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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科13巻5号

1985年05月発行

雑誌目次

Contact inhibitionとIndividual surface

著者: 松角康彦

ページ範囲:P.477 - P.478

 細胞培養をmonolayer cultureで行うとあるところで発育が抑制されるが,癌細胞ではこの自然な抑制効果(contact inhibition)が欠如し,条件さえ整えば際限なしに増殖が続く.脳腫瘍では近年培養細胞を浮遊状態においてspheroidを作らせることが技術的に広く応用されるようになったが,元来乳癌から始められたspheroid培養法が,脳腫瘍の培養実験に向いているのは他の悪性新生物の培養細胞に比較して,脳腫瘍細胞にはまだ若干のselflimiting activityとしての効果があるのかもしれない.
 閑話休題(それはさておき)われわれ日本脳神経外科学会会員のひとりひとりを単一細胞と考えるとき.その相互の関係はどのようであろうか.これは甚だ興味深い社会学的話題のように思われる有数百にも及ぶ演題を携えて徒党を組むように大挙して国際学会に上陸する有様など,まさにmonolayer cultureでのcontact inhibitionの喪失のように感じられるといえば,少々皮肉が過ぎるであろうか.わが国は人口も多いし,知的活動能力の旺盛な層が厚いため当然のことといえるが,このような現象の中には往年の「打ちてし止まん」と一億がなびいた頃を知っている世代には,単に優秀な文化立国の熱心な研究集団とばかりは考えにく単一思考型のエネルギーをつい感じてしまう.果してわが国の脳神経外科学の持つエネルギーはこれで良いのであろうか.

解剖を中心とした脳神経手術手技

頭蓋咽頭腫の手術

著者: 鈴木二郎 ,   池田秀敏

ページ範囲:P.479 - P.490

I.はじめに
 最初にcraniopharyngiomaの摘出を試みたのは1910年のLewis15)のようである.そして,1949年のGordyら9)の積極的なcraniopharyngiomaの全摘出の試み以来,一時,世界的に全摘術が施行されるようになったが,手術死亡率も25-57%と高率であった9,10,16,18).しかし,1952年のIngraham13)に始まるステロイドホルモンの使用や,近年の手術用顕微鏡の導入により,手術死亡率の減少が得られるようになった26)
 craniopharyngiomaは組織学的には良性であり,手術的に全摘するのを理想とする.しかし,craniopharyng-iomaの多くが視床下部,下垂体系を巻き込んでおり,腫瘍の全摘が必ずしも最善の治療に直結するとは限らない.腫瘍の性格,占居部位,患者の年齢などを考慮した上で,useful survival timeの延長,recurrence rateの減少を最大限にはかる方策が望まれる1,5).そのためには,抗癌剤を用いたchemotherapyやradiotherapyの併用も考えねばならない.

研究

乳児大泉門圧 Part Ⅱ—Macrocrania 6例の検討

著者: 本田英一郎 ,   林隆士 ,   森高一彦 ,   姉川繁敬 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.493 - P.500

I.はじめに
 われわれは乳児の頭蓋内圧を大泉門上より非観血的に測定を行ってきた.この方法により正常新生児,乳児におけるbaseline pressureやREM期の圧変動についてもある程度知ることができるようになった8)
 今回は外見上異常と見られるmacrocrania(+2SD以上)を有する乳児6例について,頭蓋内圧測定がわれわれに何を教えてくれるのかをテーマに,個々の症例の頭蓋内圧(pressure wave,baseline pressure),CTを中心に検討を行った.

ヌードマウス移植脳腫瘍に対するインターフェロンならびに各種抗癌剤の抑制効果

著者: 中村治 ,   丸尾幸嗣 ,   上山義人 ,   野村和弘 ,   高倉公朋

ページ範囲:P.503 - P.508

I.はじめに
 1969年Rygaard18)らによりヒト癌のヌードマウスへの移植が成功して以来,癌研究にこのヒト癌移植ヌードマウスモデルが用いられる機会が多くなってきた.中枢神経系腫瘍をヌードマウスに移植した際の成功率,継代による組織変化,現在脳腫瘍に使われている薬剤(BCNU,PCZ,CCNUなど)の感受性についての報告もみられる.
 われわれはヌードマウスに10代以上継代し,増殖が安定したヒト脳腫瘍6株につき,ACNU,vincristine,bleomycinなど,各種抗癌剤の感受性を観察してきたが,今回ヒトinterferonの効果を脳腫瘍6株について併せて検討した.

脳内血腫を伴う破裂脳動脈瘤の検討—特に手術適応について

著者: 青柳訓夫 ,   早川勲 ,   井合茂夫 ,   土田富穂 ,   降旗俊明

ページ範囲:P.511 - P.518

I.はじめに
 脳内血腫を伴う破裂脳動脈瘤の転帰は極めて不良であり,救命のもとに安易に植物状態患者をうみ出すことは医療的にも社会的にも問題である.一方,少数であるが社会復帰例もあり,その対応は難しい.われわれは過去の症例から手術適応の指標を求め多少の知見を得たので報告した.

Rous sarcoma virus誘発培養脳腫瘍細胞の移植犬脳腫瘍における電子顕微鏡学的研究

著者: 志村俊郎 ,   平野朝雄 ,   ,   檜前薫 ,   ,   ,   竹下岩男

ページ範囲:P.521 - P.528

I.はじめに
 Rous sarcoma virus(以下RSVと略す)による実験脳腫瘍の形成は,1962年のSpencerとGroupe21)の報告を初めに,その後現在まで,本実験脳腫瘍の形態学的報告は,主にマウス11),ハムスター3,15,17),ラット4)などの各種小動物について,主に本腫瘍と膠腫あるいは肉腫などのヒト脳腫瘍との類似性を求めて論じられてきた.
 一方,臨床医学面ではNMRあるいはポジトロンCTスキャンが開発され,そのために大動物の実験脳腫瘍モデルの必要性がさらに注目されてきた.

症例

化膿性骨髄炎を引き起こした前頭洞扁平上皮癌の1例

著者: 由良茂貴 ,   代田剛 ,   川田佳克 ,   米増祐吉

ページ範囲:P.531 - P.536

I.はじめに
 頭蓋骨の化膿性骨髄炎は,長管骨のそれに比べ,比較的稀な疾患である.さらに抗生剤の発達に伴い,その発生件数は減少しmortality,morbidityも著しく改善されてきてはいるが,ひとたび骨髄炎を起こすと硬膜下・外膿瘍,脳膿瘍や敗血症など重篤な合併症を引き起こし得るので,臨床的に重要な疾患であるのは変わらない.われわれは最近,前頭洞に原発した扁平上皮癌が,二次的な前頭骨骨髄炎を起こした興味ある症例を経験した.
 このように前頭洞原発の扁平上皮癌が頭蓋骨骨髄炎を引き起こした例は見当たらないので報告する.

Isolated fourth ventricteの3症例—聴性脳幹誘発電位による検討

著者: 野崎和彦 ,   森竹浩三 ,   橋本信夫 ,   滝和郎 ,   半田肇

ページ範囲:P.539 - P.545

I.はじめに
 水頭症に対するシャント術後の合併症としては,最近malfnctionよりむしろ,そのoverfnctionがより重要かつ困難な問題としてとり上げられている.シャントのoverfnctionにより生じる病態には種々のものがある.そのなかで"isotated fourth ventricle"は同じくshnt overfunctionの結果生ずる"slit like ventricle"と密接にかかわりあった複雑な病態をとること6),またCT上特異な像を呈すること8)などの理由から特に注目を集めている.しかし"isolated fourth ventricle"の報告例はまだそれほど多くはなく,本邦では数例を数えるのみで7-10),比較的稀な病態と考えられる.したがってその発現機序や治療法については必ずしも一定の見解を得るに至っていないのが現状のようである.最近われわれはCT上"isolated fourth ventricle"の像を呈した3症例を経験し,いずれも聴性脳幹電位(Brainstem Au-ditory Evoked Potential,BAEP)により脳幹機能の評価を行った.これらの症例を呈するとともに第4脳室シャント術の適応決定ならびにその予後判定の際のBAEPの有用性についても言及する.

Shunt systemを介して腹腔に転移し腹水型化したMalignant gliomaの1症例

著者: 若林俊彦 ,   吉田純 ,   景山直樹 ,   六鹿直視 ,   竹内義朗

ページ範囲:P.547 - P.552

I.緒言
 脳腫瘍患者に対して脳室腹腔短絡術およびその他の髄液内誘導術によるshunt systemの設置は,腫瘍による髄液循環障害により水頭症を伴う場合にしばしば施行されている.頭蓋内原発腫瘍の神経管外転移は稀であるが,この人工髄液路を介して脳腫瘍が神経管外へ転移した症例は文献上30例程報告されている5,10,15,21,24,27,30).このshunt systemを介して神経管外へ転移するものは髄液播種をきたしやすい腫瘍が比較的多く,medulloblastomaやgerminal tumorなどが挙げられる.一方gliomaは,特に手術など人工的な播種経路の作成が加えられない限り,神経管外に転移することは極めて稀である.また人工髄液路装着後でも,その誘導部位に転移巣を認めた報告は現在まで文献上8例の報告を認めるに過ぎず,しかもその多くは死後剖検により確認されている.今回われわれはmatignant gliomaの症例に脳室腹腔短絡術施行後わずか1ヵ月で腹水貯溜を認め,腹水型gliomaの病像を示した極めて稀な症例を経験したので報告する.

外転神経麻痺で発症した三叉神経鞘腫の2例

著者: 加藤甲 ,   角家暁 ,   江守巧 ,   郭隆璫

ページ範囲:P.555 - P.560

I.緒言
 三叉神経鞘腫の発生頻度はSchisano and Olivecrona13)によれば頭蓋内腫瘍5,727例中の0.2%と報告され,聴神経腫瘍との比率は約97対3である.初発症状は50%以上が顔面の知覚鈍麻,疼痛など第Ⅴ脳神経障害で発症するが1,2,13,14),外転神経麻痺で発症するものは稀で,著者らの渉猟しえた限りでは,過去6例の報告をみるにすぎない5,6,8,12,14).著者らは外転神経麻痺で発症し,その後の経過中も他の症状がほとんどみられず,術前診断が困難であった三叉神経鞘腫を2例経験したので,外転神経麻痺の発生機序に対する考察を加えて報告する.

頭蓋内脊索腫—2症例報告と細胞化学的検討

著者: 新村富士夫 ,   大岩泰之 ,   坂田隆一 ,   有輪六朗 ,   榊原常緑

ページ範囲:P.563 - P.568

I.はじめに
 頭蓋内脊索腫は,脊索の遺残組織より発生する稀な腫瘍である.頭蓋底部,仙尾骨,脊椎に好発し,周囲の神経組織を圧迫し,緩徐に発育する腫瘍であるといわれている.
 われわれは,トルコ鞍部ならびに斜台部に発生した脊索腫の2例を経験し,腫瘍細胞の細胞形態と細胞化学的検討を併せて行ったので,文献的考察を加えて報告する.

超未熟児の脳内出血後水頭症—外科的治療とSonographyによる追跡

著者: 森本一良 ,   住田裕 ,   前山昌隆 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.571 - P.576

I.はじめに
 近年,NICU(Neonatal Intensive Care Unit)の開設とともに,死亡率の高かった低出生体重児(未熟児)の多くがneonatologistによりその幼い生命を救われている.低出生体重児の管理は日々進歩し,過去の医学的常識では到底想像のできなかった1,000g以下の超未熟児が,現在では生存しうる状態となっているが,これらの新生児は万全な管理のもとでも肺硝子様膜症と頭蓋内出血の発生率が非常に高い.しかし,neonatologistのあくなき努力はこれらの合併症をもつ患児を生存可能とし救命しえた患児の脳内出血後水頭症が脳神経外科の治療対象となりつつある,私たち脳神経外科医はこれらの1,000g以下の超未熟児の脳内出血後水頭症に対して,従来行ってきた水頭症治療と違い,数々の困難に直面する.
 その1つは,重篤な全身状態を考慮すればCTスキャン検査室への移送ならびに検査中にintensive careを中断するためCTスキャンを頻回に施行しがたく,ベッドサイドでより手軽な検査法が必要なことと,第2に,1,000g以下の超未熟児の水頭症に対する髄液排除の困難さである.

Median artery of corpus callosum(Accessory anterior cerebral artery)に発生した破裂脳動脈瘤の1症例

著者: 下瀬川康子 ,   高橋明 ,   小沼武英

ページ範囲:P.579 - P.583

I.はじめに
 median artery of corpus callosum(以下MACC)は前交通動脈の一分枝であるが,これが太くなり前大脳動脈(以下ACA)の支配領域を養うようになった場合はaccessory ACAとよばれ,血管奇形とみなされる.最近われわれは,脳血管写上MACC(accessory ACA)を認め,同部に発生した破裂脳動脈瘤の1手術症例を経験した.われわれの渉猟しえた限りでは,MACCに動脈瘤を認めた症例の報告はなく,極めて稀と思われたので,若干の考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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