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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科1巻6号

1973年12月発行

雑誌目次

「脳神経外科」誌に期待する

著者: 川淵純一

ページ範囲:P.451 - P.452

 昭和23年第1回日本脳神経外科研究会が創始されて以来,昨年秋の第31回総会に至るまで,そこで発表された研究業績の大部分neuroscience総合雑誌である"脳と神経"に掲載され,本邦脳神経外科学発展の中核をなしてきたことは今更言うまでもなく,万人の認めるところである.ところがここ数年来,"脳と神経"に投稿される脳神経外科関係の論文は激増の一途をたどり,それらが掲載されるまでには少なくとも1年余を要するという状態にたち至った.従って独自の脳神経外科学専門誌の発刊が関係者から強く要望されてきたのも当然のなりゆきで,筆者らも機会あるごとに志ある人々とその具体化について話し合ってきた.しかし医書出版界の事情から実現にいたらず,まことに残念に思っていた.
 このたび,「脳神経外科」誌が,編集委員諸教授の御尽力と,医学書院の英断とにより発刊の運びに至ったことは,まことに時宜をえた快挙であり,大いなる敬意を表するとともに,心からなる拍手をもって御祝いを申し上げたい.

総説

脳腫瘍のCell Kinetics

著者: 星野孝夫

ページ範囲:P.453 - P.459

 腫瘍の生長解析は,その腫瘍の発育の有様や,謎を解くのみならず,悪性腫瘍などにおいて治療方針をたてるためにも重要なことである.このことは脳腫瘍においても然りであり,これを無視した今までの化学療法やその他の治療も結果的には失敗に終っている場合がしばしばである.
 臨床家は,それぞれの腫瘍を治療する時,今までは,単純に"より効果的な薬剤"を"より大量に"用い"できるだけ長期間"という,あたかも抗生物質を感染症に用いるごとくに抗癌剤を考えていたが,このことがいかに間違った結果をもたらしたかは数々の実験からも明らかである.

手術手技

聴神経腫瘍の手術

著者: 北村勝俊

ページ範囲:P.461 - P.467

 聴神経鞘腫は全頭蓋内腫瘍の10%近くを占め,被膜を有する良性腫瘍であるので,手術的療法により全治させることができる.それだけに脳神経外科医にとってもっとも重要な疾患の一つである.
 StewartとHolmes(1904)の報告の中にSirVictor Horselyにより手術された4例の小脳外線維腫があり,2例は術後好結果を得たとのことである2).Cushingの第1例は1906年に行なわれたが不成功に終り,第2例は生存し,最初の10例では死亡率40%と報告している.Cushingは死亡率減少の努力と工夫を重ね,最終的には50例中2例(4%)の手術死亡に止まった2).Cushingは必ずしも完全摘除を目指さなかったが,Dandyは安全性の上に根治を目指し,被膜を含む全摘術82例の死亡率7.3%を得るに至った2).しかしながらDandy1)は全摘のためには顔面神経の犠牲はむしろ当然のこととし,術後の顔面神経・副神経吻合術を強調している.腫瘍全摘時の顔面神経保存に努力したOlivecrona6)は,全摘282例中111例(39.4%)に顔面神経の機能回復を得ている.

研究

重症脳外傷患者における髄液PO2値の変動とその測定意義—Ⅱ.内頸静脈血PO2および髄液乳酸量との関連について

著者: 桂田菊嗣 ,   小川道雄 ,   南卓男

ページ範囲:P.469 - P.474

Ⅰ.はじめに
 脳脊髄液(以下髄液と略する)のPO2(酸素分圧)は脳のoxygen availabilityを示す一指標であると考えられている.それは少なくとも髄液腔と隣接した部分の脳組織と平衡している可能性がつよいし,また種々の条件で組織PO2,と同方向に変化するものと思われる.われわれはすでに前同の第1部の報告7)でこの点を考察し,またそこでは実際に脳外傷患者の髄液PO2を測定した成績の一部を紹介した.重症脳外傷のような急性の脳循環代謝障害の程度を,髄液PO2の測定によってある程度知ることができればきわめて有意義であると考えられる,前回はとくに動脈血PO2やPCO2(炭酸ガス分圧)と髄液PO2との関連について検討した.そしてまず髄液PO2は脳へのO2 transportの量に大きく左右されている事実をのべ,またそれ以外に頭蓋内,脳組織側の病的因子によって影響されていること,したがってその点において髄液PO2の測定が外傷脳の病態や予後を知る手段になり得ることを指摘した.今回はさらに検討を進めて髄液PO2の測定値を内頸静脈血PO2や髄液乳酸量と対比し,髄液PO2と外傷脳の循環代謝障害との関連を追求しようとするものである.

反応よりみた意識障害の分類—重症頭部外傷患者予後判定の資料としての意義

著者: 杉浦和朗 ,   ,  

ページ範囲:P.475 - P.480

Ⅰ.はじめに
 頭部外傷急性期の患者管理に意識レベルの推移把握が重要であることは繰り返し強調されているが7,9,11),これを受傷後経時的に追跡し各時間ごとの意識状態と予後を比較した報告はみられない.この原因の一つに意識に関連した言葉の定義が明確でないことがあげられる.筆者らは今回外部刺激に対する患者のmaximum responseにより判定した意識状態と患者の予後を比較し,この判定法が重症頭部外傷患者の予後推定に有用であると老えたので報告する.

聴神経腫瘍術後顔面神経麻痺の治療—アンケート及び筋電図による検討

著者: 塚本泰

ページ範囲:P.481 - P.489

Ⅰ.はじめに
 聴神経腫瘍摘出手術の際合併する顔面神経麻痺は,この腫瘍が良性で長期生存例の多いこと女性に多いこと,また外見上ばかりでなく発語障害を来すこと等大きな問題である.
 もちろん近年のmicrosurgeryらの手術法の発達により顔面神経の機能を損わずに腫瘍の全摘が可能な例も増えて来ているが,顔面神経が腫瘍に埋没し不離である症例,また術中解剖学的には神経の連続が保たれているにもかかわらず顔面神経機能の回復が起らない例等,術後顔而神経麻痺患者はいまだ多い.

脊髄血管腫の診断と治療

著者: 斎藤勇 ,   落合親行 ,   佐藤修 ,   佐野圭司 ,   山田久 ,   降旗俊明 ,   矢作保治 ,   三井香児 ,   早川勲 ,   土田富穂 ,   柳橋万之 ,   石島武一 ,   福島孝徳

ページ範囲:P.491 - P.502

Ⅰ.はじめに
 脊髄の血管腫(angioma of the spinal cord)は,決して稀れな疾患ではない.Yasargil34)は,脊髄腫瘍961例中血管腫は43例(4.35%)で,一方脳,の動静脈奇形が脳腫瘍4,200例中186例(4.42%)であり中枢神経系の血符腫が脳も脊髄においても,同頻度に見られることを報告している.しかし,正しく診断するためには,脊髄の血管撮影が必要であり,とくに,血管腫の導入動脈の位置と病変の拡ろがりを正確に把握するために撰択血管撮影(selective spinal angiography)が行われるようになったのは決して古いことではない(Dichiroら(1967)6),Djinjian(1968)7)).一方,手術的治療を考えてみると,病像を正しく把握して治療をするという意味では,撰択血管撮影の進歩した後に始めて可能なことということは,脳の動静脈奇形を血管撮影なしでは,手術がほとんど不可能に近いことを考えれば理解されよう.最近のmicrosurgeryの導入16)は,この種の病変の手術にも極めて有用な手段となった.

頸部脊椎管のDevelopmental Stenosisによる頸髄障害の研究—その2.症例報告と手術法ならびに手術成績について

著者: 長島親男

ページ範囲:P.503 - P.512

 著者は,前報告において,本邦成人の頸部脊椎管矢状径のレ線学的正常域値をきめ,標準曲線を作成した1).これから述べる「Developmental Stenosisによる頸髄障害」とは,1964年Hinckらが提唱したもので2),発生学的な異常によって頸部の脊椎管がもともと狭いのである.発生の過程において,脊髄はどんどん発育してゆくのに,脊椎管がそれ相応に広くならないと,脊髄と脊椎管との問には余裕がなくなってくる.したがって,ある年代になると,特別な原因なしに頸髄の圧迫や頸髄の乏血状態を作ったりしてCervical Myelopathyを起してくる.一方,ほんの少しの骨棘,disc prbtrusion,過伸展・過屈曲をともなう軽い頸部の外傷などによって,頸髄は容易にdamageをうけて,頸髄障害を起してくる.このようなわけで,Hinckらは,このDevelopmental Stenosisは神経学的に意味のある異常(neurologically significant anomaly)といっている3).この診断には,頸部の脊椎管矢状径が正常より狭いことが診断の重要な条件になっている.
 著者も以前からこの状態に注目してきたが,Hinckらをはじめ,欧米諸家21-23,25)の頸椎管矢状径の標準曲線の数値は,本邦成人のそれよりやや大きいように思われ,これを本邦成人にあてはめるのは適当でないことに気付いた.鈴木ら24)は,数値ではなくて椎体前後径と椎管前後径との比を問題にしている.

症例

脊髄硬膜外髄膜腫

著者: 佐藤修 ,   高橋宏 ,   簡徳珍 ,   天野数義

ページ範囲:P.513 - P.518

Ⅰ.はじめに
 髄膜腫のなかで,脊椎管内に発生するものは少なく,われわれの教室の482例の髄膜腫のうち,8例(1.7%)に過ぎない.この脊椎管内髄膜腫(一般には脊髄々嘆腫といわれる)のうち,硬膜内には発育せず,完全に硬膜外のものは,さらに,極めて稀である.これらの脊髄硬膜外髄膜腫は,頻度の稀なことの他に,その発生が興味深い.われわれは現在まで2例の原発性脊髄硬膜外髄膜腫を経験したのでここに報告し,若干の文献的考察を加える.

小児頭蓋から発生した巨大な頭蓋内Ossifying Fibroma

著者: 上笹皓 ,   桑原十南雄 ,   稲葉穰

ページ範囲:P.519 - P.525

Ⅰ.はじめに
 11歳の小児の頭蓋内に石灰化を伴う巨大な腫瘍を認め,臨床症状および手術所見から当初meningiomaと考えたが,腫瘍全摘後の詳細な病理組織学的検索の結果前頭骨内板から発生した所謂 ossifying fibromaと判明した症例を経験した.このように頭蓋骨から発生して頭蓋内に大きなmassを形成した症例の記載は殆んどみられない.
 骨腫瘍の分類上ossifying fibromaのorigin及びその呼称の妥当性に関しては尚幾分一致しない点もあるが,本例の病理組織学的所見に基づいて考察を加えて報告する.

脳動脈瘤の自然治癒例

著者: 古和田正悦 ,   高橋睦正 ,   儀藤洋治 ,   斎藤芳晃

ページ範囲:P.527 - P.530

Ⅰ.はじめに
 脳動脈瘤が完全に血栓化し,自然治癒(spontaneouscure10))するのは極めて稀であると考えられており11),文献的にも,脳血管造影や手術によって確認された症例は,現在まで僅かに7例3,6,7,9,14,16)を数えるに過ぎないようである.
 最近,私達はクモ膜下出血にて発症し,中大脳動脈の動脈瘤が証明され,約5カ月後に手術により動脈瘤の自然治癒が確認された症例を経験したので,若干の文献的考察を行い報告する.

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「Neurological Surgery 脳神経外科」第1巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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