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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科13巻10号

1985年10月発行

雑誌目次

No Man Alone

著者: 古和田正悦

ページ範囲:P.1039 - P.1039

 この「No Man Alone」という言葉はWilder Penfield教授の自叙伝の題名で,本誌の読者でしたらご存知の方も大勢いらっしゃることと思います.実は,この言葉を最も適切な日本語に訳される方がいらっしゃらないかと思い,あえて筆をとりました.Montreal Neurological Instituteに学ばれた方が少なからずおられることと思いますし,またPenfieldファンの方のお智恵も拝借できればと考えた次第です.
 自叙伝の内容は以前に本誌の「先達余聞」(第9巻644頁,1981年)で,九大の北村勝俊教授が紹介しておられます.この言葉は自叙伝の中心的理念を表現したもので,「No man alone could do what to be done」ということであり,原著のなかに繰り返し出てきます.直訳すれば「事は独りで為しえない」とでもなるのでしょう.

総説

超音波Bモードによる脳の術中モニタリング

著者: 堤裕

ページ範囲:P.1041 - P.1050

I.はじめに
 X線CT scanで頭頂葉の皮質.下に転移性腫瘍と思われる小さなmass lesionが検出された.開頭して硬膜を開いてみたものの,視診,触診いずれも腫瘍の局在が判断としない.このような際neurosurgeonはどうやってその局在を確認しようとするであろうか.
 視床に嚢胞性の病変がある.摘出は無理だが,せめてOmmaya’s reservoirを入れたい.できればbiopsyもしたいが,stereoでやる十分な自信もない.このような時neurosurgeonはどのように対応しようとするだろうか.

研究

脳幹神経膠腫における壊死巣摘出と抗腫瘍剤局所投与

著者: 伊藤治英 ,   長谷川健 ,   正印克夫 ,   黄文正 ,   林実 ,   山本信二郎 ,   宮崎逸夫

ページ範囲:P.1053 - P.1057

I.はじめに
 脳幹に発生する良性神経膠腫は神経線維に沿って発育するため,脳幹の機能を長期にわたり保持し,発症が遅れる2).一方,悪性神経膠腫は非常に早く進行する.良性も悪性も脳幹腫瘍は極めて多彩な症状を示す.主症状は,①錐体路障害,②脳神経麻痺,③小脳症状,④頭蓋内圧亢進症状,および⑤性格異常,行動異常,あるいは意識障害である7).症状が非特異的なため,脳炎,変性疾患,血管障害,あるいは髄外腫瘍との鑑別が問題となる.椎骨動脈造影や気脳写を駆使しても確定診断までに時間を要し,治療の時機を失する.CTスキャンの開発により脳幹腫瘍の早期診断と詳細な病態把握が可能になり5),それに基づいた手術の有効例を経験し,術式とその適応について再検討が必要になった.自験例の脳幹神経膠腫のCT画像で,中心壊死巣が脳幹表面に露出した症例について,壊死巣部分摘出と抗腫瘍剤Mito-mycin C(MMC)または5-Fuを含んだ徐放剤の局所投与の適応と効果について検索した.

実験的脳虚血における脳保護薬剤の効果—虚血と脳波の相関

著者: 大庭正敏 ,   溝井和夫 ,   藤本俊一 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.1059 - P.1065

I.はじめに
 われわれは脳梗塞急性期の外科的治療,特に血行再建術を成功させるために,虚血症状の出現後,刻々と進行する脳の非可逆的障害の進行を抑制,防止する薬物—脳保護物質—について研究を重ねてきた23,24,26,27).そしてこれまでの一連の研究から11,12,25,31,32),遊離基捕捉作用により生体膜の過酸化反応4-6)を抑制すると考えられるmannitol,vitamin E,dexamethasoneの3剤と,人工血液として開発された3,4)perfluorochemicals(PFC)の併用投与療法が虚血脳に対して極めて優れた保護作用をもたらすことを明らかにした7,8,27).ただし,これらの併用療法に関する実験的検討は虚血開始前の薬剤投与(pretreatment)による効果を検討したものであり,実際の臨床ではこのようないわば予防的投与ができる場合はむしろ例外的であり,さらに発症直後より治療を開始し得たとしても虚血組織への薬剤の到達には種々の問題点がある.そこで本実験では脳血流量を自在に調節できる脳虚血モデルを用い,最初に程度の異なる虚血状態を作成し,一定の虚血状態を持続させた時に脳機能がどのような自然経過をたどるかを観察し,次にこれら各々の虚血状態に対して,上記4剤の併用療法を行い,虚血後,何時間までに治療を開始すれば,その有効性が期待できるかを脳波を指標として検討した.

脳動脈瘤と内頸・椎骨脳底動脈系の形態的要素およびいわゆる血管奇形との関連性について

著者: 北見公一 ,   上山博康 ,   安井信之

ページ範囲:P.1067 - P.1074

I.はじめに
 内頸動脈(IC)系と椎骨脳底動脈(VB)系は後交通動脈(Pcom)を介して互いに交通している場合がほとんどで,Padget25)によれば剖検上Pcomが欠損しているのは3%であるという.しかし血管撮影上のPcomの形態は,embryonic typeといわれる発達したものから,血管撮影では造影されないものまでさまざまあり,Pcomの形態が内頸・椎骨脳底動脈系の血行動態に及ぼす影響は大きいと思われる.またIC系とVB系を連絡する異常血管として胎生期遺残血管が知られており,これらと脳動脈瘤の合併が多く報告されている1,6-8,10,17,22,24).VB系には発生学的に窓形成が多いことが知られており12,25,29,31),それらに脳動脈瘤が合併しやすいとの報告もみられる9,21,23).先にわれわれは,中大脳動脈における分岐形態ならびに奇形と動脈瘤との発生関連性を検討し,形態的要素および奇形のいずれも動脈瘤発生に直接及ぼしている影響は少ないと報告した16).今回は内頸動脈本幹,椎骨脳底動脈系について動脈瘤発生に形態的要素ならびに奇形がどの程度関与しているのかを検討したので報告する.

急性期重症脳障害患者の予後判定—聴性脳幹反応(ABR)と瞬目反射(BR)による評価

著者: 河村弘庸 ,   天野恵市 ,   谷川達也 ,   川畠弘子 ,   能谷正雄 ,   伊関洋 ,   塩飽哲士 ,   長尾建樹 ,   平孝臣 ,   岩田幸也 ,   梅沢義裕 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.1077 - P.1085

I.はじめに
 近年,各種誘発電位の分析を指標とした重症脳障害患者における予後評価が盛んに試みられている.Green-bergら1-3)は重症頭部外傷の予後判定にmultimodality evoked potentials(MEPs)が有用であると報告している.しかしながら重症脳障害患者の急性期にこれら各種誘発反応を同時に,しかも経時的に記録することは種々の制約があり必ずしも容易でなく,Greenbergらが論述しているほど有用でない場合が少なくない.
 そこで著者らは,各種誘発反応のうちから,聴性脳幹反応(auditory braintem response,ABR)と三叉神経第1枝の電気刺激により誘発される瞬目反射(blink re-flex,BR)とを予後評価の指標に選び,それぞれ脳幹の異なる経路を介して形成されるこの2つの反応を分析することにより重症脳障害患者の急性期における予後評価がどの程度まで可能か,その有用性と限界について検討したので報告する.

重症頭部外傷の病態や予後判定におけるMultimodality evoked potentials(MEPs)測定の意義

著者: 弓削龍雄 ,   重森稔 ,   徳富孝志 ,   山本文人 ,   川崎建作 ,   川場知幸 ,   渡辺光夫 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.1087 - P.1095

I.はじめに
 重症頭部外傷症例において,脳幹部損傷の有無やその程度は予後を決定する1つの因子として極めて重要である1,2).最近,脳幹機能の客観的評価法として聴性脳幹反応(Auditory Evoked Brainstem Response,以下ABR)が注目され,重症頭部外傷症例においてもその病態や予後判定の指標として有用性が報告されている10,11).しかし,重症頭部外傷の多くは脳組織にdiffuseな損傷を伴っており1),頭蓋内病態や脳機能障害の程度を正確に把握するためにはABR測定のみでは不十分と考えられる.今回,私どもは重症頭部外傷症例においてABRのほか,体性知覚誘発電位(Cortical Somatosensory Ev-oked Potential,以下SEP)および視覚誘発電位(Visual Evoked Potential,以下VEP)を組み合せたMultimod-ality Evoked Potentials(以下MEPs)の経時的測定を行い,病態や予後判定における有用性につき検討したので報告する.

症例

軸椎の脊椎分離症の1例

著者: 花北順哉 ,   近藤明悳 ,   鈴木豊栄

ページ範囲:P.1097 - P.1101

I.はじめに
 脊椎分離症,脊椎すべり症は,脊椎の病変としては頻度の高いものであり,腰仙部に好発するとされている.しかしながら,これらの変化が頸椎レベルに出現することは稀なことである.頸椎における脊椎分離症は,下位頸椎ことに第6頸椎に多発することが知られているが20),今回われわれは,軸椎に生じた脊椎分離症の1例を経験した.この症例の神経放射線学的所見を報告し,あわせて頸椎の脊椎分離症,脊椎すべり症の文献的考察を行った.

全摘した乳児巨大頭蓋内奇形腫の長期生存例

著者: 白根礼造 ,   嘉山孝正 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎 ,   高久晃

ページ範囲:P.1103 - P.1107

I.はじめに
 1歳未満の乳児脳腫瘍は早期発見が困難で,発症すれば急激な経過をたどり,手術を行ったとしても治療成績は,決して良好ではない.たとえ長期生存例でも,精神発達,身体発育の点で,良好な予後は期待できないと考えられてきた1,3,7,13).今回は,すでに全摘出成功例として報告している乳児期の両側前頭蓋窩を占める320gもの巨大奇形腫の症例について,患者を13歳の現在まで長期追跡しているので,その後の経過を報告する.

硬膜下血腫と脳内血腫がほぼ同時期に形成された細菌性動脈瘤の1例

著者: 糟谷英俊 ,   清水隆 ,   田鹿妙子 ,   喜多村孝一 ,   岡田典子 ,   洲鎌倫子 ,   福山幸夫

ページ範囲:P.1109 - P.1113

I.はじめに
 細菌性動脈瘤は抗生物質の使用により減少し,現在では稀な疾患であるが1),近年開心術の増加に伴い,術後の合併症として報告され5,14),注意が喚起されている.今回,開心術の既往があり,細菌性心内膜炎の症状出現以前に,硬膜下血腫と脳内血腫がほぼ同時期に生じた細菌性動脈瘤の1症例を経験したので報告する.

頭蓋円蓋部髄膜腫とこれに接して発生した慢性硬膜下血腫の稀な1治験例

著者: 富田幸雄 ,   菊地康文 ,   七海敏之 ,   古川公一郎 ,   小野寺英樹 ,   金谷春之

ページ範囲:P.1115 - P.1119

I.はじめに
 頭蓋内髄膜腫と頭蓋内血腫の合併は比較的稀であり,合併血腫としては脳内血腫,急性硬膜下血腫および慢性硬膜下血腫の形をとる.そのうち髄膜腫と慢性硬膜下血腫の合併は,われわれが集め得た文献症例はわずか5例3,7-9,12)にすぎない.最近われわれは円蓋部髄膜腫とそれに接して慢性硬膜下血腫を合併した1例を経験したので報告する.

反復施行した脳血管写により血管写上の自然消失を追跡し得た脳底動脈尖端部未破裂巨大動脈瘤の1例

著者: 清水洋治 ,   難波真平 ,   木下公吾

ページ範囲:P.1121 - P.1127

I.はじめに
 脳動脈瘤が自然に血栓化して,脳血管写上消失することは比較的稀であるが5,7,11),特に巨大脳動脈瘤の自然消失は剖検例を含めても私たちの検索し得た範囲では,現在までに15例にすぎない5).私たちは,最近,脳底動脈尖端部未破裂巨大動脈瘤が正常圧水頭症(Normal Pressure Hydrocephalus;以下NPHと略す)を惹起した稀な1症例を経験し,すでに本誌に発表したが(第7巻603-608頁,1979年)9),同一症例において,その後,動脈瘤の血栓化により脳血管写上自然消失する過程を経時的に追跡し得たので,若干の文献的考察を加え報告する.

両耳聾となった小児頭部外傷の1例

著者: 中山俊郎 ,   原田幹雄 ,   松角康彦 ,   和田伸一

ページ範囲:P.1129 - P.1132

I.はじめに
 頭部外傷による聴覚障害はしばしばみられるが,完全聾となることは稀である.われわれは頭部外傷後に聴覚以外の神経症状および知能,精神機能は正常に回復して,両耳完全聾となった症例を経験し,現在も経過観察中である.このような症例の報告はいまだみられず,極めて稀な症例と思われる.考察を加えて報告する.

第4脳室開口部膜様閉塞による水頭症

著者: 吉岡進 ,   松角康彦 ,   植村正三郎 ,   永広信治 ,   大塚忠弘 ,   弥富親秀

ページ範囲:P.1135 - P.1139

I.はじめに
 第4脳室開口部の閉塞による水頭症の原因には,腫瘍や炎症,Dandy-Walker奇形など種々のものを挙げることができるが,既往歴や術中所見に明らかな原因疾患がみられず,Magendie孔部での膜様閉塞による水頭症を3例経験した.過去に同様の報告1,4)は少なく,その診断ならびに病因について検討を加えたので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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