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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科11巻3号

1983年03月発行

雑誌目次

日本脳神経外科医の世界における立場

著者: 牧野博安

ページ範囲:P.227 - P.228

 私も馬齢を重ねるばかりで,脳神経外科学に足を踏み入れて30年近くなる.ともすると自分の進んできた途を振り返ることが多くなった.そうするとそれが当然のように脳神経外科の歴史の一部のように頭の中に蘇ってくる.脳神経外科的疾患の診断,手術の適応,決断力に加えての緊急性のしがらみをうまく運用することによって何度か快哉を叫んだこともあるし,すべて思うようにならずに沈み込んだこともある.この学問・臨床の真の醍醐味は常に考えて,しかも迅速に手順を進めることにある.CTスキャンその他のコンピュータを用いた利器が一層その着実性を増しているが,今まで数多くの先人の苦心の塊りが今日の脳神経外科を造りあげたのである.手術死亡率80%の脳外科グループと起居をともにしたり,氷の湯舟の中に患者を浸しての低体温下での頭蓋内動脈瘤の手術を手助って今度こそ今度こそとやっても死亡率は50%前後で,この治療法の限界を感じて憂鬱になったり,頭蓋内圧の高い患者の硬脳膜を切開するやいなや噴出する大脳半球の処理に苦労したりしたことは昔日の夢物語のようになってしまった.
 顧れば,第二次世界大戦中に欧米の脳神経外科,ことに北米のそれは長足の進歩をとげた.私の見た範囲では,その進歩,普及の貢献度の第一に挙げられるものは,清水教授の発表された経皮的頸動脈写の応用であったと思う.動脈写の判読,種々の工夫などが山積していた終戦後まもない頃,私も北米で勉強していた.

総説

めまい患者へのアプローチ—脳神経外科の立場からその臨床像を中心に

著者: 植村研一 ,   野末道彦

ページ範囲:P.229 - P.242

I.はじめに
 めまいは,頭痛同様,臨床各科でよく遭遇する症状であり,病因も良性発作性頭位眩暈やメニエール氏病のように全く良性のものから,脳幹梗塞,小脳出血,脳腫瘍のように誤診を許されない危険なものまであり,正確な鑑別診断のためには神経耳科,神経内科,循環器科など多くの臨床医のチーチワークを要する重要なテーマである.とはいえ,すべてのめまい患者に諸種の神経耳科検査とCT,脳血管造影をやるわけにもいかない.
 一般には,末梢性(内耳・前庭神経)のめまいは強い回転感を伴う"vertigo"であり,中枢神経病変に伴うめまいは,vertigoよりは動揺感・失神感であることが多く,何らかの神経症候を伴うと考えられているが,ver-tigoのみを訴える脳腫瘍,脳幹梗塞・出血の患者もいるので,このような安易なアプローチは許されない.

鼎談

脳動静脈奇形

著者: 神保実 ,   中川洋 ,   半田肇

ページ範囲:P.244 - P.256

 第2回の鼎淡は「脳動静脈奇形」です(第1回「脊椎破裂」,10巻6号掲載,1982年).3人の先生与に,手術のコツから最近の新しい治療の試みまでお話しいただきました.第3回の鼎談は「モヤモヤ病」を予定しています.

研究

脳圧降下剤の臨床的研究—マニトールおよびグリセロールの投与方法を異にする効果と反跳現象についての比較

著者: 野手洋治 ,   矢嶋浩三 ,   中沢省三

ページ範囲:P.259 - P.267

I.はじめに
 脳神経外科領域において,頭蓋内圧の管理は最も重要な課題の1つである,頭部外傷,脳腫瘍,脳血管障害など種々の疾患の治療中に発生する頭蓋内圧亢進は,脳循環を障害し,脳代謝を低下させるばかりでなく,それが進行した場合には天幕切痕または大後頭孔に脳陥頓をひき起こし,これによる脳幹の圧迫主たは脳血管障害によって死を招くことが多々あるので,頭蓋内圧亢進の治療は即時患者の救命的な意義を有する.それ故,頭蓋内圧亢進症状を有する患者の治療にあたってまず第一に留意すべきことは,できるだけ速やかに頭蓋内圧を適正な値にまで下げるように努力することである.
 一方,頭蓋内圧は経時的に刻々と変化する特徴を有するので,常にその変化に対応する必要性が生じてくる.それ故,頭蓋内圧を常時正確かつ連続的に測定し,適切な治療を施すことが,頭蓋内圧亢進を有する患者に対する基本的方針である.

Flow cytometryによる脳腫瘍の生長解析—Part 3:ヒト培養glioma

著者: 河本圭司 ,   西山直志 ,   池田裕 ,   河村悌夫 ,   松村浩 ,   平野朝雄 ,   ,  

ページ範囲:P.269 - P.276

I.はじめに
 flow cytometry(FCM)を用いて,種々の脳腫瘍のDNA量の分布の分析をすると,G1期の割合がその悪性度の指数となること7,20),悪性脳腫瘍と良性脳腫瘍ではそのパターンにも種々あることなどを報告した10-12).今回,脳腫瘍の組織培養下で腫瘍細胞のDNA量分布がどのように変化するかを検索し,cell cycleとそのパターンを分析,検討した.

男性のプロラクチン産生下垂体腺腫—女性例との比較

著者: 佐藤修 ,   大坊雅彦 ,   田辺純嘉 ,   井上慶俊 ,   土田博美

ページ範囲:P.279 - P.287

I.はじめに
 男性のプロラクチン(PRL)産生下垂体腺腫は稀であるといわれ,その報告も女性例に比べると少ない.特に,男性例と女性例を比較した報告5,6,39,44)は極めて少ない.そこでわれわれは,男性のPRL産生下垂体腺腫について,その臨床像,治療成績について女性例と比較検討したので,その結果を報告する.

外側溝線に基づくMicrosurgical interopercular approach

著者: 関谷徹治 ,   宮本誠一 ,   安藤彰 ,   斉藤和子

ページ範囲:P.289 - P.297

I.はじめに
 CTスキャンが実用化されてからほぼ10年が経過したが,CT出現によって脳内占拠性病変の局在を直接視覚的に把握しうるようになったことは,すでに論を待たないことである.しかし,病変部を,特にその手術侵入路との関係において映像化することによって,術前診断としてのCTの価値を高める工夫については,いまだ努力の余地があるように思える.すなわち,大脳深部,特に基底核部に好発する高圧性脳内血腫(以下HICH)などの手術が頻繁に実施される割には,その手術方法と術前診断との関係につき具体的に論じた報告は比較的少ないのが現状である4-6,19)
 今回われわれは,大脳基底核部に生じた病変に対する手術を,手術侵入路と同一平面で実施したCT所見に基づいて実施し,合理的に手術を行う方途につき工夫,検討を加えた.

症例

頸椎より腰椎まで21椎間におよぶ脊髄硬膜外膿瘍の1例

著者: 沢村豊 ,   木野本均 ,   馬渕正二 ,   岩崎喜信 ,   伊藤輝史 ,   阿部弘 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.299 - P.303

I.はじめに
 脊髄硬膜外膿瘍は古くから知られ,早期診断の重要性が繰返し指摘されているにもかかわらず,診断は今なお重篤な神経症状を呈してからなされ,近年の報告をかんがみても,その治療成績は満足すべきものではなく死亡率も高い2,24,27).著者らは最近,糖尿病を背景とし背部痛より始まり,四肢麻痺,呼吸困難,麻痺性イレウスを呈した頸椎より腰椎まで21椎間におよぶ脊髄硬膜外膿瘍の1例を経験し,椎弓切除術による排膿および大量の抗生物質の投与により良好な結果を得たので報告する.

大動脈炎症候群に合併した破裂脳動脈瘤の1例

著者: 佐藤透 ,   山本祐司 ,   浅利正二 ,   富田祐三 ,   小倉俊郎

ページ範囲:P.305 - P.310

I.はじめに
 大動脈炎症候群は,大動脈弓および主幹動脈,肺動脈などの後天的非特異性炎症のために生じた血管狭窄・閉塞あるいは拡張に起因する諸症候の総称であり,脈なし病はその大動脈弓型とされている9,11).本症に合併する脳血管病変は主として閉塞性病変であり5),出血性病変,ことに脳動脈瘤についての報告は極めて稀であり,現在までに6例1,2,4,8,10)を数えるにすぎない.
 最近われわれは,発症以来20年を経過したと考えられる大動脈炎症候群の長期経過例に,破裂右前大脳動脈瘤および副中大脳動脈を合併した1例を経験した.そこで自験例を呈示し,本症における脳動脈瘤の発生機転につき若干の考察を加えて報告する.

小児肺原発横紋筋肉腫の脳転移—1経験例と文献的考察

著者: 高橋明 ,   森照明 ,   佐藤智彦 ,   今田隆一

ページ範囲:P.313 - P.320

I.はじめに
 転移性脳腫瘍は全脳腫瘍の5-15%を占めるといわれている10).そのなかで,一般に肉腫の脳転移は稀である8,11).今回われわれは肺原発横紋筋肉腫の脳転移例を経験したが,肺原発横紋筋肉腫自体極めて稀である上に,脳転移を来たしたものは渉猟しえた限りでは2例の報告をみるにすぎない.さらに,小児例についての報告はいまだみられず,文献的考察を加えて報告する.

CTスキャンで発見された脳有鉤嚢虫症の1症例

著者: 友杉哲三 ,   権藤昌澄 ,   金丸禮三 ,   朝倉哲彦 ,   三原忠紘

ページ範囲:P.323 - P.329

I.はじめに
 人有鉤嚢虫症(human cysticercosis)は有鉤条虫の幼虫である嚢尾虫の人体寄生に伴って惹起される疾患であり,全身の諸臓器に嚢胞を形成するために多彩な臨床症状を呈することは古くよりよく知られている9,30).本邦においては1908年,福島の報告6)以来,多数の報告がみられるようになり,昭和10年代には一時的に大流行をみたことがあった.しかし,その後は社会環境の変化により稀なものとされてきている.
 一方,てんかんなどで頭蓋内寄生を疑われた症例は少なくないが,開頭や剖検により直接頭蓋内寄生を証明したものは限られている12,28)

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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