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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科10巻7号

1982年07月発行

雑誌目次

シナントロプス

著者: 内海庄三郎

ページ範囲:P.685 - P.686

 「シナントロプス(Sinanthropus)」.手元にある世界大百科事典(平凡社)を開いてみる.「シナントロプス ペキネンシス」と出てくる.<北京猿人>またはく北京人〉ともいわれる,中国北京南西に位置する竜骨山から発掘された第2間氷期の化石人類である,と紹介されている.原人とか猿人といえば,その他にジャワ原入,ネアンデルタール人などと呼ばれるものもあることはわずかに記憶に残っている.
 しかし,ジャワ原人はピテカントロプスで,シナントロプスではない.シナントロプスという言葉はすべての原人とか猿人を意味する言葉ではなく,David Blackが竜骨山から発掘された人類の化石に1927年に命名した言葉であるらしい.したがって,人類学の分野ではシナントロプスはシナントロプス・ペキネンシスと同義語に使われているようである.このシナントロプス頭蓋骨の特徴は,脳頭蓋は極めて低く,幅は耳孔のすぐ上で最大で,あがるにつれて狭くなる.両眼窩の間隔は広く,鼻根部は扁平で,幅が広い……であるらしい.しかし,わたくしが「シナントロプス」という言葉にある感慨,関心をもったのは,決してこの狭頭症その他と類似した頭蓋骨あるいは顔面骨の特徴のゆえではない.

総説

痛みに対する定位脳手術

著者: 天野恵市

ページ範囲:P.687 - P.695

I.はじめに
 痛みに対する定位脳手術というテーマは,これまで長い年月をかけて多くの研究者や臨床家が取り組んできた大きな問題であり,この問題に関する歴史的経緯と現況,さらに将来の展望ということになると,3日間程度のシンポジウムを行っても,おそらくそこにおさまりきれないほどの議論と問題提起があるであろうことはまちがいない.
 さて痛みに対する定位脳手術とは一体何であろうか.通常の手段すなわち内科的薬物治療や神経ブロックなどの麻酔科的手段をもってしてもなおかつ持続する激しい痛みに対して,定位脳手術の手法を用いて治療するもの,といってしまえばいとも簡単であるが,そこには2つの大きな問題が存在する.すなわち,痛みの本質は一体何であるのかという問題,さらに定位脳手術とはどういう手術であり,特に痛みの治療において取りあげられるべき今日的意義は何であろうか,ということである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

脊髄血管腫の手術手技

著者: 斉藤勇

ページ範囲:P.697 - P.701

I.はじめに
 脊髄の血管腫(angioma)は稀な疾患ではないが,頻度の高い疾患でもない.1969年3月に第1例目のhe-mangioblastomaの全摘出手術を行って以来,1980年までにわれわれが経験した脊髄血管腫は,動静脈奇形(AVM)20例,静脈奇形(venous angioma)1例,telangiectasia 3例,hemangioblastoma 3例などである9).また治療法としても,初期には脳外科領域にmi-crosurgeryが導人された時期とも相まって積極的に全摘出を試みたが,最近ではAVMに関しては,いわゆるartificial embolizationによるfeeding arteryの閉塞術も治療効果が少なくないものとして広く普及してきている5)
 ここでは脊髄の血管系の解剖を基礎に,血管腫のなかからAVMとhemangioblastomaを取り上げて,その手術手技について述べることにしたい.

海外だより

東京=ベルリン=グラスゴー

著者: 茂野卓

ページ範囲:P.704 - P.707

 ベーム指揮の演奏会をききながらのインスピレーション……ベルリンから,いまはグラスゴーに移り,研究生活をつづけている茂野先生に今月は書いていただきました.

研究

脊髄神経鞘腫22例の臨床的検討—特にCT metrizamide myelographyおよびCO2レーザーの有用性について

著者: 河栄秀 ,   山下純宏 ,   青山育弘 ,   石川正恒 ,   半田肇

ページ範囲:P.709 - P.716

I.はじめに
 脊髄神経鞘腫は良性の腫瘍であり,適切な診断と治療により全治せしめることができる.諸外国と異なり,わが国では従来,脊髄疾患は整形外科において取り扱われる傾向があり,本疾患に関する脳神経外科的文献に乏しい.本稿では22例の自験例を検討するとともに,近年CT metrizamide myelographyおよびCO2レーザー装置の出現により,本疾患の診断と治療に新しい展開がみられていることを強調したい.

ヒト視床を中心とした電気生理学的Atlas—MicrocomputerによるMappingの試みと定位脳手術への応用

著者: 吉田昌史 ,   水木仁 ,   永瀬章博 ,   空閑茂樹 ,   白浜盛久 ,   渡辺光夫 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.719 - P.728

I.はじめに
 今日の定位脳手術は,正確に最適のtargetを選定し,最小の治療的破壊がなされる安全な手術であり14),L-dopaをはじめとする種々の薬物療法の開発後も,主として錐体外路系疾患に対する治療手段として重要な役割をはたしている11)
 手術手技的には,術中に電気生理学的検索で視床を中心とする皮質下諸核を同定し,破壊巣が正確に選定されているが,この際得られる電気生理学的情報には,振戦を始めとする錐体外路系疾患の発生機序に関して,興味ある多くの知見が含まれている.この電気生理学的情報の蓄積により,諸疾患の病態生理の解明および治療が,今後さらに進歩することが期待される.これらの情報の取扱いには,その量が膨大となりがちであるので,最近ではcomputerを使用したsystemで能率よく分析・処理がなされるようになってきた5-10,12,16,17).またこのsystemは術中にも活用することが可能で,定位脳手術がより正確に,また能率よく行えることになる2,3,12,16,17)

症例

右眼窩上壁より発生した巨大なChondromyxoid fibromaの1治験例

著者: 金丸禮三 ,   権藤昌澄 ,   平原一穂 ,   浜田博文 ,   三原忠紘 ,   朝倉哲彦

ページ範囲:P.731 - P.736

I.はじめに
 軟骨性起原の腫瘍の頭蓋内発生(頭蓋骨も含む.以下同じ)は極めて稀であり,全頭蓋内腫瘍の0.03%以下といわれる4).なかでもchondromyxoid fibromaは,1949年Jaffe and Lichtensteinにより命名されているが,その頭蓋内発生の報告は極めて少ない12,22,24,27,29).今回われわれは,右眼窩上壁より発生し,前頭蓋窩内および眼窩内に発育した巨大なchondromyxoid fibromaの治験例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

受傷対側に発生した外傷性中硬膜動静脈瘻の自然治癒例

著者: 佐藤透 ,   桜井勝 ,   山本祐司 ,   浅利正二

ページ範囲:P.739 - P.745

I.はじめに
 外傷性中硬膜動静脈瘻は,1951年Fincher4)が最初に報告して以来,比較的稀な頭部外傷合併症とされてきたが,近年の脳血管撮影の普及により,現在では文献上50例を越える報告がなされている.
 最近われわれは,頭部打撲後,頭痛,嘔気,嘔吐を訴え搬入され,CTにて限局性くも膜下血腫を認め,脳血管撮影にて受傷側の対側に中硬膜動静脈瘻を発見し,経過観察中,約1ヵ月後に自然治癒を確認した症例を経験した.さらに本症例では,脳血管撮影で特異な流入流出経路を呈し,また自然治癒後のそれで瘻形成部位が示唆されるなど,種々なる点でこれまでの報制列に比し興味ある症例と思われた.

内頸動脈瘤と癒着したHGH産生下垂体腫瘍の1例

著者: 村岡淨明 ,   外間康男 ,   高見政美 ,   堀智勝 ,   斎藤義一

ページ範囲:P.747 - P.751

I.はじめに
 下垂体腫瘍と脳動脈瘤の合併例は過去に種々報告されている.しかし,下垂体腫瘍に脳動脈瘤が直接接している症例の外科的治療の報告はいまだなされていない.われわれは,下症体腫瘍と脳動脈瘤が直接接している症例を経験した.下垂体腫瘍に直接接した脳動脈瘤の外科的治療例としては,文献上,本症例が初めての報告と思われる.

経過中にUveitisを伴った脳原発細網肉腫の1例

著者: 永谷雅昭 ,   池田宏也 ,   山本和己 ,   日山英子 ,   生塩之敬

ページ範囲:P.753 - P.759

I.はじめに
 1972年Neault ら14)はuveitisで初発し,のちに神経学的症状を呈した7例の脳原発細網肉腫を報告し,原因不明で治療に抵抗するuveitisが脳細網肉腫の診断および治療上の問題となりうることを強調した.彼らはそのuveitisの病態に関して,細網肉腫の眼球内浸潤,眼球内の一次的炎症および細網肉腫に伴う眼球内の二次的炎症などの可能性を示唆した.
 一方,従来より脳原発細網肉腫は多発性あるいはびまん性に認められることが少なからずあることも周知の事実である,脳原発細網肉腫にuveitisを伴った症例で,uveitisの原因として眼球内に細網肉腫を認め,腫瘍が多中心的に発生したものと考える報告もみられる18)

Incidental meningioma

著者: 佐山一郎 ,   伊藤善太郎 ,   大田英則 ,   小林恒三郎 ,   深沢仁

ページ範囲:P.761 - P.767

I.はじめに
 外傷や脳動脈瘤手術の開頭時,偶然に主病変とは別の脳腫瘍が見いだされることがある.また剖検時にも,生前には気づかれなかった脳腫瘍が認められることがあり,この場合,特に髄膜腫例が多いとされる1,17.著者らは過去12年間に38例の髄膜腫を経験しているが,このうち全く偶然の機会に見いだされた同腫瘍は5例であった.本論文では,これら5例をincidental meningio-maと仮称して,5例の発見の経緯,臨床上の特徴,その臨床病理学的意義について言及する.

頸椎黄靱帯石灰化と後縦靱帯骨化症の合併例

著者: 藤原正昭 ,   尾藤昭二 ,   長谷川洋 ,   中田宗朝 ,   畑博明

ページ範囲:P.769 - P.774

I.はじめに
 頸椎後縦靱帯骨化症は1960年,月本25)が剖検例を報告して以来,本邦において2,000を超す報告例をみている.一方,1929年Polgár20)が腰椎黄靱帯骨化症をはじめて報告したが,頸椎の黄靱帯骨化あるいは石灰化は稀である.著者の調べた限りでは現在までに3例5,11,16)をみるのみであり,そのうち2例は球状の石灰化を呈した11,16).われわれは頸椎黄靱帯の球状石灰化と後縦靭帯骨化症との合併例を経験し,椎弓切除により神経症状を著しく改善させることができた.本症例は前記2疾患の合併例としては最初の報告であり,CTスキャンにてこれを明らかにとらえた.本症例を報告し,CTスキャンの本疾患に対する診断的意義につき考察した.

頭蓋咽頭腫により内頸動脈狭窄を示した1症例

著者: 小島精 ,   和賀志郎

ページ範囲:P.777 - P.782

I.はじめに
 頭蓋内腫瘍,特に髄膜腫1,6,10,15,16,22,23),下垂体腫瘍2,4,19,21,23)に起因する頭蓋内内頸動脈の狭窄および閉塞はしばしば報告されており,日常脳神経外科診療に際しよく遭遇するが,頭蓋咽頭腫16)による内頸動脈の狭窄および閉塞の報告は少ない.
 われわれは巨大な頭蓋咽頭腫により内頸動脈の強度狭窄を来たした症例に浅側頭動脈中大脳動脈吻合術を行い,臨床症状の軽快をみたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Neurofibromatosisに合併したAtlantoaxial dislocation—3症例

著者: 井須豊彦 ,   阿部弘 ,   伊藤輝史 ,   岩崎喜信 ,   都留美都雄 ,   宮坂和男 ,   北岡憲一 ,   角田実

ページ範囲:P.785 - P.791

I.はじめに
 neurofibromatosisに種々の脊椎骨病変が合併3-8,10,12)することは古くから知られているが,atlantoaxial dis-location(以下A-A dislocationと略す)の合併例に関してはほとんど注目されていない.われわれが調べえた範囲では,本邦に3例3,6,10).外国に1例12)の計4症例であり,非常に稀なものと思われる,われわれはneuro-fibromatosisに合併したA-A dislocationの稀な3症例を経験したので,症例を報告するとともに,その成因につき考察を加えた.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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