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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科10巻4号

1982年04月発行

雑誌目次

日に新に日々に新に又日に新なり

著者: 朝倉哲彦

ページ範囲:P.347 - P.348

 今回は歴史散歩と洒落れてみよう.とはいっても現実の鹿児島では,残暑と桜島の降灰で散策どころではない.もっぱら机上の逍遙というところ.
 さて遙かにかえりみれば,ここには古事記の世界がある.火山灰台地のボラ・コラ層から成るこの特殊な地帯に繰り拡げられた古代のロマンに想いを馳せると,もはや涯しない.せめて島津氏入部以降のことにしよう.

総説

経皮的電気刺激による除痛法—1/f変動の生理学的意義

著者: 高倉公朋

ページ範囲:P.349 - P.357

I.はじめに
 近年,神経系電気刺激による除痛法が広く治療に用いられるようになってきている.これは外科的な痛覚伝導路の破壊によって痛みをとる従来の方法が神経機能の脱落を伴うのに対して,電気刺激法では,機能を保存することができるし,患者に不安や苦痛を与えることがなくて好まれるからである.電気刺激法には,定位脳手術的に中心灰白質へ電極を埋め込んで電気刺激を行うHoso-buchiら1,2)の方法,脊髄後索を直接または硬膜外から電気刺激する方法3-5)(spinal cord stimulation=SCS,またはdorsal column stimulation=DCS)と経皮的末棺神経電気刺激による除痛法6,7)(transcutaneous elec-trical nerve stimulation=TENS)とがある.
 痛みを除くということは,医療のなかでも最も基本的な目的の1つであるが,痛みを除くことは,同時に患者の不安を取り除くことでもある.したがって,その目的を達する手段もできる限り非侵襲的であることが望ましいし,痛みを除くために手術のようなより大きな不安を患者に与えることは,本来望ましいことではない.実際,癌末期の患者の痛みを治療するに際しても,大多数の患者と担当医師は手術的な治療よりもむしろ麻薬の使用を好むのであって,それを単に安易な治療法であるとは言いきれないのである.医療の本質を考えれば経皮的電気刺激による除痛法は危険性,副作用と不安感がなく理想的ではあるが,反面,その欠点は除痛が不確実で,完全な痛みの消失が得られ難いことである.しかし現実には,この方法は年々広く普及し,その治療を求める人の数も増加している.そこで,本稿では経皮的電気刺激による除痛法について概説する.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頸静脈孔付近の腫瘍

著者: 白馬明

ページ範囲:P.359 - P.367

I.頸静脈孔の解剖
 頭蓋底よりみると,頸静脈孔(jugular foramen)は側頭骨の頸静)脈窩(jugular fossa)と後頭骨との間に形成される不正形の裂孔で,その前方には骨稜により頸動脈管孔と分けられている.また内側には薄い骨板により舌下神経管と分けられている(Fig.1).頭蓋内よりみると,頸静脈孔(jugular forarnen)は錐体後頭裂(petro-occipital fis-sure)の後端にあり,前方から下方へ,そして外側へ向かって頭蓋外に開く.その上縁は鋭く,不規則で舌咽神経の通過する部位に切れ込み(notch for theglossopharyngeal nerve)がある.下縁は平滑で整っている.頸静脈孔の内縁からその下縁は頸静脈結節(jugular tubercle)といわれ,後頭骨の外側部の骨より形成されている.頸静脈孔のやや後下方には舌下神経管(hypoglossal canal)があり,その内の開孔部は,後頭骨の頭蓋底部(basilar portion)と外側部(lateral portion)との境目を貫通している(Fig.2).頸静脈孔の前部を下錐体静脈洞が通り,中間部を第IX,X,XI脳神経,後部を内頸静脈が通過する.内頸静脈の上球(superior bulb)がよく発達している場合には,側頭骨の頸静脈窩もそれに伴って大きく上-外方に突出している11)

海外だより

チューリッヒ州立大学脳神経外科

著者: 湧田幸雄

ページ範囲:P.370 - P.373

 今月はスイス,Zürich州立大学脳神経外科の様子を山口大の湧田先生に書いていただいた.Dr.Yasargilの手術の模様など興味深く,生き生きとした診療・研究体制が伝わってくる.

研究

徐放性抗癌剤ペレットによる脳腫瘍の治療—83例,3年間の経験より

著者: 織田祥史 ,   内田泰史 ,   村田高穂 ,   森惟明 ,   徳力康彦 ,   半田肇 ,   小林映 ,   端和夫 ,  

ページ範囲:P.375 - P.381

 silicone製品が薬物を吸着し,またこれを放出する性質をもっていることが1964年Folkman4)によって発表されて以来,種々の薬剤の放出についての基礎的研究がなされてきた.
 われわれは脳腫瘍の局所治療への応用を企図して,1974年より主に抗癌剤の放出についての実験を行ってきた9-11).その結果in vitroの実験において,放出量は封入薬剤の量,siliconetubeの表面積,壁の厚さ,外液の温度によって規定されるが,封入薬剤の種類や外液の種類によっては,あまり影響をうけないことがわかった.

MetrizamideによるTotal myelography—170例の経験

著者: 小山素麿 ,   内堀幹夫 ,   霜坂辰一 ,   五十嵐正至 ,   相井平八郎 ,   半田譲二

ページ範囲:P.383 - P.392

I.はじめに
 水溶性造影剤の副作用が浸透圧に関係することが明らかにされ20,29),Almen4)が非イオン性低浸透圧性の造影剤の開発を促したことからmetrizamideが誕生し,多くの基礎的49,56,68),臨床的研究1,30,53),をへて,1972年以来,主としてヨーロッパで広く臨床に用いられるようになった9,23,32,35,54,55,71)
 次いでKehler36),BoydとGardiner,Jr.8),Skalpe60,61),SackeuとStrother48)らによって新しい脊髄くも膜下腔造影法が紹介され,今日では各国でこの方法が,従来からの油性造影法,ガス造影法に変る趨勢にある.

実験的移植脳腫瘍の神経放射線学的検索

著者: 宇都官隆一

ページ範囲:P.395 - P.402

I.はじめに
 glioblastomaは,最も治療困難な脳腫瘍の1つであり,この腫瘍に対する外科手術,放射線療法,化学療法,免疫治療およびこれらの併用療法によるchallengeが続いている.
 しかしながら,これらの治療にもかかわらず,このglioblastomaのsurvival timeは極めて短く,さらに,生存してもADLは低く,満足できる状態だとはいえない.

視床出血の予後に関与する因子の検討

著者: 郭隆璫 ,   加藤甲 ,   山本信孝 ,   飯塚秀明 ,   伊東正太郎 ,   角家暁 ,   鈴木尚

ページ範囲:P.405 - P.412

I.はじめに
 視床出血の診断はCTスキャンにより迅速,的確になされるようになったが,急性期において予後を推定する判断基準やその根拠については,これまで明確な結論が出ていないと思われる.そこで急性期において,いかなる因子が視床出血の予後に関与するか検討を行った.

症例

頭部銃創により脳内血腫を生じた幼児の1手術治験例

著者: 笠井直人 ,   溝井和夫 ,   小沼武英

ページ範囲:P.415 - P.420

I.はじめに
 わが国における平時の頭部銃創の報告は欧米に比し非常に少なく,あっても自殺による銃創が多いためか,その予後は極めて悪い.今回われわれは,近距離からピストルの射撃を受け,脳内血腫を来たし昏睡に陥った幼児を手術により幸いにも救命しえたので,治療上の問題とともに若干の考察を加え報告する.

外傷性後下小脳動脈動脈瘤の1治験例

著者: 谷諭 ,   舟橋鏡一 ,   橋本卓雄 ,   宮下瑛 ,   真田祥一

ページ範囲:P.423 - P.427

I.はじめに
 外傷性脳動脈瘤は一定程度以上の重症頭部外傷後に生ずる稀な疾患である.特に最近はCTの普及により必ずしも補助診断として脳血管撮影を行わぬため,この疾患を念頭に置かぬ限り,臨床的に未然に診断することは難しい.われわれは,受傷後いったん軽快に向かった臨床症状が第10病日あたりより増悪するという経過をとった患者に繰返して施行したCTで結論を得ず,右椎骨動脈撮影にて右後下小脳動脈動脈瘤を発見し,右後下小脳動脈本幹のクリッピングにより軽快退院した,外傷性と思われる脳動脈瘤を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋骨に原発した巨細胞腫—自験例と文献的考察

著者: 中尾哲 ,   福光太郎 ,   尾形誠宏 ,   谷口郷美

ページ範囲:P.429 - P.433

I.はじめに
 頭蓋骨には,内板,板間,外板のそれぞれから腫瘍が発生する.頭蓋骨内板からは髄膜腫が,外板からは骨腫が,板間からは転移性腫瘍のほかに種々のmesenchy-mal originの原発性腫瘍の発生が知られている.最近,われわれは頭蓋骨に原発した巨細胞腫(giant-cell tu-mor,osteoclastoma)を経験した.本腫瘍の多くは膝関節周囲の長管骨骨端に発生し,頭蓋骨に原発することは稀であるので,本症例を報告し,本腫瘍の診断と治療について若干の文献的考察を加えたい.

Suprasellar arachnoid cystの1例

著者: 高橋徳 ,   川合省三 ,   上農哲朗 ,   平松謙一郎 ,   前川基継 ,   湯浅隆史 ,   宮元直数 ,   服部裕

ページ範囲:P.435 - P.441

I.はじめに
 くも膜嚢腫はその特徴的な所見18,20),のためにCTにより比較的容易に診断しうることから経験される機会が増加してきているが,髄液腟との交通性の有無や手術法の検討など幾つかの問題点をもっている23).著者らは本邦においては報告の少ない鞍上部くも膜嚢腫の1例を経験したので,主として手術方法を中心に若干の文献的考察を併せて報告する.

Shunt術後,全Shunt systemが硬膜下血腫腔に移動した1小児例

著者: 久門良明 ,   榊三郎 ,   河野兼久 ,   宍戸豊史 ,   郷間徹 ,   松岡健三 ,   吉本尚規

ページ範囲:P.443 - P.446

I.緒言
 現在,水頭症に対する治療法として脳室心房短絡術(以後V-A shuntと略す)および脳室腹腔短絡術(V-Pshuntと略す)が広く行われ,また難治性の硬膜下腔液貯留に対して硬膜下腟腹腔短絡術(S-P shuntと略す)がよく用いられている.これらのshunt手術は簡便であり,極めて有効な手段ではあるが,一方,shunt ca-theterの閉塞および位置移動などの合併症が頻々と経験される.このため,shunt catheterの材質の改良および手術術式の工夫など本術式にはなお残された問題がある.
 今回,著者らは両側慢性硬膜下血腫後の硬膜下水腫症例に対してS-P shuntを施行したところ,一側の全shunt systemが硬膜下腟内へ迷入した症例を経験したので,本例のshunt術後の合併症の機序について若干の考察を加えて報告する.

大動脈炎症候群に伴った前交通動脈瘤の1手術治験例

著者: 今泉茂樹 ,   長嶺義秀 ,   中村信之 ,   片倉隆一 ,   樋口紘

ページ範囲:P.449 - P.455

I.はじめに
 大動脈炎症候群とは,大動脈およびそれに近接した基幹動脈が後天的な慢性非特異性炎症により,血管内腔の狭窄や閉塞を来たしたために生ずる諸症状を総称したものであり,"脈なし病"13,14,18)とか"高安病"19)と呼ばれている.本症候群は圧倒的に女性に多く(約96%),しかもその70%が10代,20代の若い女性に発生する13,14).一方,脳動脈瘤と本症候群の合併の報告は,渉猟しえた限りでは7例であり,救命3例1,5),死亡4例5,8,16)である,直達手術により救命された症例は本症例を含めて2例5)のみであり,その発生部位は,4例が椎骨-脳底動脈系,2例が内頸-後交通動脈分岐部,前交通動脈瘤は本症例のみであるため稀有な症例と考え,症例報告とともに,脳動脈瘤の発生成因,動脈瘤直達手術の注意事項などについて若干の考察を加える.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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