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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科10巻12号

1982年12月発行

雑誌目次

ほんものとにせもの

著者: 岩淵隆

ページ範囲:P.1243 - P.1244

 無造作に世界中を飛び歩く人の多くなった今日この頃ではあるが,南半球に行くことはそれほど多くはない.何故か文明都市の大部分が北半球に偏在しているためであろう.1977年,第6回国際脳神経外科学会がBrazilのSão Pauloで開かれたときのことである.折角のよい機会なので,かの有名な南十字星とやらを見逃さないようにしようと考えて,それには予習が肝腎と,プラネタリウムのある所に一,二電話をかけて,6月末に南米大陸から見える南十字星を出してもらえるかどうか尋ねたところ,そういう要求には応じていないという.コンピュータ時代の今日,世界中の星座を出すのは簡単なことかと思っていたが,なかなかそうでもないらしい.そのままになっているうちに学会が始まってしまった.
 学会中はいろいろと取まぎれていて忘れていたが,帰途IguaçuのHotel Bour-bonというのに夜10時頃着いたときはちょうどよく晴れていて,周囲にほとんど人家もなく,全天に星が輝いていた.そこで土地の人らしいのに二,三聞いて見たが,the Southern Crossはどれかわからないという.それはそうだろう.教育程度が高くて,普及していることを世界に誇っている日本だって,北極星を確実に教えることの出来る人はそんなに多いとは思えない.旅行団の案内をしていた若い男に最後の望みをかけて尋ねたところ,さも心得たようにあれだと教えてくれた.見れば,中天に4つの星が大きな一寸かしげた十字を画いていた.自分一人だけで見るのはもったいないと,一緒の旅行団の脳外科の先生達に確かめたところ,誰も御存知ないというので,つい先程教わったばかりの知識でお教えした訳である.どなたが居られたか詳しくは覚えていないが,高名な先生も居られたはずである.あるいは,この拙文もお読みになっておられるかもしれない.そのときの学会に日本からの参加者は200名以上と聞いていたが,南十字星をちゃんと見て来たのは我々だけかもしれないと,いささか得意になって帰って来た次第である.

総説

脳腫瘍の免疫療法

著者: 高倉公朋 ,   渡辺卓

ページ範囲:P.1245 - P.1254

I.はじめに
 今日,脳腫瘍の免疫療法に新しい時代が切り拓かれようとしている.それはmonoclonal technologyと遺伝子工学の進歩に負うものである.
 脳には,他臓器に見られるようなリンパ系組織は存在しないし,そのうえ血液脳関門があるため,免疫グロブリンのような高分子物質は正常脳組織へは通過しない.したがって,脳は免疫学的に疎外された臓器であると永い間考えられてきた.しかし一方,細菌性髄膜炎で髄液中に多数の白血球が出現することや,脳腫瘍組織中にperivascular cuffingとして多数のリンパ球の集積が認められることなどは,臨床病理学的に脳疾患に免疫現象の関与することを示唆する事実として広く知られている.正常脳における機構と腫瘍や炎症における病態機構とは明確に区別して考えなければならない.脳腫瘍組織には免疫グロブリンのような高分子物質も容易に通過するし,免疫担当細胞も集積するので,脳腫瘍で免疫反応が起こる素地は明瞭にあると考えてよい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

顔面痙攣,三叉神経痛に対する後頭蓋窩神経血管減圧術(Jannetta法)

著者: 福島孝徳

ページ範囲:P.1257 - P.1261

I.はじめに
 三叉神経痛(trigeminal neuralgia or tic douloureux,以下TN)および半側顔面痙攣(hemifacial spasm,以下HFS)は,各々知覚系と運動系の異常であるが,両者とも発作性,反復性,不随意的な神経刺激症状を病態とするもので類似の疾患である.近年,これらの疾患の病因として頭蓋内における神経根に対する動脈圧迫説が確実となり,microsurgeryによる後頭蓋窩神経血管減圧術がすぐれた効果を現わすものとして注目されている.著者はJannettaの原法を追試して以来,血管圧迫部へのアプローチ,手術テクニックの改良に努め,自験手術例380症例の経験を通して,何らの合併症も来たさずに完治させる手術術式を完成させるに至った.ここに,小脳橋角部,神経血管圧迫関係の解剖学的解説とともに,手術の具体的なポイントについて述べたい.

研究

もやもや病の局所脳血流量—特に脳底部異常血管網部の位置づけについて

著者: 中川翼 ,   木野本均 ,   馬渕正二 ,   都留美都雄 ,   伊藤和夫 ,   竹井秀敏 ,   宮坂和男 ,   西谷幹雄 ,   徳田禎久 ,   佐藤正治

ページ範囲:P.1263 - P.1271

I.はじめに
 もやもや病は本邦において特異的に報告が多く,その本態の解明,治療法の確立が望まれている.治療面については,近年外科的血行再建術により良好な治療成績が報告されてきたことは,本症に苦しむ患者にとり1つの大きな光明といえよう2,4,7).本症の治療法の開発,工夫とともに,本症の病態についての検討も,患者に負担にならない範囲内で継続して行わなければならない.
 著者らは,133Xe内頸動脈動注後,ガンマーカメラにて頭皮上より脳血流を測定しているが,血流分析上,信頼でき用いうるmatrixを44-87個にも増加させることにより,脳底部異常血管網部に相当するmatrixの血流について非常に興味ある知見が得られたので報告し,諸家の御批判を受けたいと思う5,6)

脳梗塞急性期の新しい治療方法の開発—MannitolとPerfluorochemicalsの併用投与下における急性期血行再建例

著者: 鈴木二郎 ,   吉本高志 ,   児玉南海雄 ,   小川彰 ,   桜井芳明

ページ範囲:P.1273 - P.1280

I.はじめに
 脳梗塞急性期の治療は,本疾患が人類における極めて重大な多発疾患にもかかわらずいまだ不十分で,特に重篤な症例では有効な手段が見いだされていないといっても過言ではない.これは,梗塞急性期における血行再開はさらに脳浮腫の増悪や出血性梗塞をひき起こし,組織障害を一層悪化させる点にあった1,5,6,34,36).一方,慢性期ではextra-intracranial arterial bypassやthrombo-endarterectomyが行われてはいるが,これらは主にTIAやRINDの症例に再発を予防するために行われているにすぎない4,38)
 著者らは脳梗塞発症後の脳組織を保護し,その進行悪化を抑制する方法を研究してきたが,その方法を応用して発症後可及的速やかに血行再建術を行い,脳梗塞急性期例での治療を行ったので報告し,批判をお願いしたいと思う.

脳腫瘍患者の血中免疫複合体(Immune complexes)の出現とその臨床的意義

著者: 須田金弥 ,   大塚信一 ,   武内重二 ,   山下純宏 ,   織田祥史 ,   半田肇

ページ範囲:P.1283 - P.1288

I.はじめに
 近年,血清中の免疫複合体(immune complexes,以下ICと略す)の測定法の開発により,種々の疾患に血中ICが検出されている.特に全身性エリテマトーデスなどの自己免疫病の病因にICが重要な役割を果すことは広く知られるようになった5,7,24).一方,白血病をはじめ悪性腫瘍患者の血清中にも高頻度にICが検出され,血中ICの定量は悪性腫瘍患者の予後の判定や治療効果のモニタリングに有用であると報告されている6,18,20,21).脳腫瘍患者の血中ICの検出が,ヒト補体の第1成分のsubcomponentを利用したClq結合試験により行われ,血中ICの陽性率は脳腫瘍の組織学的悪性度と相関し,予後の判定に有意義であることが報告された12).しかし脳腫瘍や他の悪性腫瘍患者に出現する血中ICの臨床的意義については不明の点が多い.
 また,血中ICは悪性腫瘍に対する宿主の免疫応答を抑制する因子であるとする報告もあり1,2,16),多彩な生物活性を有するので22),多種類の生物学的検出法を組み合わせ,血中ICの病態に果す役割を解析する必要がある.

脳腫瘍患者の末梢血リンパ球のnatural killer activity

著者: 大塚信一 ,   須田金弥 ,   山下純宏 ,   武内重二 ,   半田肇

ページ範囲:P.1291 - P.1297

I.はじめに
 natural killer cell(以下NK cell)は,in vitroで,ある種のtarget cellに対してcytotoxicityをもつ正常未感作のリンパ球である.NK cellは,ヒトあるいは他の動物に存在することが知られているが,いまだ生体内での働きについてははっきりしたことはわかっていない.しかし,NK cellが生体内で免疫監視機構に関与し,宿主の腫瘍に対する抵抗性の一部を担っている可能性も示唆されている3,9,15,23).われわれは,担頭蓋内腫瘍マウスに60Co局所照射を行い,腫瘍を退縮させることによって,spleen cellのNK activityの上昇を認めており,このことは腫瘍に60Co照射を行うことによって,宿主の抗腫瘍細胞性免疫が増強したことをある程度示していると考えられる.この実験結果に基づき,臨床上脳腫瘍患者において,治療に伴う腫瘍に対する免疫学的抵抗性の変化をみるという点から,脳腫瘍患者の末梢血のNK activhyを手術の前後および放射線治療開始前後に測定し検討を加えたので報告する.

症例

外傷性脳梁出血のCT

著者: 小倉浩一郎 ,   山本勇夫 ,   原誠 ,   鈴木善男 ,   中根藤七 ,   渡辺正男

ページ範囲:P.1299 - P.1301

I.はじめに
 重症の頭部外傷において脳梁に出血を伴う症例は少なくないが,脳血管撮影上,脳梁出血の正確な診断は困難であるため,そのほとんどは剖検報告であった1-4).CTの導入により頭蓋内出血の診断が容易となったにもかかわらず,脳梁出血のCT所見に関する報告はいまだ数少ない5,6)
 今回われわれは,脳梁出血を認めた重症頭部外傷2例を経験したので,そのCTおよび手術所見とともに発生機序について考察を加え報告する.

モヤモヤ様血管網を伴った特発性中大脳動脈閉塞症—第2報 1剖検例の検討

著者: 府川修 ,   相原坦道 ,   若狭治毅

ページ範囲:P.1303 - P.1310

I.はじめに
 中大脳動脈が閉塞し,かつその周囲にモヤモヤ様血管網の認められる症例について,われわれはその臨床像と脳血管写所見をすでに報告したが1),そのなかで,本症例群は脳血管モヤモヤ病の診断基準には合致せず,これと区別して整理しなおす必要性についても述べた.
 今回報告する症例は,第1報で述べた10症例のなかの症例3であるが,当科退院後,農薬自殺を図り,剖検の機会を得た.そこで問題となる中大脳動脈およびモヤモヤ様血管網を中心として脳血管の病理組織学的所見を述べ,本症例では中大脳動脈の血管壁の発育異常がその基盤にあり,かつモヤモヤ様血管網が側副血行路として発達したものと考え,若干の考察を加えて報告する.

多発性神経膠腫の2例

著者: 北原正和 ,   和田徳男 ,   佐藤智彦

ページ範囲:P.1313 - P.1317

I.はじめに
 脳腫瘍の診断はCT scanの善及により,この数年一段の進歩がみられているが,多発性腫瘍性病巣を認めた場合,安易に転移性脳腫瘍と診断され治療されている例が少なくない3-5,11,14).今回われわれは国立仙台病院において,CT scanで多発性病巣を認めたため,原発巣不明のまま転移性脳腫瘍と診断し治療したが,剖検脳の病理学的検索で多発性神経膠腫と診断された2例を経験した.わが国では多発性神経膠腫の報告は比較的稀であるが,本稿では自験例2例を中心に,臨床所見,治療,病理組織学的所見などにつき,若干の検討を加え報告する.

脳動脈瘤破裂に起因した硝子体出血—Terson症候群

著者: 佐藤透 ,   山本祐司 ,   浅利正二 ,   樺沢みさと

ページ範囲:P.1319 - P.1324

I,はじめに
 くも膜下出血に伴う眼底出血のうち,硝子体出血については,1900年Terson13)により初めて報告され,比較的稀なoculocerebral syndrome14)とされてきた(Ter-son症候群).しかしながら硝子体出血は,網膜・網膜前出血に比べ重篤な恒久的視力障害を残すことがあるため,破裂脳動脈瘤における機能予後を考える上で重要な問題となってくる.
 最近われわれは,左内頸動脈・眼動脈分岐部動脈瘤の破裂によるくも膜下出血に伴い,その対側の右眼に硝子体出血を来たした1例を経験した.この症例を呈示し,本症の発生機序,治療上の問題点および予後などにつき若干の考察を加え報告する.

椎骨動脈瘤に対するProximal ligation

著者: 柴田孝行 ,   伊藤明雄 ,   榎本一己 ,   原田努

ページ範囲:P.1327 - P.1332

I.はじめに
 椎骨脳底動脈領域の動脈瘤は,脳動脈瘤の5%前後といわれている11,18,25).このうち椎骨動脈瘤は脳底動脈が左右後大脳動脈に分かれる分岐部に次いで多く,決して稀なものではない.
 脳動脈瘤の根治術はneck clippingが確実な方法として最も多く用いられている.しかし,椎骨動脈瘤については,動脈瘤が紡錘形である割合が他の頭蓋内動脈瘤に比べて高いことや,嚢状であっても下部脳神経との関係からneck clippingが困難なことがある.このような症例に対し,解剖学的な特性から椎骨動脈を動脈瘤の中枢側で結紮,clippingあるいはtrappingすることがあるが,その手術適応についてはいまだ十分な検討がされていない.

馬尾神経神経鞘腫と誤診した腰椎椎間板ヘルニア

著者: 小山素麿 ,   霜坂辰一 ,   内堀幹夫 ,   相井平八郎

ページ範囲:P.1335 - P.1339

I.はじめに
 脊髄腫瘍と腰椎椎間板ヘルニアの鑑別診断は,その病歴,神経症状,補助検査所見から,多くの場合容易である19)
 しかし腰椎椎間板ヘルニアと診断されたもので,手術時に初めて腫瘍が確認された症例は少なくなく4,12,18,21)Mayo clinicの報告に例をとっても,514個の脊椎管内腫瘍のうち29例(5.6%)の術前診断は腰椎椎間板ヘルニアであった13)

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ページ範囲:P. - P.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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