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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科13巻7号

1985年07月発行

雑誌目次

核と錯覚,NMRとMRI

著者: 松岡健三

ページ範囲:P.705 - P.705

 "核"—と言っても細胞核ではなく原子核の方であるが,そのイメージとして,われわれ日本人にとっては,広島,長崎の原爆は真っ先に想い出されることであり,またこれは永久に忘却してはならないことでもある.日本人のいわゆる核アレルギーはつとに有名であるが,中距離ミサイルの配備について,ヨーロッパ各地で反対運動が熾烈らしい.また,最近ニュージーランドが核搭載の米国艦船の寄港を拒否したように,世界的に反核意識は高まりつつある.
 昨年11月,米国の病院数ヵ所を訪問する機会に恵まれた.NMRやPETの機種と普及度を調査するのが旅行の主目的の1つであった.Mayo Clinicを訪れた折り,ここの数少ない日本人教授の1人であるNeurologyの柳原武彦教授から「今米国ではNMR-CTと言わずにMRI(Magnetic Resonance Imaging)と呼ぶことになっている」と教えていただいた.理由は,NMRのNuclearという語が被験者に無用の恐怖心を起こさせるからとのことであった.当然のことながら,米国でも核のイメージはよくないのである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

振戦に対する定位的視床手術

著者: 大江千廣

ページ範囲:P.707 - P.716

I.Introduction
 振戦に対する定位的視床手術は現在のところ視床Vim(Ventralis Intermedius)核を正確に決定して,患者各個人が有する振戦のひろがり(上肢,下肢,体幹など)を考慮した上でVim核内の一応の身体局在に従って必要な範囲のみを凝固するというやり方,すなわち選択的視床Vim核手術により,振戦の種類によらず,術直後から5年,10年の長期にわたり,ほぼ恒久的な寛解が得られることが明らかにされている5,8,12).この意味では,振戦に対する定位的視床手術はほぼ完成したといってよいのではないかと考えられる.そこで以下に,その経験から導びかれた理論的根拠と手術手技について述べる.

研究

術後髄膜炎例における髄液尿酸濃度の経時的測定の意義

著者: 上田孝 ,   木下和夫 ,   脇坂信一郎 ,   安達寛

ページ範囲:P.719 - P.724

I.はじめに
 脳内核酸代謝および神経障害の程度を知る目的で,各種脳疾患例において髄液中の尿酸を測定する試みがなされてきた2,3,10,13-16,18,19).しかしながら,その病態の推移に合わせ,経時的に測定した報告は少なく4,7),その意義についてもいまだ明らかではない.そこで今回は,脳神経外科的手術後に生じた急性髄腔内感染症に対し,経時的に髄液を採取し,臨床症状,髄液細胞所見および髄液尿酸との関連について検討し,いくつかの知見を得たので報告する.

小児Moyamoya病過呼吸時の脳波—Re-build upの発現機序

著者: 大山秀樹 ,   新妻博 ,   藤原悟 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.727 - P.733

I.はじめに
 Moyamoya病小児例では当初より過呼吸により著明な徐波が誘発されることが知られていた18).その後,青木・児玉・平賀ら1,7,11)は,Moyamoya病小児例で過呼吸終了後に認められる徐波は,過呼吸中に認められるbuild upより,より低周波数かつ不規則であり,build upとは明らかに異なるとし,しかもbuild upとこの徐波との間にはいったん徐波が減少ないし消失する時期があることから,この徐波をre-build upと命名した.著者らは,この二相性の変化はほとんどはMoyamoya病小児例に認められることから,本症患者の過呼吸前後におけるPaO2およびPaCO2の変化と脳波との関連を追求してみる必要があると考えた.しかし,脳波記録に必要な安静を保たせつつ,かつ経時的に動脈血中のガス分圧の測定を行うのは容易ではなく,かわりに動脈血中のガス分圧をよく反映するとされる経皮的酸素分圧(tcPO2)および二酸化炭素分圧(tcPCO23,4,9)を測定することにより興味ある所見を得,さらに100%O2,およびair base 8%CO2 gas吸入下の過呼吸に伴う脳波変化についても検討したので報告する.

症例

頭蓋内転移により発症した嗅神経芽腫の1例

著者: 富永悌二 ,   藤原悟 ,   小田辺一紀 ,   佐藤壮

ページ範囲:P.735 - P.740

I.はじめに
 嗅神経芽腫は嗅粘膜上皮より発生する比較的稀な腫瘍であり,1924年Bergerらによる初めての報告3)以来,本邦における13例1,9,11,13,14,17)を含め,これまで約190例11)が報告されている.本疾患は鼻閉,鼻出血で発症することが多いため,報告例の多くは耳鼻咽喉科領域からなされてきたが,嗅神経芽腫の20%に頭蓋内浸潤がみられ,脳腫瘍の症状で発症した症例も報告されていること2,5-7,10,24)から,前頭蓋底腫瘍をみた場合,本腫瘍も念頭におかなければならない疾患の1つと思われる.最近われわれは頭蓋内転移巣による症状で発症した嗅神経芽腫の1例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

内頸動脈閉塞をきたしたNeurofibromatosisの1例

著者: 桑山直也 ,   高橋慎一郎 ,   園部真 ,   香川茂樹 ,   池田秀敏

ページ範囲:P.743 - P.747

I.はじめに
 neurofibromatosis(NF)は,皮膚の母斑と腫瘍,中枢神経系病変,骨の線維嚢胞性病変に代表される中胚葉および神経外胚葉系の異常である.そのなかの中枢神経系病変としては,腫瘍,過誤腫,奇形などが含まれるが,この他に稀な合併症として脳血管病変が報告されている.最近われわれはNFに内頸動脈閉塞を合併した症例を経験したので,若干の考察を加え報告する.

くも膜嚢腫を合併した小児巨大脊椎管内Teratocarcinoma

著者: 山田洋司 ,   大井静雄

ページ範囲:P.749 - P.754

I.はじめに
 組織型の不明な脳腫瘍を既往歴にもつ患者が4年後に巨大脊椎管内teratocarcinomaとして発症した臨床例を経験した.脳腫瘍の放射線感受性やalpha-fetoprotein(AFP),human chorionic gonadotropin(HCG)などの検索を考慮に入れ,本例の転移性脊髄腫瘍としての可能性を文献的に考察した.また本例はspinal arachnoid cystを合併していたが,その発生機序についても考察した.

von Hippel-Lindau病—褐色細胞腫を合併した脳血管芽腫について

著者: 大西丘倫 ,   森信太郎 ,   本崎孝彦 ,   永谷雅昭 ,   尾藤昭二 ,   奥謙 ,   早川徹 ,   神川喜代男

ページ範囲:P.757 - P.764

I.はじめに
 von Hippel-Lindau病は網膜の血管腫や小脳の血管芽腫以外に他臓器のさまざまな病変を伴う遺伝性,家族性疾患である.しかしこれら他臓器の病変は大部分が無症候性で,剖検時あるいは全身のスクリーニングにて初めて発見されることが多い.
 一方,発現頻度はそれほど高くはないが,腎癌や褐色細胞腫の発現は脳の血管芽腫同様,患者の生命予後に大きな影響を及ぼす.最近,われわれは褐色細胞腫の家族発生例に網膜血管腫症や小脳,延髄の血管芽腫を合併したいわゆるvon Hippel-Lindau病と考えられる1家系8症例を経験した,そこでこのうち血管芽腫を有した5症例の臨床像を分析し,また文献上検索し得た褐色細胞腫と血管芽腫の合併例16例を加え,褐色細胞腫を伴った血管芽腫の特徴について臨床的検討を行った.

CT-guided stereotaxic systemによる定位的小脳血腫除去術—側方からのアプローチ

著者: 新妻博 ,   大槻泰介 ,   大山秀樹 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.767 - P.771

I.はじめに
 CTを用いた定位的脳内血腫除去術は,Backlundら1)により始められ,その後,林ら4),駒井ら2),松本ら7)の努力により,特に本邦にて発展・普及し,すでにその有用性は確立したといえる.このなかで,後頭蓋窩,特に小脳出血に対する定位手術については,アプローチの方法などでいくつかの問題点が残されている.
 著者らは,CT用定位脳手術装置を用い,CT室にて局麻下に定位脳手術を行っているが12),今回,3例の小脳出血に対して,仰臥位にて頭部を健側に30-40°傾け,側方からアプローチすることにより,比較的容易に血腫除去を行いえたので報告する.

Pleomorphic xanthoastrocytoma(Kepes)の1症例

著者: 武家尾拓司 ,   中村成夫 ,   西本詮 ,   田淵和雄

ページ範囲:P.773 - P.777

I.はじめに
 グリオーマの細胞生物学的悪性度は,一般にその病理組織像に深く関係している.しかし,1979年Kepesらは比較的若年者にみられるグリオーマのうち一見悪性の組織像にもかかわらず良性の臨床経過を示す症例があることに注目し,その特徴的組織像からpleomorphic xanthoastrocytomaという名称を提唱した.今回われわれは,臨床病理学的にいわゆるpleomorphic xanthoastrocytomaと考えられる1症例を経験したので,若干の考察を加えて報告する.

一側のPterional approachによる両側脳動脈瘤の処置

著者: 柴田尚武 ,   堤健二 ,   森和夫

ページ範囲:P.779 - P.782

I.はじめに
 両側性脳動脈瘤の手術にあたっては,まず破裂動脈瘤を処理するのは当然であるが,未破裂動脈瘤もできる限り同一開頭術野で処理しておくことは,患者に対する侵襲が少ないという点からも望ましいことである.ウイリス輪半側の動脈瘤(内頸,前交通,中大脳および脳底動脈分岐部付近動脈瘤など)+反対側の内頸動脈瘤(内頸眼,内頸後交通,内頸前脈絡叢および内頸動脈分岐部動脈瘤など)は,症例を選べば,通常の一側pterional ap-proachにより反対側内頸動脈瘤の処理が可能であると考えられる.著者らは右中大脳動脈瘤+左内頸後交通動脈瘤,および左内頸後交通動脈瘤+右内頸前脈絡叢動脈瘤の2例において,pterional approachにより前者は中大脳動脈を,後者は内頸後交通動脈瘤をneck clipping後,同一手術野から反対側動脈瘤のneck clippingをも行い得たので,症例を報告し,主にその手術接近法に関して問題点を検討してみた.

von Recklinghausen病にみられた頸部Dural ectasia

著者: 花北順哉 ,   近藤明悳 ,   山本義介 ,   西原毅 ,   絹田裕司 ,   田中まや子

ページ範囲:P.785 - P.789

I.はじめに
 von Recklinghausen病では,全身のさまざまな骨に種々の変化が高頻度に出現するが,脊椎骨にもsco-liosis,scallopingや椎間孔の拡大などの変化がみられる3,5,9).今回,四肢のしびれ,両下肢の腱反射の亢進を認めた患者を検討したところ,von Recklinghausen病に伴った頸椎のdural ectasiaと判明した1例を経験したので,ここにその神経放射線学的所見を中心に報告する.

頑固な頭痛を主訴とするPrimary empty sella症例に対するTranssphenoidal surgery

著者: 橋本信夫 ,   岡本新一郎 ,   山上達人 ,   小島正行 ,   中原一郎 ,   半田肇

ページ範囲:P.791 - P.796

I.はじめに
 いわゆるprimary empty sellaは,1951年Buschの報告以来,剖検データでは5.5-23.5%と稀なものではないと考えられている3,6,13).臨床的にはほとんどの例が無症候性であり,それ自体無害な,いわば一種のana-tomical variationともいうべき状態であるが13,16),ときに視野,視力障害あるいは髄液鼻漏などをきたすことがある7).また多くの例で頭痛を伴うとされているが,これは通常前額部から眼窩部における頑固な持続性の疼痛である7,16).そして,これらの頭痛は特別な治療の対象となっていないのが現状である7)
 今回われわれは頑固な頭痛を主訴とする2例のpri-mary epmty sella症例に対して,transsphenoidal ap-proachにて手術治療を行い,頭痛の消失をみたので,症例を報告するとともに,頭痛を主訴とするprimaryempty sellaの手術療法の可能性について考察する.

完全四肢麻痺より回復したC4 anterior dislocationの1手術症例

著者: 岡田慶一 ,   田崎健 ,   小松俊一 ,   朝倉健

ページ範囲:P.799 - P.803

I.はじめに
 急性脊髄損傷の手術適応は古くから論議の多い課題であるが,われわれは,完全四肢麻痺より回復した第4頸椎前方脱臼の1手術症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.

中頭蓋窩内進展を伴った鼻咽頭Paragangliomaの1例

著者: 森本一良 ,   松本勝美 ,   吉峰俊樹 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.805 - P.809

I.はじめに
 15歳男子の鼻咽頭部より発生したparagangliomaが中頭蓋窩に進展し,動眼神経麻痺と頭蓋内圧亢進症状を呈した.この症例に対して中頭蓋窩腫瘍を摘出後,残存する鼻咽頭腫瘍に放射線療法を行ったところ著明な神経症状の改善が得られた.またその10ヵ月後,眼窩内転移ならびに肺転移をきたしたが,再び化学療法に著明な反応を示し,再び寛解を得た.
 paragangliomaは,一般的に頸静脈球,鼓室,頸動脈体に発生するものが多く,鼻咽頭部に発生した報告は稀で,しかも若年者の報告例は私たちの知りえる範囲内では見当たらず,若干の文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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