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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科12巻8号

1984年07月発行

雑誌目次

脳神経外科診療の普遍化のめざすもの

著者: 坪川孝志

ページ範囲:P.887 - P.887

 ある識者は,日本の脳神経外科が関与する学会での熱狂的なほどの演題数や年間10万件に近い津々浦々での脳手術数,1,500名以上の脳神経外科認定医数などを挙げて,その隆盛と普遍化は,脳神経外科学の日本での発展を必ずしも意味しないと批判している.単に高度経済成長に支えられた日本特有の医療報酬制度によって診療が普遍化したに過ぎないといい,その日本の高度経済成長が,欧米で経済性を無視してはぐくんできた基礎的学問を日本人の器用さと勤勉さで巧みに盗用した結果であるように,脳神経外科治療も発展したにすぎないとつけ加えている.
 確かに学問の歴史のない後進国日本では,科学する必然性もなく,また方法すら模倣から出発しなければならなかったし,日本の風土が学問の育ちにくい環境であったことも事実である.しかし,科学しなければならない必然性があれば,その結果の集大成として,どのような環境でも学問が育つはずである.その科学しなければならない必然性が,いかに激しいか,どれほど広い層で感じとられているかが,学問の発展を条件づけている.

総説

脳神経外科領域におけるコンピュータ・データベースの設計と応用

著者: 間中信也

ページ範囲:P.889 - P.898

I.はじめに
 最近のマイクロコンピュータ(以下マイコン)の進歩は著しいものがある.昔にはとうてい考えられなかった高性能のコンピュータが個人の負担で購入できるようになった.各科にもマイコンの1台や2台は備えつけられるような時代になった.それとともに,診療のデータをコンピュータで整理し,診療・教育・研究に役立てたいという希望も少なくないと推察される.病歴のデータベース化の作業に着手すると,どの程度の情報をinputすればよいか,病名や部位名をどのようにコード化したらよいか,などの難問に直面する.
 当科では,マイコンが今日のように普及する前の1979年から東大病院の大型コンピュータACOS 600(現在はFACOM F 170Mに置換されている)を用い,診療情報のデータベース化に着手し,1980年10月に一応の完成をみた.1983年末までに10,753件が登録されている.1983年からはマイコンを利用した病歴管理もあわせて行っている.

解剖を中心とした脳神経手術手技

側脳室三角部腫瘍の手術

著者: 半田肇 ,   長澤史朗

ページ範囲:P.901 - P.912

I.はじめに
 側脳室三角部(trigon)には,meningioma,papillo-ma,angioma,ependymoma,glioma,metastatic tumorなど多くの腫瘍が認められるが,前記3腫瘍はchoroid plexus,とりわけglomusより発生して脳室内に進展するという特徴を持っているため,一般に三角部腫瘍(tri-gonal tumor)とよばれている.三角部腫瘍は比較的稀な腫瘍であり,代表的なmeningiomaでも全menin-gioma症例中の1-2%がこの部位に発生するにすぎない`3,21)
 三角部腫瘍は症状が出現しにくい脳室内に進展するため,診断確定時には腫瘍が巨大化していたり,不可逆的な神経症状を伴う場合が多かった.しかしながらCT導入後には,偶然あるいは軽微な症状で診断される三角部腫瘍が増加している.これらの腫瘍を後遺症なくいかに摘出するかは,今日的な課題である.

研究

脳・脊髄病変に対する術中超音波法

著者: 町淳二 ,   ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.915 - P.921

I.はじめに
 脳・脊髄病変は血管造影やCT scanなどの技術の進歩によって,極めて正確に検出されるようになった.しかし,これらの病変の手術中において,しばしば病変の正確な存在部位の決定が困難なことがある.脳内病変の術中での部位決定のために,CT scanを利用した定位的な方法も報告されているが1,12),これは術中診断法としては手技の繁雑さなどの短所を有する.これに対して超音波法は,手技の単純さや安全性に加えて,多くの有用な情報を提供することから,外科領域の多くの術中診断に使用されはじめている.脳外科の分野においては,超音波法による脳の検査は泉門を通した方法(transdural ultrasonography)4,5)が新生児や乳児に対して可能だが,手術による頭蓋骨除去によって成人にも実施できる9,11).さらにこの超音波法を術中に応用し,脳などを直接scanningすることによって,超音波法は非常に有効な術中での診断法となりうる.
 1950年にFrench,Wildらは8),A-mode超音波法を用いた脳の検査を初めて行っている.彼らは皮質下脳腫瘍の部位決定のために,死亡した患者の脳に対して直接scanningを実施した.1960年代には,脳腫瘍や脳内血腫の検索のために,A-modeによる超音波法の術中への応用が数多く報告され6,14,15,19,21),脳病変に対する超音波法による術中診断の有用性が提唱された.一方,B-mode超音波法の脳外科の術中への応用は1965年よりはじまったが10),近年のB-mode real-time装置の改良に伴い,ここ数年,脳外科領域における術中超音波法が注目を集めている.

脊髄損傷におけるエネルギー代謝と血流障害—part 1

著者: 林成之 ,   坪川孝志 ,  

ページ範囲:P.923 - P.930

I.はじめに
 脊髄損傷後の病態形成は,主として脊髄の血流障害によって惹起するものと考えられ,これまで脊髄損傷後の病態生理解明に関する研究は,血管障害や血流障害を中心になされてきた4,5,15,21,22)
 しかし,一定の脊髄損傷モデルを実験的に作ることが極めて難しい上に,脊髄の局所血流量を経時的に正確に測定し得る検索方法が確立されていないことや,脊髄損傷後の病態は必ずしもhomogenousな変化を示さないこともあって,脊髄損傷後の血流障害出現様式やその推移について,必ずしも評価し得る一定の結論が得られていなかった5,15,23)

椎骨動脈・後下小脳動脈分岐部動脈瘤の外科—直達手術が困難であった症例の検討と手術手技の工夫について

著者: 長澤史朗 ,   橋本信夫 ,   米川泰弘 ,   半田肇

ページ範囲:P.933 - P.941

Ⅰ.序論
 椎骨動脈領域に発生する動脈瘤は全脳動脈瘤中の1%以下であり,なかでも正中線近傍あるいは椎骨動脈末梢部に存在する動脈瘤は一般に直達術が困難である8,11).これら動脈瘤につき,いくつかの手術法が試みられてきた1,4,6-9,12,13,16,18).特に斜台の下1/3の部分をno man’s landとよび,この部分の動脈瘤に対してテント上あるいはテント下からの接近は困難で,経斜台法による直達術の可能性を追求していたDrake2)も,最近は一側後頭下開頭法を採用している3)
 動脈瘤の手術方法(体位,接近法)は術者の経験,患者の状態,動脈瘤の性状などにより決定されるべきものであるが,術者が考案した手術手技上の工夫およびそれを実施するに至った根拠は,採用している手術方法の相違に関係なく参考になろうし,椎骨動脈領域動脈瘤の頻度が小さい故に発表する価値があると考えられる.今回,著者らは京大病院脳神経外科で経験した動脈瘤をまとめ,到達困難であった症例の血管撮影と手術所見の関連につき検討を加えた.また最近施行している手術手技上の工夫につき言及する.

側脳室,第3脳室近傍腫瘍に対するTranscallosal approach

著者: 会田敏光 ,   阿部弘 ,   岩崎喜信 ,   宝金清博 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.943 - P.950

I.はじめに
 1966年,Milhoratら17)は動物実験により,transcal-osal approachが正中部深部腫瘍に対する手術接近法として可能であることを明らかにし,実際にLongら16)は第3脳室craniopharyngioma例に有効な手術接近法として報告した.Microsurgeryの発達により,近年,trans-callosal approachを使用した多数例の手術経験が報告されている19,21).われわれも最近は,側脳室,第3脳室腫瘍に対して,さらに従来は手術が困難であった基底核部,視床部腫瘍に対する手術接近法としてtranscallosal approachを用いて,本法が脳損傷をもたらすことが少なく,広い視野が得られる優れた手術接近法であることを確認した.本法の適応,合併症について検討し,報告する.

症例

Infra-optic course of anterior cerebral artery 3例の経験

著者: 佐々木雄彦 ,   宇佐美卓 ,   武田利兵衛 ,   中川原譲二 ,   佐藤茂 ,   中村順一 ,   末松克美

ページ範囲:P.953 - P.958

I.はじめに
 内頸動脈が海綿静脈洞をぬけて硬膜を貫き,硬膜下へ入った直後に内側から分岐し,視神経の下方から視交叉の前方を上行し,前交通動脈部へ達し,前大脳動脈領域へ灌流する異常血管は,1959年Robinson10)が剖検例の報告を最初にして以来,過去13例1-8,10-13)の報告をみるのみである.名称も報告者によってさまざまで,caro-tid-anterior cerebral artery anastomosis8),anomalous origin of ACA,inter-optic course of ACA11),infra-optic course of ACA1)などと呼ばれており,その起源についてもいまだ定説は確立されていない.著者らは,同血管奇形3例の経験を報告するとともに,過去の報告例13例を合わせ,計16例について検討し,同血管奇形と脳動脈瘤との合併,同血管奇形の起源などについて考察を加えた.

動脈硬化を伴わない内頸および眼動脈の視神経圧迫による小児一側性視野障害の1例

著者: 山谷和正 ,   西嶌美知春 ,   甲州啓二 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.961 - P.966

I.はじめに
 視交叉部病変はしばしば視野障害を伴うが,この部位の血管による視神経圧迫に基づく視野障害は比較的稀と思われる.今回,われわれは開頭術を行い,内頸および眼動脈が直接視神経を圧迫することにより,一側性の視野障害をきたしたと考えられる小児例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

脳室内くも膜嚢胞

著者: 吉田達生 ,   池田卓也 ,   前田泰孝 ,   生塩之敬 ,   黄祖源 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.969 - P.973

I.はじめに
 くも膜嚢胞は,外傷・炎症・頭蓋内出血などの原因により発生するもの(続発性くも膜嚢胞)と,原因不明なもの(原発性くも膜嚢胞)とに分けられるが,その大部分は後者に属し,くも膜の存在するあらゆる部位に発生する.その主要発生部位として,シルビウス裂19),穹窿部5),大脳半球間22),鞍上部14),旁四丘体部6),小脳橋角部1),小脳後部10)などが報告されている.
 一般に頭蓋内原発性嚢胞は,発生部位によりその発生起源を推測することが可能であり,くも膜嚢胞はほとんどextracerebralあるいはextraventricularに発生すると考えられており,脳室内発生は極めて稀である21).今回われわれは,左側脳室内に発生したくも膜嚢胞を経験したので,その診断および発生起源について若干の考察を加えて報告する.

三兄弟に発生した松果体部腫瘍の検討

著者: 木戸悟郎 ,   竹内東太郎 ,   築山節 ,   中村三郎 ,   坪川孝志 ,   逸見明博

ページ範囲:P.975 - P.980

I.はじめに
 頭蓋内腫瘍の中でもphacomatosisに属するheman-gioblastomaにおいては,その家族発生がすでに広く認められ,10-20%の頻度があげられている9).しかし,これ以外にもglioblastomaをはじめ他のgliomaにおいても,家族発生例の報告が散見される1,3,8,10,14).すなわちhemangioblastoma以外の脳腫瘍における家族発生に関して,遺伝的要素が含まれていることは,現在までの報告のなかでも示唆されているが,いまだに明確な意見の一致はみられていない.
 今回,三兄弟に発生した松果体部腫瘍を経験し,脳腫瘍の家族発生として興味ある症例群であり,また松果体部腫瘍のoriginおよび分類におけるひとつの示唆を与える事実と思われるので,ここに報告する.

中大脳動脈末梢部動脈瘤を伴ったMarfan症候群の1例

著者: 大槻宏和 ,   杉浦正司 ,   岩城和男 ,   西川方夫 ,   安野雅夫

ページ範囲:P.983 - P.985

I.はじめに
 成人において,中大脳動脈瘤は,その大半がbifurcation部に位置するとされ,末梢部に存在する動脈瘤は外傷性・細菌性動脈瘤が大半を占める1),一方,Marfan症候群も稀な先天性疾患であるが,なかでも同症候群に頭蓋内出血を伴った例は極めて稀である.今回われわれは中大脳動脈末梢部動脈瘤を伴ったMarfan症候群の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Atlanto-axial rotatory fixationのCT診断と外科的治療

著者: 生子明 ,   中川洋 ,   原野秀之 ,   奥村輝文 ,   杉山忠光

ページ範囲:P.987 - P.992

I.はじめに
 atlanto-axial dislocation(以下AADと略す)については,その成因,病態生理,手術などに関してGreen-berg6),Fried5),長島10,11),阿部1)ら,種々の報告が見られているが,atlanto-axial rotatory fixation(以下AARFと略す)に関しては,命名法にしても一定しておらず,また,診断法や治療法に関してもさまざまな問題があるのが現状である.
 今回,われわれは19歳女性において,直接穿刺による頸部頸動脈造影後に発生した,環軸関節のinterlockingを伴うAARFの症例をCTにより正確に診断し,外科的治療を施行することにより良好な成績を得たので,若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋外多発性神経鞘腫を伴った頭蓋内多発性髄膜腫の1剖検例

著者: 渡部政和 ,   渡辺善一郎 ,   佐々木達也 ,   山尾展正 ,   丹治裕幸 ,   児玉南海雄 ,   佐藤宜貴 ,   本多たかし ,   遠藤辰一郎

ページ範囲:P.995 - P.999

I.はじめに
 多発性髄膜腫は1889年AnfimowとBlumenau3)により初めて報告されたが,稀な疾患ではなく,これまで多くの観点からの報告がみられている12,13,15,19,25).最近われわれは初回手術から20年後に髄膜腫の多発性再発をきたし,かつその期間中に頭蓋外末梢神経の多発性神経鞘腫の発生をみた1剖検例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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