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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科13巻6号

1985年06月発行

雑誌目次

臨床医としての心配り

著者: 森惟明

ページ範囲:P.589 - P.590

 開業医のA先生より脳腫瘍の疑いのある患者が紹介されてきた.このようなことはどの脳神経外科の施設においてもよくあることである.しかし,紹介をうけた脳神経外科医の対応は様々である.B医師は,紹介に対するお礼と当方で加療しますとの返事を出すのみにとどまるであろうし,C医師は,同時に初診時の神経学的所見と暫定的診断ならびに今後の検査予定などを初回の返事とし,以後次のような報告を重ねるであろう.すなわち,患者の入院後の精査結果,とくにその中核をなすCTスキャン,脳血管撮影のフィルムのコピーを添え,このような術前診断のもとに,何月何日何時より手術を予定しており,もし時間があれば手術をみにきていただければ幸である旨を伝える.これで手術をみにきてもらえれば,この機会に脳外科で行う顕微鏡下での手術を直接みてもらえるであろう.術後には,術後の経過,病理組織学的診断を知らせる.退院時には,抗けいれん剤の投与など継続的処置や問題点を伝え,紹介医のところでのfollow-upも依頼する.
 以上にあげたことは日常診療におけるほんの一例であるが,患者を紹介してもらったときの対応としては,B医師よりC医師の対応のほうが望ましいのは論を待たない.自分が紹介医の立場に立てば,当然気になる事項に対する適切な回答が返事となっているからである,紹介医は脳神経外科医とこのようなcommunicationを通じ,脳神経外科疾患の診療に関するinformationを得,次に同様の患者がやってきたときには自信をもって再び紹介してくれるであろう.疾患の種類によっては,たとえば慢性硬膜下血腫などでは,このようなcommunicationとinformationが端的に奏効するものである.

総説

聴神経腫瘍手術の変遷と問題点

著者: 戸谷重雄 ,   塩原隆造

ページ範囲:P.591 - P.599

いとぐち
 聴神経腫瘍は全脳腫瘍の7-8%を占める.
 聴神経腫瘍に関する最初の報告は,1777年Sandifort79)による剖検例の記載である.その後臨床報告が散見されたが,1894年になって,はじめてBallance5)により後頭下開頭による聴神経腫瘍の手術成功例が報告された.その後今日まで,約1世紀の間,数多くの工夫が聴神経腫瘍手術の成績向上のためになされている.

解剖を中心とした脳神経手術手技

内頸・眼動脈瘤の手術—特に対側からのアプローチ

著者: 菊池晴彦 ,   光木徹

ページ範囲:P.601 - P.605

I.はじめに
 眼動脈起始部近傍の内頸動脈に発生する内頸・眼動脈瘤は頭蓋内動脈瘤の1.5-8.0%4,6,10,11)と比較的稀な動脈瘤である.しかし,内頸・眼動脈瘤は頭蓋底に位置し,前床突起,視神経,海綿静脈洞に近接するため,直達手術は手術用顕微鏡の発達した今日でも,必ずしも満足すべき結果が得られていない10,21).それは前述の解剖学的理由のため,前床突起および遠位内頸動脈,視神経により視野が妨げられ1,2),広い視野を得ることが困難なことと,頭蓋内で近位内頸動脈の確保が困難なためである.したがって,比較的稀な動脈瘤であるにもかかわらず,手術方法に関する多くの報告がみられている.
 現在,脳動脈瘤の根治手術はneck clippingであることには異論のないところであるが,内頸・眼動脈瘤はその解剖学的特殊性から,neck clippingi1,4,6,20)の他,coating,内頸動脈結紮術1,10,21)あるいはtrappingといった手術法が選択されることがある.一般に,内頸・眼動脈瘤に対する直達手術pterional approachにて行われるが,内頸・眼動脈瘤および近傍の内頸動脈の露出には前床突起の削除6,17,23),視束管の開放6,8)が必要な場合が多く,また視神経の一部を切断2)する必要があったという報告もある.

研究

脳神経外科領域における痛みを主とした愁訴に対するレーザー針治療

著者: 渋谷誠 ,   藤沢和久 ,   片田和広 ,   佐野公俊 ,   神野哲夫 ,   小野ルリ子 ,   大城俊夫

ページ範囲:P.607 - P.612

I.はじめに
 頭頸部領域の神経痛ならびに頭部外傷および脳血管障害後遺症において,痛みを主とした愁訴にて脳神経外科外来を受診する症例は数多い.このような痛みを主とした愁訴に対し,中国では数千年前より針治療が行われ,現在に至っても広く応用されているが,施行時の痛みや不快感あるいは感染の危険性が指摘されている.しかし1958年,上海市第一人民病院においての針麻酔の成功が伝えられて以来,針治療は注目され,その除痛効果は世界的にも高い評価を受けている.1975年Plog9)は低エネルギーレーザーを金属針の代わりに経穴に照射することにより良好な除痛効果を得,副作用の全くないことを報告した.レーザーの生体に対する作用はさまざまであるが,その熱による作用とは別に,光としての作用により生体高分子の活性が増すことがあり,光活性化作用と呼ばれている10).レーザー照射による除痛効果は,その熱作用および光活性化作用による局所への刺激によると考えられている.著者らは,脳神経外科領域にて,痛みを主とした愁訴310例に対し,半導体レーザーを用いて針治療を施行し良好な成績を得たので,若干の文献的検討を加えて報告する.

Halo vestの使用経験

著者: 小柳泉 ,   井須豊彦 ,   岩崎喜信 ,   秋野実 ,   宮町敬吉 ,   杉本信志 ,   阿部弘 ,   斎藤久寿 ,   井原達夫

ページ範囲:P.615 - P.621

I.はじめに
 頸椎外傷や頸椎固定術後の外固定としては臥床による安静が広く行われているが,長期間の臥床は,患者の苦痛も大きく,体位交換や清拭の際に頸部が動く可能性もある.
 われわれは1982年以降,強力な頸椎の外固定を必要とした症例に対してHalo vestを使用してきたが,多くの症例で早期離床が可能であり,固定性もほぼ満足できるものであった.われわれのHalo vestの使用経験を報告し,その有用性について検討を加える.

脳神経外科領域の手術後にみられるヘマトクリット値の低下と滲透圧の関連性について

著者: 田口薫 ,   渡部優 ,   山田正信 ,   泉本源太郎

ページ範囲:P.623 - P.630

I.はじめに
 脳神経外科領域の手術に際し,術中術後に適正な補液,輸血を行ったにもかかわらず,術後にヘマトクリット値(Ht値)の低下を経験することがある.術中の出血量が過量とならないかぎり輸血を控えて手術を終了する機会が増え,Ht値低下が一層顕著に出現する場合もある.脳外科手術後のHt値低下はShenkinら24)によりすでに報告されているが,その原因についてはいまだ明らかでない.Ht値低下の現象は一般外科の腹腔内手術では認められないので,脳疾患や,開頭,脳内操作の影響によると考えられる.そこでこのHt値低下に関与する病態につき検討した.

症例

青春早発症で発症した視床下部Hamartomaの1例

著者: 伊達勲 ,   柳生康徳 ,   三野章呉 ,   大橋威雄

ページ範囲:P.633 - P.638

I.はじめに
 青春早発症を伴う視床下部hamartomaは稀な腫瘍である.われわれは最近この1例を経験し,手術的に亜全摘を行い,その組織中に電子顕微鏡でLH-RH分泌顆粒と思われる顆粒を証明し,また術後血中testosterone,およびLH-RH負荷試験でのLHの反応の正常化を認めたので文献的考察を加えて報告する.

脳室内出血にて発症した松果体部絨毛上皮腫

著者: 木田義久 ,   坂野公一 ,   神崎正紀 ,   小林達也 ,   景山直樹

ページ範囲:P.641 - P.645

I.はじめに
 松果体部には種々の腫瘍が原発するが,これらのうちgerm cell tumorの一群は,その特異な病理組織型に加え,HCG,αフェトプロテインの分泌により,臨床的にも思春期早発症などの特異な症状が発現することが知られている.頭蓋内原発絨毛上皮腫は,これらのなかでも極めて稀なものであり,特にteratoma,germinoma,embryonal carcinomaなどの,他のgerm cell tumorの成分を含まない純粋型の報告は少ない.われわれは思春期早発症にて発症し,病因検索中に大量の脳室内出血を生じながら,腫瘍が確認されず,4年後にはじめてCT上明瞭な腫瘤を確認しえた絨毛上皮腫の1例を経験した.本腫瘍は胞状奇胎などに続発する絨毛癌の脳転移例と同様に,極めて易出血性であることが知られており,その診断と治療において十分な注意が必要である.以下に文献的考察を加えて報告する.

食道癌の脳転移—1治験例と文献的考察

著者: 坂田隆一 ,   大岩泰之 ,   新村富士夫 ,   有輪六朗

ページ範囲:P.647 - P.651

I.はじめに
 食道癌は生存率不良の悪性度の高い腫瘍である.その脳転移は剖検例の報告1,4,5,15)がほとんどであり,手術症例の報告2,6,9,10,16,19)は極めて少ない.
 最近,脳腫瘍で発症し,全摘後に原発巣として食道癌が発見された症例を経験した.症例の報告とともに,過去の報告例のまとめ,および転移様式について文献的検討を加えて報告する.

Fibromuscular dysplasiaに合併した中大脳動脈瘤の1例

著者: 今屋久俊 ,   小林士郎 ,   岡田卓郎 ,   村山享一 ,   中沢省三

ページ範囲:P.653 - P.658

I.はじめに
 動脈の線維筋性形成異常症(fibromuscular dysplasia,以下FMDと略す)はいまだ原因不明の疾患であり,病理学的にsegmentalな中膜の過形成と,その両隣りの中膜の破綻による動脈瘤様の拡張をみるのを特徴としている.1938年にLeadbetter & Burklandが腎動脈壁内の"mass of smooth muscle"として1例報告して以来,腎動脈FMDは腎性高血圧の原因の1つと考えられてきた7).一方,頭頸部の動脈にも同様の病変が起こることが,1964年Palubinskas & Ripleyらの報告17)以来知られてきており,特に若年から中年の女性のアテローム硬化によらない内頸動脈狭窄のもっとも一般的な原因として考えられるようになっている8).頭頸部のFMDは無症状のものもあるが,TIA,脳梗塞あるいはくも膜下出血として発症するものもある.
 われわれは頭部外傷の患者に脳血管撮影を施行したところ,中大脳動脈瘤と頸部動脈系のFMDを合併した症例を経験したので,その相関について文献的考察を加えて報告する.

大動脈炎症候群に伴う破裂脳動脈瘤の1例

著者: 水野誠 ,   山内康雄 ,   岡信行 ,   染田邦幸 ,   松村浩

ページ範囲:P.661 - P.667

I.はじめに
 大動脈炎症候群とは,大動脈およびその主要分枝をおかす後天的慢性非特異性炎症のために,その内腔の狭窄あるいは閉塞をきたすことによって生ずる諸症状を総括する呼称であり,現在では,脈なし病,高安病とほぼ同義語として用いられている.本症候群は決して稀なものでなく,特に本邦の若い女性に好発することが知られている.厚生省調査研究班による本症2,122例の集計10)によれば,男女比は1:7.9で,症状発現時の年齢は20歳台がもっとも多い.一方,大動脈炎症候群に脳動脈瘤を合併することは極めて稀であり,文献上現在まで7例の報告3,7,11,17,24)があるにすぎない.今回われわれは,大動脈炎症候群に脳底動脈分枝部動脈瘤を合併した1症例を経験したので,症例の詳細を呈示するとともに,過去報告された7例を含め,その臨床的特徴ならびに脳動脈瘤の発生機序につき考察を加えた.

頭蓋骨Ossifying fibromaの1例

著者: 高山秀一 ,   小山英樹 ,   岩田隆信 ,   村瀬活郎 ,   向井万起男 ,   村上秀樹

ページ範囲:P.669 - P.673

I.はじめに
 頭頂骨を中心に前頭骨より後頭骨まで広範に及んだ頭蓋骨ossifying fibromaの1例を報告する.さらにfibrous dys-plasiaとの鑑別につき,文献的考察を加えて述べる.

脳腫瘍と脳動脈瘤の合併—自験例3例の報告と考察

著者: 高橋敏夫 ,   斎藤和子 ,   鈴木重晴

ページ範囲:P.675 - P.679

I.はじめに
 脳腫瘍と脳動脈瘤の合併は全脳腫瘍の0.36)−0.7%1)といわれ,稀なものとされてきたが,近年,診断技術の発達などに伴って,その頻度も増加の傾向が見られ,4%3)を占めるとの報告もあり,またなかで最も頻度の高い下垂体腫瘍に限れば6.8%2)あるいは7.4%7)という報告も見られる.このような合併例では,脳腫瘍症状で発症し,動脈瘤は未破裂のものが多いとされ,術前診断をCT scanのみに依存して血管撮影を行わなければ発見が困難であり,手術に際しての思わぬ事故や術後の未破裂動脈瘤の破裂など,治療予後を悪くする大きな要因となる.
 われわれは,脳腫瘍と脳動脈瘤の合併3症例を経験し,いずれも手術に際して充分な処置を行えたので,若干の文献的考察を加えて報告する.

椎骨脳底動脈系のProgressing stroke例に対する大伏在静脈片を用いた外頸動脈-後大脳動脈吻合術

著者: 佐藤秀次 ,   鈴木尚 ,   角家暁

ページ範囲:P.681 - P.686

I.はじめに
 椎骨脳底動脈の頭蓋内閉塞あるいは狭窄症に対する血行再建術として,浅側頭動脈と上小脳動脈の吻合3,4)と大伏在静脈片を用いた外頸動脈と後大脳動脈との吻合11)がある.これらの術式はそれぞれに一長一短があり,現時点で優劣を決めることはできない.しかし,吻合部を介する血流量についてみれば,Sundtらの静脈移植片を用いる吻合術は術直後より血流量が多く明らかに優れている.私どもは脳幹部虚血症状が進行性に悪化した頭蓋内椎骨動脈の一側閉塞,他側狭窄例に脳幹部虚血の速やかな回復を期待して大伏在静脈片を用いた外頸動脈-後大脳動脈吻合術を行い,術後,症状の進行は止まり,さらに,一部症状の改善を得たので手術手技の詳細を加えて報告する.

多発性脳動脈瘤を合併した急性特発性硬膜下血腫の1症例

著者: 奥山徹 ,   土田博美 ,   斉藤孝次 ,   浜島泉 ,   酒巻靖弘 ,   竹田保

ページ範囲:P.689 - P.692

I,はじめに
 急性硬膜下血腫は,多くの場合,重症頭部外傷にみられ,脳挫傷に伴う血管損傷がその成因であることが多い.また,脳動脈瘤の破裂や動静脈奇形からの出血による硬膜下血腫の報告も少なからず散見される2,3,7,11,12).一方,このような従来からの報告の外に,非外傷性で血管奇形などもみられない,いわゆる急性特発性硬膜下血腫の存在も知られている1,4-6,8-10,13,14,17,18)
 今回われわれは,突然の頭痛で発症した非外傷性急陸硬膜下血腫例において,脳血管撮影で多発性脳動脈瘤が認められたため,その成因の考察に苦慮したが,手術的に急性特発性硬膜下血腫と診断した症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

右前頭葉脳実質内に発生したEpidermoid cystの1例

著者: 濱田芳隆 ,   岸廣成 ,   松尾正気

ページ範囲:P.695 - P.699

I.はじめに
 epidermoid cystは,全脳腫瘍の0.5-1.5%の頻度といわれている24).また発生部位については,小脳橋角部,傍トルコ鞍部に多く,前頭葉に発生する頻度は少ない.
 全身けいれんを初発症状として,手術の結果,脳実質内に発生したepidermoid cystであることが判明した1例を報告するとともに,epidermoid cystの放射線学的診断について文献的考察を加える.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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