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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科12巻1号

1984年01月発行

雑誌目次

打撃の心

著者: 和賀志郎

ページ範囲:P.5 - P.6

 「扉」は読む側になると大変楽しい読み物であるが,書く側に廻ると大変な難物である.7巻11号(1979)に「守備の心」を書いたところ大変不評であったらしい.ようやく代打,代走も種切れとみえ,また出番が廻ってきた.今度は「打撃の心」でいこう.題は簡単に決ったが,その後が続かない.折からの緊縮財政によって教官居住区域には冷房を行わないという悪条件下にある.暑い頭ではよい知恵も浮ぶまい.
 とにかく「守備の心」は誤解も招いたらしい.あれを読むと「打撃の人」はお前だけで,あとの人は皆「守備の人」と読めるなどと講釈する人が現れた.それは「読み過ぎ」というものである.昔の人も言っている,過ぎたるはなお及ばざるがごとし,と.広岡達朗先達が言う如く,守備は練習さえすれば,少なくとも9割の守備率を達成できる.平均的能力とか標準というものがあるとすれば,「守備の心」は臨床家にとって不可欠であろう,ということを言いたかったのである.

総説

下垂体腫瘍に対する経蝶形骨洞手術—その歴史と現況

著者: 佐藤修

ページ範囲:P.7 - P.25

I.はじめに
 世の中には,思いもかけない偶然な事が重なり,歴史の糸がどこかで操られているようで不思議である.下垂体腫瘍に対する経蝶形骨洞手術(transsphenoidal sur-gery,以下T/S手術と略記)の歴史においても例外ではない.1910年6月4日,Harvey Cushingが,Balti-moreのJohns Hopkins Hospitalで,歴史的な,現在最も普及している,上唇下から鼻粘膜を切除することなく,粘膜下剥離法で鼻中隔を切除し,蝶形骨洞を経てトルコ鞍に到達する方法(submucous sublabial transsep-tal approach)で,初めて下垂体腫瘍の減圧手術を行った同じその日に,Baltimoreから遙か大西洋を越えたWien大学病院で,Oskar Hirschが歴史に残る,鼻腔内から粘膜下剥離法で蝶形骨洞を経てトルコ鞍に到達する方法(submucous endonasal approach)で初めて下垂体腫瘍の減圧手術を行った.しかも,Cushingは1912年にBostonに移り,Hirschも1930年代,Bostonに渡りT/S手術を続けた.
 1983年6月4目,場所も同じBostonで第1回の下垂体腺腫国際Symposiumが開催された.この会に出席した著者が,Bostonで6月4日に誕生日を迎えたことも何かの因縁と思い,6月4日とBostonにまつわるT/S手術の歴史を紐解き,現況を見つめてみたい.

解剖を中心とした脳神経手術手技

第3脳室前半部腫瘍へのInterhemispheric trans-lamina terminalis approach

著者: 鈴木二郎 ,   片倉隆一 ,   北原正和 ,   森照明

ページ範囲:P.27 - P.34

I.はじめに
 第3脳室腫瘍へのapproachは,Dandy以来,種々の方法が行われている(Fig.1).すなわちDandyの右前頭葉切除Monro氏孔経由3),Poppenの同部切開Monro氏孔経由17),Van Wagenenの後頭葉切開経側脳室経由26),Dandyのtrans-callosal松果体部腫瘍摘出1,2),Jamiesonのsuboccipital trans tentorial approach7),Steinのsubtentorial supracerebellar approach21)など枚挙にいとまがない1-3,5,6,9,10,13-23,25-27).いずれにしろ,脳実質の損傷,特に第3脳室周辺の重要な脳の損傷がなく,また動静脈の犠牲を極力避ける方法で行われなければ,術後発生することが予想される重大な合併症を克服して摘出することはできない4,6,12).第3脳室内の腫瘍を摘出するためには,どうしてもその壁のどこかを損傷して入らなければならないが,その壁の最も薄い部分は,第3脳室前壁にあるlamina terminalisである.

研究

急性期虚血脳に対するDopamine療法—皮質脳血流量および体性感覚誘発電位の回復よりみた基礎的研究

著者: 木野本均 ,   中川翼 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.37 - P.45

I.はじめに
 虚血性脳血管障害により生ずる急性期虚血脳の治療上大切なことは,"虚血脳"が組織学的に非可逆的変化を起こす前に機能回復に必要な適切な血流を供給することにある.虚血脳への血流増加法として,外科的には血栓除去術,浅側頭動脈-中大脳動脈皮質枝吻合術などが行われている.また非観血的方法として,体血圧上昇により減少した脳灌流圧を上昇させるいわゆるinduced hy-pertension法2,6,7,10-12,16,17-20),CO2吸入による血管拡張を利用したinduced hypercapnia法8,9,13-15)などがある.しかしながら過剰な血流増加は脳浮腫を増悪させること,ならびに,急性期の脳血管のautoregulationやCO2反応性の問題などにより,急性期の血流増加の是非についてはいまだ合意は得られていない.
 急性循環不全改善剤として用いられているdopamineは,norepinephrineのprecursorとして,少量ではβ作用,多量ではα作用を有し,腎血管拡張とともに脳血符を拡張させる薬理作用も有しているといわれている.その脳血管拡張作用ならびに血圧上昇作用を期待して,本薬剤は近年虚血性脳血管障害の治療に使用されはじめている.しかしながら,虚血脳におけるdopamineの脳循環,脳機能に及ぼす基礎的研究はいまだ非常に少ない4,5,18)

脳腫瘍の実験的経髄液播種に対する化学療法

著者: 山下俊紀 ,   篠永正道 ,   石渡祐介 ,   西村敏 ,   村井政夫 ,   久間祥多 ,   桑原武夫

ページ範囲:P.47 - P.53

I.はじめに
 悪性グリオーマに対する化学療法は,血脳関門の問題など,他臓器における悪性腫瘍の治療に比して種々の困難な面がある.しかしニトロソウレア系の制癌剤の出現以来,新たな展開を迎え,現在ではこれを中心に多剤併用治療の効果についての研究が活発に行われている.一方,悪性グリオーマに対し,積極的な完全摘出を目指す手術が行われるようになり,手術自体による延命効果も増してきた.それに伴い,原発巣の再発をみないまま髄腔内播種を主とした頭蓋内外の他部への転移を生じるといった現象もみられるようになり,脳腫瘍の治療にあたり,髄液腔内播種の予防と治療が重要な問題となりつつある11).とりわけ髄芽腫については,髄液腔内播種が予後を左右する最も重要な因子である.以上のことから,手術後の放射線治療,化学療法に関してなお一層の研究が必要とされる,化学療法についてはすでにいくつかの臨床治験がなされ,成果ならびに問題点の報告が散見される1,2,4-6,10,12,14,15,19).また,実験的研究としては生塩らに代表される髄膜癌腫症に対する薬効学的研究がなされてきた16,17,20-22,24)
 筆者らは,ラットでグリオーマの髄液腔内幡種性転移のモデルを作成し,これを用いて単剤または多剤併用による化学療法の効果を検討した.

CT-guided stereotaxic systemによる脳腫瘍のBiopsy—進入方法について

著者: 新妻博 ,   片倉隆一 ,   大槻泰介 ,   桑原健次 ,   池田俊一郎 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.55 - P.61

I.はじめに
 定位脳手術は1947年Spiegd & Wycisら28)により初めて施行され,最小の外科的侵襲により目標部位への到達が可能な方法として発展してきた.さらに1972年,CTが初めて臨床例に用いられたが1),その後CTを定位脳手術に応用する研究が進められ,脳腫瘍,脳内出血,脳膿瘍など,CTによって病巣部の正確な拡がりを明らかにできるようになった疾患に対する定位脳手術が容易になった.
 著者らは,CT専用型定位脳手術装置を用い,開頭による摘出術が困難と考えられた脳腫瘍症例13例に対し,進入方法を工夫しつつ,CT下のstereotaxic biopsyを施行したので報告し,若干の考察を加える.

破裂脳動脈瘤術後長期観察例における術後痙攣発作

著者: 石川正恒 ,   半田肇

ページ範囲:P.63 - P.68

I.はじめに
 開頭術術後に長期間にわたって抗痙攣剤の投与を行うか否かについてはいまだ一定の見解はなく,全例に投与する立場と選択された症例にのみ投与する立場とがある.また,投与薬剤,投与期間についても一定の見解はなく,個々の医師の経験や各施設毎の基準によって決められているのが現状である,このことは,外傷性てんかんと異なり,開頭術術後の痙攣についてのまとまった報告がなく,痙攣発作の頻度や危険因子に対する知見が充分でないことが一因と考えられる.
 京都大学脳神経外科では,破裂脳動脈瘤のneck clip-ping施行後の症例で,術後経過良好で,局所神経症状のない例には従来より抗痙攣剤の投与はしていないが,今回はこのような抗痙攣剤の非投与例の多い施設での術後痙攣の頻度,初発時期,局所神経症状の有無,CT所見および抗痙攣剤投与の有無について検討を行い,開頭術術後の抗痙攣剤の予防的効果について検討を加えた.

症例

Bromocriptineによる非機能性下垂体腺腫の腫瘍縮小効果

著者: 高橋立夫 ,   桑山明夫 ,   加藤哲夫 ,   市原薫 ,   景山直樹 ,   佐々木文彦

ページ範囲:P.71 - P.80

I.はじめに
 1967年Flückiger13)により開発されたdopamine ago-nistであるbromocriptineがプロラクチン産生腫瘍に対し特に有効で,血清プロラクチン値の低下作用のみならず,多くの症例では腫瘍縮小効果も著しく,そのことはCTやmetrizamide cisternography, metrizamide CTC,pneumoencephalographyなどで証明されてきた1,3-10,14−16,19-26,28-31,33,67-41,43-46,48,49),先端巨大症に対してはわずか十数例で縮小効果が証明されているのみであるが19,39,46,47,49),非機能性下垂体腺腫に対しては最近John-ston, Spark, Wollesenらが縮小効果を報告している19,39,49).われわれは,視力視野障害で発症した47歳男性で,内分泌学的に非機能性であるにもかかわらずbro-mocriptine投与により著しい症状の改善とともに腫瘍が縮小した症例を経験したので,組織学的検討を加え報告する.

頭蓋底硬膜外腔への伸展を示した原発性頭蓋内Endodermal sinus tumorの1例

著者: 村田高穂 ,   有澤雅彦 ,   織田祥史 ,   内田泰史 ,   森本雅徳 ,   奥村禎三 ,   清家真人 ,   森惟明 ,   森木利昭 ,   原弘

ページ範囲:P.83 - P.90

I.はじめに
 原発性頭蓋内endodermal sinus tumor(EST)(=yolk sac tumor)は極めて稀な疾患であり,これまでに明らかな記載のあるものに限れば24例の報告をみるにすぎない2-4,6,8,14,18)(Table 1).Ebertsら6)は18例の原発性頭蓋内ESTにつき検討した結果,自験例を含めた3例のみがトルコ鞍内もしくはその近傍より発生し,残りの大部分は松果体部原発であったと報告している.しかも松果体部原発例では男性優位であるのに対し,トルコ鞍部原発例は3例とも女性であった.また,トルコ鞍部原発例では腫瘍の鞍上部伸展に伴い,下垂体-視床下部機能不全症と視力,視野障害をきたした.
 われわれはトルコ鞍背部蝶形骨近傍より発生したESTが頭蓋底硬膜外腔に沿い広範囲に伸展し,それに伴い極めて特異な臨床像を呈した1男性例を経験したので報告し,文献考察を行い,病理組織学的検討を加えた.

頸髄AVMの3例—特にCTの有用性について

著者: 長澤史朗 ,   吉田真三 ,   石川正恒 ,   米川泰弘 ,   半田肇 ,   北条博厚 ,   片岡健吉 ,   山崎駿 ,   渡辺秀男

ページ範囲:P.93 - P.98

I.はじめに
 脊髄血管撮影の普及やmicrosurgeryの導入により4,6,8,10,12),脊髄動静脈奇形(Spi-nal AVM)の診断や治療は近年著しく進歩した.頸髄AVMは脊髄AVM全体の5-13%の頻度であるが,①発症年齢が低い,②くも膜下出血をきたしやすい,③四肢麻痺など重篤な脱落症状をきたす可能性がある,④AVMのnidusが髄内に存在する頻度が高いため,摘出術は一般に困難である,などの特徴を有している1-3,6,15,16)
 著者らは現在までに3例の頸髄AVMを経験した.頸部CT検査が脊髄横断面上でのAVMの局所診断に有力であり,また上部頸髄AVMに対しては側方進入法が適していると考えられた.以上の経験に加え,頸髄AVMの特徴につき文献的に考察した.

眼窩内側壁Blow out fracture—Tantalum meshによる整復

著者: 石瀬淳 ,   伊藤治英 ,   木村信 ,   河野寛一 ,   山本信二郎

ページ範囲:P.101 - P.106

I.はじめに
 眼窩損傷で複視を訴えるものには,眼球外眼筋の眼窩骨折部位への嵌頓がその原因となっている場合がある.1943年,Pfeifferが初めて眼球外眼筋のentrapmentによる眼球運動障害を記載し11),1957年,Smithらはこうした骨折にblow out fractureの用語を初めて用いた15).眼窩のblow out fractureは,眼窩下壁に生ずることが多い,しかし内側壁のみが破裂骨折を起こすこともあり,内側壁が骨折した症例は1965年Rougierの報告13)が最初と思われる.われわれは内側壁blow out fractureの2症例に,経眼窩的にtantalum meshを用いて整復と再脱出予防の手術を行い良好な成績を得たので報告する.

拡大した頸静脈孔を通って頭蓋内外へと伸展した巨大神経線維腫—CTスキャン所見と手術アプローチについて

著者: 花北順哉 ,   今高清晴 ,   半田肇

ページ範囲:P.109 - P.113

I.はじめに
 脳神経外科領域において,CTスキャンにより得られる情報は極めて多いが,腫瘍の頭蓋外あるいは脊椎管外への伸展状況が正確に把握されるということもそのうちの1つである.われわれは最近,頭蓋内では小脳テント下面に達し,拡大した頸静脈孔を通って頭蓋外では第3頸椎レベルにまで伸展した神経線維腫を経験した.この巨大な神経線維腫について,CTスキャンの所見を中心に報告し,手術アプローチについて述べる.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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