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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科14巻3号

1986年03月発行

雑誌目次

解剖を中心とした脳神経手術手技

本態性眼瞼痙攣(Meige症候群)に対する顔面神経切除術

著者: 石島武一

ページ範囲:P.235 - P.242

I.はじめに
 半側顔面痙攣に対する治療はGardner7)やJannetta12)らによる神経血管減圧術が極めて有効であり,この疾患に対するfirst choiceとしてほぼ定着している.したがって,この原因は末梢にあると考えられ,理論的にもKim13)らの研究はその考えを支持している.しかし,本態性眼瞼痙攣は病態が異なり,神経血管減圧術は無効であり,原因は中枢にあるであろうと推測されている.
 筆者は2例の本疾患に対して顔面神経の選択的切除術を行い,効果を得た.わずかな経験ではあるが,その手術手技に関し報告する.

研究

脳の電気活動のSignificance probability mapping—その問題点とSpecified z-statistic methodについて

著者: 平孝臣 ,   天野恵市 ,   河村弘庸 ,   谷川達也 ,   川畠弘子 ,   能谷正雄 ,   伊関洋 ,   塩飽哲士 ,   長尾建樹 ,   岩田幸也 ,   梅沢義裕 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.243 - P.247

I.はじめに
 頭蓋内疾患の形態的診断は現在CTやNMRなどの画像診断装置の発達により的確に行われるようになった.一方,脳の磯能的な評価はpositron emission CTによる脳血流量や脳代謝の測定などにより可能となりつつある.脳の電気活動をコンピューター処理し,頭部図上にカラー表示する二次元脳電図は,近年,脳の機能的な側面からの画像診断法として盛んに行われるようになり2),脳外科領域では頭蓋内外血管吻合術の機能的な評価8)や脳浮腫に対するステロイド剤の効果の評価9)などに応用されている.この方法の利点は,脳波や誘発電位などの脳の電気活動を客観的に視覚化し,一目でその分布様式がわかるというだけでなく,電極毎のデーターを統計処理することで,脳の電気活動の変化を統計学的に比較検討し,機能的評価が可能である点にもある.この統計処理法の代表として,Duffyら5,7)によって開発されたsignificance probability mapping(有意差検定脳電図,SPM)がある.この方法によりdyslexiaを分類3,4)したり,発作波焦点の不明なてんかん患者の異常部位を見いだしたり6),あるいは分裂病患者の前頭葉に異常を認める10)など,従来器質的異常を見いだし得なかった疾患の病態解明に役立っている.
 筆者らは二次元脳電図の導入以来,このSPMに取り組んできた.

高血圧性視床出血に対する定位的血腫溶解排除術

著者: 駒井則彦 ,   土井英史 ,   森脇宏 ,   中井易二

ページ範囲:P.249 - P.256

I.はじめに
 高血圧性脳出血の外科的治療は,従来から主として被殻出血に対して開頭術により脳内血腫除去術が行われてきた.
 視床出血や中脳出血に対しては手術効果に比して手術侵襲が大きく手術適応となり難かった.しかし,手術侵襲さえ極力小さくすることができれば血腫を除去することが望ましいことは論をまたない.われわれは1978年より手術侵襲を少なくするために定位脳手術法を用い,硬い凝血を吸引するためにplasminogen activatorであるUrokinaseを用いて血腫を溶解する方法を創案し,160例の高血圧性脳出血に優れた成績をあげてきた3,4,11,12).今回はこのうち視床出血44例の手術成績について報告する.

実験的脳虚血における再開通後の脳浮腫に対するATP,Dipyridamoleによる低血圧治療

著者: 山下哲男 ,   菊池晴彦 ,   伊原郁夫 ,   松本皓

ページ範囲:P.257 - P.262

I.はじめに
 急性期脳血管閉塞症に対する血行再建術の有用性に関する最も大きな問題は,続発する出血性梗塞と脳浮腫であるとされている.このような再開通治療に伴う危険性を減少する目的で,各種の補助治療法が試みられている19,20).しかし,それらの治療法においても,いまだ完全なものはなく,梗塞中心部の再開通後の浮腫を防ぐことは困難である.
 なかでも,血圧の上昇は,脳への灌流圧上昇として脳浮腫を増強させる大きな因子のひとつとして注目されている.本報告では,血流再開後の脳血流量,頭蓋内圧および脳水分含有量に対する血圧の影響について分析し,かつ再開通後の脳浮腫軽減に対する低血圧治療の有用性について検討した.

造影剤血管外漏出を認めた破裂脳動脈瘤症例の臨床的特異性—自験例および文献例82症例の検討

著者: 岩肇 ,   京井喜久男 ,   角田茂 ,   横山和弘 ,   今西正己 ,   内海庄三郎

ページ範囲:P.263 - P.270

I.はじめに
 破裂脳動脈瘤患者に対する早期の血管撮影は診断・治療上不可欠である反面,動脈瘤の再破裂を起こし,造影剤の血管外漏出(extravasation:以下EVと略す)をきたす誘因となる危険性が存在する,いったん造影剤のEVが起こると患者の生命予後は悪く,一般的には絶望視されがちである.
 1954年Jenkinsonら9)以来,EVに関する報告1-17,19-22)は少なくないが,その多くは症例報告か,造影剤の種類,注入量,注入法など血管撮影の手技上の問題や,それに対応する生体側の反応について論じたものであり,「破裂脳動脈瘤患者がどのような状態にあればEVを起こしやすいか」という疑問に答えてくれる報告は見当らない.著者らは自験列および文献例で,臨床経過よりEVの発生要因および患者の予後を左右する因子について検討したので,若干の考察を加えて報告する.

大後頭孔腫瘍—診断と手術アプローチ

著者: 徳田耕一 ,   阿部弘 ,   岩崎喜信 ,   蝶野吉美

ページ範囲:P.271 - P.276

I.はじめに
 大後頭孔腫瘍はAbrahamsonとGrossman2)が最初に報告して以来,現在まで多数の症例報告がなされているが,この部位の腫瘍は多彩な臨床症状を示し,いわゆる"foramen magnum syndrome"を呈することが知られている.この症状は一般に進行性であるが,稀ながら症状軽快が起こることがあり.神経症,変形性頸椎症,多発性硬化症などと誤診され,かなり病期が進行するまで適切な治療を受けない場合がある.Love19)らによれば,大後頭孔腫瘍のうち約30%は良性,髄外腫瘍であり,全摘出が可能であり,早期診断,治療が予後の向上に重要であると考えられる.従来の同部腫瘍の文献的報告は髄外腫瘍に限定されたものが多く5,8,9,15,24,26,28),髄内腫瘍との対比で論じた報告は少ない12)
 今回,著者らが経験した大後頭孔腫瘍7例の臨床症状について検討し,診断学的考察を加え,さらに手術アプローチに関して若干の検討を加え報告する.

大脳半球障害の反対側Blink reflexに及ぼす影響について

著者: 河村弘庸 ,   天野恵市 ,   谷川達也 ,   塩飽哲士 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.277 - P.286

I.はじめに
 最近,三叉神経の電気刺激や角膜の機械的刺激または電気刺激により誘発されるblink reflex(trigemino-fa—cial reflex)における上位中枢の影響が注目されている.現在までに,大脳半球障害におけるこの反射の変化が検討され,大脳半球の反対側trigemino-facial reflexに及ぼす影響について,病巣と反対側の①spinal trigemi—nal complexへのfacilitatory effect(Kimura1),On—gerboer de Visser2)),②顔面神経核およびbulbar la—teral reticular formationへのfacilitatory effect(On—gerboer de Visser and Kuypers3),Danger4)),③pon—tine trigeminal centerへのfacilitatoryまたはinhi—bitory effect(Dehen et al5),Darian-Smith6))などがあげられているが,報告者の間で必ずしも意見の一致がみられているわけではない7,8)

Vasogenic brain edemaの発生・吸収に関する研究

著者: 露無松平 ,   平塚秀雄 ,   稲葉穣 ,   伊藤梅男 ,   J.Reulen

ページ範囲:P.287 - P.294

I.はじめに
 すでにわれわれは,白質内のvasogenic brain edemaはdiffusionではなくbulk flowにより進展する2,9,10),12-15)ことを発表してきたが,今回さらにその研究を進めるため,エバンスブルーと35S—チオ疏酸塩(以下35S)でラベルした人工髄液を一定のスピードでネコ脳白質に注入した.これはいわば傷害部位の毛細血管から浮腫液が周囲白質に漏出するvasogenic brain edemaのモデルである.また組織内注入液が脳室にdrainされる量を計算するため脳室—大槽灌流を行い,大槽からの35Sの量を計算した.

穿頭孔よりの術中超音波画像診断—超音波ガイド下定位脳手術の試み

著者: 金澤至 ,   白石一也 ,   神谷博 ,   佐藤仁一 ,   益澤秀明

ページ範囲:P.295 - P.300

I.はじめに
 脳神経外科領域における超音波診断の進歩はめざましいものがあり,皮質下病変の術中診断,脳腫瘍の針生検,脳膿瘍・嚢胞・脳室の穿刺吸引に,術中超音波像が利用されるようになってきた2-4,7-11,14-19).特に生検や穿刺吸引においては,生検針・穿刺針操作の開始より終了までreal-timeでモニタできるという術中超音波診断の特長が生かされ,手術操作がより安全・確実に行えるようになってきている.しかし従来は,機器の性能の限界もあって生検や穿刺吸引においても小開頭をおいて行われることが多く,穿頭孔から行われた例の報告は少ない3-5).そこで,われわれは穿頭孔から行う術中超音波診断が可能かどうか検討し,実際に超音波ガイド下に,穿頭孔より脳腫瘍の針生検,脳室・脳膿瘍の穿刺吸引などを試みた.

エラスターゼの動脈瘤発生防止に関する実験的研究

著者: P.Natarajan ,   佐野公俊 ,   小笠原美幸 ,   神野哲夫

ページ範囲:P.301 - P.304

I.はじめに
 近年,脳血管障害の死亡率は治療の進歩により本邦第2位に減少したが,その罹患率を考えると,いまだ本邦において,最重要疾患といわざるをえない.なかでも,脳動脈瘤の破裂は働き盛りの壮年者に多く,社会的にも重要である,また高血圧性脳出血の原因も脳の穿通枝に多発した微小動脈瘤の破裂によると考えられており,これら動脈瘤の発生を予防することは脳の出血性病変に対する最大の治療と思われる.
 今回,エラスターゼが異常エラスチンの分解除去,新生弾力線維の合成促進作用を有する7,8,10)ことに着目し,実験的動脈瘤作製モデル1-6,9)を用いてエラスターゼが動脈瘤の発生予防に効果があるか否かの検討を行った.

皮下注射針使用による経皮的脳血管撮影法—DSAの特殊な利用法

著者: 尾崎高志 ,   青柳實 ,   保田晃宏 ,   太田富雄

ページ範囲:P.305 - P.309

I.はじめに
 digital subtraction angiography (DSAと略す)装置が開発された当初,造影剤を静脈注射することにより脳血管撮影が可能であるという"痛くない脳血管撮影"の実現に,熱い期待がかけられた.しかし,造影剤の静脈注入によるDSA (IV-DSAと略す)は,全脳動脈系が一度に造影されること,大量の造影剤を必要とすること,さらに撮影された画像自身がconventional angiogra—phyに比べ劣っているという致命的欠点を有していることがわかってきた.現時点におけるDSAの使用は,Seldinger法により動脈内にカテーテル先端をおき,少量の造影剤を注入する撮影法(IA-DSAと略す)がむしろ一般的である.今回われわれは,従来行われてきた経皮的頸動脈直接穿刺法にDSA装置を使用し,極細の皮下注射針を使用し,極めて少量の造影剤を使用する頸動脈撮影法を開発したので報告する.

脳腫瘍血管透過性の超微形態—第2報 グリオーマにおけるCE効果

著者: 柴田尚武 ,   福嶋政昭 ,   森和夫

ページ範囲:P.311 - P.316

I.はじめに
 computed tomography(CT)上,脳腫瘍におけるcontrast enhancement(CE)の機序に関する解明は十分とはいえない.グリオーマにおけるCE効果は,多少の例外はあるとしても,medulloblastoma, ependy—moma, glioblastoma, astrocytomaの順である.そこでこれら4種の腫瘍血管の超微形態を超薄切片法と凍結割断レプリカ法を用いて検索し,4種におけるCE効果の相違を,血管透過性の面から比較検討した.

脳腫瘍血管透過性の超微形態—第3報 non-glial tumorにおけるcontrast enhancementの機序

著者: 福嶋政昭 ,   柴田尚武 ,   井上優 ,   森和夫

ページ範囲:P.317 - P.323

I.はじめに
 脳腫瘍におけるCT上のcontrast enhancement(CE)の発現には,腫瘍部の血管の増生,および造影剤の血管外漏出が主に関係するとされている5-7,20).一方,脳腫瘍血管,特に毛細血管の微細構造に関する研究も数多くなされ,正常血管にはみられない種々の特徴が報告されているが1,2,8-12,14,17-19,21,22),CE効果の機序と対比し検討した報告は少ない.われわれは前報でgliomaにおけるCE効果について報告したが17,18),今回はCE効果の高度なnon-glial tumorsの腫瘍血管の超微形態学的特徴を,超薄切法に加えて,freeze-fracture replica法にて検索した.

モヤモヤ病の磁気共鳴画像

著者: 藤田勝三 ,   白国隆行 ,   児島範明 ,   玉木紀彦 ,   松本悟

ページ範囲:P.324 - P.330

I.はじめに
 モヤモヤ病は日本人にみられる稀な疾患であると考えられていたが6,8,10,11),現在では日本以外からも多数の報告があり7,9,14,15),本症の成因についての究明が待たれている.われわれはモヤモヤ病における脳虚血巣の特徴およびその予後を把握する目的でモヤモヤ病患者のMR—CT所見をX線CT所見と対比しながら検討した結果,モヤモヤ病の虚血巣の特徴について興味ある知見を得たので報告する.

両側内頸動脈系狭窄症に対するone-stage両側STA-MCA吻合の試み

著者: 新島京 ,   半田肇 ,   米川泰弘 ,   滝和郎 ,   三宅英則 ,   小林映 ,   後藤泰伸 ,   森竹浩三

ページ範囲:P.331 - P.337

I.はじめに
 閉塞性脳血管障害に対する血行再建術の適応・管理・予後などについては議論が多い.特に内頸動脈系のmastoid-mandibular line (MML)より末梢部の狭窄ないし閉塞を両側性に有する症例に対する血行再建術に関しては意見の一致をみていない.この場合,血行再建術を行うとすれば,一般には,まず最初に臨床症状と対応する一側STA-MCA吻合を行うことが多い3,7,8,10-12,14,17,20,21),しかし,術後のfollow-up中に反対側の狭窄に起因する症状を現わす場合が少なくないことも事実である1,2,6,15)
 京都大学脳神経外科学教室において過去3年間に,両側内頸動脈系に狭窄を認めた12例に対して,臨床症状の原因と考えられる側での一側STA-MCA吻合を行ったが,この12例のうち,術後2.5ヵ月から1年の間のfollow-up中に3例において反対側の脳虚血症状が出現した.これら3例と,症状発現はみなかったが初回吻合術前より両側内頸動脈の閉塞を認めていた1例の計4例に対して反対側のSTA-MCA吻合を追加した.

症例

ノカルジア脳膿瘍とβ-ラクタムを中心とした抗生物質感受性—脳室穿破の1例を中心として

著者: 織田祥史 ,   上条純成 ,   姜裕

ページ範囲:P.340 - P.344

I.はじめに
 近年,日和見感染としての,弱毒菌,真菌類などによる感染症の発生増加が認められているが,なかでも放線菌類に属するNocadiaは,Eppingerによってヒトでの脳膿瘍起因菌として初めて報告4)されて以来,200例に及ぶ報告を見てきた11)
 治療としては,古くよりサルファ剤が奏効するといわれ,ほとんどの症例で第一選択薬剤として用いられ,著効を奏してきた.しかし,最近サルファ剤無効のノカルジア感染症が報告され,また近年多くの抗生物質が開発され市販されて,予防的および治療的に使用される機会が多いことから,これらの薬剤とノカルジア感受性についても,再検討する必要が生じてきた.

後下小脳動脈末梢部巨大動脈瘤の3例

著者: 楠野幸次 ,   吉田康成 ,   柴田憲男 ,   林龍男

ページ範囲:P.345 - P.350

I.はじめに
 椎骨脳底動脈系に生ずる動脈瘤は全頭蓋内動脈瘤の約15%5)といわれ,多くが脳底動脈分岐部,次いで後下小脳動脈起始部1)に好発する.なかでも後下小脳動脈末梢部に生ずるものは稀である.われわれは後下小脳動脈末梢部動脈瘤の4例を経験したが,そのうちの巨大動脈瘤の3例につき臨床上の特徴と放射線学的所見を述べ,文献的考察を加え報告する.

Ependymal cystの1例

著者: 森本正 ,   金子美紀子 ,   西川亮 ,   大野恒男 ,   馬杉則彦

ページ範囲:P.351 - P.356

I.はじめに
 頭蓋内には発生起源,組織学的特徴から見てさまざまな嚢胞が発生するが,脳内またはくも膜下腔に発生するependymal cystの報告は多くない.われわれは左右大脳半球にまたがる巨大なependymal cystの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

三叉神経鞘腫と鞍上部くも膜のう腫の合併例

著者: 天笠雅春 ,   佐藤博雄 ,   新妻博 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.357 - P.360

I.はじめに
 三叉神経鞘腫trigeminal neurinomaは比較的稀な腫瘍であり,全頭蓋内腫瘍の0.1-0.3%1)を占める.1976年までに当科で経験した症例10例の臨床像については小松ら8)がすでに報告しており,当科での頻度は0.8%であった.一方,鞍上部くも膜のう腫suprasellar arach—noid cystはくも膜のう腫の10%15)を占め,五十数例の報告がある6)が,CT導入後その発見は増加しているといわれる.われわれは最近この両者が隣り合って合併していた症例を経験したので若干の考察を加え報告する.

Spinal dural AVMの3症例—その特徴および治療について

著者: 飛騨一利 ,   岩崎喜信 ,   井須豊彦 ,   秋野実 ,   阿部弘 ,   田代邦雄 ,   吉田一人 ,   宮坂和男 ,   竹井秀敏 ,   阿部悟

ページ範囲:P.361 - P.366

I.はじめに
 脊髄動静脈奇形(以下spinal AVM)のうち,動静脈短絡部が硬膜内ではなく,硬膜表面にあり,灌流静脈が脊髄表面を走行するAVMが新たなtypeとして最近注目されるようになってきた4,6,8,10).われわれは過去15例のspinal AVMを経験したが,血管撮影上の所見より3例が硬膜AVMともいうべきこのようなタイプと考えられたので,文献的考察を加えて報告する.

脳底部石灰化にMoyamoya血管像を合併した1例

著者: 北原正和 ,   金子宇一 ,   藤原悟 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.367 - P.372

I.はじめに
 最近われわれは,脳底部の石灰化と,脳血管撮影で両側頭蓋内主幹動脈の閉塞およびmoyamoya血管像を認め,その原因として結核性髄膜炎が疑われた症例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Radiationによる両側総頸動脈狭窄症の1手術例

著者: 小林延光 ,   中川翼 ,   田代邦雄 ,   阿部弘

ページ範囲:P.373 - P.377

I.はじめに
 irradiationにより細小動脈が障害をうけやすいことはよく知られた事実であるが8),大動脈総頸動脈などの大血管は比較的障害をうけにくいものと考えられていた.しかし一方,さほど高線量とはいえないような通常の治療線量照射後に,これら大血管に狭窄あるいは閉塞をきたしたとする例が報告され,一疾患概念としてとらえられるようになってきた9)
 われわれは,甲状腺腫瘍摘出後,前頸部に約5,000radのX線照射後,25年後に照射野に含まれる両側総頸動脈に狭窄をきたした1症例を経験した.この稀な1症例を報告するとともに,文献的考察より"radiation inducedarterial injury"の疾患概念を明らかにする.

側頭葉部脂肪腫の1例—症例報告と文献的考察

著者: 関貫聖二 ,   岡島和弘 ,   佐藤浩一 ,   日下和昌 ,   松本圭蔵

ページ範囲:P.379 - P.384

I.はじめに
 頭蓋内脂肪腫の頻度は比較的少ない.最近CT scanの出現により発見される機会がふえ,かなりまとまった症例数を集めた報告もみられるようになったが,脳梁部などの頭蓋正中構造に発生したものが多い.本例のように正中構造から離れた部位の頭蓋内脂肪腫の報告例はかなり稀のようで,その成因を考える上で興味深い,今回われわれは合側頭葉先端部に発生した頭蓋内脂肪腫の1例を経験したので,その発生基盤に関して若干の文献的考察を加えて報告する.

Choriocarcinoma頭蓋内転移によるNeoplastic aneurysmの1例

著者: 当山清紀 ,   田中孝幸 ,   広田敏行 ,   三須憲雄 ,   水野一夫

ページ範囲:P.385 - P.390

I.はじめに
 脳転移choriocarcinomaは頭蓋内占拠性病変となるだけでなく,脳血管障害型の発症様式をとり,頭蓋内血腫に準じた外科的治療を要することもある.今回われわれは,choriocarcinomaが内側から動脈壁に浸潤して動脈瘤を形成し,その破裂出血によって発症した特異な頭蓋内転移例を経験したので,文献的考察を含めて報告する.

腰仙部脂肪腫における脊髄CTスキャン像と手術所見の比較—5症例における検討

著者: 森本一良 ,   池田卓也 ,   前田泰孝 ,   狩野光将 ,   岸口稔睦 ,   最上平太郎

ページ範囲:P.391 - P.396

I.はじめに
 腰仙部脂肪腫(lumbosacral lipoma)は腰仙部の皮下脂肪腫が脊椎破裂部より脊髄円錐と関係をもち,その多くは新生児にみられ,その最も複雑なものが脂肪脊髄髄膜瘤(lipomyelomeningocele)と呼ばれている.その極めて少ない発生率から,新生児を専門に扱う医療機関でも経験する機会は比較的少ない.そのうえ治療法は種々の困難さをもち,今後解決すべき問題も少なくない.私たちは5例の乳幼児における腰仙部脂肪腫を経験し,その脊髄CTスキャン像と手術所見より2,3の知見を得たので文献的考察を加えて報告する.

巨大脳底動脈瘤の1手術治験例—脳保護剤(仙台カクテル)とバルーンカテーテルを用いて

著者: 金城利彦 ,   溝井和夫 ,   高橋明 ,   吉本高志 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.397 - P.402

I.はじめに
 脳動脈瘤の中でも最大径が25mm以上の巨大動脈瘤の手術は総じて困難であり,特に脳底動脈系の巨大動脈瘤は最も直達手術が困難であるとされている.最近われわれは最大径35mmにも及ぶ巨大脳底動脈瘤に対し,脳保護剤(仙台カクテル)の投与下にバルーンカテーテルテクニックを応用して動脈瘤への一時血流遮断を行いつつ直達摘出手術を施行し,根治せしめた症例を経験したので報告する.

染色体異常,頭蓋内病変を伴うMaffucci症候群の1例

著者: 松本直樹 ,   福島武雄 ,   朝長正道 ,   今村光秀

ページ範囲:P.403 - P.410

I.はじめに
 Maffucci症候群は先天性,非遺伝性で,多発性内軟骨腫と多発性血管腫を合併する中胚葉形成不全症である.現在までに150例近い報告をみるが,この主たる病巣は四肢骨および軟骨組織で,頭蓋内病巣は比較的稀である.われわれは本症候群に傍鞍部内軟骨腫を伴った症例を経験し,手術および剖検を行う機会を得た.本症例における特長は,頭蓋内病変が比較的短期間に増大,悪性化を呈したこと,腫瘍内出血を伴ったこと,染色体検査で明らかな異常を認めたことであり,これらについて検討し,文献的考察を加えて報告する.

出血を伴った小脳Astrocytomaの1例

著者: 原田克彦 ,   林隆士 ,   岡本右滋 ,   正島和人 ,   宇都宮英綱 ,   前原史明 ,   佐藤能啓

ページ範囲:P.411 - P.416

I.はじめに
 脳腫瘍が頭蓋内出血をきたすことはよく知られた事実であるが,その頻度は決して高くない.すなわち出血性脳腫瘍の頻度は過去の報告では1.4-5.1%3,23,28)であり,特発性頭蓋内出血の中で脳腫瘍が発見される頻度は1-10%12,16,20,23)である.また小脳のastrocytomaに頭蓋内出血を合併した報告は,われわれが知る限りでは数編を数えるにすぎない.
 最近,われわれは腫瘍からの出血により卒中様に発症した小脳のastrocytomaの小児例を経験したので文献的考察を加え報告する.

両側内腸骨動脈より供血された脊髄硬膜外動静脈奇形の1例

著者: 坪井康次 ,   松村明 ,   兵頭明夫 ,   能勢忠男 ,   牧豊 ,   中西孝雄

ページ範囲:P.417 - P.421

 I.はじめに
 脊髄動静脈奇形のnidusは胸腰髄レベルに多く,仙髄レベルでは非常に稀である9,12)
 今回著者らは,直腸肛門機能障害にて発症し,L2レベルまで上行する脊髄症状を呈したが,実際にはnidusはS1レベルの硬膜外にあった動静脈奇形の1例を経験した,この動静脈奇形は,両側内腸骨動脈より導入血管を受けていた.本例の症状発現機序に考察を加え報告する.

脳・四肢に多発した家族性Cavernous angiomasの1例

著者: 福島武雄 ,   大川正幸 ,   朝長正道

ページ範囲:P.423 - P.428

I.はじめに
 中枢神経系に発生する海綿状血管腫は比較的稀な血管奇形であるが,近年,神経放射線学的検査の進歩により,CTあるいは血管写上の特徴が明らかにされ1,5,20,21,23,25,29),出血,痙攣,進行性神経脱落症状などを呈するものとして重要視されてきた2,6-8,15,19).本血管奇形は頭蓋内多発例4,6,9,17,32,33),全身皮膚および諸臓器に多発例5,6,14,17,22,31),他の血管奇形との合併例17,27,31)などがあり,系統的な血管奇形としての要素が強い.また稀ではあるが家族発生例の報告もある3,4,6,14,18,31).われわれは19歳,女性で,脳実質内および四肢に多発性海綿状血管腫があり,母方家系および同胞6人に同様皮下腫瘤を認めた症例を経験した.家族内発生は稀であり,その発生病理を考える上で重要と思われるので,文献的考察を加え報告する.

嚢胞性脳結核腫の1例

著者: 国塩勝三 ,   角南典生 ,   山本祐司 ,   浅利正二 ,   赤木忠厚 ,   大朏祐治

ページ範囲:P.429 - P.434

I.はじめに
 近年,結核性疾患は抗結核剤および環境予防衛生などの進歩により著明に減少し,脳結核腫も開発途上国を除き散発性にみられるのみとなってきた.そのなかでも嚢胞形成を伴う脳結核腫は極めて稀であり,これまでに5例の報告2,5,8)をみるにすぎず,本邦ではいまだ報告をみていない,今回われわれは,左前頭頭頂葉に発生した,この極めて稀な嚢胞性脳結核腫の1例を経験したので,症例を呈示し,その病理組織学的所見,特に嚢胞形成機序に関して述べるとともに,CT所見に関しても考察を加えて報告する.

Rathke's cleft cystを伴った下垂体腺腫の1例

著者: 日山博文 ,   久保長生 ,   谷藤誠司 ,   加川瑞夫 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.435 - P.440

I.はじめに
 Rathke's cleft cystは正常下垂体にも存在し無症状のものが剖検例で13-22%にみられるとされている15,16).近年,症候性のRathke's cleft cystの報告が増え,現在までに約50例の報告がある20,23).しかし,Rathke'scleft cystと下垂体腺腫の合併例は,われわれが文献上検索した限りでは過去5例の報告がみられるのみである2,4,11,17,21).最近われわれはRathke's cleft cystと下垂体腺腫の合併例を経験したので,文献的考察を加え報告する.

Eagle症候群の3例

著者: 西原毅 ,   花北順哉 ,   絹田祐司 ,   近藤明悳 ,   山本義介 ,   岸本誠司

ページ範囲:P.441 - P.445

I.はじめに
 顔面や頸部,口腟内などの痛みは自覚症状が主体で他覚的所見に乏しく,種々の補助的検査法も無効なことが多いために鑑別診断が困難な場合にしばしば遭遇する.特に片側性の持続的鈍痛やtrlgger pointがない顔面痛の場合には,典型的三叉神経痛や舌咽神経痛がmicrovascular decompression surgeryによる根治的治療法が広く行われるようになった現在,これらとの鑑別が重要な問題となる.これらの非典型的顔面痛を生じる原因としては種々のものがあるが,その1つとして異常に長くなった茎状突起あるいは茎状突起より舌骨へ延びるstylohyoid ligamentの石灰化が原因となって生じる顔面痛が古くから知られており,Eagle症候群と呼ばれる.本症候群の際の痛みは,扁桃窩のブロックにより軽快し,茎状突起の除去により治癒するという特徴を有している.われわれは非典型的顔面痛を主訴に来院し,Eagle症候群と診断し得た3例を経験した.この3例を報告するとともにEagle症候群の診断的手技や他疾患との鑑別点について考察を加えた.

Pineocytomaの1例

著者: 服部達明 ,   篠田淳 ,   近藤博昭 ,   安藤隆 ,   坂井昇 ,   山田弘 ,   船越孝 ,   下川邦泰 ,   池田庸子

ページ範囲:P.447 - P.452

I.はじめに
 松果体部に発生する腫瘍のうち,松果体の固有実質より発生してくる成熟型の腫瘍であるpineocytcmaは極めて稀であり,報告も少なく,臨床像も明らかではない.われわれは興味ある経過を示したpineocytcmaの1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

術前照射が著効を呈した髄膜腫の1例

著者: 古賀壽男 ,   木下和夫 ,   山川勇造 ,   脇坂信一郎

ページ範囲:P.453 - P.458

I.はじめに
 髄膜腫の放射線治療は,悪性髄膜腫の術後や再発例,頭蓋外転移例に対して行われ,有効であったとの報告は少なくない1, 2, 4, 7, 8, 13, 21).しかし髄膜腫の術前照射に関する報告は比較的少ない3, 4, 8, 21,22).最近われわれは,優位半球の前および中頭蓋窩へと発育した巨大な蝶形骨縁髄膜腫に対し術前照射を行い,著効を呈した症例を経験したので報告する.

先天性聾・若年性糖尿病・網膜血管腫を合併した多発性小脳血管芽腫の1例—遺伝性疾患としての合併症の検討

著者: 松田一巳 ,   朝倉哲彦 ,   中山正基 ,   寺田耕作 ,   前田美樹 ,   浜田博文

ページ範囲:P.459 - P.464

I.はじめに
 小脳血管芽腫(Lindau病)は,従来より遺伝的素因の強い疾患として報告されてきたが,同時に,網膜血管腫(Hippel病),膵臓・腎臓の嚢胞などの他,脳動脈瘤など他の疾患を合併しやすいこともその特徴とされている.一方,良性腫瘍である本疾患の予後を左右する問題の一つに,約10%に認められる多発性血管芽腫の存在がある.血族結婚の家系にあって,先天性聾,若年性糖尿病に罹患し,さらに網膜血管腫を合併した多発性小脳血管芽腫の1例をわれわれは経験し,開頭術にて良好な成績が得られたので,本症例の上記合併症を遺伝性疾患という観点から考察し,さらに本疾患の多発性の問題について検討を加えたので報告する.

血液透析患者の聴神経腫瘍手術

著者: 渡部洋一 ,   児玉南海雄 ,   渡辺善一郎 ,   根本仁 ,   山尾展正 ,   丹治裕幸

ページ範囲:P.465 - P.469

I.はじめに
 近年,血液透析法や患者管理の進歩によって透析患者の数は年々増加し6),かつ長期生存例も多くなってきている.そのため慢性透析療法中に他の疾患を合併し,外科手術の必要にせまられる患者も増加しているが,現在では全身状態や諸検査成績が一定の条件を満たせば手術を行うというのが一般的な見解である10, 12).しかし,脳神経外科領域においては,透析患者の手術報告例は少なく,特に脳腫瘍手術の報告はわれわれの渉猟しえた限り1例をみるにすぎず9),いまだ定見はない.今回われわれは,透析患者に合併した聴神経腫瘍の1手術例を経験したので,透析患者における脳神経外科手術に関して若干の考察を加え報告する.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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