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雑誌目次

雑誌文献

Neurological Surgery 脳神経外科14巻5号

1986年04月発行

雑誌目次

略語ブーム

著者: 戸谷重雄

ページ範囲:P.599 - P.599

 世の中,すべての面で驚く程の早さで進歩している.10年一昔といわれていたが,今では5年一昔,いや3年一昔ともいわれている.文章を書くときも,不必要な手間を省く意味で略語あるいは記号を使う機会が増えてきている.これは確かに便利な場合が多い.特に普段使い慣れてはいるが,日本語であれ,外国語であれ,実際に書くと難しい字であったり,長かったりするような言葉が繰り返し出てくるような時は,略語あるいは記号を使うことによって,煩わしさから解放されることが多い.ところが,実際に略語化または略号化されたものを見ると,そこには一定の法則あるいは約束というものがないため,思わぬ誤解や混乱が起きる場合がある,したがって同じ語の略語でありながら論文によって違う場合があり,ときにはあまりにも自己流に過ぎると思われるものもある.また論文の始めにわざわざ,以下何々と略すと書いてありながら,実際にはその後の文章の中に,1-2回しかその語が使われていない論文を見かけることがある,このような場合はやはり略語などを使わない方が,よいのではないかと思われる.
 疾患名ばかりでなくCT, NMR, MRI, DSA, CAG, EEG, SEP, VEPなど検査に多用される略語は多いが,これらなどは,脳神経外科医の誰もが常識的に知っていることである.

解剖を中心とした脳神経手術手技

海綿静脈洞部病変への直達手術—特にC5部のC-C fistulaの治療について

著者: 白馬明

ページ範囲:P.601 - P.607

 海綿静脈洞の常温下での直達手術は,一般には極めて困難で危険とされてきた.しかし,患者を半坐位に保てば,carotid cavernous sinus fistula(以下CCF)を除いて海綿静脈洞の静脈圧を0に近く保つことができ,常温下で洞の開放を行い,洞内の病変の根治的な治療を行うことができる1,2).また,CCFの場合でも,頸部内・外頸動脈と頭蓋内内頸動脈のC2 portionの起始部を一時的に遮断すれば上記と同様の方法により海綿静脈洞の直達手術が可能である.この場合,著者は術中の虚血を予防する目的で,約2週間前にEC-IC bypassを行うことにしている.今回は,C5部に生じた外傷性のCCFに対する海綿静脈洞への直達手術について述べる.

追悼

Irving Spencer Cooper先生と私

著者: 松本圭蔵

ページ範囲:P.610 - P.611

 昭和60年6月22日(土)午前11時半,突然FlorideのCooper先生から徳島大学の私の部屋に国際電話がかかってきた.元気なお声であったが,肺癌を患っているので,日本で最近開発されつつあると聞く免疫抗癌剤を使ってみたい,Torontoまで持ってきてくれという依頼であった.
 その数目後,Torontoのホテルの1室で12年ぶりに拝眉の機会をえた.私の頭が白くなったと先生は笑われたが,一方,先生は若々しくほとんど昔と変わらぬ印象であった.つもる話はとめどもなく続いた,先生は数年前交通事故で左眼の視力を失い手術ができにくくなったこと,坐骨神経痛で検査をすすめてゆくうち肺癌に気付いたという経過,現在の病状と今後の治療方針,子供さんたちを含めた御家族のこと,また,てんかん外科における新しい研究課題の発見など--今にして思えば,私に対する遺言であったかも知れないが--次から次へと話しつづけられた.その翌日は,長男のDouglas君(弁護士開業)と先生につきそってきたWarren Goldman先生(Neurosurgery, Medical College of Pensylvania)をまじえて,また,長時間話し込んだ.

研究

脳腫瘍血管透過性の超微形態—第4報 髄膜腫に伴う脳浮腫

著者: 柴田尚武 ,   福嶋政昭 ,   森和夫

ページ範囲:P.613 - P.618

I.はじめに
 髄膜腫には浮腫を伴うものと伴わないものがあり,両者の病理学的相違についてはいまだ不明な点が多い.両者で,部位,大きさおよび組織型を比較し,さらに腫瘍血管超微細構造の検索を行い,血管透過性の面より検討を加えた.

TIA 93症例の長期Follow-up成績について

著者: 佐藤健吾 ,   金子満雄 ,   田中敬生 ,   村木正明 ,   川原信隆

ページ範囲:P.621 - P.625

I.はじめに
 TIAは,脳梗塞発症の警告徴候として重視されているが,TIAを呈した患者のうちどれ位の頻度で脳梗塞が発生するのかについては,各報告者1,6,8)により,2%未満より60%以上に発症すると,かなりの幅がある.さらに,各治療法別に予後に検討を加えた報告は少ない.
 われわれは1973年当科開設以来.浜松市を中心に脳血管障害の早期治療に当ってきたが,TIAについても,早期入院,検査,治療を実施してきた.今回これらTIAの長期追跡調査を行い,種々の検討を加えたので報告する.

Flow cytometryによる脳腫瘍の生長解析—第5報 新しい抗癌剤感受性検査とその臨床応用

著者: 川上勝弘 ,   河本圭司 ,   岡信行 ,   河村悌夫 ,   松村浩 ,   伊藤富由 ,   大山昭夫

ページ範囲:P.627 - P.634

I.はじめに
 悪性脳腫瘍の治療に際し,われわれは1980年度より総計280例の手術摘出標本を単層下で培養し,抗癌剤などの接触実験を行うとともに,How cytometry(FACSIII, Becton-Dickinson社,以下FCM)を用いて,これら脳腫瘍細胞の生長解析を行ってきた9-12, 21).単層培養法においては,特にgliomaでは細長い細胞突起を有し,生着率が他の腫瘍細胞に比べて高いので,この培養細胞を用いることにより個々の症例に対する抗癌剤感受性検査がより可能であると考えられた.さらにFCMによる脳腫瘍細胞の生長解析に基づいた抗癌剤の効果判定が簡便かつ有用なものであり,その臨床的応用も比較的容易であると考えられた7,8)
 今回,単層培養下の株化脳腫瘍細胞に対してFCMを用いた新しい抗癌剤感受性検査を開発施行し,その有用性を検討した.そして臨床例に対しても本法を施行し,種々の薬剤の中から至適抗癌剤の選択を試みたので,これらの成績について本法の紹介を加え報告する.

重症頭部外傷における術後Barbiturate療法の効果と限界

著者: 重森稔 ,   川場知幸 ,   山本文人 ,   川崎建作 ,   弓削龍雄 ,   徳富孝志 ,   中島裕典 ,   倉本進賢

ページ範囲:P.637 - P.642

I.はじめに
 barbiturate療法が重症頭部外傷時の頭蓋内圧(Intra—cranial Pressure:ICP)亢進の制御,さらに治療成績の向上に有用であるとする報告は極めて多い2-5,13).しかし,ある種の重症頭部外傷例では,本療法を含め,いかなる治療法を試みても死亡率は依然として高く,最近では本療法の限界も次第に明らかになりつつある12)
 著者らも数年来,患者のGlasgow Coma Scale Score(GCS)8)やICP値,さらに年齢,全身状態,各種治療に対する反応度などから本療法の施行基準,投与量を設定し,積極的に本療法を試みてきた7,15).そこで今回,重症頭部外傷例のうちで手術療法後に本療法を施行した症例を対象とし,術後のbarbiturate療法の効果やその限界につき検討したので報告する.

CT誘導定位的被殼部血腫吸引術評価における体性感覚誘発反応(N20)の有用性

著者: 滝沢貴昭 ,   佐藤昇樹 ,   佐能昭 ,   村上裕二 ,   松本皓 ,   大田浩右

ページ範囲:P.645 - P.650

I.はじめに
 CT誘導定位脳手術法の発達により定位的脳内血腫吸引術は安全,確実に行えるようになり,脳内出血の新しい治療法として普及しつつある.
 従来,高血圧性脳内出血の手術適応と治療成績について論ずる際には,開頭手術群と保存治療群が比較されていた.金谷ら8)の全国調査によれば,被殻出血において神経学的重症度分類7)のGrade 1, 2では,死亡率,機能予後とも外科内科両治療群の間に明らかな差を認めていない.したがって内科療法が優先すると述べられている.しかし,亜急性期から慢性期にかけて行う定位的血腫吸引術は手術侵襲が少なく,合併症の危険性も極めて少ない.そこで私達は,同法を開頭手術と保存的治療の中間に位置するものと考え,従来,内科治療が優先するとされた軽・中等症被殻出血に対して同法を行っている.

症例

多発性巨大脳動脈瘤の1例

著者: 牧山康秀 ,   櫛英彦 ,   上野裕壱 ,   小池祐治 ,   坪川孝志

ページ範囲:P.653 - P.658

I.はじめに
 巨大脳動脈瘤は,その発症,経過および治療において他の脳動脈瘤と異なった特徴を示し,特にその手術においては非常な困難を感ずることが少なくない,その発生頻度は脳動脈瘤症例の5%程度と考えられ2),多発性脳動脈瘤の発生率が10-20%とされることより12),多発性巨大脳動脈瘤は全脳動脈瘤症例の0.5-1.0%を占めると推定される.Foxら12)の成人の巨大脳動脈瘤のシリーズ748例では多発例は7%,55例で,うち89%が3個以下の症例である.
 今回,計5個の多発性脳動脈瘤を有し,うち2個は巨大脳動脈瘤が中大脳動脈に対称性に存在した1例を経験したので報告する.

両側視神経路に広範囲に発生した視神経膠腫の乳児例

著者: 箕倉清宏 ,   藤谷健 ,   須方肇 ,   野口和幸 ,   梅川智三郎

ページ範囲:P.661 - P.666

I.はじめに
 一般に視神経膠腫は小児に好発する腫瘍として知られているが,初発症状が主として視力障害で起こるためか,乳児の早い時期に診断されることは稀である.
 最近われわれは,生後4ヵ月の乳児早期に両側の視神経から視交叉,視放線にまで及ぶ広範な視神経膠腫を経験した.来院時,意識障害を認めたため減圧を目的として視交叉部での種瘍部分摘出を行ったが,その3ヵ月後には腫瘍の著しい増大と水頭症をきたしたため,VPシャント術ならびに照射療法を施行した.

特有な石灰化病巣を示した脳肺吸虫症の1例

著者: 木下和夫 ,   古賀知章

ページ範囲:P.669 - P.672

I.はじめに
 わが国において脳内に迷入する寄生虫症は稀であるが,脳肺吸虫症が最も多く約400例が報告されている.脳肺吸虫症例は韓国よりの報告が最も多く2, 5, 6, 12),欧米諸国では脳嚢虫症,脳包虫症の報告が多いことは周知のことである.最近北海道では肝包虫症が多数報告され,わが国の人々の海外渡航も年間数百万大にのぼり,また国内の人の動きも大きい現在では,脳内寄生虫症の正確な理解は神経病を専攻する者にとって大切なことである.著者らは脳寄生虫症に注意を喚起してきたが7,15),最近,本誌で脳肺吸虫症と思われる症例が日本住血虫症と報告されている例8)があったので,類似症例を呈示し,脳肺吸虫症の頭蓋内石灰化病巣の特徴を報告する.

人工透析患者の慢性硬膜下血腫

著者: 中嶋裕之 ,   富田享 ,   吉野公博 ,   則兼博 ,   馬場義美 ,   土井章弘 ,   坪井修平

ページ範囲:P.675 - P.679

I.はじめに
 人工透析療法の進歩により透析患者の生存率は著しく向上し,腎不全患者は維持透析をうけながら長期間生存することが可能となった.したがって,透析導入開始直後の合併症のみならず長期透析患者の合併症が問題となってきている.近年,透析患者の死因に占める脳血管障害の比率が上昇し,頭蓋内出血,不均衡症候群,透析脳症などの中枢神経系合併症が注目を集めており,脳神経外科領域でも注意する必要がある.今回われわれは人工透析患者に発症した硬膜下血腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.

術後性Spinal cord herniationの1例—メトリザマイドCTによる診断

著者: 水野順一 ,   中川洋 ,   岩田金治郎

ページ範囲:P.681 - P.685

I.はじめに
 spinal cord herniationの原因は大別して,①先天性13),②外傷性,③術後性に分類されるが,外傷14-16)および手術1, 3, 4)に起因する例は稀であり,また文献的にも数例をみるに過ぎない.spinal cordherniationの術前診断は決して容易ではなく,術中生検で初めて診断された症例も報告されている.
 われわれは最近,頸椎椎弓切除後13年で症状の悪化をみた症例において,メトリザマイドCTを使用してcervical cord herniationを正しく診断し,適切な治療を施した.

脊髄硬膜外血管腫の1経験例—脊髄硬膜外血腫のCT所見を中心に

著者: 小川武希 ,   菊池哲郎 ,   池内聡 ,   真田祥一 ,   中島利子 ,   阿武泉

ページ範囲:P.687 - P.691

I.はじめに
 脊髄硬膜外血管腫は従来稀な疾患と考えられてきたが,Piaらの報告によれば決して稀ではない.一方,血管腫からの出血は早期の診断治療を必要とする緊急疾患である.今回われわれは,突然の対麻痺にて発症し,CTにて血腫部位が診断され,病理学的にcavernous angio—maが確認された1例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.

Primary empty sellaの外科的治療について

著者: 石倉彰 ,   立花修 ,   宮森正郎

ページ範囲:P.693 - P.698

I.はじめに
 1951年Buschは1),788例の剖検例から,その5.5%にあたる40例(うち女性が34例)にトルコ鞍隔膜が完全または不完全に欠如し,トルコ鞍が空洞化しているのを見いだし,Empty Sella(E.S.)と命名した.その後,1969年Weissらは2),E.S.をPrimary Empty Sella(P.E.S.)とSecondary Empty Sella(S.E.S.)に分類し,P.E.S.はトルコ鞍隔膜の先天的形成不全によるくも膜下腟の鞍内伸展状態で,S.E.S.は下垂体腫瘍の術後や放射線療法後に発生するE.S.とした.以来,今日までE.S.に関して多数の報告がなされているが,E.S.の外科的治療については,髄液鼻漏,視力・視野障害,下垂体腺腫を伴う場合に限られてきた傾向がある3,4).このたびわれわれは,内科的治療で軽快しない頑固な頭痛を示すP.E.S.に対し,経蝶形骨洞法にて鞍内充填と鞍底補綴を行い,良好な結果を得たので,文献的考察を加え報告する.

胃癌脳転移に放射線化学療法(RAFP療法)を施行中Adult respiratory distress syndrome(ARDS)を合併した1例

著者: 新海準二 ,   小川彰 ,   和田徳男 ,   並木恒夫 ,   鈴木二郎

ページ範囲:P.701 - P.705

I.はじめに
 悪性脳腫瘍に対する治療として,一般に放射線化学療法が行われているが,合併症により重篤となる症例も少なくない.このような合併疾患として,制癌剤による骨髄障害,肺炎,敗血症,DICなどがあげられる.成人の急性呼吸不全の原因として最近注目されているadultrespiratory distress syndrome(ARDS)もその1つだが,報告はまだ少ない.
 われわれは,胃癌の脳転移に対して,放射線,ACNU,TegafurおよびPSKの併用療法(RAFP療法)を試みた例に,治療途中でARDSを合併した症例を経験したので報告するが,特にARDSと制癌剤の因果関係について考察した.

基本情報

Neurological Surgery 脳神経外科

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1251

印刷版ISSN 0301-2603

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