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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科11巻8号

1983年08月発行

雑誌目次

般若心経

著者: 畠中坦

ページ範囲:P.785 - P.786

 昭和38年(1963年)の晩秋であったかと思うが,東大病院清水外科医局で恒例の実験動物慰霊祭が導師畠中坦によってとり行われた.祭主は清水健太郎教授である.入局年次ごとに当番のクラスが行うのだが,毎年の坊主役に指名された医局員は上野のお寺から法衣や木魚を借りてきて,もっともらしくこれをとり行い,祭主の教授の弔文朗読が終ると酒肴が供されておひらきとなるのが常で,弔文にしてからが,聞いている者がふき出したくなるのを必死で我慢したくなるような内容であるくらいの「慰霊祭」であった.
 私が坊主役を押しつけられたのは「あいつはクエーカー(プロテスタント)だからちょっと趣向が変って面白いから」という理由のようであった,クエーカーは正式名をフレンド派といい,クロムウェルの清教徒(ピューリタン)革命の頃に生れたもので,ピューリタンとほぼ同時にWilliam Pennに率いられて米国へ渡来したために,日本ではピューリタンと混同されることもあるが,フレンドの方は他宗派を弾圧したり排撃したりということが全くなく,牧師もおらず,戒律もなく,聖書や讃美歌もあまり重視せず,一人一人の人間の心の内に神が宿るという中心思想を抱き,儀式めいたこともほとんどやらない(日本人で米国のクエーカーの礼拝会に出席して大きい影響を受けた有名人の中には新渡戸稲造と内村鑑三がいる.クエーカーは教会制度を持たないが,内村さんが無教会派を後に率いたことは大いに関連がある).

総説

NMR画像法

著者: 安里令人 ,   半田肇

ページ範囲:P.787 - P.801

I.はじめに
 核磁気共鳴法(nuclear Imagnetic resonance, NMR)はいくつかの特色を持ち,それらは生体測定に際して長所とも短所ともなる.
 生体を観察する場合,内視鏡や実体顕微鏡では直接視覚でとらえ,X線CTでは組織のX線吸収係数を測定するが,これら外部から観察する方法と異なり,NMRはポジトロンCT(PET)と同じように生体内物質から放射される電磁波をとらえる.ただPETでは外来の物質を観測するのに対し,NMRでは外部から電磁波を照射することによって生体内に存在する自前の元素を励起し電磁波を放射する性質を付与する点が異なる.この場合,生体内諸元素のすべての核種がNMRの測定対象とはならず,核子(陽子および中性子)のいずれかが奇数である核種に限られ,このときその核種は正味の核スピンを持つ.したがってたとえば12Cと16Oは生体内で普通に存在する炭素と酸素の同位体であるにもかかわらずNMRで測定できない.そのうえ各核種の相対的な感度に差があり,実用的な核種は限られてくる(Table1).

解剖を中心とした脳神経手術手技

眼窩内腫瘍の手術

著者: 岩淵隆

ページ範囲:P.803 - P.810

I.はじめに
 眼窩は乾燥骨標本で測定すれば,その容積は成人で約25cm3に過ぎないが,その内腔には中枢神経である視神経,およびその付随組織として髄膜の他,末梢神経,横紋筋,涙腺,血管,結合織脂肪など,さまざまな組織が存在し,隣接組織からの進展,遠隔転移を含め発生する腫瘍は各種各様である.
 しかしその発生頻度はさほど高くはなく,全国の大学,主要病院眼科の集計では年間発生385例で,眼科患者総数の0.16%,眼腫瘍の32.10%,また両側例は2.5%であったと報告されている56),他方,厚生省がん研究(56S−1)の一部としての脳腫瘍全国集計調査報告1977年版では,同年の新しい脳腫瘍登録患者は2,794例と記載されている.年代,調査法が異なるので正確にはいえないが,これら2つの数値からすれば,発生頻度について,眼窩腫瘍は脳腫瘍の約1/7ということになる.最近10年間のわれわれの教室ではほぼ1/30である.

研究

慢性硬膜下血腫の術後血腫腔の消退速度についての検討—経時的CT所見の観察を中心に

著者: 西蔦美知春 ,   堀江彰男 ,   中田潤一 ,   岡伸夫 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.813 - P.819

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫は,脳神経外科医にとり,日常しばしば遭遇する疾患であるが,その成因および血腫の増大機転などについては,いまだ議論の多いところである.しかし,近年,CT導入によりその診断も容易になり,経時的にCT像を分析することにより,従来と異なった観点からその病態について検討がなされている.今回,著者らは特に術後血腫腔の変化に注目し,その消退速度に影響を及ぼすと思われる因子につき,種々の角度より検討したので報告する.また,症例によっては,術後に血腫の再貯留や症状の再発した症例も存在したが,これらについても検討を加えた.

悪性脳腫瘍に対する新しい治療法の試み—2:Adriamycin局所注入療法について

著者: 中沢省三 ,   伊藤保博 ,   志村俊郎 ,   松本正博 ,   矢嶋浩三

ページ範囲:P.821 - P.827

I.はじめに
 膠芽腫をはじめとする悪性脳腫瘍の治療法には,手術療法に加え,放射線療法と抗癌剤の全身投与法が現今最も普通に行われている治療法である.しかし最近では,現在行われている抗癌剤の治療法に対する限界と副作用に言及する論文が数多くみられるようになった6,8,14,15)
 われわれは全身投与法の欠点を補うため抗癌剤の局所注入療法を考案改良し,前報にてbleomycin(BLM)局注療法についての効果を報告した10).そのなかで,静注された57Co-BLMが腫瘍部位にわずかなhot Spotを作り,僅々2-3時間でwash-outされてしまうのにひきかえ,局注された57Co-BLMは数日間も腫瘍床内にとどまり,ゆっくりとwash-outされることを確認した,しかし,臨床例の欠点として,局注されたBLMは腫瘍床組織と極めて強い反応を起こし,強度な線維性結合組織の増生を来たすため,反復投与するBLMの深部腫瘍組織への浸透が著しく妨げられることがわかった,これはBLMによる局注療法の大きな欠点であり,このため悪性グリオーマの治療成績が必ずしもよくない結果に終ったものと反省される.今回は,線維性反応を来たしやすいBLMに代えて,組織への浸透性が極めて高いと考えられているadriamycin(ADM)を使用することにより,悪性グリオーマに対してはなはだ良好な治療成績が得られたので,脳腫瘍組織におけるADM濃度の静注法と局注法の比較検討を加えて報告する.

くも膜下出血を示した脳動静脈奇形における脳血管攣縮の検討

著者: 松森邦昭 ,   朝日茂樹 ,   中山賢司 ,   宮坂佳男 ,   別府俊男

ページ範囲:P.829 - P.834

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂のくも膜下出血(以下SAHとする)に伴う脳血管攣縮(以下spasmとする)は普通にみられる病態である.しかしSAHを来たした脳動静脈奇形(以下AVMとする)においてspasmを示すことは極めて稀である.またその報告7,9,11,12)も少ない.AVMによるSAHに伴うspasmにつき検討したので報告する.

外傷性脳浮腫と局所脳糖代謝—局所脳血流および局所血液脳関門と関連して

著者: 柴田尚武 ,  

ページ範囲:P.837 - P.843

I.はじめに
 Sokoloffら(1977)7)によって開発されたオートラジオグラフを利用しての14C-デオキシグルコース法による局所脳グルコース利用率Local Cerebral GlucoseUtihzation(以下LCGUと略す)および14C-ヨードアンチピリン法による局所脳血流Local Cerebral BloodFlow(以下LCBFと略す)は,脳内局所の機能的活動状態を,同時にかつ定量的に,覚醒している動物において測定できるすぐれた方法である.
 一方,Kiatzoら(1958)3)によって開発された凍結損傷法による外傷性脳浮腫モデルを利用して,脳浮腫に関する数多くの研究が行われてきた,しかし局所脳糖代謝や局所脳血流を正確に測定する方法がなかったために,この方面の研究はほとんど行われていなかった.したがってLCGUおよびLCBFは脳浮腫研究においても有力な手段を提供するものと思われる.

脊髄神経鞘腫に対するCTの診断的価値

著者: 小山素麿 ,   清水健夫 ,   西浦巌 ,   相井平八郎

ページ範囲:P.845 - P.854

I.はじめに
 脊髄神経鞘腫は髄膜腫とともに脊髄良性腫瘍の大部分を占め,早期に発見されれば外科的処置により完治も望みうる3,12,15,19,21).ことに日本10)や中国4)の統計によれば,欧米のそれ3,15,18)に比べ神経鞘腫の発生頻度は3倍以上に達し,さらに注意して検索すれば不可逆的な神経損傷が起こる前に,より多くの患者を発見し治療できるものと,思われる.
 CT器械の最近の進歩により,脊髄神経鞘腫に対するCT診断法もいくつか発表されてはいるが,造影法,撮影条件,あるいは他の腫瘍との鑑別法に関しての詳細な報告は少ない2,11,13,14,17)

症例

開頭術による全摘後,Pterygomaxillary fossaに再発した蝶形骨縁髄膜腫の1例—症例報告と手術アプローチについて

著者: 花北順哉 ,   絹田祐司 ,   武内重二 ,   半田肇 ,   牧本一男

ページ範囲:P.857 - P.864

I.はじめに
 髄膜腫は肉眼的に全摘出されても5-15%の再発があるとされているが,その再発率は腫瘍発生部位によって異なっており,蝶形骨縁髄膜腫では,7.7-15%といわれている10).一方,髄膜腫は良性腫瘍といわれながらも,ときには近傍の組織へと浸潤性に伸展したり,他臓器へ遠隔転移を示すことが知られており7),蝶形骨縁髄膜腫の場合にも,眼窩内,海絹瀞脈洞,pterygomaxillilaryfossa(infraiemporal of fossa)な.どに伸展することが報告されている1).このたび,蝶形骨縁の中間側(alar type)に発生した髄膜腫で,開頭術によって全摘出されたが,2年経過してから頭蓋内には再発せずに,pterygoma-xillary fossa,眼窩内に再発した1例を経験した.初回開頭術前の脳血管撮影,CTスキャン所見では腫瘍は頭蓋内にのみとどまっていた.今回再発した腫瘍は上顎洞癌摘出術に用いられるDieffenbach-Weber-Fergusson法によるアプローチを応用して摘出した6).これら2回の腫瘍摘出前の脳血管撮影所見,CTスキャン所見を報告し,さらにpterygomaxillary fossa内腫瘍へのアプローチの1つとしてのDieffenbach-Weber-Fergusson法の経験を報告する.

脈絡叢部動静脈奇形の1例

著者: 村田高穂 ,   織田祥史 ,   内田泰史 ,   奥村禎三 ,   森本雅徳 ,   森惟明

ページ範囲:P.867 - P.873

I.はじめに
 脳動静脈奇形(arteriovenous malformation:AVM)のうち,前もしくは後脈絡叢動脈(anterior or Posteriorchoro)klal artery)あるいはその両方より栄養され,ガレン静脈系に流入するいわゆる脈絡叢部動静脈奇形(AVM of the choroid plexus)は,Cophignonら5)のいうchoroidal AVMのうち脈絡叢動脈末梢側(脳室内)に本体(nidus)を有するものをいう,この部のAVMは脳室内出血が必発であり,そのために重篤な経過をとる例がある6,14).しかし,一方ではその本体は一般に小さなものが多く,早期確定診断により根治手術の可能なことが多い11)
 われわれは脈絡叢部AVMで,経脳梁到達法(trans-callosal approach)による根治手術を行い,後遺症を残すことなく治癒せしめた1例を経験したので報告するとともに,これまでの文献を再調査し,AVMを含めた脈絡叢部血管腫(angiomla of the choroid plexus)に関する臨床上の問題点につき考察を加えてみた.

脳血管撮影中に造影剤のExtravasationを認めた巨大脳動脈瘤の1例

著者: 吉野英二 ,   山木垂水 ,   樋口敏宏

ページ範囲:P.875 - P.880

I.はじめに
 脳動脈瘤患者の脳血管撮影中に造影剤のextravasationを認めた報告は数多い3,4,10,13).最近では脳血管撮影だけでなく,CTscanにてextravasahonを碓認した報告も散見される5).筆者らは最近,脳血管撮影中に再破裂を来たし,脳血管撮影とこれにひき続いて施行したCT scanの両者において造影剤のeMravasationを認めた巨大脳動脈瘤の興味深い1例を経験したので報告する.

後頭蓋窩硬膜動静脈奇形の3症例—特に外科的治療について

著者: 馬渕正二 ,   中川翼 ,   阿部弘 ,   木野本均 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.883 - P.889

I.はじめに
 後頭蓋窩の硬膜や天幕に発生する硬膜動静脈奇形(以下dural AVMと略す)は1968年Newtonら13)が16症例をdural arteriovenous malfornlation in the pos-terior fossaとして発表して以来,多数の類似した症例が報告されている.さらにCTの出現,脳血管撮影法の進歩,手術所見や病理組織学的所見の集積により,本疾患の病態は次第に解明されつつあると思われる5-9,11,14,15,17,19).しかし,その治療方法は症例の病態により種々試みられているが確立されたものはなく,今なお試行錯誤の状態といえよう16)
 今回,著者らはNewtonらのいう後頭蓋窩duralAVMの3例(うち1例は脳動静脈奇形〔以下pialAVMと略す〕の併存したmixed AVM)を経験したので症例報告とともに主に治療方法について考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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