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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科13巻8号

1985年08月発行

雑誌目次

déjà vu『噫 医弊』

著者: 朝長正道

ページ範囲:P.815 - P.815

 先頃,旧医家の古い蔵書をほこりをはたきながら引っくり返したことがあります.幕末の漢方医学,オランダ医学など筆写したものや,明治,大正,昭和初期のものなど1冊1冊手に取って見ていると時間がたつのも忘れてしまいます.先人がおそらく薄暗いランプの光で一生懸命筆写したであろう和とじの本も,また木版の漢方医学の本も,何について書いてあるということはわかりますが私には大変難解でした.しかし,明治,大正の読みものは難しい漢字や言い回しが出てきますが,まだまだよく理解できます.
 煙雨楼主人著『噫 医弊』明治41年初版の翻刻版と青風白雨楼主人著『今のお医者』大正2年初版本が私の手元にあります.煙雨楼主人は長尾折三という医師であり,青風白雨楼主人もその内容から察するにやはり医師であろうと思われます.『噫医弊』の「第四章 吾人の医学と医学者に対する希望」には15項目が列記してあり,その1つ1つがまったく今もその通りであることには驚かざるを得ません.第一番には『医学は神聖也.神聖なる医学,非神聖の人に依て講究せらるるとせば,医学若し霊あらば磅礴の間に悲鳴を揚げて慟哭せん』と書いてあります.

解剖と中心とした脳神経手術手技

胸郭出口症候群の手術

著者: 立石昭夫

ページ範囲:P.817 - P.823

はじめに
 胸郭出口症候群は左右の第1肋骨でかこまれた胸郭出口あるいはその近傍において腕神経叢を形成する神経,あるいは鎖骨下動静脈が圧迫されるために生ずる症候群である.その症状は多彩であるが,大部分の症例で何らかの神経症状を伴っている.また誘発試験を行って症状を誘発できるかどうかも正しい診断には大切である.治療は原則的には保存的に行う.手術適応は保存的治療が無効で症状が強く,日常生活または職業遂行に支障のある症例である.術後の治療成績を良好にするためには診断を正しくつけること,および手術適応を厳密に選ぶ必要がある.

研究

転移性脳腫瘍の外科的治療成績について

著者: 小林清市 ,   古城信人 ,   宮城潤 ,   上垣正己 ,   小林清吉 ,   潟山雅彦 ,   杉田保雄 ,   渡辺光夫 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.825 - P.830

I.はじめに
 転移性脳腫瘍の発生頻度はCTスキャンの普及および悪性腫瘍患者の生存期間の向上とともに増加する傾向にあるが,その治療に関しては依然として困難な問題が横たわっている.
 私どもの教室で脳腫瘍に対する外科的治療を開始して以来,1982年12月までの過去15年間に扱った全脳腫瘍症例は850例で,うち転移性脳腫瘍は85例で,10%を占めている.今回,私どもはこの85例についてその治療成績を検討したので,その結果を述べるとともに本疾患に対する外科的治療の現況と将来の展望に関して若干の考察を加え報告する.

慢性硬膜下血腫摘出後のTension pneumocephalus

著者: 河上靖登 ,   田宮隆 ,   島村裕 ,   横山芳信 ,   千原卓也

ページ範囲:P.833 - P.837

 慢性硬膜下血腫摘出後の合併症として,稀にtension pneu-mocephalusが発生する.
 われわれは23例の慢性硬膜下血腫摘出後の空気の硬膜下貯留について検討した.術後の硬膜下空気貯留は,微量が7症例,少量が9症例,大量が7症例であった.このうち臨床症状の悪化を伴ったのは大量貯留7症例のうちの2症例で,1例は脳内血腫を合併し,他の1例は,空気の硬膜下大量貯留により,術前に比しmass effectの増大を示し,tension pneumo-cephalusと診断された.その成因として,術中硬膜下腔に挿入されたclosed drainage systemがone-way valveとして作用したためと考えられ,硬膜下の空気の吸引にて,mass effectおよび臨床症状の改善をみた.
 一方,空気の硬膜下貯留が大量であった残りの5症例の臨床経過は良好であった.このことより,術前に比し,空気によるmass effectの増大を術後認めない限り,たとえ空気の硬膜下貯留が大量であっても,空気の吸引などの治療は必要ないと考えられた.

Ca2+拮抗剤(Diltiazem)の髄液腔内投与による脳血管攣縮寛解効果—動脈内投与との比較ならびに髄液腔内濃度の検討

著者: 福岡秀和 ,   高木卓爾 ,   永井肇 ,   堀田健 ,   藤本征五 ,   内藤一秋

ページ範囲:P.839 - P.843

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂後のくも膜下出血によって発生する脳血管攣縮には,臨床上しばしば遭遇するが,その治療は困難で効果的な対策は見いだされていない.
 著者ら3,14,14,15)は,脳血管平滑筋においても骨格筋と同様,収縮,弛緩の調節機序にCa2+が直接関与していることを明らかにし,Ca2+拮抗剤が実験的脳血管攣縮の寛解に効果があることを報告してきた.

CT-controlled stereotactic operationによる高血圧性脳内血腫除去術—その1 理論と手術術式について

著者: 七條文雄 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.845 - P.852

I.はじめに
 computed tomography(CT)の精度と機能の向上とともに,CTを利用した定位脳手術,いわゆるCT-gui-ded stereotactic operationが,脳内血腫除去2,4,7,8,11),脳腫瘍の生検1,3,5,6,9,10,16,17,20),腫瘍内照射15),嚢腫吸引6),脳膿瘍ドレナージ10,15)などに応用されている.これらの多くの手術法は,手術目標点の位置決定のために補助的にCTの情報を利用する程度で,CTを術中にとりながら定位脳手術を行うという手術法についての報告は数少ない9-12,16)
 われわれは,最近,CT装置に直接定位脳手術装置自体を組込み,CT画像から直接的にデータを得て,穿刺針の方向を修正し,またその深さを求めて,意図する手術目標点に達するという,いわば"CT-controlled ster-eotactic operation"とでもいうべき方法を考案し,これを行って満足すべき手術結果を得た.ここでは,まずこの手術法の理論と術式について述べる.臨床例については,ひきつづき稿を改めて呈示する19)

中枢性疼痛における内側毛帯系の役割について

著者: 難波真平

ページ範囲:P.855 - P.864

I.はじめに
 表在性皮膚知覚は,温痛覚を伝達する脊髄視床路(spinothalamic tract:STT)と識別性触圧覚を伝達する後索→内側毛帯系よりなることは周知の事実である.これらの2系の知覚伝導路は,中脳レベルまでは比較的明瞭な区分された神経線維束を形成しているが,視床・大脳皮質レベルにおいては両系はintermingleし18,19,26,30),おそらく両系がお互いに拮抗的にあるいは協調的に機能することによって,正常な知覚が司られるものと考えられる.中枢性疼痛を惹起する種々の病巣は,中枢におけるこの両系を種々の程度で破綻せしめることにより頑痛を発現させるものと推定される.われわれは最近,中脳上位での内側毛帯(lemniscus medialis:LM)への手術的な破壊巣の作成が,術前には全くみられなかった新たなhyperpathia,dysesthesiaを発現させた1症例と,これとは逆に,大脳皮質知覚野の障害により惹起されたと考えられたdysesthesia,hyperpathia,spontaneouspainがLMの刺激で軽快したという対照的な結果をもたらした他の1症例を経験した.

血管造影上描出不能な脳血管奇形に対する大量造影剤遅延CTの有用性

著者: 倉田彰 ,   入倉克己 ,   北原行雄 ,   伊藤比呂志 ,   斎藤元良 ,   田辺貴丸 ,   大和田隆 ,   矢田賢三 ,   管信一

ページ範囲:P.867 - P.873

I.はじめに
 血管造影上描出不能な脳血管奇形は,Plain CTおよび通常のenhanced CTにて所見のない場合,その診断は非常に困難である.われわれは,大量造影剤遅延CTが診断上非常に有効であった7症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

症例

脳動脈瘤,頭蓋外内頸動脈瘤,頭蓋外椎骨動静脈瘻を伴ったNeurofibromatosisの1例

著者: 神山和世 ,   遠藤俊郎 ,   堀江幸男 ,   甲州啓二 ,   高久晃

ページ範囲:P.875 - P.880

I.はじめに
 種々の器官,組織の血管異常を伴うneurofibromatosisは近年vascular neurofibromatosisとして注目されている.脳神経外科領域においても,半田ら9)が総説するように,合併する腫瘍に伴う二次的な血管異常以外に動脈閉塞,動脈瘤などの合併が本疾患の診断,治療上留意すべき問題となっている.われわれは本症に多発性動脈瘤,頭蓋外椎骨動静脈瘻を合併した症例を経験したので文献的考察を加え報告する.

Subfrontal schwannomaの1例

著者: 佐藤周三 ,   戸谷重雄 ,   中村恒夫 ,   大谷光弘 ,   今西智之 ,   小滝浩平 ,   中村芳樹

ページ範囲:P.883 - P.887

I.はじめに
 頭蓋内に発生するsolitary schwannomaは,全国脳腫瘍統計では原発性脳腫瘍中8.3%を占め12),大多数は聴神経に発生する.さらに稀ではあるが,三叉神経,顔面神経7),滑車神経8),舌咽神経,迷走神経,副神経および舌下神経からの発生の報告があるが,subfrontal schwannomaの報告は極めて少ない.最近われわれは,嗅窩部髄膜腫と鑑別が困難であったsubfrontal schwan-nomaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

頭蓋内腫瘤を認めた急性骨髄性白血病(AML)の1例

著者: 本敦文 ,   中田潤一 ,   岡伸夫 ,   遠藤俊郎 ,   高久晃 ,   北川正信

ページ範囲:P.889 - P.893

I.はじめに
 一般に白血病細胞の組織内浸潤はびまん性であり,頭蓋内においても腫瘤形成をきたすことは稀である9,10,12)今回われわれは急性骨髄性白血病(以下AML)の治療中に後頭蓋窩に白血病細胞による腫瘤形成を認め,手術により軽快せしめえた症例を経験したので報告する.

音刺激と同期性に誘発される顔面痙攣

著者: 山本義介 ,   近藤明悳 ,   花北順哉 ,   西原毅 ,   絹田祐司 ,   中谷英幸

ページ範囲:P.895 - P.901

I.はじめに
 顔面痙攣は,痙攣が眼輪筋に始まり,頬筋,口輪筋に進展し,これが不随意的に,また精神的緊張によって誘発されることはよく知られた事実であり,また顔面痙攣発作に同期した耳鳴を伴う症例に遭遇することも稀ならず認められる.今回われわれは不随意的な顔面筋の痙攣を認めるのみならず,音刺激によっても顔面痙攣が誘発されるという稀な症状を持った患者を経験した.このような症例はわれわれが調べ得た範囲では藤岡ら2)の報告があるのみであるが,彼らの報告例は音刺激が加わらない時には痙攣が起こらず,われわれの症例とは症状が異なる.ここにわれわれが経験した興味ある症例を呈示し,音刺激で誘発される顔面痙攣の発生機序につき考察を加えて報告する.

全身骨にMultiple metastasisをきたしたAnaplastic oligodendrogliomaの1例

著者: 中村治 ,   渡辺卓 ,   野村和弘 ,   中島孝

ページ範囲:P.903 - P.909

I.はじめに
 脳腫瘍の頭蓋外転移は稀な病態であるが,今回われわれが経験したoligodendrogliomaの頭蓋外転移は特に稀で,調べ得た範囲では文献上わずかに12例が報告されているのみである14).oligodendrogliomaを含むglio-ma の頭蓋外転移の原因としては,開頭手術との関連を指摘する説が有力であるが,われわれの症例も2回の開頭手術を行っており,発症より約6年後に急速に全身骨転移が進行し,死亡した.転移の原因としては,ほかに近年治療の進歩に伴って,長期生存例が増加したためと考える説もある1,9)が,もしそうなら,今後gliomaの頭蓋外転移はさらに増加する可能性があると考えられる.そこで文献的に,頭蓋外転移の頻度,原因,診断について検討するとともに,治療法についても考察を加えた.

急性硬膜下血腫を合併した末梢性前大脳動脈瘤の2症例

著者: 伴貞彦 ,   佐藤慎一 ,   山本豊城 ,   尾形誠宏

ページ範囲:P.911 - P.916

I.はじめに
 非外傷性硬膜下血腫の原因として,動脈が出血源となる場合が意外と多い7,11).このうち脳動脈瘤破裂による硬膜下血腫の発生頻度は,臨床例では0.5-7.9%1-4,10,16,17),剖検例では1.9-17%8,10,12,17)といわれている.このなかでも末梢性前大脳動脈瘤破裂による急性硬膜下血腫例の報告は,われわれの知り得た範囲では4例4,5,7)と極めて少ない.
 今回われわれは,術前に急性硬膜下血腫の存在を診断し,血腫除去,動脈瘤根治術を同時に行い良好な結果を得た末梢性前大脳動脈瘤2症例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

脳梗塞症状を呈したGiant fusiform aneurysmの2症例

著者: 小林延光 ,   中川翼 ,   桜木貢 ,   田代邦雄 ,   阿部弘 ,   都留美都雄 ,   野村三起夫 ,   上野一義

ページ範囲:P.919 - P.925

I.はじめに
 巨大脳動脈瘤は破裂によるくも膜下出血および脳腫瘍類似の頭蓋内占拠性症状をきたすとされるが,脳虚血症症状を呈したとする報告例は少数散見されるにすぎない2,4-6,8-10,12).giant fusiform aneurysmでは一部血栓化している場合も多く,またfusiform dilatationそのものによる血行不全も考えられ,脳虚血症状を呈する可能性はさらに高いものと思われる.
 最近われわれは,脳梗塞を呈したpartially thrombo-sed giant fusiform aneurysmの1剖検例を含む2症例を経験したので報告する.

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To The Editor—右嗅神経の篩骨洞内陥入について

著者: 青木信彦 ,   天笠雅春

ページ範囲:P.831 - P.831

 貴誌に掲載された,天笠雅春らの症例報告「嗅神経を含んだ頭蓋底脳髄膜瘤の1例」(13:313-319,1985)を興味深く読ませていただきました.その中で著者らが強調している点は,右嗅神経が篩骨洞内に陥入していたということですが,説明が必ずしも十分ではないように思われます.
 つまり,本文の中で「右嗅神経を近位で切断し,嗅球をできるだけ除去し,……」とありますが,術後は「神経学的に何ら異常なく,嗅覚障害を認めず,元気に退院した」と述べています.確かに一側の嗅神経が温存されれば,自覚的嗅覚は正常に近いと思われますが,はたして,他覚的にはどうであったのでしょうか.患児は,現在6歳であるので他覚的検査は可能であろうと思います.本例のように,明確に嗅神経を切断しながら,嗅覚が温存される理由についてはどのように考えているのでしようか.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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