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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科1巻3号

1973年09月発行

雑誌目次

脳神経外科の進歩に思う

著者: 橋場輝芳

ページ範囲:P.181 - P.182

 昭和23年に名古屋大学の故斎藤教授の音頭で中田教授(新潟大),故桂教授(東北大),荒木教授(京都大),清水教授(東大),竹林教授(当時阪大助教授)の方々が脳神経外科研究会を発足させたのが日本における脳神経外科の学会活動の嚆矢であった.
 その後昭和26年7回目に到ってこれを日本脳神経外科学会と名称を改めた.そしてこの学会が日本医学会の分科会として正式に認められたのは昭和32年16回目である.本年秋福岡市で開催される日本脳神経外科学会は32回目になる.また,4年に1度の国際脳神経外科学会もその5回目を本年10月東京都において開催されることになっている.

総説

後頭蓋窩腫瘍の血管造影—小脳とその腫瘍の読影

著者: 久留裕

ページ範囲:P.183 - P.192

 椎骨動脈撮影(以下VAGと略する)に関する最近の多数の研究報告,なかでもHuangらの静脈像の研究1,2,9,11-15,20-23)によって後頭蓋窩の占位性病変の診断は非常に洗練されたものになって来ている.血管撮影と平行して,気脳撮影(PEG)の診断の方も断層を利用することによって,これもまた精密な診断法として発展してきた3-6)
 VAGの診断は頸動脈撮影(CAG)の診断と同じように,占位性病変の解明に最大の威力を発揮することができる.後頭蓋窩の全体の容積から考えても,後頭蓋窩病変では天幕上病変よりも遙かに小さなサイズの変化を問題にしなければならない.

手術手技

椎骨脳底動脈瘤の手術

著者: 佐野圭司

ページ範囲:P.193 - P.199

 椎骨脳底動脈瘤vertebro-basilar aneurysmsは全動脈瘤の8-10%をしめ,けっしてまれなものではない.しかも,病理学教室や監察医務院などの統計ではこれはもっと頻度が高くなる.急死することが多く,死因に疑問がもたれることが多いからであろう.
 この直接手術の手技はおそらく脳神経外科手術のなかでももっともむずかしいものに属するであろう。

境界領域

腫瘍免疫研究の問題点—腫瘍抗原と免疫監視機構・2

著者: 西岡久寿弥

ページ範囲:P.201 - P.207

Ⅴ.細胞性因子と体液性の因子
 免疫学的に未成熟な胎仔,新生仔,あるいは人工的に免疫機構を破壊した宿主にのみ高率に発がん性ウイルスで癌発生の実験が成功する事実,あるいはヒトの免疫不全疾患であるWiscott-Aldrich症候群,Ataxia-teleangectasia,Bruton型無ガンマグロブリン症などに高率に悪性腫瘍が発生し,さらに腎移殖をうけて,免疫抑制をうけた患者に悪性腫瘍が多発する事実は,動物,ヒトのがんの抑制に免疫監視機構が重要な役割を果していることを示すものである.
 前述した免疫監視機構にあずかる宿主側の要因としての細胞性の因子として,感作リンパ球との特異な反応の結果誘発されてくるeffector mole-culesを列挙した(表1).これは抗原と感作リンパ球との特異的な反応に基づいて,これらの活性発現因子がeffector moleculesとして作用して右欄に示す活性をあらわす.現象の追究から細胞免疫に関与する実体がようやく明らかにされつつある.

研究

サル脳腫瘍の実験的研究

著者: 西田和男 ,   熊西敏郎 ,   生田房弘 ,   植木幸明

ページ範囲:P.209 - P.217

 ヒト脳腫瘍の研究のモデルとして,実験的に動物の脳に腫瘍を形成する試みは化学発癌剤7,16,19,45),ウイルス11,36,43)などを用いて数多く行なわれてきている.しかし脳腫瘍形成の報告の大部分は,小動物に限られており,大動物特に成熟動物を用いた脳腫瘍の研究は少ない.できるだけヒトに近い成熟哺乳大動物に実験的脳腫瘍の形成が可能となれば,ヒト脳腫瘍の病理学的,生化学的そして臨床的研究のモデルとしての価値があり,それが成熟期動物でも可能であれば新生児動物にくらべて入手取扱いがきわめて容易な点から,実用的意義も加わるものと考えられる.
 以上の理由から我々はその宿主スペクトルムの広いことで知られるRous Sarcoma Virus37)のSchmidt-Ruppin株(SR-RSV)を用いて成熟サルの脳腫瘍の研究をつづけてきたが,その一部はすでに報告した25,29).本稿では,SR-RSVにより形成されたサル脳腫瘍の病理学的,生化学的,免疫学的特徴や臨床的検索手技の有用性などを報告するとともに従来行なわれてきたサル脳腫瘍研究について文献的考察を試みた.

脳腫瘍の免疫学的診断

著者: 高倉公朋 ,   ,   佐野圭司 ,   小林富二男 ,   江田淳二

ページ範囲:P.219 - P.224

 脳腫瘍の免疫学的研究は,すでに1936年,Sirisがglioblastoma組織のアルコール抽出成分を抗原とし,兎に注射して抗体を作った研究12)にはじまる半世紀におよぶ永い歴史を持っているが,多くの研究者の努力にもかかわらず,脳腫瘍の特異抗原を見出すことはきわめてむずかしい問題であった.最近の脳腫瘍特異抗原の分析に関する研究を見ると,その研究方法は本質的には半世紀前と変わりがないが,2つの点で明らかな進歩が認められる.抗原,抗体の分析法の精度が著しく高くなったことと,腫瘍からの抗原物質の精製法がより発達したことである.Mahaley,Dayらは抗原としてgliomaのhomo-genateをそのまま用いて兎に抗体を作り,正常組織で吸収したのちに,抗原抗体complexを作り,これから抗原を再分離する方法で特異抗原を抽出した.この方法によれば特異抗原に対する抗体は全抗体globulinの0.05%で,これを更に精製するとわずかに0.0002%が得られるにすぎないと報告している6).このように微量な特異抗原の検出は最近の免疫学的分析方法を用いなければ果し得なかった結果である.抗原の精製に関してはglia細胞に多い10B蛋白質(Bogoch2))をカラムクロマトグラフィーにより抽出して,これに対する抗体を作り,astrocyteに特異的な抗原蛋白質(astroprotein)を見出した森,Benda,Sweetの業績1,7,8)が発表されている.

Pallido-subthalamic fiberの機能

著者: 坪川孝志 ,   森安信雄 ,  

ページ範囲:P.225 - P.233

 Ⅰ.緒言1920年代に,Jakob12),Martin15),Von Santha29),Matzdorff16),などによる臨床病理的検索結果より,Subthalamic nucleus(Luys)の障害によりhemiballismが発生することが明らかにされ,以来この核と線維結合を有する基底核との関係が検討されてきた.1929年にはPalnarら18)はSubthalamic nucleusが運動時の筋緊張を維持し,淡蒼球は安静時の筋緊張を維持していると報告し,不随意運動の発症に際しての両者の関係が注目されてきた.
 Subthalamic nucleusより淡蒼球への線維は淡蒼球の内側部に終わり(Whittierら32), Carpenterら3,5,6)),一方淡蒼球よりSubthalamic nucleusにいたる線維は,Ransonら19)の研究により,淡蒼球外側部を起始核としていることが明らかとなった.最近にいたりNautaらJohnsonら13), Carpenterら6)は淡蒼球外側部より出た線維がSubthalamic nucleusにいたる経路はansa lenticularisやlenticular fasciculusなどと,走行を別にしていることも明らかにした.ところが,錐体外路系の主要経路ともいえるこのPallido-Subthalamic fiberの機能は明確でなく,多くの問題を残している.

脳静脈異常に関する研究・Ⅱ—頭蓋内異常静脈網(cerebral venous dysgenesis)と他の頭蓋内静脈異常との比較検討

著者: 加川瑞夫 ,   篠原豊明 ,   小川信子 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.235 - P.240

Ⅰ.緒言
 著者らは知能発育遅延,痙攣発作を主徴とする幼小児の中に,頭蓋内異常静脈網をみいだし,かりにcerebralvenous dysgenesisと名づけて報告した1).この頭蓋内異常静脈網の成因についてはいまだ不明な点が少なくない.とくに先天的な病変であるか,後天的に続発したものであるかについても議論のあるところである.しかしながら著者らは頭蓋内静脈の発生過程を詳細に検討することにより,胎生期脳静脈の発生異常あるいは胎生期静脈の遺残によるものであるとの立場を採っている.本論文ではこれら頭蓋内異常静脈網を示す19例を中心に,類似疾患との鑑別について検討を加えてみたい.
 頭蓋内静脈異常,とくに異常静脈網を示す疾患はきわめて少ない.著者らのcefebral venous dysgenesisと類似の疾患はとくに少なく,頭蓋内静脈洞閉塞およびPotter's leptomeningeal hemangiectasis4)があげられるに過ぎない.本稿では頭蓋内異常静脈網を中心に類似の他疾患とに形態学的,症候学的比較検討を行ない,著者らのいわゆる頭蓋内異常静脈網の病態について少しく論じてみたいと考える.

クモ膜下出血後のCSF dynamicsとnormal pressure hydrocephalus

著者: 鈴木健二 ,   石光宏 ,   中山博雅 ,   松本皓 ,   西本詮

ページ範囲:P.241 - P.249

 クモ膜下出血後に脳室拡大の発生をみることは,1928年Bagleyら2)が初めて報告して以来,実験的および臨床的に多くの報告がなされてきた.このような脳室拡大を有する症例中には,歩行障害,精神障害および尿失禁などの特異的臨床症状有し,髄液圧は180mmH2O以下の正常範囲にあるにもかかわらず,髄液誘導術により症状の改善がえられるものがあり,これをHakim & Adamsら7)は1965年に初めてnormal pressure hydro-cephalus(以下NPHと略す)とよんでいる.本症の補助診断法として,近年もっぱらRI-cisternographyが試みられているが,最近になってRI-cisternographyの所見のみからでは,髄液誘導術の効果が必ずしも予測できない場合もあることが指摘されるようになり,NPHの発症機序,診断基準,手術適応などに関し,再検討が加えられつつある.私どもは,今回,クモ膜下出血後に起こるNPHの発症機序について,臨床例および動物実験により若干の検討を加えたので報告する.

症例

クモ膜下出血を繰返した頭蓋底の巨大な骨軟骨腫(osteochondroma)の1例

著者: 中尾召三 ,   高岡義行 ,   渡辺学

ページ範囲:P.251 - P.257

 頭蓋内軟骨腫または骨軟骨腫はかなり稀な疾患である.本邦では最近数年間に相次いでその報告例をみるようになったが,現在まで文献上10数例を数えるに過ぎない,頭蓋底部なかでも傍正中部はこれらの腫瘍の好発部であり,腫瘍存在部位に一致する脳神経症状あるいは周囲神経組織への圧迫症状で発症経過することが多い.
 われわれは最近,クモ膜下出血と右動眼神経麻痺をもって発症し,その後もクモ膜下出血を繰返して,左動眼神経および左半身麻痺をきたし,またその経過中,比較的短期間に特徴的な石灰化像の発生した頭蓋底の巨大なosteochondromaの1例を経験したので,これに若干の文献的考察を加えて報告する.

松果体部腫瘍に対するテント下到達法の1手術例

著者: 益沢秀明 ,   種村孝 ,   上条裕朗 ,   青木信彦 ,   湯建治

ページ範囲:P.259 - P.263

 松果体部腫瘍に対する直達手術法はDandy1)以来種々の方法が考案され,本邦においても鈴木2),佐野3)らの報告がある.しかし,これらのほとんどは後頭開頭法であり,脳梁の切開,小脳テントの切開などを要し,腫瘍部に到達しても,Galenをはじめとする深部静脈系にわざわいされることが多い,一方,1926年Krause4)は四丘体部に対する後頭下開頭・テント下到達法を発表し,1971年Stein5)は松果体部腫瘍6例にKrauseの術式を適用し,これをinfratentorial supracerebellar approachと命名し,安全でかつ術後のmorbidityも少ないと報告した(Fig.1).著者らは松果体部腫瘍の一例にSteinの方法を施行したので,その経験を報告し,あわせて手術手技について触れる.

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日本脳神経外科学会事務局ニュース

著者: 松本悟

ページ範囲:P.264 - P.265

 本年秋,わが国において国際脳神経外科学会にひきつづき,脳神経外科に関連深い多数の学会が開催されます.本号では,国際小児神経学会,国際定位脳手術研究会,Symposium Microneurosurgeryの3つを採り上げ,紹介します.

キーワード基準例

著者: 編集部

ページ範囲:P.266 - P.266

 本誌ではキーワードの統一のために下記の基準例を設けました.投稿されるかたはこれを中心にキーワードをおつけ下さい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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