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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科14巻4号

1986年03月発行

雑誌目次

魔法の弾丸

著者: 大江千廣

ページ範囲:P.477 - P.477

 ある朝,この文の主題について考えていた時,たまたまオペラ「魔弾の射手」の曲が耳に入ってき主した.この曲はドイツのマックス・フォン・ウェーバーがドイツの民話を主題にして作品にした曲です.このオペラの序曲や第3幕で歌われる「狩人の合唱」などは私の大好きな曲なのですが,さてこの「魔弾の射手」という題名は(誰が訳されたのか,大変名訳と思います).「Der Freischutz」つまり自在弾(Freikugel)を射る人という原題によっています.すなわちオペラの中で若い猟師マックスが恋人のアーガテを手に入れるために射撃の試合で優勝しなければならないが,なぜか不調で,遂にそそのかされて悪魔に魂を売り,「魔法の弾丸」を手に入れ(この弾丸をつくる狼谷の場面もなかなか面白いのですが),御前試合ではその最後の弾丸で的の白鳩を射つと,とび出してきた恋人がバッタリ倒れて云々……という物語が展開するからです.
 私はこの,ねらった的に必ず当るという「魔法の弾丸」に大変興味があります.医学の研究は,ある意味では病変,病原だけをとり除き,生体に害を与えないという「魔法の弾丸」の開発の歴史ともいえるでしょう.この言葉を最初に使ったのは梅毒の特効薬としての「魔法の弾丸」サルバルサンを作ったポール・エーリッヒです.いうまでもなくエーリッヒの時代は細菌学の全盛時代で,病原体のみを殺し(射ちおとし),生体に害を加えないものが作れるはずだという信念のもとに,エーリッヒが多くの失敗を重ねながらも(606号という別名があるくらい)遂に"Magischekugerl"を作り出した話を,かつて大変興奮して読んだ覚えがあります.エーリッヒがそのような信念を抱いたもとには,彼が化学薬品を用いた染色のことを永くやっていて,ある有機物がある色素で特異的に染るということを知っていたからで,理論的に実験を押し進めていったことも重要だと思われます.これが現在の化学療法のはじまりであることは周知の通りです.

総説

免疫組織化学:超微形態よりみた下垂体腺腫の分類

著者: 堀智勝

ページ範囲:P.479 - P.490

 下垂体腺腫の病理組織分類36)は免疫組織化学の発達に伴い,腺腫細胞が分泌するホルモンによる分類がもっぱら用いられるようになった83).文献を渉猟して筆者がまとめた腺腫分類をTable 1に示す.最近ではendor—Phin87)や糖蛋白ホルモンα subunit40,41,50),βsubunitなどの特異抗体の作製に伴いTable 1よりもさらに細かい分類がなされようとしている78)
 しかし,ヒトホルモンの通常使用されている抗体を利用した免疫組織化学による下垂体腺腫の分類は,腺腫が通常の下垂体ホルモンと同一のホルモンを分泌するという前提のもとに成立するが,たとえばGH腺腫のim—munoassayに使用されている22K型のホルモン抗体では生物活性の強いcleaved型や免疫活性の弱い20K型のホルモンの検出はされないなどの欠点がある5).実際に腺腫細胞が通常の下垂体ホルモンを分泌している事実は周知のことであるが,一方,通常とは異なるプロホルモン21,49,57,60,74)や糖鎖の結合したホルモン76,77)を腺腫細胞が培養液や血中に分泌している事実も認識されはじめている.

研究

遅発性脳血管攣縮の免疫学的検討—第1報

著者: 白坂有利 ,   天野嘉之 ,   水谷哲郎 ,   高野橋正好 ,   服部和良 ,   田ノ井千春 ,   大瀧和男

ページ範囲:P.493 - P.497

I.はじめに
 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血後発生する,いわゆる遅発性脳血管攣縮の病態において,免疫学的報告は少ない.星ら2,14)によれば,C1q binding substanceが検出され,それによる血管炎として遅発性血管攣縮をとらえており,また,Pellettieriら11)によれば攣縮を呈した症例の末梢血におけるimmune complexの増加を報告している.
 今回著者らはくも膜下出血発症後に系統的な細胞性免疫能を測定することにより興味ある知見を得たので報告する.

脳血管緊張に及ぼす脳幹部脳血管運動中枢の役割—第2報 延髄網様体刺激の脳血管緊張に及ぼす影響

著者: 西浦司 ,   長尾省吾 ,   谷本尚穂 ,   河内正光 ,   須賀正和 ,   室田武伸 ,   門間文行 ,   本間温 ,   筒井巧 ,   久山秀幸 ,   西本詮

ページ範囲:P.499 - P.507

I.はじめに
 われわれは急性脳腫脹発現機構を解明する目的で脳血管緊張中枢が存在すると考えられている脳幹部,すなわち視床下部背内側核(DM),中脳網様体(MBRF)および延髄網様体(MORF)の破壊・刺激実験を行ってきた.その結果,前報に示したように,ほとんどの実験例ではこれらの部位の破壊あるいは刺激により頭蓋内圧(ICP)の上昇は一過性にとどまり,進行性の急性ICP亢進状態には至らなかった19).しかし,この一連の実験例(56頭,212刺激および破壊実験例)のなかで6実験例(6頭)では急激かつ進行性のICP亢進状態が作成された18).すなわち,実験終了後,脳切片で確認し得た一側および両側DM破壊の各々1例,一側視床破壊1例(Fig.1a),一側尾状核破壊1例およびDM,MBRF同時破壊にMORF刺激を追加した2例で,Fig,1bは両側DMおよびMBRF破壊にMORF刺激を追加した1実験例を示すが,刺激開始直後,血圧上昇反応を伴ってICPは上昇し,100mmHgにも達した.この現象はMORF刺激状態もまた急性脳腫脹発現の一因となる可能性を示唆しており,今回はDM,MBRFを,第1報と同様に破壊した後,MORF刺激を追加し,MORF刺激状態が脳血管緊張およびICPにどのような影響を及ぼすかを,ICP正常時およびICPを亢進せしめた状態で検討した.

脳神経減圧術時における術中ABR,第VIII脳神経活動電位の記録の有用性

著者: 西原毅 ,   花北順哉 ,   絹田祐司 ,   近藤明悳 ,   山本義介 ,   中谷英幸

ページ範囲:P.509 - P.518

I.はじめに
 術中聴性脳幹誘発電位(audlitory brain stem evokedresponse,以下ABR)記録は,後頭蓋窩,特に小脳橋角部の手術において脳幹部機能や聴神経機能のモニターとして用いられている.われわれは顔面痙攣(hemifacialspasm),三叉神経痛(trigeminal neuralgia)などに対する根治的治療法としての脳神経減圧術時に,その最も重要な合併症の1つである聴力障害を予防するために術中ABRモニターを試みた,さらにこれに加えて同時にMoller11),Spireら13)の方法を用いて術中頭蓋内聴神経より直接聴神経活動電位(VIIIth cranial nerve compoundaction potential,以下VIII-AP)を連続的に記録した.そしてこれらの記録から,神経に損傷が加われば神経の伝導速度が低下するという仮設を基にABRおよびVIII-APのlatencyの延長度,波形の変化などを指標として神経損傷部位を明確にし,脳神経減圧術後の聴力障害の発生機序および予防法について検討した.

症例

経口避妊薬服用による脳静脈血栓症

著者: 坪井康次 ,   牧豊 ,   亀崎高夫 ,   小林栄喜 ,   目黒琴生

ページ範囲:P.521 - P.526

I.はじめに
 本邦では現在経口避妊薬は,月経周期異常,月経困難症,避妊などの目的で使用されているが,市販はされていない.欧米では血液凝固能亢進や静脈血栓症などが副作用として報告されており,一般に市販されているためか,副作用の報告例数も多いが,本邦ではまだ非常に稀である.今回著者らは経口避妊薬の服用が原因と考えられた脳皮質静脈と深部静脈の血栓症を経験したので,若干の考察を加え報告する.

内頸動脈海綿静脈洞瘻に対するOccluding spring embolusによる新しい治療法

著者: 衣笠和孜 ,   鈴木健二 ,   西本詮

ページ範囲:P.529 - P.534

I.はじめに
 内頸動脈海綿静脈洞瘻(carotid-cavernous fistula,CCFと略す)は外傷に起因するものと,誘因なく発生する特発性のものとに区別されている,外傷性CCFに対しては多くの治療法が報告されているが1,3,6,11,12)の,各種detachable ballonの普及に伴い,内頸動脈を温存し,瘻のみを閉塞しうるという点では,ballonによる瘻孔閉塞が現時点では最も理想に近い治療法として定着した感がある2)
 一方,特発性CCFは,外頸動脈系の硬膜枝のembo-lizationで完全な治癒が期待できない場合に,直達手術によって静脈洞壁の硬膜を開放し,筋肉片のparckingや硬膜穿刺によるglue injectionなどが行われているが,現在最も普及しているのはelectrothrombosisによる治療法であると思われる4,5,10,13,15).今回,開頭により静脈洞内にoccluding spring embolus (OSE)を挿入し,より簡便に海綿静脈洞閉塞をえた症例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.

多彩な組織像を呈する小児テント上腫瘍の3例—Primitive neuroectodermal tumor

著者: 遠山隆 ,   久保長生 ,   氷室博 ,   井上憲夫 ,   田鹿安彦 ,   田鹿妙子 ,   坂入光彦 ,   山本昌昭 ,   神保実 ,   喜多村孝一

ページ範囲:P.537 - P.544

I.はじめに
 小児の脳腫瘍の組織像は成人に比して多彩であり,難解なものが多い.medulloblastomaのように未分化細胞性腫瘍であるにもかかわらず,種々の分化の方向を示す細胞の混在を認めることがしばしばある1,2)
 われわれは今回,多彩な組織像を呈し組織診断が困難であった小児のテント上未分化細胞性腫瘍の3例を経験した.これらの3例に対して通常の組織学的検索とGFAP,S−100,NSEの免疫組織学的検索を行ったので,臨床病理像について報告する.

骨破壊を伴わない斜台部脊索腫の1例

著者: 由比文顕 ,   朝倉哲彦 ,   友杉哲三 ,   楠元和博 ,   粟博志 ,   上津原甲一

ページ範囲:P.547 - P.552

I.はじめに
 脊索腫(chordoma)は胎生期脊索の遺残組織noto—chordal remnantから発生する比較的稀な腫瘍で,仙尾骨部および頭蓋底部に好発する.頭蓋内では斜台部に好発し,最近の脳腫瘍全国集計調査報告によれば全頭蓋内腫瘍の0.5%を占め,同部位の骨破壊が特徴とされている.今回私どもは,斜台部の骨破壊を呈さず,CT上比較的稀とされるlow density typeで硬膜内浸潤を呈した頭蓋内脊索腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

Balloon catheterと自家静脈による血行再建術を併用した特発性内頸動脈海綿静脈洞瘻の治療

著者: 小川彰 ,   桜井芳明 ,   杉田京一 ,   嘉山孝正 ,   和田徳男 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.555 - P.560

I.はじめに
 特発性内頸動脈海綿静脈洞瘻(以下CCFと略)に対し,balloon catheterを用い,瘻孔とともに内頸動脈を閉塞し,同時に遊離自家静脈片を用いた頭蓋外—頭蓋内血管吻合により頭蓋内血行を再建し良好な結果を得た症例を経験したので報告し,さらに,術中血流測定の結果より,本手術法の有用性についても述べる.

非機能惟腺腫として再発した成長ホルモン産生腺腫の1例

著者: 寺本明 ,   塩川芳昭 ,   野口信 ,   花村哲 ,   真柳佳昭

ページ範囲:P.563 - P.568

I.はじめに
 成長ホルモン(以下GHと略)産生下垂体腺腫に対して放射線療法は有効な治療法であるとされてきた.本腫瘍を手術し,術後に残存腫瘍がみられたり血中GH値の正常化が得られない場合,放射線照射の適応となる.照射後半年から1年で血中GH値は漸減傾向を示し,正常値に至る場合も少なくない.一般に放射線療法による血中GH値の正常化は,治療後1年で40-50%9,16,17),2年で75-80%8,10,16)と報告されている.
 一方,下垂体腺腫の術後の再発率は,放射線照射なしの場合20-30%11,15,19),照射した例では3-15%4,6,7,12,15,19)である.再発の頻度は,症例の内容,治療法,観察期間,再発の判定などによって大きく左右されるものの,GH産生腺腫に関してもおよそ同じ成績であると考えられる.

脳動脈瘤根治術後に発症したアスペルギルス脳膿瘍の1治験例

著者: 森永一生 ,   上田幹也 ,   松本行弘 ,   大宮信行 ,   三上淳一 ,   佐藤宏之 ,   井上慶俊 ,   松岡高博 ,   高橋義男 ,   武田聡 ,   大川原修二 ,   藤沢泰憲

ページ範囲:P.571 - P.576

I.はじめに
 中枢神経系のアスペルギルス症は極めて稀な疾患であるが,近年,各種疾患に対する抗生剤,ステロイド剤の大量投与,臓器移植,放射線療法などの普及につれて増加傾向が見られる.今回われわれは,前交通動脈瘤根治術後,アスペルギルス脳膿瘍を併発し,手術および薬物療法により良好な経過をたどった症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

硬膜外進展をきたしたIntramedullary schwannoma

著者: 丸木親 ,   伊藤昌徳 ,   住江寛俊 ,   佐藤潔 ,   石井昌三

ページ範囲:P.579 - P.584

I.はじめに
 脊髄髄内神経鞘腫は稀で,現在までにわれわれの渉猟し得た限りでは23例の報告が認められるのみである.今回われわれはTh6以下の脊髄横断症状を示し,ミエログラフィー,ミエロCTにて脊髄空洞症と思われた症例にNMR検査を施行し,これによりTh7-8の髄内腫瘍と診断,手術的に全摘し良好な結果を得た胸髄髄内神経鞘腫の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.

クリッピング後,その近傍に新たに発生し極めて短期間に破裂に至った脳動脈瘤

著者: 浅利正二 ,   国塩勝三 ,   角南典生 ,   山本祐司 ,   桜井勝 ,   鈴木健二

ページ範囲:P.587 - P.591

I.はじめに
 現在,脳動脈瘤の最も確実で安全な治療方法は,頭蓋内直達手術による柄部クリッピングであることは論をまたない.しかし一方では,少数ながらクリッピング後の再発例も報告されている.
 われわれは破裂中大脳動脈瘤クリッピング後,全経過がわずか12日という極めて短期間にクリップの近位側に新たな動脈瘤が発生,増大し破裂に至った特異な症例を経験した.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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