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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科10巻9号

1982年09月発行

雑誌目次

俳人中田みづほ

著者: 田中隆一

ページ範囲:P.909 - P.910

 日本の脳神経外科の草分けである中田瑞穂先生(1893-1975)の七回忌にあたる1981年夏,先生と親交のあった人達が集まって「中田先生を偲ぶ会」がもたれた.あらゆる虚飾を嫌い,質素であることを常とされた先生のご遺志を汲んで,わずかばかりの清楚な花が添えられた先生のこ遺影を囲んで,会は和やかなうちに進められた.多くの人により,先生の思い出が語られ,先生を心から慕い,尊敬してやまぬという心情が吐露されるのを聞き,直接には先生のご指導を受けなかった私も,深い感銘を受けた.
 ところで,会場には医学関係者以外に,やはり先生を師として慕う新潟近郷の俳人達のグループもみられた.中田先生が絵を画かれ,特にその静物画は玄人はだしであったことはよく知られているが,俳句に関しては,高浜虚子の優れた門下生であったということ以外は,一般にはあまり知られていないように思われる.絵のほうは,特定の人に師事したり人に教えるということはなく,"みづほ流"とでもいうべき独特の画風をつくり上げたのに対して,俳句のほうは,虚子門下の逸材として活躍し,多くの俳人を育てている.今回私は,関係者の話や二三の文献から,俳人中田みづほに関する興味ある事実を知ることができたのでそれを紹介し,「扉」の責を免れたいと思う.

総説

血管芽腫の臨床

著者: 岡一成 ,   北村勝俊 ,   福井仁士 ,   西尾俊嗣 ,   中垣博之

ページ範囲:P.911 - P.921

I.はじめに
 hemangioblastoma(血管芽腫)という疾患概念が確立されてきた過程をみると,その源流は1926年のLindau25)の報告である.彼は,小脳の嚢胞性病変を調べているうち,嚢胞壁にグリア組織とは異なるhemangioma-tous noduleがある症例に気づいた.また一方で,vonHippel病(angiomatosis retinae-retinal hemangio-blastoma)で,頭蓋内圧亢進症状を呈した症例の剖検を行い,小脳に嚢胞性病変があるのにも気づいた.彼はそこで,小脳と網膜の病変を中枢神経系に生じたangiomaのcomplexと考え報告した.1928年にCushingとBailey11)は,このangiomatous lesionをhemangioblas-tomaと名づけ,血管異常の動静脈奇形とは区別した.
 脊髄のhemangioblastomaについては,1931年Lindau26)が小脳のhemangioblastomaに合併した4例について報告したのが最初である.

解剖を中心とした脳神経手術手技

経皮的ガッセル神経節凝固術

著者: 堀智勝

ページ範囲:P.923 - P.930

I.はじめに
 三叉神経痛の治療に関しては,microvascular decom-pression(MVDと略す)法が最もすぐれた治療法として脚光を浴びている1,11,14).しかし経皮的ガッセル神経節凝固術15,16,18)(Percutaneous Gasserian Ganglion Ther-mocoagulation, PRGCと略す)は高齢者や全麻施行不能例,癌などの浸潤による顔面痛例などに対しては依然としてすぐれた方法である.特に最近高周波凝固にかえてグリセロール注入により,86%の症例に効果があり,顔面の感覚障害をほとんど残さないというすぐれた治療成績が報告され6),経皮的ガッセル神経節刺入法,およびガッセル神経節附近の解剖学的知識は脳外科医にとり,ますます重要な事項となってきたと思われる.今後電気凝固術にかわってグリセロール注入法が主要な治療法となる可能性もあるが,筆者は現在までに施行しえた77例の顔面痛に対するPRGC(1例はグリセロール注入)の治療経験10)から,ガッセル神経節凝固術手技と神経節附近の解剖学的事項について自験例を中心に解説する.

研究

悪性脳腫瘍に対する抗癌剤治療の問題点—Agranulocytosisに起因する難治性感染症に対する顆粒球輸血

著者: 穀内隆 ,   桑村圭一 ,   山田正

ページ範囲:P.933 - P.938

I.はじめに
 近年,悪性脳腫瘍に対して種々の抗癌剤を使用した多剤併用による寛解導入療法が積極的に行われるようになってきた5).ところが,大多数の抗癌剤は多様な副作用を有しており,なかでも骨髄抑制というdose depend-entな副作用は最も重篤であり21),かつagranulocytosisに伴って重症感染症を引き起こし,いわゆる"chemo-therapy death"に陥る症例が多くなってきている.このような病態に対する治療法としては,従来より大最抗生物質投与,さらに可能ならば無菌室隔離などが行われているが,実際は感染症を有するagranulocytosisの患者に対しては無効例が多い.
 そこで白血病治療の分野では,最近agranulocytosisに伴う重症感染症に対して積極的な補助療法として顆粒球輸血の重要性が指摘されている2,8,16)

長期徐放性Bleomycin錠剤の基礎および臨床的検討—第2報

著者: 片倉隆一 ,   森照明 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.941 - P.944

I.はじめに
 われわれは脳腫瘍の局所化学療法を目的とし水溶性抗癌剤Bleomycin(BLM)の長期徐放性剤型を作製した.これは,BLMに乳糖を賦加したものを高分子樹脂にて被膜化した錠剤で高分子樹脂の種類と被膜の厚さを変えることにより自由に徐放時間が調節できるものであり,その基礎実験に関してはすでに本誌にて報告した8),今回は,本錠剤を用いた担腫瘍ラットに対する抗腫瘍効果につき検討し,また臨床的にも応用を試みたので報告する.

大後頭孔・上部頸髄髄外腫瘍の症候—特に前腕・手指の筋萎縮について

著者: 副島徹 ,   大神正一郎 ,   中垣博之 ,   沢田浩次 ,   脇坂信一郎 ,   米増祐吉

ページ範囲:P.947 - P.953

I.緒言
 上部頸髄および大後頭孔附近の良性髄外腫瘍の症候は,Abrahamsonら1),Elsbergら9)によりほぼ確立された.その後も,この部位の腫瘍の多彩な臨床症状,神経放射線診断の困難さなどの観点より,多くの症例報告,解説が続き4,8,15,19,26,31),わが国でも清水ら24),北村ら17)をはじめ,いくつかの症例報告がみられる11,13).これらの報告より大後頭孔部腫瘍の症候を要約すると,次のようになる.すなわち,①後頭部あるいは頸部痛で発症することが多く,②項部強直や頸部運動制限,③四肢の進行性運動麻痺,④上肢末端部の筋萎縮,⑤四肢,躯幹の感覚障害,⑥小脳症状,⑦下部脳神経障害,⑧Horner症候群,⑨直腸膀胱障害などである.またこれらの症候は,原則として常に進行するが,ときに寛解が起こったり4,8,11,15),一部の症候のみ出現することにより,神経症,変形性頸椎症,多発性硬化症,筋萎縮性側索硬化症などと誤解される4,13-15).これら症候の大部分は,後頭蓋窩より上部頸椎における局所解剖で十分説明しうる.
 しかし,しばしば出現する前腕から手指にかけての筋萎縮は下部頸髄,上位胸髄前角細胞より末梢神経にかけての障害であり,腫瘍部位では説明がつかない.この発生機序について,多くの著者が脊髄の血液循環障害で説明を試みたが,いまだ十分に納得できる説明はない.今回われわれは,上部頸髄,大後頭孔部を占拠する腫瘍の症候をまとめ,上肢末端部に生ずる筋萎縮の発生機序について考察を加えたので報告する.

症例

脳室穿刺後の遅発性脳卒中の1例

著者: 藤岡正導 ,   松角康彦 ,   賀来素之 ,   矢野辰志 ,   吉岡進

ページ範囲:P.955 - P.958

I.はじめに
 脳室ドレナージ,脳室シャント術など,脳室穿刺を要する術式は脳神経外科臨床における日常処置として広く行われ,また穿刺に起因する脳病変についても早くから指摘のあるところである.しかしながら,合併症として穿刺直後の出血を除く亜急性出血の報告は少なく,特に遅発性急性出血の報告は稀であり,わずかに重症頭部外傷例に脳室トランスデューサーを設置し出血を来たした例4,8,12)をみるのみである.今同われわれは聴神経腫瘍摘除術を施行するにあたり,頭蓋内圧コントロールの目的にて術中脳室ドレナージを行った症例に,術後14日目,脳室穿刺部位を出血源とする急性脳内出血を来たし,出血は硬膜下のみならずburr-holeを通して皮下にまで及んだ興味ある症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

家族性に発生したNarrow spinal canal

著者: 五十嵐正至 ,   小山素麿 ,   霜坂辰一 ,   内堀幹夫

ページ範囲:P.961 - P.966

I.はじめに
 Kirkaldy-Willisら1)の国際分類によれば,lumbar ca-nal stenosisの病因として,congenital/developmentalstenosisおよびacquired stenosisに大きく二分される.lumbar canal stenosisが家族性に発生したとする報告は,英語圏の論文を探した限りではVerbiest5),Varu-ghese4)の2例を数えるにすぎない.われわれは最近同胞6名のうち3名をlumbar canal stenosisと診断し手術を行ったが,そのうち2名は急性対麻痺に対する緊急手術であった.しかも残る3名のうち1名の女性は頸椎管狭窄を有することが判明した.他の2名の男性は,それぞれ腰痛および上肢痛を有していることから脊椎疾患が強く疑われた.さらに特異な点は手術例の全3名に頸椎のnarrowingをも証明できたことである.このような家族発生例はspinal canal stenosisのpathogenesisに遺伝的影響の存在を示唆する稀な症例と考えられたので文献例と対比しつつ報告する.

高プロラクチン血症を呈した蝶形骨洞粘液嚢腫の1例

著者: 蟹江規雄 ,   坂野達雄 ,   渋谷正人

ページ範囲:P.969 - P.974

I.はじめに
 後部副鼻腔は解剖学的に眼窩およびトルコ鞍に接しているために,この部に発生する粘液嚢腫はそれらの骨破壊と同時に,いわゆる"orbital apex syndrome"を呈し,トルコ鞍あるいはその近傍部の腫瘍,ことに下垂体腺腫を疑わせることがある.しかし内分泌学的異常を呈することは極めて稀といわれている13).最近われわれは鞍上部伸展を伴い,内分泌学的に下垂体機能障害,高プロラクチン血症を呈し,下垂体腺腫との鑑別が難しかった蝶形骨洞粘液嚢腫の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

大脳基底核に発生したGerminomaの2例

著者: 馬渕正二 ,   阿部弘 ,   中川翼 ,   会田敏光 ,   田代邦雄 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.977 - P.982

I.はじめに
 頭蓋内原発germinomaは松果体部や鞍上部などの正中部に好発し,大脳基底核や視床に発生することは稀であるといわれている.著者らが集積した報告においても,大脳基底核部germinomaは1953年Hoshino3)以来15例にすぎない.さらに大脳基底核部germinomaは診断上,他の疾患との鑑別に苦慮するところである.
 著者らは50例の頭蓋内原発germinomaのうち3例の大脳基底核部germinomaを経験したが,CT上,特徴的な所見を得,放射線療法が有効であった2例につき,臨床症状や診断治療についての文献的考察を加え報告する.

脳結核腫の1例

著者: 門脇弘孝 ,   高良英一 ,   神保実 ,   久保長生

ページ範囲:P.985 - P.989

I.はじめに
 脳結核腫は,結核性疾患の克服された今日,本邦では著明に減少しており,最近2,3年間では数例が報告されているにすぎない11,12).われわれは最近,20歳男性,ケイレン発作を唯一の症状として来院,肺結核症などの既往は何らなく,CT検査にて異常所見を認め,脳腫瘍の診断のもとに手術施行したところ脳結核腫であった1例を経験したので報告する.

頭蓋外AVMに対するアロンアルファによる人工栓塞術

著者: 山木垂水 ,   吉野英二 ,   内堀幹夫 ,   小竹源也 ,   平川公義

ページ範囲:P.991 - P.995

I.はじめに
 頭蓋外の動静脈奇形(AVM)は比較的稀な疾患で,その治療は困難なものとされている.それは,外頸動脈系のAVMはfeederが多く網状を呈しており,またAVMの本体自身の範囲が広いことが多く,完全摘出することが難しく,再発しやすいためである1,8,11)
 そこでわれわれは,頭皮および側頭筋内のAVMに対し流動性栓子として最近その使用が注目されているcyanoacrylate(アロンァルファA®)による人工栓塞術を行ったので報告する.また臨床例に先だち,正常動脈内に入ったアロンアルファの追跡を行うため,イヌの腸間膜動脈への注入実験を行い,組織学的検索を行った.

椎骨脳底動脈狭窄症に対する頸部頸動脈内膜切除術

著者: 平松謙一郎 ,   大西英之 ,   二階堂雄次 ,   塚本政志 ,   内海庄三郎

ページ範囲:P.997 - P.1003

I.緒言
 今日の脳神経外科のなかでも,虚血性脳血管障害に対する外科的治療は最も急速に進歩を遂げている分野のひとつである.しかし椎骨脳底動脈系に関しては,頸動脈領域に比し,その病因,病態,臨床像,治療法など,かなりの研究の遅れは認めざるを得ない.この部に対する直達手術としては,OA-PICA anastomosis8,9),VA-PICAanastolnosis2),STA-SCA anastomosis3),vertebralendarterectomy1)などがあるが,いずれも適応範囲は狭く,臨床上も好適応となる症例に遭遇する機会は少ない.頸部頸動脈狭窄症が併存する場合,これに内膜切除術を行うことで間接的な効果を期待する方法があるが,その効果,およびそれに伴うriskについては,いまだ十分な検討はなされていない.今回われわれは,椎骨脳底動脈高度狭窄症に対し頸部頸動脈内膜切除術を安全に施行することができ,また椎骨脳底動脈狭窄症に起因する症状も改善されたので,文献的考察を加え報告する.

Moyamoya病に合併した仮性脳動脈瘤—1治療例と文献的考察

著者: 古瀬清次 ,   松本茂男 ,   田中泰明 ,   安東誠一 ,   佐和弘基 ,   石川進

ページ範囲:P.1005 - P.1012

I.はじめに
 Moyamoya病に対して,近年,精力的に脳血管撮影が施行されるようになってから,脳動脈瘤を合併する症例の報告が増加しつつある.これらの脳動脈瘤の報告を検討してみると,①主幹脳動脈分岐部に発生する通常の動脈瘤(以下,major artery aneurysmという)と,②末梢脳動脈の末端部に発生する動脈瘤(以下,peripheral artery aneurysmという)の2グループに分けられるようであり,この2群の発生機序は異なるように思える.
 最近われわれは,前脈絡動脈の末梢部に発生した仮性脳動脈瘤を合併するMoyamoya病を経験したので報告し,文献的考察を行い,Moyamoya病における脳動脈瘤の発生機序について検討を加える.

Suprasellar arachnoid cystの1例

著者: 横手英義 ,   藤井徹 ,   森脇宏 ,   林靖二 ,   駒井則彦

ページ範囲:P.1015 - P.1021

I.はじめに
 頭蓋内くも膜のう腫は全頭蓋内占拠物中の約1%にみられるにすぎない.特にsuprasellar regionに発生するくも膜のう腫は非常に稀で,詳細な報告はわれわれの渉猟しえた範囲では本症例を含め27例である.
 最近のめざましいCT scanの普及にもかかわらず,suprasellar arachnoid cystのCT像の報告は,本症例を含めわずか7例のみである.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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