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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科10巻2号

1982年02月発行

雑誌目次

虚実のはざま

著者: 松岡健三

ページ範囲:P.117 - P.118

 一昨年9月,埼玉県所沢市で起こった富士見病院事件は,わが国の医療荒廃の象徴とみなされ,時の厚生大臣が辞任したり,知事による医療機関の強制査察がすんなり認められたり,医療110番が開設されるなど,単に産婦人科のみならず,医療界全体にはかり知れない影響を与えた事件であった.
 「健康なのに開腹手術」「デタラメ手術」「無免許経営者が診断,次々子宮などを摘出さすでたらめ診療」「被害者数百人か?」「恨み残して自殺も」.これらが当時の新聞の見出しに躍った字句であった.事件の内容は,周知のように,富士見産婦人科病院の非医師の理事長である北野早苗が,収益をあげるために,自ら超音波断層診断装置(これをMEといっている)を駆使して,健康な患者に手術の必要があると半ば脅迫的に説得し,入院させた上,女医である彼の妻の院長はじめ勤務医たちも,唯々諾々と理事長に従って,多数の子宮や卵巣の剔出術を行った病院ぐるみの犯罪という,まことに猟奇的な事件であった.

総説

悪性脳腫瘍に対する術中照射療法と原体照射療法

著者: 寺尾栄夫

ページ範囲:P.119 - P.127

I.はじめに
 化学療法や免疫療法,各種の放射線療法の進歩をうたう華々しい研究成果にもかかわらず,悪性脳腫瘍,なかんずくglioblastomaやanaplastic astrocytomaの治療効果の向上は実に遅々としたものだというのが日常診療にあたっている臨床脳神経外科医の実感であろう.
 1978年に発表されたM.D.Walker15)らによるana-plastic gliomaのCo-operative study報告でも,最も効果のあるとされる手術—放射線療法—BCNUによる化学療法の組み合わせによっても平均生存期間は,完全治療実施症例で40.5週,不完全治療実施症例では34週で,Bailey & Cushingの統計による術後平均生存期間と大差のないことに愕然とするとともに,この腫瘍の難治性を思い知らされるのである.しかしanaplasticgliomaは,悪性腫瘍でありながら中枢神経系の外に転移することはほとんどないという臨床的にも病理的にも際立った特徴をもっており,この点からみれば,本来治療しやすい腫瘍のはずであり,その治療方針は局所での腫瘍制圧に主眼が向けられるべきであろう.この意味では,現在では主として全身的治療法である化学療法よりも,局所的治療法である放射線療法により期待がもてるといえよう.

解剖を中心とした脳神経手術手技

後下小脳動脈動脈瘤について—椎骨動脈動脈瘤

著者: 杉田虔一郎 ,   宜保浩彦

ページ範囲:P.129 - P.133

I.はじめに
 後頭蓋窩の動脈瘤,なかんずく椎骨動脈瘤(その大部分は後下小脳動脈分岐部に多発)は,頻度の少ない頭蓋内動脈瘤であり2),多くの脳神経外科医にとって多数の手術経験ができる動脈瘤ではない.しかしていねいに手術をすれば,一般的には好成績が得られるものである.さて後下小脳動脈(PICA)は,その起始部,走行,分布域,出現頻度にかなりのvariationのある動脈であり5,15),また同側の前下小脳動脈あるいは対側の後下小脳動脈とreciprocalな関係にある1).本稿では30例の自験例に基づいて,まずproximal椎骨動脈瘤(後下小脳動脈分岐部周辺)に対する手術方法を主に述べ,次いでdistal椎骨動脈瘤(後下小脳動脈分岐部より末梢から椎骨動脈合流部まで)に対する手術方法,および特殊なapproachに関して言及したい.PICA動脈の末梢部動脈瘤は,手術手技上,何ら問題はないので省略する.

研究

動脈瘤クリップの折損に関する金属学的研究

著者: 早川勲 ,   土田富穂

ページ範囲:P.135 - P.140

I.はじめに
 脳動脈瘤に対する直達手術が行われるようになって以来,既に40年余を経過している.その間初期の銀クリップをはじめとしてOlivecrona, Mayfield, Scoville,Heifetz, Yasargil,杉田,McFaddenその他,幾多の金属クリップが考案された.脳動脈瘤用クリップの改善,進歩は脳神経外科領域へのmicrosurgeryの導入と相まって,本疾患に対する治療成績の向上に多大の貢献をなしたといえよう.いまだ破裂動脈瘤急性期の手術に関しては未解決の問題を残しているとはいえ,脳動脈瘤そのものの手術術式に関しては既にほぼ確立されたといえよう.
 しかし,動脈瘤手術に用いられるクリップの問題については,問題が皆無とはいえない.特にmicrosurgeryのもとに脳動脈クリッピング手術が飛躍的に増加,確実化するとともに,使用頻度の多いクリップに何らかの物理的あるいは物理化学的要因によると思われる事故が報告されるにいたった.その端緒は著者らの報告6)(1976年)で,その後,浅利ら1)(1977年),Servo & Puranen12)(1977年),Quest & Countee10)(1977年),Edner5)(1978年),Dujovny4)(1979年),Colombo2)(1980年)が相次いで同様の症例を報告している.

悪性脳腫瘍に対するMumps virus療法の試み

著者: 弓取克弘 ,   半田肇 ,   山下純宏 ,   須田金弥 ,   大塚信一 ,   清水幸夫

ページ範囲:P.143 - P.147

I.はじめに
 1923年Levaditiにより,vaccinia virusがEhrlichascites tumorにoncolyticに作用する5)と報告されて以来,動物実験においても臨床症例においても,いろいろなvirusを用い多くの試みがなされ,1950年代においては一世を風靡した感がある7),しかしながら腫瘍も殺すが宿主も殺すという感のもてる,virus感染による重篤な副作用も同時に確認され,やがて治療法としては忘れ去られるべき運命をたどったように思われる.
 最近,浅田は悪性腫瘍患者に対し,mumps virusを投与し,一過性の中等度発熱以外の副作用は認められず,腫瘍に対して効果の認められた症例を報告した1).そしてその作用機序としてdirect oncolysis以外による可能性も示唆した6)

Interferonによる悪性脳腫瘍の治療

著者: 上田聖 ,   平川公義 ,   鈴木憲三 ,   中川善雄 ,   伊林範裕 ,   岸田綱太郎

ページ範囲:P.149 - P.154

I.はじめに
 2種類のvirusが相前後して,または同時に感染した場合それらのvirusの増殖が相互に抑制されることは干渉現象として古くより知られていたが,これが中和抗体でも,virus粒子そのものでもない液性因子であることをはじめて発見し,virus抑制因子(facteur inhibi-tieur)として報告したのが本邦の長野,小島9)である.その後Isaacs,Lindenmannら4)がinterferonと命名してからその名称が広く使用され,当時進歩しつつあった分子生物学を背景に活発に研究されるようになった,そして1960年後半になりinterferon(以下IFNと略す)の持つ多様な生物活性がvirusのみならず腫瘍に対しても増殖抑制効果を示すことが知られて,より一段と注目と期待が集中するようになった.しかしながらIFNの供給面の不足もあって,抗腫瘍効果については基礎的にも臨床的にも充分な効果判定がなされる段階には到っておらず,脳腫瘍に対する効果についてもほとんど不明である13),今回われわれは9例の悪性脳腫瘍患者に対してヒト白血球interferon(Hu-IFN-α)3)を単独投与し,その効果について検討した.

植物状態患者およびその脱却例における睡眠

著者: 岡伸夫 ,   児玉南海雄 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.157 - P.165

I.はじめに
 近年,医療技術の進歩に伴い,頭部外傷,脳血管性障害などによる重篤な脳障害患者が一命をとりとめ,失外套症候群9),無動性無言症3)など,いわゆる"植物状態"と呼ばれる状態となり,長期間生存するようになってきた.この植物状態患者7,8,18,19)は,無動無言,意思疎通不能などの臨床症状を主体とする遷延性意識障害患者であるが,睡眠覚醒リズムが保たれている点が,いわゆる昏睡とは異なった点であるといわれている.この植物状態患者における睡眠に関しては,これまで報告は少なく2,5,11,14),本稿ではまず植物状態群の24時間脳波を記録し,睡眠のパターンにつき検討し,次いで植物状態から脱却した患者群においても同様の記録を行い,両群を比較対照した結果につき考察した.

虚血性脳血管障害への血行再建術の効果予知法としてのInduced mild hypercapnia法—Induced hypertension法と対比して

著者: 大塚邦夫 ,   中川翼 ,   都留美都雄 ,   竹井秀敏 ,   伊藤和夫

ページ範囲:P.167 - P.174

I.はじめに
 脳主幹動脈閉塞または狭窄により惹起された虚血性脳血管障害に対する頭蓋外-頭蓋内血管吻合術(以下by-pass surgeryと略す)は,TIA,RIND症例への再発作の予防,またcompleted stroke症例への治療の目的で広く行われている.しかし,その手術適応については,いまだ論議が多く,手術適応の基準ならびに手術効果を予知する方法の確立が望まれている.手術効果予知法として,術前に適切な方法で虚血脳へ血流を増加させ,虚血脳の機能的可逆性を知ることが,術後の機能的予後の予知に通じ,大切である.
 著者らはCO2吸入によるinduced mild hyperca-pnia法18,20)を用いた手術効果予知法の実験的研究12-20)の結果をふまえ,本法を臨床例に応用し,術後6-9ヵ月間の経過観察を行った.本論文では,induced mildhypercapnia法のもつ虚血性脳血管障害症例への血行再建術の効果予知法としての意義について,induced hy-pertension法5,6)と対比し,検討した結果を報告する.

症例

中大脳動脈閉塞を来たした先天性Antithrombin III (AT III)欠乏症の1例

著者: 堀江幸男 ,   甲州啓二 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃 ,   高橋薫 ,   桜川信男 ,   富川正樹

ページ範囲:P.177 - P.183

I.はじめに
 若年者での脳梗塞の病因は,高齢者における動脈硬化を基礎としたものと比べ,その様相を異にし,心疾患,血液疾患,炎症性疾患などが挙げられているが,実際には病因不明なものが最も多いとされている7)
 今回われわれは,従来は病因不明として片付けられていたと思われる若年者の中大脳動脈閉塞例で,その病因が先天性antithrombin III(AT III)欠乏症と考えられた1例を経験したので報告し,併せて若干の文献的考察を行う.

Prolactin産生下垂体Microadenomaの男性例

著者: 寺本明 ,   高倉公朋 ,   佐野圭司 ,   福島孝徳 ,   石橋みゆき ,   山路徹

ページ範囲:P.185 - P.190

I.はじめに
 近年,下垂体前葉ホルモンのradioimmunoassayの確立は,下垂体腺腫の臨床に飛躍的な発展をもたらした.なかでもprolaction(以下PRLと略す)定量の意義は大きく,functioning Pituitary microadenomaという臨床概念が導入され,今日の関心事の1つとなっている18,21)
 PRL産生microadenomaは,女性の場合,典型的には無月経・乳汁分泌症候群を来たすことがよく知られ,通常,続発性無月経または不妊を主訴として婦人科を初診することが多い.一方,男性のPRL産生腺腫は,一般に視力・視野異常を伴ったIarge adenomaであり,症候的にはnon-functioning adenomaと区別できず,血中PRLの測定によってはじめて診断される6).理論的には,男性例においても陰萎,性欲低下,不妊を契機としてmicroadenomaが発見されるはずであるが,女性の場合ほど受診動機が明瞭でないためか,PRL産生microadenema男性例の報告は極めて少ない2,15,17)

同時に発生した両側高血圧性脳内出血の1例—文献的考察とともに

著者: 杉浦誠 ,   氷室博 ,   谷川達也 ,   別府俊男

ページ範囲:P.193 - P.198

I.はじめに
 高血圧性脳内出血の病態,予後,手術適応などについては多くの報告があり,CT出現以後,更に詳細な研究が相次いでいる.しかし高血圧性脳内出血の両側発生については報告も少なく,その臨床症状,病態,予後などもあまり明らかにされていない.著者らは,同時に発生したと思われる両側高血圧性脳内出血の1症例を経験したので,若干の文献的考察とともに報告する.

急激な視力障害にて発症した海綿状血管腫の1例

著者: 平田好文 ,   松角康彦 ,   福村昭信

ページ範囲:P.201 - P.206

I.はじめに
 硬膜や頭蓋骨より発生し,傍鞍部から中頭蓋窩を占拠する海綿状血管腫は稀な疾患であり,少数例の報告をみるにすぎない.また,従来より,臨床症状や神経放射線学的検査で特徴的所見に乏しいため,診断が困難なことが多く,治療上の問題も多いとされている.しかし最近,CT所見より術前に予測が可能であったとの記載も散見されるようになり4,13,23),臨床像や治療方針にも新たな検討が加えられている.われわれは,急激な視力障害で発症し,極めて特異なCT像を呈した症例を経験した.本症における急性発症の機序とCT所見について若干の文献的考察を加えて報告する.

外傷性急性大脳半球間裂血腫の1例

著者: 岡本順二 ,   伴昌幸 ,   坂本学 ,   高杉晋輔 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.209 - P.213

I.はじめに
 急性硬膜下血腫の多くは大脳円蓋部にみられる.動脈瘤や動静脈奇形のような脳血管病変を大脳半球裂に持つ例1)を除き,一般の頭部外傷によって大きな血腫が,主としてこの大脳半球裂にみられるという例は極めて少ない.われわれはこのような,いわゆる外傷性急性大脳半球裂血腫の1例を経験したので,この例の検査所見およびその発現機序などにつき,若干の文献的考察を加え報告する.

前交通動脈瘤に合併した石灰化巨大下垂体腺腫の1例

著者: 和田美弦 ,   長谷川毅 ,   高橋邦丕 ,   阿部祐一 ,   石井昌三

ページ範囲:P.215 - P.220

I.はじめに
 石灰化巨大下垂体腺腫は非常に稀である.われわれは,前交通動脈瘤と著明な骨破壊と石灰化を呈した巨大下垂体腺腫の合併例を経験したので,その病理組織像と石灰化の成因について,若干の文献的考察を加えて,ここに報告する.

反衝損傷により発生したPosterior fossa subdural effusionの1例

著者: 金子大成 ,   中村紀夫 ,   鈴木敬 ,   坂井春男 ,   篠田宗次 ,   神吉利典

ページ範囲:P.223 - P.227

I.はじめに
 外傷によるPosterior fossa subdural effusionは,テント上に比べ数は少なく,CT導入前は比較的診断が難しい病態であった.
 また外傷性後頭蓋窩損傷は,そのほとんどが後頭部受傷によるものであり,前頭部受傷によるものは非常に稀であるとされている.最近われわれは,前頭部受傷後にみられたposterior fossa subdural effusionが自然治癒した興味ある症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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