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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科10巻6号

1982年06月発行

雑誌目次

Academic neurosurgeon

著者: 森惟明

ページ範囲:P.575 - P.576

 明治維新後の日本の発展は教育に負うところが大きいということは今さら述べるまでもないが,国家百年の計を立てた先人の明に改めて敬意を表する次第である.日本の脳神経外科学も欧米の水準に達し,今や対等の立場で学術交流が行えるようになった.これもひとえに日本脳神経外科学会が中心となり,卒後教育を強力に推しすすめてきた成果といえよう.
 現在の脳神経外科がCushing,Dandyらが始めた頃に比べ,診断,治療面でいろいろの進歩のみられたことは明らかである.しかし,脳神経外科診療の中核をなす手術,すなわち開頭術をみると,microsurgeryの導入による変革はみられたが,その骨子には大きな変化を認めることはできない.最近の治療成績の向上は,診断の進歩,新しい手術機器の開発など,手術手技以外の他の領域の進歩に負うところが大きい.もう1つ見逃してはならぬことは,以前は脳外科手術は名人芸に属す部分が多く,少数の外科医しか行えなかったが,今日では若い脳外科医がどんどん手術を行えるようになったということである.これは,脳神経外科医養成のための教育が充実したためで,教育が名人をなくしたといえる.

総説

めまい

著者: 朴沢二郎

ページ範囲:P.577 - P.583

I.はじめに
 めまいは広い臨床分野においてみられる症状の1つである,めまいを主訴とする患者の診断は境界領域にまたがる複数の診療科の協力によって行われ,かつ治療が施される場合が多い.
 めまい患者を診るとき,まず知りたいことは次の点である.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頸部頸動脈内膜切除術

著者: 小野博久 ,   横山博明

ページ範囲:P.585 - P.590

I.はじめに
 頸部頸動脈の狭窄性および潰瘍性病変に対して,いろいろの異なった手技で頸動脈内膜切除術(Carotid Endarterectomy,以下CEAと略す)が行われる.しかし従来の方法は欧米人の頸動脈を対象としたもので,本邦例の頸動脈は,①比較的小口径で,②分岐部位置が高く,③病変は線維性粥腫が多く,④同側に頭蓋内血管病変を伴うことが多いのが特徴的である1-4).これらの解剖学的および臨床的特徴のために,われわれのCEA手技は若干従来の方法とは異なっているが,本邦例のCEAを安全に行うためには,そのような配慮が必要であろうと考える.以下,解剖を中心にCEAの一方法としての著者らの手技を述べるが,紙数の都合で従来の方法との比較は他の文献1,2)にゆずりたい.

鼎談

脊椎破裂

著者: 佐野圭司 ,   高久晃 ,   佐藤潔

ページ範囲:P.592 - P.600

 "鼎談"は本誌として初めての試みです.第1回は「脊椎破裂」をとり上げ,3人の先生に縦横に論じていただきました.第2回は「脳動静脈奇形」を予定しております(掲載号は未定).

海外だより

Anthony J. Raimondi教授のレジデント教育

著者: 大井静雄

ページ範囲:P.602 - P.605

 1975-80年,Northwestern大学脳神経外科でレジデントを修められた大井先生に,Raimondi教授のレジデント教育を書いていただいた.

研究

ラット脳腫瘍に対するPicibanil脳内局所投与の及ぼす効果—組織学的変化について

著者: 徳力康彦 ,   武内重二 ,   半田肇 ,   織田祥史

ページ範囲:P.607 - P.616

I.はじめに
 脳腫瘍を組織学的にみると,他の臓器の腫瘍に比べ網内系細胞反応に乏しいが,今までに報告されたヒト脳腫瘍の解析では,Schifferら16)(1974)の200例のgliomaで50%にリンパ球の浸潤がみられたという報告を最高に,いくつかの報告がみられる14).DiLorenzoら(1977)2)によれば,網内系細胞反応の程度はglioblastomaの予後と相関関係がみられる可能性を示唆している.最近,Morants(1979)8)は,腫瘍内macrophageの存在に注目し,EAC rosette formation assayを用いて,47例の脳内腫瘍のほとんどすべてにmacrophageの存在を認めているが,やはりmacrophageの浸潤の程度の強いものほど予後は良好という推定をしている.
 そこで,治療という面より考えると,人為的に網内系細胞反応を増強させることにより,腫瘍増殖の抑制が可能と思われる.

Bromocriptine投与に伴うProlactin産生下垂体腺腫の病理学的変化

著者: 寺本明 ,   高倉公朋 ,   福島孝徳 ,   長村義之

ページ範囲:P.619 - P.627

I.はじめに
 1968年Flückiger and Wagner2)によって開発されたbromocriptineは,prolactin(以下PRLと略)産生腺腫のみならず,種々の原因による高PRL血症に著効を示し,内分泌機能面の治療成績は極めて良好である4).また,一部のPRL産生腺腫では,腫瘍容積の縮小・消失が経験され16),抗腫瘍効果も期待されている.しかし多くの場合,bromocriptineの投与により血中PRL値の低下は認められるものの,腫瘍としての治癒は得られないようである.すなわち,年余にわたって継続投与しても,これを中止すると直ちに血中PRL値の再上昇がみられ,また一時縮小した腫瘍が再燃する場合も経験する.
 bromocriptineの作用機序に関する基礎的,実験的検討の研究は枚挙に暇がないが,PRL産生腺腫臨床例に関して病理学的に検索したものは極めて少ない3,10).特にbromocriptineの長期投与により腫瘍が縮小した段階における組織学的検索の報告はみられない.

脳卒中後中枢性疼痛に対する視床正中中心核破壊術の効果と限界

著者: 新妻博 ,   郭隆燦 ,   大山秀樹 ,   池田俊一郎 ,   鈴木二郎 ,   笹生俊一

ページ範囲:P.629 - P.635

I.はじめに
 視床痛に代表される中枢性疼痛は,各種頑痛症のなかでも最も治療困難なものの1つであり,薬物療法はもちろん,視床,中脳レベルなどでの破壊術,さらには深部脳刺激による除痛術も試みられているが,なお最も治療困難な疾患であることに変わりはない.
 著者らはこれまでに,脳血管障害後の中枢性疼痛例18例に対して,視床正中中心核(CM核)破壊術を施行してきた,本論文では,CM核破壊術の効果およびその限界について述べ,あわせて,18例中17例を占める視床痛の検討から,いくつかの興味ある所見を得たので報告する.

虚血性脳血管障害に対する人工血液(Fluosol DA−20®)の治療効果

著者: 織田祥史 ,   村田高穂 ,   内田泰史 ,   森惟明 ,   長沢史朗 ,   鳴尾好人 ,   安里令人 ,   半田肇

ページ範囲:P.637 - P.644

I.はじめに
 1966年Clarkがfluorocarbonの一種であるperfluo-robutyl tetrahydrofurane(FC−75)の液中呼吸でマウスを生存させることに成功して以来,perfluorochemicals(PFC)の高い気体溶解性を利用しての人工血液としての応用が企図されてきた.その物理的,化学的基礎および諸臓器への影響は,すでに十余年にわたってGeyer1),Sloviter17),大柳ら14)によって研究されてきたが,その効果と副作用および生物学的半減期などの問題から,現在ではFC−43(perfluorotributylamine)とFlusol-DA(Table 1)が臨床応用の中心として研究されている.
 われわれもすでにイヌ6,11)およびサル7)を用いてFluo-sol-DAによる脳への影響を検討し報告してきたが,その両者において脳血流量の有意な増加が認められた.特に後者においては,水素電極法によりFluosol-DA 20%を8ml/kg点滴静注すると,脳血流量は6-24%(Fluo-crit平均1.3%)増加し,脱血交換法で20ml/kg投与すると,5-94%(Fluocrit平均4.6%)増加することが確認された7)

症例

大脳縦裂部急性硬膜下血腫の2症例

著者: 重森稔 ,   川場知幸 ,   白浜盛久 ,   徳富孝志 ,   原邦忠

ページ範囲:P.647 - P.652

I.はじめに
 大脳縦裂部硬膜下血腫の報告例は,CTの普及した現在なお少なく,文献上十数例の報告をみるにすぎない1,4,6,8-10).大部分の症例は頭部外傷に起因しており,血液疾患に伴って発生したとする報告は見当らないようである.また,大脳縦裂部以外の部位に同時に硬膜下血腫がみられることも成人例では極めて少ないようである3)
 最近われわれは,血友病Bを有する患者に,非外傷性の大脳縦裂部急性硬膜下血腫を生じた症例,および頭部外傷後に,大脳縦裂部および穹窿部の2ヵ所に急性硬膜下血腫を生じた症例の2症例を経験した.両症例とも大脳縦裂部血腫は保存的治療により消失したが,いずれもその発生機転や病態,さらに治療方針など,臨床上示唆に富む症例と考えられるため,若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋骨に単発性転移を生じた肝細胞癌の1例

著者: 安永暁生 ,   辻村雅樹 ,   柴田尚武 ,   小野博久 ,   森和夫 ,   安部正之 ,   土屋涼一

ページ範囲:P.655 - P.658

I.はじめに
 頭蓋骨転移を来たす主なものは,乳癌,肺癌,前立腺癌,甲状腺癌,腎癌などであり,消化器癌や子宮癌よりの転移は稀とされている.われわれは頭蓋骨にのみ転移を生じた肝細胞癌の1例を経験し,転移巣および原発巣の切除を行い組織を確認することができたが,かかる頭蓋骨への単発性転移を来たした症例の報告は見られていない.

腫瘍出血を伴った小児の嚢胞性髄膜腫の1例—症例報告および文献的考察

著者: 井上優 ,   酒井淳 ,   福嶋政昭 ,   三宅仁志 ,   安永暁生 ,   川野正七 ,   徳安清昭 ,   宮崎久彌 ,   松村豪一

ページ範囲:P.661 - P.664

I.はじめに
 髄膜腫は通常,充実性の腫瘍であり,一般に徐々に発育し臨床的に慢性的経過をとる脳腫瘍である.髄膜腫は,成人例ではその頭蓋内腫瘍の13-18%を占めるが,15歳以下の小児では,Matson8)によれば小児頭蓋内腫瘍750例中3例(0.4%)に過ぎない.また,肉眼的に大きな嚢胞を伴った髄膜腫は.Cushing&Eisenhardt3)や佐藤12)らの報告によれば,頭蓋内髄膜腫の1.2%から2.2%を占めるに過ぎない.
 最近われわれは,大きな嚢胞を伴い,しかも嚢胞内に出血を来たして急性発症し,手術によって全治せしめえた小児例を経験したので,本症例を報告するとともに,髄膜腫の嚢胞形成ならびに腫瘍出血の発生機序について考察を加える.

外傷性大脳半球間硬膜下血腫—症例報告および7報告例の検討

著者: 佐藤透 ,   山本祐司 ,   浅利正二 ,   貞本和彦

ページ範囲:P.667 - P.672

I.はじめに
 外傷性硬膜下血腫は,閉鎖性頭部外傷の合併症として生ずる頭蓋内血腫のうちの約半数を占め10),われわれ脳神経外科医にとってさほど珍しいものではない.しかしながら,大脳半球間に限局してみられる硬膜下血腫となると,その報告は極めて少なく,われわれの調べえた範囲では,1955年Jacobsenが最初に報告して以来,記載の十分なものは6例3,5,7,9,13,18)を数えるにすぎない.
 最近われわれは,転落により前頭正中部を打撲し,頭痛,嘔気を訴え.さらに軽度の左下肢単麻痺を来たし,biplane CTにて大脳半球間に硬膜下血腫が認められた1例を経験した.

頸髄Spontaneous hematomyeliaの1手術例

著者: 北原孝雄 ,   宮坂佳男 ,   大和田隆 ,   矢田賢三 ,   米良博光

ページ範囲:P.675 - P.679

I.はじめに
 発症に先駆するmyelopathyを認めず,突然の疼痛発作後,急激に進行するlong tract signを特徴とする,いわゆる"spowaneous hematomyelia"は稀な疾患とされている.
 今回著者らは,病理組織学的にcavernous hemangio-maが原因であった上位頸髄部の"spontaneous hemato-myelia"の1手術例を経験し,良好な結果を得たので報告するとともに,本疾患の概念,臨床像,診断および治療上の問題点に関して検討を加える.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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