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雑誌目次

雑誌文献

medicina9巻7号

1972年07月発行

雑誌目次

特集 これだけは知っておきたい診断のポイント

著者: 編者

ページ範囲:P.849 - P.849

 最近の医学の進歩は診断の分野にも専門化,細分化をもたらし,扱う情報の量は膨大なものになっております.とくにマンモス化した内科領域では,その全域にわたって専門医レベルの知識をもつことは不可能ともいわれております.したがって,実際の診断の場に臨んでも病歴から検査データまでのさまざまな情報に対して,とかく戸惑いを感じることも多いかと思われます.しかし,現実に1人の患者を前にしたとき,どこに着眼し,なにを診ていくかは,おのずと決まっているに違いありません.その要所要所を各専門の先生方に解説していただいてきたのが,木誌の「診断のポイント」欄でした.
 本特集「これだけは知っておきたい診断のポイント」は,過去8年にわたって連載され,好評を博してきたこれらの診断のポイントに全面改訂を加え,再編成したものです.

I.循環器系 1.心臓病の自覚的症状

心臓の痛み

著者: 木村登 ,   和田敬

ページ範囲:P.852 - P.854

患者が心臓部の痛みを訴えたとき
 心臓部における痛みはすぐにも心臓病を連想させ,重篤な心臓病にかかっているものと信じて医師の診断をこう患者の数が増加しつつある.とくに若年者においてかかる訴えを主訴とするものの大多数は心臓神経症である可能性が多い,典型的な心臓部ならびにその周辺の痛みはウィリアム・ヘバデンの古典的名著"Disorder of the Breast(1772)"にくわしく記述されているが,器質的心臓病に罹っている患者が必ずしも心臓部の痛みを訴えるとは限らない.ために器質的ならびに機能的な心疾患の鑑別は,臨床的にときとして容易でなく,いろいろの検査を必要とする場合もあるが,患者が痛みを訴える場合の表現の仕方,痛みの場所,ならびにその痛みが何分位続くかというような簡単な,いわゆるベッド・サイドの問診によってかなり正確に診断できるので,その要点をかいつまんで述べてみたいと思う,紙数の都合上,器質的心臓病のうちではとくに日常しばしば遭遇する冠動脈硬化に起因している心筋梗塞症ならびに狭心症についての鑑別を述べることにする.

動悸—機序・問診・鑑別の要点

著者: 石見善一

ページ範囲:P.854 - P.857

動悸を正当に評価するには
 健康人であると病人であるとを問わず,心拍動を意識する場合は数限りなく,したがって動悸を主訴として来院する者もきわめて多い.一般的にいって動悸はそれぞれの個人に心臓の存在を意識させる端緒となり,もし頻回に動悸を感ずれば,それはおのずと心臓の病気を連想させ,さらには心疾患があるのではないかとの恐怖心へと発展して受診の動機となることは当然考えられるところである.
 しかし動悸を感ずるか否かは心拍出量の変化,心拍数の増加,リズムの変化などのほかに個人の感受性の問題もかなり関係していて,動悸を感ずるからといってもその中には生理的なものから病的のものまで含まれている.患者にとっては動悸はかなりの苦痛であるとしても,それが診断上きわめて重要な意味をもつ場合は比較的少なく,また心疾患の有無あるいは程度ともほとんど無関係の場合が多いことはすでにご承知のとおりである.したがって動悸は自覚症状のうちでも重要な症状とは必ずしもいえず,また動悸を正当に評価するためには他の自覚症状や客観的所見,さらには心電図,胸部X線その他の検査成績が必要であり,一般的にいって動悸は自覚症状よりはむしろ後者により,その種類・原因が決定されるといっても過言ではなかろう.

頻脈について—発作性の頻拍症(頻脈)に内科医の必ずすべき手段

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.857 - P.860

 頻脈の患者を診察した時,何が頻脈をひき起こしているかを判断しないで,すぐ強心剤などを注射することは,発熱患者の原因を追求しないで,解熱剤を注射することと同様に誠に無責任な治療である.
 それは治療とはいえない.というのは,頻脈にジギタリスや強心利尿剤を注射して急死させたり,苦悶状態に陥れさせたりすることが少なくないからである.

2.血圧の異常

最小血圧の高いとき

著者: 戸嶋裕徳

ページ範囲:P.860 - P.862

 最小血圧,つまり血圧測定中に聴こえる血管音が消失する第5音が,90mmHgをこえるとき最小血圧が高いと考える.ただし,第4音と第5音の差が10mmHgあるときには第4音(血管音が急に小さくなる点)をもって判断する.
 同じく血圧が高いという表現がなされるにしても,最高血圧だけが高くて最小血圧が高くないもの(収縮期性高血圧),最高血圧はたとえ高くなくても最小血圧が高いもの(拡張期性高血圧)では,その意味することはまったく異なっている,前者は主として大きな動脈壁の弾性とか心拍出量に関係し,後者は細小動脈の末梢抵抗の増加による.

低血圧

著者: 長尾透

ページ範囲:P.862 - P.864

 低血圧の際,まず大きく分けて,2つ考える.急激な重い全身症状があって,その続発症状として,血圧が下がった場合と,ふだんから血圧が低く,一般に激しい症状を伴わない場合とがある.

血圧の左右差

著者: 増山善明

ページ範囲:P.864 - P.866

なぜ左右差は問題か
 血圧の左右差のある場合の診断手順を考えてゆくにあたって,なぜ血圧の左右差が問題になるのか,どの程度の左右差を有意と考えるかという点から述べ,ついで具体的な疾患についてふれてみたい.
 なぜ,左右の血圧を測定する必要があるか:大動脈の一部が狭くなる状態(大動脈縮窄)や大動脈特に大動脈弓からでる主要分枝や,それに続く太い血管の狭窄(血管壁の病変による狭窄が主であるが,外部からの圧迫のために血管腔の狭くなる場合もある)によって,狭窄部より末梢部では血圧が低下し,さらにその中枢部や体血圧に対しては,直接ないし間接的に血圧上昇を起こす場合があり,その結果,血圧の左右差を生じてくる.

末梢静脈圧と中心静脈圧の測定

著者: 三浦勇

ページ範囲:P.867 - P.869

静脈圧測定の意義
 近年,外科内科領域を問わず,循環系の状態,とくに循環血液量を大まかに把握するための簡単な手段として,静脈圧測定が広く行なわれている.
 静脈圧はいうまでもなく,静脈系の容量とそれを満たす血液量との相対関係によって定まる.したがって,静脈圧からまず循環血液量の多寡を知ることができる.次の静脈圧は,動脈系の状態によって後方からの影響を受ける.たとえば人工心肺の送血流量を増すとき,動脈圧とともに静脈圧は上昇するが,体外循環のような状況下では,心拍出量を反映する.第3に,前方に位置する心臓の機能によって影響されることが明らかである.右心または両心不全,心臓タンポナーデなどは,静脈圧を上昇させる方向に作用する.とくに心臓タンポナーデでは,ショック症状を伴う静脈圧上昇の所見がしばしば診断の決め手となる.

3.不整拍の診かた

中年者の不整脈

著者: 高階経和

ページ範囲:P.870 - P.872

不整脈の臨床徴候
 臨床的に不整脈があるかどうかというのは,なんといっても患者の訴えや病歴によることが第一である.まず,つぎのような症状を訴えるときは,必ずといってよいほど,不整脈が起こっている.
 1)心悸亢進や,速脈が急に起こって,また急に止まったりするとき.

期外収縮

著者: 森博愛

ページ範囲:P.872 - P.875

 不整脈を主訴として外来を訪れる患者は非常に多い.中でも期外収縮は最も普通にみられる不整脈で,一生の間に一度も経験しない人はないとさえいわれている.期外収縮は器質的心臓病を背景として現われたり,心筋の過敏性の異常な亢進の表現としてみられる場合もあるが,単に機能的な変調の結果としてみられることもあるから,その正確な認識は実際診療上きわめて重要である.

脚ブロックの臨床的解釈

著者: 石見善一

ページ範囲:P.875 - P.877

 脚ブロックの臨床的解釈について注意すべき点は多々あるが,もっとも重要と思われるのは第1に,脚ブロックはその診断自体のもつ意味は比較的少なく,重要なのは原因疾患の検討およびその対策である.第2には冠硬化ならびに心筋障害の有無を知るのに不可欠とされている心電図が,脚ブロックが存在する場合には,そのために,心臓の器質的疾患の発見にきわめて微力となる場合が少なくないという事実である.これらはいずれも重大かつ膨大な問題でかぎられた紙面では説明しきれない憾はあるが,あえてこの2点にふれて私の責をはたしたいと思う.

4.心雑音

心尖部で聞かれる収縮性雑音

著者: 太田怜

ページ範囲:P.878 - P.880

病的と判断するには
 心尖部で収縮性雑音をきいたとき,一番大切なことは,そのことだけで,弁膜症という診断を下さないことである.すなわち,収縮性雑音は心外性の原因できかれることもあるし,生理的にきかれるものも,かなり多いからである.病的状態では心臓になんらかの負担がかかってきていることが多いので,収縮期雑音をきいたときは,たとえば,X-線検査や心電図を参照して,雑音以外に心臓に負荷のあることを確かめた上で,この雑音を病的なものと判断した方がよい.たとえば,きわめて軽微な器質的僧帽弁閉鎖不全があったとして,心尖部収縮期雑音以外に,まったく異常所見を見出すことができなかったばあい,その雑音を無害性のものと解釈しても,全体的な病気の診断は,むしろその方が正しいということができる.
 リウマチ性心内膜炎のとき,心尖部で著明な収縮期雑音がきかれる,しかし,治療によって,この雑音は,だんだん弱くなってゆくことが多い.そして,最後にはわれわれが日常きいている無害性収縮期雑音とまったく変わりないものとなる.このとき,心陰影も正常で左房左室負荷像がなければ,器質的な弁膜症は残さずに治癒したと見るべきであろう.

5.心機能と脈波

脈波からわかるもの

著者: 吉村正治

ページ範囲:P.880 - P.884

圧脈波からわかるもの
 代表的な圧脈波は頸動脈圧波で,これが好んで広く計測された理由はもっとも心臓に近いところで測れる脈波だからである.
 圧波が動脈管内を末梢に伝達されてゆくとき,波形にはだんだん変形や歪みが加わる。つまり心臓に近いほど,その圧波には変形や歪みが少なく,頸動脈圧波で測定した,左心室の駆血時間ejection timeは,正確であると信じられてきた.

6.虚血性心臓病の診かた

負荷心電図の読みかた

著者: 水野康

ページ範囲:P.884 - P.886

 心電図に特徴ある変化がみられるときは,狭心症(冠不全)の診断は容易であるが,安静時心電図で異常所見のみられないことも多い.このような潜在性冠不全の有無を確かめるには,なんらかの方法で冠不全の状態を再現させて心電図をとらねばならない.この誘発法として,運動負荷,薬物負荷,低酸素負荷などが用いられている.

心筋硬塞の酵素診断

著者: 新谷博一

ページ範囲:P.886 - P.889

どんな酵素が使われるか
 1954年La Due,Wröblewski,Karmenらが急性心筋硬塞における血清glutamic oxalacetic trans-aminase(SGOT)の上昇を報告して以来,心筋硬塞の臨床診断上血清酵素測定の有用性が認められ,広く行なわれるようになった.SGOTはその活性値の上昇が一過性で,臓器特異性が少ない欠点があり,同時に使われるようになったglutamicpyruvic transaminase(GPT)のほか,lactic dehydrogenase(LHD),malic dehydrogenase(MDH),succinic dehydrogenase(SDH),aldolase(ALD),phosphohexose isomerase(PI),glucose-6-phosphatedehydrogenase(G 6 PD),choline esterase(ChE),oxidase,creatine phosphokinase(CPK),α-hydoxy-butyrate dehydrogenase(HBD),さらにLDHのアイソザイム,とくにLD1およびLD2など多くの酵素が急性心筋硬塞のさいにその血清活性値の上昇または低下(ChEのみ)することが報告されている.しかしその特徴,測定上の技術的問題などから現在比較的広く日常臨床上使用されるようになったのは,トランスアミナーゼのほかはLDH,HBDなどである.

中間性冠状(動脈)症候群

著者: 本田正節

ページ範囲:P.889 - P.891

狭心症と心筋硬塞の中間型
 冠状動脈に起こる疾患の代表として比較的予後のよい狭心症と,冠状動脈の閉塞により心筋に壊死をきたして,重篤な症状と悪い予後とを示す心筋硬塞症とがあることは周知のごとくである.
 狭心症の症状は主として労作のさいに前胸部に痛みとか絞扼感が起こり,痛みは上肢のほうに放散するがこの発作の持続は15分以内であり,労作をやめて安静をたもつとかるくなるし,またニトログリセリンがよく奏効する.発作時には心電図でSTの下降がみられる.心筋硬塞症では痛みの程度が激烈であって持続時間も長く,冷汗,嘔吐,血圧の急激な降下とショックとを伴う.痛みにはニトログリセリンは効かず,モルヒネを使用せざるをえない.心電図では硬塞に面した誘導でSTの上昇が起こり,ついで幅の広い深いQが出現する.また赤沈値の促進と血清GOT, CPKなどの著明な上昇,白血球増多をきたす.

異型狭心症

著者: 太田怜

ページ範囲:P.891 - P.893

心筋硬塞,狭心症,異型狭心症の相違
 狭心症を,一過性冠動脈虚血であって心筋になんら壊死を残さないものというように定義すれば,その的確な診断は,はなはだ困難なこととなる.なぜならば,ある狭心発作が心筋に組織学的な変化を残さなかったという臨床徴候は,なにも見当らぬからである.したがって,われわれは,臨床上ある基準をもうけて,狭心症と心筋硬塞とを区別せざるをえない.たとえば,前者では,狭心痛の持続時間が短いとか,心筋壊死を表わす血液化学的反応が陰性であるとか,心電図のST・Tの偏位が一過性であるとか,異常Q波がないとか,などである.
 心電図上の変化では,以上のほか,ST偏位の方向も問題となる.すなわち,狭心症では,主として心内膜下筋層が障害を受けるので,その部に面した体表からの誘導で,ST低下がみられ,心筋硬塞は貫壁性の変化が多くみられるので,同部の誘導のSTは上昇する,したがって,ある狭心発作があって,ST上昇のみられたときは,それだけで心筋硬塞と診断して,ほぼまちがいがない.すなわち,このようなST上昇は,狭心痛が去ったあともなお存続し,やがては,心筋壊死を表わす異常Q波がみられるようになるからである.

7.見逃がされやすい心筋硬塞

心筋硬塞が見逃がされやすい場合

著者: 橋場邦武

ページ範囲:P.894 - P.896

 心筋硬塞の診断はその特有な臨床症状と心電図所見とから多くの場合にはあまり困難を感じない.現在広く行なわれているトランスアミナーゼなどの測定も診断上に有用であり,白血球増多,血沈促進なども参考になる.しかしながら多少とも非典型的な症例や,あるいは診察や検査の時期のいかんによっては,診断が困難であったり,または見逃がされたりする場合も少なくはない.以下,これに関した2,3の点について述べてみたいと思う.

胃症状ではじまる心筋硬塞症

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.896 - P.897

症例1:66歳の男
 15年前から糖尿病のある老人であるが,入院2カ月前に激しい心窩部痛を訴え,数分後に痛みは消失した,2日後に同様の発作が8時間つづいた.制酸剤を服用した後,消化器のレントゲン検査を某院でうけたが異常はなかった.その後同様の上腹部痛が1日間に3回起こったので精診のため当院に入院した.
 入院後,心電図では最近起こった前壁心筋硬塞症と糖尿病とが発見された.

8.心房中隔欠損の診かた

心房中隔欠損症

著者: 依藤進

ページ範囲:P.898 - P.900

一次孔欠損症と二次孔欠損症
 心房中隔欠損症には一次孔欠損症と二次孔欠損症があり,圧倒的に数が多いのは二次孔欠損症で,ふつう心房中隔欠損症といえば二次孔欠損症をさしているので,ここでも主として二次孔欠損症について述べるが,特に断わりなしに心房中隔欠損症といえば,二次孔欠損症をさしているものと思っていただきたい.
 経静脈性にカテーテルを左房に挿入し,そこから注入した造影剤が右房をも造影することができれば,診断が確定し,また心臓カテーテル法で,肺動脈圧,心送血量,シャント血量を測定すれば,その程度が判定できることはいうまでもないが,そんな味気ない話は述べないことにして,推論の妙味を味わいつつ診療を続けていく平凡な内科医に必須な診断のポイントを述べることにしよう.

おとなの心房中隔欠損症

著者: 森博愛

ページ範囲:P.900 - P.903

 おとなの心房中隔欠損症は乳幼児期のそれと異なり,病像が完成され,かつ極端な重症型や著しい合併奇型を有するものなどは陶汰されて,むしろ容易に診断しうる場合が多い.したがってその病像を理解しておくと,心臓カテーテル検査法や心臓血管造影法などの特殊検査の助けを借りずとも,日常ルーチンの検査法のみで診断しうる場合が多い.

9.循環器疾患としての肺

肺高血圧症

著者: 友松達弥

ページ範囲:P.903 - P.905

明らかな原因
 肺高血圧症はそれ自体特異の症状が乏しい.あたかも高血圧症が多くは無自覚に経過して,たまたま血圧の測定によって発見されるように,とくに軽症ないし中等症の肺高血圧においてそうである.高血圧症においては,頭痛を初めとする神経性,心因性の諸症状がしばしば見られるが,血圧の測定が診断を決定する.さらに高血圧をきたす原因疾患のあるときはそのための異常所見が,また高血圧が持続しかつ高度であるときはそれに伴う所見の発現によって血圧の測定をまたず,高血圧の存在がわかることもある.肺高血圧症においても事情はきわめて類似している.肺高血圧症においては本態性高血圧のごとき原因不明の原発性肺高血圧症の頻度はきわめて低く,したがって原因の明らかなものが多いのである.肺高血圧が高度になると運動時のsyncope,あるいは狭心様症状が1つの特異な症状ではあるが,それよりもしばしば原因疾患による症状が前景となっていて,これによって肺高血圧症の存在が推知できる.ただし正確には心臓カテーテル法によって肺動脈圧を測定すべきである.しかし本法の適用もおのずと制約がある以上,前記のごとく原因疾患の確定がより大切なアプローチである.
 肺動脈圧亢進は主としてつぎの3つの条件下に起こる.

10.弁膜症の診かた

見おとされている三尖弁閉鎖不全

著者: 仁村泰治 ,   榊原博

ページ範囲:P.906 - P.913

 三尖弁の障害はこれまで臨床上等閑に付される傾向が強かったが,昨今の心臓病学における診断・治療の発展に伴い,その診断も望まれるようになってきた.
 三尖弁閉鎖不全の諸徴候はとかく他の症状により隠されがちであるが,少なくともリウマチ性弁膜症の患者で,特に右房の拡大がいちじるしいとか,一般状態に比して肝腫大の程度が強く,また容易に消褪し難い場合には,まず三尖弁閉鎖不全の併存の可能性が強いと考え,Rivero-Carvallo徴候,頸静脈の収縮期性拍動,肝臓の収縮期性拍動などの特異的な所見の存否に注目すべきである.

弁膜症の手術適応

著者: 武内敦郎

ページ範囲:P.913 - P.916

 弁膜症患者に遭遇した場合,まず病名の診断が行なわれ,ついで薬物治療ないし生活指導が行なわれる.そのさい現今では必ず手術的療法も念頭におかねばならない.つまりこれから投与する薬剤が患者の弁機能の異常にもとづく心・肺の病態をどこまでもちこたえうるか,換言すれば,どのあたりで手術にふみきるかをたえず念頭におかなければならない.それで病名の診断に引きつづいて,その疾患の進行程度の判断が手術適応の決定のために大切となってくる.
 以下代表的な4つの後天性弁膜症と,聴診上診断困難な連合弁膜症の手術適応決定にあたっての診断のポイントについて述べる.

11.見逃がされやすい心筋疾患

心膜炎

著者: 高崎浩

ページ範囲:P.916 - P.919

徴候の分析が診断のきっかけ
 心膜炎はいろいろの型で起こり,そして臨床上いくつかの特有な徴候を呈する疾患である.したがって,前胸部痛とか,呼吸困難とか,上腹部の不快感とかを訴えて外来を訪れた患者で,心臓が左右に拡大していたり,心臓部が膨隆していたり,心音が微弱でかつ異常の摩擦音が聴かれたりするような場合には,一応心膜炎を疑って病歴の追求,血圧の測定,胸部レ線の撮影,心音・心電図の描写,さらには心膜穿刺などとつぎつぎに実施して,診断への裏づけを積みかさねていくべきである.
 かくして患者に見いだされた種々の所見について,その所見がいかにして発生してきたかをも合わせ考察していくならば,診断はおのずから解明されるであろう.

特発性心筋症

著者: 河合忠一

ページ範囲:P.919 - P.922

定義
 現在病因ないし原因が一応判明している心疾患として,動脈硬化性,高血圧性,リウマチ性,肺性,先天性心疾患などの名があげられる.ところがこれら既知の心疾患以外で原因不明の心拡大をきたす一群の心筋疾患があり,これらを総称して特発性(原発性)心筋症(疾患)と名づける.もう少し具体的には「原因不明の亜急性ないし慢性の心筋疾患で,しばしば心内膜endocardium,ときに心膜pericardiumの病変を伴うが動脈硬化性心疾患を除外しうるもの」(Goodwinら)と定義されよう.
 しかし実際的には感染性心筋炎,膠原病による心筋炎,代謝障害による心筋疾患,さらにはアミロイドージス,サルコイドージス,ヘモクロマトージス,糖原病などでも心筋が一次的,選択的に侵される場合をすべて本症に含める広義の立場と,真に原因不明の心筋疾患のみを特(原)発性(一次性)心筋症とし,一応原因の明らかな続発性(二次性)心筋症と区別する狭義の立場が存在する.筆者らは後者の立場をとっており,本稿でも真に原因不明でかつ心筋に主病変を有する疾患のみを対象とする.

12.解離性大動脈瘤

解離性大動脈瘤

著者: 渡辺昌平

ページ範囲:P.922 - P.924

 解離性大動脈瘤は,珍しい疾患であり,近年まで,これを救う積極的手だてはなかった.しかし,現在,血管外科のいちじるしい進歩に伴い,根本的に修復手術を行なうため,早期に,確診を行なう必要があるようになった.
 解離性大動脈瘤は病理学的に,中膜の病巣性変性過程(壊死)を起こし,そこに,内膜の裂け目から,血液が浸出,ないし,流れ込みをきたし,血管の周囲は中等度,ないし,高度に増大し,縦裂きを生じる.したがって真性大動脈瘤と区別してdissecting haematomaともいえる.

解離性大動脈瘤

著者: 初音嘉一郎

ページ範囲:P.924 - P.929

 解離性大動脈瘤は突如として発症し,多種多様の,時には心筋硬塞,狭心症を,時には脳溢血,急性腹症などを想起せしめる症状を呈するため,それらの疾患と誤診されやすいが,より急激な経過をたどり,大多数の症例がきわめて短時日内に死亡する重篤な疾患である.そのため比較的最近まで望みのない疾患とされてきたが,現在では生前正しい診断がつけられれば,十分手術により救命しうる.したがって迅速正確な診断を下すことが必要である.
 解離性大動脈瘤,あるいは剥離性大動脈瘤といわれる疾患は古くから知られている疾患であるが,臨床的に意義のある疾患として取り扱われるようになってきたのは比較的最近のことである.これは元来,この疾患の頻度がそれほど高くないことにも一因はあるが,最大の原因は疾病の経過が非常に急激で,診断も治療もできないうちに患者が死亡してしまうことによるものであろう.しかしながら,血管外科学の飛躍的な進歩により大動脈の切除移植が安全確実に行なわれうるに及んでDeBakey氏らはこの重篤な疾患の手術に挑戦し,1955年に初めてその手術成功例を報告した.以来本疾患は手術の可能な外科的疾患として注目を集めるようになり,諸外国ではぞくぞくとその手術成功例が報告されるに及んで,その臨床診断学的意義が重要視されてきた.

13.二次性高血圧

腎血管性高血圧

著者: 増山善明

ページ範囲:P.929 - P.931

腎血管性高血圧がなぜ問題となるか
 二次性高血圧のなかでも特に腎血管性高血圧が注目され,重要視される理由としては,第1に成因面から,1934年Goldblattが初めて動物に作った実験的腎性高血圧に似た高血圧がヒトで臨床的にみられるということ,およびこの形の高血圧ではレニン・アンジオテンシン昇圧系が最も関与していると考えられることである.第2に臨床面では,若年者の著明な持続性高血圧のなかで,その診断法の進歩とともにしだいに数を増していること,またわが国で比較的多い大動脈およびその主要分枝の狭窄を示す動脈炎(いわゆる大動脈炎症候群・高安病)で腎動脈狭窄を合併することが多いことである.さらに,治療上,血管外科の進歩により,狭窄血管の修復手術の成功率が増し,原因を除くことにより高血圧の治癒が可能となったことなどである.

内分泌性高血圧

著者: 吉永馨

ページ範囲:P.931 - P.933

 内分泌性高血圧というのは,内分泌腺の腫瘍などからホルモンが過剰に分泌されるため,高血圧を呈する疾患である.臨床上これに該当するホルモンは副腎皮質および髄質ホルモンである.これらの高血圧症の臨床的特徴を述べて,診断の要点を挙げれば次の如くである.

14.心疾患の臨床検査

血清カリウムの高いとき

著者: 河合忠

ページ範囲:P.934 - P.936

 採血時溶血―採血後長時間放置は絶対禁忌
 血清カリウム(K)濃度が高い場合,まず考えなければならないこととして,「検体のとり扱いが正しくおこなわれたか」である.
 体内には成人男子で約200g(または3000-4000mEq)のKが存在するが,そのうち約90%は細胞内にあり,わずかに0.4%が血漿中に存在する.血液中でも赤血球内のK濃度は平均157mEq/lで血漿中のK濃度(3.5-5.4mEq/l)の約30倍も含まれている.したがって,採血時に少しでも溶血が起こると赤血球内のKが血清中に大量に放出されるため,血清Kを測定する場合とくに溶血のおこらぬよう注意する必要がある.

CPKの臨床的意義

著者: 後藤幾生

ページ範囲:P.936 - P.940

CPKとは
 Creatine phosphokinase(CPK)は,
 ATP+クレアチン(Creatine)⇄ADP+クレアチン燐酸(Creatine phosphate)
のように,クレアチンとATPよりクレアチン燐酸とADPを生成する反応,あるいはその逆の反応を可逆的に触媒する分子量81,000の酵素である.本酵素は骨格筋に最も多く,全身のCPKの約96%が含まれており,次いで心筋,脳,平滑筋などに含まれている.その他,肝・腎・赤血球にごく少量含まれているが,臨床的には無視しうる程度である.
 このCPKの触媒によって生成あるいは分解されるクレアチン燐酸は,筋肉においてATPとともに高エネルギー貯蔵体として働いている.すなわち,筋肉の収縮時にはATP,あるいはクレアチン燐酸の高エネルギー燐酸結合によって生ずるエネルギーが利用され,静止時には前記反応が右へ進み,ATPの筋への供給を容易にし,クレアチン燐酸としてエネルギーを貯蔵する.このようにCPKは身体各部のエネルギー代謝に重要な役目を果たしている.

II.呼吸器系 1.血痰と喀血

血痰をみたとき

著者: 谷本普一

ページ範囲:P.944 - P.948

血痰とは,喀血とは
 血痰をみた時,それがたしかに血痰かどうか,つまり気管以下の気道および肺から喀出されたものであるかどうかを,まず鑑別する必要がある.血痰とは,肺や気道における出血が原因となって,血液を混じた痰を喀出することを意味している.喀血とは,血液そのものを喀出することであり,通常2ml以上なければならない.血痰も喀血も臨床的意義は同じと考えてよいが,血液の量的な差が,疾患の鑑別に役立つことがある.喀血を主訴とする疾患には,その量の多少にかかわらず放置しても差支えないものから,極めて短期間のうちに診断し処置をしないと生命にかかわるというようなものまで含まれている.従って血痰を訴える患者の診断に当たっては,常にできる限り速やかに,その原因を見出す努力が必要である.

喀血

著者: 三上理一郎

ページ範囲:P.948 - P.951

診断の進めかた
 かつての時代,喀血は肺結核の臨床的象徴でもあった.しかし,こんにちではその原因として肺がん,気管支拡張症など多くの疾患を鑑別しなければならない.喀血および血痰は気道における出血が原因となって,血液そのものまたは血液を混じた痰を喀出することを意味している.このような主訴を有する患者に接したさい,つぎのように診断を進めてゆく.(1)その出血が気道からのものであることを確かめなければならない.食道の静脈瘤破裂や胃上部よりの出血,すなわち吐血とまちがわれることがある.(2)気道出血をきたす原因疾患をいろいろ念頭にうかべる.(3)診察および検査を進め,原因疾患を発見確認してゆく.喀血ならびに血痰は患者にとってかなりショックであるので,もっとも重大な肺がんをまず念頭において,なるべく早急に診断を決めることが必要である.

2.喘息と咳

喘息様発作

著者: 戸塚忠政

ページ範囲:P.951 - P.954

喘息を誘発する原因は多い
 喘息または喘息様発作は気管支喘息におけるアレルギー因子,感染,神経性因子のほか種々の原因による気道の浮腫・腫脹・狭窄・分泌物や,さらに低酸素,高炭酸ガスの状態によってもおこり,気管支・肺疾患のほかにも喘息様症状を呈する疾患は少なくない.UrbachおよびGottliebは喘息の鑑別診断として表をあげている.以下そのおもな疾患につき喘息様発作を中心に診断の要点を述べる.

咳が長くつづくとき

著者: 岩崎栄

ページ範囲:P.954 - P.956

原因はいろいろ
 咳は呼吸器疾患を診断するための重要な症状の一つである.そして,それが痰を伴なうかどうかは,ことに鑑別診断上役に立つ.もちろん,咳をきたす原因としては,呼吸器疾患だけでなく心臓血管系の病気,とくに老人に見られる慢性うっ血性心不全など,夜間の咳を訴えてくるので呼吸器疾患として誤ることがある.また特定の病気でなく"cigarette cough"といった単なる喫煙による慢性の咳もある.その他,神経性のものから,近年注目されてきた大気汚染による呼吸器疾患に至るまで,たくさんの疾病が"咳が長くつづくもの"として挙げられる.慢性の長くつづく咳は,昔から,わが国では,とくに若年者において,第1に肺結核症を疑い検査をすすめるのが臨床医の常識とされてきた.そしてなお,今日でも,年齢に関係なく肺結核症を忘れることはできないが,慢性で原因がわからない咳を訴える場合,肺癌をはじめ,悪性のものを疑って診断をすすめていくのが現況である.ことに高年齢層でのそれは重大である.

3.胸水が血性のとき

血性胸水

著者: 村尾誠

ページ範囲:P.957 - P.958

 尿に赤血球が混入している場合に,MicroscopichematuriaとMacroscopic hematuriaとを一応区別しているように,血性胸水についても同様な区別がありうるであろうが,通常,血性胸水といえば,肉眼的に明らかに血性(赤色・暗赤色・赤褐色)と認めうる状態をさしている.

4.呼吸器疾患診断に必要な検査

胸部レ線像に現われたおとなと子どもの違い

著者: 石田尚之

ページ範囲:P.959 - P.961

発育の時期で変わる小児のレ線像
 レ線写真はあくまでも"影"であって,視覚でとらえられるものであり,ある厚みをもった立体を平面でみるものであるから,いつでも,その陰影を構成する実体を把握していてそれを頭のなかで対比しながらみてゆかねばならない.ところが,小児においては発育という現象があり,胸部の形も,気管支も,肺自体もそれぞれ特有の発育のパターンを示し,それが全体としての胸部レ線像を構成するときは,おのおのの発育の時期によってめまぐるしい変化をとげる.
 したがって,小児期の胸部レ線を読影するさいには,小児科学的な理解にもとづき,発育期の生体のもつ独自の特徴をよく理解したうえで成人とは異なったレ線像解読がなされねばならない.

簡単な呼吸機能検査器具でわかるもの

著者: 三上次郎

ページ範囲:P.961 - P.963

肺機能検査の意義
 肺の働きは生命の維持に必要な酸素を空気中より血液中に取り入れ,炭酸ガスを体外に排出することにある.この機能が円滑に行なわれているか否かを検査するのが肺機能検査である.
 末梢臓器に必要なO2の摂取,CO2の排出が十分に行なわれているか否かのみを知るには動脈血ガスの分析を行なえばよいともいえるが,実際に肺の働きが正常か否か,また,いかなる部分に障害があるかを知るにはこれだけでは不十分なのである.人間の肺の働きは健康者では平常全能力の1/5ないし1/10の力で働いており,またあらゆるところで代償作用が行なわれているので,相当程度に機能障害が起こってこないと動脈血のガス相に変化は現われてこない.また外界の空気を吸入してこれを動脈血内に取り入れ,末梢臓器に到達するまでには数多くの関門があり,肺機能低下をみたときにそのいずれの部門で障害が起きたかを知らねばならない.それゆえ肺機能検査とはきわめて複雑な検査となるが,いま簡単に項目のみをあげてみると.

5.血液ガス分析から

血液ガス分析—診断への利用のしかた

著者: 井川幸雄

ページ範囲:P.964 - P.967

 血液ガス分析の普及は著しいものがあり,かつて名人芸といわれたvan Slykeの検圧法で血液中の酸素含量や総炭酸などをはかっていた時代に比べると,各種の電極法の開発の進んだ現在の状態は,全く新世紀にあるという感じをうける.

動脈血ガス分析—診断的意義

著者: 原弘道 ,   山林一

ページ範囲:P.967 - P.971

 呼吸機能検査としての動脈血ガス分析は,肺におけるガス交換の異常の有無,および酸塩基調節障害の指標を得ることを目的とする.実際の測定は電極法によるPaO2,PaCO2,pHの測定が一般に行なわれている.
 データーの正確な理解には,肺生理の知識が必要である.肺の本質的な機能は,生体に必要なO2を摂取し,不必要なCO2を排出するというガス交換としての機能と,同時に腎臓とともに生体のpHを正常に保つという酸塩基調節の機能を持っている.

血中CO2からわかるもの

著者: 長谷川博

ページ範囲:P.971 - P.975

2つの診断的意義
 血中CO2の診断的意義は2つに分けて論ずることができよう.すなわち1つは,血中に溶存しているCO2ガスに関するもので,呼吸と密接な関係があり,低すぎ・高すぎはhypo-,hyper-capniaと呼ばれ,mmHg単位によって表現されるのが通例である.もう1つはCO2 combining powerまたはtotal CO2 content bicarbonate等と呼ばれるもので,低すぎ〜高すぎは呼吸とは一応無関係で,代謝性acidosis〜alkalosisの重要な指標となる.単位は通常mM/lまたはmEq/lで表現されるが,Astrup, S. Andersenらの測定法が普及して以来,Base Deficit(BDと略)またはBaseExcess(BEと略)という単位で正常値からのズレをmM/lを使って表わされることもある.
 そこでこれら2つの血中CO2について,はじめに体液生理学的な概論をのべ,続いて技術的な面に重点をおいたterminologyおよび具体的な診断価値についてのべてみることにする.

CO2ナルコーシス

著者: 三上理一郎

ページ範囲:P.975 - P.978

CO2ナルコーシスとは
 CO2ナルコーシスは呼吸不全の一つの病態であって,換気不全により動脈血CO2分圧が上昇し,そのため昏睡などの高度の意識障害や自発呼吸の減弱を呈するにいたった状態を表現している,この病態は呼吸不全の治療法の進歩とともに動脈血ガス分析法の発達により近年注目されてきた.一般に換気不全により体内にCO2が増加し種々の症状をきたすものがCO2中毒症候群といわれるが,呼吸性アシドーシスや肺胞低換気症候群とよばれるものとほとんど同義に解されている.そして通常CO2ナルコーシスはCO2中毒症候群の重症型の呼称名として用いられている.

6.特殊な肺感染症

粟粒結核

著者: 鈴木弘造

ページ範囲:P.979 - P.981

 粟粒結核症は周知のように結核菌の血行性播種によって惹起される疾病であり,成人の羅患率は低いといわれているが,青年期,壮年期においても時に遭遇する機会のある疾患である.臨床的に木症の大多数を占める急性型は,著明な発熱を中心とする臨床症状を呈するとともに,特異な胸部X線像を示すものであり,その診断は容易なものと考えられがちであるが,多忙な実地医家にとっては,胸部X線検査を怠った場合には本症をほかの急性感染症と誤診したり,あるいは早期にその診断を確定することが困難な場合のあることが想像される.

肺真菌症

著者: 福島孝吉

ページ範囲:P.981 - P.983

診断がむずかしい
 肺真菌症は稀な疾患の部類に属するが,依然として増加の傾向にあり,時々は出会うので,念頭にいつもおいていなければ,診断できないのであるが,念頭においても診断しにくいことが多い.本症には特有な症状が少ないのがその原因の一つであるが,数少ない特有な症状所見があったなら見逃がさないことが肝要である.
 肺の真菌性疾患には,多く肺の局所的な弱点に乗じて発病し,慢性の経過をとる病型と,多く全身的抵抗減弱に乗じての発病で,血液疾患や腫瘍などの末期に発病し,急性の経過で患者の生命を奪うものとがある.

肺真菌症

著者: 大平一郎

ページ範囲:P.983 - P.985

真菌症発病増加の原因
 真菌症には幾多の種類があり,放線菌症を除いては元来比較的まれな疾患とみなされていたが,洋の東西を問わず本症は最近増加の傾向にある.その原因として近年治療医界における化学療法の急速な進展や副腎皮質ホルモン剤の普及があずかって力がある.さらに交通貿易などの著しい発達に伴い,多くの病原性真菌が容易に撒布吸入され,発病の機会を多くもたらし,また本症に対する関心がしだいに高まりつつあることも本症増加の一因としてあげられるであろう.
 しかしわが国で発病する本症の種類は案外少なく,放線菌症を除いては,その大多数はカンジダ症であり,次がアスペルギルス症,わずかにクリプトコッカス症をみる程度である.これ以外にはごくまれにムコール症,ノカルジア症が報告され,ヒストプラズマ症に至ってはわが国での存在は疑義がある現状である.したがってわが国では真菌症,特に肺真菌症を診断する場合は肺・気管支のカンジダ症あるいはアスペルギルス症を念頭におくことが必要であり,稀に存在するクリプトコッカス症,その他の真菌症はほとんど考慮する必要はない.

マイコプラスマ肺炎

著者: 原耕平

ページ範囲:P.985 - P.988

マイコプラスマとは
 マイコプラスマ肺炎の,「マイコプラスマ」という言葉をはじめてお聞きのかたも多かろう、従来,原発性異型肺炎の病原体とされた
 Eatonagentが,1898年Nocardらの分類したマイコプラスマ属の1つに属することがその後の研究によってわかり,この病原体(My. pneumoniae)によって惹起される肺炎が,「マイコプラスマ肺炎」と呼称されるようになったのである.
 もちろん,人間から分離されるマイコプラスマには,現在6つのものが知られている(My. pneumoniae,orale,salivarium,hominis,fermentans,T-strain).口腔内から分離されるものは前3者が多く,その中でも病原性を有して,肺炎をはじめ気管支炎,感冒様症状を惹起せしめるのはMy. pneumoniaeのみとされていて,その他のマイコプラスマ(orale,salivarium)については病原性はないとする意見のものが多い.My. hominis,fermentansおよびT-strainは,主として泌尿器系の病変をおこす.

非定型抗酸菌症

著者: 山本正彦

ページ範囲:P.988 - P.991

非定型抗酸菌とは
 非定型抗酸菌症は一般には結核症ときわめてよく類似しており,分離菌が非定型抗酸菌であるとの同定なくしては診断不可能である.したがって非定型抗酸菌という概念を明らかにする必要がある.
 非定型抗酸菌の定義としては"ヒト型結核菌(ウシ型菌を含む)以外の抗酸菌"が現在通説のようである.したがって,非定型抗酸菌は実に多数の雑多な抗酸菌の集合名であり,この中には多くの菌種(Species)として確立された菌もふくまれているし,いまだ未分類の菌もふくまれている.

7.気管支拡張と肺嚢胞

気管支拡張症

著者: 熊谷謙二

ページ範囲:P.992 - P.994

はじめに
 一般に気管支拡張症というと狭い意味のいわゆる特発性気管支拡張症をさすが,この他に結核性の気管支拡張症や肺化膿症に続発するものや,珪肺や肺腫瘍などに続発してくる気管支拡張症のあることは成書の記載のとおりである.ここでは狭義の特発性気管支拡張症の診断のコツというようなことを述べる.

肺嚢胞症

著者: 宝来善次

ページ範囲:P.994 - P.996

 肺嚢胞症とは,臨床的には一般に炎症などによる直接的な肺間質部の破壊を原因としない"肺内の異常空間"と定義されており,厳密には疾患群の総称である.したがって,この疾患の臨床的な分類を確認することは診断の第一歩となる.多少の異論はあろうが,その臨床的分類はつぎのようになされている.

8.肺陰影で腫瘍性変化を示すもの

サルコイドージス

著者: 可部順三郎

ページ範囲:P.996 - P.998

本症発見の手がかり
 サルコイドージスは,非壊死性の類上皮細胞性肉芽腫を生じる原因未知の全身系統疾患である.したがって内科のみならず各科で遭遇するが,症状の発現頻度は本邦の統計では全症例に対し胸部X線異常所見約95%,眼症状約1/4,皮膚症状1/10程度といわれる.初発病変は胸部で,無症状に経過して自然に治癒する場合が多いから,本症の発見は偶然の胸部X線検査または集団検診によることが少なくない.

サルコイドージス

著者: 長沢潤

ページ範囲:P.998 - P.1001

 サルコイドージスもはじめは稀有な疾患として,しかも皮膚科医の興味の対象にしかすぎなかったが,1939-1945年にわたる今次の大戦以後,欧米においても,本症は医学のほとんどすべての分野でみとめられる多彩な症状をもった疾患で,しかも比較的一般にみられるものと考えられるようになってきた1).このような傾向はもちろんそのままわが国にもあてはまるものであり,特に1954年以後,胸郭内病変が注目され,ついで眼など,その他の器官のサルコイドージスが報告されて,本疾患は明確に全身性疾患として考えられるようになった2)3).このような趨勢を反映して本疾患に対する関心もたかまり,その報告例も数を増してきており,本邦におけるサルコイドージスの実態調査も着々と進められている現状である.
 したがって私ども一般診療にたずさわるものも,本疾患の専門家であるか否かはとわず,まず一応の知識をもって対処しなければならない.現に私どもの関係している年間内科診療患者数わずか2800名前後という学内診療機関においてさえ,昨年度サルコイドージスと思われる2症例を経験しており,本症は比較的身近な疾患となってきている.

縦隔腫瘍

著者: 土屋雅春

ページ範囲:P.1001 - P.1003

 縦隔は上・前・中・後の区画にわけて考えられ,中央に心が位置している.ここにできる疾患といえば腫瘍がその大部分である.
 縦隔腫瘍を考えるときには次頁の図が参考となろう.大動脈瘤,横隔膜裂孔ヘルニアなどとの鑑別も念頭に追及されるべきである.

9.Vanishing Lung

Vanishing Lung

著者: 村尾誠

ページ範囲:P.1004 - P.1006

"Vanishing Lung"という表現
 肺のX線写真をみていると,肺紋理が見られない部分に気づくことがある.ある症例では,このような肺組織の消失とみられる所見が年月を経てしだいに拡大し,1肺葉さらに全肺野に及ぶことがある.このような所見を,はじめて"vanishinglung"とよんだのはBurke(1937)1)であるといわれる2).X線像での「消えゆく肺」に対応する病理学的変化を考えてみると,まず肺嚢胞症とくに嚢胞性肺気腫bullous emphysemaが念頭に浮かぶ.また気管支性嚢胞,気胸,肺動脈閉塞症の特殊な例も同様な所見を示しうるであろう.近似的な表現として,giant bullae,pneumatocele,cotton-candy-lung,progressive Lungendystrophie3)などの名のもとに発表されている症例の数も少なくない.したがって,X線像としてvanishinglungをとりあげる場合には,いくつかの異なった病変を包括する可能性があるので,むしろvanishing lung syndromeとして取り扱うべきものであろう.

10.胸痛が突発した場合

自発性気胸

著者: 滝沢敬夫

ページ範囲:P.1006 - P.1009

 自発性気胸は成因的に特発性と続発性(症候性)とを区別し,穿孔部の状況から閉鎖性,開放性,有弁性(緊張性)気胸を分ける.一方肺虚脱の程度から完全気胸と不完全気胸とを分ける.

肺硬塞

著者: 友松達弥

ページ範囲:P.1009 - P.1011

 肺硬塞とは肺実質の出血性壊死で,血流の遮断によるものである.血流の遮断は多くは栓塞の結果起こる.したがって肺栓塞と肺硬塞とは同意語でないことはもちろんであるが,肺栓塞は必ずしも肺硬塞に発展するとは限らない.なぜなら肺血管床においては肺動脈系の相互間においても,また気管支動脈系との間においても吻合があるからである.それで臨床的にも肺栓塞と肺硬塞との間に多少異なった臨床所見が見出し得る.しかし常に正確に鑑別できるとはいえない,肺硬塞の診断に当ってはまず栓子の存在条件あるいは発生要因が認められること,ついで本症に特徴的な臨床症状のあること,肺栓塞あるいは肺栓塞を立証する諸検査成績が得られることを知っておかねばならない.

III.消化管 1.胃液のみかた

胃液検査の再認識

著者: 井林淳

ページ範囲:P.1014 - P.1016

 胃液の性状が胃疾患を忠実に反映すると期待するには,微小胃癌が問題にされている今日,無理な注文かもしれない.しかし胃疾患において胃液検査の必要性を否定するものもいないであろう.
 胃液分泌には従来,塩酸・ペプシン分泌が代表された時代を経て,最近の体液病態生理の進歩に伴い各種胃疾患の形態学との対比の必要性が要求されてきている.胃X線,内視鏡,細胞診,生検組織像との対比検討から胃粘膜の超微細構造に至るまで機能との対比が要求されている.

胃液検査の再認識

著者: 三好秋馬

ページ範囲:P.1017 - P.1019

胃液検査の意義は
 胃液検査法は胃の分泌機能を知る唯一の方法であり,その基本的な考え方は現在も変わらないが,実施方法の細目は分画採取方法とか,分泌刺激剤の選択などの点で一定化されるべきだとの方向へ進みつつある.周知のように前世紀から行なわれている.
 胃液検査の必要性,とくに臨床診断に必要かという疑問が案外多いのは,検査法の手数の割に判定が単純であり,ときに不安定であることによると思われる.

無酸症

著者: 三好秋馬

ページ範囲:P.1019 - P.1022

 無酸症という言葉はanacidity(無酸症),achlorhydria(塩酸欠如症)およびachylia gastrica(胃液欠如症)を漠然と表現しているように思える.
 成書によれば塩酸が欠如したときachlorhydria,総酸度が0なるときはanacidity,胃液の全成分が欠如したときachyliaという,と記述されているが,一般にはanacidityとachlorhydriaは同意義のごとく考えられ,achylia gastricaは塩酸と胃からの酵素が分泌されない場合を示すと理解されている.

2.胃内視鏡検査でわかるもの

ガストロカメラの限界

著者: 本田利男

ページ範囲:P.1022 - P.1025

 近年,内視鏡ことに胃カメラによる診断技術はめざましい進歩をとげているが,胃生検による組織所見でもっとも合致しないのは慢性胃炎である.また胃潰瘍における良性悪性像の鑑別や胃がん,ことに早期がんについて手術胃の組織所見と比較してみると,その間にかなりの不一致があり,胃カメラの診断にもある程度の制約がある.しかし胃カメラ付ファイバースコープ(GTF)の使用により,この問題はかなり解決されてきたが,ここではルチーン検査として胃カメラの限界について述べる.

吐血患者の胃内視鏡検査

著者: 崎田隆夫

ページ範囲:P.1025 - P.1026

吐血直後に検査を行なうための条件
 私に与えられた質問は,「吐血後どのくらいたったら胃内視鏡検査を行なってよいか」ということである.「吐血直後でも,あるいは吐血中であっても胃内視鏡検査を行なってかまわない」これが私の答えである.ただしいくつかの条件がある.第1に,申すまでもないが,胃内視鏡検査になれた先生が行なわねばならない.第2に外科的処置を行なう便宜を手近に得られること.それが得られぬような環境では,従来のような保存的なやりかたでまず止血をはかるのがよいだろう.もちろん出血によりショックにおちいりそうな場合は,最初にそれに対する処置をせねばならない.
 絶食して腹に氷嚢をのせてじっとしているのが,上部消化管出血に対する昔からのやりかただが,これに真正面から反対しているのがPalmerである.かれが「上部消化管出血に対する積極的アプローチ」と名づけているその方法は,すでにご存知の方も多いと思うが,つぎのようである.「消化管出血例が入院したら,血液学的・生化学的検査を行なうとともに,ただちに輸血・輸液を開始する.同時に胃を冷水で洗浄し,出血がおさまったところで,食道鏡検査・胃鏡検査,さらにひきつづいてX線検査を行なう.かくして1時間以内に診断を確定し,それぞれに適応した治療にとりかかる」というわけである.

3.下血と潜血

下血をみたとき—急性大量下血を中心に

著者: 安部井徹

ページ範囲:P.1027 - P.1029

下血の分類
 ほとんどすべての消化管疾患において下血を見るといっても過言ではない.呼吸器,血液などの疾患でも下血をきたすことがある.したがって,潜出血から肉眼的にわかるような出血,さらにはショックに陥るような急性大量出血は,それ自体,診断の手がかりにはならない.
 しかし,下血を取り扱うには,これをその量と早さから①急性大量出血と②慢性出血の2つに分けておくと便利である.

便潜血反応

著者: 正宗研

ページ範囲:P.1029 - P.1031

 消化管疾患の症状のうち,消化管出血は最も重要なものの一つなので,吐血下血のごとき顕出血はむろんのこと,潜出血の場合にもこれを他覚的に証明するために,糞便潜血反応は重要な日常の検査手技の一つとして診断学上応用されている.

4.腹部単純撮影

腹部単純撮影からわかるもの

著者: 山口保

ページ範囲:P.1031 - P.1035

 急性腹症,あるいは尿管結石が疑われる時,腹部単純X線像を読影して診断の一助とすることは,日常の臨床できわめてしばしば行なわれている,X線学的な局所解剖を念頭におく時,腹部単純X線所見はいろいろの徴候を示してくれる.
 われわれが1枚の腹部単純X線フィルムをみた時,どの程度まで疾患を診断しうるか,常に念頭におくべきこと,また撮影上注意すべきことなどについて,諸賢の最近の報告1)-4)と他の文献5),6),とさらに私のささやかな経験を基にして述べたいと思う.

5.胸部の消化器病

食道の通過障害

著者: 山形敞一

ページ範囲:P.1035 - P.1037

悪性腫瘍をまず念頭に
 食道の通過障害を起こす原因にはいろいろあるが,まず最初に考えるべきことは悪性腫瘍が原因となっていないかどうかということである.食道の悪性腫瘍としては食道がんと食道肉腫とあるが,いずれも早期手術以外に根治する方法はないから,これを見おとさないことがたいせつである.そのほか縦隔腫瘍の圧迫による食道の通過障害も早期診断が必要である.また瘢痕性狭窄や特発性食道拡張症による食道の通過障害も,場合により手術を考慮しなければならないこともあるから診断上重要なものである.
 食道の通過障害を起こす良性の病気としては食道良性腫瘍,食道裂孔ヘルニア,食道憩室,噴門けいれん症などがあるから,これらの病気を正確に診断することも必要なことである.

食道裂孔ヘルニア

著者: 牧野永城

ページ範囲:P.1037 - P.1039

 1人の患者を症例としてあげ,それについて話を進めてみたい.

6.十二指腸とその周辺

十二指腸潰瘍

著者: 井上幹夫

ページ範囲:P.1040 - P.1042

 十二指腸潰瘍の診断は最終的にはX線学的にニッシェを証明することにつきるが,以下十二指腸潰瘍の診断上留意すべき事項について述べよう.

Blind loop syndrome

著者: 丹羽寛文

ページ範囲:P.1042 - P.1045

Blind loop syndromeとは
 外科手術で小腸をかなり広範囲に切除しても,吸収障害をきたすことは少ないものである.しかし,小大腸間,あるいは小腸と小腸の間でも側々吻合や側端吻合が行なわれている症例では,時に閉鎖された腸管断端が拡張して盲嚢ができたり,空置された腸管内に腸内容が停滞する場合には,腹痛や腹部膨満感などの不定の消化器症状をみるとともに,高色素性貧血,舌炎,体重減少,下痢その他の吸収障害にもとづく諸症状をきたすことが知られている.これがblind loop syndromeとよばれるものである.本症候群の頻度は多くはないが,抗生物質の投与で臨床症状の改善がみられ,さらに外科的に盲嚢部を除去する,あるいは空置された腸管の走向を正常に戻せば吸収障害は消失するので,吸収障害をきたす他の疾患との鑑別が重要である.なお本症候群は腸管内に内容の停滞があって,細菌の増殖が生じた場合にみられるので,手術後の盲嚢形成ばかりでなく小腸憩室や,術後潰瘍の穿孔などによる小大腸間の瘻孔形成に基づく腸管短絡にさいしても認められる.また時に結核,クローン病,腫瘍,癒着その他の原因による小腸の狭窄でもみられることがある.いずれにしても本症候群は腸内容の停滞にもとづく腸管内細菌叢の変化によるV.B12の吸収障害が主因であって,それに種々の物質の吸収障害が加わったものがその本態であると考えられている.

憩室炎

著者: 大貫寿衛

ページ範囲:P.1045 - P.1047

憩室発生の頻度
 消化管は,食道から結腸までそのいずれの部分にも憩室発生の可能性があるが,最も高い頻度に発見されるのは結腸ことにS字状部で,次いで十二指腸ことにその第2,第3部分の内側である.小腸では発見の頻度はかなり下がるが,先天性Meckel型のものは遠位回腸に多く,後天性のものは空腸のそれもTreitz靱帯の近くに多いという.もっとも憩室の頻度は報告によってかなりまちまちであり,たとえば十二指腸憩室はX線的には0.8-5%,剖検上は5-22%(いずれも検索全症例に対し)に発見されるといったぐあいで,この頻度は検索の技術と努力に比例して向上するともいわれている.食道,まれには胃にも憩室は見いだされるが,憩室炎を問題にするのであれば,十二指腸以下について考えればよいであろう.
 先天性・後天性をあわせてみると,憩室はだいたい40歳以上の年齢の者に多く,性差は十二指腸では明らかでなく,小腸,結腸では男性にやや多いとされる.

7.日常よくみられる大腸の異常

過敏大腸症

著者: 山形敞一

ページ範囲:P.1047 - P.1049

 不定の腹部症状や便通異常を訴えているにもかかわらず,明らかな器質的変化や先天異常を認めない場合のあることが,Howship(1830),Wilson(1922),Ryle(1928)らによりしだいに明らかにされ,ことにJordan & Kiefer(1929)以来Irritable colonと称されるにいたった.本症はその症状に応じてSpastic colon,Unstable colon,Colonic neurosis,Functional colitis,Mucous colitisなどとも称せられ,わが国でも刺激結腸,交替性便通異常症,大腸ジスキネジーまたは過敏性大腸などといわれているが,近ごろでは過敏大腸症という名称が多く用いられている.

急性虫垂炎と白血球増加

著者: 四方淳一

ページ範囲:P.1049 - P.1052

白血球数心正常域
 白血球数はいくつをもって正常域とするべきか? それは個人差もあるであろうし,また同一人にしても食事,運動,月経,痛み,薬剤投与などの影響をうけるであろう.通常行なわれているメランジュールと計算盤による方法では20%の誤差がある,ともいわれる8).しかし,急性虫垂炎のような救急疾患の取扱いに際しては簡単・迅速な検査方法が推奨されるので,得られた情報をそれなりに有効に応用しなければならない.Hardisonは,健康人の白血球数は95%までが5,000-10,000/mm3にあるとしているし3),一般に10,000/mm3以上を白血球増加と考えてよいと思う.以下,/mm3を省略する.

直腸癌

著者: 伊藤一二 ,   小山靖夫

ページ範囲:P.1052 - P.1054

痔核・大腸炎の誤診が多い
 直腸癌の大半(78%)は歯状線より10cm以内の所に発生し,したがって直腸指診のみで容易に診断をつけうる比較的診断しやすい癌であり,また胃癌などと異なり,限局的に発生するものが多いため,根治の希望の高い癌の1つである.事実,リンパ節転移を認めないDukes分類のAでは術後5年生存は80%以上の好成績が得られている.
 しかし現状では必ずしもこのような早期に発見されるとは限らず,われわれの統計をみても,直腸癌手術例の57%にはすでにリンパ節転移が認められ,また17%の高率に手術時すでに肝転移が認められており,これら進行癌の予後はきわめて不良である.したがって,手術による根治度の高い直腸癌をより早期に発見する手段および体制を確立することが急がれるわけである.特に重要なことは,直腸癌患者が比較的早期より直腸肛門に関する症状を訴えて医師を訪れているにもかかわらず,簡単な検査法を怠ったため,痔核あるいは大腸炎と診断され,あたら早期発見の時期を失した症例がわれわれの統計でも40%にみられたことで,今後医師側として大いに反省すべきことであろう.以下われわれが日常行なっている診断方法を簡単に述べる.

回盲部腫瘤

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.1054 - P.1057

まず注意すべきこと
 右下腹部腫瘤と回盲部腫瘤とは全く同じものをいうのではない.厳重な意味で用いれば回盲部腫瘤のほとんどすべては回腸終末部から盲腸・上行結腸に関係したものだけになり,右下腹部腫瘤のようにヘルニアや遊走腎あるいは腹壁の病変,子宮付属器などは除外される.しかし腫瘤が腹腔内で,回盲部のものであるかどうか,また腹壁の腫瘤が結局は内部から由来しているものにほかならないのか,純粋に腹膜外のものだけであるのかなどということを診断しなければ,正しい回盲部腫瘤の診断を下すことはできない.たとえ腹壁に腫瘤があっても,これが内部からきている続発的なものであるかもしれない.流注膿瘍などは今日あまり見ることがないし,その診断は容易であるから,くわしく述べる必要はないであろう.
 腹壁皮膚・皮下の限局した腫瘤ならばこれも発見はたやすい.ただしその腫瘤の性質本態を-ということになれば一見して診断可能というほどたやすくはない.リンパ節腫脹ことに悪性リンパ腫のごときものは試験的に1個の動きやすいリンパ節を取って組織学的に検索するまでは,系統疾患らしいという判断以上に出ることはむずかしい.

8.イレウスの診かた

赤痢と誤られやすい腸重積症

著者: 柳下徳雄

ページ範囲:P.1057 - P.1060

伝染科での経験から
 腸重積症は乳幼児に好発する疾患であるため,小児科を訪れることが多いのは当然であるが,病院では外科を訪れる患者もかなり多い.これは,開業医から手術的治療の要請も含めて紹介される関係であろう.
 ところで,私が最近まで勤務していた駒込病院では,伝染科で腸重積症と診断する患者の数があんがい多く,小児科や外科で初診する本症の患者数にほぼ匹敵する状況であった.これは,赤痢や疫痢を疑って紹介されたり,あるいは誤診されて送院される腸重積症が多いためである.

イレウス

著者: 長洲光太郎

ページ範囲:P.1060 - P.1063

 イレウスという診断,あるいはその疑いがあれば,もはや手術の絶対適応となるので,かりに多少の補助的治療法や診断確定のための検査があるにしても,内科の手をはなれ,外科医の手許に患者をおくべきである.しかしイレウスという診断はその症候論をはぶいては存立しえないわけであるから,次にいくつかの項目をあげて診断のポイントを述べようと思う.

イレウス

著者: 佐分利六郎

ページ範囲:P.1063 - P.1065

患者をみたときの注意点
 イレウスにも腸狭窄症に属するものから完全な腸不通症まであり,多くは術前に一応イレウスと診断を下し手術するが,絞扼性のように一刻を争ってとにかく開腹しなければならない症例もある.年齢的にも未熟児から高齢者までを含み,術前処置も異なっている.分類して記述すれば筆者は楽であるが,教科書的となりスペースも不足する。臨床家の立場から患者をみながら必要な考え方を主として述べることにした.イレウスらしい患者をみた時に次の諸点の検討が大切である.
 1)まずイレウスか否か?

IV.肝・胆・膵 1.主な肝機能検査

血清トランスアミナーゼ

著者: 上野幸久

ページ範囲:P.1068 - P.1070

はじめに
 血清のトランスアミナーゼ(以下TAと略す)のうちグルタミン酸焦性ブドウ酸トランスアミナーゼ(以下GP-Tと略す)は肝疾患において特異的に上昇し,グルタミン酸オキザロ醋酸トランスアミナーゼ(以下GO-Tと略す)は心疾患および肝疾患においていちじるしく上昇する.これらの酵素活性の増加は肝細胞または心筋の傷害を直接あらわしており,きわめて鋭敏であり,肝および心疾患の診断にはなくてはならない検査法の一つである.その活性は通常Karmen単位であらわされるが,正常値はGP-T 30単位,GO-T 40単位以下である.

GOTの高いとき

著者: 林康之

ページ範囲:P.1071 - P.1072

 診療にあたって血清GOT(Glutamic Oxalaceticacid Transaminase)のみを検査する場合はほとんどないが,GOTの高いときの診断の進めかたを考えてみよう.

血清トランスアミナーゼ(GOT,GPT)活性

著者: 平山千里

ページ範囲:P.1072 - P.1075

GOT,GPTとは
 血漿中には多数の酵素が含まれているが,大別すると,血漿特異酵素と血漿非特異酵素に分類することが可能である1)(表1).血漿特異酵素は,正常血漿の機能的構成成分の一つであり,血漿タンパクと同様の機序で生成され血中に出現する.この代表例はコリンエステラーゼである.血漿非特異酵素は,血漿の機能的構成成分ではないため,血漿中の濃度は一般に低い.血漿非特異酵素は,さらに排泄酵素と細胞酵素に分類することができる.前者は分泌腺細胞の構成因子であり,血漿中に排泄されるものであり,代表例はアルカリ性フォスファターゼである.細胞酵素は,細胞内に高濃度に存在しており,細胞内代謝に重要な役割を演じているものである.細胞酵素の代表例はトランスアミナーゼであり,このうち,GOT(グルタミン酸オキザロ酢酸トランスアミナーゼ,一般名:Aspartate Aminotransferase),GPT(グルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ,一般名:Alanine Aminotransferase)がその代表酵素である.
 GOTは,筋肉や肝に高濃度に存在し,またGPTは,肝に高濃度に含まれており,組織濃度は,血漿濃度の104程度である.したがって,筋や肝の細胞膜の透過性の変化や機械的障害で容易に血中に出現する.そのため,細胞酵素は別名,逸脱酵素または漏出酵素ともよばれている,細胞酵素の血中濃度を規定する因子としてつぎの4因子を考えることができる2)

LAPの臨床的意義

著者: 鈴木宏

ページ範囲:P.1075 - P.1078

 Leucine aminopeptidase(LAP)は,1958年RutenburgらがL-leucyl-β-naphthylamideを基質とするLAPが,膵癌患者において特異的に上昇することを認めて以来,臨床的に注目されるようになったものである.しかし,その後,この酵素は肝,胆道疾患とくに閉塞性黄疸および限局性肝障害において血清中に著明な上昇が認められ,膵癌に対する特異性は否定され,血清alkaline phosphatase(Al-P)にまさる価値があることについては疑問視されている.しかし,血清Al-Pと異なり骨生成性疾患では上昇しないので,両者を同時に測定することにより,骨生成性疾患による血清Al-Pの上昇を診断することができる点に最も大きな臨床的意義がある.なお1957年FleisherらがL-leucylglycineを基質として用いたLAPは閉塞性黄疸よりも肝炎などの肝細胞障害に著明に上昇することを認めているが,このLAPについては現在ほとんど行なわれていないので,ここでは省略する.

プロトロンビン時間とトロンボテスト

著者: 糸賀敬

ページ範囲:P.1078 - P.1081

 Prothrombinは肝臓において生成されるが,この生成にはビタミンKの存在が必要である.ビタミンKの欠乏によって血漿中のProthrombinが減少し,血液凝固第2相の機序に障害がもたらされると出血傾向をみるに至るが,Prothrombintime(Quick 1段法)やThrombotestの測定値が延長する病態としては,先天性(遺伝性)Prothrombin欠乏症をはじめ,第VII因子欠乏症,第X因子欠乏症,第V因子欠乏症,後天性のものとして新生児出血症,肝疾患,消化器疾患,ビタミンK欠乏症,抗凝血薬投与時の場合などがあげられる.
 本検査で異常を認めた際には,上記出血性素因をきたす疾患群のいずれであるか鑑別するために,さらに部分的トロンボプラスチン時間の測定や,Biggsらのトロンボプラスチン生成試験などを実施しなければならない.

肝疾患と血清反応

著者: 山本一郎 ,   小泉宏

ページ範囲:P.1081 - P.1084

 肝疾患の疑いある患者に対しては,つぎのように血清反応を行なう.

2.血中ビリルビンの異常

高ビリルビン血症

著者: 古谷健太郎

ページ範囲:P.1084 - P.1086

黄疸とビリルビンの相関
 古くから黄疸はMeulengracht指数法で測定されてきた.しかし健康人血清の黄色調は,その75%をビリルビンに,また25%をlipochromeに負っている.したがって黄疸の存在を正しく知るためには,血清ビリルビンの定量をしなければならない.そして血清ビリルビン濃度が1.0mg/dl以上に増加しているときは,高ビリルビン血症であるし,すなわち黄疸である.黄疸をみるとき,Popperらにもとづく分類表を念頭に置いて鑑別をすすめるのも,よい方法である.
 またこの総ビリルビンは間接ビリルビンと直接ビリルビンとからなっている.そして間接ビリルビンは網内系で血色素からつくられて,流血中では血清アルブミンと結合しているが,これが肝細胞内にとり込まれて抱合されると直接ビリルビンになる.

低ビリルビン血症を示す疾患—頻度および臨床検査成績との相関

著者: 富田仁

ページ範囲:P.1087 - P.1089

京大病院の統計から
 血清ビリルビンの正常値は,Meulengracht黄疸指数5以下とされていて,高ビリルビン血症(黄疸)に関する文献は著しく多いが,低ビリルビン血症に関するものは、ほとんど見ない.わずかに柴田教授1)の臨床生化学診断法に,黄疸指数の減少は,身体の消耗または栄養不良を反映すると記載され,最近ではフェノバルビタール使用中のてんかん患者血清に,低ビリルビン血症が見られるとの文献2),その他薬剤の影響の文献3)がある程度である.しかしながら検査室にて観察していると,非常に色のうすい血清が,尿毒症などでみ見られるので,それに関する統計を行なった.

黄疸の鑑別診断

著者: 涌井和夫

ページ範囲:P.1090 - P.1093

 黄疸の患者を診た時,どのように鑑別診断をすすめているか,理論でなく,実地臨床に直結した診断のコツを解説せよとのことである.その指示に従うため,どうしても話が模式的になることを,おことわりしておきたい.当然,どういった実地臨床の場を設定するかによっても話は異なってくる.ここでは,もっとも基礎的な設備のみの医療施設を対象として考えることにする.

3.肝炎の診かた

黄疸のない肝炎

著者: 名尾良憲

ページ範囲:P.1093 - P.1095

黄疸の診断と検査
 一般に,肝炎のようにびまん性に肝細胞がおかされる疾患では,黄疸がつよく現われ,肝癌とか肝膿瘍のような限局性の肝病変では,黄疸の発現頻度が少ないものである.すなわち,肝炎には黄疸がつきものと考えられ,黄疸が現われることによって患者は医師を訪れ,医師はまた黄疸を根拠として,肝炎の診断を下すという手順が長く行なわれてきた.このように,肝機能検査法が発達しなかった時代には,黄疸のない肝炎の診断はほとんど不可能であったといっても過言ではない.
 最近では,肝機能検査のみならず,肝生検が発展・進歩をとげ,黄疸のない肝炎の診断が確定されるようになった.しかしその反面,肝腫大,尿ウロビリノーゲン反応陽性のみで安易に肝炎という病名をつける医家も少なくなく,むしろ乱用されているきらいがある.

慢性肝炎の診断基準

著者: 王子喜一

ページ範囲:P.1095 - P.1097

慢性肝炎という病名について
 慢性肝炎という病名は単に肝炎のある状態を表現する言葉にすぎないとする極端な意見もあったが,現今ではもはや日常診療上のひとつの既定疾患単位となっている.しかしその定義については人によって意見が異なり,決定的な見解が示されていない.
 Popper1)などは急性ウイルス性肝炎→肝細胞壊死→持続性肝細胞変性→慢性肝炎→グリソン氏鞘炎と線維化→肝硬変という病理学的経路を考え,慢性肝炎は肝硬変症に至る1つの過程にすぎないとしていた.高橋教授2)などは3カ月またはそれ以上の経過で肝機能検査や肝生検像に異常があって慢性肝炎の診断を受けたものでも,1年後では機能的にも形態的にも治癒しうる症例が実在し,むしろ遷延性肝炎なる病名が適すると述べ,原発性慢性肝炎という病名も全面的に肯定するものでないとの立場をとっていた.

慢性肝炎—肝機能検査のすすめ方

著者: 安部井徹

ページ範囲:P.1097 - P.1099

慢性肝炎診断の出発点
 急性肝炎がなかなか治らない,黄疸がとれない,SGOT,GPTが正常にならない,肝腫がとれない,脾腫がある,全身倦怠感がある,食欲が進まない,また一度治ったようにみえて,黄疸を繰返したり,GPTがわるくなったりする,あるいは,いつ発病したかわからないが,肝腫があり,クモ状血管腫や手掌紅斑があって,肝機能もわるい.このようなときに,われわれは一応,慢性肝炎を疑うわけである.
 しかし,このような患者が,まだ急性期にあるのか,慢性に活動しているのか,または,肝小葉の改築,門脈域の線維化が進んで,肝硬変になっているのかは,肝生検をやってみないとわからないのであって,発病からの期間などを目標にしても,ほんとうのことを知ることはできない.

4.見逃がされやすい肝臓病

自己免疫性肝疾患

著者: 荒木嘉隆

ページ範囲:P.1099 - P.1103

自己免疫性肝疾患の概念
 自己抗体あるいは自己免疫現象はいろいろな疾患にみられているが,それが病気の原因かあるいは単なる結果にすぎないかは,すべての個々の疾患でそれ程はっきりしているわけではない.このことは肝疾患の場合にもあてはまるのである.
 それは,肝障害の結果,単にそれに付随して自己免疫現象がおこっているのではなくて,それによって確実に肝疾患がおこりうるという立証が現在なお不十分なためである.このことは,自己免疫性肝疾患という概念を考えてみたり,またその言葉を使う場合に,一応心にとめておく必要がある.しかし,"自己免疫性プロセスが,肝障害を進展させる原因になっていることを強く疑わせる1群の肝疾患"があることも確かである.

見逃がされている脂肪肝

著者: 高橋善弥太

ページ範囲:P.1103 - P.1105

脂肪肝の2症例から
 症例1 30歳男性,倦怠感を主訴として来院,肝機能検査により障害を発見され,follow upした.その結果は,黄疸指数 15-5,アルカリフォスファターゼ 2.3-3.1(0.8-2.9),血清蛋白 7.4-8.5,硫酸亜鉛試験 6-9,GOT 32-264,GPT 32-127,BSP 7.5-14.0%.
 総括して,GOT,GPTが上昇しており,BSPも悪い.しかし蛋白系統には異常がない.フォスファターゼも正常である,黄疸指数は15まで高くなったことがある.

5.肝硬変,肝癌のきめ手

肝硬変

著者: 高橋忠雄

ページ範囲:P.1106 - P.1108

代償されている肝硬変の診断
 ほかのどの疾患でもそうであるように,進行完成された肝硬変の診断には,多くのばあい困難はない.しかし,いわゆる代償期の肝硬変では,かなり長い期間に亘って,自覚症状も乏しく,他覚所見にもすぐに診断につながるものが少ないので,診断はしばしば困難であり,見逃がされる可能性がある.他疾患で死亡した症例で,剖検で肝硬変の存在を,はじめて知ることがまれでないのは,このことを裏書きするものといえよう.以上の理由から,ここでは主として代償期肝硬変の診断について述べることにする.

肝がんの診断

著者: 荒木嘉隆

ページ範囲:P.1108 - P.1110

肝がん診断の重要性
 わが国は,地理病理学的にみて,原発性肝がんの多発地域に属し,欧米諸国に比べてはるかに頻度が高いばかりでなく,近年しだいに増加する傾向がみられる.
 剖検にさいし,肝にみられるがんについて比較すると,続発性肝がん(転移性肝がん)の数は,原発性肝がんの約10倍も多いが,臨床上問題となるものにかぎった場合でも,原発性肝がんの約1.5倍程度はある.

肝癌の新しい診断法—α-fetoprotein

著者: 遠藤康夫 ,   織田敏次

ページ範囲:P.1110 - P.1113

 原発性肝癌の診断法としては,一般理学的検査法,生化学的検査法,酵素化学的検査法,放射線診断法(シンチグラム,血管造影法)が知られている.
 これに加えて近年免疫化学的方法が有力な診断法として注目されてきている,α-fetoproteinを用いる方法がそれである.胎児血中に存在するこのα-fetoproteinとよばれる胎児特異性蛋白が,原発性肝癌患者の血中に特異的かつ高率に出現する事実が発見され,有力な診断法となってきている.

6.最も多い胆道の病気

胆石症

著者: 三輪清三

ページ範囲:P.1114 - P.1116

主要症候を把握しながら検査を
 胆石症は典型的な発作症状でもあれば診断は容易であるが,その症状が非定型的であったり,あるいはまったく無症状で経過するところのいわゆるSilent Stoneもあるので,その診断はなかなかむずかしいことがある.生前まったく無症状で,病理解剖ではじめて結石が発見される場合もあるが,このような場合は臨床的には胆石症とよぶことは不適当であろう.また胆石症はその結石の存在部位によっても症状が異なることがあるので,胆石症の診断には結石の存在部位的診断も必要となってくる.胆石症の診断にあたっては,まずその主要症候たる,疼痛,発熱,黄疸などの症候をよく把握し,つづいて諸検査,すなわち十二指腸ゾンデ,X線検査,肝機能検査,腹腔鏡検査,アイソトープ利用による検査などによりその診断を確実にするようにつとめなくてはならない.

胆石症

著者: 藤田輝雄

ページ範囲:P.1116 - P.1118

 胆石症の診断ははなはだ容易な場合もあるが,また非常に困難な場合も多い.胆石症の場合に発現する症状は他の疾患の場合にもしばしば発現するため常にいろいろの疾患を念頭に置きながら鑑別診断を行なわねばならない.胆石症の診断に当たってはもちろん他の諸疾患の場合と同様詳細な病歴の聴取が大切であり,その中でも最も肝要なのは疼痛発作ことに疼痛の発現状況,黄疸発現の有無,発熱の有無などの症状である.これらの病歴を聴取するとともに正確に臨床所見を把握することも大切で,この両所見から多くの場合胆石症の診断は可能となる.なお胆石症の診断をより確実にするためにレ線撮影(単純撮影),胆道造影法,肝機能検査を施行し,それらの成績を綜合判断することが望ましい.
 次に胆石症の診断の指標となる2,3の事項について述べる.

悪性腫瘍による閉塞性黄疸の日常鑑別診断

著者: 大島誠一

ページ範囲:P.1118 - P.1120

 現在,閉塞性黄疸は,肝外胆道系になんらの閉塞性機転を認めずに,著明な胆汁うっ滞像を示す,いわゆる"intrahepatic cholestasis"と,肝外胆道系の機械的閉塞ないし狭窄にもとづく,外科的黄疸に分類されるが,この閉塞性黄疸の鑑別は,多忙な第一線の臨床医にとって,きわめて困難なものの一つである.しかも,これら黄疸の初期の患者に接する機会は,大病院医師よりも,私ども第一線病院の医師に,はるかに多い.そして本疾患の性質上,私どもは患者の予後と将来に対して重大な責任を負っていることを考えて,閉塞性黄疸—ことに悪性腫瘍にもとづく黄疸に特徴的と思われる,2,3のポイントを,日常の検査成績と臨床症状から考えてみた.

7.膵臓病の診かた

血液アミラーゼの異常

著者: 菊地三郎

ページ範囲:P.1121 - P.1123

膵障害とは無関係の場合もありうる
 膵障害の診断に対する血液アミラーゼ測定の意義は,現在でもなおきわめて大きい.とくに急性膵炎の初期,あるいは慢性膵炎の急性発作期などでは有力な診断根拠となる.しかしながら,血液アミラーゼ値の臨床的意義を解釈するにあたってはつぎの2つの事項を念頭におく必要がある.1つは膵障害にはかならずしも血液アミラーゼ値の異常を伴わないということである.急性期では多くの症例において異常上昇を認めるが,ある期間を経過すれば急速に正常化する.慢性膵炎の非発作時では,多くは正常値であって,むしろ異常低値を示すこともあるといわれる.その他の膵疾患ではむしろ異常値を示す場合が少なくなる.したがって,血液アミラーゼ値は膵障害の否定材料とはなりがたいわけである.他の1つは,血液アミラーゼ量の異常は比較的に膵病変に特異的ではあるけれども,時として膵とは無関係の場合もありうることである.1938年Somogyiが血液アミラーゼの微量量定量法を報告して以来,膵障害を主体としない病態においても時として血液アミラーゼ値に異常をきたすことがあるという事実はますます確実にされるにいたった.
 急性膵炎に対する開腹手術の予後の悪いことはすでに異論の余地がない.もし,膵炎に由来しない急性腹症患者において,血液アミラーゼ値の異常上昇のゆえに対症療法に終始するとすれば重大な結果をまねくこともありうるわけである.血液アミラーゼ値の解釈に2つの限界のあることは前述のごとくであるが,臨床的には膵障害に直接由来するとは考えがたい血液アミラーゼの上昇,いわゆるfalse positiveの取り扱いがもっとも問題である,Raffenspergerは小腸の不完全閉塞症例において血液アミラーゼ値の上昇から急性膵炎として治療し,開腹手術の時期を失して死にいたらしめた反省がfalse positive症例の検討を報告する動機となったと述べている.

膵がん

著者: 小田正幸

ページ範囲:P.1123 - P.1126

 膵がんの診断は困難とされている.これは膵が腹腔内深部に位置し,その形も扁平であるため触診が困難であること,特別の自覚症が少ないこと,慣用の検査法が数種に限定されていたことなどによっていると思われる.最近この方面の研究の進歩により多少とも診断率が向上してきたが,なお十分とはいいがたい.
 私は現状において,以下従来の診断法の認識を深めることと,特殊検査法の2点を強調したい.

膵がん

著者: 築山義雄

ページ範囲:P.1126 - P.1128

 膵がんの診断は現在においてもっともむずかしいものの一つである.特に黄疸,腫瘤を認めない時期における診断は非常にむずかしい.また膵腫瘤を触れた場合でもがんか炎症かを区別するのにきわめて困難なことがある.

V.内分泌系 1.甲状腺疾患の診かた

甲状腺腫

著者: 隈寛二

ページ範囲:P.1130 - P.1133

診断の基本は注意深い診察に
 甲状腺疾患の診断は,近年の目ざましい甲状腺機能検査法の発達でより容易にはなったが,反面,検査成績を重視するあまりの誤診もなしとはしない.ほかの疾患と同じく甲状腺腫の診断においても細心の病歴聴取と注意深い診察が基本となるべきで,酵素異常に基づく甲状腺腫などは別として,日常の臨床においては検査はあくまで補助的手段であることを忘れてはならない.

甲状腺腫のない甲状腺機能亢進症

著者: 大野文俊

ページ範囲:P.1133 - P.1135

甲状腺腫は触れないが
 表題の意味は,甲状腺腫を認めえないが甲状腺機能亢進症,あるいは類似の症状を呈するものと理解してよいと考える.また現在では131Iを用いて検査を行なえば正確に甲状腺の認知や,その機能測定が可能となっているから,実地臨床上における表題のごとき症例というのは,外見または触診上,前頸部に甲状腺腫は認めがたいにもかかわらず頻脈,手指振せん,発汗,神経不安などがみられBMR,(Read式によるものでもよい)が増加しているという場合が大部分と思われる.
 このような症例については古くからいくつかの名でよばれてきており,たとえばmasked hyperthyroidism(Charcot),basedoid,formes frustes(Zondek),para-Basedow(Labbè)などや最近ではextrathyroidal hyperthyroidism(Zondek),extrathyroidal hypermetabolism(Bruger)などがある.

見のがされている甲状腺機能亢進症

著者: 入江実

ページ範囲:P.1135 - P.1137

意外に見落としと誤診の多い本症
 甲状腺機能亢進症の診断は比較的やさしいと考える人が多いのではないかと思う.たしかに教科書的な,典型的な臨床症状,すなわち①甲状腺の腫大,②動悸,発汗,ふるえ,やせなどで代表される甲状腺ホルモン過剰分泌による症状,③眼球突出その他の眼症状,の3つがそろっている場合には,診察にきた患者を一目みただけで,いわゆるBlickdiagnoseで診断をつけるにともできる.しかしこれらの症状は必ずしも全部出そろっているわけではない.甲状腺腫大も場合によっては大してめだたない場合があり,また注意してみないと甲状腺腫大を見落とすこともある.ホルモン過剰による症状も患者によっては著明でなく,漠然とした自覚症状のみを訴えることもあり,逆にある1つの症状だけがきわめて誇張された形で現われることもある.眼球突出は患者の半数以上において欠如するので,それがなくとも本症の診断を否定する根拠とはならない.ただし,眼球突出のない患者でも,大きく見開いた目,下を向かせた時に眼球結膜部が残るいわゆるグレーフェの症状などは存在しうる.今日の考えではこれらの症状は眼球突出とは原因を異にし,甲状腺ホルモン過剰に起因する眼瞼のスパスムスによると考えられているからである.

甲状腺機能検査はどうしたらよいか

著者: 清水直容

ページ範囲:P.1137 - P.1140

甲状腺機能とは
 甲状腺のはたらきは,血中のヨウ素イオン(I-)を腺内に摂取してタイロシンをヨウ素化し甲状腺ホルモンであるサイロキシン(T4),トリヨードサイロニン(T3)を産生し血中に放出することにある.そしてこの機能は下垂体前葉より分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)あるいはバセドウ病の場合にはLATSとよばれる蛋白体によって促進される.
 甲状腺におけるホルモン産生・分泌は図に示したⓐ〜ⓕの6つのステップの総和としてあらわれるもので,生体全体としてみた場合,甲状腺機能が正常・亢進・低下というのは,この分泌された甲状腺ホルモン量の増減により血中ホルモンレベルが正常・増加・低下していることである.しかし現在もちいられている数多くの甲状腺機能検査によれⓐ〜ⓕの各ステップの機能を,それぞれ独立に示すことができ,これは甲状腺全体としての機能亢進・低下とはかならずしも関係がないが,これによってその病態を正確に把握しうることが少なくない.

甲状腺機能低下症

著者: 七条小次郎

ページ範囲:P.1140 - P.1142

診断の手がかり—まず視診
 本症の診断にあたって何を手がかりとするかというとまず視診をあげねばならぬと思う.
 いままで私が扱ってきた症例の数は多くはないが,ことごとく視診により特有な皮膚所見と顔貌を見つけており,蒼白で荒れた,乾燥した皮膚をしていて,何か,ねぼけたような顔つきで瞼がはれぼったい感じのする患者のなかから本症が見出されている.皮膚と顔貌の二つでおよそ見当をつけてから詳細な問診,視診,触診,聴打診,その他の諸検査をすすめていくわけであるが,問診を行なうにあたっては,体の弱り,嗜眠,寒がり,発汗低下,記憶減退,便秘傾向,呼吸困難,声のかれ,おしゃべりののろいこと,食思不振,月経困難,動悸,耳の聞こえの悪いこと,心部痛などに気をつける必要がある.

亜急性甲状腺炎

著者: 鈴木秀郎

ページ範囲:P.1142 - P.1145

 亜急性甲状腺炎は1904年スイスの外科医により初めて報告された疾患であるが,その後ながい間,この疾患の患者は臨床的にも病理組織学的にも,いろいろな他の疾患と誤られてきた.1948年Crileはこの疾患が亜急性に経過し,予後可良であることを強調する論文を書き,ようやくその正確な病像が広く世に知られるようになった.日本でこの疾患に初めて興味をもち,その正しい概念を世に普及するのに最も大きな貢献をしたのは東大第2外科の藤本で,1955年頃(昭30)からのことである1-3)
 以上のように,この疾患は比較的古くから発見されているにもかかわらず,臨床レベルで正確に把握されるようになるまでに長い期間を要しているが,これはこの疾患が比較的まれで,他の疾患とまぎらわしいような臨床経過と病理組織像を有し,しかも予後可良で後遺症を残すことなく治癒してしまうためと考えられる.しかし,初めからこの疾患の存在を知って患者をみるならば,その病像はまことに特有で,実際に症例を経験したら忘れようとしても忘れられないものである.

甲状腺癌

著者: 降旗力男

ページ範囲:P.1145 - P.1148

甲状腺癌は少なくない
 甲状腺に発生する悪性腫瘍は,表1に示すようなものがあるが1),このなかで最も多いものは癌,とくに乳頭腺癌である.
 甲状腺癌は一般に少ないものと考えられており,これは厚生省の統計による年間死亡数が300名余2)というほど少ない点からみても考えられやすいことである.しかし,甲状腺癌はそんなに少ないものではないということがわかった.筆者らは長野県下13地区において甲状腺腫の集団検診を行なったところ,甲状腺癌が1万人に対して13人の割合に発見された.とくに30歳以上の女性についてみると,1万人に対して31人の有病率となり,これは従来の概念をはるかに上回る高い率であることが判明した.この事実は年間死亡者数の少ない点と矛盾するようであるが,甲状腺癌の大部分を占める乳頭腺癌は発育がおそく,治療後の予後が良好であるので,患者数は多くとも死亡者数は少ないという結果になると考えられる.したがって,甲状腺癌は少ないという従来の概念は訂正されなければならない.換言すれば,甲状腺に腫瘤を認めたならば,つねに癌を念頭において診察する必要があろう.

トリオソルブとテトラソルブ—測定の意義

著者: 熊原雄一

ページ範囲:P.1148 - P.1152

トリオソルブ,テトラソルブとは
 トリオソルブとテトラソルブはいずれも商品名である.トリオソルブは131I-triiodothyronine(T3)レジン摂取法(131I-T3RU)の1つであり,テトラソルブは,thyroxine binding globulin(TBG)なる特異結合蛋白を利用してthyroxine(T4)を測定するcompetitive protein binding analysis(競合蛋白結合を用いる分析法)の1つである.
 131I-T3レジン摂取法を用いるものには,最近スポンジに代わってストリップを用いるレゾマット-T3やSephadexを使ったトリリュウトやサイオパック-3なども出ている.また後者競合結合を利用する方法で,血中T4を測定するキットとしてはレゾマット-T4やテトラリュウトなどがある.

2.下垂体副腎系疾患の診かた

下垂体疾患

著者: 入江実

ページ範囲:P.1152 - P.1154

一般的な考えかた
 内分泌疾患の診断について考えるさいもっとも重要なことは,ある内分泌腺に関してどのようなホルモンが分泌され,またそれがいかなる作用をもっているかについて知ることである.疾患として一般的にいえることは,ホルモンの分泌過剰による場合すなわちhyperの場合と,逆にホルモンの分泌がなくなるか不足するかの状態すなわちhypoの状態とがありうるということである.臨床的にはそれぞれそのホルモンのもつ作用が誇張され,また欠落したための変化が現われるが,ホルモンの種類によって分泌過剰を起こしやすいものと分泌低下を起こしやすいものとがあることも知られている.
 下垂体疾患の場合について上述の点につき考慮してみるとまず今日知られている分泌ホルモンとしては,前葉からの

クッシング症候群

著者: 井林博

ページ範囲:P.1154 - P.1159

はじめに
 1932年Peter Bent Brigham病院の外科主任Cushing教授によって記載された本症の臨床像は,近年各種合成皮質ステロイド剤療法の登場以降その副作用として本症に酷似した症状が出現するにとから,現象論的には臨床家に馴染み深いclinical entityとなっている.
 病因論的にはCushing教授の創唱した下垂体好塩基性細胞腺腫(Pituitary basophilism)学説はまもなくMayo Clinic一派(Kepler, Walterら1934, Sprague 1950)の副腎皮質機能亢進説に修正されて今日に到っている.そして現在ではCushing教授の記載したuniqueな臨床症状を呈するものをその原因のいかんにかかわらずその名を冠してクッシング症候群とよび,とくに下垂体ACTH分泌亢進による両側副腎過形成の症例をクッシング病と呼んでいる.以下Cushing症候群の病因,診断と治療などについて述べる.

3.注意すべき症状

内分泌と筋力

著者: 井形昭弘

ページ範囲:P.1159 - P.1162

はじめに
 近年の骨格筋に関する研究の発展はめざましいものがあり,かなり詳細な点にまで検討されている.その代謝過程に対し各種の内分泌ホルモンがそれぞれ影響をもっており,種々の障害をおよぼし臨床症状を呈する.ここではホルモンが筋力におよぼすメカニズムとその臨床像について概説
を試みたい.

女性乳房—その起こるしくみと臨床的意義

著者: 池田高明 ,   阿部令彦

ページ範囲:P.1162 - P.1164

特徴と発生頻度
 女性乳房症とは,男子乳房の片側性または両側性の病的肥大で,16世紀Aristotleの時代から知られているが,1848年Basedow1)による詳細な記載があり,その後多くの報告がなされている.大きさは小さなボタン型のSubareolar nodeのものから十分に発達した女性様乳房まであり,Gynecomastia(with breasts like women)と名づけるゆえんである.触診上,柔軟な組織内に,比較的硬い結合織の抵抗を触れるのが特徴で,圧痛を伴うことが多い.乳嘴は,腫脹した乳腺の中央に位置し,癌の場合と異なり,dimplingの症状を証明しない.
 鑑別すべきものとして,①脂肪性肥大(Pseudogynecomastia),②嚢胞,③感染性硬結,④良性腫瘍などがある,男子乳腺異常の発生頻度は,Lenson1)のnavyにおける600万人の調査では,1891例に認め,そのうち,脂肪性肥大が54.5%,女性乳房症が45.3%あり,乳癌は3例で0.16%であり,Pseudogynecomastiaと鑑別することが重要で,特に肥満型の人には注意を要し,触診すれば乳房全体がやわらかく抵抗がないのがPseudogynecomastiaの特徴である.

VI.代謝糸 1.口渇と尿量異常よりなにを考えるか

口渇

著者: 小林勇

ページ範囲:P.1166 - P.1168

 生体は体内の水分が欠乏したとき,抗利尿ホルモン(ADH)分泌を介して腎からの水再吸収を増加させるが,これだけでは喪失を防ぐに十分ではない.このようなときに赤信号として渇感が生じ,水分摂取が促され,初めて水欠乏が是正されることになる.すなわち口渇多飲は,間脳下垂体後葉-尿細管系とならんで,生体にとって体液量および滲透圧の維持に欠くことのできない重要な機構である.現在口渇はAnderssonらの実験結果にもとづき,視床下部にあるとされる渇中枢(thirst center)から中枢性に生ずると考えられている.渇中枢に対するおもな生理的刺激はADH分泌の場合と同じく,体液滲透圧の上昇か体液量の減少である.一方視床下部病変などで渇機構そのものが冒された場合には,脱水があって口渇がおこらぬこともあるわけである.

多尿

著者: 土屋雅春

ページ範囲:P.1168 - P.1170

診断のすすめ方
 多尿とは24時間尿量が病的に増加した状態であり,正常人尿量1.2-1.5l/日を超えて,2l/日以上に及ぶときをいう,多尿を来たす疾患の代表者は尿崩症(diabetes insipidus),煩渇-多尿症候群(polydipsia-polyuria syndrome, impulsive polydipsia, psychogenic polydipsia),糖尿病,萎縮腎およびConn症候群である.
 尿量は個体により,天候や体動によりいちじるしく動揺しやすく,また浮腫,胸水・腹水などの減退期や利尿剤使用時,さらにはアルコール摂取時にも一過性に増加する.それゆえ持続性多尿を確認する時には蓄尿の上,数日間観察する必要がある.

多尿

著者: 杉本民雄

ページ範囲:P.1170 - P.1173

多尿(polyuria)ということば
 成人が1日に排泄する尿量は1000ないし1500mlの範囲内にあるものが多いが,健康な人でも体格の大小,温度・湿度などの気候的条件と共に食物や水分摂取量によって大きく左右されている.また浮腫や体腔に液体の貯溜があって,これらの体液が急速に排泄されるときも当然尿量は増加する.しかし独立した症状としてとりあげられる場合,多尿ということばは持続的に尿量が増加した状態をさすものとされている.また,その量も多くの人達の記載では1日3000mlを越えるものを多尿と呼んでいる.特にここでとりあげられる多尿とは,3000ml以上の尿量が持続的にみられ,他に顕著な症状がなくても何か尿量増加をおこす病的な原因があり,これを検索する必要がある場合が問題となる.ここではこのような多尿をきたす疾患のうちから主なるものをとりあげて,日常の診療で考慮すべき事項をのべてみる.

2.糖代謝異常の見分け方

糖尿病

著者: 石渡和男

ページ範囲:P.1174 - P.1176

はじめに
 糖尿病はインスリン作用の不足によって物質代謝に異常をきたし,各種の合併症をおこしてくる疾病であって,その代謝異常は糖質代謝,脂質代謝,蛋白代謝,その他,各方面に及んでいる.したがって,糖尿病患者の病状を把握するためには,各種の代謝異常について検査し,各種の合併症の状況について検査する必要があるが,糖尿病の病名決定には,現在のところ,主として糖質代謝に関する検査,とくに早朝空腹時の血糖検査と糖質負荷試験が用いられており,最近は,これらにつけ加えて,ブドウ糖負荷時の血中インスリン(immunoreactive insulin, IRI)の動きが診断の参考にされるようになってきている.

血糖曲線からの糖尿病の診断

著者: 日野佳弘

ページ範囲:P.1176 - P.1180

複雑になった糖尿病診断
 糖尿病に関する新しい知見が加わるにしたがい,糖尿病とは遺伝的素因があり,インスリン作用の減弱,分泌異常などを有し,細小血管症(網膜症・腎症など)を特有な病変とする疾患として把握されてきたが,その定義の1つとして代謝異常とくに糖代謝の病的な変化を示す以上,血糖曲線による糖尿病の診断は重要である.しかしながら糖代謝異常によってわかることは糖尿病状態である.したがってこの異常状態と関係すると思われる他の糖尿病性因子,あるいは糖尿病による病態また糖尿病以外の糖代謝異常をきたす生理学的あるいは病理学的状態,あるいは体質・年齢などを考慮して糖代謝異常を判定し糖尿病の診断をしなければならない.
 このような糖尿病診断上の考え方を背景にもちつつ血糖曲線を判定するにあたって,その異常は軽度から高度まで継続的な変化であり,また同一患者でも常に一定の変化を示すとは限らないので,どの一線をもって糖尿病性と診断するかはきわめて人為的であり,かつ困難な問題である.一定の基準の上で集団検診をする場合ならばともかく,患者として治療・健康管理をする立場にある臨床家としては,それぞれの経験,臨床データーに基づいてそれぞれの診断基準をもっている現状であるが,それでもなおかつ糖尿病か否かの診断には継続観察が必要である.

肝障害と糖尿病状態

著者: 葛谷覚元 ,   高森成之

ページ範囲:P.1180 - P.1182

 肝障害時にみられる糖代謝障害については,1次性糖尿病との対比という点で注目されている.また両者が併存している場合にただちに1つのclinical entityとして肝性糖尿病とよぶことの妥当性もしばしば論議されているようである.個々の症例をみると,両者がいかに関係しているか判断ができないにとが多い.筆者らはまずわれわれが扱った症例をあげ,ついで肝障害と糖尿病について考察を試みたい.

老人の軽い糖代謝異常

著者: 伊東三夫

ページ範囲:P.1182 - P.1185

 老年者の軽い糖代謝障害について関心がよせられる主な理由は,
 1)老年者では一般に耐糖能の低下をしめすものが多いが,この耐糖能の低下と疾患としての糖尿病を同一と考えてよいか,

低血糖症

著者: 木島滋二

ページ範囲:P.1185 - P.1188

 低血糖症は重症になると昏睡やけいれんを起こし,はなはだしいときは死亡することさえある.あるいは死なないまでも,脳がおかされて廃人になることがあるので,早くそれと気がついて適切な処置をとらなくてはならない.低血糖症はどんな場合に起こるのか.それぞれの特徴と,とるべき処置など,低血糖症をめぐる諸問題について述べたい.

3.肥満の診かた

いちじるしい肥満の患者を診たとき

著者: 後藤重弥

ページ範囲:P.1188 - P.1191

 近時肥満の問題は,ことに小児肥満をめぐってかなり日本でもとりあげられてきた.肥満は,中年では一般的のものでもあるが,米国では人口の3%弱約500万人が,標準体重を20%以上も上まわる病的肥満であるといわれ,ことに女子に多いようである.

肥満と血圧

著者: 松木駿

ページ範囲:P.1191 - P.1192

肥満ゆえに測定上の誤差は出るか
 肥満に高血圧が多いことはすでに多数の統計が示しているが,Raganら1)が直接法と比較して指摘したように,肥満者は上腕囲が大きいために血圧測定に誤差が出て高く測定される可能性があるという疑問がある.Pickeringら2)はRaganら1)の成績から上腕囲の大小による誤差を修正する式を示している.
  収縮期圧差=1.2774x-35.858
  拡張期圧差=0.8701x-15.343

4.高脂血症の見分け方

中性脂肪(トリグリセライド)の高いとき

著者: 中村治雄

ページ範囲:P.1193 - P.1195

血液中のトリグリセライド値
 空腹時の血清または血漿中では,トリグリセライドはSf 20-400までのリポ蛋白部分(pre-β リポ蛋白,超低比重リポ蛋白)に多く含まれており一部にSf 0-20のリポ蛋白(β-リポ蛋白,低比重リポ蛋白)に存在する.また,わずかながら,高比重リポ蛋白(α-リポ蛋白)にも存在する.これらのリポ蛋白に含まれるトリグリセライドは,主として肝臓で,糖,または脂肪酸を素材として合成されたものであり,一部,最近では,腸管での合成が確認されている.
 これに反して,食後,それも脂肪の多い食品の摂取がおこなわれたあとでの血清,または血漿では,Sf 400以上のリポ蛋白,一般にカイロマイクロンと呼ばれる,きわめてトリグリセライドを豊富にもった脂蛋白が増加する.食後の血清の白濁は,主としてこの大きな粒子による散乱光に由来するが,空腹時に採取した血液にも,時にこのような現象を認めることがある.いずれにせよ,ここに含まれるトリグリセライドは,体外から摂取した外因性のものであり,先に述べた肝,一部腸で合成された内因性トリグリセライドとは,その病的意義も代謝系路も異なっている.

高コレステロール血症

著者: 和田正久

ページ範囲:P.1195 - P.1197

血清中の存在様式
 血清中のコレステロールは蛋白と結合して脂蛋白の形で存在するが,コレステロール含量の多いのはβ脂蛋白でα脂蛋白はコレステロールの含量が少ない.なお脂肪酸と結合しているか否かによってエステル型と遊離型に分けられる.

コレステロール異常値

著者: 富田仁

ページ範囲:P.1197 - P.1199

 血清コレステロールには遊離型とエステル型とがあるが,ここでは両者を合わせた血清総コレステロール値について述べる.血清総コレステロール測定には,いろいろの方法があり,また同一方法でも試薬などによって著しくデータの動揺する臨床検査の1つである.同一試料の繰返し測定実験における変動係数(C. V.)を±10%以内に収めることもなかなか困難である.このような測定誤差に加うるに,年齢差,性差,日差,季節差,環境差,人種差などがあって,正常値さえ決定することもむずかしい現状にある,京大中検では創立以来Bloor1)変法によって測定しているが,アメリカのアトランタCommunicable Disease CenterからのControl Surveyでは,われわれの測定値は再現性において世界一であるが,標準とされているAbell-Kendall2)法値に比べれば約20mg/dl高値である.

5.血漿蛋白異常よりなにを考えるか

高蛋白血症

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.1200 - P.1202

もっと血清蛋白濃度の測定を
 実地医家の方々は尿の検査はよくやられるが,血液化学の分析に関心をもっておられる方が少ないように思われる.これからは血液化学にもっと関心を寄せていただきたい.高蛋白血症といっても,血清蛋白濃度の測定を行なわぬかぎりは,見つける方法がないわけである.血清蛋白濃度の測定は,わずか1滴の血清と屈折計(蛋白計ともいわれる)があれば,瞬間的に,だれにでもできるのだから,ぜひ実施していただきたいものである.
 この場合,ぜひ知っておきたいことは,血清蛋白濃度そのものを測定しているのではなく,血清の屈折率を測定し,その値に一定の係数をかけて蛋白濃度を求めているということである.だから,もし血清に屈折率を左右する物質が,蛋白以外にも存在していれば,正しい蛋白濃度は求められないことになるのである.

低蛋白血症

著者: 板原克哉

ページ範囲:P.1202 - P.1204

はじめに
 浮腫のある患者あるいは急激な体重減少を訴える患者をみた場合に,尿の検査と同時に血沈とか血清蛋白とか,さらにその蛋白分画を検討することは,蛋白に関する新しい臨床検査法の普及した今日では医家の常識とみなしてよかろう.そしてもし低蛋白血が発見されたなら(6g/dl以下),これが水血症によるみかけの上での低蛋白であるかどうか,血色素およびヘマトクリット値を参考として鑑別できるはずである。

高γ-グロブリン血症

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1204 - P.1206

高γ-グロブリン血症を疑わせる所見
 血中にγ-グロブリンが増加してくると,血液あるいは血清の性状がいろいろと変わってくる.そのおもなものとして,原因不明の出血素因,赤沈値の亢進(特にCRP試験が陰性の場合),末梢血液塗抹標本・血液型検査でみられる赤血球連銭形成,骨髄中形質細胞増加(約5%以上),梅毒血清反応における抗補体作用,関節症状を伴わないRAテスト陽性,血清総蛋白濃度の増加,A/G比の低下,血清膠質反応陽性,血清相対粘度の上昇,などである.このほか,血清を水で希釈したり,低温保存あるいは56℃で非動化したとき白濁またはゲル化する現象がみられた場合も同様である.
 これらの所見のない場合でも高γ-グロブリン血症が存在することがあるが,これらの所見を認めたならば,まず高γ-グロブリン血症を疑って後述するような方法で検査を進めていくのである.

血清糖蛋白の臨床的意義

著者: 堺隆弘

ページ範囲:P.1206 - P.1209

糖蛋白とは
 糖蛋白とは蛋白と糖の複合体であり,その生理的な役割は多方面におよび,糖蛋白,ムチン,酸性ムコ多糖の名で呼ばれている.酸性ムコ多糖は結合織の基質として組織中に広く分布している.ムチンは腺から分泌される粘液物質,すなわち,唾液腺ムチン,胃ムチン,卵巣嚢腫ムチンなどがある.
 血清中の糖蛋白はこれらの組織中のムコ多糖,ムチンが糖部分を主とするのとはやや異なり,蛋白を主とし,蛋白の物理化学上の性質を形成する糖部分が蛋白のアミノ酸の側鎖にひげ状に付着している.現在α1酸性糖蛋白(オロソムコイド),トランスフェリン,フィブリノーゲン,免疫グロブリンを初めとして数多くの蛋白が糖蛋白として分離されている.これらの糖と蛋白の比は種類により大幅に異なっている.糖は主として,ガラクトース,マンノースなどの六炭糖(ヘキノース),ガラクトサミン,グルコサミンなどの六炭糖アミン(ヘキソサミン),および糖末端部分としてシアル酸を含んでいる.免疫グロブリンを除いて,主として肝で蛋白が合成され,糖部分がその蛋白と結合する.血清中の糖蛋白の異常が癌あるいは炎症組織中の糖蛋白の反映であるかは今後さらに検討されなければならない.

6.血清電解質異常

高カルシウム血症

著者: 折茂肇

ページ範囲:P.1209 - P.1212

 一般に高Ca血症が長期間存在するさいには腎障害,腎結石,軟部組織の石灰沈着などを起こし,生命に危険をおよぼすことが知られている.したがって,ある患者について高Ca血症を見出した場合には速やかに正確なる診断をくだし,適切な処置をくだすことがきわめて大切である.まず最初に血清Caに関して一般的事項を簡単に述べ,ついで高Ca血症を見出した場合,鑑別すべき疾患について要点のみ述べる.

7.痛風

痛風

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.1212 - P.1214

痛風は正しく診断されているか
 日本人の食生活は戦後急激に変化し,獣,鳥,魚肉,鶏卵,牛乳およびその二次製品など動物性食品の摂取食物中に占める割合が高まっている,国民の摂取カロリーがほぼ一定に達した1949年の動物性食品平均摂取量を100とすると,1961年のそれは222であり,驚くべき変化であることがわかる.プリン体代謝の異常のある者が多量の肉類,内臓など高プリン食をとると痛風を発症するので,わが国の痛風患者は当然増加したものと考えられる.事実,報告された痛風患者は年々増加している(御巫).ただし,表面に表われた痛風患者数の増加は,患者の絶対数が増加したためのみでなく,診断を下す医師の関心が高まったことも与って力があるものと思われる.しかし,一般的に言うと,日本人が痛風になることはほとんどないという誤った見解が永らく支配的であったためか,今日でも痛風が見逃がされている場合はかなり多い.表1は東大物療内科を訪れた痛風患者の来院前病名である.最も多いのは54例中40例(74%)を占めるリウマチ,慢性関節リウマチ,リウマチ様関節炎の病名である.来院前に痛風という病名が与えられていた者は,その疑いをも含めてわずかに11例に過ぎない,リウマチと痛風とでは食餌療法も薬物療法もまったく異なるものであり,より早く正しい診断が下されなければならない.

8.アミロイドージス

アミロイドージス

著者: 菊谷豊彦

ページ範囲:P.1215 - P.1216

 アミロイドージスは最近急激に報告数が増加し,筆者が集めた原発性アミロイドージスの報告例は57例になり,本邦では地理病理学的にもまれな疾患とはいわれなくなった.その増加は食生活ならびに診断技術の向上によるものであろう.アミロイドージスは,基礎疾患を認めるか認めないかにより,続発性と原発性の2つに分けられる.骨髄腫を伴ったアミロイドージスの分類は議論が分かれている.続発性アミロイドージスは結核,癩,梅毒,慢性化膿性疾患を基礎疾患として多く認める.原発性アミロイドージスは心,肺,血管,消化管,皮膚などの非定型臓器に血管・筋肉・間葉性にアミロイド沈着が起こり,続発性アミロイドージスは沈着臓器が肝,脾,腎,副腎などの定型臓器を中心として,毛細血管および腺周囲性に沈着を起こすといわれたが,両者に移行が多いということは多数の者が認めており,本邦例ではアミロイドの沈着分布上の差がないといわれる.さらに続発性アミロイドージスの基礎疾患がはたしてアミロイドージスの原因になっているかまぎらわしい症例にぶつかることがある.筆者の例でも過去に慢性中耳炎と肺結核があり,非定型的アミロイド沈着を認めた例があるが,慢性中耳炎と肺結核が続発性アミロイドージスを起こしたか否か,その臨床像を相互に結びつける規準は,一般的にもないし,また,病理学的にも決定的な像はつかまれていない.同じく,骨髄腫を伴ったアミロイドージスか原発性アミロイドージスかを決めがたい場合も,筆者は経験している.
 アミロイドージスの診断が困難なことは,臨床診断名から明らかである.原発性アミロイドージスの場合,診断名はアミロイドージス,その疑い,腎炎,ネフローゼ症候群,尿毒症,心不全,心外膜炎,肝炎,肝腫蕩,肝胆道系悪性腫瘍,R. A.(?),糖尿病,膠原病,I. T. P.,Sjögren症候群,Hegglin症候群,肝破裂,下痢などきわめて多彩である.したがってつぎに述べる臨床症状に注意をはらうのがアミロイドージス診断の第一歩であろう.

VII.神経糸 1.痛みを訴えるとき

片頭痛

著者: 大友英一

ページ範囲:P.1218 - P.1220

 一側性の頭痛はすべて片頭痛といえるわけであり,この言葉は広く用いられている.ここでは脳腫瘍などの脳の器質的疾患,動脈硬化症,耳鼻科疾患,高血圧などに出現する症候性の片頭痛を除き,いわゆる血管性頭痛,特に厳密な意味での片頭痛(classic migraine)を中心に述べることにする.

いわゆる神経痛といわれるもの

著者: 吉田赳夫

ページ範囲:P.1220 - P.1222

神経痛の考えかた
 神経痛と称して治療をもとめてくるもののなかには,事実は関節痛や筋肉痛のことがしばしばある.これらは論外としても,少なくも関節痛や筋肉痛が,神経の痛みと共存していることが多い.それで,神経痛とは神経の走行に一致して起こる激烈な痛みであり,発作的に出現し,神経の経路上に圧痛点があり,その他に神経病学的所見がない,などと定義されているような神経痛を考えると戸惑うことになる.
 たとえば,後頭部の痛みを訴えて後頭神経痛と診断されるもののなかに,神経経路上の圧痛点の他の部分にも諸所圧痛のある個所があり,それらの個所で,マッサージの強擦法や柔捏法のごとく圧迫や摩擦,振動すると,かえって快感を覚えるというものがあり,むしろ筋肉痛が主で,いわゆる緊張性頭痛を考えさせることがある.また,腕神経痛と称してくるもののなかに,実は肩関節周囲炎で,関節運動時に痛みが上肢に放散するものがあったりする.また,坐骨神経痛といわれるものに後仙腸長靱帯の痛みの関連痛であることがある.つまり,神経痛とはいっても,筋肉痛や,関節痛あるいは靱帯痛のことがある,また一方,いろんな原因で神経痛が起こっても,神経痛だけでとどまることなく,筋肉痛や関節運動痛を伴うようになることが多い.

坐骨神経痛

著者: 西新助

ページ範囲:P.1222 - P.1224

安直になりがちな痛みの診断
 臨床上痛みに対処する場合には内蔵されている種々の問題点に注意を払うべきであるが,一般には,いわゆる神経痛ときめて安直な処理法に走りがちのようである.しかし,痛みを主訴とする者が外来患者の高い%を占めているからには,その痛みを一律に取り扱わずに,痛みの種類を見分け,その原因を正して根治への道を開くよう意欲をもやすべきであろう.しかし,自覚的な痛みを他覚的にとらえることは必ずしも容易な業ではなく,また,多くの患者を限られた時間内に診療せねばならない多忙な医家にとって,それに費やし得る時間には自から制約があろう.そこで,同患者に接した場合どのようにして方向を定めるべきか,問題の多い坐骨神経痛を取り上げて考えてみることにした.
 坐骨神経痛の患者は多く,それに患者自身もそれときめこんで来るほど普遍的なもので,そのために,単なる臀部痛や下肢痛も含められているので,その区別を明らかにする必要もあり,また,坐骨神経痛を起こす原因疾患がはなはだ多いのでその鑑別にも注意を払わねばならない.

2.しびれの見分け方

しびれ

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.1225 - P.1226

しびれに対応する症状の範囲
 "しびれ"とは本来の学術語ではないので,患者が主訴としてこの言葉を使用している場合に,臨床家はどのように考えるべきかを述べたい.
 日本語は語いも豊富で美しい言葉ではあるが,きわめて漠とした内容の単語が多い.ここにとり上げた"しびれ"はその代表的なもので,自覚的身体異常の表現としてきわめて多くの面をもっている.私が入局した当時,患者が"しびれ"があると訴えたら,その訴えを無理に個々の症状にあてはめず,Schibiregefühlと記録し,その次にその内容を分析的に聞け,といわれたことを思い出す.

半身のしびれ

著者: 亀山正邦

ページ範囲:P.1226 - P.1229

しびれの意味と内容
 半身の"しびれ"を訴える患者は,かならずしも少なくない,しかし"しびれ"は,あくまでも主観症状であり,その訴えの内容・程度は,個々の患者によって多種多様である.したがって,"しびれ"がなにを意味し,どのような内容をもつものであるかを,まず規定する必要がある.
 "しびれ"には,知覚障害を示す場合,運動障害を示す場合,また,両者を共に示す場合がある.知覚障害の場合にも,知覚鈍麻のこともあり,知覚過敏のこともあり,また,異常知覚を伴っていることもある.このさい,記載はなるべく具体的にする必要がある.たとえば,ヒリヒリする,電気をかけられた感じである,湯に手をつけても熱さを感じない,やけるように痛む,チクチク痛む,長く坐ったあとのようなしびれ感である,などと記載しておく.

知覚異常のテスト

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.1229 - P.1232

 知覚異常はよく見られるもので,神経学的検査でも重要なものの一つである.知覚はまったく主観的なものであるだけに,そのテストにはいろいろの困難さがある.知覚の種類,内容,性質についての十分な知識と知覚経路の解剖生理的な裏づけがテストの実施と所見の理解のうえに不可欠な要素である.また実施にあたっては心理的な側面も重要である.

3.症状からなにを考えるか

けいれん

著者: 濱口勝彦

ページ範囲:P.1233 - P.1235

"けいれん"とは
 けいれんとは,随意筋が急激かつ不随意的に反復性あるいは持続性に収縮することをいう.けいれんには,間代性けいれんと強直性けいれんがあり,また,全身性の大発作型と局所に限局するか,あるいは局所に始まって拡がる焦点発作型とがある.
 けいれんは各種疾患にみられる症状であり,初発年齢およびその型により,原因疾患を推定することができる.

複視

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.1235 - P.1237

複視の内容をはっきりさせる
 複視というのは,1つのものがはっきりと2つに見えるということで,症状としては単純・明解であるにもかかわらず,実際の臨床ではあんがい不明瞭なことが多く,患者の訴えが果たして複視であるかどうか,つかみにくいこともかなりある.輪郭のぼやけ,ぼんやり見えることと混同して訴えることがあり,また物が揺れてみえることを複視として訴えていることもある.

4.言語障害の診かた

構音障害

著者: 神山五郎

ページ範囲:P.1237 - P.1240

構音障害とは
 構音障害という術語はまぎらわしいものである.articulation disordersとも考えられるし,dysarthriaとも考えられる.医学方面ではdysarthriaのことを指す場合が多いようである.
 articulation disordersはdysarthriaを含む上位概念で,原因が何であろうとも,構音に誤りがあるすべての症状を指す.たとえば,地方で育って方言を持った人が東京に来れば,時にarticulation disordersといわれうる。これに反して,dysarthriaは構音器官といわれている口唇,舌,軟口蓋,咽頭,喉頭などの諸筋の障害,これらを支配する神経の障害,およびこれらの神経のさらに中枢部にある神経の障害によって生ずる共同運動障害などに起因するarticulation disordersを指す.

失語症

著者: 五島雄一郎

ページ範囲:P.1240 - P.1243

 失語aphasiaとは言語象徴verbal symbolsの表出と了解の障害である.
 大脳に言語に関する中枢があることが考えられたのは決して新しいことではないが,局在に関しては議論のあるところである.たとえば,右きき患者では左大脳半球が言語に関して優位であることは周知の事実であるが,左きき患者に関しては決して右側優位とはいえない.

5.神経検査のポイント

病的反射—とくにBabinski徴候について

著者: 安芸基雄

ページ範囲:P.1243 - P.1246

 病的反射を病的な状態ではじめて出現する反射と解すれば,決して単一の反射ではなく,例えば脊髄自動症Spinal automatismに含まれる多くの反射をも挙げねばならない.しかしここには臨床的に最も重要ないわゆるBabinski反射ないし徴候について主に臨床に関連した問題を述べる.

徒手筋力テスト

著者: 服部一郎

ページ範囲:P.1246 - P.1248

目的
 この徒手筋力テスト(Manual Muscle Testing,略号MMT)には二つの目的がある.一つは外傷その他の場合,どの神経が,どの筋がやられているか正確に知る診断テクニックとして,またdystrophia musculorum progressiva, Landry麻痺など下位ニューロン障害の時,神経学的所見の一つとして麻痺筋の分布,程度,時間的経過(つまり悪化や回復)を正確に観察記録するためである、もう一つは本来の目的であるmedical rehabilitationにおける障害の評価evaluation,再評価reevaluationの一方法としてである.

意識障害の診かた—経験例をもとにして

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.1248 - P.1251

診断の意義
 臨床家にとって,病歴と理学検査physical ex-aminationは正しい診断に達する出発点として非常に重要である.しかし患者に意識障害がある時には,十分に,信頼できる病歴を得ることが困難であることが多い.このような場合には,当然の結果として,より正確なphysical examinationを行なうことが要求される.ところが,意識障害患者は一般患者よりも非協力的であり,必ずしも一般患者と同様に診ていくことはできない.このような困難に直面し,さらに意識障害という重篤な症状におびやかされて,あわてないためにも,意識障害の診かたに精通することは重要なことであると思う.

内科医のための頭部外傷の見分けかた—血腫と脳浮腫の鑑別

著者: 佐野圭司

ページ範囲:P.1251 - P.1253

 頭部外傷の患者が運び込まれたときに,内科医の立場からどう扱ったらよいかを簡単に述べる.

筋萎縮のある患者をみたとき

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.1254 - P.1256

筋萎縮の分類
 筋萎縮とは筋の変性変化にもとづく容積の減少を意味し,主として下位運動ニューロンの障害および筋病変のさいにみられるものである.
 臨床的立場から神経原性筋萎縮(neurogenicmuscular atrophy)と筋原性萎縮(myogenic at-rophy)に2大別するが,前者は運動神経細胞および末梢神経にわたる部位での傷害で現われるものであり,後者は筋自体の病変で現われるものである.表は筋萎縮を呈する主要疾患を示したものである.

よくみられる脳波の異常

著者: 中澤恒幸 ,   上島国利

ページ範囲:P.1256 - P.1260

脳波検査の限界
 1920年代にHans Bergerが脳波の基礎を確立してから40年余になるが,その間飛躍的発展をなし,現在内科医が胸部レントゲンを撮るように脳波検査も実施されている.しかし脳波は,その結果を過大評価することは危険であって,実際問題として脳波のみで診断のつく疾患はきわめて限られている.逆にいえば,脳波が正常範囲だからといって器質的脳疾患(てんかん,脳腫瘍も含め)を除外することはできない.すなわち脳波はあくまで臨床診断のための補助手段にすぎないが,その限界を知って用いることが脳波の価値を高めるといえるだろう。参考までにSchwab(1950)の挙げた脳波の臨床価値の表を示そう(表1).

6.脳血管障害の診かた,考え方

いわゆる脳動脈硬化症

著者: 大友英一

ページ範囲:P.1261 - P.1263

脳動脈硬化症とは
 いわゆる「脳動脈硬化症」という診断名は米国ではまず使用されることはない.筆者もこの診断は容易にくだすべきでないと考えている.しかしいわゆる「脳動脈硬化症」と診断せざるをえない症例の存在することは事実である.
 脳動脈硬化の脳におよぼす要因としては血管腔の狭小化による脳血行障害,それに伴う脳の小軟化が主要なものであり,硬化動脈による脳神経の圧迫などはまず問題とならない,脳の実質障害を伴わず動脈硬化に基因する循環障害のみで,いわゆる脳動脈硬化症の症状がどの程度出現しうるものであるかは問題である,著明な脳動脈硬化を有するにもかかわらず無症状の例があり,またこの逆の例も存在する.したがっていわゆる"脳動脈硬化症"の症状発現には脳動脈硬化のほかに不明の他の要因の存在することが推定される.

内頸動脈閉塞症

著者: 里吉営二郎

ページ範囲:P.1263 - P.1265

内頸動脈閉塞症とは
 いろいろの原因で内頸動脈が完全に閉塞した場合に,これを内頸動脈閉塞症とよんでいる.この名称は一般的に診断名として用いられているが,厳密には病理学的な変化をさしているものであろう.その症状も多彩で,まったく無症状のものから意識障害を伴う片麻痺まであり,臨床診断も容易でない場合が少なくない.

椎骨・脳底動脈系の循環障害

著者: 田崎義昭

ページ範囲:P.1265 - P.1268

はじめに
 脳血管性障害は臨床家にとってなじみ深い疾患であるが,障害の部位を適確に診断することはなかなか困難な場合もある.
 内頸動脈流域ことに内包傷害を主としたものは,もっとも多く,診断に迷うことも少ない.

くも膜下出血

著者: 相澤豊三

ページ範囲:P.1268 - P.1270

くも膜下出血の主な原因
 本症は頭蓋内血管の破綻により起こった出血がくも膜下腔に達したものをいう.したがって成因として,頭部外傷・出血素因・脳腫瘍・中毒ないし新陳代謝障害あるいは炎症性疾患などが挙げられるが,これらの場合いずれも脳実質内の出血が主たるもので,くも膜下出血は続発性ともいうべきである.ここでは髄膜とくにくも膜における血管の破綻によるものであり,出血は主としてくも膜下腔にあり,脳実質内出血はあっても少ないものについて述べるわけで,それは従来,原発性くも膜下出血と呼ばれていたものであるが,剖検によりまた脳動脈撮影によって,その成因の第1は動脈瘤であり,第2は血管腫であることがわかったのである.診断のポイントも,そのおのおのについて述べることとしよう.

くも膜下出血

著者: 高橋和郎

ページ範囲:P.1270 - P.1272

くも膜下出血とは
 くも膜下出血とは,脳表面の血管の破綻によりくも膜下腔に出血をきたすことである.原因としては,動脈瘤が最も多く,このようなものを原発性くも膜下出血と呼ぶ.これに対し,出血性素因,脳腫瘍,血管奇型(血管腫),脳出血,梅毒性血管炎などで脳実質内に出血をきたし,それが脳室あるいは脳表面に破れて,くも膜下腔におよぶ場合は,続発性くも膜下出血と呼ぶ.一般にくも膜下出血といわれるものは出血が,主としてくも膜下腔にあるもの,すなわち,原発性くも膜下出血,あるいは血管腫などで主としてくも膜下腔に出血するものを指す.ここではこれらの場合につきその診断の要点を述べる.

慢性硬膜下血腫

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.1272 - P.1274

臨床所見
 病理学者の多くがPachimeningitis hemorrhagica internaとよび,臨床家の多くが慢性硬膜下血腫とよぶこの病態は,病理発生学的に興味ぶかいと同時に,臨床像もまたたいへん注目すべき面をもっている.
 発生機序に関する諸問題をさておいて,臨床家にとって—あるいは,ことに私自身にとってかもしれないが—興味をひどくそそられるのは,次のような事がらである.

脳血管の先天異常

著者: 野村隆吉

ページ範囲:P.1274 - P.1277

脳血管奇形は脳腫瘍の3倍もある
 脳の血管疾患は,近時その死亡率が高いことから,しだいに医学界の注目を集めるようになってきた.そのなかで先天奇形にもとづく疾患はなお十分な認識がもたれていないように思われる.
 一般に脳血管の先天奇形といえば,かなりまれなものと思われやすいが,けっしてそうではない.Courvilleによれば,かれのシリーズ中,剖検1,000例につき6例の脳血管奇形を認めている.同じシリーズで,脳腫瘍が1,000例につき2例であるところからみれば,脳血管奇形は,脳腫瘍の3倍の発生頻度をもつということになる.Courvilleのシリーズは剖検例についてであるから,臨床例からすれば,この頻度はさらに多いものと考えられる.

Arteriosclerotic Parkinsonism—概念への一考察

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.1277 - P.1280

脳動脈硬化症はParkinsonismの原因か
 多くの一般内科学および神経学の教科書をみると,脳動脈硬化症は,parkinsonismの重要な原因の1つであると記載されている.そして分類では,症候性parkinsonismのなかに含まれている.
 1.idi0pathic paralysis agitans

片麻痺の合併症—発病前・発病直後・経過中

著者: 横山巌

ページ範囲:P.1280 - P.1283

 片麻痺の合併症は,a)発病前から有している合併症,b)発病直後に出現する合併症,c)片麻痺の経過中に出現する合併症(継発症)の3つに大別される.

7.見逃がされやすい疾患

内科医に見おとされている緑内障—および医原性疾患としてのステロイド緑内障

著者: 桐澤長徳

ページ範囲:P.1283 - P.1285

ふえつつある緑内障
 治療法の進歩した現在でも,緑内障という病気はなかなか厄介で,ある程度以上に進んだものはそれ以上の進行を止められれば結構というぐらいのところで,これを健常眼の状態にまで恢復させることはむずかしいとされている,しかも,緑内障の進行は患者自身にも判らずにいることが少なくないので,アメリカなどでは最近,高血圧やガンなどと同じように成人病集団検診の対象とされることが多くなってきた.
 緑内障はいうまでもなく,大多数は成年以後に起こる病気であるから,寿命がのびて老人が多くなるほど重視されるようになって来るわけである.せっかく寿命がのびても,失明してしまっては長寿を楽しむことができないのは当然であり,しかも本症は広い意味での神経系疾患に属するので,ストレスの多い現代の生活ではますます増加する傾向にあるともいえる.

見逃がされているパーキンソン症候群

著者: 加瀬正夫

ページ範囲:P.1285 - P.1288

パーキンソン病とL-dopaの開発
 最近,パーキンソン病が一般に注目されるようになった背景には,L-dopaというすばらしい抗パーキンソン剤の開発がある,本症の薬物療法はスコポラミン,アトロンピンにはじまり,多くの合成副交感神経遮断が中核をなしてきたが,最近20年来は本症の外科療法がもっぱら脚光をあびていた.けれどもこれらの治療法は全く経験的なもので,その効果にもかなりの制限がある.このようななかで新しい神経伝導物質としてドーパミンが注目され,さらにdopaminergic nervous sys-temが発見され,パーキンソン病はドーパミン欠乏症候群に含まれるということになり,このような神経生化学的知見のもとに試みられたのがL-dopaである.
 ところでドーパミン欠乏症候群にはL-dopaは有効であるべきであるが,パーキンソン病を含めてパーキンソン症候群のすべてにL-dopaは必ずしも有効ではない.そこでパーキンソン症候群にはどのようなものがあるか,そしてそれがドーパミン欠乏症候群に属するかどうかということも臨床的には重要なことであり,パーキンソン病を含めてパーキンソン症候群が広く注目されるようになった.しかし反面,パーキンソン症候群だけに注目して,可能性ある本態を見失わないように注意することもぜひ必要なことである.

内科医が見のがしやすい脳腫瘍

著者: 喜多村孝一

ページ範囲:P.1288 - P.1290

 脳腫瘍のなかには早期から局所神経症状を現わし比較的初期に診断できるものもあるが,一般には早期に診断することは容易でない.なかには,かなり大きくなるまで見のがされやすいものがあるのは事実である.

8.注目したい疾患

前脊髄動脈症候群

著者: 亀山正邦

ページ範囲:P.1290 - P.1292

定型的な3つの症状
 前脊髄動脈領域の硬塞ないし循環障害によって起こる症候群で,その障害部位は横断面では主として脊髄の前2/3に存する.脊髄の血管性障害のなかで,症候群として記載され,知られているほとんど唯一のものである.障害される脊髄レベルによって症状に差異はあるが,その定型的な症状は,つぎの3つに要約される.
 1.急激に起こる下肢の対麻痺または四肢麻痺.

肝性脳症

著者: 茂在敏司

ページ範囲:P.1293 - P.1294

肝性脳症とは
 肝性脳症とはいろいろの肝ないしその周辺の疾患のうえに体液性因子により二次的に脳障害の発展がみられる場合を総称する.代表的なものとして重症肝疾患に伴う脳症と門脈側副路性脳症があげられる.脳症という立場からみると,前者には肝硬変などにみる慢性肝疾患型と劇症肝炎などにみる急性肝疾患型とがある.後者は門脈側副血行の発達が一義的因子となっているもので,錐体外路症状が目立つ例もあるが,多くは発作的に現われる反覆性意識障害を特徴とし,猪瀬型肝脳疾患ともいわれる.中年以後にみられるもので肝硬変,肝線維症,門脈閉塞,時に下大静脈狭窄が基礎となり,腸管内容に由来する有害物質が側副路を通じ脳に直接作用するためきたされる.代表的毒素はアンモニアで,高アンモニア血症の証明が診断根拠の1つとなる.そのほかアミン,インドール,低級脂酸などが問題となっている.これに対し若年者にみられ,基礎疾患として脂肪肝が証明されるものが脳病理の立場から類瘢痕型肝脳疾患として指摘されている.この場合にも高アンモニア血症が証明される.

周期性四肢麻痺

著者: 荒木淑郎

ページ範囲:P.1295 - P.1297

 周期性四肢麻痺(periodic paralysis:以下p.p.と略す)とは,四肢および躯幹筋群の弛緩性麻痺が,周期的に現われることを特徴とした1つの症候群である.麻痺発生の機序は不明であるが,現在,筋細胞膜の機能異常説が有力である.本症は,家族性に,あるいは散発性にみられるが,後者では甲状腺機能亢進症やアルドステロン症と合併する場合が知られている.

VIII.アレルギー・膠原病 1.アレルギー診断に必要な検査

アレルギーの皮膚反応

著者: 石崎達

ページ範囲:P.1300 - P.1303

皮膚反応の理論
 いわゆるアレルギー素因のある人は,吸入・食餌・注射などの方法のいかんを問わず体内に入ってくる異物質に対してレアギン(Reagin-皮膚感作抗体)という特殊な抗体をつくる性質がある.たとえば室内塵吸入で喘息発作が起きたり,卵を食べてじんま疹が出るのはこれらと特別に結合してアレルギー反応を起こすレアギンがあるからである.
 抗原とレアギンの結合がなぜアレルギー反応を起こすかというと,この結合物は組織細胞に働いて非活性の状態にあるヒスタミンなどの化学的作働物質を活性化するからである.この反応の対象は主として組織内のマスト細胞で,その脱顆粒現象が多量のヒスタミン放出の原因となる.このほかアセチルコリン,セロトニン,ブラジキニン,SRS-Aなどが知られている.

レアギンの証明法

著者: 石崎達

ページ範囲:P.1303 - P.1305

レアギン(Reagin)とは何か?
 この名前は初めCoca1)が名づけたもので,抗体というよりは「反応するもの」という意味である.のちにこれが即時反応型の皮膚感作抗体という意味をもつようになったが,当時はin vitroで沈降反応が証明できないことから抗体とまではいいきれなかったのである.
 レアギンなるものは何かというと,理解しやすいように血清病から話を始めたほうがよさそうである.

パッチテスト—patch test貼布試験

著者: 古谷達孝

ページ範囲:P.1305 - P.1307

 パッチテストとは遅延型アレルギー性疾患,特に主として接触アレルギー性疾患の診断……原因究明………のために用いられている代表的な検査手技である.

2.アレルギー性疾患の診かた

アレルギー性鼻炎

著者: 信太隆夫

ページ範囲:P.1307 - P.1310

まず全身性の変化を問うこと
 アレルギー性鼻炎であるかどうかは,アレルゲンが確認されない限り断定することはできない.しかし,アレルギーかもしれないということはある程度可能である.普通,アレルギー性らしいと判断される鼻鏡所見は,成書に書かれているように鼻粘膜の蒼白性浮腫をさしているが,このような所見は慢性の非季節型鼻炎に多く,また成人よりも小児に多い、いわば季節型の典型例における所見は最盛期においてむしろ発赤し,間歇期において所見を欠く.まして感染がアレルギーを助長せしめているような時は判断を誤りやすい.患者みずからアレルギーと言って訪れた場合,なぜアレルギーと思ったかを逆に聞いてみると,鼻カゼに罹りやすい,初めカゼかと思ったが毎年同じ頃に生じ,しかもだんだん遷延化する,ほとんどある一定時刻に症状が強くなる,肉親にアレルギーの人がいるから自分も鼻以外に何となくアレルギーらしい症状がある,などが主な訴えであった.
 結局,このような執拗な,不定で移り気な症状の把握のために,鼻のみでなく全身性の変化を聞きだすところにアレルギー診断の第一歩がある.アレルギーの診断に病歴を調べることが最も重視されることは今も昔も変わらない.

ピリンアレルギー

著者: 村中正治

ページ範囲:P.1310 - P.1313

 ピリンアレルギーという言葉は日常しばしば用いられるが,その指す内容は使用者により一様でない,第1にアンチピリンあるいはアミノピリン過敏症とともにアスピリン過敏症もこのなかに含めて考えられる場合が少なくない,しかしサリチル酸系統のAspirinとPyrazolone系統のAntipyrineとは化学構造上(表1)からも,過敏症状あるいはアレルギーでいう交叉反応から見ても同じには取り扱えないので区別して考えるべきであろう.逆にPhenylbutazone(Butazolidin),Hydroxy-phenylbutazone(Tanderil)などは明らかにPyrazolone系統に属するといえる.また現在ピリンアレルギーことにピリン疹という診断は極端ないいかたをすると,ピリンと名のつく薬剤が含まれている処方の薬剤の使用によって固定疹,蕁麻疹などの過敏症状が生じた場合,ただちにつけられてしまう傾向がなしとしない,この傾向は統計上薬物アレルギーはPyrazolone系の薬剤によってひき起こされる場合がもっとも多いといわれていることに原因があろうが,この点も反省の必要がある.筆者らが最近診察する機会をえたいわゆるピリンアレルギー150例を種々の面より検討した結果,以下のような過敏症者を含むことが判明した。

3.膠原病の臨床検査

RA-テスト,ローズ反応

著者: 佐々木智也

ページ範囲:P.1313 - P.1315

はじめに
 RA-テストあるいはローズ反応で代表されるリウマトイド因子(rheumatoid factors)検出の手技が慢性関節リウマチ(rheumatoid arthritisリウマチ様関節炎ともいう)の診断に利用される血清反応であることは説明の必要があるまい.リウマトイド因子の検出は,市販の試薬を利用すると,定性的ではあっても比較的容易に実施しうるので,広く行なわれている.明らかな目的をもって広く行なわれているこれらの反応も,慢性の経過をとる関節型のリウマチであるにもかかわらずつねに陰性にとどまっているとか,慢性関節リウマチらしくない患者血清にも陽性に出るとか指摘されることがある.すなわち,その陽性率,特異性についての問題と,慢性関節リウマチの定義にも関連した問題がある.

LE細胞検査とLEテスト

著者: 勝田保男

ページ範囲:P.1315 - P.1317

SLE診断のための重要な方法
 全身性エリテマトーデス(systemic lupus ery-thematosus,以下SLEと略す)の診断には臨床症状,皮膚や腎の生検による病理組織検査や一般臨床検査のほかに,免疫血清学ないし血液学的検査が使用されるが,後者は確定診断のためにもっとも重要な方法である.このうち一般に普及している検査法としてLE細胞検査とLEテスト(Hy-land)があげられる,元来SLEは1942年Klem-pererらにより病理学的に膠原病の概念のもとにまとめられた原因不明の疾患の一つにすぎなかった.しかし,1948年HargravesらがSLE患者のヘパリン加骨髄血中にいままで記載されたことのなかった形態の細胞(LE細胞)を発見し,この細胞が血清中に含まれるγグロブリン分画(IgG)に属するLE細胞因子により形成されることが明らかとなって以来,細胞核,核蛋白,DNA,ヒストンなどと反応する抗核抗体と総称される自己抗体がつぎつぎに証明された.こうしてSLEは橋本甲状腺炎や後天性溶血性貧血などとともに,いわゆる自己免疫疾患の代表的疾患にかぞえられるようになった.SLEには多様の抗核抗体が存在するので,現在では混乱を避けるためLE現象はLE細胞現象,LE因子はLE細胞因子のごとく記載することが望ましい.

ワーラー・ローズ反応とRAテストの使い分け

著者: 本間光夫 ,   市川陽一

ページ範囲:P.1318 - P.1320

 慢性関節リウマチ患者の血清中には,抗γグロブリン抗体の性質をもつグロブリンが存在する.これがリウマトイド因子とよばれるものである.
 リウマトイド因子は慢性関節リウマチに特異的なものではないが,ほとんどの慢性関節リウマチ患者がもっていることも事実である.この因子の研究が果たした価値として次の2点があげられる.①病気としての慢性関節リウマチの理解を深めた.②γ-グロブリンの遺伝的コントロールについて新しい研究分野を開発した.

IX.腎・泌尿器系 1.尿定性検査異常をどう考えるか

たまたま蛋白尿が見つかったとき

著者: 白井洸

ページ範囲:P.1322 - P.1327

 蛋白尿が出現する腎の病態生理については必ずしも完全に解明されていないが,現在,一般に蛋白尿は最も重要な腎疾患の徴候であると考えられており,実際の診療では蛋白尿を認めるだけで腎疾患と診断されている場合が多い.さらに近年は尿の検査が病院や診療所に訪れた患者のみならず,入社試験や入学時の身体検査のさいに行なわれる頻度が増してきているので,本題の"偶然蛋白尿を発見する"機会が多くなってきつつある.そのため腎疾患が早期発見される利点もあるが,反対に蛋白尿があるために不当な制約を強制されたりする結果も出てきている.
 このようなことから"たまたま蛋白尿を発見された場合"の患者の取扱いが重大な問題となってきているが,残念ながら蛋白尿の出現機序は未だ必ずしも明確でなく,さらに腎疾患そのものも病因や病理が完全に解明されていないので,このような患者の扱い方も臨床家によって異なり一定していない.そこで本稿では私が日常の診療でどのように,このような患者を検査していくかを具体的に示してみる.

血尿をみたときに

著者: 稲田俊雄

ページ範囲:P.1327 - P.1330

 "おしっこに血が混じっていた"という患者はその驚きのために,割合に早く医者を訪れるようである.つまり血尿を初発症病とした場合には,発症から初診までの時期は比較的短いともいえる.しかしその訪れ先が問題なのである.おそらく開業医としての専門的泌尿器科医の少ないこともあろうが,約2/3は内科医その他に,残り1/3が泌尿器科医を訪問するというのが現況である.そして泌尿器科医を訪れるほうの患者は,どちらかといえば疝痛発作,あるいは排尿痛,頻尿などの膀胱症状を伴っており,このような症状のない,いわゆる無症候性血尿といわれる発症をしたほうは,そのすべてとはいわないが内科医を訪問する.ところが本当に重要な病気が隠されていることの多いのは後者であり,いろいろ症状を随伴する血尿はだいたい,たいしたことはないといってよい.それではたいへんなほうを引き受ける内科医の方がたが,この血尿をどのように処理し,得た情報をどのように解釈すれば,まちがいのない診断ができ,正しい治療方針がたてられるかということを簡単に述べる.

乳糜尿

著者: 高井修道

ページ範囲:P.1330 - P.1331

乳糜尿の原因と発生機転
 乳糜尿(Chyluria)とは尿中に脂肪球,線維素,リンパ球,血球,上皮細胞などを混じて,外観上あたかも牛乳あるいは寒天(乳白色ないしは茶褐色)を思わせるようなものをいう.本症の原因としてはフィラリア症(Wucheria Bancrofti)によることが多いが,非寄生性のもの(胸管の炎症性狭窄,機械的圧迫による狭窄,尿路に沿うリンパ管の損傷で尿路とリンパ管の交通が起こる.脂肪血症-糖尿病,腎炎,腎脂肪変性,ジフテリー)もある.乳糜尿だけで高度の栄養障害に陥ることはまれで,長年月乳糜尿があっても栄養障害にはならない者が多い.乳糜尿中に線維素が多いために膀胱内で寒天状,または卵白のごとく固まって排尿障害,尿閉になやまされることがある.
 前述のごとく寄生性のものと非寄生性のものとがある.乳糜尿の発生機転についてはまだ決定的なことはわかっていない.林らの組織学的研究によると,リンパ管が腎盂・腎杯に直接開口することを証明している.また臨床的にも逆行性腎盂撮影で腎盂外溢流像が容易に描出される.これらのことから本症では先天的あるいは後天的にうっ滞したリンパ管が腎盂と交通して,胸管中の乳糜が直接尿路に流れて発生するものと考えられる.フィラリア症の時にはWucheria Bancroftiが宿主のリンパ管,リンパ腺,胸管などに寄生し,リンパのうっ滞を起こし,側副路形成が生じて腎周囲リンパ管を経て腎盂と交通して乳糜尿が起こると考えられる.しかしフィラリァ症の場合,乳糜尿が発生する頻度はあまり高くはない.指宿の統計的調査によると,302例のフィラリア症において73例(24.2%)にみられたという.

尿沈渣からわかること

著者: 冨田重良

ページ範囲:P.1332 - P.1334

尿沈渣鏡検のすすめ
 最近,中央検査室の整備,臨床検査の発展につれて,医師自身による尿沈渣の鏡検はなおざりにされる傾向があるようである.確かに尿沈渣鏡検の数量的精度は他の分析的諸検査に比し著しく劣っており,また形態学的検査であるからその判定には多少の知識熟練も必要である.しかし尿沈渣の成分そのものは腎・尿路系組織より尿中に排泄されたものであって,腎・尿路系病変部の直接の情報の担い手であり,その鏡検により他の手段では得られない貴重な情報が得られるはずである.しかも医師自身が鏡検をするならば,その場で結果がわかり,ただちに必要な処置をとりうる便利さもある.
 症例 64歳の家婦.10年まえより関節リウマチにて副腎皮質ホルモンその他の治療を受けていた.受診の1カ月まえより悪寒を伴う高熱,頻回の嘔吐をきたすようになり,医治によるも完全には治らず,最近再び症状悪化して強度の全身衰弱でもって緊急来院した.尿蛋白陽性,沈渣は典型的な腎盂腎炎の像を呈しており,Kanamycin,Aminobenzyl-penicllinの投与により完治した.起炎菌たる大腸菌がAminobenzyl-penicillinおよびCephalosporin以外には耐性を有していた事実より,病因不明のままの中途半端な化学療法が病気遷延の原因と推測され,尿沈渣鏡検を怠ってはならぬことを示す一例といえよう.

2.細菌尿の診かた

細菌尿の診断

著者: 飯田喜俊

ページ範囲:P.1335 - P.1337

検尿は尿中細菌を知るのに適当か
 腎盂腎炎ないし尿路感染症の診断には,1)臨床症状,2)尿所見,3)腎機能の低下,4)腎盂像の変化,5)腎生検,6)既往症,7)血清学的検査,などが検索されるが,尿所見,とくに尿中細菌数を測定し,細菌尿の存在を確かめることもたいせつなことの1つである.
 現在,日常の診療において簡易に行なうことのできる検尿,とくに尿蛋白や沈渣所見が尿路感染症の診断ないし治療後の経過をみるのにしばしば用いられている,確かに尿沈渣所見や蛋白の有無は尿路感染症の有無を知るのに簡単な方法といえるが,はたしてこれが尿中の細菌の有無をみるのに適当な方法であるか,もう1度検討してみる必要があると思う.この際,尿の培養を行ない菌の有無を調べるのがよいとも一応考えられるが,たとえ清潔に採尿し培養しても菌が認められるもので,これがはたして病原性であるか否かの判定は容易でなく,現在ではその菌数のいかんにより,1mlにつき1万以下なら正常,10万以上なら細菌尿と判断することになっている.

細菌尿と腎尿路感染

著者: 上田泰

ページ範囲:P.1337 - P.1338

 腎尿路感染症は一般細菌感染症のうちでも呼吸器感染症とともにもっとも多く遭遇する感染症である.本感染症の診断拠点の重要な一つに正確な細菌尿の証明がある.また合理的な化学療法実施のうえにも細菌尿の証明は不可欠である.細菌尿の証明法として現在「尿中細菌定量培養法」が最良であることは常識になっている.
 以下「尿中細菌定量培養法」を中心に細菌尿と腎尿路感染症を診断の面から述べてみる.

尿路感染症—起炎菌の決定

著者: 黒川一男

ページ範囲:P.1338 - P.1341

まず宿主と細菌の相互関係を把握する
 感染症は細菌と宿主の相互関係によって種々の様相を示すもので,両者の関連を無視し,一方を重視することは誤りである,ややもすると細菌側にのみ目を奪われてしまうきらいが多いことにまず注意しなければならない.
 元来,尿路は無菌の状態が正常であり,膀胱より上部の尿路は通常の状態では細菌は存在しない.しかし,ときには長時間細菌がまったく障害を起こすことなく存在していることも少なくない.

3.腎機能検査の診かた

尿素窒素の高いとき

著者: 柴田進

ページ範囲:P.1341 - P.1343

問題にしなければならないのは…
 血清尿素N(窒素)濃度の正常値上限を15mg/dlとし,それ以上を尿素N濃度の増加とみなすことにすれば,高尿素N血症は臨床検査室(化学部門)で取り扱う血液資料7個について1個の割合で遭遇するところのごく平凡な病的現象である.
 ところが高尿素N血症の80%までが尿素N濃度20mg/dl以下の症例である.このようにごくかるい高尿素N血症は病気の経過中に一過性に出現するもので,ことに病院に入院した当初の間処置を受けずにいる患者に多い.2回目の検査を数日後に実施してみると尿素Nは正常範囲に戻っている.

腎疾患時の血中尿素窒素

著者: 浦壁重治

ページ範囲:P.1344 - P.1346

BUN測定の適応
 尿蛋白陽性の場合,無反省に血中尿素窒素(BUN)測定がなされている症例によく遭遇する.もともと腎は体液成分恒常性維持を目的として,相当余裕をもって働いていることは,1側腎の摘出後もBUNが上昇しないことからも容易に想像されよう.通常腎血流量あるいは糸球体濾過量が正常の約1/3に低下してはじめて恒常的なBUNの上昇が始まる.逆にいえば,BUNが正常だからといって,腎機能に異常がないとは決していえない.
 したがって尿蛋白が証明された場合,まず尿沈渣の検鏡,1日尿量およびその比重の測定,PSP排泄試験,Fishberg濃縮試験,血清総蛋白濃度,Hemoglobin濃度などの測定が必要で,もしこれらで相当進んだ腎障害(腎不全)が疑われるとき,BUN測定の適応といえる.もちろん無尿,乏尿,あるいは尿毒症症状がみられる症例では最初からBUN測定が必要であることはいうまでもない.さらにBUNと並行して血清電解質の測定が望ましい.設備のない場合はEKGで少なくとも血清カリウム濃度をチェックされるとよいと思う.

腎クリアランス—検査成績の読みについての注意

著者: 宮原正

ページ範囲:P.1346 - P.1348

はじめに
 腎の機能単位は糸球体とその関連尿細管で構成されたnephronであるが,この機能単位を別個に検討する検査法がこんにち広く用いられている.腎クリアランス法はこのような意味における臨床検査法として,また腎の病態生理研究上すぐれた方法である.

4.尿路結石の診かた

尿路結石

著者: 高橋博元

ページ範囲:P.1349 - P.1351

はじめに
 尿路結石はその存在する場所により腎結石,尿管結石,膀胱結石,尿道結石などと呼称せられるが,一方腎結石と尿管結石とを併せて上部尿路結石,膀胱結石と尿道結石とを併せて下部尿路結石ともいう.
 腎結石は腎石灰沈着症のような腎実質内に存在する特殊の場合を除き,腎杯または腎盂内に存在する腎杯結石,腎盂結石で小さなものから腎盂の形におおむね一致する鋳型結石のような大きなものまであり,1コのことも多発することもあり,多くは一側性であるが時に両側性の場合もある.尿管結石は多くはこれらの腎結石が尿管に落下介在中発見されたもので比較的小さいものが多いのに反し症状は激しいことが多く,臨床上いわゆる腎結石といわれるもので精査すると尿管結石であることの判明する場合が少なくない.膀胱結石は上部尿路結石が膀胱内に落下し排尿障害などのため膀胱内で残存増大した場合の他,膀胱内異物を核とするもの,膀胱憩室内に発生するものなど膀胱内で原発する場合もある.尿道結石も上部尿路結石が膀胱に落下後排尿時尿道に押出され篏頓した場合の他,尿道狭窄や尿道憩室のため尿道内で発生する場合もある.

尿路結石と副甲状腺

著者: 藤田拓男

ページ範囲:P.1351 - P.1353

尿路結石と生体代謝異常
 尿路結石は人類とともに古い疾患であって,BC 5000年と推定されているエジプトのミイラにすでに発見され化学的に分析されている.Hip-pocratesは尿路結石の外科的治療は専門医にまかすべきことを警告している.このことは現在も変わらぬ真理であるが,疾患の病態生理について深く考察するとともに,広く人体の全般の立場から正しい診断をくだすことを使命とする内科医にとって,尿路結石は,生体の代謝異常の重要な一つの断面として,容易に看過することのできない現象であると思われるのである.
 尿路結石の85-90%はカルシウムを含むといわれ,燐酸,炭酸,尿酸,蓚酸,チスチン,キサンチンなどとともに結石の主成分を構成するが,尿路結石の成立には尿中カルシウム排泄の増加のほかに,尿の種々の性状ことにpHの変化などいろいろの条件が必要なことは当然予測されるところであるが,臨床的な経験においては,原因の不明ないわゆる特発性結石がかなりの割合を占める実情である.Reddyらの238例の尿路結石症についての研究によると,85%は原因が不明であって,11%が閉塞性腎疾患,7%が系統的疾患によるものであるという.

尿石症と副甲状腺機能亢進症

著者: 園田孝夫

ページ範囲:P.1353 - P.1355

 近年,尿石症はわが国においても増加の一途をたどる傾向にあり,日常臨床医家にとって,尿石症に接する機会が非常に多くなってきた.しかし,尿石症の発生原因については,まだほとんどわかっていないのが現状であって,われわれが取り扱う尿石症患者についてみても,その原因の明らかなものは全体の40%以下にすぎない.また,原発性副甲状腺機能亢進症そのものの発見頻度も,最近に至って急速に高くなり,1970年末までの調査によれば本邦に202例を数えることができ,しかもその大部分が最近10年以内に発見されたものである1)

5.見逃がされやすい腎疾患

蛋白尿のめだたない急性糸球体腎炎

著者: 小林収

ページ範囲:P.1356 - P.1358

複雑多様な急性腎炎の鑑別
 急性腎炎の定型例は蛋白尿,血尿,浮腫,高血圧などの諸症状で比較的急発する疾患であり,これらの症状が種々の程度に組み合わさって非常に多様な臨床症状を示しているが,一般に診断は容易である.しかしこれらの諸症状が具備されていないときには確定的事項がないので,診断がむずかしく,種々の腎,尿路,血管性あるいは全身性疾患の腎症状などとの鑑別が必要であるが,それがなかなかできないこともまれでない.急性腎炎症候鮮ともいわれる理由もある.

遊走腎診断のポイント

著者: 和久正良 ,   加納勝利

ページ範囲:P.1358 - P.1361

 腹部に腫瘤を触れる,立っていると腰痛が起こってくる,またはさらにときどき激しく腹痛があらわれることすらある,原因不明の微熱がある,これらの症状を示すときにしばしば見逃される疾患の1つに遊走腎(腎下垂)があることがある.そしてたとえ遊走腎が見つかっても果たしてそれによるものなのか(すなわち遊走腎症なのか),治療をしたほうがよい状態なのかについて話をすすめよう.

6.尿路の悪性腫瘍

腎腫瘍

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.1362 - P.1363

大部分が悪性腫瘍
 教科書的には良性と悪性とに分けられるが,臨床的に問題になるのはほとんどが悪性腫瘍で,その頻度は全がんの1-3%程度とされている.診断の面からは,つぎのように分類するのが便利であろう.

膀胱腫瘍

著者: 東福寺英之

ページ範囲:P.1364 - P.1367

既往歴について
 膀胱腫瘍は尿路の腫瘍のなかでもっとも頻発し,また重要な疾患である.すでに60年以上前から化学工業のなかでも染料に関係した部門に従事する人々の間にきわめて高い頻度で発生するのが知られ,当初アニリンが原因と考えられたが1938年にHeuperなどによってbeta-naphthyla-mineが原因として考えられるようになった.これは内服しただけでなく気道から吸入されることによっても膀胱腫瘍が発生するとされている.その他にBenzidine,Xenylamine(4-aminodiphenyl)などが膀胱腫瘍の発がん物質と考えられ内服,吸入だけでなく,経皮的吸収によっても腫瘍を発生させる可能性があると報告されている.
 しかし実際に臨床的に膀胱腫瘍患者の多くは発がん物質との接触が考えられず,慢性炎症などによる刺激も重要な原因的要素と考えられる.Mc-Donald(1959)は膀胱乳頭腫患者の尿抽出物をねずみの遊離した膀胱嚢内に注入し50%の頻度で乳頭状腫瘍が発生したと報告して膀胱腫瘍患者に発がん物質が存在していることを示唆している.したがって膀胱腫瘍の診断にさいし十分に患者の既往歴とくに職業歴の調査を行なう必要がある.

膀胱癌—見逃がさないために

著者: 高井修道

ページ範囲:P.1367 - P.1370

膀胱癌は稀ではない
 膀胱癌は泌尿器系悪性腫瘍のうちで最も多くみられ,また最も重要なものの1つである.ところがわが国と欧米における膀胱癌の頻度をみると,欧米のほうが約10倍多くなっている(瀬木ら19571)).最近10年間でわが国でも膀胱癌は多くなったとはいえ,まだ欧米のそれほどではない.この相違の主な理由は診断されないままに,あるいは慢性膀胱炎,腎盂腎炎,腎不全あるいは肺癌などと誤診されたままで死亡統計に入っているためと考えられる.一般医師の膀胱癌に対する認識不足の結果,初期に著明な症状(肉眼的血尿)が出現するにもかかわらず,ほとんど意に留めず,ただ単に止血剤を注射する.
 このようにして膀胱癌が診断されず,適正な治療を受けずにいることが案外多い.

X.血液系 1.出血傾向のための検査

出血時間延長

著者: 山田外春

ページ範囲:P.1372 - P.1374

まず栓球減少症を考える
 出血時間の延長をみたとき,まず考えねばならぬ病態は栓球減少である.かかる場合,臨床症状として皮下出血,歯肉出血,鼻出血,血尿などが見られるのであるが,特に皮膚および粘膜の点状出血斑に注意することがたいせつである.また女性の場合には往々子宮出血が起こり,特に月経に引き続いての出血が著しい場合があり,また男女共に消化器,呼吸器,胸腔,腹腔その他あらゆる臓器に出血が起こりうるし,脳出血が直接死因となることが少なくない,栓球減少症においては,Lee-White法で測定した凝血時間測定後の血餅の退縮の不良なことが認められ,栓弾図(TEG)にてmaが減少している(図)。
 この栓球減少症は本態性栓球減少性紫斑病(ITP)と症候性栓球減少症に大別される.

線溶活性

著者: 佐藤智

ページ範囲:P.1374 - P.1376

 線溶という略語が,日本の医学界で通用しはじめてから久しく,これに関連する研究発表は枚挙にいとまがないが,臨床面では意外に測定されていないのはなぜだろうか.
 全身紫斑を伴う出血でかつぎこまれた患者の血漿に,トロンビンを加えて凝固させたものが翌朝にとけてしまい(線溶活性亢進),抗プラスミン剤の大量投与で,紫斑も,血尿も,口腔内出血も直ちに消失してしまった症例をみては,線溶に興味をもたざるをえない.このようにドラマティックでなくても,特発性腎出血で苦しむ人に,また月経前期に毎月喀血,血痰を出す婦人に線溶活性亢進をみとめ,抗プラスミン剤投与で"血をみなくなる喜び"をともに味わうときに線溶に心ひかれる.線溶活性は出血のみならず,アレルギーに,炎症に,ホルモンに,動脈硬化に,いろいろな分野に関連をもつ.

血小板減少と臨床検査

著者: 藤巻道男

ページ範囲:P.1376 - P.1379

血小板の止血機構
 血小板は止血機構において,血漿凝固因子と密接な関係をもち,中心的な役割を果たしていることは,多くの研究者によって認められているところである.
 血小板は多岐にわたる機能を示し,血管が損傷されて膠原線維が露出するとそこに血小板は粘着し,粘着した血小板はADPを放出し他の血小板と凝集して血小板血栓を形成する.このさい血小板は形態的な変化を示すと同時に凝固活性を有する物質(主として血小板第3因子)を放出し,血漿凝固因子とともに線維素を形成して凝固血栓の形成を促進する.凝固血栓が形成され止血が完了すると,血栓が拡大するのを防ぐために血餅収縮が起こり,トロンビンを吸着して抗トロンビンが作用し,生成されたトロンビンを不活性化する.この血餅収縮および抗トロンビンの活性化にも血小板の存在が必要である.

2.血液疾患の鑑別に役立つ臨床検査と注意

白血球アルカリフォスファターゼ

著者: 服部絢一

ページ範囲:P.1379 - P.1381

 白血球アルカリフォスファターゼ(AP)が臨床検査として実用化したのはそれほど古いことではない.それは1955年Kaplow3)のアゾ色素法の発表に始まるといっても過言ではあるまい.もともとこの酵素は腎臓,肝臓,腸上皮など広範に分布しているが,白血球に存在することは約40年前に推定され,以後,生化学的な方法や組織化学的な方法で検索されるようになった.なかでも組織化学的な方法にはGomori-高松のコバルト法,武内のカルシウム-銀または鉛法があるが染色時間が長いため実用化にいたらず,Mentonらのアゾ色素法(1944)をKaplowが血液細胞に応用して,その方法の安定性,簡便さから初めて臨床に用いられるようになり,さらに最近では,Naphthol AS-MX phosphateなどの基質(Ackerman,朝長ら4))がつぎつぎに開発され鋭敏度を加えるにいたった.

血清鉄の高いとき低いとき

著者: 松原高賢

ページ範囲:P.1381 - P.1383

測定術式
 血清鉄の判読にあたっては,あらかじめ測定術式を確かめておく必要がある.通常採用されているのは筆者法,Landers法あるいは市販の血清鉄測定キットと思うが,いずれもほとんど同値を与えるもので,以下述べる高低の判定基準をそのまま適用してよろしい.他の術式を用いた場合の正常値については多数例の精密な報告がないので,この基準を適宜ずらして判定するほかはない.最近オートアナライザーを用いる方法が開発されたが,標準的用手法との比較実験は十分には行なわれていない.

生化学検査に及ぼす溶血の影響

著者: 玄番昭夫

ページ範囲:P.1383 - P.1385

溶血血清とは
 臨床検査で溶血血清とは採血以後の人工的に作られた血清のことをいっている.肉眼的に溶血とわかるのは,血清100ml中にHb量が20-30mg含まれているときで,これを微溶血といい,実際上この程度であるとほとんどの測定に干渉しない,しかし50-100mgHb/血清100ml以上の軽・中等度溶血が起きると,もはやその影響は無視できないものとなる.

3.注目すべき症状

頸部リンパ節腫脹

著者: 服部絢一

ページ範囲:P.1386 - P.1389

頸部リンパ節群とリンパ灌流域
 リンパ節はリンパ管の関所として全身に分布し,リンパ球,形質細胞を産生するとともに,他方,網内系の一器官として,細菌・異物・腫瘍細胞の抑留・処理,抗体産生にあずかる.
 リンパ節は正常では触れない.体表から少しでも触れるものは,現在または過去の病的変化の存在を意味する.

脾腫

著者: 長村重之

ページ範囲:P.1389 - P.1392

 脾腫は腹部腫瘤,ことに左季肋部に出現する腹部腫瘤の1つであるので,まず他の腹部腫瘤と鑑別し,次いで脾腫を伴う疾患を考える必要がある.

4.知っておきたい貧血

再生不良性貧血

著者: 浅井一太郎

ページ範囲:P.1392 - P.1394

再生不良性貧血とは
 この貧血の本態は,骨髄の造血機能が障害されて,赤血球の造成が減少していることにある.原因は不明のことが多いが,また,白血病,感染症,内分泌障害,栄養障害,種々の悪性腫瘍-ことにその骨髄転移,多発性骨髄腫などに続発して起こることもある.最近ことに注目されているのは,種々の化学物質や薬剤によって起こる骨髄障害が原因となっている場合である.
 たとえば,ベンゾール及びその誘導体は以前から本症の原因として注目され,最近でも集団中毒を起こして社会的注目を惹いている場合がある.薬剤としては,サルファ剤,睡眠剤,ことにバルビツール酸誘導体,解熱剤,フェノチアジン誘導体,抗癌剤などが原因としては最もしばしば問題になるが,中でもクロルアンフェニコール及びその誘導体は本症を起こすことが多く,しかもこれによるものは予後が悪いことが多いので注意を要するものである.その他,筆者は最近毛染剤として用いられるパラフェニレニジアミンが原因と考えられる症例を一再ならず経験している.これも社会的風潮の一断面であろうが,新しい本症の原因薬剤として念頭に置く必要がある.

悪性貧血

著者: 内野治人

ページ範囲:P.1394 - P.1396

 悪性貧血という場合,1つは古典的な意味における,いわゆるAddison-Biermerの悪性貧血Per-nicious anemia,もう1つは巨赤芽球性貧血Mega-loblastic anemiaという病名で代表される一群の疾患をさす.

5.見逃がされやすい血液疾患

見逃がされている血液疾患

著者: 三輪史朗

ページ範囲:P.1397 - P.1399

 この主題は,本来臨床経験の豊富な血液学者が執筆されて初あて味わい深いものになるのであって,筆者にはやや重荷である.ここでは赤血球系,白血球系,血小板・凝固・線溶系の順にわけて,思いつくままに問題となる疾患にふれてみることにしよう.筆者なりの見方なのでかなりかたよった解説になってしまうかもしれないが,これは大半は筆者自身が見のがして,そのことに気づいていない疾患が多々あることを意味するので,一部は紙面の制約によるものである.この点ご寛容,ご叱正をいただきたい.

6.ステロイド投与と血液変化

副腎皮質ステロイド剤の投与と白血球増多症

著者: 梅原千治 ,   伊藤久雄

ページ範囲:P.1400 - P.1402

 ACTHや副腎皮質ステロイド(以下CSと略す)を投与すると白血球増多が起こることは古くから知られており,この白血球増多の機序についても種々研究されているが,なお完全に解明されるにはいたっていない.またこの白血球増多は,CSの投与量や投与期間,さらには投与される患者の状態ならびに原疾患によっても左右されるといわれる.したがって臨床的にACTHやCSを使用したさいにみられる白血球増多が,投与薬剤によって惹起されたものか,あるいは原疾患の悪化によって起こったものかを区別することはかならずしも容易なことではない.そこでここにはCSを1回投与したさいの白血球の動きと,連続投与したさいの白血球変動を,私どもの経験に諸家の報告を加味して解説したい.

XI.感染症 1.検査所見の意味するもの

ASOが陽性の場合

著者: 本間光夫 ,   藤井玻黎 ,   常田穰

ページ範囲:P.1404 - P.1407

SL-Oとその抗体ASO
 レンサ球菌から分泌される菌体外物質としては,10種類のものが知られている.
 そこでレンサ球菌の感染が生体におこると,これらの物質がヒトの抗体産生細胞に到達してそれぞれの抗体を生じてくる.そのうちStreptolysin-Oに対する抗体をAntistreptolysin-O(ASO)という.現在証明し得る抗体は7種類であるが,ASO以外の反応は,基質や抗原の調整が困難で一定の品質のものが得難いため,一般にASOの測定が行なわれている1).ただ抗デスオキシリボヌクレアーゼB(anti-DNA-ase B),抗ディフォスピリジン・ヌクレオチダーゼ(anti-DPN-ase)や,抗ニコチンアミド・アデニン・ディヌクレオチダーゼ(anti-NAD-ase)の検査法は標準化することが容易で有用な検査法となりうる.とくにanti-DNA-ase Bは他のレンサ球菌抗体よりも長く上昇しつづけるという利点がある.

ASL-O陽性の持続するとき

著者: 入交昭一郎

ページ範囲:P.1408 - P.1410

ASL-Oとは
 溶血レンサ球菌(以下溶レン菌と略す)が菌体外に分泌する物質にはStreptolysin O,Streptolysin S,Streptokinase,Hyaluronidase,Streptodornase,Ribonuclease,Proteinaseなどいろいろなものが知られ,人体が溶レン菌の感染を受けるとこれらの物質が人体内で溶レン菌より産生され,抗原性のあるものについてはそれに対する抗体が出現してくる.Anti-Streptolysin O(ASL-O)は字のごとくStreptolysin Oに対する抗体で,先行溶レン菌感染の有無を知るうえに最もポピュラーで今日広くその測定が行なわれている.
 溶レン菌にはA,B,C,D,E,F,G,H,K,L,M,N,Oの13群があり,Streptolysin Oは大多数のA群溶レン菌感染のほかにC群,G群の感染の場合にも産生される.したがってASL-O値の上昇は厳密にいえばA群溶レン菌感染症のみに特有ではなくC群,G群の場合にもみられるが,実際的にはA群溶レン菌感染症の血清学的診断法としてASL-O値測定が行なわれている.一般に250単位以上の上昇を異常とする.

CRPと赤沈促進—その臨床的意義

著者: 磯貝行秀

ページ範囲:P.1410 - P.1413

疾患の活動性の指標
 急性感染性疾患あるいは慢性病変の再燃などにおける病像の活動性および重症度の判断に関する事項は,日常臨床にとってきわめて重要なことがらである.一般に疾患の活動性を把握するステップとして,1)体温測定,2)白血球数および血液像,3)赤血球沈降速度(以下赤沈という)などの検査がまず行なわれる.しかし,急激で著しい病変の発現をのぞけば,上記の検査法のうち1)および2)は鋭敏度の点で3)に一歩ゆずると見なされる.ことに,慢性疾患の緩徐な再燃などのとき1)および2)の変動は少ないので赤沈が最も高く評価される.
 一方,活動性病変があると血漿蛋白にも2、3の特有の変化が現われる.すなわち,正常状態では認められない蛋白質の出現ないし蛋白質分画の異常がみられる.これらの血漿蛋白質の動きはいずれも反応性のもので,病勢の推移と相関して消長するのが一般である.正常者血漿中に認められなくて新たに反応として出現する蛋白質に,1)C-reactive protein(CRP),2)Rheumatoid factor(RA因子),3)Lupus erythematosus factor(LE因子)などがある.

梅毒血清反応陽性—どこまで治療をつづけるか

著者: 水岡慶二

ページ範囲:P.1413 - P.1415

 一時,その姿を消していたTreponema pallidum(TP)がふたたび日本に現われ,新鮮な早期顕症梅毒患者が発生していることは,多くの報告によって明らかなことである.梅毒という病気をすでに忘れかけていた臨床医家も多かったことと思うが,梅毒をいつも頭の隅に思いうかべながら患者の診察にあたらなければならないような時代がふたたびやってきていることに注意しなければならない.
 ところで,梅毒と診断するのに欠かすことのできない検査法は,Wassermann反応という名前で総称されている梅毒血清反応Serologic Tests for Syphilis(STS)である.そこで,ここにはSTSが陽性に出た場合,その患者をどのように取り扱うのがよいかという点について述べてみる.

2.ウイルス性疾患

おとなのおたふくかぜ—流行性耳下腺炎

著者: 名尾良憲

ページ範囲:P.1416 - P.1418

 流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)Mumpsは,その名の示すように耳下腺の有痛性腫脹を主徴とするウイルス感染症である.本症は全身性感染症で,耳下腺炎のほか顎下腺炎,舌下腺炎をおこすことがあって,そのほか膵炎,睾丸炎,卵巣炎などをおこすこともある.またまれに甲状腺,胸腺などの炎症をおこすこともある.これらの内分泌器官のほかに神経系をおかし髄膜炎(ときに脳炎)をおこすことが少なくない.
 本症の罹患率は幼児から学童にかけて大であるが,成人をおかすこともまれでない.潜伏期は2-3週で,飛沫感染によって伝染する.

伝染性単核球症

著者: 服部絢一

ページ範囲:P.1418 - P.1420

 伝染性単核球症とは別名腺熱ともよばれ,全身のリンパ節腫,発熱,単核球増多の主徴を有し,異種血球凝集反応で上昇を示す疾患をいい,本邦では鏡熱(熊本),日向熱(宮崎),土佐熱(高知)などの地方病として知られる疾患もその多くは本病に包含される.

コクサッキーウイルス感染症

著者: 中尾亨

ページ範囲:P.1420 - P.1422

 コクサッキーウイルスはエンテロウイルスの一つで現在まで表1のごとき疾患を起こすことが知られており,多彩な臨床像を示すわけである.哺乳マウスに起こす病変によってA群,B群に分けられ,A群には24型,B群には6型あることが知られている.このうち重要な疾患はヘルプアンギーナ(夏かぜを含む),無菌性髄膜炎,発疹症,流行性筋痛,心筋炎,心嚢炎,Hand, foot andmouth diseaseなどである.

3.細菌性疾患

猩紅熱

著者: 平石浩

ページ範囲:P.1423 - P.1425

はじめに
 わが国の法定伝染病は全体として昔からみるといちじるしく減少したが,その中で他の疾患にくらべてまだ格段に多いのが赤痢と猩紅熱である.しかし赤痢の全国届出数が1966年の約65,000名から1970年の約10,000名まで急激な減少の一途を辿ったのに対して,猩紅熱は近年やや横ばい状態にあり,1970年には7,774名と,前年の6,143名にくらべて26%強の増加をみている.本症には類似の発疹性熱性疾患が少なくないので,この際その診断について一応ふりかえってみよう.

赤痢

著者: 小張一峰

ページ範囲:P.1425 - P.1427

軽症化して見のがしが多い
 定型的症状を呈する細菌性赤痢の診断は困難なものではないが,最近のようにその病像が著しく軽症化されてくると,臨床的診断が必ずしも容易ではなくなってくる.しかし,赤痢が依然として伝染病予防法に規制された法定伝染病であり,患者は強制隔離をたてまえとする限りは,ある患者を赤痢と診断するか否かが,ほかの疾患の診断決定とはまた別の意味をもっている.
 赤痢をほかの疾患と診断してその患者が集団赤痢の原因となった例があるが,一方ではほかの疾患が赤痢と診定されたばかりに数週間伝染病院に強制的に収容される人たちも少なくない.赤痢患者強制収容の必要の有無はともかくとして,明治以来の伝染病予防法規が改廃されない限り,赤痢の診断は特別の意味をもつものと考えなければならない.そこで赤痢の診断は慎重の上にも慎重を要するわけだが,それを念頭におきながらも見のがしてしまうほど現在の赤痢は軽症である.その軽症な臨床像の中から赤痢の特徴をひろってみよう.

4.寄生虫

フィラリア症(糸状虫症)

著者: 佐藤八郎

ページ範囲:P.1427 - P.1429

フィラリア症流行地
 フィラリア症(わが国では大部分はバンクロフト糸状虫症)は本来,熱帯,亜熱帯に多い疾病である.わが国においても古くより本症に関する記載・報告がなされ,四国,九州,沖縄などが本症の流行地として知られていた.
 現今の本症浸淫状況は,昭和37年より昭和44年まで鹿児島,長崎,熊本,宮崎,大分,愛媛,高知,東京,新潟の9府県において約201万名という膨大な人員の検血を行ない,鹿児島,長崎,熊本,宮崎,愛媛,高知,東京の7府県において,本症の仔虫(ミクロフィラリア,Mf.)陽性者が発見されている.すなわち総数約34,125名のMf.陽性者が発見されたが,このうち98%は鹿児島(約80%),長崎(約18%)より発見されている.さらにこの両県においても,奄美大島,五島列島など離島の住民に高率に陽性者が見出されている.このように現在では本症の流行はかなり限局されていることが判明しているので,診断にあたっては,患者の現住所のみではなく,出生地,以前の居住地,その他生活歴を詳細に問うことが肝要であろう.

5.中枢神経の感染

日本脳炎

著者: 鍵和田滋

ページ範囲:P.1429 - P.1431

日本脳炎の病型
 一般に感染症は,病原が発見され,さらに特異的血清抗体価の測定などが可能になると,診断の確実さが増すとともに,従来,記載されていた定型的な病型のほかに,非定型的な病型や不全型も把握されるようになる.日本脳炎(日脳)の場合もまたそうで,現在は従来の脳炎型のほかに,次のような病型が区別され,かつ不顕性感染がはなはだ多いことも知られている.
 ①脳炎型(入院した日脳患者の70-90%)

髄膜炎

著者: 池本秀雄

ページ範囲:P.1431 - P.1433

 昔に比べて減少したとはいえ,日常稀ならず遭遇する髄膜炎は,それ自体の診断は比較的容易であるが,原因菌は,そして適切な化学療法はとなると当惑することが少なくない.限られた紙面ではとうてい書きつくせないので,おおよその目安について述べることにする.

XII.心身症・精神科 1.心身症の診かた

医原性心臓神経症

著者: 石川中

ページ範囲:P.1436 - P.1438

「医原性疾患」という概念
 医原性疾患(iatrogenic disease)という概念を最初に医学に導入したものは,Hurstであり,「医師の検査・態度・あるいは討論などに起因する,患者の自己暗示によって惹起された病気に用いられる」と定義され,主として心理的メカニズムによる,純粋に医師が作り出した病気のみに限定していた.しかしその後,医師の言動のみならず,医師の行なった手術,あるいは投与した薬剤などによって惹起された器質的な障害などをも含める広い意味にも解釈されるようになり,若干の概念の混乱が見られている.医原性疾患を心理的メカニズムによる医師原因性疾患と考えるか,あるいは手術,薬剤などの副作用による医療原因性疾患とするかについては,学者によって考えかたが異なり,まだ統一された見解がない.しかし本論文においては,Hurstの定義に従って,心理的メカニズムによるものに限定し,ことにそのうちでももっとも頻度の多い,iatrogenic heart disease(医原性心疾患)の発生要因,診断などについて述べることにする.

心因性運動障害

著者: 服部一郎

ページ範囲:P.1438 - P.1439

 心因性運動障害といっても運動麻痺,不随意運動(痙攣,チック),失調とあり,しかも運動麻痺にしても脳神経からあらゆる末梢神経まで心因性に起こりうるので,全部についてのべることは紙数が許さない.したがってここでは心因性運動障害の中でもっとも多い運動麻痺に限定してのべる.

心因性じんま疹

著者: 阿部正

ページ範囲:P.1439 - P.1442

 心身症—精神的因子が強く作用している疾患—は意外に多いことは,すでに常識になりつつあるが,一般に患者の33%はそうだといわれている.皮膚は人間の身体の外界との境界であるとともに,精神の外界への境でもあり,感情はこの表面に現われやすい.嬉しければ紅潮し,悲しければ蒼白となる.したがって皮膚疾患には心身症が多いのは当然である.じんま疹,脱毛症,いぼ,皮膚炎などのなかでも,じんま疹が精神的影響で生じることはよく知られている.
 ある疾患に心因がはたらいていることは,身体的因子が存在しないことを証明するいわゆる除外診断によってではない.アレルギー反応が立派に陽性に出たからといって,心因的因子がはたらいていないとはいえない.

2.間違われやすいてんかん発作

てんかんの小発作

著者: 水野隆

ページ範囲:P.1442 - P.1445

はじめに
 小発作てんかんの発症は小児の方がはるかに成人より多いといわれている.しかしながら,てんかん全体からみると,その発生率は比較にならぬほど少ないことも事実である.このことは大発作てんかんに比較して,小発作の臨床像が地味なことともあいまって,日常の臨床上でとかく小発作てんかんが見逃がされやすい原因となっている.
 小発作てんかんの分類:小児科領域としてはつぎのように分類するのが便利である.1)点頭てんかん(infantile spasms),2)失立発作(akinetic sei-zure),3)アブサンス(absence),4)ミオクロニー発作(myoclonic seizure).

3.うつ病の見分け方

うつ病

著者: 冨永一

ページ範囲:P.1445 - P.1447

症例から
 26歳 男 今回もそうだが,3年前梅雨どきに後頭部が重くなり,当院内科で血圧が高いといわれ,そのおり精神科でも診てもらった.畳職を62歳の父親とともにしていたが,3日前から仕事を休んでいる.人とあまり話したくなく,おっくうかと聞くと,何か仕事がはかどらず,頭から顔にかけぼおっとしていておかしい.こういうふうになってもう2カ月ほどたつ.とくにそうなる原因は考えられぬ.両親や兄は,気持だ気持だというが,すっきりしない.天候でもよくなればと思っていたが,よくならぬ.ひどいと世のなかがいやになってしまう.
 夜はだいたい眠れ,食事はさしてうまくはない.生後半年目にかかったという大腸カタルのほか,とくに病気はしていない.酒もタバコものまず,同胞7人の6番目で3男.未婚.

軽症うつ病

著者: 筒井末春

ページ範囲:P.1447 - P.1449

本症の認識
 depressionはその原因により内因性,反応性,症候性などの分類がなされているが,実際はその区別が容易でない場合もある.病像の程度からみて軽症のものには,近年注目されているmasked depressionがその代表と考えられる.
 もちろん精神症状の軽いものはmild depressionの範ちゅうに入れられるわけであるが,これらはいずれの場合においても,注意と関心を本症に向けていないと日常しばしば遭遇するにもかかわらず,見逃がされている場合が多い.

XIII.老人科 1.年齢別正常値

老人の正常値をどう考えるか

著者: 松木駿

ページ範囲:P.1452 - P.1454

正常値と標準値
 すべての医学的測定値は,それと比較して異常かどうかを決めるために,正常値が必要である.正常値は普通正常人(normal men)から得られた値であるが,正常人をどのような定義で決めるかが問題で,実際には正常と思われる人(probablynormal men)の値ということになる.病気を除外するのにどのような検査を行なって,またどのような判定基準で正常としたかを考えると,それが真の正常人であったかどうか自信がなくなってしまう.病気以外にも経済状態,食事内容,ふとっているかやせているかなどの栄養状態,季節などの影響を受ける可能性のある測定値も少なくないであろう.そうなると正常値(normal value)は現段階で簡単に決めるべきものではなさそうである.しかし実際にはある基準となる値が必要であるから,それを正常値でなくて標準値(standard value)とよぶのはどうであろうか.標準値は1つの"ものさし"と考えれば,よりよいものさしができたらそれに換えてゆこう.従来正常値として報告されているものは標準値として理解して,その値が得られた対象の条件をなるべく詳細に記載しておいてほしい.

2.症状の現われ方,見分け方

老人の息ぎれ

著者: 長浜文雄

ページ範囲:P.1454 - P.1456

息ぎれの一般的成因
 呼吸中枢は血液のわずかなCO2分圧の変動に敏感に反応して,健常な呼吸運動が営まれている.息ぎれ,すなわち呼吸困難(Dyspnoea;Ate-mnot;shortness of breathing or shortbreath)はこの呼吸中枢が異常に刺激されて起こり,その成因には,
 I 体液性呼吸困難:呼吸中枢を通る血液の,

老人の喘息

著者: 川上保雄

ページ範囲:P.1456 - P.1458

 老人の喘息は原因・症状・予後・治療などの面においても,いろいろ若年者の喘息とは異なった特色があるが,ここでは診断面に重点をおいて,その主要ポイントについて述べることにする.

老人の黄疸

著者: 高橋忠雄

ページ範囲:P.1458 - P.1460

 ほかのどの病態についてもいえることかとは思うが,黄疸という症状の鑑別診断にあたっては,とくに年齢という点の考慮がきわめて大きな意義をもっている.ことに乳幼児の黄疸や,若年者に発見されるconstitutional jaundiceについては,その感が深い.しかし,一方老齢者での黄疸では,それ以上に診断の過誤が重大な結果をもたらすことになるので,鑑別にはきわめて慎重を要する.

XIV.筋・骨・関節 1.注目すべき症候群

むち打ち症候群

著者: 近藤駿四郎

ページ範囲:P.1462 - P.1463

 「むち打ち症候群」と一般によばれている臨床的立場からの私見は,すでに多くを記述してきたのでいまさらこれにつけ加えることはなにもないのであるが,内科方面の実地医家にもこの症状を一応理解しておいていただくことはたいへん有意義と思うので,ごく簡単に要点をかいつまんで述べることにした.
 第一に本症状を示す患者の大多数は追突事故が原因となっているが,このとき頸部の過伸展過屈曲が生じることが症状発生に必要であり,また頭部に直接外力が作用することはまれである.

頸椎症候群

著者: 三好邦達

ページ範囲:P.1463 - P.1466

多岐にわたる名称
 わが国ではこれは頸部症候群,頸椎症候群,頸腕症候群あるいは頸肩腕症候群などと呼称され,必ずしも名称が一致してはいない.
 Jacksonによればcervical syndromeという言葉は,頸部神経根が椎間孔あるいはその周辺の前枝と後枝とにわかれる前の部分で刺激されたり圧迫されたりする結果として起こる一連の症候群と臨床所見を意味するものとしており,椎間孔周辺の他の組織—反回脊髄硬膜神経,椎骨動・静脈およびその分枝も同時に侵されることがあるとしている.一般には,頸神経,腕神経叢,自律神経,血管などの刺激による頸・肩・腕の神経痛様疼痛を主体とし,手指などにしびれ感,知覚鈍麻,運動障害などの不全麻痺や自律神経障害を起こしてくる病状を総称したものと考えられている.

2.骨変化の見分け方

オステオポロージス

著者: 森永寛

ページ範囲:P.1467 - P.1468

副腎皮質ホルモンの功罪
 副腎皮質ホルモン剤の臨床への導入によって,従来これといった決め手の見当らなかったいろいろの疾病が一大恩恵を受け治癒するようになったし,今後もますます臨床目的に応じたステロイドの開発が行なわれるであろうが,他方その使用によっては思いがけぬ各種の副作用の生じうることが認められ,重視すべき副作用として,感染症の合併や消化管潰瘍・精神障害などとともに,オステオポロージスもあげられていることは周知のところであろう.内科領域においてステロイド剤が広く用いられつつある現在,「medicina」でオステオポロージスをとりあげられた理由の一つはここにもあると考える.

XV.小児科 1.緊急疾患の見分け方

小児のひきつけ

著者: 石塚祐吾

ページ範囲:P.1472 - P.1474

 「ひきつけ」という言葉は,おもに一般の人が用いる言葉で,国語辞典を見ても「けいれん」と同義語と解される.
 「けいれん」の診断については,多くの人がいろいろの雑誌の特集号や著書に書いておられるが,ここでは私なりに,小児の実地診療に多少ともお役にたつように,経験をもととして記してみたいと思う.

小児の急性腹症

著者: 伝田俊男

ページ範囲:P.1474 - P.1476

小児の腹痛の訴えはかならずしも腹部疾患によらない
 急性腹症とは突発性の激しい腹痛を主症状とする疾患群を総称するが,外科の立場からは,その確定的診断は明らかでなくても,緊急処置として開腹手術を必要とするという警告的意味を含んで使用される.実際にはすみやかに病変を診断し手術の必要性の有無を決定するのが望ましいが,疑いのみで急性腹症として開腹手術が行なわれる場合も少なくない.
 小児では学童以上での腹痛の訴えは成人とたいして差はないが,乳児以下では腹痛は訴えないで苦しそうに泣き叫ぶのみで,既往症,顔貌,泣きかた,体位,触診時の反応などで察知しなければならない、誕生前後から幼児の前期にかけては腹痛を訴えるが,腹部以外の局所の痛みで腹痛がなくても腹痛を訴え,また恐怖のため,あっても痛くないと訴えることもある.中村の統計によれば,小児科外来で腹痛を訴える年齢は3-7歳が最も多く,かつ成人においては腹痛の90-100%が腹部疾患に由来するのに反し,小児では消化器疾患によるものは30%にも達しない.泌尿器系や体質的疾患を加えても60%前後を占めているにすぎない.肺炎,肋膜炎,感冒,アンギーナ,紫斑病,急性リウマチ熱,麻疹,猩紅熱,脳炎,白血病,貧血などの全身疾患で腹痛を訴えるものが少なくないということは小児期の特徴である.つぎに腹部疾患として反復性臍疝痛,腹性てんかん,腹性紫斑病,いわゆる自家中毒症(アセトン血性嘔吐症),便秘症,巨大結腸症などの特有疾患によって腹痛を訴える.その他の消化器系疾患として急性胃腸炎,回虫症,消化性潰瘍,肝炎,胆道疾患,膵炎,虫垂炎,腹膜炎,腸閉塞症,また泌尿器系疾患として膀胱炎,腎尿路結石,腎周囲膿瘍などで明かな腹痛を訴える.また腎炎,ネフローゼ症候群などによっても腹痛を訴えることが少なくない.

小児仮性コレラ

著者: 本廣孝

ページ範囲:P.1476 - P.1477

決定的でない原因
 乳幼児下痢症は従来夏期に多発傾向を呈していたが,最近8年間の当科外来3歳以下下痢児は506名で春期(3・4・5月)99名20%,夏期(6・7・8月)93名18%,秋期(9・10・11月)74名15%,冬期(12・1・2月)240名47%と夏期に比して2倍以上の頻度で,最近の乳幼児下痢は冬の疾患として特徴づけられている.症状は軽症化が著明で,抗生物質の普及,食品衛生管理の適正化,環境の改善,衛生指導の向上がその一因をなしている.月年齢別にみると,離乳初期の5カ月が最も多く37名7%,次いで果汁を与えはじめる3カ月33名7%,3カ月から12カ月で314名と全体の62%を占め,離乳期の乳児に多くみられた.
  これら下痢症の原因は食餌性・体質性・腸管感染性・腸管外感染性などに分けられるが,冬期下痢症のうち,白色調を呈する下痢便に加え,嘔吐,上気道カタル症状を3主徴とし散発あるいは集団発生をきたす下痢である.本症は60年まえ伊東祐彦教授により小児仮性コレラとして提唱されたものである,近年は白色便性下痢症あるいは白痢とよばれ特異な座を占め,腸球菌説,体質異常説,感冒説,ウイルス説,腸球菌をのぞく細菌説などの原因が諸家により報告されているがまだ決定的でない.私たちは大学病院という特殊外来のため本症にあまり遭遇せず,昭和39-46年の8年間にわずか21名を経験したにすぎないが,実地医家においては冬期しばしばみられる疾患であり,諸家の見解を参考にしながら本症の診断について述べる。

2.皮膚所見から何を考えるか

小児発疹症

著者: 中沢進

ページ範囲:P.1478 - P.1479

最近の小児発疹症の変貌
 小児の発疹症は実に多いものであるが,最近遭遇する病型にはかなりの変貌がみられる関係上,成書に記載されている知識からでは診断もたびたび困難になってくることも少なくない.この原因となる2,3の因子として次のようなものが考えられる.

新生児黄疸

著者: 合瀬徹

ページ範囲:P.1480 - P.1482

重症黄疸は脳性麻痺の原因になる
 最近新生児黄疸についての関心が急速に高まったおもな理由としてつぎのことがあげられる.
 1)新生児期特に生後1週間以内における重症黄疸(新生児高ビリルビン血症)は核黄疸の成因となり,かつ脳性麻痺の原因となることが明らかに証明されている.2)しかも,このような新生児高ビ血症がおもに母子間の血液型不適合(ABO,Rh etc.)および未熟児その他の原因によってこんにち,以前われわれが思っていたほどまれでなく,身近かにかなりの数発生している事実(推定では全出生児中1/200の率で交換輸血を必要とする高ビ血症児がみられる).3)新生児高ビ血症はいわゆる生理的黄疸とは明らかに区別され,しかも核黄疸,ひいては脳性麻痺の予防が交換輸血という有効かつ簡便な手技でこんにちすでに確立されている等々.

3.注目すべき呼吸器症状

かぜの症状ではじまる子どもの病気

著者: 市橋保雄

ページ範囲:P.1483 - P.1484

 かぜは人間の病気のうちでもっとも多い疾患である.そのくせ,かぜくらいとか,かぜひき医者とか,この病気ほど軽蔑されているものはなかろう.小児科領域における疾患の愁訴のなかで多いものを考えると,発熱,咽頭痛,頭痛等々あげられるが,いずれもかぜの症状と考えてさしつかえないものばかりである.以下かぜ症候群を含めた,かぜ類似疾患ないしはその周辺の疾患について述べる.
 冷たい風にあたったり,寝冷えしたりした後に咽頭や喉頭がかゆく,鼻汁が出て発熱すると,俗にかぜをひいたという.はなかぜ,咽頭,喉頭の掻痒感を伴った上気道疾患をかぜといい,日常われわれのよく経験するところで子どもにおいては主訴を表現する能力に欠けることから,不安,不機嫌など不定の愁訴で始まり,原因がはっきりしないことが多い.加えて子どもは幼ければ幼いほど,全身症状,胃腸症状,神経症状などをもって突発することもあるゆえ,かぜの症状で始まる子どもの病気が問題になるのであろう.

いわゆる小児喘息

著者: 中山喜弘

ページ範囲:P.1485 - P.1486

 "小児喘息"という病名がしばしば用いられる.乳幼児でことに寒い季節にゼロゼロが治りにくかったり,くり返したりしている症例に名づけられ,これは成人になるまでに治ってしまうのが普通なので,成人の気管支喘息とは異なるとして,小児喘息という病名がつけられているようである.ゼロゼロが喘息もちであるとの考えと,小児喘息といえば成人になるまでには治るからと家人が納得するので,安易に用いられる傾向がある.

4.小児の正常値

アルカリフォスファターゼ—成長と活性値

著者: 加藤英夫

ページ範囲:P.1487 - P.1489

生体と酵素の作用
 生体内での物質代謝は酵素の作用によって支配されて,円滑に営まれている.それらの数多くの酵素は遺伝子によって生成され,またその生成が調節されている.
 教室での酵素に関する研究成績および多くの内外の文献から考察すると,生体内の酵素は主として臓器内にあるが血清中にもある程度流れており,これらの活性値は動物あるいは臓器によってだいたい一定している.しかし正確にみると,臓器内あるいは血清中の酵素の活性値は胎児,新生児,乳児,幼児,学童,成人でかなり差異があるものであって,成長に従って変動するものであり,換言すれば成長,発育すなわち加齢(aging,老化)によって変動するものであるといえる.

XVI.婦人科 1.妊婦の異常検査所見をどう考えるか

妊婦の無症候性細菌尿

著者: 松田静治

ページ範囲:P.1492 - P.1493

意義と頻度
 婦人の尿路は解剖学的にも生理学的にも性器との関係が密接で,外陰,腟には常在菌が数多く存在しているため,尿路はつねに感染の危機にさらされているといっても過言でない。事実男子に比べて婦人における尿路感染症の発生頻度は数倍にも達する.さらに加えて妊婦では尿路が妊娠により局所的な影響を強く受けるようになる.すなわち腎盂および尿管の生理的拡張と蠕動運動の減少,尿管逆流現象とともに下部尿路(膀胱,尿道)は妊娠月数の進むにつれ,増大した子宮の圧迫を受け膀胱は形態的に変形をきたし,膀胱壁の弛緩が起こる.これの進んだ状態として分娩時には児頭の圧迫などの影響も加味されるから必然的に産褥期に短期間の膀胱麻痺をまねきやすい.したがって妊婦には尿滞留などの誘因により細菌感染の機会が増加するのは当然である.しかもなお仕末の悪いことは自覚症状がほとんどないため,無症候性細菌尿といっても一般の関心をひかず,尿検査を行なわないかぎり看過されるおそれがあることである.このような潜在性の腎盂腎炎を含む妊婦の無症候性細菌尿(この場合細菌尿とは尿1ml当り菌数が105=10万以上のものをいう)はしばしばみられるもので,なかには数年間にわたり進行し,患者は腎不全症状がはっきりするまで重篤なことに気がつかずにすごしてしまうことがある.とくに注目すべきは妊娠中毒症患者に細菌尿の頻度が高い点で,これは高血圧患者に比較的高率に尿路感染症が合併しているという報告とあわせて興味深い,そこで細菌尿の検査を日常行なうことができればなお多くの症例が発見されるものと思われる.

妊婦とブドウ糖負荷試験

著者: 吉田秀雄

ページ範囲:P.1494 - P.1496

妊婦と糖尿病
 妊婦は時々検尿して蛋白が陽性か否かをみることが必要であることは広く知られているが,尿糖が陽性か否かをしらべる必要があることについてはようやく数年来注目せられてきたにすぎない.妊婦に尿糖陽性のことがしばしばみられることは事実であるが,妊婦が糖尿病的であるとか,妊娠に際し糖尿病が多発するとか,悪化するとかの見方はむしろ誇張されているといわねばならない.
 なるほど妊娠は尿糖,インスリン活性の現われ方などについて婦人を糖尿病と似た状態におくものであるが,真の糖尿病が妊娠を機会にして発病してくることは比較的まれである,またすでに糖尿病に罹患している患者が妊娠してくることもしばしばあるが,その診断はむずかしくない.

2.婦人のむくみ

原因不明の婦人の浮腫

著者: 竹本吉夫

ページ範囲:P.1496 - P.1499

診断にあたっての注意
 婦人においては,生理的にも月経周期に対応した水,電解質代謝の変動がみられ,卵胞期に比較して黄体期,とくにその後期において全水分量,細胞外液量の増加,Naの蓄積傾向,血清滲透圧の上昇,血清ADH活性の上昇などが指摘されている.
 "月経前症候群"においては,精神神経性の愁訴が主症状をなすが,水分代謝障害もまた本症の特徴的な一症状である.浮腫はふつう月経前14-10日前,すなわち黄体期の開始と共に現われ,次第に増強し,月経開始と共に消失するか,または軽快してゆくものである.甚しくは第三者にもわかる位に顔面,四肢に浮腫をきたし,減尿の著しくなるものもみられる.小林・高山は,本症患者ではとくに月経周期に伴う水,電解質代謝の変動の著しいことを明らかにし,その機序としてエストロゲンとプロゲステロンの両者の協調作用を重視している.また"更年期性浮腫"として,閉経期の婦人で閉経期に先行,またはその初期に浮腫の出現をみるものもある.

更年期婦人の原因不明のむくみ

著者: 加藤暎一

ページ範囲:P.1499 - P.1503

 更年期の婦人が,軽いが頑固な,あるいはときどき出没する浮腫を主訴として来院し,簡単な外来での検査では原因を明らかにしえないという場合はけっしてまれではない.

3.出血傾向をどう見分けるか

婦人の紫斑

著者: 勝見乙平

ページ範囲:P.1503 - P.1506

 出血性素因の診療に際しての最も重要なポイントが診断の確定にあることは論をまたない.しかし常に純学問的な意味での精密な診断を求めるあまりに時日を費やすことは,一般臨床的には必ずしも正しくない,出血性素因の臨床においては一般状態の急激な悪化をきたす場合が少なくないからである.本稿においては成人女子にみられる頻度が高い出血性疾患のみについて,治療法の決定のための必要最低限と考えられる鑑別診断法について述べたい.

婦人によくみられる出血性素因

著者: 大久保滉

ページ範囲:P.1506 - P.1507

 婦人には男子にくらべて紫斑をみることが多い,その診断について述べる前に出血性素因と紫斑とについて若干解説しておく必要がある.

4.注目すべき症状

婦人の下腹部痛

著者: 足立春雄

ページ範囲:P.1508 - P.1510

下腹部痛と婦人
 女性は男性と異なって複雑な内性器をもっており,しかもそれに月経周期という生理的な変動が起こり,そのうえさらに妊娠のためのいろいろの変化が加わってくるし,下腹部臓器の感染の機会も比較にならないほど多いものであるから,下腹部痛の原因や種類も男性に比較して非常にこみいってくるのは当然である.
 AdamsとResnikは一応腹痛を表のように分類しているが,婦人の下腹部痛を理解するのに参考になると思うので転載しておくが,太字にしたのは産婦人科学的に腹痛を解釈するのに役だつと考えたものである.

若い婦人の貧血

著者: 河北靖夫

ページ範囲:P.1510 - P.1512

若い婦人に特にみられる貧血
 婦人は月経,妊娠,分娩,授乳などによって,鉄を失うことが多いので,男性に比べて一般に鉄欠乏をきたしやすい.ことに若い婦人には、古くから思春期女子の萎黄病Chlorosisとして注目されているものを含めて,本態性低色素性貧血とよばれる鉄欠乏性貧血がよくみられる(図).また本貧血に比べると,はるかに少ないが,妊娠性巨赤芽球性貧血も,その発生頻度をみると,若い婦人に多い(表).

5.乳がん

乳がん早期発見のために

著者: 太中弘

ページ範囲:P.1512 - P.1515

乳がん発生の傾向
 昨今はがんに対するPRがゆきとどいたのと,乳がんは胃がんと異なって,直接表面から触れることができるので,患者自身が比較的早期に腫瘤を発見し,がんを心配して来院する女性が多くなったので,潰瘍を伴った晩期のもの(Steinthal III型)は少なくなったが,そのかわり若い女性まで正常の乳腺をがんと誤解したり,あるいは痛みがあるが,がんではないかと心配して来院する女性が多くなってきたので,その診断と治療にはよほど慎重でなくてはならない.とにかく,がんと確診した場合には当然乳房切断術が行なわれるので,患者にがんという病名をかくすことができない.この点が胃がんを胃潰瘍といって,患者をごまかし,一時を糊塗して安心感を与えることができるのと違い,医師にとっても家族にとっても立場が苦しい,そこで,あなたの場合はまだ早期で再発の心配がないからといって安心感をもたせるように心がけるべきであろう.

XVII.一般症状 1.発熱よりなにを考えるか

微熱

著者: 冨家崇雄

ページ範囲:P.1518 - P.1520

微熱の特異性
 「微熱」はいわゆる原因不明の発熱という状態の領域に属する,まことにやっかいな問題の1つである.
 「微熱」の特異性は次のように要約できるであろう.1)体温値としては38℃くらいまでを微熱として取り扱う立場もあるが,微熱問題の核心となる体温の範囲は,実際的には腋窩温で36.9-37.0℃から37.5-37.6℃くらいの間のものである.すなわち統計的な正常体温分布の範囲を含んでいる点が極めて特徴的である.2)さらにその原因が不明であるままに相当長期間微熱が継続するという特徴をもっている.3)患者が微熱に気づきこれを問題とするに至るのは,初めに何らかの病感があって体温を測定し,ついでその微熱範囲の体温が継続することに気づき不安におそわれる点に始まる.したがって原病を指示すべき決定的な訴えや症状は明らかではないが,患者は一種独特な不安感を示し,不定愁訴をもっている場合が多い.その主なものは全身あるいは四肢の倦怠感,易疲労性,頭重感や頭痛,なんとなく胸苦しい感じ,腹部不快感や食欲不振,肩こり,顔面や躯幹上半部のほてり感,四肢のほてり感や冷感などである.4)また原因が一応推定されたとしても,いわゆる科学的に万人を納得させるほどの確実性にいたらぬ場合が多い,5)一方原因が明らかにされた場合,最初は一番の関心事であった体温上昇はむしろ軽視されるにいたる傾向がある.

高熱が持続するとき

著者: 長谷川弥人

ページ範囲:P.1520 - P.1523

診断のつかないとき
 高熱が持続している患者を診て,診断がつかないとき,その理由は,1)診察が粗漏である.これには,既往歴,現病歴のとりかたも当然含まれる.つぎには2)必要な検査をやっていない.3)あるいは症状ないしは検査成績の判断が適正でない.つぎの理由は4)診断根拠を攪乱する不当な医療をやっている.すなわち下熱剤,抗生剤ならびに副腎皮質ステロイドホルモン(副ス)を濫投している.したがって高熱患者を診たとき,診断確定まで,このような薬剤の投与は絶対避くべきであるし,また投与中であったら即時中止すべきである.(ただし副スは漸減しないと危険を伴うことがある.)

微熱が長くつづくとき

著者: 吉植庄平

ページ範囲:P.1523 - P.1526

微熱の定義
 微熱の定義1)2)3)は人により若干異なってくる.しかし一応理解しやすくするため,腋窩温10分を行なって37-38℃の値をみとめたとき微熱とするのがよいかと思う.また脈拍が多い時には37-38°Cに入らぬ体温でも問題にする場合もある.

2.症状からなにを考えるか

原因不明の浮腫

著者: 鷹津正

ページ範囲:P.1527 - P.1529

 浮腫には全身性および局所性の2種がある.その成因には末梢血管においてStarlingの平衡を破る因子,すなわち細動脈および細静脈の毛細管に接する部の血圧,血液膠滲圧,組織圧などのほかに毛細管の透過性,さらに組織間腔液の静脈系に返るに必要なリンパ管の変化がある.全身性浮腫をきたすにはNaの蓄積を必要とする.以上の因子に影響を与える疾患は浮腫をきたしうるが,日常われわれが見るのは心疾患,腎疾患,肝疾患,低蛋白血症(以上全身性),アレルギー性浮腫,炎症,静脈血栓(以上局所性)などである.したがって原因不明の浮腫といえば以上の疾患群を除外したものとなる.以下日常の臨床において留意すべき事項について述べる.

いちじるしい体重減少の患者を診たとき

著者: 菅邦夫

ページ範囲:P.1529 - P.1531

診断の着手
 第1の問題は,特定の器質的疾患が伏在しているかどうかである.
 体重減少の速度や程度が一応の参考になりそうだが,質的な判断に必ずしも役だつものではない.

ばち指—その初期症状を見のがさないために

著者: 松木駿

ページ範囲:P.1531 - P.1532

ばち指と肥大性骨関節症
 ばち指の存在はすでにHippocratesの時代から知られているが,これを肥大性骨関節症という概念でまとめたのは1890年ころのMarieとBam-bergerで,本症を別名Marie-Bamberger症候群という.ばち指のない本症も報告されているが,それは全く例外的のものであって,木症はばち指から発見されるとしてさしつかえない.本症の骨変化は骨新生をともなう増殖性骨膜炎の所見で,レ線像で骨膜肥厚,新骨の出現,新骨が融合すると骨幹横径増加として証明される.本症に特徴的なのは,この骨変化が長骨の末端部,特に腱付着部に起こりやすいことで,脛骨,腓骨,橈骨,尺骨,中指骨,中足骨に多い.本症の関節変化は腕関節,足関節,膝関節に起こりやすく,関節部の腫張,浮腫,時に関節液貯溜があり,重圧感から疼痛までの自覚症を訴えるが,本症の関節症状は特徴的でないので,しばしば関節ロイマと誤診される.ばち指の外にこれらの骨,関節の変化がそろうと定型的本症であるが,ばち指以外に変化のみられない症例も少なくない、それについては,ばち指だけでもやがて骨,関節の変化を呈するから本症であるという考えと,ばち指だけで決して本症に進展しない単純性ばち指(simple clubbing)と本症は区別されるという考えとがあるが,ばち指を発見すればやはり本症を疑うべきであろう.

嗄声

著者: 河盛勇造

ページ範囲:P.1532 - P.1537

はじめに
 嗄声を訴える患者には,ピンからキリまである.簡単なカゼひきでも,声がかれるわけで,こんな例は医者のもとに来るまでもなく,すんでしまっている場合もあろう.
 同じく医者を訪ねてくるにしても,内科医のこともあるし,耳鼻科医へ行くこともある.

鼻出血

著者: 松岡松三

ページ範囲:P.1535 - P.1536

 鼻出血には症候性に起こるものと特発性に起こるものとがあり,症候性のものには局所的原因によるものと,全身的原因によるものとがある.局所的原因によるものは耳鼻科の疾患として扱われ,悪性腫瘍,出血性鼻茸,鼻ジフテリアなどがあるが,これらは局所の所見から診断は容易である.全身的疾患の1つの随伴症状として現われる場合には反復する鼻出血によって全身的の疾患が発見されることが少なくないので,はなはだ重要な症状である.

心窩部痛

著者: 五十嵐正男

ページ範囲:P.1537 - P.1540

 心窩部痛を訴えて外来を訪れる患者は非常に多く,腹痛患者の約70%は心窩部痛を訴えるといわれている.
 この心窩部痛をきたす原因には非常に多くのものがあり,緊急に外科手術を要するものから放置しておいてよいものまである.

下腹部痛

著者: 澤田藤一郎

ページ範囲:P.1540 - P.1542

もっとも大事なのは,デファンスの有無
 下腹部の疼痛がある場合に診断にもっとも大事なことは局所の圧痛とデファンスミュスキュレールであると思う.ことにデファンスはごく軽い場合があり,これを発見すれば病竃の見当がつくので,私はいつでもよく注意してこの発見につとめる.人が診断に迷っておるときに軽いがデファンスの所在を発見し,それからすらすらと診断をつけられる場合がかなり多い.この存否,場所を知るためには私はいつも慎重にかまえる.
 患者を仰臥位に寝させ,両膝を十分に立てさせ,そして患者に十分に腹壁を弛緩させる.バンドをはずし,ボタンを全部はずさせる.紐はもちろんよくゆるめさせ,下腹部を全部露出させる.これをいい加減にしていたり,何でもないのに恥しがって手で邪魔だてするようではうまくゆかない.心を平静にさせ,十分に弛緩させる.腹壁反射の強い人があり,腹壁を堅くして触診がまったくできなくて困る場合がある.いずれにしても弛緩させた腹壁に検者の手を平らに腹壁を刺激しないように置き,手を移動させてデファンスの有無を検する.右と左,上と下と対照の部と比較して,軽いデファンスでも落とさないように十分に気をつけることが一つの診断のこつである.デファンスがある場所の内部に病竃が潜んでいることが多く,この局所的のデファンスに気がつけば,ほっと安心する.

腹部膨満を訴える患者

著者: 三浦洋

ページ範囲:P.1542 - P.1544

 腹部膨満を訴える患者のうちには,消化管穿孔や,急性イレウスなど緊急手術を要するものから,腹部内臓の良性または悪性腫瘍のように正しい診断にもとづき,手術により初めて根治しうるもの,また胃腸アトニー症のごとく単に機能的な障害に起因するもので,多少診断が遅れても生命に関する問題の起こらないものまであり,これほど千差万別のものは少ないと考えられる.
 このように腹部膨満という症状は程度の差こそあれ,腹部内臓疾患ほとんどすべてに広く現われるものであって,この意味からいえば,そのような症状を訴える患者の診断のポイントということになれば,腹部内臓疾患をどのようにうまく鑑別するかということにあると考える.ここでは読者の大部分が臨床医家であると考えるので,実際的な見地に立ってごく臨床的なことがらについて私、の診断の進めかたを述べることにする.

3.かゆみの診かた

全身のかゆみ

著者: 伊崎正勝

ページ範囲:P.1544 - P.1546

かゆみの発生部位
 かゆみは,湿疹あるいは蕁麻疹のときに見られるように,皮疹の随伴症として自覚されるのが普通であるが,ときにはなんらの原発性皮疹の発生なしに起きることがある.後者の場合のように,原発性の皮疹を欠いて"かゆみ"のみを訴える病状を皮膚掻痒症といい,これには全身ないしは広い範囲にわたって汎発する場合と,陰部・肛門部のような部位に限局して発生する場合とがある.本欄で与えられた課題は"全身のかゆみ"であるので,ここに,皮膚掻痒症とくにその汎発性のものを中心として,記すこととする.

内科医のための発疹のみかた

著者: 柳下徳雄

ページ範囲:P.1547 - P.1549

 発疹性疾患の診断は,むずかしいといわれる方が多いが,ごもっともなことである.
 同一疾患の発疹でも症例によって,ようすがかなり違うことがあり,また,発疹の特徴をつかむということ自体に,絵を言葉で説明するようなむずかしさがある.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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