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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科12巻10号

1984年09月発行

雑誌目次

医学部入試のあり方

著者: 佐藤修

ページ範囲:P.1111 - P.1111

 いよいよ医師過剰時代.それにつけても,医学部入試選考の方策は,点数第一主義なのか,さらに全人格も含めて審査すべきなのか各施設でも必らず話題になっていることと思います.そこで,2-3年前に訪れたアメリカ中西部M州立大医学部入試委員会の様子をご参考までに.
 M州は人口約400万,他に小規模な医学部が2つあり,この州立大の一学年の定員は260とのことでした.この年の応募者は,1,172名で,既に書類選考により500名にしぼってあり,この中から委員会の手で260人を選ぼうというわけです.残った500名のMCAT score(共通一次のようなものと理解されたい—生物,化学,物理,それにreading skill analysis)の平均は55でまずまずとのことでした.

総説

視床下部性思春期早発症—そのⅠ

著者: 森和夫

ページ範囲:P.1113 - P.1117

I.はじめに
 思春期早発症(pubertas praecox,PPと略す)は病変の存在部位により,脳性,副腎性,生殖器性,特発性に,さらに脳性(中枢性)は器質性とそうでないもの(器質性病変の存在を明らかにできないもの)に分けて論じられてきた.しかし,松果体部や鞍上部の悪性奇形腫にみられるPPは,確かに頭蓋内器質性病変によるPPであっても,その本態は腫瘍からのHCGの産生にあり(Brutonら19619),景山196218)),正規の高次中枢(視床下部や下垂体)はPPの発現に直接のかかわりを持たない(中枢性仮性PPともいわれる).これらは仙骨前部の悪性奇形腫,hepatoblastoma,母体の胎盤由来のinfantile choriocarcinoma(例えばWitzlebenら196835))などと同じカテゴリーに入るもので,一括してgonadotropin産生腫瘍によるPPと分類した方がはるかに便利なように思われる.PPにも最近の知見に基づいた新分類が必要になってきた.
 一方,視床下部性(hypothalamic)PPとは頭蓋内病変によって,視床下部の性中枢が普通よりはやく"目覚めさせられた"ものであって,「脳性器質性PP」という言葉を残すとすれば,それは発生機序の面からHCG産生腫瘍によるもの,視床下部性の器質性病変によるもの,その他(ゴナドトロピン分泌下垂体腺腫やその他機序不明のもの)に3大別できよう.

解剖を中心とした脳神経手術手技

松果体腫瘍の手術

著者: 佐野圭司

ページ範囲:P.1119 - P.1129

I.はじめに
 最初に松果体腫瘍を摘出しようとこころみたのは多分Horsley(1910)7)と思われる.かれはinfratentorial ap-proachをとったが結果が悪かったので,supratentorial approachをすすめている.1913年Krause17)はOppen-heimにより診断された10歳男子の四丘体部の巨大な腫瘍をinfratentorial supracerebellar approachにより摘出するのに成功した.組織学的には腫瘍はFibrosar-komあるいはgemischtzelliges Sarkomであったという.おそらくpineal teratomaではなかったかと思われる.この症例は少くも第1次大戦までは健在であったという10).1926年の報告10)でKrauseは同様なapproachにより手術した症例を2例追加したが,これらでは腫瘍の摘出は不成功に終わったと言っている.同様なap-proachは1956年Zapletal34)により報告された.かれは各1例の四丘体部のastrocytoma,上虫部のmedullo-blastoma,松果体部のepidermoid,pinealomaを手術したが,最後のもののみ摘出に成功したとのべている.

研究

外傷性脳内血腫の保存的治療

著者: 山本昌昭 ,   神保実 ,   井出光信 ,   喜多村孝一 ,   杉浦誠

ページ範囲:P.1131 - P.1138

Ⅰ.緒言
 外傷性脳内血腫は,CTの導入によりその病態解析が急速に進み15,18,21-23),特にdelayed traumatic intra-cerebral hematoma(DTICH)の発生などに関し,近年多くの報告が見られる1,3-8,19).しかし,外傷性脳内血腫の治療,特に手術適応に関し具体的に述べた論文は少ないようである.Weigelら20)は,60分以上脳幹機能が停止した重症例と,血腫が小さく,臨床症状に自然な回復のみられる軽症例は手術適応外であるとしている.またKretshmer12)は,占拠性病変としての大出血(major hemorrhage)がCTで認められ,かつ保存的治療のみでは頭蓋内圧亢進症状に悪化がみられる例のみ手術適応であると述べている.
 われわれは手術適応の基準をもう少し具体的に決められないものかと考え,外傷性脳内血腫例を手術群・非手術群に分け,retrospectiveにその治療経過を比較検討してみた.

Meningeal gliomatosis modelの開発

著者: 吉田達生 ,   生塩之敬 ,   早川徹 ,   有田憲生 ,   山田和雄 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.1141 - P.1148

I.はじめに
 meningeal gliomatosis(以下MGと略記)は,比較的稀な病態と考えられてきたが1),近年の悪性脳腫瘍の治療成績の向上がもたらした患者の生存日数の延長とともに,実際は増加する傾向にある19).その病態は,くも膜下腔に多発性またはび漫性に腫瘍細胞が浸潤したもので,報告例が少ないためにその正確な頻度をつかむのは困難であるが,およそ10%から20%と考えられており2,3,8),実際はかなり高いものと考えられる4,19).さらに,種々の治療後に起こったMGは,chemotherapyおよびradiotherapyに抵抗を示し,極めて治療が困難であり,その病態には不明な点が多いため,いまだに効果的な治療法は確立されていない.そこでわれわれは,このような病態に対する系統的な治療研究を行う目的で,実験モデルの作製を試みた.

前脳動脈瘤病変と脳動脈瘤の新生

著者: 池田清延 ,   早瀬秀男 ,   林実 ,   山本信二郎

ページ範囲:P.1151 - P.1158

I.はじめに
 脳動脈瘤の発生原因のうちで,動脈壁の先天性または後天性変化と血流動態は重要な因子である.成人の脳動脈瘤の発生および増大機序には動脈硬化症と高血圧が深く関与するとされている27).脳動脈瘤の組織学的特徴として,中膜・内弾性板の欠損はよく知られている.すなわち,血管内圧上昇に抗してこれを緩衝する働きをなす中膜や内弾性板の変性や欠損が動脈瘤発生の可能性を高めると考えられている12,25,27).Stehbens27)はこれらの組織学的変化を伴った動脈分岐部に漏斗状拡大,壁の局所的菲薄化および小膨隆を認め,動脈瘤形成初期の形態変化としている.Hasslerら15)は剖検所見よりjunctional dilatation部に内弾性板や中膜の欠損を認め,これを前脳動脈瘤病変(pre-aneurysmal lesion)と呼び,動脈瘤に成長する可能性のあることを強調した.
 今回,われわれは柄部クリッピング術後に同一部位より脳動脈瘤が再発した症例,junctional dilatationが脳動脈瘤化したと思われる症例,そして多発性脳動脈瘤で術前の血管写にて認められなかった部位に2年後,脳動脈瘤の新生をみた症例の3症例を経験した.この報告ではこれらの症例の分析により,脳動脈瘤の新生と増大原因について若干の検討を行った.

一方弁入りエクステンションチューブを使用した持続脳脊髄液ドレナージシステム

著者: 工藤忠 ,   荒川均

ページ範囲:P.1161 - P.1164

I.はじめに
 脳室または腰椎くも膜下腔からの持続脳脊髄液ドレナージは,水頭症,脳室炎,シャント感染症,脳室内出血,破裂脳動脈瘤,頭部外傷,外傷性または術後脳脊髄液漏,後頭蓋窩腫瘍など多くの疾患に利用されている5,6,8).本邦で使用されている持続脳室ドレナージセットは数種類に及ぶが,原理的にはいずれも脳室と脳脊髄液の流出点との位置の差による落差を利用して流出量および脳圧を調節するものである.このため持続脳室ドレナージ中には患者の頭部と脳脊髄液の流出点を一定の位置に保つ必要があり,患者はベッド上安静を強いられ,坐位,立位をとることもできなくなる.患者が昏睡状態の時や,絶対安静が必要な状態の場合には問題はないが,意識も清明で歩行も可能な場合には,長期間にわたり体動や運動を制限されることは肉体的および精神的苦痛を伴う.
 1967年WhiteらはSpitz-Holter弁を使用して,患者が坐位や歩行も可能な方法を報告したが7),Spitz-Holter弁が手に入りにくかった事情のためか,本邦ではあまり普及しなかった.Spitz-Holter弁を使用しても,脳室炎やシャント感染症などにより脳脊髄液中の蛋白量が多い場合や,くも膜下出血,脳室内出血など脳脊髄液中の血液量が多い場合などでは,一方弁が通過障害を起こしやすく,しばしば一方弁を取り換えなければならないが,これには無菌操作下での比較的繁雑な処置を必要とした.

症例

先天性第ⅩⅢ因子欠乏症に伴う頭蓋内血腫の3手術例

著者: 重森稔 ,   小島猛 ,   古城信人 ,   久保山雅生 ,   徳富孝志 ,   弓削龍雄 ,   中島美由紀 ,   渡辺光夫 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.1167 - P.1171

I.はじめに
 先天性の凝固因子欠乏症のうち,第ⅩⅢ因子(フィブリン安定化因子)欠乏症は極めて稀であり,現在までの報告例も100例前後にすぎない3,5,6)pp.本症では,約25%に頭蓋内出血を合併するとされるが3),開頭術による治療が行われた症例は,いまだ数例に満たないようである6).最近私どもは,本症に頭蓋内血腫を合併した3手術例を経験したが,うち1例では術前診断が不明で,手術後に本症と考えられたものであった.本症のように,極めて稀な出血性素因による頭蓋内出血の場合,その診断や手術前後の管理の上で多くの問題がある.これらの症例は,今後同様の症例に遭遇した場合に多くの示唆を与えると考えられるため,若干の文献的考察を加えて報告する.

von Recklinghausen’s diseaseに合併したCystic pontine gliomaの1例

著者: 齊藤晃 ,   須田金弥 ,   木戸岡実 ,   渡辺一良 ,   松田昌之 ,   半田譲二

ページ範囲:P.1173 - P.1176

I.はじめに
 gliornaの多くは実質性,浸潤性であり,特にpontine gliomaはその局在からも一般に手術適応外におかれ,化学療法や放射線療法に頼らざるを得ない状況にあった.しかし,high resolution CTの出現により,腫瘍の性質,すなわち実質性か嚢胞性かが判別可能となり,後者の場合には嚢胞内容の除去のみでも症状の改善さらには延命効果が期待され,手術適応と考えられる.われわれはvon Recklinghausen病に合併したcystic pontine gliomaに対し嚢胞の開放術を行い著明な症状の改善が得られた1例を報告する.

小脳実質内嚢胞—Isolated fourth ventricleの変異型

著者: 佐藤博美 ,   佐藤倫子 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.1179 - P.1185

I.はじめに
 小脳実質内納胞の局在診断はCTにより容易であるが,嚢胞性小脳腫瘍を除くと文献上の報告は稀である.CT上,脳脊髄液循環系から隔離し,mass effectを呈した小脳実質内嚢胞の2症例を経験した.ともに水頭症を合併し,また,CT追跡上,病像の形成過程において脳室短絡手術後の変化を含む脳脊髄液循環動態の変化が関与しており,臨床上はisolated fourth ventricleの変異型とも呼ぶべき病像を呈した.追跡CTを主体として,文献上報告のみられない,この特異な病態形成の機序を考察するとともに,本病態に対する早期における外科的治療の必要性を指摘する.

頭蓋外転移をきたしたHemangiopericytic meningiomaの1例—その電顕像と文献的考察

著者: 伊藤康信 ,   古和田正悦 ,   坂本哲也 ,   小島寿志

ページ範囲:P.1187 - P.1193

I.はじめに
 Hemangiopericytic meningiomaは髄膜腫のO.9-3.1%11,22)を占めるにすぎないが,再発や頭蓋外転移を高率にきたし,予後不良のことが多い.また,その細胞起源の詳細は現在なお明らかでない.
 最近,過去に4回の開頭術をうけ,初回手術後6年目に肋骨,肝臓,頸椎および胸骨に頭蓋外転移をきたした症例を経験し,電顕的観察から原発巣と転移巣でleio-myoblastic differentiationを示唆する所見が得られ,その発生由来について検討したので,文献的考察を加えて報告する.

Brown-Séquard症候群を呈した特発性脊髄硬膜外血腫の1例

著者: 村田高穂 ,   大畑建治 ,   辻川覚志 ,   住本武弘 ,   北野昌平 ,   白旗信行 ,   白馬明 ,   崔淳官

ページ範囲:P.1195 - P.1200

I.はじめに
 脊髄硬膜外血腫(spinal epidural hematoma)は比較的稀な疾患であり,そのために非定型的な臨床症状を呈する場合は診断が困難なことがある22).最近著者らは,突然の後頸部痛により発症しBrown-Sequard症候群を呈し頸部CTスキャンによる診断ののち手術を施行したところ,症状の改善が得られた特発性脊髄硬膜外血腫の1例を経験した.調査した範囲では,同様の症候群を呈した脊髄硬膜外血腫の報告はこれまでに4例あるにすぎず,極めて稀であると考えられた9,16,20,23).本稿では症例を報告するとともに,脊髄硬膜外血腫の診断ならびに治療上の問題点につき考察する.

原発性低髄液圧症候群に合併した慢性硬膜下血腫の2例

著者: 大原久美子 ,   関要次郎 ,   前田隆寛 ,   相羽正

ページ範囲:P.1203 - P.1208

I.はじめに
 低髄液圧症候群(low spinal fluid pressure syndro-me)は,腰准穿刺,開頭術,頭部外傷などを原因とし,低髄液圧による頭痛を主症状とする1つの症候群である.他に,これらの外因によらない原発性のlow spinal fluid pressure syndrome(primary intracranial hypo-tention)があり,1938年Schaltenbrand12)により"ali-quorrhea"という表現で報告されているが,これは極めて稀なものである.一方,慢性硬膜下血腫発生の助長因子として,これら髄液圧の低下が関係することはよく知られており,低髄液圧症候群に伴う慢性硬膜下血腫例の報告がこれまでにも散見されている.
 今回われわれは,原発性低髄液圧症候群に合併したと思われる慢性硬膜下血腫2例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

前大脳動脈の解離性動脈瘤

著者: 中澤拓也 ,   斎藤晃 ,   渡邊一良 ,   松田昌之 ,   半田譲二

ページ範囲:P.1211 - P.1216

I.はじめに
 解離性脳動脈瘤は,大動脈やその他,脳以外の全身の動脈の解離性動脈瘤に比べて,その報告はなお少ない10,13,20,21,28).1960年以前には十数例の報告をみるにすぎなかったが,1960年以降,脳血管撮影の普及に伴って報告例は次第に増加し,最近ではアテローム硬化症のない,若い,健康であった人に急に脳梗塞が起こった場合,この解離性脳動脈瘤も鑑別診断に入れるべきであるともいわれている7,10,13,20,21,28).臨床的には脳梗塞の症状を示すことが多いが,発病がくも膜下出血に似ることもあり,壁の解離の発生機序は多くの場合明らかではない.
 われわれは,3回の脳血管撮影とCTから,前大脳動脈の解離性動脈瘤と思われる症例を経験した.

針治療による脊髄および神経根損傷の2例

著者: 佐々木寛 ,   阿部弘 ,   岩崎喜信 ,   都留美都雄 ,   伊藤輝史

ページ範囲:P.1219 - P.1223

I.はじめに
 針治療は種々な病態に対して盛んに行われている.その合併症はそう多いものではないが,稀に脊髄損傷をきたすものがあり,重篤な神経症状を呈する点で無視できないものである.最近われわれは,針治療により進行性の脊髄損傷および神経根損傷を呈した2例を経験した.同様な報告は,われわれの検索できた範囲では片岡ら7),近藤ら9),白石ら11),児島ら8)の8症例の報告があるのみで比較的稀と思われるが,針治療に対する警告の意味を含め検討した結果を報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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