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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科11巻7号

1983年07月発行

雑誌目次

脳外科手術の移り変りと今後への願い

著者: 桑原武夫

ページ範囲:P.677 - P.678

 最近思うことの一つは,今日の手術が昔の手術にくらべてすばらしく進歩した,ということである.とくに今日では若い人でもかなりむずかしい手術を安全にやってのけるのを見て脳外科の進歩,普及を思い知らされる思いがする.そこで今回は,筆者が脳外科を志して以来,今日に至るまで筆者が見てきた脳外科手術の移り変りを思いつくままに記してみようと思う.
 筆者がインターンを終え東大第1外科(清水健太郎教授)へ入局したのは昭和27年のことであるが,この頃,頭の手術はすでに沢山行われていた.多くは脳腫瘍で,グリオーマあり,髄膜腫あり,下垂体腺腫あり,さまざまの腫瘍があったが,今日と異なり動脈瘤の手術はほとんど無い時代であった.当時は,気管内挿管による全身麻酔はわが国では普及する直前のことであり,ほとんどの手術はプロカインの局所浸潤麻酔のみで行われていた.

総説

頭蓋内疾患における頭蓋内圧測定の実際

著者: 永井肇 ,   神谷健

ページ範囲:P.679 - P.689

I.はじめに
 頭蓋内圧が亢進すると,呼吸,血圧,意識などvitalsignsに影響を与えることは,すでに18世紀の頃から断片的に実験例によって示されているが,実際に頭蓋内圧を測定して,頭蓋内圧の数値と臨床症状との関連について検討が始まったのは19世紀も終わりに近くなってからである4,23,34,59).著者はこれまで,頭蓋内圧測定の方法,病態生理に関してreviewを行う機会があったが42-44,67),今回は,持続頭蓋内圧測定がわれわれ臨床家にどれだけ頭蓋内疾患の診断,治療に有効な情報を与えるかについて検討し,報告したい.
 最近Narayanら45は"Intracranial pressure:tomonitor or not to monitor"というtitleで,頭部外傷患者のうち,如何なる症例に対して頭蓋内圧の連続測定を行うべきかについて紹介した.頭蓋内圧を測定する手技が現在のところ必ずしも容易でなく,多少なりとも被検者に苦痛を与えるものばかりであるので,いきおいその適応については慎重にならざるを得ない.そこで本文では,著者らが経験した頭部外傷,脳血管障害,脳腫瘍,水頭症などの症例における頭蓋内圧測定の実際を紹介し,若干の実験例も加えて,頭蓋内圧連続測定の意義について考察を加えたい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

視交叉部下垂体の手術—Transcranial approachについて

著者: 都留美都雄

ページ範囲:P.691 - P.700

I.視交叉部下垂体手術に必要な解剖
1.正常脳下垂体の発生および解剖
 頭神経孔anterior neuroporeが閉鎖するのは,人間では第20一体節期の胚子の時期であるといわれているが,この前神経孔の閉鎖する前に,ラトケ氏嚢Rathke’sPouchと呼ばれる外胚葉の陥入が,口咽頭膜buccopha-ryngeal membraneの口窩のstomodeun屋根のところに見られる.胎児が発育するにつれて,このラトケ氏嚢は脊索notochordの前方で間脳へ向かって発育し,それが成長し延長するにつれて,咽頭の屋根との付着部が漸次狭小となる,それと同時期に,間脳の底から漏斗部infundibulumが下方へ成長してくる.
 妊娠の後半期において,この漏斗部から脳下垂体茎stalkと脳下垂体後葉(神経部)が発生する.その細胞は下垂体細胞pituicytesとなるが,この下垂体細胞は神経膠細胞の性質を有している.神経細胞は将来視神経上核supraoptic nucleiおよび室旁核paraventricularnucleiからの神経分泌物質を後葉に運搬する作用をする.

研究

蝶形骨縁髄膜腫28例の検討

著者: 花北順哉 ,   半田肇

ページ範囲:P.703 - P.711

I.はじめに
 蝶形骨縁髄膜腫(meningiomas of the sphenoidal ri-dge),ことにその内側1/3に発生したいわゆるclinoi-dal typeのものは現在でも全摘出は極めて困難であり,これらの摘出に関してさまざまな工夫が試みられている3,4,7,8).京都大学脳神経外科学教室では1965年1月から1982年3月までに28例の蝶形骨縁髄膜腫を経験している.これらの28例について主として脳血管撮影所見,CTスキャン所見,手術成績について検討を加えたところ興味ある結果を得たので報告する.

サルにおける実験的振戦誘起部位の神経解剖学的研究—変性線維鍍銀法による

著者: 中岡勤

ページ範囲:P.713 - P.721

I.はじめに
 不随意運動24)には,振戦,アテトーゼ,無踏病,ヘミバリスム,ミオクローヌスなどが知られている.それらのなかでも振戦を主症状とするパーキンソン病は,James Parkinson(1817)がshaking palsyと,Charcot(1892)がmaladie de Parkinsonと命名してからすでに1世紀以上経過しており,原因,機序もかなり理解されてはいるが,未解決の部分も多い,有病率26)も14.0/10万(諸外国では100-180/10万)と不随意運動疾患のなかで大きな位置を占めるものである.
 サルの中脳被蓋腹内側部(VMT:ventromedial teg-mentum)の破壊によりパーキンソン病と類似する振戦を出現させうることが知られている21,22)

自家骨髄移植を併用した大量化学療法による悪性脳腫瘍の治療

著者: 渋井壮一郎 ,   渡辺卓 ,   三木啓全 ,   野村和弘 ,   大平睦郎

ページ範囲:P.723 - P.729

I.はじめに
 悪性神経膠腫は,現在なお治療困難な疾患のひとつである.術後の放射線療法,化学療法の進歩により,その治療成績も向上しつつあるが,大半の症例が再発,増悪を繰返し不幸な転機をたどっている.動物実験での成績のよさが,そのまま臨床成績につながらないのは,使用する薬剤の量の差によるところも多いと思われるが,大量に薬剤を使用すれば,急性,亜急性毒性の問題があり,特に,強い骨髄抑制のために通常の方法で臨床に実施するのは極めて困難である.一方,骨髄移植の試みは1956年以来,数多くなされてきたが3,18,19),最近,骨髄細胞の凍結保存技術の確立により,大量の化学療法あるいは全身放射線照射後に凍結保存しておいた自家骨髄を戻すという方法で骨髄抑制を克服し,白血病その他の悪性腫瘍の治療が試みられ好成績をあげている5,6,8,12,16),われわれは,従来の治療に抵抗性の悪性神経膠腫に対し,自家骨髄移植を併用した大量化学療法を行う機会を得たので報告する.

急性期頭部外傷におけるSerial CT scanの診断的意義

著者: 小林士郎 ,   中沢省三 ,   矢埜正実 ,   大塚敏文

ページ範囲:P.731 - P.737

I.はじめに
 急性期頭部外傷患者の診断におけるcomputer-ized tomography(以下CTと略す)の有用性は絶大なものであり,CT導入以降,従来診断不可能であった種々の病態像が明らかにされるとともに,初回CT所見と予後との関係も数多く論じられてきた4,7,8,11,12,14-16,22,23).一方,初回CTに引き続いて行われる経時的CT撮影(serial CT scanning,以下SCTと略す)により,頭蓋内病変のdynamicな変化を把握することが可能となり1,5-9,17,19),これにより確認される種々の新所見(初回CTにて認められず,SCTによりその出現が認められる所見.new finding(s))が経験されるようになったものの,それらnew finding(s)と予後との相関に関しては充分な解析はいまだなされていない,そこで今回,著者らは,SCTにより確認されたnew finding(s)と予後との関係を中心に検討し,興味ある知見が得られたので報告する.

症例

Multilocular encapsulated intracerebral hematoma

著者: 高橋伸明 ,   菊池晴彦 ,   小林啓志 ,   唐澤淳

ページ範囲:P.739 - P.743

I.はじめに
 慢性にあるいは非常にゆっくり臨床症状が経過する脳内出血は,非常に稀である.脳内血腫が厚い被膜でおおわれ,さらにそれが多房性の症例は文献的検索でも見いだしえない.
 multilocular encapsulated intracerebral hematomaの稀な1例を報告し,その成因に関して考察を加える.

新生児第3脳室Choroid plexus papillomaの1例

著者: 豊田収 ,   金子的美 ,   平戸政史 ,   今井周治 ,   若尾哲夫

ページ範囲:P.745 - P.748

I.はじめに
 choroid Plexus papillomaは全脳腫瘍中0.411)−0.6%3)の頻度を占める比較的稀な腫瘍である.そのうらでも第3脳室に存在するのは約1割と少なく,Fortuna(1979)4)によると,文献上記載のあるのは56例にすぎない.またArnstein1)は,生後60日以内に発症したものを新生児脳腫瘍と定義したが,この定義により佐藤ら(1978)10)が調べた全新生児脳腫瘍数は154例であり,非常に稀である.新生児例のchoroid plexus papillomaについてみると,側脳室に存在した例が若干あるが,第3脳室に存在した例は文献上はない.このたびわれわれは,生後2週目に頭囲拡大で発症した第3脳室choroidplexus papillomaの新生児例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Villaret症候群を呈した外傷性頭蓋外巨大内頸動脈瘤の1症例

著者: 大庭正敏 ,   新妻博 ,   児玉南海雄 ,   遠藤実 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.751 - P.754

I.はじめに
 いわゆる下位脳神経叢は頭蓋腔を出てから頸部に至るまでは近接して下行する,したがってその領域に病変を生じた場合,末梢性の複合神経障害が出現するが,その神経の組み合わせにより,いくつかの症候群が記載されている7)
 今回われわれは,右後頸部の穿通性外傷後に頸部内頸動脈に巨大な動脈瘤を生じ,かつVillaret症候群すなわち右側IX-XII脳神経麻痺およびHorner症候群を合併した症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Transient neurological deficitsを主徴とした頸髄症の1手術症例

著者: 池田宏也 ,   生塩之敬 ,   早川徹

ページ範囲:P.757 - P.762

I.はじめに
 cervical spondylosisや頸椎後縦靱帯骨化(以後cer-vical OPLLと略す)による脊髄症は,われわれ脳神経外科医にとって実地臨床上数多く遭遇する病態である.しかしX線上cervical spondylosisやcervical OPLLが認められても脊髄症としての症状を呈さない患者もかなり存在することも周知の事実である上またcervicalOPLLの大部分はcervical spondylosisを合併しており6),この際患者が示す種々の症状の各々がこれら二者のいずれの病態と対応しているかを決定することに困難なことがある.さらに,これらの脊髄症の神経症状ならびに症候そのものも,脊髄以外すなわち脳や末梢神経病変から発現するものと神経学的に鑑別することにしばしば苦慮することもある.
 最近,われわれは1年間にわたり頻発する一過性の四肢不全麻痺と四肢シビレ感の神経脱落発作を主徴としたcervical OPLLにcervical spondylosisを合併した症例を経験した.当初,椎骨脳底動脈系のTIAを疑わせたが,頸椎椎弓切除術により前記一過性神経脱落発作の消失を得た.その結果cervical OPLLやcervical spon-dylosisによる一過性の頸髄症(cervical myelopathy)がこの患者の主要症状発現の原因と推測されたので,その1例を報告する.

ヘパリン少量投与法が有効であった頭部外傷後DICの1例

著者: 飯塚秀明 ,   角家暁 ,   鈴木尚 ,   島崎鋼兵

ページ範囲:P.765 - P.769

I.はじめに
 重症頭部外傷に続発して汎血管内凝固症候群(以下DIC)が生ずることは知られており6,8,10,13),重篤な合併症として予後を左右する因子の1つと考えられている13).DICの治療は,従来よりヘパリン療法の有効性が認められているが5),頭部外傷,特に頭蓋内血腫を伴った例にヘパリンを投与することは,その投与量によってはかえって出血を助長させる危険がある8,13).一方,DICの治療として,6,000-10,000単位/日程度の少量のヘパリンが有効との報告もみられ9),最近は,出血の副作用の心配ない少量投与法の報告が多くなってきている11,14).われわれは,外傷性頭蓋内血腫に続発したDICに対し,6,000単位/日の少量ヘパリン投与により,DICを治療しえた1例を経験したので報告する.

Metrizamide encephalopathyの1例—特にMetrizamideによるMajor side effectの予防および治療についての文献的考察

著者: 高橋立夫 ,   中村鋼二 ,   田島正孝

ページ範囲:P.771 - P.779

I.はじめに
 水溶性造影剤metrizamideのすぐれている点はいうまでもなく,現時点ではかけがえのないものである.しかし,使用経験が増すにつれ,種々の副作用報告がみられ,われわれは1981年2月以来の自験例(脊髄腔造影70例,脳槽造影18例,脳室撮影6例)94例中1例に,metrizamide脳症と思われる苦い経験をした.二度とこのようなことがないために,その予防と治療について文献的考察を加え,報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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