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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科1巻5号

1973年11月発行

雑誌目次

急がず,足もとをみつめ,ふりかえること

著者: 植木幸明

ページ範囲:P.361 - P.362

 脳神経外科の臨床は忙がしい.次から次と患者が入院してくる.検査をほどこし診断し手術をし,そしてその患者は退院してゆく.その間に外傷患者が運びこまれる.かけつけて診察し,直ちに必要な検査をほどこし,手術を行い,あるいはICUへ移す.こうゆう生活が毎日続くのである.習い性となる.兎に角前をみ,前をみての生活の続きである.ゆっくりふりかえることがなかなかできがたい.自分が手術をした患者の1例1例の経過を長くfollow upする余裕をともすれば持ちがたい.しかしだからといってそれで決してよいわけではない.真の臨床は,殊に脳の手術にかかわる脳神経外科は,慎重にfollow upしてこそ評価ができるのであって,術後の暫くの間の経過をみただけでは到底手術の評価の判断にはならない.
 いろいろな手術の工夫を試みる.それがどうも調子がよいように思う.これこそその方法だと思いがちである,しかしこうゆう時にこそ最も慎重にfollow upを続けてゆくべきであろう.従来の方法との比較も決して簡単ではない.

総説

下垂体腫瘍の病理

著者: 景山直樹

ページ範囲:P.363 - P.372

1.下垂体腺腫の病理
 下垂体腺腫の分類には従来から1)腺腫組織の構築像による分類(瀰漫性型,巣状配列型および乳嘴状配列型),2) anaplasiaの存否による悪性型,良性型の分類(腺腫ならびに腺癌)および3)細胞内顆粒の染色性による分類(好酸性腺腫,好塩基性腺腫ならびに嫌色素性腺腫)などがあった.

手術手技

経蝶形骨洞下垂体手術

著者: 松村浩

ページ範囲:P.375 - P.384

Ⅰ.はじめに
 Sellar regionのtumorに対するapproachとしては,(1)通常のsubfrontal routeをとり両側のoptic nerveの間からapproachする方法,(2)frontal baseの後寄りをSylvian fissureに沿ってlateralから入りoptic nerveとinternal carotid arteryとの間,およびinternal carotidarteryとoculomotor nerveとの間からtumorに到達する方法,(3)1910年のHirsch10)によって創めて記載され,Cushing1)によって受けつがれ,更に最近Hardy8,9)によって著しい改良を見たtranssphenoidal apProachの3つに大別されよう.最も最近Rand15)はtransfrontal transsphenoidal approachを発表したがこれはsubfrontal approachのmodificationと考えてよいであろう.

境界領域

視床下部,下垂体の内分泌・1

著者: 井林博

ページ範囲:P.385 - P.395

Ⅰ.はじめに
 江橋節郎教授(東大薬理学)は「20世紀の科学発展の歴史を顧みると,その前半は物理学Physicsによって代表され,20世紀後半はまさしく生物学Biologyの進展によって象徴される.」と述べておられる.Biologyの一分野である内分泌学は第2次大戦後,おもに英米の研究グループによって澎湃として興った比較的歴史の若い研究分野である.この間生化学領域の急速な進歩と各種測定機器の開発,改良を背景として行なわれた内分泌学の基礎研究の成果を基盤に,近代臨床内分泌学が育成されたわけである.
 しかし,現在に到る臨床内分泌学進歩の歴史をふり返ると,それは多くの試行錯誤を辿った血中や尿中など生体試料中ホルモンの微量定量法の考案開発の歴史でもあり,またこれに大きく依存してきたということができよう.しかし1959年Bers0n,Yalow1)らの画期的な創意考案によって開発された血中insulinのradioimmunoassay(以下RIAと略す)は,その後引続き同じ原理を応用して各種peptide hormoneやステロイドホルモン,甲状腺ホルモンなどのRIAや,一方competitive protein binding radioassay,さらにradioreceptorassayなどの超微量定量法の確立への道を拓いた.

研究

脳静脈異常に関する研究・Ⅲ—Persistent emissary veinを合併せる脳静脈奇型

著者: 加川瑞夫 ,   川畠弘子 ,   橋本卓雄 ,   篠原豊明 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.397 - P.402

Ⅰ.はじめに
 頭皮に認められる血管奇形は必ずしも少なくない.なかでもAVM, sinus pericranii等に関しては報告が多い.しかしながら頭皮静脈系の病変であるpersistent emissary veinに関する記載は少なく,とくに頭蓋内静脈および静脈洞系の異常を合併した症例はきわめてまれである.著者らはpersistent emissary veinに頭蓋内静脈および静脈洞の奇形,および顔面,四肢にvenous angiomaを合併する稀有なる症例を経験した.
 著者らは頭蓋内静脈病変を先天性病変と後天性病変に分け,まず先天性頭蓋内静脈奇形に関して一連の報告をしてきた.その頭蓋内病変を発生学的な立揚から幼若静脈系の遺残あるいは発生途上のある段階での停止,および停止状態の存続がもっとも重要な機転であることを示唆してきた。本症例は頭蓋内静脈および静脈洞病変がいかなるstageにおいて発生したかを知る上にきわめて重要な示唆を与えてくれると同時に,頭蓋外静脈奇形との関連性を云々する上にきわめて重要な症例であると思われる.さらに全身に同様な静脈病変の合併をみることから,一つのsystemicな静脈の先天性病変を考慮しなければならないと考えられる.本論文ではpersistent emissary veinと頭蓋内静脈および静脈洞の奇形の合併を認める症例を中心に,頭蓋内静脈奇形の発生機転に少しく考察を加えてみたい.

小脳出血のX線診断—13症例の分析

著者: 山口昻一 ,   伊藤善太郎 ,   上村和夫 ,   小嶋俊一 ,   深沢仁

ページ範囲:P.403 - P.412

はじめに
 小脳出血は高血圧性脳出血全体の約10%を占める2,4,5,20,21,24).小脳出血は臨床症状から診断を確定することが困難とされ3,5,21-23),この点で脳血管撮影や脳脊髄腔撮影などX線診断の果たすべき役割が重要といえる.小脳出血の症例分析を報告するものの中にはX線診断の問題を取りあげてあっても,X線診断を主題にしたものはみられない.取りあげられているX線診断の内容では,椎骨動脈撮影よりむしろ脳脊髄腔造影の診断的価値を強調する傾向が認められる20,21)
 近年,後頭蓋窩の動,静脈のX線解剖に関する知見が多く発表され6-15,17,19,25,27-29,31),従来,気脳,脳室撮影が必要と考えられていた後頭蓋窩の病変も椎骨動脈撮影で診断を確定することが可能となって来ている.こうした診断法の変遷がある現状をふまえて,小脳出血におけるX線診断の意義や問題点を,私共が最近までに経験した症例を対象に検討してみた.

重症脳外傷患者における髄液PO2の変動とその測定意義—1.動脈血PO2,PCO2との関連について

著者: 桂田菊嗣 ,   小川道雄 ,   南卓男

ページ範囲:P.413 - P.419

Ⅰ.はじめに
 重症脳外傷患者の診断と治療にさらに向上をもたらせるためには,脳循環代謝の面から新しいアプローチを加えることが是非とも必要と考えられる.臨床研究という点では制約されるところが多いが,われわれは比較的試料の得られやすい内頸静脈血や髄液を用いてその面からいくつかの成果を報告してきた17-18,19).今回の報告は,重症脳外傷患者について測定した髄液PO2(酸素分圧)に関する研究である.
 髄液PO2は一般に脳のavailable oxygenの量を表わすものであり,脳組織PO2と関連が大きいものと考えられている(組織PO2をoxygen availabilityの語ではじめて表現したのはMontgomery24)(1950)であるという.).臨床例の成績から,それがはたして事実であるかどうか,髄液PO2に関与している因子は何か,脳外傷の診断・治療に際して髄液PO2の測定がどのような意義を有しているか,などについて明らかにするのが本研究の目的である.この第(Ⅰ)部においては髄液PO2を動脈血PO2やPCO2(炭酸ガス分圧)との関連において検討するが,第(Ⅱ)部における脳循環・代謝と関連した研究とは一連のものである.

"Combined transsphenoidal-transfrontal approach"による脳下垂体腺腫の手術療法

著者: 佐藤修 ,   金沢至 ,   江口恒良 ,   佐野圭司

ページ範囲:P.421 - P.429

Ⅰ.はじめに
 視神経障害がみられる脳下垂体腺腫(pituitary adenoma)の治療法に関する従来の一般的な考え方は,腫瘍の被膜内剔出術(intracapsular removal)により,視神経に及ぼす圧迫を除去し,さらに,残存する腫瘍による再発を予防する目的で,術後,放射線療法を行なうことであった.そして,手術に際しては,敢えて危険を冒して腫瘍の被膜を剔出することは,手術侵襲が大となるため禁忌とされてきた.ところが,近年,脳神経外科手術におけるmicrosurgeryの導入により,安全で,しかも,かなり根本的な手術ができるようになり,脳下垂体腺腫の手術に際しても,鞍隔膜を越えて視床下部方向に発育した部分の被膜をも含め,腫瘍を全剔出しようという考え方も,さして抵抗なく受入れられるようになってきた.その背景には,従来の被膜内剔出術に加えた放射線療法の併用療法によっても,腫瘍の再発は約10%にみられ5,9),しかも,再発例の手術死亡率は高く4,9),また,頻度は少ないが,放射線療法の合併症も問題になっていることを忘れてはならない.とくに,suprasellar extensionの著明なものでは,再発率も高く,このような例には,腫瘍の全別出術が検討されなければならない.
 脳下垂体腺腫の全別出術に関しては,手術術式3),手術成績5)について,すでに報告もあり,その成功例も多くみられている9)

症例

妊娠後期に破裂した前下小脳動脈動脈瘤

著者: 大野喜久郎 ,   菅沼康雄 ,   早川大府 ,   小松清秀 ,   平塚秀雄 ,   稲葉穣

ページ範囲:P.431 - P.435

Ⅰ.はじめに
 頭蓋内動脈瘤の冶療についての最近の一般的考えは,統計的にも,経験的にも,直達手術が常識化され,1964年Adamsらによって報告された動脈瘤手術へのmicroscopeの導入は,その手術成績に画期的飛躍をもたらしつつある12).一方,後頭蓋窩動脈瘤はテント上のものに比し,頻度は少なく,Poolら11)によれば約15%を占めるにすぎず,外科的療法なしには80%の死亡率を示すといわれる.しかしながらこれらのものに対する直達手術は,種々の点から困難なことが多い.部位的には,椎骨動脈,後下小脳動脈および脳底動脈と後大脳動脈分岐部に多く,それ以外のところには比較的稀である.なかでも前下小脳動脈瘤は稀である.われわれは,短時日の間に3度の出血発作をくりかえし,内水頭症を合併した妊婦の前下小脳動脈瘤を経験した.帝王切開を施行し,1か月後後頭下開頭で顕微鏡下に,左小脳橋角部に位置する動脈瘤にtrappingをおこない,患者は,神経症状を残すことなく治癒した.そこで,本症例にもとづき,妊娠後期に破裂した脳動脈瘤の治療をもう一度みなおし,また前下小脳動脈瘤手術について文献的に調査しその顕微鏡手術による治療の有効性について報告する.

von Recklinghausen病の特異型の1例

著者: 赤木功人 ,   早川徹 ,   生塩之敬 ,   竹内直司

ページ範囲:P.437 - P.441

Ⅰ.はじめに
 von Recklinghausen病(以下R病と略す)は,café-aulait spotsと称される皮膚の色素沈着,皮下軟結節などを主な徴候としながら,しばしば神経系やその付属支持組織,骨系統などの病変を伴い,多彩な病像を呈してくることはよく知られている.そのうちでも特異型というべき一側の眼窩壁の欠損に伴って出現する搏動性眼球突出については,欧米では従来かなりの報告が見られるが,本邦での報告は極めて稀である.今回私共はその1例を経験したので,その特徴的なレ線像,手術所見と共に,文献的考察を加えて報告する.

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第7回日本脳神経外科学会認定医認定試験合格者名一覧

ページ範囲:P.412 - P.412

 第7回日本脳神経外科学会認定医認定試験は,去る7月29・30日の両日に行なわれた.本年度の受験者は108名,合格者は79名で,欠席1名を除くと合格率は74%となる.これで我国の脳神経外科認定医の総数は515名となった.本年度の合格者の認定番号と氏名は以下の通りである(数字は認定番号).

キーワード基準例

著者: 編集部

ページ範囲:P.443 - P.443

 本誌ではキーワードの統一のために下記の基準例を設けました.投稿されるかたはこれを中心にキーワードをおつけ下さい.

日本脳神経外科学会事務局ニュース—脳神経外科認定医認定試験問題

ページ範囲:P.444 - P.445

 日本脳神経外科学会認定医認定委員会では,毎年夏に脳神経外科認定医認定試験を行なっている.昭和48年度は,第7回目の認定試験を行ない,79名の合格者を得た.これで脳神経外科認定医の総数は519名に達した(うち死亡4名).
 昭和44年からは,書類審査の他,筆答試験と口頭試験を併せ行なっているが,認定医認定委員会では,この度,第3回以来の筆答試験の問題を公表することにした.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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