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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科1巻4号

1973年10月発行

雑誌目次

若さには可能性がある

著者: 鈴木二郎

ページ範囲:P.273 - P.274

 私は勿論若い,一声強がりをいわせて頂いてから筆を執ることにする.
 脳神経外科の父,Harvey W.Cushingは,1900年の6月23日,父からの銀行信用状と,師の同僚Johns Hopkinsの初代病理学教授W.H.WelchからのHorsleyへの紹介状を持ってヨーロッパの旅に出発した.32歳の血気に盗れた青年外科医であった.彼はその頃,脳神経外科に興味を持ってはいたものの,師A.E.Halsteadの反対もあり,脳神経外科だけを専門にこれからの医学の道を進むという決心はまだついてはいなかった.

総説

術後管理—副腎皮質ホルモンと術後代謝の動向を中心として

著者: 松角康彦 ,   原田幹雄

ページ範囲:P.275 - P.285

 脳神経外科手術の術後管理で,他の領域の手術と比較して特殊なものをあげるとすれば,まず第一に頭蓋内圧充進に対する処置であろう.そのほかこの問題を中心として派生的に現われる呼吸管理や血液ガス代謝,酸・塩基平衡の変動など,最近の研究に負うところが大きい.また脳障害に特異的な現象として,意識障害,失語症などのためにcommunicationが欠除した患者の処置,さらには神経学的な機能の回復をはかり,片麻痺にrehabilitationを施すなど,特徴的な術後管理といえる.
 後出血の問題や術後感染症,創傷治癒など脳神経外科に限らず,各種外科手術に共通した話題であるが,栄養・輸液の術後指示には各科と共通した考えと,脳神経外科手術に特異的な注意すべき問題点とが,混じり合って,特に視床下部—下垂体系の手術後管理には,独特の対策を要求される.

手術手技

頭蓋咽頭腫の手術

著者: 松本悟

ページ範囲:P.287 - P.294

 脳下垂体前葉原基は,咽頭部土皮組織由来と云われているが,胎生期,脳下垂体の正常な発育にともない,同部に遊離した咽頭部上皮組織は,自然消滅あるいは島状に痕跡化する.後者の場合,この扁平上皮集団は,脳下垂体柄前域,および漏斗部に著明で,ついで柄後域,あるいは柄に接する前葉上面にみとめられる.
 この残存扁平上皮集団が原基となり,腫瘍化するとき,これをCraniopharyngioma,あるいは脳下垂体道腫瘍と呼ばれ,以上の理由から,本腫瘍は主として,脳下垂体柄前域,漏斗部を中心に周辺組織を圧迫することが多い.

研究

下垂体腺腫のホルモン分泌

著者: 景山直樹 ,   小林達也 ,   吉田純 ,   浅井尭彦 ,   米沢猛 ,   辻靖弘

ページ範囲:P.295 - P.309

 従来から下垂体腺腫は通常3種類に分類されてきた.すなわち酸嗜好性腺腫(eosinophile adenoma),塩基嗜好性腺腫(basophile adenoma)および嫌色素性腺腫(chromophobe adenoma)である.この分類法はCushing以来長く用いられてきた.そしてeosinophile腺腫は主として成長ホルモンを過剰に分泌する腺腫であり,basophile腺腫は副腎皮質ホルモンが過剰に分泌される際に反応性に下垂体に生ずる腺腫と理解されるようになった.そしてchromophobe腺腫はなんらホルモンを分泌せぬ細胞からなり,それが下垂体を破壊するために,患者は下垂体機能の全般的な低下を来たすと理解されてきた.しかし電子顕微鏡的観察が正常下垂体前葉および下垂体腺腫に行なわれるようになってから,その様相は著しく変わってきた.
 まず各種動物下垂体の電子顕微鏡的観察により,正常下重体前葉には電子顕微鏡的に分泌顆粒を全く持たない細胞はごく稀にしか存在しないことが明らかとなってきた.更に1962年Schelin21)は13例のchromoPhobe腺腫と10例のacromegalyの患者の腺腫を電子顕微鏡的に詳細に観察しeosinophile腺腫には300mμ直径平均の分泌顆粒が豊富に認められ,chromophobe腺腫には100mμ直径平均のものを含むものと,300mμ直径前後のものを少量含むものとがあると発表した.

Glioblastoma MultiformeにおけるBAR療法効果の形態学的評価への試み

著者: 久保長生 ,   沖野光彦 ,   上条裕朗 ,   浜田博文 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.311 - P.318

I.緒言
 悪性脳腫瘍の中でもっとも頻度が高く,かつもっとも悪性であるglioblastoma multiformeに対する治療法は現在,脳神経外科領域において重要な問題の一つである.現在の治療法では,術後生存率でみると,1年以内に80-90%が死亡し,5年以上生存する例はごくまれである,このため,いろいろの補助療法が考えられ,開発され,臨床上に使用されているが,満足な効果が得られているとはいえない.1965年来,佐野1,2),星野3)らによって開発されたBAR療法は,腫瘍の放射線感受性を増強する方法の一つとして注目されるべき補助療法である.われわれは当脳神経外科開設以来,悪性膠腫24例に対してBUdRの動脈内投与,あるいは髄腔内投与によるBAR療法をしてきた.BAR療法の効果については,1971年,佐野,永井4)らによって総括的な報告がなされているが,その組織像の変化については,佐野4),吉岡5)らによる光学顕微鏡レベルでの報告にかぎられている.今回,われわれはglioblastoma multiforme5例について,BAR療法前後の光学顕微鏡レベルでの組織像の比較を,またその内,2例とコントロール1例では,BAR療法前後に電子顕微鏡学的検索を施行し,その形態学的変化に若干の知見を得たので文献的考察を加えて報告する(Table1).

中脳中心灰白質近傍網様体における細胞単一発射の研究—末梢刺激に対する網様体の反応と大脳皮質によるモデュレーション

著者: 天野惠市 ,   佐野圭司

ページ範囲:P.319 - P.327

 痛みを含めてnoxiousな感覚入力を伝えるC及びAδ線維の脳幹網様体における神経生理学的研究に関しては1950年代から1960年代にわたるCollins8,9)らの業績をその嚆矢とし,痛覚を伝える主体は少くとも延髄より上位では,古典的な外側脊髄視床路ではなく,脳幹網様体の中に存在することを示してこの方面でのその後の研究に決定的な影響を及ぼしたことは周知の通りである.
 我々はこのC及びAδ線維の集積点の一つである中脳中心灰白質近傍網様体18)における細胞単一発射を観察した.大脳皮質の選択的局所冷却を用いることにより,大脳皮質体性感覚領がネコの中脳網様体(Midbrain Reticular Formation,以下MRFと略す)に対し皮質遠心性制禦を有することが示され1),末梢感覚入力からの上行性及び大脳皮質からの下行性経路において各々の交叉性,非交叉性に関し特異なパタンが存在する.本稿ではネコの上丘の高さでの中脳中心灰白質近傍網様体にタングステン微小電極を刺入して記録した細胞単一発射の自然発火活動と誘発発射の観察を報告する.

Hemiballismに対する定位脳手術—Lateral Pallidotomy

著者: 坪川孝志 ,   中村三郎 ,   宮上光祐 ,   王増富 ,   小谷昭夫 ,   森安信雄

ページ範囲:P.329 - P.335

I.緒言
 Hyperkinesiaに対する定位脳手術の標的は,淡蒼球の内側部が選らばれてきたが(Cooperら6),楢林15)ら).1960年以来,視床腹外側核破壊法にかわり,最近ではMundingerら13,14)は,視床腹外側核破壊に視床下野の破壊を合併して治療している.Ballismはsubthalamic nucleusの障害によって発生する激しい不随意運動症で(Jakob8),Martin10),Matzdoroff11),Whittierら27)),淡蒼球視床系の興奮路が,subthalamic nucleusが健全なときにもっていた錐体外路性の運動の抑制効果より解放されるために,促進され異常運動を発現させると考えられる実験的事実(Carpenterら3,4),Yoshidaら26,27),Rallら16))があるので,淡蒼球内側部ないしは視床腹外側核の破壊は,ballismにも有効とされてきたのである.しかし,Mundingerら14)の視床および視床下野合併破壊による治療成績をみると,11例中4例(36%)に有効であったのみで,18%の例ではむしろ悪化しているのである.
 淡蒼球内側へのsubthalamic nucleusよりの求心系の障害によって淡蒼球の細胞の抑制が除去され,淡蒼球視床系が興奮してballismが発生するとすれば,従来の内側部破壊,視床外側核破壊がballismに対して有効であるべきであろう.

Microsurgeryを応用したSpondylotic Vertebral Artery Insufficiencyの手術法—手術手技についての最近の進歩と25例の術後遠隔成績について

著者: 長島親男

ページ範囲:P.337 - P.344

 頸部脊椎症による椎骨動脈不全(Spondylotic vertebral artery insufficiency)の手術法には,いろいろの方法がある1-10).1967年,著者は独自に屍体を用いて,これらの手術法について検討した結果,すでに発表した《Uncectomy, unroofing of transverse foramen, and periarterial denervation (stripping)》が,本症の手術方法としてもっとも合理的であることを知った.この方法を1969年脳と神経9)に,1970年Journal of Neurosurgeryに発表したが10),1967年当時の初期の頃には,MicrosurgeryもHall Air Drillも用いていなかった.しかし,最近ではMicrosurgeryを応用することによって,深部のこまかい操作が,安全にしかも確実に行なえるようになり,この手術法も若干進歩したように思う.ここに,その後の改良と進歩を中心に,現在著者が行なっている手術方法を述べてみたい.なお,本法はYear Book197111)とAir Instrument Surgery VoL.112)に紹介されているが,Air Igstrument Surgeryでは,図が少し正確でないところがあるので,この際,訂正する意味でHall Air Drillを使った本手術法の図を作成した.

微小血管吻合(Microvascular anastomosis)の実際

著者: 米川泰弘 ,   Yaşargil ,   半田肇

ページ範囲:P.345 - P.351

 近年Microsurgeryが発達し,脳神経外科領域でも広く応用され,脳動脈瘤,脳・脊髄動静脈奇形,脳腫瘍,脊髄腫瘍の手術に新しい時代を迎えたのは周知のとおりである.Microsurgeryがとくに必要とされる分野に,微小血管(とくに直径1mm前後)のanastomosisがある.これは脳神経外科医が是非とも身につけておかねばならぬtechniqueの一つである.これにより浅側頭動脈—中大脳動脈皮質枝吻合(Yasargil1)),脳表主動脈のthromboembolectomyおよび脳動脈瘤あるいは外傷,腫瘍手術の際の不時の血管損傷の克服が可能となる.またこのtechniqueを神経縫合にも応用することができる.吻合手術後の成績を向上させるについては,練習につぐ練習がぜひとも必要である.この論文の目的は,著者が得た経験の中からmicrovascular anastomosisの種々のtechniqueの眼目を紹介し,さらにそれに伴う問題点を明らかにすることである.

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第7回日本脳神経外科学会認定医認定試験合格者名一覧

ページ範囲:P.294 - P.294

 第7回日本脳神経外科学会認定医認定試験は,去る7月29・30日の両日に行なわれた.本年度の受験者は108名,合格者は79名で,欠席1名を除くと合格率は74%となる.これで我国の脳神経外科認定医の総数は515名となった.本年度の合格者の認定番号と氏名は以下の通りである(数字は認定番号).

日本脳神経外科学会事務局ニュース

著者: 北村勝俊

ページ範囲:P.352 - P.353

SYMPOSIUM ON RECENT ADVANCES IN DIAGNOSTIC NEURORADIOLOGY
 この会は東京で行なわれる第5回国際脳神経外科学会の関連学会として,10月17日,福岡市西鉄グランドホテルで開催される.
 神経放射線診断は脳神経外科の臨床には不可欠であり,近年著しい進歩を示している領域である.この会では神経放射線学の専門家と脳神経外科医とが自由に意見の交換ができ,治療の直接の担い手である脳神経外科医が大きな収獲を得ることができるであろうことを念願して,全体の計画を試みた.

キーワード基準例

著者: 編集部

ページ範囲:P.355 - P.355

 本誌ではキーワードの統一のために下記の基準例を設けました.投稿されるかたはこれを中心にキーワードをおつけ下さい.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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