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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科13巻4号

1985年04月発行

雑誌目次

有感二首

著者: 松本圭蔵

ページ範囲:P.355 - P.356

 教室開講十周年を迎えた.夢のように過ぎたこの十年はきわめて短く感じられるが,同門六十余名に成長した今日の教室になるまでの思い出をたどれば,やはり十年の歳月は長い.徳島の地にただ一人講座新設の使命を担って赴任した当時は,まだ頭髪も黒々としていたのだが,最近,鏡に向えば白髪がめっきり日立つようになった.

解剖を中心とした脳神経手術手技

聴神経腫瘍の手術

著者: 小林茂昭 ,   杉田虔一郎

ページ範囲:P.357 - P.364

I.はじめに
 聴神経腫瘍は良性腫瘍の1つであるが,腫瘍の発生する解剖学的位置が重要組織に近接しているために従来より脳神経外科手術の内でも最も難かしい手術の1つとされている.しかしながら一方,大多数の聴神経腫瘍はいずれも同じような病態生理ならびに位置関係を示している.したがって手術的治療にあたっては,それぞれの術者によってほぼ一様な方針,方法が行われている.現在主で聴神経腫瘍に対して種々のアプローチが行われてきたが,そのなかには経後頭蓋窩到達法(suboccipitalapproach)4,7,8),経中頭蓋窩到達法(transpyramidalapproach,subtemporal approach)2,6)ならびに耳鼻科医によって導入された経迷路到達法(translabyrinthineapproach)1)がある.かつて聴神経腫瘍手術の達人といわれたOlivecronaの手術死亡率が20%であったが,現在では3%以下となっている7,8)
 現時点での聴神経腫瘍手術の日的は腫瘍全摘に加えて,いかにして顔面神経と蝸牛神経を保存するかとなりている.手術方法および手術成績の観点からは,聴神経腫瘍の大きさが重要な因子となっており,最大径3cm以上の腫瘍とそれ以下の腫瘍では技術的な困難性において格段の差があり,異なったカテゴリーの腫瘍といえる.3cm以下では手術のみならず顔面神経,蝸牛神経の温存も容易にできうる.

研究

脳神経外科手術におけるフィブリン糊の使用

著者: 福本達 ,   松島善治 ,   富田修一 ,   稲葉穰

ページ範囲:P.367 - P.373

I.はじめに
 フィブリン糊(fibrin glue)は,生体物質を基剤とした接着剤として,人工接着剤に代わり各科領域で使用されつつあるが2,10,11),脳神経外科領域ではその使用報告が少なく,使用方法もまだ確立されていない.
 フィブリンが組織接着剤として初めて使用された報告は,1940年Youngらの動物実験による末梢神経吻合にさかのぼる13).その後,フィブリン安定化因子の発見,精製や血液製剤製造技術の進歩により,1972年Matrasらの神経吻合の優れた成績をはじめとして5),フィブリン糊についての応用研究が進められ,臨床的にもその有用性が報告されるようになった.

CT誘導定位脳手術の経験

著者: 滝沢貴昭 ,   佐藤昇樹 ,   松本皓 ,   佐能昭 ,   高橋一則 ,   村上裕二 ,   大田浩右

ページ範囲:P.375 - P.381

I.はじめに
 CT scanが脳神経外科疾患の診断に有用であることはもはや異論をみないが,近年定位脳手術法との組み合せにより各種脳神経外科的治療にも利用されるようになってきた.CT scan専用定位脳手術装置の開発は,1977年頃より始まったが,その手術法は大きく2つに分けられる.すなわちCT室でCT撮影をしながら手術する方法と,手術に必要な座標データを術前に得られるように工夫された装置を頭部に固定してCTを撮影し,得られた座標軸に基づいて手術を施行する方法である.私どもは,このたび後者の代表的装置であるBrown-Roberts-Wells(BRW)stereotactic system(Trent Wells Inc.,South Gate,California)を本邦で最初に使用し,種々のCT誘導定位脳手術を施行する機会を得たので,その経験を紹介し,本法の応用と問題点,将来の展望について若干の考察を加えて報告する.

小児髄膜腫の臨床病理像—悪性髄膜腫を中心に

著者: 遠山隆 ,   久保長生 ,   田鹿安彦 ,   井上憲夫 ,   田鹿妙子 ,   氷室博 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.383 - P.389

I.はじめに
 小児の髄膜腫は成人に比して比較的稀な腫瘍である.その頻度は15歳未満の小児脳腫瘍中,Matson6)0.4%,若井ら14)1.4%,Mendirattaら7)1.5%,Koosら5)2.2%,全国統計9)2.3%である.今回われわれは15歳未満の小児脳腫瘍167例のうち6例(3.6%)の髄膜腫を経験し,そのうち3例が悪性髄膜腫であったので,この3症例を中心に,その臨床病理学的所見について報告する.

メトリザマイドCTによる正常頸部脊髄の計測

著者: 鈴木文夫 ,   小山素麿 ,   相井平八郎

ページ範囲:P.391 - P.396

I.はじめに
 脊髄の解剖学的計測値については今世紀の初めより多くの報告がある.成人では長さ43-45(正常限界40-45)cm,身長の1/4弱で,頸部,腰部に膨大部をもつ.その断面の形状は一定でなく,レベルにより大きく異なる.C6の前後径は9mm,横径は13-14mm,T6の前後径8mm,横径10mm,L3の前後径8.5mm,横径11-13mmなどは臨床解剖上よく知られた数値である12).生体内でこれらの形状,大きさを知ることはCTの出現までおよそ不可能であったが,1970年代末までに椎体,脊椎管のCT解剖はHammerschlagら5),Leeら9),Sheldonら14),Coinら1)により研究され,さらに1980年代にはHarwood-NashとFitz6)は成長期の変化にも注目し,今日ではすでに完成の域に達したと思われる.しかし,脊椎管内の軟部組織はC1-C2のレベルを除いて硬膜外脂肪組織に囲まれた"homogenous density"とみなされ,メトリザマイドCT-myelograplly(以下met.CTと略す)でなければその画像は診断的価値はない2).
 met.CTの導入以来,脊髄,神経根糸,馬尾神経,終糸におよばず,前後脊髄動脈までも明らかにされてきている16).

脳血管撮影中の破裂脳動脈瘤再破裂の危険性

著者: 伊東正太郎 ,   郭隆璫 ,   江守巧 ,   中村勉 ,   角家暁 ,   冨子達史 ,   鈴木尚

ページ範囲:P.399 - P.407

I.はじめに
 脳血管撮影中に破裂脳動脈瘤が再破裂することはこれまで稀と考えられてきた.すなわち著者らが渉猟し得た限りでは1981年までに92例の報告例をみるにすぎない.しかし著者らは破裂脳動脈瘤患者295例中13例(4.4%)に脳血管撮影中の再破裂を認めた.そこで脳血管撮影中の再破裂に関与する危険因子とその予防策について検討を加えた.

頑痛に対する経皮的脊髄硬膜外電気刺激法—特にDeafferentation painに関して

著者: 津田敏雄 ,  

ページ範囲:P.409 - P.415

I.はじめに
 頑痛に対する外科的治療法には痛覚求心系を破壊する方法が一般的である.しかし,これらによっても効果のないもの,また,これら除痛法の後に出現する新たな痛み(いわゆるdeafferentation pain)に関し,近年,慢性的電気刺激による除痛が開発され普及しつつある.その刺激部位は多岐にわたるが,そのなかでも経皮的脊髄硬膜外電気刺激(以下SCSと略す)は簡単で安全な方法である.しかし,本方法による除痛メカニズム,そしてその効果,適応に関しては十分検討がなされているというわけではない.われわれはToronto General Hospital(Toronto,CANADA)において44例の,主にdeafferentation painと考えられた患者に対しSCSを行い,その治療経験から治療効果,合併症などを中心に検討し,同時にmorphine studyや体性感覚誘発電位(以下SERと略す)などの所見を加え,deafferentationpainの発生機序,SCSの除痛機序に関しても推論を加えた.

高ピーク出力炭酸ガスレーザーとYAGレーザーの同軸複合照射に関する研究—脳組織への影響について

著者: 露無松平 ,   ,   山崎信吾 ,   黒岩俊彦 ,   鈴木龍太 ,   武井秀憲 ,   鈴木健一 ,   稲葉穰

ページ範囲:P.417 - P.423

I.はじめに
 現在各種レーザー手術の有用性が認識され,われわれも1978年から炭酸ガス・レーザー(連続発振型conti-nuous wave,以下CWと略す)を臨床的に使用し7,8),次いで1982年に高ピーク出力,炭酸ガスレーザー(highpeaked puise wave,以下PWと略す)により動物実験を行い,すでに発表してきた15).しかしPWのみでは切開に適しているが凝固止血に適さず,ヤグレーザー(以下YAGと略す)ではその逆である.最近,止血凝固と切開を同軸・同時に照射できる機種が開発されたので,その有用性,安全性,問題点につき検討するため動物実験を行った.

症例

成人で発症した頭蓋底脳髄膜瘤の1治験例—臨床面からの新分類

著者: 山下弘巳 ,   栗原正紀 ,   河野輝昭 ,   森和夫 ,   国村光春

ページ範囲:P.425 - P.431

I.はじめに
 頭蓋底の脳髄膜瘤(basal encephaiomeningoceles)は稀なもので,その頻度は35,000の出生毎に1例程度と考えられている3,14,21)
 われわれは最近,慢性腎不全に対する血液透析後に髄液鼻漏と髄膜炎をくり返した成人の1症例を経験した.また,本症例はSuwanweiaの分類に従えばtranseth-moidal typeであろうと考えられたが,広汎な骨欠損を有するため,明確かつ細かい分類は困難であった.症状および治療の面から前頭前額部と頭蓋底の脳髄膜瘤を,簡単に,①anterior type,②intermediate type,③posterior typeの3型に分類することを提唱し,さらに本症例における脳髄膜瘤や髄液鼻漏の発生機序について考察を加える.

著明な被膜形成を認めた硬膜下膿瘍の1症例—CT所見と手術適応の考察

著者: 徳永能治 ,   井上優 ,   石坂博昭 ,   古賀博明 ,   河野輝昭 ,   森和夫

ページ範囲:P.433 - P.436

I.はじめに
 近年,開頭術後に遅発性に出現する硬膜下膿瘍の報告が散見され,そのCT所見や臨床症状にかなりの特徴がみられている.また,外科的治療法としては,排膿,ドレナージ手術が主流を占め,大開頭による被膜外摘出術施行の報告は少ない.
 今回,われわれは,外傷による急性硬膜外血腫の術後8ヵ月の無症状期をおいて発症した硬膜下膿瘍の1症例を経験し,被膜外摘出にて良好な結果を得たので,主にその経時的CT所見と手術適応について若干の文献的考察を加えて報告する.

胸髄腹側に限局した特発性脊髄硬膜外血腫の1治験例

著者: 小川武希 ,   阿部聰 ,   中原成浩 ,   関野宏明 ,   谷諭

ページ範囲:P.439 - P.443

I.はじめに
 いわゆる特発性脊髄硬膜外血腫は救急治療の対象となる比較的稀な疾患で,これまでに100例をこえる報告がある2,9,17,20,24).本邦では1968年,鈴木ら22)の報告を初めとして約20例を数える.血腫が脊髄背側に存在する例がほとんどで,脊髄腹側に限局している例は極めて少ない.
 最近われわれは胸髄腹側に発生した脊髄硬膜外血腫の1治験例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

側頭骨に発生し,腫瘍内出血を認めた巨大Diploic epidermoidの1例

著者: 石黒修三 ,   木村明 ,   宗本滋 ,   北林正宏 ,   池田正人 ,   林守源 ,   松原藤継

ページ範囲:P.445 - P.449

I.はじめに
 最近われわれは,中頭蓋窩を占拠し,さらに一部後頭蓋窩におよんだ側頭骨diploicepidermoidの1例を経験した.CT上,腫瘍は均一なlow densityを示さず,ところどころisodensityな部分を認め,組織学的に腫瘍内出血を証明しえた.発生頻度の低いとされる側頭骨の出血したdiploic epider-moidについてCT所見を中心に文献的考察を加える.

小脳出血救命後の中枢性肺胞低換気症—横隔膜ペーシングによる1治験例

著者: 山本直人 ,   岩間満 ,   浅井堯彦 ,   斎藤清 ,   加納道久 ,   新谷彬 ,   保浦賢三 ,   安間文彦

ページ範囲:P.451 - P.456

I.はじめに
 1962年,Severinghause20)は呼吸中枢障害に由来する中枢性肺胞低換気症を報告し,覚醒時にさえ無呼吸になる症状をOndine’s curseと名づけた.それはその名が示すように自意識のない睡眠時にあたかも呪いをかけられたように箸しいapneaに陥る病態をいい,このため患者はときに死亡する場合もあると述べている,また死に至らぬまでも,患者は肺胞低換気症のためhyperca-pnea, hypoxiaとなり,種々の合併症に悩まされ長期の人院治療を余儀なくされる.
 今回,われわれは激症型小脳出血を手術的に除去,救命し得た患者に合併した中枢性肺胞低換気症に対し,Glenn5-7)らが開発した横隔膜ペースメーカーを用い良好な結果が得られた1症例を経験した.

Guillain-Barré症候群に酷似の神経症状を呈したIsolated fourth ventricleの1例

著者: 伊東山洋一 ,   松角康彦 ,   野中信仁 ,   佐野吉徳 ,   倉津純一 ,   三浦義一

ページ範囲:P.459 - P.463

I.はじめに
 isoiated fourth ventride(IFV)はslit like ventricle(SLV)と同様にシャント合併症のひとつとして最近注目されてきた病態であるが,今回われわれは閉塞性水頭症に対するV-Pシャント後,Guillain-Barré症候群と紛らわしい興味ある神経症状にて発症したIFVの1例を経験したので報告する.

頸部および頭蓋内脳主幹動脈閉塞急性期症例に対するウロキナーゼ局所持続動注の経験—再開通により著効を呈した1例を中心に

著者: 荒木攻 ,   松永守雄 ,   小林修一 ,   山口研一郎 ,   新宮正 ,   藤田雄三

ページ範囲:P.465 - P.471

I.はじめに
 閉塞性脳血管障害急性期症例に対する保存的療法としてUrokinase(UK)による線溶療法が広く行われている.しかし,血栓溶解を目的として行う限りにおいてはこれがまず血栓部に高濃度に持続して血栓に広く接触することが最も重要であるので,このためには従来の多くの報告にみられる経静脈投与法などに比べて,観血的保存療法とでもいうべき局所持続動注法のほうがより効果が期待できると考えられる.この方法により再開通が得られれば,本来の生理的血行が回復され,bypass手術,塞栓除去術,血栓内膜剥離術などよりも非侵襲的で,かつ脳血管写で閉塞部位が確定すれば直ちに開始できる利点がある.
 われわれの施設では最近,症例を選択して局所持続動注法を5症例に対して試みたが,今同は著効を呈した左頸部内頸動脈閉塞症例を中心に文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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