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文献詳細

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科13巻11号

1985年11月発行

文献概要

総説

虚血性脳浮腫発生機序—脳微小血管Na,K—ATPaseの役割と,AVSの抗浮腫作用を中心として

著者: 浅野孝雄1 城下博夫1 後藤修1 臼井雅昭1 小出徹1 茂野卓1 高倉公朋1

所属機関: 1東京大学脳神経外科

ページ範囲:P.1147 - P.1159

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I.はじめに
 脳虚血後に発生する脳浮腫,すなわち虚血性脳浮腫は脳血管障害に対する治療上極めて重要な合併症である.虚血性脳浮腫に対する治療薬としては,かつてステロイドが頻用されたが,その効果についてはむしろ否定的な報告が多い.また,マンニトール,グリセロールなどの高浸透圧剤の効果は確実ではあるものの一時的であり,虚血による脳損傷を軽減し,予後を改善するほどの効力をもつか否かは疑わしい.このように,現在に至るまで虚血性脳浮腫に対する治療法が確立されていない最大の理由は,その発生機序について不明の点が多いことである.従来,虚血性脳浮腫は,脳組織が不可逆的損傷,すなわち壊死に陥つた場合にのみ発生するとされてきた52,64).換言すれば,虚血性脳浮腫は死へと運命づけられた脳組織がたどる一つの道筋であり,その発生機序は神経細胞が虚血によつて死に至る生化学的な機序に付随したものであると考えられてきたのである.したがって,この考えに立脚する限り,虚血性脳浮腫に対する生化学的な意味でspecificな治療法というものはあり得ず,むしろ物理学的な要因(浸透圧,灌流圧)を通じて浮腫の進行に影響を与えることが唯一可能な方法であった.
 一方,脳虚血によって生じる脳損傷についての生化学的研究は近年急速に進展しつつある.なかでも生体膜燐脂質の代謝変動は,活性酸素による遊離基反応の開始とその伝播を介して,細胞の不可逆的損傷の主要な原因となるという説(free radical hypothesis)は,特に注目されているものである22,61).さらに生体膜燐脂質の構成要素であるアラキドン酸(AA)は,他の多価不飽和脂肪酸(polyunsaturated fatty acids:PUFAs)とともに虚血後脳内に遊離される9,77).AAカスケードから産生される種々の物質(eicosanoids)が強力な生物活性を有することは周知の事実である27).これらに加えて,活性酸素と同様の組織毒性を有する遊離基(oxygen-centered radical)も,中間産物として放出される42).生体膜燐脂質のこれらの反応径路が,真に虚血による不可逆的脳損傷の発現に関与しているとすれば,遊離基を消去する薬物,すなわち遊離基捕捉剤(free radical scavenger)ないしAAカスケードの諸酵素に対する抑制剤は,虚血侵襲から脳を保護し脳損傷を軽減させるはずである.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1251

印刷版ISSN:0301-2603

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