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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科10巻8号

1982年08月発行

雑誌目次

「夢物語」に終わらせたくない

著者: 永井肇

ページ範囲:P.797 - P.798

 最近のmedical electronicsの進歩には目を見張るものがある.身体,他の部分の臓器では診断に威力を発揮する視診,触診,聴診のいずれもが,固い頭蓋骨にはばまれて全く通用しないとされてきた頭蓋内疾患に,CT scanという神通力をもった診断機器が現れて,今や密室の中はすっかりお見通しとなってしまった.最近ではさらにpositron emission tomography,核磁気共鳴など新しい器械も使用されはじめ,頭蓋内圧疾患に対する診断技術はここ数年の間に飛躍的に進歩した.
 生体に侵襲を与えないで,正確な情報を提供してくれるこれらの診断機器に対しては,"神経学的診断を下すのに,無闇やたらと機械的,技術的,検査室的検査を行い,それらを重視しすぎるという悲しむべき風潮が盛んになりつつある"と嘆いた「神経学的検査法」の著者Wartenbergも一目をおかざるを得ないのではなかろうか.

総説

てんかん焦点の生理

著者: 石島武一

ページ範囲:P.799 - P.812

I.はじめに
 てんかん発作の本質は大脳灰白質の"discharging le-sion"からの突然起こる過剰な,そして急激な発射である—とは,J.Hughlings-Jackson45)の言葉である.1937年AdrianとMorruzi1)は実験てんかんで,皮質発射を錐体路で捕えることによりこれを証明した.一方,1932年のBergerによる脳波の発見以来,てんかんと脳波の異常波との対応が発見され,てんかん研究が急速に発達した.今日,一次性全汎発作を示すものが,はたして"discharging lesion"つまり発作の源になる部位,いいかえれば焦点をもつのかどうかは議論のあるところである.しかし,全汎性にみえる発作が焦点性である場合もあり8),またdischarging lesionは何も1ヵ所である必要はなく,多発性焦点を考えれば,今日の知見はJacksonの説と矛盾しないどころか,ますます真実性が高まっているといえよう.
 さて,てんかんが焦点から起こるとすれば,そこの神経細胞にどんな変化が起こっているのかということが当然問題になる.微小電極法の発達は,この問題解明のための有力な武器を与えてくれるものであった.

解剖を中心とした脳神経手術手技

天幕下動静脈奇形の手術

著者: 松村浩 ,   三木一仁

ページ範囲:P.815 - P.821

I.はじめに
 後頭蓋窩動静脈奇形(以下AVM)といっても,小脳の各部から脳幹に至るまで種々の部位のAVMがあるが,このうち脳幹内部に主座を持つものは手術の対象とならない.個々の部位の手術のすべてを論ずることはできないので,代表的な3つの部位のAVMの平均的症例を取出し,簡単に手術手技の要点を述べることにする.
 まず手術適応決定にあたって注意すべきことは,AVMを描出している血管連続撮影フィルムの1枚が必ずしもAVMの全貌を示しているとは限らないということである,大きなAVMほど,その中で血流の速い部分と遅い部分ができてくるので,速い時期のフィルムと遅い時期のフィルムはAVMの違った範囲を描出している可能性がでてくるわけである.AVMの本当の大きさ,拡がりをみるためには,AVMが写っているフィルムのすべてを,1枚のトレース紙に重ね書きしてみるべきである.1枚のフィルムでみた印象より遙かに大きいことや,思いもよらず脳幹部に大きく入り込んでいることがある.その全容を知った上で手術適応を決定しなければならない.手術をしてみると,術前に予測したよりも実際のAVMは遙かに大きかったという印象を受けるのは,この理由によると考えている(Fig.1).

研究

破裂脳動脈瘤症例における血管攣縮と手術結果

著者: 新田正廣 ,   永井肇 ,   原誠 ,   田仲裕 ,   新谷彬 ,   高木照正 ,   堀汎 ,   伊藤博治 ,   前田成

ページ範囲:P.823 - P.829

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤の手術時期については議論の多い所である.1966年Locksley15)らが行ったくも膜下出血に関するco-operative studyでは,脳動脈瘤の初回破裂後2週目までに約半数が再出血し,この期間中に約半数が死亡することが明らかにされ,脳動脈瘤破裂後,少なくとも再出血を来たす以前に手術を行うべきであるという見解については異論がない.しかしその手術時期について,再出血を来たす以前のできるだけ早期に手術すべきであるとする立場と,危険にみちた急性期を避けて,しかも再出血を来たす前に行うべきであるとする立場とがありて,必ずしも意見の一致をみていない.早期手術のねらいは,くも膜下腔に出血貯溜した血液がvasospasmを引き起こす要因をなすと考えられているので,早期にくも膜下の血液を洗い流し,vasospasmの発生を予防することと,くも膜下出血後,日数の経過とともに再破裂の危険が増すので,できるだけ早期に動脈瘤のneckclippingをすることである,これに反して晩期手術のねらいは,動脈瘤破裂後,急性期における脳浮腫あるいは髄液の吸収不全による頭蓋内圧亢進が手術操作を困難にし,さらにくも膜下出血後4日ないし10日の間にvaso-spasmが起こりやすいことも知られてきたので,この時期をすぎてから手術をしようとする立場である.

脳神経外科領域におけるステロイドホルモン投与法の検討—副腎皮質機能からの検討

著者: 野垣秀和 ,   玉木紀彦 ,   児島範明 ,   住吉弘充 ,   古瀬繁 ,   楠忠樹 ,   松本悟

ページ範囲:P.831 - P.836

I.緒言
 脳神経外科領域では,脳浮腫の予防および治療に対しステロイド剤,特にBetamethasone(BMと略す)の大量投与がしばしば行われ,作用機序は明確でないものの,その効果は実験的にも臨床的にも諸家により充分評価されている.一方,ステロイド剤使用時における問題点として,消化管出血,感染症,精神障害などが知られているが,続発性の下垂体・副腎皮質系機能の抑制も避けることのできない副作用の1つである.しかしこの点に言及した報告は脳神経外科関係では比較的少ない.
 今回われわれは,ステロイド剤の投与量ならびに投与法が副腎皮質機能に対していかなる影響を及ぼすかという点について,ステロイド剤使用前・使用中・中止後にrapid ACTH testを行い検討を加えたので報告する.

皮質動脈断裂による硬膜下血腫—軽微な頭部外傷による急性,亜急性硬膜下血腫の発生機序について

著者: 長谷川洋 ,   尾藤昭二 ,   藤原正昭 ,   中田宗朝 ,   奥謙 ,   小澤英二 ,   種子田護

ページ範囲:P.839 - P.846

I.はじめに
 硬膜下血腫は急性と慢性とに大別しうるが,両者はその発生および臨床像において全く異なる疾患である.すなわち急性硬膜下血腫は重症頭部外傷によく見られ,脳挫傷に伴う皮質血管の断裂や脳内出血の進展により血腫が形成されることが多い1),一方,慢性硬膜下血腫は軽度の外傷を契機として慢性的に発生し,内容が流動性であり,被膜を有している.その出血源に関してはいまだに議論の尽きない所であるが,最近では血腫被膜より出血が起こるとする説が多い14,17)
 最近われわれは血腫形成の原因が単一の皮質動脈の断裂によるものと思われた症例を5例経験した.それらは前記の典型的な急性,慢性硬膜下血腫と,その発生や病態が異なっていた.症例を報告し,この種の硬膜下血腫の臨床的特徴および発生機序について考察を加える.

急性期脳虚血性浮腫に対する外科的治療—特に海馬回切除術の有効性についての検討

著者: 藤田勝三 ,   玉木紀彦 ,   松本悟 ,   長尾朋典

ページ範囲:P.849 - P.855

I.緒言
 内頸動脈や中大脳動脈などの脳主幹動脈の閉塞,くも膜下出血後の高度なvasospasmの症例では,虚血性脳浮腫のため症状が進行性に増悪し,内科的な保存的治療では救命できない症例に遭遇する.われわれはこのような急性虚血性脳浮腫症例に対して内および外減圧術を施行した10症例の手術方法および転帰などを検討し,若干の知見を得たので,その結果について報告する.

症例

もやもや病のEMS術後に発生した慢性硬膜下血腫

著者: 園部真 ,   高橋慎一郎 ,   久保田康子 ,   白根礼造

ページ範囲:P.857 - P.859

I.はじめに
 もやもや病の外科医的治療は,中硬膜動脈を含んだ硬膜片の脳表留置術,cervicalperivascular sympathectomy, superiorcervicai ganglionectomyなどがあるが,最近ではSTA-MCA吻合術,特に小児例においてはencephalo-myo-synangio-sis(EMS)1)が試みられ,良好な手術成績が得られている.われわれは,小児もやもや病4例に対し両側EMSを行い,術後の脳血管写および臨床経過において,ほぼ満足すべき結果を得ているが,1例(2歳6ヵ月女子)に,術後,慢性硬膜下血腫の発生をみたものがある.文献的には中川ら3)が同様の症例(5歳男子)を報告しているにとどまるが,これら2例とも年齢,頭部外傷の有無,および術後2ヵ月以内の発生,血腫発生頻度などの点から,開頭術そのものよりは,EMSが慢性硬膜下血腫発生に強く関与していることが疑われた.
 EMS血行路再建術の問題点および慢性硬膜下血腫発生の原因を考察するにあたり,われわれの経験した慢性硬膜下血腫合併例は興味ある症例と考えられたので,若干の文献的考察を加えてここに報告する.

三叉神経痛で発症したアスペルギルス髄膜脳炎の1例

著者: 木矢克造 ,   迫田勝明 ,   玄守鉄 ,   原田廉 ,   魚住徹 ,   井藤久雄

ページ範囲:P.861 - P.866

I.はじめに
 真菌感染症は強力な抗生剤の開発,副腎ステロイドホルモンの大最投与,制癌剤や免疫抑制剤の使用などにて近年増加の傾向にある.特にアスペルギルス感染は,種種の真菌感染のうち1976年には1970年に比し158%と最も増加率が高かったとの報告5)もなされている.しかし,中枢神経系におけるアスペルギルス症はいまだ少ないものであり,病態も髄膜炎7,16,19,25),膿瘍17,20),肉芽腫14,29),血管閉塞3,24),動脈瘤形成2)など多彩である.さらに診断面のみならず治療面でも非常に困難な疾患である.今回われわれは,右三叉神経痛で発症し,右上眼窩裂部の骨破壊を伴った炎症性肉芽病変から,髄膜脳炎へと伸展した診断困難であった1例を経験したので報告する.

経眼窩的頭蓋内異物の1治験例

著者: 馬場元毅 ,   立沢孝幸 ,   滝沢英夫 ,   杉浦和朗

ページ範囲:P.869 - P.874

I.はじめに
 外傷性眼窩内異物あるいは経眼窩的頭蓋内異物の報告は,眼科的にはもちろん,脳神経外科的にもそれほど稀ではない,一般に,平時では近年の自動車事故の増大に伴うフロントグラスによる顔面外傷の副次損傷として発生する場合が多く10,21),また幼児が誤ってフォークや箸や鉄棒を突き刺したり4,12,19),喧嘩でナイフなどで刺されたりする例11,14)が報告されている,これらの異物は,眼窩の解剖学的特徴などから,眼球損傷を伴うことなしに抵抗の少ない眼窩上壁を貫いて前頭葉底面に達することが多いようである4,16,21).こうした眼窩上壁経由の前頭葉内異物に対しては,一般に脳外科的に前頭開頭による異物除去が行われており,その手技も特に困難ではない.一方,異物が上眼窩裂を経て側頭葉内,あるいはテント切痕部近くにまで達した例11,14),海綿静脈洞や内頸動脈などの損傷を来たした例2,6,15)などの報告があり,これらに対しては各々適切な手術手技が工夫されてきた.
 著者らは最近,ビール瓶の小片が上眼窩裂部の眼窩壁を破壊して側頭葉尖にまで達した症例を経験し,特殊な手術手技でガラス片の除去を行った.以下この手術の手技を中心に若干の文献的考察を加えて報告する.

Hangman’s fractureの4例

著者: 中村勉 ,   角家暁 ,   冨子達史

ページ範囲:P.877 - P.882

I.はじめに
 全頸椎損傷中,上位頸椎損傷は約10%内外と報告されている12).hangman’s fracture15)はJefferson’s frac-ture8,11),歯突起骨折などの上位頸椎骨折の18-32%を占めるほど頻度の高いものである9,13),しかし一般にこの型の骨折は脊髄に及ぼす影響が少ないため神経症状が軽微なことが多く9,12,13),発見されないまま放置され,受傷後,数日から数週後に診断のつく例も少なくない9,14).この骨折の発生機序について,絞首刑者にみられる骨折に類似することから17,19),上位頸椎の過伸展が原因と考えられているが15),過伸展だけでは説明のつかない例もある4,6).著者らは4例の本骨折を経験したので症例を検討し,受傷機転,神経症状,治療などについて考察を加える.

眼窩上神経より発生した眼窩部神経鞘腫の1例

著者: 堀江幸男 ,   神山利世 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃 ,   中村泰久

ページ範囲:P.885 - P.888

I.はじめに
 眼窩部神経鞘腫は眼窩腫瘍の1.7-5.6%14,18)を占めるが,その発生母地となった神経につき言及している報告は,われわれの渉猟しえた限り10例に満たない3,7,9,11,14,16,17).われわれは今回,術中,眼窩上神経からの発生を同定しえた眼窩部神経鞘腫の1例を経験したので,若干の考察とともに本症例を報告する.

新生児後期に発症した脳動静脈奇形の1例

著者: 山崎駿 ,   白國隆行 ,   北條博厚

ページ範囲:P.891 - P.894

I.はじめに
 脳動静脈奇形(以下AVMと略す)は小児の脳血管障害のなかでは比較的よく経験する疾患であるが,新生児期に発症した報告は少ない.そのなかではGalen静脈瘤の報告が多く,網状AVMの発症は稀である.私どもは生後23日目に発症した網状AVMの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Moyamoya血管に破裂動脈瘤を合併したMoyamoya類似病の1例

著者: 岡本順二 ,   向井完爾 ,   樫原道治 ,   上田伸 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.897 - P.903

I.はじめに
 モヤモヤ血管自体に動脈瘤を認め,この破裂を確認した例は比較的稀のようである12,14,16,18).われわれは,最近モヤモヤ血管自体に発生したと思われる嚢状動脈瘤が破裂し,さらにその血腫が脳室内に穿破した症例を経験した.この症例の臨床経過について報告するとともに,これまで動脈瘤の合併したモヤモヤ病として報告されている例につき若干の文献的考察を加えたのであわせ報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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