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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科12巻6号

1984年05月発行

雑誌目次

中国の医学

著者: 中沢省三

ページ範囲:P.661 - P.662

 昨年初秋,中国医科大学の招聘をうけて瀋陽に長期間滞在し,帰路北京および上海の脳神経外科施設を見学する機会に恵まれた.
 成田から空路わずか3時間で北京に着くが,そこから瀋陽までは実に10時問を要する特急列車の旅で,いまさら中国大陸の曠大さを思い知らされた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

CT誘導による定位脳手術—脳内血腫除去手術への応用

著者: 伊関洋

ページ範囲:P.663 - P.671

I.はじめに
 脳に対するpoint surgeryとして施行されている定位脳手術は,1947年Spiegel Wycis22)とにより,初めて発表されたヒト定位脳手術装置を出発点としている.その後,脳室撮影をもとにした種々の定位脳手術装置が考案され,これら装置を応用した定位脳手術は,機能的手術法の主力として,頑痛1-3,18).不随意運動16,21).てんかん13,14)などを対象とする治療法として発展してきた.一方,近年頭蓋内病変の局在や拡がりを的確に把握できるCT scan装置が開発され,特に脳神経外科領域での主な検査法として臨床応用されている.定位脳手術の分野でも,CTを用いて病変部位を正確に計測し,定位的にapproachするCT誘導による定位脳手術法が確立され,種々の病変に対する治療法として注目されている.
 さて,CT誘導による定位脳手術は次の2つの方法に大別される.①手術の標的(target point)の計測のみにCT装置を用い,標的へのapproachは手術室で行う方法5-9).②従来の定位脳手術装置をCT用に改良したり,新たに作製してCT室においてCT scanを施行しながら手術する方法12,18)である.著者らの装置は後者の方法であり,Todd-Wellsの定位脳手術装置をCT用に改良したものである.本稿では,著者らの装置の概要とCTを用いたtarget pointの計測法について紹介し,高血圧性脳血腫症例での実際の手術手技について概説する.

研究

頭部顔面外傷に対するBrighton epistaxis balloonの応用

著者: 佐々木勝 ,   小野一之 ,   川原信隆 ,   堤晴彦 ,   有賀徹 ,   豊岡秀訓 ,   三井香児 ,   都築正和 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.673 - P.678

I.はじめに
 頭部外傷患者の診療に際し,併存する顔面外傷や多発外傷による大量出血に苦慮することは,決して稀ではない.そこでそのような患者に合併する御し難い鼻出血の対策としてブライトン鼻血バルーン(Brighton epistaxisballoon)を用いた経験により,その有用性を報告する.

抗生物質の髄液および脳組織内移行—Cefoperazoneについて

著者: 伊藤治英 ,   船木昇 ,   北村佳久 ,   正印克夫 ,   永谷等 ,   山本信二郎

ページ範囲:P.681 - P.686

I.はじめに
 脳神経外科における抗生物質投与の適応には3つの意味がある4).第1に頭蓋内の細菌性炎症があり,脳炎,脳膿瘍,髄膜炎,静脈洞炎,硬膜下膿瘍および慢性肉芽腫などが挙げられる.稀に頭蓋骨の骨髄炎や副鼻腔の膿瘤や粘液嚢腫などにも遭遇する.第2の分野として中枢神経系以外の臓器の感染症の合併である.脳神経外科施設において尿路感染が7.4%,呼吸器感染が2.1%,その他が1.08%との報告があり8),多くの症例が抗生物質投与の対象となる.第3の分野として中枢神経系の感染予防の見地からの抗生物質投与である.髄液漏,開放性頭蓋骨骨析,開放性脊椎破裂には感染予防の配慮が必要であるが,抗生物質投与の有効性や投与期間について異論がある.また脳室体外ドレナージ14),異物を埋没する脳室腹腔吻合術7,16),および経鼻的下垂体腺腫摘出術において感染予防に留意しなければならない.通常の開頭術においても術野に毛根が多く,長時間の手術中における空中落下菌を考慮すると感染の危険が高く,手術創感染の予防策が必要である.開頭手術の抗生物質局所投与が推奨され,その効果も認められている.また通常手術後数日間に限って抗生物質が静脈内に投与されている.しかし,脳にある血液脳関門は脳組織や髄液への抗生物質移行のバリヤーとなり,chloramphenicolを除いて抗生物質は移行し難いのである.

クッシング病の診断および治療—副腎皮質結節性過形成との関連について

著者: 三浦正毅 ,   松角康彦 ,   児玉万典 ,   平松良二

ページ範囲:P.689 - P.696

I.はじめに
 副腎皮質結節性過形成(adrenocortical nodular hy-perplasia)の病因に関しては副腎原発説,下垂体性ACTH過分泌による二次的発生説に分かれて論じられている.副腎原発説としてMeador8)らは原発病変は副腎皮質にあるとし,primary adenocortical nodular hy-perplasiaなる概念を提唱した.Ruder13)らは自験2例を含め12例をまとめてmicronodular adrenal diseaseとして報告した.これらは発生年齢が思春前期から思春期であり,結節以外の副腎皮質には萎縮がみられ,結節も3mm以下と小さい.結節性過形成と通常称されているものは,macronodular cortical hyperplasiaであり結節もより大きく結節周囲に萎縮像を認めない.このmacronodular cortical hyperplasiaに関してCohen2)は高度のACTH刺激が持続すると副腎皮質過形成の中に結節が多発的に発生し,さらに一部のものは発達して自律性を獲得し腺腫に変化するという下垂体説を提唱した.すでに同様の考え方は,西里10)ら,日台5)ら,小島7)ら,山本16)ら,古川4)らによって述べられており,副腎皮質結節性過形成の中には,副腎原発のもの以外に下垂体の分泌異常から二次的に発生してくる異なった病態が存在すると考えられる.
 一方,下垂体腺腫によるクッシング病の中には,大量のデキサメサゾンにも抑制されない症例があり,その中には副腎皮質結節性過形成の合併を証明した報告もある14).それらの症例では,コルチゾール過剰状態がACTH分泌性下垂体腺腫によるものか,あるいは自律性を得た副腎皮質結節性過形成によるものかを鑑別することが治療方針を決定する上で重要とな一,てくる.すなわち,下垂体腺腫に自律性副腎皮質結節性過形成を合併した例では,下亟体腺腫摘出のみではコルチゾールの正常化は困難であり,また副腎摘出のみでは副腎からのnegative feed backの解除による下垂体腺腫の増大やあるいはNelson’s syndromeへの移行を招く危険性があり,このような症例には下垂体および副腎の双方に対する手術が必要となってくる.

脳動脈瘤破裂後の水電解質代謝異常とその発現要因に関する研究—特に直達手術前の検討

著者: 宮坂佳男 ,   朝日茂樹 ,   中山賢司 ,   松森邦昭 ,   別府俊男

ページ範囲:P.699 - P.706

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂後にADH分泌異常症候群(SIADH)1)で代表される中枢性低Na血症や,尿崩症(DI)などの水電解質代謝異常が出現することはよく知られている2,4,5,9,11,13-17,21,22,25,27).しかしながら,特に術前例を対象として,その発現要因に関する詳細な検討を行った報告は少ない.そこで,今回は直達手術の影響が全く関与しない術前期における水電解質代謝異常の発現頻度および発現要因に関する検討を行ったので報告する.

脳室内血腫を伴う頭蓋内出血の予後

著者: 吉岡進 ,   和田秀隆 ,   松角康彦

ページ範囲:P.709 - P.715

I.はじめに
 いわゆる二次性脳室内出血の予後について,その原因疾患別に検討した報告は少ない1,4),今回われわれは,CT scanにて診断された脳室内出血52例を対象として原因疾患別に分類し,予後を検討することにより,脳室内出血の予後を左右する因子について考察を加えたので報告する.

Dry skullによる後頭蓋窩の解剖学的計測について—脳神経外科の立場から

著者: 尾形誠宏

ページ範囲:P.717 - P.723

I.まえがき
 外科医の常識とはいえ,脳神経外科医が脳神経外科手術を施行する場合,特に頭蓋底の腫瘍・血管奇形などの手術をする場合には,あらかじめ頭蓋底およびその近傍の解剖を熟知しておく必要があるばかりではなく,特異なアプローチに適した解剖学を知っておかなければならない.
 後頭蓋窩の頭蓋底またはその近傍の手術といえば,斜台や大後頭孔をはじめ,頸静脈孔近傍および小脳橋角部の手術がこれにあたる.

症例

脳クリプトコッカス症の1例—CT所見を中心として

著者: 山上達人 ,   野村隆吉 ,   今川健司 ,   浅井昭 ,   川崎道朗 ,   戸田稲三 ,   林誠之

ページ範囲:P.725 - P.729

I.はじめに
 クリプトコッカス症は中枢神経系に好発する疾患であり,その診断は脳脊髄液11)(以下CSF)中,あるいは病変部標本中にその菌体を見出すことにより,培養または近時発展を遂げた血清反応によりなされるが30),必ずしも特異的とは限らない29).正確な確定診断が困難でありまた全身性のクリプトコッカス症は予後の悪い疾患とされている29)
 今回,われわれは,脳腫瘍の臨床像を呈したクリプトコッカス症の1例を経験したので,脳クリプトコッカス症のCT所見を主として,若干の文献的考察を加え報告する.

小脳髄芽腫に対する大量ACNU・放射線・自家骨髄移植併用療法の経験

著者: 松本真人 ,   山下純宏 ,   岡本新一郎 ,   半田肇 ,   沢田仁 ,   阿部光幸

ページ範囲:P.731 - P.736

I.はじめに
 悪性腫瘍に対する化学療法の最大の障壁は骨髄機能抑制に代表される副作用である.副作用さえ防止できれば抗癌剤をより大量に投与して抗腫瘍効果を上げることが可能と考えられる.
 近年,高性能の成分採血装置やprogram freezcrが開発され,自家骨髄移植を併用した大量抗癌剤投与療法が注目を集めている.悪性脳腫瘍に対しても,自家骨髄移植を併用してCCNUおよびBCNUの大量投与を行った経験が,すでにHildebrandら4),Fayら2),Hoch-bergら5),桑村ら6,7)により報告されている.自家骨髄移植により骨髄機能は比較的速やかに回復するが,呼吸器系や中枢神経系などの骨髄以外の臓器に対する大量抗癌剤投与の副作用が新たな問題としてクローズアップされている.

腎移植患者に生じた脊髄硬膜外膿瘍の1例

著者: 江頭泰平 ,   能勢忠男 ,   牧豊

ページ範囲:P.739 - P.743

I.はじめに
 脊髄硬膜外膿瘍の予後は,抗生剤の出現以後,生命予後よりも機能予後に重点がおかれる.その機能予後は,術前の神経障害の程度と密接な関係があり7),多くの報告で早期診断・手術の必要性が強調されている4,5,7)
 最近,われわれは,腎移植患者に本疾患を生ずるという稀な発症様式をとる1症例を経験した.更に術前の神経症状は,対麻癖を呈するまで悪化していたが,手術により不完全ながら独歩可能となるまで回復しえた.そこで,本症例の発症様式および,本疾患における術前神経障害の程度の進行した例に対する手術後の機能予後に関して文献的考按を加えて報告する.

顔面神経鞘腫—顔面神経水平部から発生した2症例

著者: 中尾哲 ,   福光太郎 ,   尾形誠宏 ,   田渕哲

ページ範囲:P.745 - P.751

I.はじめに
 顔面神経鞘腫は,1930年のSchmidtによる報告13,本邦では1937年の大西の報告9)が最初とされているが,聴神経鞘腫や三叉神経鞘腫などと比較し稀な疾患である.本腫瘍は顔面神経のどの部位からも発生しうるが,錐体骨内に発生した腫瘍では,頭蓋内進展をきたし脳神経外科的な治療が必要である.
 われわれは,顔面神経水平部から発生し頭蓋内進展をきたした顔面神経鞘腫の2症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

脳転移をきたした肝芽腫の1例—症例報告と文献的考察

著者: 宮城潤 ,   小林清市 ,   古城信人 ,   渡辺光夫 ,   倉本進賢 ,   広瀬富士子

ページ範囲:P.753 - P.758

I.はじめに
 肝芽腫は乳幼児,特に2-3歳以下に好発し,その発生頻度は小児固型悪性腫瘍のうち,第3位を占めている.しかしその予後は成人肝癌に比較し若干良好とされており,近年の術前術後の管理および化学療法の進歩に伴って将来に明るい展望を期待しうるようである.一般に肝芽腫を含め肝腫瘍の脳内転移は稀とされており,文献上肝芽腫の脳内転移例の手術報告は見当たらない.
 今回われわれは肝芽腫の前頭葉内転移巣に対して腫瘍摘出術を施行したのち,強力な化学療法を併用し良好な結果を得た1例を経験したので,本疾患の脳内転移例に対する治療と若干の文献的考察を加え報告する.

脳室出血にて発症したSubependymomaの1症例

著者: 清木義勝 ,   寺尾栄夫 ,   柴田家門 ,   塚原薫 ,   堤俊一郎 ,   工藤玄恵

ページ範囲:P.761 - P.765

I.はじめに
 subependymomaは,第4脳室,側脳室を中心として発生する脳腫瘍の1つであるが,頻度としては,それほど多いものではない.最近,われわれは,脳室出血を初発症状として来院した左側脳室subependymomaの比較的珍しい1例を経験したので,その出血の機序を検討し,さらに,出血で発症したこの腫瘍について若干の文献的考察を加えて報告する.

乳汁分泌を伴った男性プロラクチン産生下垂体腺腫の1例

著者: 井上亨 ,   中垣博之 ,   北村勝俊 ,   岸川高 ,   西尾俊嗣

ページ範囲:P.767 - P.771

I.はじめに
 プロラクチン産生下垂体腺腫は,女性の場合は,無月経・乳汁分泌により比較的早期に発見される比率が高いのに対し,男性の場合は腺腫増大の結果,視力視野障害をきたして初めて発見されることが多い.また,下垂体腺腫の中には腫瘍内に出血し急激な経過をとることがあり,このような状態は下垂体卒中といわれている.われわれは,視力視野障害がなく,突然の頭痛・嘔吐で発症し,乳汁分泌があり,手術により腫瘍内出血を契機として発症したと考えられる男性prolactinomaの1例を経験したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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