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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科13巻11号

1985年11月発行

雑誌目次

医学会雑感

著者: 駒井則彦

ページ範囲:P.1145 - P.1145

 昨今は研究会や学会が無制限に増加し,また,応募演題数も多く会長はその選択に苦労されている.国際学会でも同様,わが国からの応募演題数には驚かされる.一見,日本人は研究熱心であるかのように見えるが,独創的な研究が比較的少なく,模倣や追試が多い.なかには演題名を多少変更してはいるが,内容は各学会で聞き古したものを性懲りもせず発表しているものもある.学会の講演時間が短く,会場も幾つかに分かれているため,何回も繰り返さねば人々の印象に残らないのかもしれない.1つの研究を完成するには少なくとも2-3年は必要である.しかし,priorityを優先するためか,未完成の報告や,コマ切れの発表が多い,換言すればpriorityが侵害される危険性があるからともいえる.事実,他人の研究に尾鰭をつけて,わが物顔に発表している人もみうけられる.
 独創的な仕事が少ない原因として,一つはノルマを課された受動的な,暗記を主体にした受験勉強があるのではなかろうか.毎年「全日本学生児童発明工夫展」なるものが催されるが,着想が面白く,創造性にとんだ作品は小学3年生までで,小学校高学年になると創意・工夫が消えてしまうらしい.現在の大学入学試験は記憶力を重視するような傾向にある.受験生は学習塾でノルマを課され,暗記に次ぐ暗記で次第にゆっくり考えることもなくなってしまう.

総説

虚血性脳浮腫発生機序—脳微小血管Na,K—ATPaseの役割と,AVSの抗浮腫作用を中心として

著者: 浅野孝雄 ,   城下博夫 ,   後藤修 ,   臼井雅昭 ,   小出徹 ,   茂野卓 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.1147 - P.1159

I.はじめに
 脳虚血後に発生する脳浮腫,すなわち虚血性脳浮腫は脳血管障害に対する治療上極めて重要な合併症である.虚血性脳浮腫に対する治療薬としては,かつてステロイドが頻用されたが,その効果についてはむしろ否定的な報告が多い.また,マンニトール,グリセロールなどの高浸透圧剤の効果は確実ではあるものの一時的であり,虚血による脳損傷を軽減し,予後を改善するほどの効力をもつか否かは疑わしい.このように,現在に至るまで虚血性脳浮腫に対する治療法が確立されていない最大の理由は,その発生機序について不明の点が多いことである.従来,虚血性脳浮腫は,脳組織が不可逆的損傷,すなわち壊死に陥つた場合にのみ発生するとされてきた52,64).換言すれば,虚血性脳浮腫は死へと運命づけられた脳組織がたどる一つの道筋であり,その発生機序は神経細胞が虚血によつて死に至る生化学的な機序に付随したものであると考えられてきたのである.したがって,この考えに立脚する限り,虚血性脳浮腫に対する生化学的な意味でspecificな治療法というものはあり得ず,むしろ物理学的な要因(浸透圧,灌流圧)を通じて浮腫の進行に影響を与えることが唯一可能な方法であった.
 一方,脳虚血によって生じる脳損傷についての生化学的研究は近年急速に進展しつつある.なかでも生体膜燐脂質の代謝変動は,活性酸素による遊離基反応の開始とその伝播を介して,細胞の不可逆的損傷の主要な原因となるという説(free radical hypothesis)は,特に注目されているものである22,61).さらに生体膜燐脂質の構成要素であるアラキドン酸(AA)は,他の多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acids:PUFAs)とともに虚血後脳内に遊離される9,77).AAカスケードから産生される種々の物質(eicosanoids)が強力な生物活性を有することは周知の事実である27).これらに加えて,活性酸素と同様の組織毒性を有する遊離基(oxygen-centered radical)も,中間産物として放出される42).生体膜燐脂質のこれらの反応径路が,真に虚血による不可逆的脳損傷の発現に関与しているとすれば,遊離基を消去する薬物,すなわち遊離基捕捉剤(free radical scavenger)ないしAAカスケードの諸酵素に対する抑制剤は,虚血侵襲から脳を保護し脳損傷を軽減させるはずである.

研究

脳動脈瘤と前大脳動脈の形態的要素およびいわゆる血管奇形との関連性について

著者: 北見公一 ,   上山博康 ,   安井信之

ページ範囲:P.1161 - P.1167

I.はじめに
 前大脳動脈(ACA)は発生学的には内頸動脈の2終枝の1本であるprimitive olfactory arteryから生じ,20−24mm胎児(40日目)の頃より内側の枝が主幹となって,終脳の発達に伴い大脳半球内側面を灌流するようになる12,18).また,叢状だった前交通動脈も同じ頃はっきりとした血管となって,左右の前大脳動脈を大脳縦裂基底部にて連絡する12,18).この時期に前交通動脈近傍の血管奇形,前大脳動脈水平部(A1部)の低形成や無形成などの異常が発生するとされる.前交通動脈近傍は脳動脈瘤好発部位の一つであるが,母血管となるべきA1部には形態的なvariationが多く,また以前より一側A1の低形成,無形成例には動脈瘤が合併しやすいとの報告がある1,5-7,22,24,25).同部の血管奇形としてazygos ACAや3本のA2部分よりなる,いわゆるtriple ACA2)などが知られており,A1部の窓形成も報告されている.そしてこれら奇形と動脈瘤が合併しやすいとする報告も多い3,4,6,9,10,19).先にわれわれは,中大脳動脈系13)および内頸・椎骨脳底動脈系14)について血管の分岐形態ならびに奇形と脳動脈瘤発生との間の因果関係を検討してきたが,今回は前大脳動脈系の形態ならびに奇形と脳動脈瘤との関係を検討し,興味ある所見を得たので報告する.

内頸動脈後交通動脈分岐部動脈瘤の破裂による脳内出血の病理学的検討

著者: 志村俊郎 ,   平野朝雄 ,  

ページ範囲:P.1169 - P.1173

I.はじめに
 脳動脈瘤の破裂に伴う脳内出血の分布の神経病理学的分析は少ない.脳動脈瘤の発生する場所は,好発部位があり,前交通動脈と後交通動脈が主体を占めている.それら動脈瘤の破裂により引き起こされる出血領域は,当然異なっている.前大脳動脈動脈瘤の破裂による病態の分析については,最近,山本15)が48症例について脳内血腫部位の検討を行つている.一方,内頸動脈と後交通動脈の分岐部に発生した脳動脈瘤(以下,IC-PC脳動脈瘤と略す)の破裂による病理学的分析は断片的には記載されてはいるが,それを系統的に研究した報告は,1959年,当部門のHiranoら6)による9症例にとどまっている.そこで著者らは,その後さらに経験した23症例を加え,計32例の頭蓋内出血の拡がり,および脳室内出血の機序について検討した結果を報告する.

Surgical treatment of 224 cases of big acoustic neurinoma with special consideration on 76 cases treated microsurgically

著者: 蒋大介

ページ範囲:P.1175 - P.1180

 Two hundred and twenty four cases of acoustic neurinoma, bigger than 4 cm in diameter were operated by suboccipital approach in the past 30 years.Among them, 148 cases were operated before the year of 1978 with conventional macrosurgical technic, and 76 cases were operated since 1979 with microsurgical technic.In the former group of cases, the percentage of total removal of tumor was 83.8% and the mortality rate was 5.4%. In the latter group, all tumors were totally removed, there was no mortality, the facial nerve was preserved anatomically in 86.8% of cases and functionally in 71.1%, and the cochlear function was preserved in 21.1% of cases. In 5 cases, the severed ends of the facial nerve were anastomosed intracranially. All of them had their facial nerve function recovered.

症例

片側動眼神経麻痺で発症したBurkittリンパ腫の1例

著者: 福井啓二 ,   武田定典 ,   貞本和彦 ,   小池聰之 ,   岡部健一 ,   土岐博信 ,   森脇昭介

ページ範囲:P.1183 - P.1189

I.緒言
 Burkittリンパ腫は,1958年Burkittによって中部アフリカの小児にendemicに発生する悪性腫瘍として報告された3).その後O’Conorらにより,悪性リンパ腫に属するものとされ18),現在では,non-Hodgkin’s lym-phomaのバーキット型(LSG分類)またはsmall non-cleared cell(Working Formulation分類)に細分類されており14),本邦では1969年Oboshiらにより報告されて以来17),約40例の報告が見られる1,4,5,8,12,13,15-17,19,20)(Table 2).
 われわれは左動眼神経麻痺で発症し,骨髄生検により診断されたBurkittリンパ腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

頭部外傷後に発症した多発性骨腫瘍を伴う頭蓋骨悪性リンパ腫の1例

著者: 金城利彦 ,   佐藤智彦

ページ範囲:P.1191 - P.1196

I.はじめに
 近年,脳内原発悪性リンパ腫の報告が数多くみられるが,最近われわれは頭部外傷後に打撲部の頭蓋骨腫瘍で発症し,全身骨に多発性に生じた悪性リンパ腫の1例を経験した.このような症例は稀であり,文献的考察を加えて報告する.

術後石灰化硬膜外血腫の1例

著者: 吉田伸子 ,   伊関洋 ,   天野恵市 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.1199 - P.1203

I.はじめに
 硬膜外血腫は頭部外傷に起因し,急性の経過をとるものが大部分であるが,慢性に経過して石灰化することも知られている.急性硬膜外血腫と異なり,悪急性あるいは慢性硬膜外血腫は硬膜表面の静脈性出血が出血源9)で,頭部外傷以外にも開頭術後に発生した症例が報告されている5,17,18,21)
 最近,著者らは,水頭症を伴う松果体腫瘍患者に脳室腹腔シャント術を行い,術後,松果体腫瘍に対して放射線照射を行ったところ,シャント術から3年経過後,CTで石灰化を伴った硬膜外血腫の認められた1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

脊髄硬膜内くも膜のう胞の臨床像

著者: 青柳訓夫 ,   早川勲 ,   滝沢利明 ,   松本正久

ページ範囲:P.1205 - P.1212

I.はじめに
 脊髄硬膜内くも膜のう胞が主病変として発症することは珍しい.われわれは外科療法,保存療法の各1例を経験したので,この症例を報告するとともに過去の報告80例を検討し本疾患の臨床像,治療法を求めた.

Posterior fossa dural AVMの自然消失後にAneurysmの発生を認めた1例

著者: 伊藤義廣 ,   福村昭信 ,   瀬戸弘 ,   池田順一 ,   松角康彦 ,   児玉万典

ページ範囲:P.1215 - P.1220

I.はじめに
 Newton11)らのいうposterior fossaのdural AVMと考えられる症例の自然消失例は文献上2例の報告をみるにすぎない.われわれは8年前にdural AVMと診断し外科治療を加えたが,再発し,くも膜下出血を契機に自然消失したと思われる症例を経験した.再発しやすく治療困難と老えられているこの部のdural AVMの消失理由を文献的に考察した.さらに,この症例では1.5年の経過で内頸動脈に真性脳動脈瘤の発生を確認し治療を行った.短期間での脳動脈瘤の発生確認も稀であり,これにおいても文献的考察を加えた.

側頭骨に発生したOssifying fibroma

著者: 倉津純一 ,   中山俊郎 ,   松角康彦

ページ範囲:P.1223 - P.1226

I.はじめに
 ossifying fibromaは主に上顎骨や下顎骨に発生する比較的稀な良性線維性骨腫瘍であるが3,4,6,12),ごく稀に頭蓋骨円蓋部に発生する2,5,10-13,15).一般に若年者に好発するが,われわれは76歳の女性の側頭骨に発生したossifying fibromaを経験したので,文献的考察を加え,ossifying fibromaの臨床像,放射線学的および組織学的特徴について述べる.

5FU誘導体に起因すると思われるToxic leucoencephalopathyの1例

著者: 安江正治 ,   石島武一 ,   佐藤順一 ,   水谷俊雄 ,   森松義雄

ページ範囲:P.1229 - P.1234

I.はじめに
 近年CTなど診断技術の進歩に伴い転移性脳腫瘍を手術する機会が増加している.これら治療に伴い,放射線療法のみならずさまざまな化学療法が試みられている.最近われわれは乳癌治療中に多彩な神経症状を呈し,転移性脳腫瘍と誤診し,後日,剖検にて5FU誘導体(tegafur,carmofur)に起因すると思われるtoxic leuco-encephalopathyの1例を経験した.癌の治療中,神経症状がみられた場合,脳外科医は転移性脳腫瘍を中心に診断をすすめ,薬剤に起因する症状は盲点になりやすい.そこでわれわれが経験した1症例を呈示し,注意を喚起するとともに,文献的考察を加え,抗癌剤により白質変性症について診断,病理所見を中心に述べていきたい.

呼吸麻痺を伴う上位頸髄損傷—リハビリテーションの段階に至った1生存例

著者: 窪倉孝道 ,   石川憲一 ,   西村敏彦 ,   坪根亨治

ページ範囲:P.1237 - P.1242

I.はじめに
 第4頸髄以上の上位頸髄に対する重度の外傷性損傷は呼吸麻痺をきたすことが多いために致命的な外傷といわれている5).現場での救急医療体制のいまだ不充分なわが国では,そのほとんどが死の転帰をとっていると考えられ,受傷直後から呼吸麻痺を伴う上位頸髄損傷患者の蘇生に成功し,社会復帰を目指す段階にまで回復した症例の報告は,われわれの渉猟し得た範囲では見られない.最近われわれは,交通外傷による環椎前方脱臼を伴う軸椎歯状突起骨折を生じ,心肺機能停止状態で救急搬入されながらも蘇生し,吸呼麻痺を伴う四肢麻痺の状態から病状の目覚しい改善を示した症例を経験した.同部の損傷は神経外傷学的な立場から見ても,いくつかの特徴6,10)があり,本症例もその経過中興味ある所見を呈したので併せて報告する.

脳内出血を伴ったGiant cell glioblastomaの神経管外転移を呈した1剖検例

著者: 新村富士夫 ,   陳美利 ,   伊藤輝一 ,   有輪六朗

ページ範囲:P.1245 - P.1250

I.はじめに
 原発性脳腫瘍のち,腫瘍内出血を伴い,かつ神経管外転移を示す症例は稀である.
 われわれは,脳内出血で発症した71歳男性の血腫周辺組織から巨細胞性膠芽腫と診断した脳腫瘍を認めた.発症9ヵ月後に右鎖骨上窩リンパ腺転移を起こし,剖検の結果,巨細胞性膠芽腫の広汎な神経管外転移と診断された症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

特発性硬膜外血腫の2例

著者: 関本達之 ,   中川善雄 ,   上田聖 ,   平川公義 ,   福間誠之 ,   竹友重信

ページ範囲:P.1253 - P.1257

I.はじめに
 外傷以外の原因による硬膜外血腫は非常に稀であり,文献例も散見されるにすぎない.発生原因としては頭蓋近傍の感染巣に起因するものが多いといわれている.われわれは胃癌の手術後3ヵ月目に出血傾向をきたした31歳男性と,副鼻腔炎の既往を持つ34歳女性の2例に特発性硬膜外血腫を経験したの報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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