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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科13巻1号

1985年01月発行

雑誌目次

伸びてゆく脳神経外科のために

著者: 井奥匡彦

ページ範囲:P.5 - P.5

 およそ国の文化の発展には,民族の先天的な特性が大きく反映するものである.そこで私は,Lafcadio Hearnの随筆集『心—日本の内面生活の暗示と影響—』の幾つかの部分を吟味し,医学にも敷衍して考えてみたい.1896年(明治29年)に彼の故国で出版された古いもの(邦訳・岩波文庫)ではあるが,彼が心から日本を愛し,熱心に研究した心情が理解されるし,日本のその頃の特性が今もなお変っていないのに思い当る節もあるので引用した.自国を批判的に書くと日本では,「西洋かぶれしている」とか「日本人らしくない」とか謗られ兼ねないが,皆の力で国の繁栄に寄与しようとするとき,決して褒めたことではない.
 彼は日本が清国に勝ったことに驚くと同時に,後に及ぶであろう列強の重圧を危惧しながら,「日本はこのうえ雄志を伸ばして国家永生の偉業を達成する為には,そこに幾多の暗澹たる障害が横たわっていようが,視野を開こうとしない日本人は何等の怖れも疑いも抱いていない.恐らく将来の危機は,実にこの途方もない自負心にあるであろう」と語っている,その予言は当るべくして当ったのである.Hearnはさらに日本人の天性について「科学的な職能,たとえば医学,外科手術(日本ほど優れた外科医の居るところはない),化学,顕微鏡などの方面では生来の適応があり,既に世界にきこえるような仕事をしている.しかし天性に恵まれない方面では何一つとして目立つものがない」と語っている.

総説

てんかんと小脳

著者: 六川二郎

ページ範囲:P.7 - P.14

I.はじめに
 陣内伝之助教授の御指導のもとにてんかんの研究をはじめた私は,発作性興奮のインパルスの伝導から始まって,興奮機構の存在と様相を解明することに興味を抱いてきた71,72)
 その後,同門の岩田(1967)46)や小林(1972)56)らの研究により,脳内に抑制機能が存在することが判明され,Jung und Tönnies(1950)52)の仮説から出発した発作性興奮に対する促進と抑制機能の相互関係に注目せざるをえなくなった.

研究

外傷性遅発性脳内血腫の臨床像

著者: 青柳訓夫 ,   早川勲 ,   竹村信彦

ページ範囲:P.17 - P.25

I.はじめに
 外傷性頭蓋内疾患はcomputerized tomography(以降X-CT)の出現後,迅速な診断により良好な結果が得られるようになってきている32).一方CTの易反復性により外傷性遅発性脳内血腫が再認識され,再び新たな問題として提起されてきた8,10,13,15,17,24,28).われわれは,少数ではあるが,過去の症例から外傷性遅発性脳内血腫の臨床上の特徴,治療結果を検討し,以下の結果を得たので報告した.

実地臨床における持続頭蓋内圧測定法の諸問題—各種測定法の比較から

著者: 有賀徹 ,   佐々木勝 ,   坂本哲也 ,   山下雅知 ,   堤晴彦 ,   豊岡秀訓 ,   三井香児 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.27 - P.34

I.はじめに
 原因の如何を問わず,重症脳不全の管理において,持続的な頭蓋内圧(intracranial pressure,以下ICP)測定に意義のあることは衆目の認めるところである.しかしその方法は,対象疾患によりまた施設間においてもさまざまであり,共通の場における議論を難しくしている.主に脳外傷などの重症脳障害患者を数多く取り扱う当施設での必要性から,種々のICP測定法について比較検討する機会に恵まれたので,その経験をここに総括する.

Xe enhanced CTによる脳腫瘍rCBFの解析

著者: 中村治 ,   瀬川弘 ,   高倉公朋 ,   野村和弘 ,   中込忠好 ,   吉益倫夫 ,   上田裕一 ,   木村一元 ,   永井政勝

ページ範囲:P.37 - P.43

I.はじめに
 脳腫瘍の血行動態を知る試みは以前よりなされており,臨床的にも133Xeによる方法や,最近ではポジトロン法も普及してきた.しかし,前者では求められた血流値の局所性に乏しく,また後者では,代謝などの情報が得られるものの,血流に関しては半定量的で,十分な分解能が得られないなどの問題点がある.この点,われわれが開発した断層脳血流測定法16,17,19)(Xe CT法)は,Xe samration法により得た結果を画像表示することにより,局所脳血流量(rCBF),分配係数(partition coeffi-cient;λ)を約4mmの分解能で観察することが可能であり,従来の断層脳血流測定法4,10,20)より一歩進んだ方法といえる.rCBF,λをCT scan解剖との関係で観察することは腫瘍病態を知る上で重要であるが,併せて本法の臨床応用の可能性について検討した.

局所脳虚血に対するNaloxoneの効果

著者: 古林秀則 ,   林実 ,   山本信二郎 ,   ,  

ページ範囲:P.45 - P.50

I.はじめに
 opiate receptorが脳において確認されて以来17,脳組織内に存在しモルヒネ様活性を有するペプチド,すなわちendorphinの研究が盛んになった.naloxoneはこのreceptorにopiateと競合的に作用する拮抗剤である.endorphinsは鎮痛,下垂体ホルモン分泌,情動,体温調節などの作用に関与するが,HoladayとFaden10)はendorphinsがendotoxinショック発現の病態生理に関与すると考え,endotoxinとopiateの拮抗剤であるnaloxoneを同時にラットに投与してendotoxinショックを防いだ.
 BaskinとHosobuchi2)は脳虚血性疾患の2症例にnaloxoneを投与し,神経症状の著明な改善を認めた.またこの症例にモルヒネを投与し,片麻痺の増悪を観察した.naloxone投与前の脳脊髄液の検索でβ-endorphinの上昇も観察している.以来,脳虚血による神経症状発現の病態生理にβ-endorphinの関与が推測され,実験的脳虚血12),脳虚血の臨床例に対するnaloxoneの効果が注目されているが,いまだ明確な結論を得るに至っていない.われわれは成猫の左中大脳動脈を閉塞した局所脳虚血実験モデルを用いてnaloxoneの脳血流,全身血圧,脳酸素消費量に対する効果を検索した.

頭部外傷急性期における凝固線溶能の特徴—重症度と予後の相関において

著者: 久村英嗣 ,   福田充宏 ,   武元良整 ,   佐藤雅春 ,   小浜啓次

ページ範囲:P.53 - P.58

I.はじめに
 頭部外傷後の凝固線溶異常に関しては種々の検討がなされており,その急性期においては凝固亢進状態にあり,disseminated intravascular coagulation(以下DICと略す)へ移行しやすいと考えられている.またDICの所見を呈するものは脳損傷の程度が強く,予後も悪いといわれている3,5,6,9,15).これらのことから,今回われわれは単独頭部外傷100例の凝固線溶能について生存群と死亡群の比較検討,脳実質損傷群と非損傷群の比較検討を行うことにより,頭部外傷急性期における凝固線溶異常について重症度と予後の面より検討を加えたので報告する,また,頭部外傷に起因したDICの特徴についても言及したい.

くも膜下出血再破裂発作の意義—特に早期再破裂について

著者: 安井信之 ,   鈴木明文 ,   大田英則 ,   上山博康 ,   川村伸悟

ページ範囲:P.61 - P.68

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤に対する早期手術の目的は,再破裂の予防とくも膜下出血に伴う種々の病態に対し,できるだけ早期に対処あるいは予防的処置を講ずることであり,手術時期の検討を行う際には患者の重症度,脳内血腫(Ich)の有無,脳血管攣縮(Vs)の有無,脳循環動態といった種々の病態に重点をおいて論じられることが多い3,11,12),しかし,再発作については長期followの結果に主眼をおいて,その時期や重症度が論じられることが多く6,1014,再発作の予防のためにはどの程度の手術の緊急度が必要かについては現在まで詳細には検討がなされていない.
 今回これらを明らかにするために,くも膜下出血後急性期に入院した症例を対象とし,出血発作の時期,頻度,重症度,予後,手術による救命の可能性,さらにはIch, Vsといったくも膜下出血急性期病態に対する影響についても論ずる.

症例

小児第3脳室Epidermoidの1手術例

著者: 清水幸彦 ,   相原坦道 ,   府川修 ,   石井正三

ページ範囲:P.71 - P.76

I.はじめに
 小児第3脳室epklermoidは極めて稀な脳腫瘍とされているが,われわれは15歳男子の第3脳室epldermoidの1症例を経験し,anterior transcallosal ap-proachによりほぼ全摘することができたので,頭蓋内epidermoidおよびan-terior transcallosal approachの有用性について若干の文献的考察を加えて報告する.

トルコ鞍内に進展した神経鞘腫の1例

著者: 石毛尚起 ,   伊藤千秋 ,   佐伯直勝 ,   岡信男

ページ範囲:P.79 - P.84

I.はじめに
 最近われわれは,海綿静脈洞内に発生し,一部トルコ鞍内にも進展していたため,術前に下垂体腺腫の側方進展を思わせた神経鞘腫の1例を経験した,神経鞘腫の明らかなトルコ鞍内進展を確認した症例の報告は少なく19),また発生母地に関して,本症例は海綿静脈洞部では最も一般的なganglion typeの三叉神経鞘腫より,むしろ動眼神経より発生した神経鞘腫が考えられたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

脊髄硬膜外転移で再発した頭蓋内膠芽腫の1例

著者: 武家尾拓司 ,   松本祐蔵 ,   西本詮 ,   田淵和雄

ページ範囲:P.87 - P.90

I.はじめに
 膠芽腫が中枢神経系の他の部位のみならず頭蓋外にも転移しうることについては,すでにいくつかの報告があり,よく知られている.今回われわれは,開頭術後約1年を経て膠芽腫が胸髄硬膜外転移をきたし再発した極めて稀と思われる1例を経験したので,臨床病理学的検討と若干の文献的考察を加えて報告する.

脳皮質静脈血栓症に伴う皮質下出血の1例

著者: 石渡祐介 ,   小島康弘 ,   塩沢堯夫

ページ範囲:P.93 - P.98

I.はじめに
 脳静脈系血栓症は,耳鼻科領域の感染症,頭蓋内腫瘍,産褥期,経口避妊薬内服,血液疾患などに続発して発症するものと,原因不明で特発性といわれるものが報告されている,その発生頻度は全脳血管障害の約10%を占めるといわれ8,20),稀な疾患とはいいがたいが,それらの報告の多くは静脈洞血栓症であり,脳静脈に限局した血栓症の報告は意外に少ない.その理由としては,本疾患が必ずしも臨床症状を伴わないことと,その確定診断の困難さをあげることができる.今回われわれは,痔核摘出術直後に頭痛,左不全片麻痺にて発症した皮質下出血を伴う脳皮質静脈血栓症の1例を経験したので,その臨床経過ならびにその臨床的特徴を文献的考察を加え報告する.

CTにて増大と消退を追跡した若年性橋出血の1例

著者: 増山祥二 ,   樋口紘 ,   高橋明

ページ範囲:P.101 - P.106

I.はじめに
 原発性橋出血には,高血圧が原因と思われる比較的高齢者に発症する群と別に,いわゆるcryptic angiomaなどが原因と考えられる若年者の群のあることが知られている4,5,7,8,12-20).後者においては,発症が亜急性ないし慢性で,症状が緩徐進行性,動揺性,反復性に出現するため,神経膠腫,多発性硬化症などとの鑑別が困難な症例もある.
 今回われわれは若年性橋出血と思われた1症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

Transoral anterior approachにて全摘しえた大後頭孔部髄膜腫の1症例

著者: 蝶野吉美 ,   阿部弘 ,   岩崎喜信 ,   小林延光 ,   今井知博 ,   桜木貢 ,   都留美都雄

ページ範囲:P.109 - P.114

I.はじめに
 一般に大後頭孔"前半部"に位置する硬膜内腫瘍の摘出には多くの困難を伴う.microsurgery導入以後,後方到達法にて全摘出可能であった症例が稀に報告されているが11,13,25),その危険性は高く,部分摘出にとどめざるを得ない場合が多い.
 今回われわれは,解剖学的に最も到達が容易である経日的前方到達法を用いて,大後頭孔前半部に位置する硬膜内腫瘍を全摘出し,良好な結果を得た症例を経験したので文献的考察を加え報告する.本症例は,渉猟し得た範囲では,腫瘍摘出後,硬膜形成ならびに前方骨固定を併せて施行し得た最初の報告例である.

脳動脈瘤を伴ったPersistent primitive proatlantal intersegmental artery(Proatlantal artery I)の1例

著者: 佐藤博雄 ,   藤原悟 ,   小田辺一紀 ,   佐藤壮

ページ範囲:P.117 - P.121

I.はじめに
 脳動脈瘤,特に嚢状動脈瘤は一般に先天性のものであるといわれているが,必ずしも異論がないわけではなく,その発生原因は明確に把握されていない.今回われわれは胎生期の遺残血管であるpersistent primitiveproatlantal intersegmental arteryを伴った破裂脳動脈瘤の1症例を経験し,脳動脈瘤発生原因との関連を示唆すると思われたので,特に遺残血管と脳動脈瘤の関係を中心に文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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