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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科12巻7号

1984年06月発行

雑誌目次

Medical Record, Typewriter, Word Processor

著者: 木下和夫

ページ範囲:P.777 - P.777

 臨床医学は過去から現在,さらに将来にいたるまで,個々の患者の記録の積み重ねが基本となっている.医師個人の経験(記憶による記録)も大切であるが,文字によって記録されたものは消え去ることはなく,多数の医療関係者によって多くの面から利用され,現在の患者自身の治療のみならず,医学の進歩・普及には欠かせないものである.最近日本と西欧諸国,特にアメリカとの比較が多くの分野でなされ,医学も例外ではない.日本の臨床医学は,医学教育を含めて,全般的に評価した場合,かなり後れているといわざるをえない.
 この差の原因は多く挙げられるが,私はその最大のものは言語と,それに基づく記録様式の差によるものではないかと思う.言葉を変えていえばタイプライターの問題である.日本語にもタイプライター,ワードプロセッサーはある.しかしこれは1分間に50 wordsも打てる欧文タイプライターとは全く異質のものである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

小脳橋角部腫瘍の手術—聴力保存に有効な手技について

著者: 佐藤修 ,   田辺純嘉 ,   相馬勤

ページ範囲:P.779 - P.784

I.はじめに
 聴神経鞘腫の発生母地としては,大多数は前庭神経由来であり,蝸牛神経由来のものはきわめて少数例にすぎないとされ,しかも最近の神経耳科学や神経放射線の発展に伴い,聴力障害の進行していない比較的小さな聴神経鞘腫が発見されるようになってきている,したがって,このような症例では顔面神経の保存はもちろんのこと,聴力の保存を可能にするmicrosurgeryの手術手技が要求され,脳神経外科医にとって大いにchallengingな問題となってきている.しかし腫瘍摘出にあたり,その難易さは必ずしも腫瘍が小さいことのみが有利ではなく,腫瘍の硬さ,出血性および腫瘍被膜と周辺組織との癒着程度が重要であることに異論はない.本稿では,著者らの経験を基にして聴力保存に有効な手術手技を紹介する.

研究

脳腫瘍組織における生理活性アミン濃度と腫瘍内分布について

著者: 池田幸穂 ,   中沢省三

ページ範囲:P.787 - P.793

I.はじめに
 脳内生理活性アミンは脳内神経伝達物質であり脳の生理的な機能維持に重要な役割を演じている.最近,生理活性アミンの測定法がめざましく進歩し9),各種神経疾患の病態をこれら生理活性アミンの立場から論じようとする試み18)がなされている.
 今回われわれは手術より得られた脳腫瘍組織における生理活性アミン濃度と腫瘍内分布について検索し,さらに術前のCT所見とも比較検討を行ったので報告する.

悪性神経膠腫の同調化学放射線療法

著者: 山本博昭 ,   中村治 ,   河野武 ,   設楽信行 ,   高倉公朋 ,   佐野圭司 ,   前原忠行 ,   赤沼篤夫 ,   佐藤文明

ページ範囲:P.795 - P.805

Ⅰ.緒言
 悪性神経膠腫は外科手術のみでは根治し得ない悪性腫瘍である.合衆国のBrain Tumor Study Group(BTSG)の報告36)からも,悪性神経膠腫の手術のみによる症例のmedian survival time(MST)は17週と4ヵ月足らずである.
 BTSGの報告によれば,手術に放射線治療を加えることにより,MSTは37.4週と延長を認める.しかしながら,放射線照射には線量に限界がある,ここに第3の治療法としての化学療法に大きな期待の寄せられることとなる.

頭部外傷性顔面神経麻痺—特に局在診断,予後および手術適応について

著者: 山本豊城 ,   佐藤慎一 ,   中尾哲 ,   伴貞彦 ,   難波晃 ,   福光太郎 ,   尾形誠宏 ,   田渕哲 ,   谷口郷美

ページ範囲:P.807 - P.813

I.はじめに
 外傷性顔面神経麻痺は,頭部外傷に起因した脳神経麻痺のなかでは発生頻度が高く,比較的しばしばみられる病態である.外傷性顔面神経麻痺は,保存的治療によって大多数の症例では麻痺の回復が期待できるため,手術療法(顔面神経減圧術)を疑問視する傾向10)がみられる.また手術する場合でも,その手術適応と手術時期についてはいまだ確立した見解はなく,議論の余地のあるところである.
 今同われわれは外傷性顔面神経麻痺患者の25症例について,特に障害部位診断,障害の程度と予後との関係,顔面神経減圧術の手術適応とその成績などにつき検討し,若干の知見が得られたので報告する.

脳血管撮影(Magnification carotid angiography,Intercavernous sinus venography)による下垂Microadenomaの診断

著者: 田辺純嘉 ,   佐藤修 ,   蓮沼正博 ,   相馬文勝 ,   中川俊男

ページ範囲:P.815 - P.822

I.はじめに
 下垂体inicroadenoinaの神経放射線学的診断は,従来thin-section tomographyによるトルコ鞍底lamina duraの変化によって診断されてきたが,腺腫直径が5mm以下のmicroadenomaでは診断が困難であった13,18).また最近high resolution CTの開発により,CTによる下垂体microadenomaの診断例が増加しているが,下垂体microadenomaのCT所見は造影前に,low dense,isodense,hyperdenseと種々のdensityを示し,造影後にhypodenseを示す場合5,15)と増強効果を示す場合5,9)があり,microadenomaに特有なCT所見はない.
 一方,脳血管撮影(magnification carotid angiography,intercavernous sinus venography)による下垂体microadenomaの診断に関する検討は少なく,magnification carotid angiographyは,下垂体microadenoma診断に極めて有効とする報告7)と下垂体macroadenomaと異なり,下垂体microadenomaに対する診断的意義はないとする相反する報告2,11,12)がある.

症例

頭蓋骨Aneurysmal bone cystの1例

著者: 三間伸一 ,   田口芳雄 ,   関野宏明 ,   猪股出

ページ範囲:P.825 - P.831

I.はじめに
 頭蓋骨に由来する疾患が,ときに一般の脳腫瘍と同様に頭蓋内占拠性病変となることがある.aneurysmal bone cystもこのような例の1つであるが,その報告は稀である.最近われわれは,右側頭骨に発生し,著明なmass effectを呈したaneurysmal bone cystの1例を経験したので報告し,一般的事項,診断,治療上の諸問題について文献的考察を含め言及したい.

Rathke’s cleft cystのみられた石灰化下垂体腺腫の1例

著者: 松森邦昭 ,   岡田隆晴 ,   中山賢司 ,   宮坂佳男 ,   別府俊男 ,   久保長生

ページ範囲:P.833 - P.838

I.はじめに
 X線上,トルコ鞍上部に半円弧状の石灰化のみられたプロラクチン(PRL)産生下垂体腺腫の1例を経験した.本例はさらに病理所見上,Rathke’s cleft cystを伴っていた.下垂体腺腫とRathke’s cleft cystとの合併は近年transitional cell tumorの概念15,16)も提唱されているが,両者が完全に分離した形での合併例は極めて稀で,症例を呈示し,若干の文献的考察を加えて報告する.

開頭術後Subdural tension pneumocephalusの1例

著者: 山尾展正 ,   佐々木達也 ,   渡辺善一郎 ,   渡部政和 ,   丹治裕幸 ,   児玉南海雄 ,   遠藤辰一郎

ページ範囲:P.841 - P.846

I.はじめに
 CT scanの普及した現在,開頭術後にpneumo-cephalusが見られることは特に珍しい現象ではなく,またその多くは何ら特別な治療を要しない.しかし,稀にmass effectや神経症状を呈することがあり,この病態はtension pneumocephalusと呼ばれ16),その原因の大部分は外傷によるものであるが,手術操作に起因した報告も散見される17).最近われわれは,破裂脳動脈瘤に対し,neck clippingを施行すると同時にV-P shuntを行ったところ,その6ヵ月後にsubdural tension pneumocephalusをきたした1例を経験したので,反省点やその発生メカニズムにつき若干の文献的考察を加え報告する.

Free flapによる広範囲頭皮欠損の修復

著者: 久保田潤一郎 ,   原科孝雄 ,   中嶋英雄 ,   藤野豊美 ,   塩原隆三 ,   三神柏 ,   市来崎潔 ,   中西享

ページ範囲:P.849 - P.854

I.はじめに
 広範囲頭皮欠損の修復は極めて困難なことが多く,以前は数回の手術,長期間の入院を要したにもかかわらず,不成功に終わることが少なくなかった.最近10年間に急速に発達した微小血管吻合による遊離組織移植(free flap)によれば,大きな頭皮欠損も1回の手術で修復可能となった.著者らはfree flapによる頭皮欠損修復を6例に経験し,全例に好結果を得ることができたので,その症例の一部を紹介する.

一過性脊髄虚血様発作で発症した脊髄硬膜外動静脈奇形の1例

著者: 久保和親 ,   西浦巌 ,   小山素麿

ページ範囲:P.857 - P.862

I.はじめに
 脊髄(椎)血管腫は全脊髄空間占拠性疾患の3.3-12.5%を占めるが,脊髄硬膜外血管腫はそのうち8%以下にすぎず,さらに硬膜外のみに存在することは極めて少ないとされてきた2,17,19).しかし最近Piaらは,脊髄血管腫が全中枢神経系血管奇形の40%以上を占め,硬膜外血管腫もその47%に達したと報告し,今まで考えられていたよりはるかに多いことがわかってきた19,20)
 硬膜外血管腫は通常脊髄の動脈と直接関係がないため,臨床像は一定せず診断は困難とされ,現在までの報告例の主要症状は,急性脊髄横断症状,坐骨神経痛などと特徴的なものはない20,22)

脳宮崎肺吸虫の1手術例

著者: 双津正博 ,   西田伸 ,   中村紀夫 ,   片倉賢 ,   小林昭夫 ,   荒木国興

ページ範囲:P.865 - P.870

I.はじめに
 脳肺吸虫症は,わが国においては1887年,大谷により最初の症例が,また1931年,赤岩により最初の開頭手術例が報告されて以来,その症例数も多いが7,11),それらはいずれも,Paragonimus westermani(以後,P.w.とする)によるものと考えられている.ところが近年,P.w.とは異なるParagonimus miyazakii(以後,P.m.)が発見され,これの人体寄生例も,1974年,横川らの報告以来,ふえつつある.喀痰,糞便中に虫卵が発見されないため,血清学的にしか確認されず,その診断は容易でない場合も多いが3,14),報告のなかには,脳内寄生の考えられるものもいくつか含まれている4,6,32).今回われわれは,入院時,全く胸部所見を欠き,脳腫瘍として手術を行なったが,組織学的には肉芽腫であり,のちになって胸部症状を現わし,血清学的に宮崎肺吸虫症と診断された1例を経験したので報告する.

脳動脈瘤術後長期再発例の検討

著者: 鮫島寛次 ,   溝上徹 ,   牛久保行男 ,   佐藤隆雄 ,   吉井信夫 ,   野中博子

ページ範囲:P.873 - P.881

I.はじめに
 嚢状動脈瘤に対する手術法は根治的目的で柄部clip-pingが行われ,それが困難な症例に対して筋肉片などによるwrappingや合成樹脂によるcoatingが行われている.これら手術法の最近の遠隔成績は良好であり,確立された方法となっている.しかし,この手術の遠隔成績はmorbidityを中心としたものであり,処理された動脈瘤が長期間にどのように変化するか,あるいは再発することがあるか,などの検討は極めて少ない.1965年にMcKissock20)がclipPing後の再発例を挙げ,この方法がかならずしもpermanent cureでないとの警鐘を鳴らしている.著者らは現在までに根治手術後長期間を経て同一部位よりくも膜下出血を生じ,動脈瘤の再発であることが確認された3症例を経験し,これらの手術,剖検所見を検討した結果,再発防止の一助となる知見を得たので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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