島幹夫

ページ範囲:P.658 - P.659

はじめに
 急性腹症として受診するものの中では,急性虫垂炎は最も多い疾患であり,虫垂炎は早期手術との考え方が普及している今日,患者が手術を希望して来院する場合すら少なくない現状である.膿瘍形成,汎発性腹膜炎等の合併症を伴う虫垂炎の症例が比較的少なくなった反面,虫垂切除が安易に行なわれることが多く,切除された虫垂の病理検査では,8.3%が正常であるとの報告もある.定型的な虫垂炎の診断は困難なことではないが,常に慎重な鑑別診断が望ましい.

小児診療

小児と旅行

著者: 松島富之助

ページ範囲:P.660 - P.661

旅行に必要な諸条件
 1.旅行に対する小児の反応
 旅行の定義がはっきりしないが,ここでは半口以上の外出またはそれ以上に及ぶ場合を想定して書いた.
 小児はもともと戸外へ出たいという本能的欲求をもっているが,それを表情にあらわしてつれ歩かれると方々を見廻すようになるのは生後2カ月がらである.つまり生後1-2カ月の間は表情的には大きな変化はない.

統計

わが国の肝硬変—最近の動向

著者: 小林秀資

ページ範囲:P.662 - P.663

 先月号では,わが国の主要死因のうち,肝硬変死亡が粗死亡率のみならず,訂正死亡率の上でも上昇してきたことを紹介した.本号では,その肝硬変死亡について述べてみたい.

臨床家の薬理学・5

Ⅴ.強心剤

著者: 今井昭一

ページ範囲:P.630 - P.631

 本稿では,強心薬という言葉を,心臓に直接作用してその収縮力を強める薬の意味に限定して使用する事にする.この意味の強心薬として,臨床的に使用されているのは,強心配糖体とキサンチン類とである.交感神経アミンも,急性の心拍停止や,末梢血管の緊張低下に基づく血圧下降の際に使用されるが,前者は交感神経アミンの心筋自動興奮性亢進作用を利用するものであり,後者も主として末梢血管収縮作用を利用せんとするものであって,何れの場合にも強心作用を主目的とするものではない.そこで以下の叙述はキサンチン類と強心配糖体とくに後者を中心に進めることにする.

全身性疾患と心電図

下痢と心電図

著者: 太田怜

ページ範囲:P.649 - P.651

 心電図上,ST・T変化をみたとき,それをすぐに虚血性病変の結果であると即断しない習練も,時に必要である.では,その原因がなにかといわれると返答にこまるが,時には思いがけないことも,1枚の心電図から推測できる場合もあるということで,以下に「下痢と心電図」の症例を図示してみることとする.

免疫学入門・5

Ⅴ.臨床で注目される免疫異常

著者: 鈴木秀郎

ページ範囲:P.669 - P.673

 前号までに免疫血清学のあらましについて,基礎的部門における最近の進歩を中心にのべてきた.以下臨床にみられる免疫異常のうち,とくに最近注目されている疾患,あるいは新しい概念に従って理解されているものにつき,2,3のべておく.

症例

Isospora belliおよびGiardia lambliaの同時寄生により続発性吸収不良症候群をきたした一症例

著者: 増田正典 ,   細田四郎 ,   阿部達生 ,   加嶋敬 ,   荻野賢二 ,   三沢信一 ,   山口希 ,   小笠原孟史 ,   北村収 ,   竹田晴彦 ,   衣笠勝彦 ,   岩破康博 ,   吉田幸雄 ,   松野喜六 ,   島田信男 ,   水谷昭夫 ,   永田富雄

ページ範囲:P.674 - P.678

 Isospora belliおよびGiardia lambliaの同時寄生により続発性吸収不良症候群を来たした1症例を報告する.症例は58歳男子,5年前より米のとぎ汁様の水様便と体重減少,腹部膨満などの続発性吸収不良症候群の症状を呈し,昭和45年11月入院.諸検査により吸収不良症候群と診断した.二核リンパ球や異型リンパ球を含むリンパ球増多を認め,リンパ組織異常増殖に続発した吸収不良症候群を疑った.糞便,生検小腸粘膜組織および胆汁中にGiardia lambhaおよびIsospora belliを証明し,前者にQuinacrine,後者にSulfisomezoleが有効で,治療効果よりIsosporaが下痢の主因であった。IgA減少から原虫症発症を促進し,腸粘膜損傷により続発性吸収不良症候群を発来するとともにIgA産生の低下を来たし,これはさらに原虫症発症の持続に連なる悪循環を形成したものと考えられる.

medicina CPC

顔面および下肢の浮腫を主訴とする20歳の症例

著者: 本田利男 ,   河合忠 ,   朝倉均 ,   土屋雅春

ページ範囲:P.679 - P.689

 土屋 今日の症例は浮腫という非常にポピュラーな症状を主訴としています.まず朝倉先生に,この症例を初めてみたときに,どんな症状を特に注意しなければならないと感じられたかを説明していただきたいと思います.

動きだした地域医療

神戸方式による予防接種

著者: 青井立夫 ,   石垣四郎 ,   鹿野昭二 ,   木島昻

ページ範囲:P.690 - P.697

 いわゆる神戸方式による予防接種法は,行政側,医師会側,学識側とそれぞれが垣根を越え,一致協力してこそ実らせることのできたみごとなチームワークの所産である.神戸方式の生まれるまで,その成果,また地域医療に果たした役割など,中心となられた3先生にお話しいただいた.

話題

不明の点を浮彫りにできたのが成果—第69回日本内科学会総会シンポジウム「自己免疫疾患」

著者: 塩川優一

ページ範囲:P.593 - P.593

 自己免疫疾患という名称が使われるようになってから長いが,一時はいかにもよく分ったように見えたのに,最近研究の進歩と共にかえって分らなくなったようである.自己免疫というと公式見解では,1)自己抗原が出て来て,2)それに対して自己抗体ができて,3)それが組織に障害をおこして病気になる,という3つの過程より成る.ところがまず自己抗原が出てという所でひっかかる.自己抗原の遊出はなかなか証明できない.また自己抗体が病気をおこすという所も十分解明されていない.結局比較的分っているのは自己抗体ができるという所であってこのシンポジウムも主にこの点が取り扱われた.

神経疾患と代謝—第69回日本内科学会総会(4月6-8日:名古屋)シンポジウムから

著者: 木下真男

ページ範囲:P.702 - P.702

L-DOPA療法成果の検討
 シンポジウム「神経疾患と代謝」には祖父江逸郎助教授の司会のもとに3つの異なった主題が盛り込まれ,各主題それぞれ3つの報告があった.臨床医学の分野でもっとも一般的な興味をひくのは治療に関連した問題であろうが,これについては「1.Parkinsonism」で活発な発言が見られた.パーキンソン症候群の患者の錐体外路系にはドパミン含量が著しく低下し,これと関連してL-DOPA療法が現在注目の的になっていることは周知の通りであるが,葛谷らによればL-DOPAを投与した患者にはビタミンB6の欠乏が見られ,また,L-DOPA投与と同時に活性型B6 30mgを毎回投与するとL-DOPAによって軽快したパーキンソン症状が悪化する傾向が見られた.また実験的にもB6欠乏ラットが高いL-DOPA脳内取り込みを示すことがたしかめられ,B6と全身的なドパミン代謝との関連が示唆された.L-DOPA長期投与によって将来当然出現することが予想される副作用問題のひとつとなる可能性が考えられ,それとともに単純な副作用に対するのとは異なった意味での対策の困難さが予期される.
 また,宇尾野らはL-DOPAが有効な興味ある家族性疾患を報告し,また現在行なわれているL-DOPA療法に言及して,脳内必要量をはるかに上まわる大量投与の危険性を指摘し,投与量を減じる方法(echono-mizer)の開発の必要性を説いた.一方,豊倉はL-DOPAの効果と病理学的な変化との関連を検討する必要性について発言したが,いずれもきわめて妥当な指摘と思われた.パーキンソン症候群の代謝障害の詳細はもちろんいまだ不明であるが,塚田らによって酵素系の障害レベルの推定が報告され,今後の研究の成果が待たれる.

本邦人のアミロイドージス—第69回日本内科学会総会(4月6-8日:名古屋)シンポジウムから

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.703 - P.703

 amyloidoslsは,従来,わが国では稀な疾患として取り扱われてきたが,最近生検法の導入によって生前診断が可能となり,臨床例はしだいに増加しつつある.またamyloidそのものの生化学的,組織化学的および電顕的研究も徐々に盛んとなってきた.しかしながら本邦人についてのamyloidosisの実態,臨床像および研究の現状については不明の点が少なくなく,最近これらについての討議を要望する気運が次第に熟してきた.このたび第69回日本内科学会総会のシンポジウムに"本邦人のamyloidosis"(司会:東大,中尾喜久教授)がとりあげられ,各専門分野の立場から,本症の頻度,臨床,病理および病因に関する討議がなされたことは,誠に時宜を得たものであった.

病理夜話

ノイローゼ(その4)

著者: 金子仁

ページ範囲:P.701 - P.701

 退院をする時,1カ月位静養するようにと主治医にいわれ,2カ月ぶりで自宅に帰ったが,ますますいけない.子供のランドセルが目につく.幼稚園の帽子がそばにある.
 肝膿瘍か,胆管癌か,死の影はいつもチラツク.静養どころではない.顕微鏡を見ている方が落着くだろうと考えて,翌日から病院へ出勤することにした.出勤といっても午前中だけで,午後は自宅の2階で寝ている毎日である.

診療相談室

橋本病について

著者: 尾形悦郎

ページ範囲:P.704 - P.705

質問 1)橋本病のTAテストの意義について,2)また橋本病の甲状腺機能は如何,3)橋本病をみたときの対策についてお教えください.(川崎市・M生)
答 甲状腺異常が橋本病(慢性甲状腺炎)であるとわかれば,あとの治療方針は非常に簡単である.そこまでの診断が問題で,甲状腺腫のある場合は単純性瀕漫性甲状腺腫,多結節性甲状腺腫(multinodular goiter),Basedow病,癌などが鑑別の対象となる.典型的な場合の慢性甲状腺炎は,比較的硬く,気管の偏位をきたさない,分葉構造を失わずに一様に腫大した甲状腺腫として触れ,このphysical examination所見で診断がつく.甲状腺腫のない,あるいは著しくない場合はさらに問題が多い.この形の慢性甲状腺炎は,いわゆる特発性粘液水腫へと発展して行く.これは甲状腺の触診以外の方法で診断をつけねばならない.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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