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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科13巻9号

1985年09月発行

雑誌目次

Pennybacker先生の思い出

著者: 千ヶ崎裕夫

ページ範囲:P.931 - P.932

 1983年のクリスマスシーズンが近づいてきた時,何となく不吉な予感がした.毎年Pennybacker先生のクリスマス・カードは船便で送られてくるので,12月早々にも届くのが普通であったが,その年はとうとう年末まで配達されなかった.やがて年が明けて,先生の息子さんより,私の出したクリスマス・カードのお礼と,先生が去る3月27日にスコットランドの自宅で突然亡くなられたことを知らせてきた.享年75歳であった.先生の所に私は1965-67年,ほぼ2年間お世話になっていたが,先生は私にとって単に学問上のことばかりでなく,一人の医師として生涯の師であった.
 Joseph Buford Pennybacher先生は1907年アメリカのケンタッキーに生をうけた.祖先はオランダ系という話である.J.P(先生の愛称)はテネシー大学卒業後,英国のエジンバラ大学医学部にすすまれ,以後,英国に帰化された.しかし,長身で格好よく大股ですたすたと歩かれる風姿は西部劇の大スターの風格があった.エジンバラ卒後,1930年,ロンドンのQueen Square国立神経病院で神経学を修めてから,ロンドン大学のSir Hugh Cairnsの下で神経外科医の途を歩まれた.1937年,Cairnsがオックスフォードに神経外科センターを開設するとともに,その第一弟子として仕え,1952年,Cairnsが急逝後,その役をつがれた.

総説

破裂脳動脈瘤症例における精神症状

著者: 貫井英明

ページ範囲:P.933 - P.943

I.はじめに
 近年破裂脳動脈瘤に対する治療成績が著しく向上して死亡率が低下したため,破裂脳動脈瘤における治療成績を論ずる際には患者の社会復帰率およびその時期,社会復帰の状態が問題とされてきている.したがって治療前後の神経機能脱落症状の状態およびその推移を詳しく分析し,さらに治療方法,治療時期とその関連を検討することが重要であると考えられ,数多くの報告がなされている.
 しかし破裂脳動脈瘤例において,その社会復帰に大きな影響をおよぼすと思われる精神症状を詳細に検討した報告は少ない.

研究

CT-controlled stereotactic operationによる高血圧性脳内血腫除去術—その2:視床ならびに大脳基底核部の小血腫除去例

著者: 七條文雄 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.945 - P.952

I.はじめに
 われわれは最近,CT(computed tomography)装置に松本式定位脳手術装置を組み込み,術中CT scanを行って得られた画像から直接立体座標を得て,穿刺針の方向を修正し,またその深さを求めて,意図する手術目標点に達するという,いわば,"CT-controlled stereotactic operation"とでもいうべき手術法を考案した.このための手術の理論と手術術式については前編で報告した12).これにひきつづき,本稿では,この手術を実際に行った9例の視床および大脳基底核部の小血腫例について,その臨床経験を報告するとともに,このような小血腫の手術適応,手術時期,機能予後などについて若干の検討と見解を加え報告する.

Osmotic blood brain barrier modificationによるACNUの悪性脳腫瘍組織内への移行

著者: 宮上光祐 ,   賀川幸英 ,   坪川孝志

ページ範囲:P.955 - P.963

I.はじめに
 悪性脳腫瘍化学療法の治療効果に影響する種々のfac-torのなかで,薬物の治療効果を上げる要因の1つとして,薬物が生理的に存在する血液脳関門をどの程度通過し,腫瘍組織に到達するかが重要である,脳腫瘍を摘出し,化学療法を行っても血液脳関門の正常な切除辺縁部において血管透過性の悪い9)ことが再発の1つの大きな要因にもなっている.最近Rapoportら21)によりman-nitolなどの高張滲透圧溶液を動脈内注入することにより一時的に可逆的血液脳関門の破綻をきたすことが報告され,さらに,Neuweltら18-20),Bonstelle2)らの悪性脳腫瘍の化学療法にこのreversible osmotic blood brain barrier disruptionを臨床応用した報告がある.
 今回,臨床上広く使用されているnitrosourea系抗腫瘍剤ACNUを用いて,悪性脳腫瘍例に20% mannitol頸動注とともにACNUを動注し,血中ならびに腫瘍内移行濃度を,同様のmannitol動注後におけるcontrastenhancement CT上の造影増強効果所見と対比して検討し,興味ある知見を得たので報告する.

Cefotiam(CTM)の髄液移行について—CTとの関連

著者: 吉原高志 ,   北岡保 ,   冨原健司 ,   野村雅之 ,   魚住徹

ページ範囲:P.965 - P.971

I.はじめに
 抗生物質には,血液中に投与した場合,正常な脳や脳脊髄液(以下,髄液と略す)に移行するものと移行しないものとがあることはよく知られている.しかし正常では移行しない抗生物質でも,炎症,出血,腫瘍などのあるときは移行することがある.われわれは髄液ドレナージを行った患者にセフェム系の抗生物質であるcefotiam(CTM)を投与し,経時的な髄液移行について測定した.また,ヨード造影剤の髄液移行,CT所見をあわせて検討し,知見を得たので報告する.

重症頭部外傷における下垂体前葉ホルモン—Releasing hormoneに対する反応性と予後について

著者: 横田裕行 ,   小林士郎 ,   矢嶋浩三 ,   中沢省三 ,   矢埜正実 ,   山本保博 ,   大塚敏文

ページ範囲:P.973 - P.980

I.はじめに
 重症頭部外傷急性期における病態の把握と予後の判定のために,受傷時よりの意識レベルの推移,受傷時の神経学的所見やCT スキャン所見,入院後の頭蓋内圧の推移などについてさまざまな検討が試みられている4,12-15,21,22,24,30,32,37,39).われわれは,重症頭部外傷患者の予後を左右する最も大きな要因は脳挫傷の有無およびその程度と考え,脳挫傷による臨床所見としての意識状態,頭蓋内圧,聴性脳幹反応に注目し,予後との相関について考察を行ってきた23,40).脳挫傷は一次的あるいは二次的に脳の代謝障害や脳局所循環障害を惹起するものと考えられており6),広汎な脳損傷を有する重症頭部外傷においては,視床下部,下垂体における代謝,および局所循環もその例外ではないと推測される9,12).われわれの教室では早くから視床下部前方の中隔野よりのtubeo-hypophyseal tractを1st.stepとする hypothalamus-anterior hypophyseal humoral axis,すなわちgrowth hormone(GH),thyroid stimulating hormone(TSH),luteinizing hormone(LH),follicular stimujating hor-mone(FSH)に注目し,重症頭部外傷患者におけるこれらのhormoneの動態を考察してきた29)

破裂中大脳動脈瘤53例の検討

著者: 長澤史朗 ,   田代弦 ,   米川泰弘 ,   半田肇

ページ範囲:P.983 - P.989

I.序論
 microsurgical technique の発達,instrumentの工夫,microanatomyの普及などにより,脳動脈瘤の手術成績は近年著しく向上し,なかでも中大脳動脈動脈瘤は最も成績のよい動脈瘤の1つである.しかしながら,それでも数%の死亡率を避けることができないのが現状である3,6,7,15-17)
 本研究ではCT scanで頭蓋内病変の追跡をしえた破裂中大脳動脈動脈瘤症例をretrospectiveに検討し,現在得られている治療成績をさらに向上させるため予後不良因子の分析を行った.

悪性脳腫瘍に対する光化学療法—白色光を用いた実験的研究

著者: 関本達之 ,   平川公義 ,   上田聖 ,   中川善雄 ,   伊林範裕 ,   中村公郎

ページ範囲:P.991 - P.996

I.はじめに
 神経放射線学の進歩により,悪性脳腫瘍の診断は容易かつ確実となってきたものの,その治療成績は依然として低迷し,手術療法,放射線療法,化学療法などを駆使しても,1年生存率は約53%,5年生存率は約15%という芳しからざる状態にある19).このような悪性脳腫瘍の治療成績がどのような因子により規定されているかを統計的手法により解析してみると,腫瘍の切除量と手術回数とが大きな比重を占めていることがわかる9).それによると,治療成績の改善のためには,物理的に腫瘍をできるだけ大量に除去し,再発の原因となる腫瘍細胞の残存をすこしでも少なくしなくてはならない.しかし,一方,神経機能の温存も重要なことである.この両者を満たす新しい治療法の開発が望まれる所以である,われわれは,新しい治療法開発の一環として光化学療法photoradiation therapyに着目し,実験的に検討することとした.
 光化学療法photoradiation therapyとは3),腫瘍細胞に特異的にとりこまれる hematoporphyrin derivative(HPD)W投与し,光を照射することにより,HPDが化学的に活性となり,殺細胞効果をひきおこすことを利用したものであり,腫瘍細胞のみを選択的に障害させる点で理想的な治療法となる可能性を秘めている.本法は他臓器の腫瘍に対して,すでに臨床的に応用されている11,25).本稿では,悪性脳腫瘍の治療に応用する第1報として,白色光による実験的研究について報告する.

症例

乳癌の硬膜転移に続発した非外傷性慢性硬膜下血腫の1例

著者: 鶯塚明能 ,   朝倉健 ,   高橋潔 ,   田崎健 ,   岡田慶一 ,   鈴木豊

ページ範囲:P.999 - P.1004

I.はじめに
 われわれは乳癌摘出5年後に肝転移を認め,ホルモン療法後に発症した非外傷性慢性硬膜下血腫で,剖検により硬膜に転移を認め,さらに左後頭葉に腫瘍塞栓性梗塞を合併した稀な1例を経験したので報告し,本症の成因について若干の考察を加える.

抗結核療法中に発生した脳結核腫の1例

著者: 山本信孝 ,   角家暁 ,   中村勉 ,   江守巧 ,   郭隆璫 ,   広瀬源二郎

ページ範囲:P.1007 - P.1011

I.はじめに
 脳結核腫は近年激減したとはいえ,ときに報告があり,抗結核療法中に発生することすらある.かつて抗結核剤のなかった頃は,脳結核腫に対する手術は術後に結核性髄膜炎の発生する危険が伴い,安全なものではなかった.現在では化学療法のみで脳結核腫の治療が可能な場合も多くなった.今回,抗結核療法中に脳結核腫を生じ,手術療法を行って治癒せしめた1例を経験したので報告する.

くも膜下出血にて発症した聴神経鞘腫の1例

著者: 佐々木浩治 ,   津田敏雄 ,   本藤秀樹 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.1013 - P.1017

I.はじめに
 聴神経腫瘍から大量に出血し,後頭蓋窩に著しいくも膜下出血を合併したとする症例の報告は極めて稀のようで,われわれが文献上検索し得た症例は現在までで11例にすぎない.最近われわれは,重篤なくも膜下出血にて発症し,その原因が巨大な聴神経腫瘍によるものと考えられ,腫瘍摘出術により救命し,社会復帰し得た1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

前大脳動脈が主流入動脈である脳動静脈奇形に対する術前のNidus embolizationが有効であった1例

著者: 小柳泉 ,   阿部弘 ,   中川翼 ,   宮町敬吉 ,   佐々木寛 ,   宮坂和男 ,   竹井秀敏 ,   阿部悟 ,   上野一義 ,   野村三起夫

ページ範囲:P.1019 - P.1024

I.はじめに
 シリコン球による脳動静脈奇形(以下AVMと略す)のnidus embolizationは,外科的切除前の補助手段として有用性が報告されている6,8,9,11).しかしemboliza-tionの適応はAVMの解剖学的位置とシリコン球の流れる方向によって決まるとされ,Wolpertらは12),fee-ding arteryが中大脳動脈あるいは後大脳動脈の場合に安全に行うことができるとしている.
 今回,われわれは,前大脳動脈をmain feeding ar-teryとし,corpus callosumより右大脳半球内にnidusを有するAVMに対して,中大脳動脈への血流をbal loon catheterで遮断しながらnidus embolizationを行い,外科的切除に際して非常に有効であった1症例を経験したので報告する.

小児外傷性大脳基底核部出血の5例

著者: 宗本滋 ,   駒井杜詩夫 ,   四十住伸一 ,   木村明 ,   石黒修三 ,   山本信二郎

ページ範囲:P.1027 - P.1033

I.はじめに
 外傷による閉鎖性中心性脳損傷は剖検脳で観察されていたが,生存例ではどのような病態を呈していたかは不明であった.このため,この損傷は臨床的には一括して脳挫傷として扱われていた.しかし,CTスキャンにより生存例でこの損傷を観察できるようになり,その病態について検討が可能となった.ところが,小児における大脳基底核部出血に関する報告はいまだ少ない.われわれは交通事故による頭部外傷で基底核部に出血をきたした小児5例を経験したので,その臨床像,CT所見について報告し,文献的考察を行った.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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