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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科10巻11号

1982年11月発行

雑誌目次

忘れられた世界にも

著者: 高倉公朋

ページ範囲:P.1137 - P.1138

 タクラマカン砂漠の上空で楼蘭の昔を偲んでまもなく,カラコルム山脈を越えてラワルピンディ国際空港に到着した.ここはすでにイスラム教の世界,首都イスラマバードへの入口である.イスラム教徒は8億,その文明は古く,キリスト教諸国のそれとは異質である.パキスタンへは友人達の招きで脳神経外科の集中講義を行うことが目的の旅であった.高原に一夜を過ごして,翌日カラチに着いた.7年前に訪れた時と比べると道路も整備され,新しいビルが増え,ここにも近代化の波が押し寄せていることを痛感したが,市内から東北へ荒寥とした砂漠に車で走り出すと,そこに現れるすべてのたたずまいは,時の巡りとは無縁である.今日イスラム教の世界は,大きく揺れ動く歴史の渦中にある.アラブ諸国,イラン,イラク,アフガニスタン,パキスタンなど,それぞれ戦争,革命,軍事政権,近代化,復古と慌しい.しかし,一歩その国の村々に入れば,悠久の文明と土地の生活にはいささかの変りようがあるはずもない.
 カラチから160キロ余り,舗装のよくないハイウェーを対向車とすれ違いでとばすのは,乗り心地のよいドライブではない.交通事故も当然のことながら多く,毎日ある頭部外傷のほとんどが致命的である.砂漠が切れてハイデラバードの市内に入ると,突然,大木の緑が目にしみる.ここのLiaquat医科大学を訪ねるのは二度目のことである.Liaquatという名は,この国の独立を宣した大統領の名に因んでいる.1学年の学生数が約350名,卒業を間近に控えた最上級生に1週間の講義を行うことになった.脳神経外科の講座はまだなく,外傷は一般外科で処置されるが,脳腫瘍などは,カラチまでヘリコプターか車で運ばれて行く.しかしカラチにも脳神経外科医は3名,国中でも7名しかいない.

総説

脳動脈瘤破裂超早期手術の要点

著者: 鈴木二郎 ,   吉本高志

ページ範囲:P.1139 - P.1149

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤の手術時期の問題については,従来,破裂発作後1週間あるいは2週間は手術を待機しなければならないとするのが一般の常識であり,確かに慢性期の手術成績は次第に向上してはきていた8,13,38).しかし,1週間あるいは2週間の待機期間中,いかに絶対安静を命じ,血圧をコントロールし,AMCAを与えても,再破裂を来たすものがあり,また脳血管攣縮によって重篤な後遺症を残し,または死亡する例をかなりの頻度で経験していたことも実状であった.われわれは,これらの待機中の犠牲者をできるだけ少なくさせるためには,初回破裂発作後,できるだけ速やかに再破裂を防ぐ手術を行い,また後日に発現するであろう脳血管攣縮を予防することが理論的にも良策と考えて,種々検討工夫を行い24-26,41),次第にその手術成績の向上もみられているので,本論文においては,超早期手術の発想の由来から,手術適応の問題,手術時期の問題,術中術後の諸問題について述べ,御批判を得たいと考える.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頸椎の手術—頸部脊椎症の前方手術

著者: 角家暁

ページ範囲:P.1151 - P.1157

I.はじめに
 頸椎の外科は到達法により,前方,後方,さらに側方からのアプローチがあり,どの方法をとるかは主病変が頸椎のどの部位にあるかによって決められる.頸椎を解剖学的見地からみると,頭蓋骨と脊椎との接合部を形成し,椎間板が介在せず,それぞれ特異な形態を持つ上位頸椎(環椎と軸椎)と,脊柱の頸部を構成する下位頸椎(第3-7頸椎)に分けられる.著者に与えられたテーマは"頸椎の手術"で,本来ならばこの頭蓋-頸椎接合部の上位頸椎と下位頸椎のさまざまな病変について,それぞれの前方,後方,側方よりの手術法を検討すべきであろうが,本稿ではCloward1), Smith & Robinson6)により開発されて以来,頸椎の代表的な手術法となった前方到達法について,頸部脊椎症を例にとり,われわれが行っている方法を詳述する.
 なお,頸椎のみならず脊椎の手術を手掛ける時,その解剖を熟知することは当然であるが,脊椎は脊髄を保護していると同時に,躯幹を支持,かつ運動器官であることに留意し,脊椎の手術に伴ってその安定性(stability)が損なわれないよう,脊椎の生体力学を十分に理解しておかねばならない.

海外だより

中国における脳神経外科見聞記

著者: 山下純宏

ページ範囲:P.1160 - P.1163

 昭和57年4月26日より5月9日までの2週間,京都大学医学部腫瘍研究訪中団(団員10名,団長翠川修病理学教授)の一員に加わり,北京,藩陽,西安,上海,蘇州の5都市を訪問する機会が与えられた.この訪中団は,中華医学会の招きにより学術交流を目的としたものであり,主に各地の腫瘍研究センターを訪れて,見学し,講演会や座談会を持つように計画されていた書折角の得がたい経験であったので,一脳神経外科医の立場から,中国の脳神経外科の現状について直接知り得たことを紹介し,合わせて,中国の医学全般に関する個人的な印象について報告する.

研究

頭蓋頸椎移行部奇形の診断—特にCTの診断的価値について

著者: 宮坂和男 ,   井須豊彦 ,   阿部悟 ,   竹井秀敏 ,   阿部弘 ,   都留美都雄 ,   伊藤輝史 ,   北岡憲一

ページ範囲:P.1165 - P.1172

I.はじめに
 頭蓋頸椎移行部奇形は,頸部痛,顔面非対称,斜頸など比較的軽微な症状から,四肢麻痺,呼吸障害に至るまで多彩な神経症状を呈する23).したがってしばしば脱髄変性疾患,腫瘍などと誤って診断されることがある9,19,24)
 一方computed tomography(以下CTと略す)が脳神経疾患のscreeningから補助検査に至るまで広く利用されるようになってきており,頭蓋頸椎移行部奇形の鑑別診断法としても,あるいはすでにその存在が確認された場合の補助検査法としても,CTが利用される機会が少なくない6).しかしながら特定の症例報告3,7,11,18)を除いて,総合的に同部奇形におけるCTの有用性に言及した報告は少ない4,15-17).CTスキャナーの解像力は最近とみに改善してきており,本報告では頭蓋頸稚移行部奇形におけるCTの診断的価値について検討する.

Balloon Catheterによる頸動脈海綿静脈洞瘻の治療

著者: 山本勇夫 ,   ,  

ページ範囲:P.1175 - P.1181

 近年のinterventiollal neuroradlologyの進歩は,従来議論のあった頸動脈海綿書静脈洞瘻(CCF)に対する治療法の1つとして注目されている,
 今回11例のCCF(外傷性7例,特発性4例)に対し,Fogartycatheterと1)ebrunのdetachable balloonによる治療を試みた.Fogarty catheterによるintracarotid occluslonを施1書fした症例は8例で,うち外傷性の4例全例に,特発性では4例中1例に症状の改善を認めた書しかし外傷性の1例で術後balloonのoverinflationによる外転神経麻痺を,特発性の1例で脳梗塞,2例に術後の血管写でfistulaの残存を認めた.Debrunのdetachable balloonを用いた外傷性の3例中2例で内頸動脈の血流を維持し,かつfistulaの閉塞に成功した.1例は術中balloonのpremature ruptureにより閉塞に失敗した.

Transsphenoidal microneurosurgery—第4報 下垂体腺腫における眼症状とその改善率

著者: 大井静雄 ,  

ページ範囲:P.1183 - P.1187

I.はじめに
 われわれは,200例におよぶtranssphenoidal routeによる下垂体手術におけるその術式,morbidity, mortality,下垂体腺腫における内分泌機能の改善,術後の水・電解質代謝異常の動向などについて報告してきた11-13).今回は下垂体腺腫と最も密接な神経学的所見としての眼症状につき分析し,術後のその改善率と,それに影響する諸因子につき検討した.

症例

Secondary empty sella syndrome—自験3例と文献的考察

著者: 欅篤 ,   牧田泰正 ,   鍋島祥男 ,   元持雅男 ,   板垣徹也 ,   鄭台頊

ページ範囲:P.1189 - P.1194

I.はじめに
 empty sellaはBusch4)らの報告に始まり,近年ではCT scan, metrizamide CT脳槽造影などの検査の普及に伴い,決して稀な疾患ではないとされている.一方,手術,放射線治療などに関連して発症したempty sellaはsecondary empty sella syndromeとして区別され20),その報告は比較的稀11,13)である.
 われわれは,これまで3例のsecondary empty sellasyndromeを経験したので,その成因,治療,さらには予防にも言及し,若干の文献的考察を加えて報告する.

脳動脈瘤クリップ後の再発

著者: 蛯名国彦 ,   岩淵隆 ,   鈴木重晴 ,   鈴木幹男

ページ範囲:P.1195 - P.1201

I.はじめに
 破裂すればくも膜下出血の主因となる脳動脈瘤の根治治療法としては,頭蓋内直達手術による脳動脈瘤柄のclippingが最も確実かつ安全な手術方法の代表と信じられ,広く用いられてきた.しかしながら最近われわれは,術中の確認はもちろん,術後の脳血管撮影でも動脈瘤柄を含めて動脈瘤の消失を確認ののち,数年を経て同部位に,より大きな動脈瘤の再発をみた症例を相次いで経験したので,脳血管撮影所見および組織学的に検討を加えてみた.

小児の巨大な石灰化慢性硬膜下血腫の1例

著者: 森伸彦 ,   長尾建樹 ,   中原明 ,   井沢正博 ,   天野恵市 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.1203 - P.1209

I.はじめに
 破膜下血腫が石灰化を示すことは珍しくない.その多くのものは慢性硬膜下血腫の終末像と考えられている.しかし器質化および石灰化した慢性硬膜下血腫が活動性に,さらに顕著に増大し,症状増悪を呈した報告はない.
 箸者らは,生後4ヵ月に水頭症のため脳室腹腔吻合術を受け,その後,頭部外傷と髄膜炎を経て,3歳時に両側性の器質化硬膜下血腫を認められ,その後,血腫の石灰化および増大,神経学的症状の進行性増悪のため血腫を全摘出した症例を経験した.

動眼神経吻合術の1例

著者: 岩淵隆 ,   中岡勤 ,   石井正三 ,   前田修司 ,   石田強

ページ範囲:P.1211 - P.1214

I.はじめに
 最近の脳手術における術式,器材の進歩は,その治療成績の向上に注目すべき成果をあげているが,より積極的な侵襲,適応の拡大ということにもなり,動眼神経の術中損傷というような危険も増大させているように思われる.また傍鞍部,テント切痕部腫瘍の摘出,脳底動脈瘤へ側頭窩経由で接近する際など,もし許されるならば動眼神経を一時切断し,主目的の手術操作終了後,再吻合,修復をと思う場合もありうる.
 今回われわれは傍鞍部腫瘍摘出操作中,動眼神経が切断され吻合修復を行ったところ,1年後,患側眼球の内転はほぼ正常範囲まで可能になったが,いわゆる錯接合(aberrant regeneration, misdirection)6,7)の症状を伴っている症例を経験したので,症例を提示するとともに検討を加えてみたい.

脳神経症状を呈したSclerosteosisの姉妹例

著者: 藤原悟 ,   鶴見勇治 ,   児玉南海雄

ページ範囲:P.1217 - P.1222

I.はじめに
 1967年Hansen3)は,それまで大理石骨病(marblebone disease or osteopetrosis)の特殊型とされ,合指症があり,主として頭蓋骨・下顎骨・鎖骨などに対称的なhyperostosisを伴い,かつosteosclerosisを来たす家族性発生の全身性骨疾患の一群を"Sklerosteose"と命名した.本疾患はこれまでわれわれの渉猟しえた範囲では50例で,本邦においては1975年Sugiura8)の報告した21歳女性の1例のみで,極めて稀な疾患といえる.最近われわれは姉が難聴,妹は顔面神経麻痺にて発症した本疾患と考えられる姉妹例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

トルコ鞍骨折の1例—症例報告と文献的考察

著者: 蓮沼正博 ,   佐藤修 ,   田辺純嘉 ,   相馬文勝 ,   井上慶俊 ,   堀田晴比古

ページ範囲:P.1225 - P.1230

I.はじめに
 脳神経外科医が頭部外傷患者を診察することは多いが,トルコ鞍に骨折を認める例に遭遇する機会は極めて稀であり,その報告例も少ない,最近われわれは,トルコ鞍骨折を伴い,脳神経麻痺,髄液鼻漏,尿崩症,さらに下垂体前葉機能低下などの多彩な病態を合併した1例を経験したので,トルコ鞍骨折の報告例22例とともに,主に骨折の機序や合併症について検討したので報告する.

巨大血栓化脳動静脈奇形の1症例

著者: 大原茂幹 ,   梅村訓 ,   若林繁夫 ,   高木卓爾 ,   永井肇

ページ範囲:P.1233 - P.1237

I.はじめに
 脳動静脈奇形(AVM)の一部が,血栓によって閉塞することのあることは,Norlén, Rubinstein, Noran, Raskinその他の手術所見,病理所見により古くから知られ,このような症例では脳血管撮影上,AVMが造影されないで,avascular massとしてとらえられる場合のあることも知られている2,5-7,11,17).しかし,このような脳AVMがmass effectを呈することは,AVMからのmassive hemorrhageを来たした時以外には極めて稀である.著者らはそのほとんどが血栓化,器質化した巨大なAVMで,massive hemorrhageを伴わず,またdural AVMで見られるような髄液還流不全など15)を示さないで,AVMそのものが頭蓋内占拠性病変として働き,脳室の圧排変形とmidline structureの偏位を来たした症例を経験したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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