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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科11巻4号

1983年04月発行

雑誌目次

本音とたてまえ

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.335 - P.336

 朝目覚めてから夜眠りに就くまでの間に,身辺に発生し耳目に入る《本音》と《たてまえ》の出来事を数え立てたらきりがないであろう.ただ普段それと取りたてて考えないだけのことである.
 本音とたてまえの隔りがあまりにも大きすぎて命を落したのが井伊直弼だといわれる.1853年,米国大統領の国書を携えて開国をせまったペリーに対し,彼の最初の上申書は,彼らを恥なき蛮夷とののしって攘夷の立場をとった.ところがそれは国内にひたひたと波打つ尊皇攘夷のたてまえを述べているのであって,第2回の上申書では一変し,鎖国を墨守しえずと本音の開国論を展開した.おそらく世間に受けのよいたてまえは貫きえないと知り,本音を主張して桜田門の雪を血に染めたのだという.

総説

仮性脳腫瘍

著者: 石川正恒 ,   半田肇

ページ範囲:P.337 - P.350

I.はじめに
 仮性脳腫瘍とは,頭蓋内圧亢進は存在するが,脳腫瘍などの頭蓋内空間占拠性病変や脳室拡大はなく,髄液も圧以外は正常である症候群をいう.本症候群は19世紀末にQuincke59)にょって漿液性髄膜炎として初めて記載されたといわれており,その後,仮性脳腫瘍57,耳性水頭症72),脳腫瘍のない頭蓋内圧亢進症13),原因不明の脳腫脹67),良性頭蓋内圧亢進症19)といった数多くの同義語で呼ばれている.これらの中でよく用いられるのは仮性脳腫瘍(pseudotumor cerebri)と良性頭蓋内圧亢進症(benign intracranial hypertenson)の2っであるが,これは初診時に脳腫瘍を疑われて検索が進められるためであり,また,頭蓋内圧亢進はあっても多くの例で自然寛解がみられて,経過が良好であるという臨床上の特徴を的確に表現しているためと考えられる.本稿では便宜上,仮性脳腫瘍という名称に統一して述べることとする.
 仮性脳腫瘍自体は脳神経外科的治療の直接の対象となるものではないが,頭蓋内圧亢進症の鑑別診断上重要なものであり,また,頭蓋内圧亢進の病態を考える上でも重要な意義を含んでいる.本稿では,仮性脳腫瘍の臨床的特徴について総括的に述べるとともに,病態についての最近の知見を紹介することにする.

解剖を中心とした脳神経手術手技

大後頭孔周辺の腫瘍の手術

著者: 阿部弘

ページ範囲:P.353 - P.358

I.はじめに
 大後頭孔周辺の腫瘍としては,硬膜内髄外腫瘍,特にmeningioma, neurinomaが多く,稀にepidermoid tu-mor, chordomaなどがある.一方,髄内腫瘍としてはastrocytoma, ependymomaなどのgliomaおよびhe-mangioblastomaなどがある,硬膜外腫瘍は稀で,metastatic tumor, sarcomaなどがある.
 大後頭孔周辺の腫瘍の定義としては,Castellano andRuggiero5)は腫瘍が大後頭孔縁に附着していたものといっているが,Cushing6),Arseni4),Guidetti9)らはより厳密に定義すべきとし,どちらかに主座を占めるにせよ,腫瘍が後頭蓋窩および脊椎管内の両方に存在するものをいうべきであるとも主張している.筆者も後者の定義がより妥当であると考える.Cushingはforamenmagnum meningiomaを発生部位および進展の仕方からcraniospinal typeとspinocranial typeとに分類したが,実用的なので大後頭孔部の腫瘍について臨床上好んで用いられている.

研究

脳腫瘍のACNUに対する感受性—In vitroのSensitivity testの臨床的応用

著者: 渋谷直樹 ,   吉田純 ,   小林達也 ,   景山直樹

ページ範囲:P.361 - P.367

I.はじめに
 悪性脳腫瘍の治療には,手術による腫瘍の摘出および放射線治療が一般化されているが,近年,高い脂肪透過性を持ったnitrosourea系抗癌剤の開発により,血液脳関門(以下BBBと略す)に囲まれた特殊な環境にある脳実質内腫瘍に対しても化学療法が有用な手段として認識されつつある.
 われわれは,日本で開発されたACNU〔1-(4-amino-2-methyl-5-pyrimidinyl)methyl-3-(2-chloroethyl)-3-nitrosourea hydrochloride〕を用いて,.数種のgliomacell lineに対する感受性を上調べたところ,株によりその感受性に著しい差のあることが確かめられた18)

ヒト脳腫瘍のヌードマウスへの移植—移植片の形態学的観察

著者: 久保長生 ,   喜多村孝一 ,  

ページ範囲:P.369 - P.377

I.はじめに
 Flanagan4)により1966年はじめてヌードマウスの報告がなされ,1968年Pantelouris6)によって,このヌードマウスが胸腺欠如動物であることがわかった.そして1969年RygaardとPovlsen8)によって,ヒト癌のヌードマウスへの移植が成功した.
 これ以来,ヒト癌の研究にこのヌードマウスを用いる実験が多くみられるようになった.中枢神経系以外のヒト腫瘍についてはヌード動物への移植の報告は数多くみられる.しかし,ヒト脳腫瘍についてはまだ必ずしも多いとはいえない.

Glasgow coma scaleとOutcome scaleからみた重症頭部外傷例のCTスキャンの検討

著者: 小野純一 ,   山浦晶 ,   堀江武 ,   牧野博安 ,   中村孝雄 ,   礒部勝見 ,   篠原義賢 ,   渡辺義郎 ,   有賀直文

ページ範囲:P.379 - P.387

I.はじめに
 頭部外傷に関するcomputerized tomography(CT)の検討は,Levanderら9)の報告をはじめとして現在まで広く報告2,3,8,15,17)されている.しかし,いずれも頭部外傷の一断面をとらえているにすぎず,重症度,CT所見と予後との相関関係について言及した報告は少ない.また,CTはこれまでいかなる補助診断法を用いても知ることができなかった脳実質損傷の程度を明確に描出し,頭部外傷の診断と治療には不可欠の手段となっている.
 われわれはこれまで,CT上の脳実質損傷をTable1のように,isodensity without mass effect:1(—),isodensity with mass effect:I(+),high density:H,high-low density complex:H-L.low density:L,diffuse cerebral swelling:DCSの6群に分類し報告19)してきたが,今回は重症例についてGlasgow comascale(以下GCS)に基づき重症度の再分類を試み,各群にみられるCT所見ならびに予後との相関について分析したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

One piece silastic LP-shunt

著者: 楠忠樹 ,   野垣秀和 ,   増村道雄 ,   玉木紀彦 ,   松本悟 ,   山下英行

ページ範囲:P.389 - P.392

I.はじめに
 水頭症に対する髄液短絡術には種々の方法があるが,近年,交通性水頭症に対して腰部くも膜下腔-腹腔吻合術(LPシャント)が再び注目されてきた.本邦においても,桑名ら3)が開発したLPシャントが普及している.われわれはLPシャントをより簡便に行う目的でonepieceのLPシャントを試作し使用してきたが,術後最長3年間の経過観察を行うことができ,満足のできる結果を得たことより,若干の考察を加えて報告する.

症例

視床下部Histiocytosis Xの1例

著者: 伊林至洋 ,   佐藤修 ,   堀田晴比古 ,   上出廷治 ,   相馬文勝

ページ範囲:P.395 - P.401

I.はじめに
 disseminated histiocytosis Xの部分症として,中枢神経系を侵すhistiocytosis Xは決して稀なものではないが,視床下部に限局したhistiocytosis Xは非常に稀で,Tibbs et al.18)によればわずか9例の報告しかなく,またその鑑別も容易ではない.治療方針を決定する上でも早期の積極的なbiopsyが必要となってくるが,われわれは神経放射線学的,内分泌学的,組織学的な検索により比較的典型的な本症を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

広範なComplete scalp avulsionに続発した頭蓋骨のSpreading osteomyelitisの1例

著者: 古野正和 ,   坂倉允 ,   和賀志郎

ページ範囲:P.403 - P.407

I.はじめに
 1899年Tilley22)は,前頭洞の手術後に発生した前頭骨全体に及ぶosteomyeli-tisをspreading osteomyelitisとして初めて報告した.それ以後,比較的多数の報告例がみられていたが22),しかし最近の抗生物質の発達と医学の進歩により,spreading osteomyelitisがわれわれの目にはいることはほとんどなくなった2,8,18,20,23)
 Woodhall23)は,1955年から1965年に17例の頭蓋骨のosteomyelihsを経験し,原因を次のように分類した——開頭術後7例,cervical traction tongによるもの4例,頭部外傷後3例,副鼻腔炎に続発するもの2例,frozen bome flapによるもの1例.同様にBullitt and Lehman2)も18例の頭蓋骨骨髓炎を報告しているが,osteomyelihsは限局性のものばかりである.頭蓋骨全体に及ぶostcomyelitisはWood-hall23)が1944年のOdomの手術をした1例を引用しているのみである.

小児視神経膠腫の2治験例

著者: 福田光典 ,   土田正 ,   本田吉穂 ,   田中隆一

ページ範囲:P.409 - P.414

I.緒言
 視神経膠腫は全頭蓋内腫瘍の約1%といわれているが5,11),一側の視神経に限局する例はさらにそのなかの半数以下とされている4,14,17).われわれは最近,CT scanにて一側の視神経に限局する視神経膠腫と診断し,手術的にほぼ全摘しえた2例を経験した.主にCT scanによる視神経膠腫の早期診断および手術適応について,若干の文献的考察を加えて報告する.

顔面神経再建術—小脳橋角部腫瘍摘出術後

著者: 岩崎喜信 ,   阿部弘 ,   都留美都雄 ,   伊藤輝史 ,   岩隈勉

ページ範囲:P.417 - P.422

I.はじめに
 顔面神経の損傷は,各種の腫瘍およびその摘出操作,外傷,炎症などによりひき起こされ,決して稀なものではない.ことに脳神経外科領域においては,小脳橋角部腫瘍(主に聴神経鞘腫)の手術の際,切断ないしは損傷を加えてしまうことが,近年,手術器具,操作の向上に伴い,その頻度が減じてきている9,18,19)とはいえ,今なおわれわれを悩ませる大きな問題の1つであることは間違いない.また,顔面神経再建術においても,損傷側の顔面神経をどのような種類の神経に吻合するか,さらには神経吻合法自体も各施設で異なり,その成績にもばらつきがみられる.
 本稿においては,われわれが経験した顔面神経再建術症例のうち,小脳橋角部腫瘍の手術の際に損傷を加えてしまった症例の顔面神経再建について,主に術式の比較,およびその予後の面より検討を加え,報告する.

1歳2ヵ月の幼児にみられた後頭蓋窩急性硬膜外血腫の1例

著者: 前田達浩 ,   横田仁 ,   原充弘 ,   竹内一夫

ページ範囲:P.425 - P.428

I.はじめに
 外傷性後頭蓋窩硬膜外血腫は頭部外傷中の0.3%1,4,5),全硬膜外血腫中,約7%4,6)程度を占めるにすぎず,頻度は少ない.しかもこの診断は比較的難しく,特に小児の場合は一層困難とされてきた.しかしCT導入以来,本症の診断は容易となり,報告例も増え,適切な処置が速やかに行われるようになった.
 最近われわれは,本邦の報告例中では最年少と思われる1歳2ヵ月男児の後頭蓋窩急性硬膜外血腫を受傷後2時間目にCTにて診断し,直ちに血腫除去術施行し,救命した.以下,本症例を報告し,今までの報告例を加えて,小児の後頭蓋窩硬膜外血腫の発生頻度,受傷機転,出血部位およびCT所見などについて検討した.

慢性硬膜下血腫を伴ったくも膜のう腫の1例

著者: 門脇弘孝 ,   井出光信 ,   高良英一 ,   山本昌昭 ,   今永浩寿 ,   神保実

ページ範囲:P.431 - P.436

I.はじめに
 くも膜のう腫の合併症として慢性硬膜下血腫がよく挙げられているが,臨床例の報告は比較的少ない5,8,11-13,16,18).今回われわれはCTおよび脳血管撮影検査により中頭蓋窩くも膜のう腫に慢性硬膜下血腫を合併した1例を経験したので報告する.

Choriocarcinoma脳転移の1手術例

著者: 杉山聡 ,   佐藤智彦 ,   小川彰 ,   小松伸郎 ,   和田徳男 ,   森塚威次郎 ,   並木恒夫

ページ範囲:P.439 - P.443

I.はじめに
 近年,絨毛癌における治療成績は化学療法の向上に伴い飛躍的に発達している.しかし,こと脳転移例においては,いまだ死亡率が高く,当院においても過去7例の絨毛癌の他臓器転移中,3例の脳転移全例が死亡しており,その予後は致命的とさえいわれている.
 今回われわれは絨毛癌の左前頭葉,頭頂葉の5ヵ所および右下肺野の転移巣を全摘し,さらに化学療法,放射線療法を行い良好な経過を送っている症例を経験したので,絨毛癌に対する現在の治療法を含め,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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