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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科12巻9号

1984年08月発行

雑誌目次

新しき旅立ちへ

著者: 太田富雄

ページ範囲:P.1005 - P.1005

 中枢神経系疾患が外科的に治療されてきた過程を振り返ると,診断面では大体3つの時期が区別される.第1期は,神経学的診断法を駆使し,病変の局在を推測した時代である.この頃の脳神経外科医の局在診断力は,神経内科医のそれよりも,優るとも劣らないものであったに違いない.脳腫瘍の存在を確信して開頭術を施行したが,腫瘍がみられなかった場合,これを"偽脳腫瘍pseudotumor cerebri"といったし,"偽局在徴候false-localizing signs"に関する知識が重要であったのもこの時代である.
 これに対し,気脳写や脳血管写などの補助検査法が導入された時期が第2期にあたる.病変の局在診断は飛躍的に向上したが,病変により圧排された脳室や,脳血管の偏位の具合から,間接的に病変の局在を知るというものであった.したがって,"影"として表現される補助検査所見から如何に正確に"真の病像"を推測するかが,重要な部門を占めるようになった.神経放射線学が欧米で独立した科を作るようになったのも,当然の成り行きであった.

総説

脳腫瘍成長解析のあゆみと展望—特に抗Bromouridine単一クローン抗体による迅速解析法について

著者: 長島正 ,   星野孝夫

ページ範囲:P.1007 - P.1018

I.はじめに
 1953年,HowardとPelc33)により,細胞の増殖の過程が明らかにされてから,正常組織および腫瘍などの異常組織の増殖形態の研究は,成長解析学(Cell Kinetics)としてその後多大な発展をとげてきている,特に1957年,米合衆国Brookhavenにて3H-thymidineが合成され,さらにオートラジオグラフィーの進歩により解析が容易にできるようになったことは,この方面での偉大な貢献といえよう.1959年にQuastler,Sherman45)らによりPLM曲線(percent labeled mitosis curve)による成長解析方法論の確立後は,矢継ぎ早に実験腫瘍あるいは様々なヒト腫瘍についての研究成果が報告されるようになった.14C-thymidineが合成できるようになってからは,3H-thymidineと併用することによる二重標識法など57),変わった面からの研究もできるようになり,またvinka alkaloid系の細胞分裂阻止剤を用いることにより,不充分ながらさまざまな成長解析に必要な係数も得られるようになった.
 本総説では,ヒト脳腫瘍の成長解析を中心に現在までの知見を整理するとともに,各方法の一長一短ならびに最近開発された抗BUdR(bromodeoxyuridine:BrdUrd)単一クローン抗体19)を使っての成長解析の方法を紹介することにする.

解剖を中心とした脳神経手術手技

下位頸椎から上位胸椎にわたる後縦靱帯骨化症に対する胸骨縦割進入法による切除術

著者: 安井敏裕

ページ範囲:P.1021 - P.1027

I.はじめに
 後縦靱帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament,以下OPLLと略す)は,1960年に月本18)が本邦における初の報告を行って以来,整形外科,脳神経外科,神経内科の各科で認識されるようになり,患者数は次第に増加している.しかし,本症の病因解明は未だ不十分で治療法の確立もなされるに至っていない.種々の保存的治療法によっても改善のみられない例に対して,1965年頃から手術的治療法が施行されるようになったが,当初は旧来の手術手技や機器を用いて椎弓切除がなされたため,手術成績は悲惨なものであった.その後,好発部位である頸部に発生したOPLLを中心に多数の手術経験がなされ,現在頸椎部のOPLLに対する手術術式としては,前方からのアプローチとして骨化巣を切除し前方固定1,7,10,11,16,17)を行う方法と,単に前方固定19)のみを行う方法とがあり,後方からのアプローチとしては椎弓切除術8)が行われており,一定の治療成績が得られている.
 一方,胸椎部のOPLLについては頻度が少ないこともあって,いまだその手術的治療法については十分に検討がなされておらず,開発途上にあるところである1,21)

研究

ACNU耐性ラットMeningeal gliomatosisモデルの開発

著者: 吉田達生 ,   生塩之敬 ,   早川徹 ,   山田和雄 ,   加藤天美 ,   最上平太郎 ,   中田陽造

ページ範囲:P.1029 - P.1036

I.はじめに
 近年の癌化学療法の発達はめざましく,一部の腫瘍においては,臨床的に完全寛解をも可能にしたが,悪性脳腫瘍に対しては依然として満足すべき結果が得られていない.このような結果に対して,種々の問題点が指摘されているが1,2,4,29,30,35),これら以外にも,脳腫瘍に限らず化学療法における重要な課題として,腫瘍細胞の抗癌剤耐性の問題が挙げられる7,8,21,30,34,36).化学療法により大部分の悪性腫瘍は,一時的な寛解をみるものの,その期間は短く,来たるべき化学療法に対して耐性となることが多い30,34).これら耐性の機序に関しては,これまでに多くの研究成果が報告され6,10,13,17,22,26,33,36),その一端が解明され,治療への応用段階に至っているが16,21,36),脳腫瘍に関しては,研究は充分でなく,知見も乏しい.

脊髄損傷におけるフリーラジカルと電子伝達系の障害—Part 2

著者: 林成之 ,   坪川孝志 ,   ,  

ページ範囲:P.1039 - P.1046

I.はじめに
 地球上のあらゆる動物の起源となった細胞の形成は,地球の歴史の中において,起源前15億年をさかのぼる遠い昔,酸素を必要とした微生物と酸素を必要としない微生物の共存によってなしとげられたとされ,前者は主としてミトコンドリア,後者は原形質となって細胞が形成されている.したがって生体内のあらゆる臓器も,酸素をエネルギー源産生に使っているミトコンドリアの正常な働きなくしては,その臓器の機能を保つことは基本的に困難である.
 これまで,脊髄損傷の病態形成に関する数多くの研究がなされてきたが,いずれも細胞の環境を形成する脊髄循環について主に注目され19,21,26),細胞の直接機能に結びつく代謝障害については検索技術がいまだ充分に確立していないこともあって,その詳細な検討がなされず,わずかにanaerobic metabolismの状態が脊髄損傷部に惹起されること4,25)が推定されていたにすぎない.

脳血管攣縮と過酸化脂質障害—攣縮動脈壁における過酸化脂質の局在と定量

著者: 所和彦

ページ範囲:P.1049 - P.1058

I.はじめに
 くも膜下出血(SAH)後の脳血管攣縮spasmの発現機序については現在なお不明な点が多く,諸家の一致をみていない.攣縮物質についても数々のものが提唱されており,そのなかでもoxyhemoglobin(oxyHb)4,7,13,15,17,19,20)を中心とする脂質過酸化反応が注目されている.
 一方,Fein3),Alksne1)らにより攣縮動脈壁の微細構造の変化が指摘されて以来,中膜平滑筋細胞のmyone crosis,内皮細胞変性を中心とした器質的変化とspasmとの関連についての報告も多い8,27,28)

脳静脈洞閉塞による静脈性出血性梗塞モデル

著者: 藤田勝三 ,   児島範明 ,   松本悟

ページ範囲:P.1061 - P.1067

I.はじめに
 脳静脈洞閉塞による静脈性の出血性梗塞は,その実験モデルの作製が困難であったがために,臨床例による剖検報告が散見されるのみで,その病態についての詳細な報告はみられない.われわれはイヌを用いて独自の静脈性出血性梗塞モデルを作製し,静脈洞閉塞前後の頭蓋内圧,上矢状静脈洞圧,脳組織圧,脳循環動態の変化について検討し,さらに剖検により,静脈性出血性梗塞の病理学的変化について検討し,新しい知見を得たので報告する.

超音波破砕吸引による血流ならびに脳神経機能への影響について—超音波ドプラ法と聴性脳幹反応による検討

著者: 小西常起 ,   森竹浩三 ,   武部吉博 ,   諏訪英行 ,   半田肇

ページ範囲:P.1069 - P.1075

I.はじめに
 当初白内障の治療機器として開発された超音波破砕吸引装置は,1976年Ransohoffらにより脳神経外科手術にも有用なことが報告された3).この装置は強固な組織からなる腫瘍を主要血管を残して容易に吸引でき,周辺の健常組織をほとんど損傷することなく腫瘍を摘出できるとされていることから国内外を問わずすでに多くの施設で使用されている.しかし振動端子の熱発生の程度や超音波振動の周辺健常組織に及ぼす影響についての研究は充分でなく,脳神経外科領域では脊髄機能および坐骨神経機能に関する研究をみるのみで2,8),頭蓋内手術に関する報告は見当らない.そこで本稿では超音波破砕吸引装置を頭蓋内で使用した際,周辺の健常血管や脳・神経機能に及ぼす影響をドプラ血流計と聴性脳幹反応を使った動物実験の結果から検討した.

症例

半球間のう胞を伴った脳梁欠損症の1治験例

著者: 高橋明 ,   樋口紘 ,   増山祥二 ,   安孫子尚

ページ範囲:P.1077 - P.1083

I.はじめに
 脳梁欠損症は単独では無症状のことが多いが,合併する種々の奇形8)(水頭症,孔脳症,agyria,microgyria, Arnold-Chiari奇形,Dandy Walker奇形など)により脳外科的治療の対象となることがある.今回われわれはけいれん発作を主訴として入院した,稀な半球間のう胞を伴った脳梁欠損症を経験した.本症例では,特異なCT所見が得られ,術前に髄液循環動態を把握した上で,のう胞腹腔シャントを施行し,良好な結果を得たので若干の考察を加え報告する.

右後下小脳動脈瘤の破裂により椎骨脳底動脈血栓閉塞をきたした1例

著者: 金城利彦 ,   佐藤智彦 ,   笠井直人

ページ範囲:P.1085 - P.1090

I.はじめに
 近年,CTスキャンの普及に伴い,くも膜下出血の診断率の向上がみられる,しかし,くも膜下出血の診断を得ているにもかかわらず,脳動脈瘤の発見されない場合もある.その原因としては血管撮影上の条件の不的確なものも多いが,脳動脈瘤のneckが細い場合,脳血管攣縮で造影されない場合,また他の脳血管と重なって見逃されることもある.今回,20歳女性でくも膜下出血で発症し,four vessel studyで脳底動脈閉塞のみの所見を呈しており,剖検にて右椎骨動脈後下小脳動脈分岐部動脈瘤と,その主幹動脈である椎骨脳底動脈の血栓閉塞を認めた症例を経験したので,そのメカニズムを考察し報告する.

石灰化慢性硬膜下血腫の1成人例—その手術適応と術式についての検討

著者: 永田和哉 ,   馬杉則彦 ,   橋本敬祐

ページ範囲:P.1093 - P.1098

I.はじめに
 石灰化慢性硬膜下血腫はさほど稀なものではないと思われているが,その多くは小児もしくは若年層にみられるもので,成人例におけるそれはいまだ報告は少ない.今回われわれは86歳という高齢者における石灰化慢性硬膜下血腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

小脳出血をきたした聴神経腫瘍の1例

著者: 井原達夫 ,   中川翼 ,   阿部弘 ,   田代邦雄 ,   会田敏光 ,   徳田耕一 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.1101 - P.1105

I.はじめに
 良性脳腫瘍からの出血により症状増悪をきたした症例の報告は稀である.ちなみに,聴神経鞘腫からの出血例の報告は現在まで6例の報告をみるにすぎない1-3,5,7,8)
 われわれは最近,聴神経鞘腫からの出血が小脳実質内へ進展し,小脳出血の像を呈した1症例を経験した.さらに,切除した腫瘍の組織像に出血機転を強く示唆するtelangiectasia様の異常血管集簇を認めた.若干の文献的考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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