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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科14巻11号

1986年10月発行

雑誌目次

さむらいの教育

著者: 児玉南海雄

ページ範囲:P.1289 - P.1289

 必死になって手術をしている脳神経外科医を見ると,私はいつも美しいと思い「さむらい」を連想する.作家の司馬遼太郎氏によれば,戦国時代に輩出した武士は,形而上的なものに精神を託することはなく,物欲,名誉欲,権勢欲を追求した.しかし,その後300年間の太平期を経て形而上的思考法が発達し,私的な野望をもつべきでないという,いわゆるさむらい独自の美学を生み出した.江戸末期,かの壮烈な北越戦争をくりひろげた河井継之助に代表されるように,公のためには地位も名誉も命さえもいらぬという,世界に類例のない美学を実践した人物もいる.ある医科大学では,3年前から「赤ひげよ来たれ,地位,名誉,金銭を望む者は入学無用」という学生募集要項を出したという.入学後の若き医学徒を如何なる教育でどのような人物にはぐくんでいくのか,教育の効果が実るのは10年,20年先であろうが大いに期待している.
 教育論については全くの素人であるが,我国における教育という言葉は,机上での読み書きそろばん,いわゆる知識,技術の習得に重きをおいている.これは,明治になって開国した政府が,西洋の科学技術文明に驚嘆し,その模倣,再現に役に立つ知識技術を早急に習得させるべく学校教育に力を入れたことに起因していると思われる.

解剖を中心とした脳神経手術手技

胸椎椎間板症におけるTransthoracic approachとCostotransversectomy

著者: 中川洋

ページ範囲:P.1291 - P.1296

I.はじめに
 胸椎の椎間板症(椎間板ヘルニアと脊椎症による骨棘形成を含む)は,頸椎や腰椎の場合と比べて比較的稀ではあるが,重篤な神経症状を起こす可能性があり,またその診断も容易でないことがある2,3)
 その臨床症状には特徴的な所見はなく,脊髄腫瘍,動静脈奇形,変性疾患などとの鑑別診断が必要となる7)

研究

ラット脳腫瘍における抗癌剤耐性機構

著者: 吉田達生 ,   清水恵司 ,   生塩之敬 ,   早川徹 ,   加藤天美 ,   最上平太郎 ,   坂本幸哉

ページ範囲:P.1299 - P.1304

I.はじめに
 近年の脳腫瘍治療法の進歩はめざましく,なかでも化学療法による治療は好成績を収めるに至り,放射線治療との併用などにより脳腫瘍患者の一時的寛解も可能となった.しかし,一方ではこうした積極的な化学療法がもたらした延命効果の陰に,抗癌剤に対する耐性の問題が生じてきた.
 癌化学療法における腫瘍細胞の抗癌剤耐性に関する研究は,さまざまの角度から進められており2,3,12,16,20),現在ではその耐性機構も一部解明されようとしている4,7,8,18,19).しかし,脳腫瘍においては,化学療法などによる一時的寛解がようやく達せられた段階であり,このような研究はほとんど進んでいないのが現状である26).そこで現在臨床において一般に使用されているニトロソウレア系抗癌剤ACNU1)に耐性の認められたC6/ACNUおよび9L/ACNU細胞26)を用いて,その耐性機構について検討を行った.

Long-term outcomeを基にした高血圧性脳出血の検討—第2報 Long-term outcomeよりみた被殻出血の手術適応

著者: 神野哲夫 ,   永田淳二 ,   星野正明 ,   中川孝 ,   M. ,   佐野公俊 ,   片田和広

ページ範囲:P.1307 - P.1311

I.緒言
 高血圧性脳出血,特に被殻出血の手術適応は合意が得られているようでありながら,今ひとつ確立していないというところであろう1-6).その理由として,適応を論ずる土俵が一定していないこと,「積極的内科的療法」ともいうべき保存的療法の実態が今ひとつ不確かなこと,手術適応は元来long-term follow upの成績を基にして論じられるべきであるのに,その詳細で正確な追跡が意外と難しいこと等々が挙げられよう.
 本稿では前稿3)にて報告した血腫進展様式に基づく被殻出血の分類を基にして,過去10年間follow upした症例のlong-term outcomeを手術群,非手術群に分け比較してみたいと思う.幸いにして自験例355例の55.8%が手術群であり,対比するのにほぼ平等な症例数を得ることができた.また,237例(66.8%)が発症後6時間以内に入院してきており超早期手術の役割を論じるにも充分な数であると思う.この検討結果より現時点での手術適応を導き出すのが本報告の目的である.

局所止血剤Microfibrillar collagen hemostat(Avitene®)の脳内における安全性に関する実験的研究

著者: 橋本卓雄 ,   馬目佳信 ,   中村紀夫 ,   関野宏明

ページ範囲:P.1313 - P.1317

I.はじめに
 近年脳神経外科領域において,レーザーメス,超音波メスなど手術手技,および術前術後の管理の向上などにより各施設で開頭手術が比較的安全に行われるようになった.
 開頭手術において,術中出血をいかに予防し,止血を確実に行うことが術後経過を左右する重要な要因となる.特に脳実質や腫瘍面の小血管からの湧出性出血はしばしば困難となることがある.このような出血の止血方法として種々の局所止血剤が使用されている.現在脳神経外科領城で使用されている局所止血剤としては,ゼラチン製剤(ゼルフォーム,スポンゼル),酸化セルロース(オキシセル),トロンビン製剤(ゲラトロンビン)などで,その効果については一定の評価が与えられている.しかしこれらの局所止血剤でも不完全な場合もあり,より確実な止血効果をもつ製剤が望まれる.

慢性硬膜下血腫術後再発例の対策—Ommaya tube設置法

著者: 古賀久伸 ,   堤健二 ,   宮崎隆義 ,   宮崎久彌

ページ範囲:P.1319 - P.1322

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫に対する穿頭術は開頭術に劣らぬものと評価され,一般に行われている.しかし術後血腫の再貯留をきたすことは稀ではなく,多くは38%という報告もある2,9,13).これに対して外ドレナージを行うなどの対策が試みられているが1,2,4,8,12),いずれも充分とはいい難い.
 われわれは穿頭血腫除去後にOmmaya tube(以下OT)を設置することにより良好な成績を得たので報告し,考察を加える.

聴性脳幹反応(BAER)による重症脳障害患者の予後評価

著者: ,   河村弘庸 ,   天野恵市 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.1325 - P.1332

 聴性脳幹反応(BAER)およびGlasg(Glasgow Coma Scale(G.C.S.)scoreを指標に急性期重症脳障害患者の予後判定を試みた.
 対象はいずれもG.C.S.が10点以下(平均5.6)を呈したもので,その内訳は破裂脳動脈瘤14例,頭部外傷6例,高血圧性脳内出血9例,脳腫瘍内出血1例の計30症例である.

Flow cytometryおよび染色体検査による髄膜腫の分析

著者: 勝山諄亮

ページ範囲:P.1335 - P.1344

I.はじめに
 髄膜腫は代表的な良性脳腫瘍の1つとされているが,なかには発育が速やかであったり,転移をきたすなど臨床経過の上から良性とはいえない症例が存在することも指摘されており10,20,29,40,51,58),細胞の生物学的態度に広がりがあることが予想される.この点について.主に形態学的な方面からその態度を推測しようという努力が続けられてきているが,いまなお意見の一致をみない点もあり1,7,10,12,23,32,34,45,52,54,55,57-59),他の方法による検索の成果が期待されるにいたっている.
 その1つとして,大量の細胞について個々のDNA量を短時間に知る方法として開発されたflow cytometry(以下FCM60))の.各種脳腫瘍への応用についての報告が1976年Hoshinoら21)によりなされるようになり.FCMヒストグラムが腫瘍の生物学的態度を知る方法として脳神経外科臨床領域において有用とされている.一方,FCMヒストグラムと腫瘍の悪性度の間に相関をみいだせなかったとの報告もみられる41).今回,培養前後の髄膜腫について,細胞のDNA量に密接な関係をもつ染色体分析手技を併用してFCMを用い検討した.

症例

上部脳幹梗塞に対し浅側頭—上小脳動脈吻合術を施行した1例

著者: 寺井義徳 ,   藤本俊一郎 ,   河内正光 ,   衣笠和孜 ,   西本詮

ページ範囲:P.1347 - P.1352

I.はじめに
 後頭蓋窩虚血性脳血管障害のうち,病変が後下小脳動脈(PICA)分岐部より近位の場合には,後頭動脈—後下小脳動脈吻合術(OA-PICA anastomosis)2,3,7-9,12)あるいは,頭蓋内椎骨動脈内膜切除術2)が用いられている.
 一方,PICA分岐部より遠位の病変に対しては,Ausmanらの開発した浅側頭動脈—上小脳動脈吻合術(STA-SCA anastomosis)4-6)が注目されている.われわれは,左椎骨動脈がPICA分岐部より遠位で閉塞し,右椎骨動脈はhypoplasticであり,脳幹部虚血性発作を反復する症例にSTA-SCA anastomosisを行い,良好な結果を得たので報告する.

Early venous filingを伴ったVenous angiomaの1手術例

著者: 城山雄二郎 ,   黒川泰 ,   植田浩之 ,   片山真男 ,   三谷哲美

ページ範囲:P.1355 - P.1360

I.はじめに
 venous angiomaがvascular malformationに占める頻度は剖検例においては決して稀ではなく,Sarwarら19)は1978年に4069例の剖検中,2.5%の105例がvenousangiomaであったとしている,しかし,臨床的にvenousangiomaが問題となることは比較的稀とされている,またvenous angiomaは,特徴的な脳血管写所見で知られているが,今回のわれわれの手術例は,脳血管写上earlyvenous fillingの所見が見られ,興味深いと思われたので,若干の考察を加え報告する.

新生児後頭蓋窩硬膜下血腫—2自験例と文献的考察

著者: 大熊洋揮 ,   蕎麦田英治 ,   鈴木重晴 ,   岩渕隆

ページ範囲:P.1363 - P.1368

I.はじめに
 分娩外傷を主因とする新生児硬膜下血腫のうち後頭蓋窩のものは比較的稀な疾患であり,剖検例の検討では全体の約13%にすぎないともいわれている5,24).本疾患は特徴的所見に乏しく診断が困難であり,また急激な経過をたどり死に至る例も多いゆえ,文献上渉猟し得た臨床例は30例のみであった.しかし,この30例のうちの16例はCT導入後のわずか7年間に報告された症例であり,CTの普及に伴い,今後,本疾患に遭遇する機会は増加していくものと思われる.
 われわれも外科的治療および保存的治療をそれぞれ1例ずつに行い,いずれも良好な経過にある計2例の新生児後頭蓋窩硬膜下血腫を経験したので,文献より集計した臨床例30例とともに本疾患の臨床像について検討を加えて報告する.

頭部外傷に起因した硬膜動静脈奇形様異常血管網の1例

著者: 中原成浩 ,   加藤康雄

ページ範囲:P.1371 - P.1375

I.はじめに
 診断技術の進歩に伴い硬膜動静脈奇形に関して多くの報告が見られるが1,5,7,9,11,15),病理組織学的所見を呈示した報告は極く少数で,その本態に関しては今なお一定の見解が得られていない4,12,13,19,21).今回われわれは,重症頭部外傷後9年を経て頭蓋内血腫にて発症し,硬膜動静脈奇形様所見を呈した1例を経験したので病理組織学的所見を呈示するとともに,硬膜動静脈奇形と関連して文献的考察を加え報告する.

脳腫瘍を合併した結節性硬化症の2例

著者: 福岡秀和 ,   高木卓爾 ,   嶋津直樹 ,   永井肇

ページ範囲:P.1377 - P.1381

I.はじめに
 神経皮膚症候群の1つである結節性硬化症はvonRecklinghausenによる心臓横紋筋腫を合併した"大脳皮質硬化巣"の剖検例報告18)以来,すでに多数の報告がなされている.本症は顔面皮疹(ademma seba—ceum),知能障害,てんかんを臨床症状の3徴候とする比較的稀な家族性,遺伝性疾患である.本症の脳病変は,①大脳皮質硬化巣,②髄質における皮質の異所存在,③脳室壁の結節で代表されるが,脳病変の腫瘍化に関しては,脳室壁の結節に特有とされ,その頻度は本症の6-10%といわれている12,16)
 著者らは結節性硬化症に合併した脳腫瘍の2例を経験した.1例は,脳腫瘍以外に多臓器に腫瘍性病変を合併した剖検例であり,本邦での剖検報告は数少ないと思われる,2例目は,開頭手術後,6年間経過を観察している症例である.各症例につき文献的考察を加えて報告する.

下垂体膿瘍の2治験例

著者: 上出廷治 ,   大坊雅彦 ,   大滝雅文 ,   森本繁文 ,   田辺純嘉 ,   端和夫

ページ範囲:P.1383 - P.1388

I.はじめに
 下垂体機能低下症状を呈し,CT上,下垂体内にlowdense massを形成するものとしては下垂体腺腫の他,鞍内型頭蓋咽頭腫,奇形性嚢胞,Rathke嚢胞,梗塞巣,転移性悪性腫瘍など多くのものがあるが,稀に膿瘍の報告例をみる.しかし,抗生物質出現以前の敗血症に合併した剖検例が多く,それ以降でも蝶形骨洞炎に起因するものや,下垂体腫瘍に合併した例が多い.反面,近年盛んに行われるようになった経蝶形骨洞的下垂体手術の合併症として,下垂体膿瘍は,常に念頭におかなければならない疾患の1つである.われわれは,炎症症状とともに無月経・尿崩症をきたし術前CTにて原発性下垂体膿瘍と診断し得た1例と,鞍内型頭蓋咽頭腫の経蝶形骨洞的腫瘍摘出術後,腫瘍の再発と誤った下垂体膿瘍の1例を経験したので報告する.

くも膜下出血で発症した前頭蓋底部の硬膜動静脈奇形の1治験例

著者: 徳永孝行 ,   林隆士 ,   正島和人 ,   松尾昌浩 ,   宇都宮英綱

ページ範囲:P.1391 - P.1395

I.はじめに
 特発性硬膜動静脈奇形は,横静脈洞およびS状静脈洞,それに海綿静脈洞部の2系路における発生が最も多く5-7),それ以外における発生頻度は低い1,3,4).最近われわれはくも膜下出血で発症し,脳血管撮影により右側の前頭蓋底に小さいnidusがみられ,右前篩骨動脈を流入動脈,皮質静脈を流出静脈とする硬膜動静脈奇形の成人男性の1例を経験した.右前頭開頭により,硬膜外および硬膜内操作により手術を行い,良好な結果を得て元の職場に復帰している.この稀な硬膜動静脈奇形の1例について報告する.

脳血管CTにより潜在性未破裂脳動脈瘤の合併を術前に診断し得た慢性硬膜下血腫の1例

著者: 福井啓二 ,   貞本和彦 ,   大上史朗 ,   武田定典 ,   木村英基 ,   榊三郎

ページ範囲:P.1397 - P.1401

I.はじめに
 慢性硬膜下血腫(特にisodensityなもの)の診断における脳血管CT(cerebral computed angiotomogra—phy)の有用性については既に報告してきた1,15,16).脳血管CTはこのほか,脳血管病変自体のスクリーニング法としても有用である2,7,8,15,16).最近われわれは,手技も簡便で,技術的にも進歩した「脳血管CT超高速度撮影法(ultrafast cerebral computed angiotomogra—phy)」を開発し8,16),外来診療に応用している.今回は本法を用いて,慢性硬膜下血腫の部位別,確定診断を行い,同時に潜在性未破裂脳動脈瘤の合併を術前に診断し得た1症例を経験したので報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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