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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科14巻1号

1986年01月発行

雑誌目次

華と暗

著者: 神野哲夫

ページ範囲:P.5 - P.5

 我々脳神経外科医の治療の究極の目的が,患者をしてreturn to useful social lifeたらしめることにあることは異論がなかろう。しかし,御存知の如く,これがなかなか難しい.
 return to useful social life,あるいはactivity of daily life I (ADL1)とは,重篤な神経症状を残さず,患者はしっかりとした独歩で退院後,通院し,元の会社や職場に戻ったことが確認され,元通り仕事をしている等々を総合して判定されるものであろう.しかし,現実には,これらの判定が,あの短い外来診察の時間の中で行われており,学会発表の時などは,それらのカルテをひっくり返したり,アンケートの手紙を送ったりして,統計をとっている.少なくとも,私はお恥しいながらそのようにして調べてきた.

解剖を中心とした脳神経手術手技

髄芽腫の手術

著者: 山下純宏

ページ範囲:P.7 - P.13

I.はじめに
 髄芽腫は5-10歳の小児の小脳虫部に好発する最も悪性の脳腫瘍の1つである.主として小脳虫部の後髄帆から発生し,浸潤性に増殖し,第4脳室全体を占拠する(Fig.1,2).放射線感受性が高く,放射線治療により少なくとも一時的に寛解が得られる場合が多い.髄腔内播種を起こしやすいので,全脳脊髄に放射線治療が行われる.髄芽腫は悪性ではあるが,一時的にせよ,とにかく治療に反応するという点で悪性脳腫瘍のなかでもユニークな腫瘍である.本稿では髄芽腫が発生する小脳の解剖と機能についての知識を整理し,髄芽腫の手術の実際上注意すべき点について述べ,最後にわれわれの治療成績について簡単に紹介する.

研究

Combination therapy(hypervolemia,Fluosol-DA 20%,hypertension)によるSymptomatic vasospasmの治療成績

著者: 長澤史朗 ,   大槻宏和 ,   米川泰弘 ,   半田肇

ページ範囲:P.15 - P.20

I.はじめに
 symptomatic vasospasm(以下vasospasmと略す)に対して,推定される発生機転および進行する病態生理の各段階を標的にして,くも膜下出血の除去やvasospasmの予防を目的とした薬物,血管壁の攣縮寛解を目的とした薬物,脳循環改善を目的とした治療,脳虚血に対する保護療法などが試みられている1,3-13,15).このなかでも早期手術によるくも膜下血腫の除去10,13),ならびにhypervolemia-hypertension therapy3-6,8,12)は多くの施設で施行され,一定程度の予防および治療効果が認められている.しかしながら確実な予防法や充分に効果が確認されている治療法はいまだ報告されておらず,種々の方法の組み合わせ,強い効果や新しい作用機序を持つ薬物の開発などが試みられているのが現状である.
 著者らはhypervolemia,人工血液(Fluosol-DA 20%),induced-hypertensionの3者を組み合わせるcombination therapyを施行してきたので,この治療成績につき報告する.

Moyamoya病の長期追跡脳血管写—小児期発症成人移行例について

著者: 高橋明 ,   藤原悟 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.23 - P.29

I.はじめに
 われわれはMoyamoya病小児例のほとんどが,脳血管写上,経時的に変化・進行してゆくことをとらえ,その過程を6期相に分類した4,6,7).しかし,これら小児例が成人に移行した場合,その脳血管写所見がいかなる経過をたどるのかについては未検討であった.さらにこの問題を解明することにより,本症小児例と成人例がはたして同じ疾患であるのか,成人例のなかには小児期発症成人移行例の他に成人期発病例が含まれているのかなど,本症に関する重要な問題を解決する示唆が得られるものと考えられた.そこで今回は,われわれの追跡症例のうち,小児期に発症し成人に移行した症例に対し,追跡脳血管写を施行し,若干の興味ある知見が得られたので報告する.

モヤモヤ病における自己免疫抗体の検索

著者: 鰐渕博 ,   加川瑞夫 ,   竹下幹彦 ,   井沢正博 ,   丸山勝一 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.31 - P.35

I.はじめに
 モヤモヤ病の初期変化と考えられる内頸動脈終末部の狭窄性変化の原因として,最近自己免疫抗体およびHLA抗体の関与が老えられてきている,今回,われわれは自己免疫抗体の検索から,モヤモヤ病における自己免疫抗体の関与の可能性を検討した.

脳動静脈奇形に関する研究—2.脳循環動態の検討

著者: 佐藤和栄 ,   加川瑞夫 ,   谷藤誠司 ,   氏家弘 ,   竹下幹彦 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.37 - P.43

I.緒言
 脳動静脈奇形16例について,133Xe inhalation cere—brographにより両側大脳半球皮質領域の脳循環動態を,また最近開発されたXe enhanced CT scanによってnidus周囲および大脳深部の脳循環動態を,さらにこれらとnidusの大きさ,位置,発症時臨床症状などとの相関において検討したので報告し,あわせて若干の考察を加える.

実験的くも膜下出血における頭蓋内圧変動

著者: 辻哲朗 ,   林実 ,   野口善之 ,   白崎直樹 ,   藤井博之 ,   山本信二郎

ページ範囲:P.45 - P.49

I.はじめに
 頭蓋内圧亢進を有する症例において頭蓋内圧を連続的に記録すると,上昇した頭蓋内圧に重なって急激な頭蓋内圧の変動,すなわち圧波の現象がみられる.Lundberg13)は,この圧波をA波,B波,C波の3型に分類した.特にA波に関してはその波形の特徴からプラトウ波と呼び,脳腫瘍などの慢性頭蓋内圧亢進を有する症例にしばしば観察されると述べた.プラトウ波の頻回の出現は,脳幹機能を損傷し,最終的には終波に移行して個体を死に至らしめるなど,その臨床的意義は大きい.プラトウ波の現象は多くの臨床例における観察7,10,13,15)や動物実験16)にもかかわらず,その成立機序は依然として解明をみていない.著者はイヌのくも膜下腔に溶血赤血球を注入することにより,頭蓋内圧亢進のモデルを作製し,その後の頭蓋内圧記録においてプラトウ波に類似の波の出現を認めたので,その出現機序に関し若干の考察を加え報告する.

開頭術直後痙攣の臨床的検討

著者: 石川正恒 ,   半田肇

ページ範囲:P.51 - P.56

I.はじめに
 われわれは術後痙攣の予防法を確立する目的で,先に破裂脳動脈瘤術後長期観察例における術後晩期痙攣について検討を加えた2)が,今回は術後早期,特に術後24時間以内に起こる痙攣(これを外傷直後痙攣にならって,術直後痙攣と呼ぶ)について臨床例を対象に検討を加えたので,その頻度,臨床的特徴ならびにCT所見について報告する.

症例

神経管外転移により気管支閉塞症および上大静脈症候群を合併したMalignant ependymomaの1例—症例報告および文献的検討

著者: 若林俊彦 ,   吉田純 ,   口脇博治 ,   小林達也 ,   景山直樹 ,   橋詰良夫

ページ範囲:P.59 - P.65

I.緒言
 従来,神経系腫瘍の神経管外転移は少ないとされてきたが,近年の診断技術の向上および積極的な手術療法による人工的侵襲の増大,さらには免疫化学療法の改善による脳腫瘍の長期生存例の出現とともに,転移症例の報告が相次いで認められてきている.脳腫瘍の好発転移部位は,腫瘍種別により異なるとされているが,一般には頭頸部リンパ節から骨,肺などへの転移が多いとされる.しかし,現在までの報告では死後剖検にて転移巣が発見されることが多く,生前に転移巣を確認できた症例は比較的稀である.さらに転移巣が直接の死因となった症例は極めて稀と考えられる.当教室では,最近,悪性神経膠腫の症例に,両側肺門リンパ節転移を併発し,上大静脈症候群および気管支閉塞症をきたして,呼吸不全にて死亡するという,転移巣が直接の死因となった極めて稀な症例を経験したので報告する.

急性白血病に先行したGranulocytic sarcoma(Chloroma)の1例

著者: 米満勤 ,   藤原悟 ,   吉本高志 ,   大和田健司 ,   峯岸正好

ページ範囲:P.67 - P.72

I.はじめに
 granulocytic sarcoma(chloroma)は骨灘(単球性)白血病に合併する稀な腫瘍であり,特に脳神経外科領域では,その報告8,12,13,21)は極めて少ない.
 今回,われわれはgranulocytic sarcomaによる眼球突出にて発症し,約1ヵ月後に急性骨髄性白血病の出現を認めた稀な1例を経験したので若干の考察を加え報告する.

水頭症に合併した水髄症の1例

著者: 金成有 ,   玉木紀彦 ,   川口哲郎 ,   藤田勝三 ,   松本悟

ページ範囲:P.75 - P.80

I.はじめに
 syringomyeliaは,脊随に空洞形成をきたす進行性の疾患群の総称であり,以前は変性疾患の1つと考えられていたが,1958年,Gardnerがsyringomyeliaの病因としてhyd—rodynamic theoryを発表して以来,この疾患の病態の解明,さらには診断,治療の面で非常な進歩がみられるようになった.しかし,その病態についてはなお不明な点も多い.本邦では,この疾患に対する関心度が低いためか,またはsyringomyeliaをきたすArnold-Chiari I型奇形の頻度が欧米に比べ低いためか,本疾患の症例の報告は欧米に比べかなり低いものである.今回われわれは,水頭症に合併した水髄症の1例を経験したので,その病態診断,治療につき若干の文献的考察を加え報告する.

胸部異常陰影として偶然発見された胸椎砂時計型神経鞘腫の1例—手術アプローチについて

著者: 絹田祐司 ,   花北順哉 ,   近藤明悳 ,   山本義介 ,   西原毅 ,   鈴木孝典 ,   森山龍太郎

ページ範囲:P.83 - P.89

 I.はじめに
 神経原性腫瘍は縦隔腫瘍の1811)−23%2)を占め,そのほとんどが肋間神経や傍脊柱交感神経節より発生する神経線維腫や神経節細胞腫である10).これらはときに脊椎管の内外へ伸展し砂時計型の形態をとるが,脊椎管外の腫瘍部分が胸腔内へ著明に伸展し,かつ脊髄への圧迫が高度の場合には,その手術的アプローチが問題となる.最近,われわれは,健康診断で実施された胸部X線撮影で,偶然,左縦隔内に異常陰影を発見され,精査にて胸椎部の砂時計型腫瘍と判明した1例を経験した.この症例の神経放射線学的所見および手術アプローチについて考察する.

剣道防具による"Rubbing injury"で生じた解離性内頸動脈瘤の1例

著者: 坂井春男 ,   金子大成 ,   結城研司 ,   中村紀夫

ページ範囲:P.91 - P.94

I.はじめに
 閉鎖性頸動脈損傷のmortalityおよびmorbidityは20-40%と報告されており17),稀な外傷ではあるが,正確な認識を要するものといえよう.われわれは従来報告のない発生機序による外傷性解離陸内頸動脈瘤の治療例を経験したので報告し,最近の本病態に対する考え方を整理しながら考察を加える.

多発性神経膠腫の1剖検例

著者: 志村俊郎 ,   平野朝雄 ,   中洲敏 ,   ,  

ページ範囲:P.97 - P.101

 I.はじめに
 神経膠腫は単発性であることが一般の通説となっている8).しかしながらCT scanの発達で多発性に発生する臨床例が観察されている.事実,当Montefiore病院においても,本症例を含み最近3例のmultifocal glio—maの生検例を経験している.本症例以外のこれらの他の2症例は,生検のみのためmultifocal gliomaと断定することはできなかったが,著者らは,ここに術前CTscanにより多発性病巣を認め,生検および剖検にて免疫組織学的検索を併せ行い,multifocal gliomaと診断した1剖検例を経験したので報告する.

CT-guided stereotaxic systemによる内包後脚刺激電極の埋込み—症例報告

著者: 新妻博 ,   大槻泰介 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.103 - P.106

I.はじめに
 定位脳手術にCTを応用し,CT像から目標点の三次元座標が得られるように工夫されたCT-guided stereo—taxic systemは,すでに脳腫瘍のbiopsyや定位的脳内血腫除去術に広く用いられている.しかし,これを用いてfunctional neurosurgical operationを行ったとの報告は,散見されてはいるが,いまだ少ない4,7).これはfunctional neurosurgeryに要求される誤差範囲が1mm以内と非常に厳しいものであるのに対し,CTそのものの最も薄いslice幅が現在でも1.5-2mmであることが原因の1つである.またCTで第3脳室の矢状断像を得るには画像の再構成法によらねばならず,定位脳手術を行う際の基準点である前交連(AC)および後交連(PC),特にACの明瞭な像を得るのが困難なことが,もう1つの原因であると思われる.
 著者らは今回,視床痛と考えられる中枢性疼痛の1例に内包後脚の電気刺激を行ったが,その目標点はPCの外側25mmの部位で1,8),必ずしもACの確認が必要でなく,またPCはその直上に松果体石灰化像が認められることから,これを参考にすれば比較的同定が容易であろうと判断し,第3脳室造影を行わずにCT像そのものから目標点を計測して手術を行い,所期の目的を達することができた.

Medulloblastomaの腫瘍内出血の1例

著者: 菅原孝行 ,   新海準二 ,   小川彰 ,   和田徳男 ,   並木恒男 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.109 - P.113

I.はじめに
 脳腫瘍由来の頭蓋内出血に関しては少なからず報告がみられ,悪性度の高い腫瘍あるいは異常血管に富む腫瘍ほどその頻度は高い傾向がみられるとされている.しかし,medulloblastomaは小児脳腫瘍中,最も悪性度の高い腫瘍でありながら腫瘍内出血の報告は少ない,今回,著者らは治療中,腫瘍内出血により急激に症状が悪化し,死の転帰をとったmedulloblastomaの1症例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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